機動戦士ガンダムSEED effect   作:kia

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第2話   戦火の中のガンダム

 

 

 『ガンダム』

 

 ―――その名は各勢力にとって特別な意味を持つ機体だ。

 

 特に中立同盟とザフトにとって大きな影響を与えるものである。

 

 中立同盟にとって『ガンダム』とは前大戦の英雄達が搭乗した機体として名高い。

 

 『白い戦神』キラ・ヤマト。

 

 『消滅の魔神』アスト・サガミ。

 

 特に世界に轟くこの二人のエースが搭乗し驚異的な戦果を叩き出した同盟の象徴とでも言うべきものだ。

 

 そしてザフトにとっては全く逆。

 

 自分達を追い詰め、甚大な被害をもたらした仇敵達。

 

 だが同時に滅びかけたプラントを救った英雄とも言える複雑なものであった。

 

 前大戦時に最高評議会議長であったパトリック・ザラがZGMF-Xシリーズ所謂『ファーストステージシリーズ』を凍結。

 

 残ったデータも破棄して特務隊専用機『シグルド』を始めとしたFシリーズ(フューチャーシリーズ)を推し進めたのは『ガンダム』の影響を消し去り、対抗する為だったと言っていい。

 

 プラントではデータが消去され、関係者もパトリック・ザラによって排除された為に完全に失われた『ファーストステージシリーズ』の詳細。

 

 今では元々ザフトが企画していた物だとを知っている者すらいない。

 

 そんな『ファーストステージシリーズ』の戦闘データを基にデュランダルが企画、開発したものが現在アーモリーワンで暴れている『セカンドステージシリーズ』であった。

 

 「あれか!」

 

 戦場となったアーモリーワンの中に飛び出してきた『コアスプレンダー』と呼ばれる戦闘機のコックピットでシン・アスカはあまりの惨状に操縦桿を強く握り締めると素早くコンソールを操作する。

 

 するとその後方を飛んでいた物体チェストフライヤーとレッグフライヤーがコアスプレンダーを挟むように上下に移動しそのままドッキングする。

 

 そして大地に立つその機体は『セカンドステージシリーズ』の一機である―――ZGMF-X56S『インパルス』であった。

 

 この機体は上半身のチェストフライヤーと下半身のレッグフライヤー、コックピット部分となるコアスプレンダーの三つのパーツから成り立っている。

 

 さらに特徴としてシルエットシステムと呼ばれる武装換装システムを備えている。

 

 モニターを睨むシンの目の前にはガイアとカオスの姿があり、背後にはたった一機でガイアとカオスを相手にしていたザクがいた。

 

 「これ以上好きにさせるか!」

 

 背中に装備された『ソードシルエット』から対艦刀『エクスカリバー』を構えながら、横目で後ろを確認する。

 

 周りには破壊された工場区とモビルスーツの残骸が溢れ、敵と相対しているザクはいくつかの傷はあるものの、致命的な損傷は見当たらない。

 

 それだけであのパイロットの技量が高い事がわかる。

 

 「一体誰が……いや、今は戦闘中だろ!」

 

 疑問を振り払うように正面を見たシンの胸中に満ちていたのは怒り。

 

 再び争いを起こそうとする者達に対する許しがたい憤りであった。

 

 散乱する残骸と死の匂いに触発され、シンの脳裏に過去の光景がよぎったその瞬間、なにかノイズのようなものが一瞬走る。

 

 「……何だ、今のは? いや、そんな事よりも!!」

 

 首を振り、浮かんだ光景を振り捨てるように勢いよくフットペダルを踏み込む。

 

 「はああああ!!」

 

 対艦刀の柄を連結させてアンビデクストラスフォームにすると正面に佇むガイアに向って斬りかかった。

 

 「なんだこいつは!?」

 

 ステラは突然現れた機体に戸惑った影響で反応が一瞬遅れてしまう。

 

 「落ちろ!」

 

 「くっ!?」

 

 振るわれた斬撃を間一髪インパルスの背後に飛ぶ事で回避すると、機関砲で牽制しながらビームライフルを撃ち込んだ。

 

 多少性能が高かろうがこれで仕留めたと確信する。

 

 しかしそのステラの予想は外れ、インパルスは機体を半回転させ、放たれたビームをシールドで弾き飛ばす。

 

 そして連結したエクスカリバーを分割しその内の一本をガイアに投げつけた。

 

 「この!」

 

 投げつけられたエクスカリバーをシールドで何とか防御したガイアであるが、完全に態勢を崩されてしまった。

 

