月を舞台に行われた大規模戦闘。
ザフトと各三勢力との戦いはかつて無いほど激しいものだった。
この戦闘の結果、どの勢力が勝ちえたのかと聞かれたならば紛れも無くザフトであったと誰もが口を揃えて言うだろう。
ザフトこそが当初からの目的を達成していたのだから。
月からの戦闘を終えたフォルトゥナは率いた部隊と共にメサイアに帰還していた。
デュランダルはヘレンを伴い、側近からの労いの言葉に軽く手を挙げて答えると司令室の椅子に座る。
「ご無事で何よりです、議長」
「ありがとう、ハイネ。留守の間、防衛御苦労だったね」
ハイネは今回の会談にはついて行かず、メサイアの防衛任務についていた。
当然、今回の騒動については彼も聞き及んでいる。
『会談に応じたデュランダル議長に対し、テタルトスを含めた各勢力が攻撃を仕掛けてきた』、その為、やむえず連れてきていた部隊を動かし、応戦。
そして―――『アレ』を奪取してきたのだと。
こんな報告を鵜呑みにするほどハイネは呑気ではない。
それでも彼がデュランダルに問いたださないのは、あくまでも自分は軍人であると自覚しているからだ。
ハイネが報告を終え、一旦下がろうとした時、新たに司令室に入ってくる者達がいた。
ジェイルやセリス、レイ、デュルクといったフォルトゥナ所属のパイロット達である。
「やあ、皆御苦労だったね」
デュランダルがにこやかな笑みを浮かべ、皆を労う。
デュルクやヴィート達が頭を下げる中、ジェイルだけは暗い表情のまま俯いていた。
「ジェイル、どうかしたかね?」
「え、いや―――」
変わらず笑みを浮かべ、歯切れ悪く言葉を切ったジェイルにデュランダルが問いかけてくる。
議長を前に黙ったままというのも不味い。
表情に出していた事を若干後悔しつつ、思い切って口を開いた。
「その、今後はどうするのか、気になっただけです」
そんなジェイルにデュランダルは特に気分を害した様子も無く、いつも通りの口調で答える。
「宣言通りだよ。私は世界を変える。その為に『デスティニープラン』を実現させる」
彼は本気なのだろう。
その口調には何の迷いも感じられない。
「では反対する他の勢力を……」
言い辛そうに言葉を切ったジェイルに答えるように、今度はレイがこちらに向き直った。
「それは仕方ない。お前も奴らがした事を見ただろう? ロゴスと同じだ。これ以上好きにさせる訳にはいかない。世界を変える為にも」
レイの強い決意にジェイルはメサイアに来る前に聞かされた彼の言葉を思い出す。
≪何があっても議長を信じろ≫
その言葉と共にレイの素性も聞かされた。
自身の生まれ、とある人物のクローンである事。
自分と同じく生まれた兄弟達が味わった地獄、人体実験の事をだ。
聞かされた時は当然驚いた。
そして同時に理解した。
彼がデュランダルに従うのは、そんな昔の事情が深く絡んでいるのだと。
「……レイの言う通りです。私達は今の世界を終わらせ、議長の創られる世界を守る事こそ使命です」
「セリス」
どこまでも感情の籠らないセリスの声にジェイルは眉を顰める。
今の彼女に昔の面影は全く感じられない。
冷たさだけが伝わってくる。
釈然としない彼の心情を無視して、デュルク達もまた賛同する声を上げていく。
「ジェイル、君はどうかな?」
「えっ」
皆の声を聞き終えたデュランダルがジェイルに問いかけてくる。
「君も皆と同じ気持ちかね?」
「俺は……」
どう思っているのだろうか?
正直な話、諸手を挙げて『デスティニープラン』に賛同できない。
セリス、ステラの件や月での行動にも疑問が残る。
だがそれでも自分は軍人だ。
それに議長はロゴスを討ち、世界を解放した。
そして自分を信頼してフェイスにまで任命してくれた人である。
その信頼に今答える時―――なのに上手く言葉が出ない。
「……俺は……分りません」
「分からない? ジェイル、お前は―――」
横にいるレイの視線が鋭くなる。
「……ただ自分は軍人ですから、命令であれば出撃して戦います」
「そうか。いや、変な事を聞いて申し訳なかったね。これまで色々な事がありすぎた。混乱するのも無理はない。ただジェイル、これだけは忘れないでくれ。今が世界を変える最後の機会だということを」
「……はい」
デュランダルは咎める事無く、「少し休むと良い」と言ってジェイル達を下がらせた。
その場に残ったのはヘレンとレイ、デュルクの三人。
「ジェイル・オールディス、あれでよろしいのですか、議長?」
「ああ、構わないさ」
迷ってはいたようだが、彼はハイネと同様ザフトの軍人であるという事を強く自覚している。
命令を下せば問題なく動くだろう。
「しかし、戦闘になれば迷いによって力を発揮しきれない可能性もあります。デスティニーにもI.S.システムを搭載すべきでは?」
「その必要はないよ。その迷いを振り切る為のステラであり、ラナだ」
ジェイルがあの二人に執着している事はすでに知っている。
戦闘になれば彼はそれこそ死に物狂いで彼女達を守るだろう。
後は―――
「準備は?」
「はい。今回の件における情報操作は問題なく。『アレ』の内部把握と制圧も約七割完了しています」
その報告に満足気に頷く。
どうやら滞りなく進んでいるようだ。
油断は禁物であるが、此処まではほとんど予定通りと言って良いだろう。
デュランダルは視線を正面に向けた。
彼の視線の先にあるモニターには複数の廃棄コロニーと圧倒的な存在感をもつ巨大な物体が映り込んでいる。
それはテタルトスの武の象徴――――巨大戦艦アポカリプスであった。
デュランダルが月の会談を受けた最大の目的がアポカリプスの奪取だったのである。
元々デュランダルはデスティニープランを各勢力が受け入れるとは思っていなかった。
たとえ会談での話し合いになったとしても、必ず最後は決裂し、戦いになることを確信していた。
だからそれを見越してヘレンの策略を基に、先手を打つ事にしたのである。
最大の障害であるテタルトスの戦力を削り、アポカリプス奪取の為に奇襲を仕掛けた。
最悪の場合でも主砲を使用不可能にすれば、後々やり易くなる。
そういう意味においてもアポカリプスを奪取できた月での作戦は成功と言える。
ただアポカリプス艦内は広い。
未だにテタルトスの兵士達が粘っている事もあり完全制圧には至っていない。
それも時間の問題だろう。
そしてもう一つの狙い、それが月に向かって移動させた廃棄コロニーだ。
これには本来の目的であるアポカリプスから注意を逸らすという意味があった。
だがそれだけではない。
デュランダルはコロニーを月へ本気で落とす気はなかった。
要はコロニーを落とすという事を印象付けたかったのである。
そうする事で彼らは今後廃棄コロニーの存在を放置できなくなる。
これを各宙域に配置、地球に向け少しずつでも進ませれば彼らは必ずコロニー破壊に戦力を割かざる得なくなるだろう。
当然世界各国に対する対策もおこなっていた。
いち早く声明を発表し、先ほど報告があったように今回の顛末に関して説明と情報操作も行っている。
もちろん各勢力もそれぞれ発表を行うだろう。
だが、同盟は世界から不審感を抱かれ、連合もマクリーン派の事があるとはいえプラントよりも信用があるとは言い難い。
テタルトスは言わずもがなだ。
こちらに対しても不信を抱かれる可能性もある。
だがそれも錯綜する情報の中で正しい判断ができる者は少ないだろう。
ただでさえロゴス狩りによって地球側の上層部は混乱の極みにあるのだから。
「議長、ティアについてはどうなさいますか? ティアもまた『カウンターコーディネイター』です。ラクス・クラインやアスト・サガミにぶつければ―――」
「ヘレン、それは前にも言った筈だ。彼女の力が必要になるのは戦後だよ」
「……了解しました」
ヘレンは考え込むような仕草をした後、すぐに切り替えたように報告を続けていく。
「分かった。そのまま進めてくれ。他にはあるかな?」
「議長、リースとヴィートの二人がI.S.システムのリミッターを解除して欲しいと申請してきています」
「ふむ」
I.S.システムは特殊な処置によって擬似的にSEED発現状態を再現できるシステムである。
ただこれにはリスクが存在する。
システムを使用する事で肉体のみならず精神などに大きな負担がかかり、多用し過ぎれば廃人と化してしまうのである。
その為、収集したデータを基にシステムの負担を軽減させる改良とリミッターが搭載された。
確かにそのリミッターを外せば持続時間も格段に延長されるだろう。
しかしその分危険も高まる。
「議長、これから彼らが相対する相手を考えれば、それくらいは必要では?」
「君に任せよう、ヘレン。ただし、パイロットの負荷が限界に達する前にシステムダウンするように調整しておいてくれ」
「了解です」
二人に指示を出し終えたデュランダルは最後にレイに向き直る。
「分かっているね、レイ」
「はい。誰が相手でも、邪魔はさせません」
そう、たとえ最強の存在であるユリウス・ヴァリスが相手だろうと。
レイはデュランダルの信頼に応えるべく力強く頷いた。
◇
ザフトによるアポカリプスの奪取。
これによって一番の衝撃を受けたのはテタルトスであった。
アポカリプスが奪取されたと判明したのは、コロニーを主砲で破壊した直後だった。
艦内に侵入していたザフトによって司令室が占拠され、月の宙域から徐々に離脱していったでのある。
それらを追おうにもテタルトス陣営も、奇襲の影響で戦力をズタズタにされてしまった。
体勢を立て直さなければ、追撃する事もできなかったのだ。
テタルトス軍創設以来といって良いほどの混乱がようやく落ち着いた頃、軍本部にある司令室に集まった主要メンバーは今後を話し合っていた。
「大佐、これからどうするので?」
あの会談に参加していたメンバーは現在全員が医療施設に入院している。
当然軍総司令であるエドガーも同様だ。
彼が動けない以上、指揮を執るのはユリウスが妥当なのだが、当の本人はあまり乗り気ではない。
「当然、アポカリプスを奪還する。軍の臨時司令はバルトフェルド、お前がつけ」
「ハァ、やっぱりそうきますか」
「私は前線に出る。アレックス、セレネ、お前達も来い」
「「了解」」
ただ自分達だけでは流石に厳しい。
前回の戦闘で戦力を消費し月の防衛の為に部隊を残す必要がある以上、ザフトと事を構えるには戦力不足。
「できれば同盟や連合と組みたいんですがね」
「それは少し厳しいのでは? 彼らもこちらに戦力を割いている余裕はないでしょう?」
セレネの指摘は正しい。
宙域図を見る限りにおいて、彼らは彼らでやるべき事がある。
「こちらの動きを伝えておくくらいしか、今のところ手がありませんな」
「そうだな。連絡は入れておいてくれ」
「了解」
ユリウスは宙域図を見つめながら、前回相対した敵の事を考える。
クロードは他の連中では相手にならないだろう。
強いて戦えるとしたらアレックスとセレネくらいだ。
もし遭遇したら自分が相手をするしかない。
クロードこそ一番厄介な敵だと認識しているユリウスは、そう改めて決意すると作戦会議に集中する事にした。
◇
月の戦闘をどうにか切り抜け離脱したガーティ・ルーはエンリルに身を寄せていた。
コペルニクスに怪我をしたマクリーンが今も滞在している為、本来ならばガーティ・ルーも待機すべきなのだろう。
しかし今は事情が違ってる。
ザフトによるテタルトスの巨大戦艦の奪取。
さらにはザフト機動要塞とその周辺には廃棄コロニーの存在を確認したのだ。
マクリーンの回復を待っている時間は無く、すぐにでも戦闘準備を始めなければならなかった。
あの戦艦から放たれた主砲をこちらに向けさせる訳にはいかず、さらに地球にコロニーを落とさせる訳にはいかない。
未だ『ブレイク・ザ・ワールド』やデストロイの攻撃からの復興が完全に成し得た訳ではないのだから。
集まった全員が椅子に座り正面に立つラルスに注目するが、その表情は非常に固い。
「状況は最悪に近い」
「ええ、今回の戦争で連合は戦力の大半を消費してしまいました」
開戦当時は連合対ザフトという構図で戦っていた。
宇宙に地上、一進一退の攻防を繰り返し、徐々に押されていったものの、あの頃は戦力的にもここまで切羽詰ってはいなかった。
そして戦局が進み、戦力を消耗していたところにロゴス派と反ロゴス派に別れ、実質的な内戦状態。
その影響で連合はかつて無いほど弱体化していると言っていい。
今考えればこれもデュランダルの策略だったのかもしれない。
「そうだとしても、動かざる得ないがな」
アポカリプスについてはテタルトスが動くと連絡を受けている。
だがザフト機動要塞付近で確認された廃棄コロニーはこちらで対処するしかない。
月での一件から考えてもあのコロニーを地球に向ける可能性は大いにあるからだ。
だが不幸中の幸い、同盟もまた動くと連絡を受けている。
彼らと協調すれば少しはマシになるだろう。
「しかし大佐、戦力が不足している中で、廃棄コロニーをどう破壊するのですか?」
座っていたアオイが手を挙げて意見を言う。
それは全員の共通の疑問であり、連合にとって一番の問題であった。
かつてディアッカ達がやったように強力な火力を持った機体を集め、破壊するという方法もある。
しかし今の連合にそれだけの余裕はない上、ザフトも黙って見ているだけとも思えない。
「……破壊する必要はない。コロニー側面に大型推進器を取りつけて進路を逸らす」
ラルスが図面を表示して推進器を設置するポイントを説明する。
確かに現在の連合からすれば破壊するよりも現実的ではある。
しかし―――
「ザフトがそれを許すでしょうか?」
「もちろん我々が防衛につくが、それでも失敗する可能性もある。最後まで手は尽くすつもりだが、もしもの場合は―――核を使う」
「ッ!?」
核を使うというのはリスクがある。
今回の戦争でも『フォックスノット・ノベンバー』で核ミサイルが使用されたが、ザフトの新兵器『ニュートロンスタンピーダー』によって阻止された。
有効範囲に存在する核兵器をその場で起爆させる事が出来るこの兵器の存在によって、連合は迂闊に核を使えない状況になったのである。
つまり『ニュートロンスタンピーダー』によって核が誘爆すれば、コロニーを破壊するどころではない。
さらに言えばイメージも悪くなる。
連合を牛耳っていたロゴスは核を使う事を躊躇わない戦略を立て、実行していた。
そこにデュランダルが反ロゴスを掲げ、マクリーンがそれに追随した事でロゴスとは違うとようやく民衆から理解され始めている。
だがこの状況で核を使用してしまえば、プラント側からの訴えでロゴスと認識されかねない。
「核は最後の手段だがな」
もちろんいざとなれば躊躇うつもりも無い訳だが。
「大佐、スティングは……」
「今回の戦いには間に合わんだろう」
アルカンシェルの猛攻によってカオスは損傷を受けた。
修復は問題なく進んでいるのだが、パイロットであるスティングはメンテナンスの最中であり、怪我も負ってしまった。
機体も彼自身も万全ではない以上、間違いなく激戦になる今回の戦闘を戦うのは難しい。
「ただでさえ少ない戦力を減らす事になるが、仕方がない。ともかく同盟にも連絡を入れて作戦を詰める」
「「「了解」」」
皆が覚悟を持って頷く。
間違いなくこれがこの戦争、最後の戦いになるのだから。
◇
連合のガーティ・ルーが月から離脱したように、アークエンジェルやミネルバも戦闘終息後にヴァルハラまで帰還していた。
帰還後の情報収集とテタルトスや連合からの通信で状況はすべて把握している。
その為に主要メンバー全員がアークエンジェルのブリッジに集まり、重い空気の中作戦会議を行っていた。
「しかし厄介だな」
ムウが眉間に皺をよせ、ため息交じりに呟く。
奪われた巨大戦艦だけでも頭が痛いというのに、前面には廃棄コロニーが配置され、一番奥にはザフト機動要塞。
しかもここヴァルハラに向け、進撃してきている部隊も確認しているのだ。
「コロニーをどうにかしたとしても、その後ろには巨大戦艦、さらにそれを突破してもザフト機動要塞か」
「防衛の為のモビルスーツも相当な数が配備されてるだろうね」
キラの指摘通り、かなりの数が配置されているのは間違いない。
いかに自分達が有利な状況とはいえ、それに慢心するほどデュランダルは愚かではないだろう。
「なんであれ、まずはコロニーを排除する事が優先だ」
「そうですね。けどアストさん、すべてのコロニーの排除に合わせて、ヴァルハラに向かっている部隊の迎撃もしないといけません。そうなると戦力を分散することになります」
「分かっているが……」
ただでさえ不利な状況で戦力を分散するのは、得策でないのは皆分かっている。
しかし他に打つ手がない。
忌々しい話だがこれもデュランダルの思惑通りなのだろう。
「戦力分散は仕方ないとして、どうやってコロニーを排除するかだが―――」
「やっぱりスレイプニルと各戦艦の火力を使って同時攻撃するのが、一番現実的でしょうか」
ラクスの言う通り各戦艦には陽電子砲を含め、強力な火器を装備している。
これらの火器で一斉に砲撃を撃ち込めば、進路を逸らし、上手くいけば破壊する事も可能だ。
不幸中の幸いか五機分のスレイプニルが完成し、破損してしまった分も別の装備で補えるから問題ない筈だ。
「こちらに向かっているコロニーを排除した後は、巨大戦艦を突破して、ザフト機動要塞に向かうって事ですよね?」
「ああ」
「コロニーの方は連合も動くようだし、巨大戦艦の方はテタルトスがやるそうだ。後はこっちに向かっている別動隊の迎撃だが―――」
《それはヴァルハラの部隊と私達でやりましょう》
「グラディス艦長」
話を聞いていたタリアがモニター越しに進言してくる。
確かにミネルバと反デュランダルの部隊がいれば、ヴァルハラに向かっている部隊は迎撃できる。
本音を言えば彼らもコロニー迎撃に参加してもらった方が良いが、別方向からの襲撃を軽視するわけにはいかない。
敵部隊迎撃後にミネルバには状況に応じて、臨機応変に動いてもらえばいい。
「それでお願いします」
《了解です》
「こんな所かな。他に気になる事はあるか?」
纏めようとするムウの言葉に皆が首を横に振る。
そこでレティシアは横に立っているアストが難しい顔をしている事に気がついた。
「アスト君、どうしたんですか?」
「あ、いえ。何でもありません。少しティアの事が気になっただけです」
ティアについて気になっているのはアストだけではなく、ラクスもまた同じだ。
ラクスにとってティアは紛れも無い肉親。
心配なのも無理はない。
出自から考えれば、危険な目に合わせるとは考えにくい。
だが、彼女もまたアストやユリウスと同じ存在なのだ。
考え込んでも仕方ないとは分かっているのだが。
それにアストが気になった事は他にもある。
あの機動要塞の事だ。
デュランダルがいる機動要塞の詳しい事は何も判明しておらず、どんな武装があるかも不明なままである。
「良し、確認事項は以上だ。何かあればすぐに知らせる」
「皆、すぐに出撃準備を!」
締めるムウとマリューの言葉に全員が頷くとブリッジから出ていった。
パイロットスーツに着替え、格納庫に辿り着いたマユとシンの視界に飛び込んできたのは、すべての追加武装を装備したイノセントだった。
「あれって」
「フルウェポン」
「えっ」
前大戦で使われたイノセントの全武装装備形態である。
その横ではストライクフリーダムに黒い装甲が装着されている。
ストライクフリーダム用のスレイプニルはジャスティスに回された。
あの黒い装甲は破壊されたスレイプニルの代わりといったところだろう。
マユもまたトワイライトフリーダムに乗り込もうと床を蹴ろうとした時、シンから声を掛けられる。
「マユ」
「なんでしょうか?」
シンは一瞬言うべき事に迷ったように言葉を詰まらせるが、すぐに切り替えたように口を開く。
「……絶対生き延びるぞ」
本音ではマユに戦いなんて危険な事はして欲しくない。
それは今も昔も変わっていなかった。
でも言っても聞かないだろうし、彼女自身にも守りたいものがある事はもう分かっている。
シンが逆の立場だったとしても戦う事を放棄したりはしないだろう。
それにマユは自分で考えこの道を選択したのだ。
ならば止める事はできない。
「ええ。兄さんも無理はしないでください。必ずセリスさんを助けましょう」
「ああ」
シンは自身の機体リヴォルトデスティニーを見上げた。
必ずセリスを助け、マユも守る。
そしてこれから向かう戦場にはジェイルやレイもいる筈だ。
彼らがセリスを助ける際に立ち塞がるなら―――
「俺は戦う」
憎しみや怒りではなく、自身の大切なものの為に!
シンはリヴォルトデスティニーのコックピットに乗り込むと、いつも以上に気合いをこめて操縦桿を握った。
そしてマユもトワイライトフリーダムのコックピットに座ると、スレイプニル使用の為の最終確認を行う。
この手の追加武装を使うのは初めてだ。
しかも今回の作戦では要と言っていい。
失敗は許されない。
そこにアストからの通信が入ってきた。
「シン、マユ、気負うなよ。いつも通りやればいい」
「大丈夫ですよ、アレン」
マユは何も言わずにジッとアストを見つめる。
「どうした、マユ?」
あの日、『オーブ戦役』でアストに救われてから、ずっと彼の背中を追って来た。
彼がいなくなった時は、本当に足もとからすべて崩れ落ちたような錯覚に捉われた。
きっと私はずっと―――助けられたあの時から。
「アストさん」
「どうした?」
レティシアの事は分かっている。
たとえそうでもこの思いが―――自分を救った天使の姿は生涯消える事は無い。
だから―――
「愛してます」
「は?」
「は、はあああああああ!? マ、マ、マユ、何を言ってるんだ! ア、アレン、どういう事なんですか!!」
「い、い、いや、お、お、落ち着け、シン」
二人は酷く動揺し、狼狽している。
その動揺ぶりはこちらが可笑しくなって笑みを浮かべてしまうほどだ。
そして慌てたのは二人だけではなく、通信を聞いていたらしい全員で大騒ぎになっていた。
マユはその人達の顔をすべて見る。
アストをジト目で睨むレティシアや笑みを浮かべているラクスやキラ、トール達。
ここにいる人達全員がマユにとって掛け値なしに大切な人ばかりだ。
絶対に死なせたくない。
だから守って見せる。
準備の整ったトワイライトフリーダムが発進する為、カタパルトに運ばれていく。
ハッチが開いた先に見える宇宙に待っているのは、この戦争最後の戦いだ。
決して負けられない戦い。今まで以上の激戦になる。
それでも―――
「マユ・アスカ、トワイライトフリーダム行きます!!」
フットペダルを踏み込むと、蒼い翼を広げた黄昏の天使が戦場に飛び出した。
ここに最後の決戦の幕が上がる。
すいません、またも遅くなってしまいました。
おかしなところは後で加筆修正します。