 その機を逃すシンでは無い。

 

 「落ちろ!」

 

 上段からエクスカリバーをガイアの眼前に向けて振り下ろす。

 

 しかし次の瞬間、シンは驚愕で固まってしまう。

 

 ガイアは対艦刀の一太刀をギリギリのタイミングで止めて見せたのである。

 

 「なっ、あのタイミングで止められた!?」

 

 「調子に乗るなァァ!!」

 

 態勢を崩したあの状態で受け止めるガイアの反応にシンは舌を巻く。

 

 今もミネルバのブリッジから「命令は捕獲だぞ」などと副長のアーサーが叫んでいるが構っていられない。

 

 隙を突いた完璧なタイミングでの攻撃を受け止めてくるような相手に加減などしても返り討ちにあうだけである。

 

 そしてそのシンの考えは敵対しているステラも同様に思った事だった。

 

 この機体も自分の乗る機体と同じくかなりの性能を持っている。

 

 油断すれば落されてしまう―――だがそんな冷静な考えも沸々と湧きあがってきた怒りで消えつつあった。

 

 「私をここまでェェ!」

 

 先程までとは比にならない怒りが湧き上がりステラは絶叫しながらインパルスに突撃した。

 

 「お前ェェェ!!」

 

 モビルアーマー形態に変形するとビームブレイドを展開して襲いかかる。

 

 「くそ!」

 

 シンはガイアが突撃しながら繰り出してくるビームブレイドをシールドを使って必死に流し続ける。

 

 彼にとってはこれが初めての実戦。

 

 演習しか経験のないシンにとって変形を駆使するガイアの変則的な戦い方は完全に想定外である。

 

 「演習じゃ、こんな事!」

 

 そう愚痴ったところで現状は変わらない。

 

 教官の言っていた「実践と演習は違う」という意味を身に染みて感じながら、反撃の糸口を探すべくガイアの動きを注視する。

 

 激突を繰り返す二機の攻防を脇から見ていたスティングは思わず舌打ちした。

 

 それはやや暴走気味のステラに対してではなく、突然現れた新型の方に対するものだ。

 

 「……どうなってる。あんな機体の情報はないぞ」

 

 敵を薙ぎ払いながら寄ってきたアウルも愚痴るように吐き捨てる。

 

 「新型は三機の筈だよな。どうなってんだよ、ネオの奴!」

 

 全く同意見だ。

 

 こんな話は聞いていない。

 

 しかしそんな事を言ったところで無意味だ。

 

 現実にあの機体は存在しているのだから。

 

 「どうすんの? もうすぐ来るだろ」

 

 「分かってる!」

 

 スティング自身も苛立ちを隠せないままガイアの援護に入った。

 

 このまま脱出するにしても、あの機体を放置できない。

 

 それが今出せる精一杯の結論だった。

 

 「カオスにアビスまで!?」

 

 ガイアの相手で手一杯だったインパルスはカオスとアビスが加わった事で完全に防戦一方になってしまった。

 

 背後からの斬撃。

 

 タイミングを合わせた正面から叩き込まれるビームの雨。

 

 高度な連携に翻弄されるザフトのガンダムをマユは静かに注視する。

 

 そして数瞬何かを考えた後でアイラに声を掛けた。

 

 「アイラ様、シートにしっかり掴まってください」

 

 「どうするつもり?」

 

 「今が離脱の好機です」

 

 そう呟くとマユはフットペダルを踏み込み、インパルスに止めを刺そうとするカオスの射線に割り込むとシールドでビームを受け止めた。

 

 「なんだと!?」

 

 「えっ」

 

 さらに動きを止めたガイアに対して突進。

 

 完全に虚を突かれたステラはザクのタックルを避け切れない。

 

 「きゃああ!」

 

 ガイアはザクの一撃で吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。

 

 「ステラ!!」

 

 アウルが援護の為にカリドゥス複相ビーム砲を叩きこむ。

 

 だが予め射線を予測していたマユはすぐに飛び退くと地面に突き刺さったエクスカリバーを掴んで投げつけた。

 

 「何!?」

 

 「遅い!」

 

 エクスカリバーを避ける事が出来すに直撃を受けたアビスは大きく吹き飛ばされ背後に倒れ込んだ。

 

 「ぐああ!」

 

 「こいつ!!」

 

 アビスとガイアが倒れ、完全に連携が崩れた事を確認すると同時にマユはインパルスに向けて叫ぶ。

 

 「そこのモビルスーツ! 今の内に!!」

 

 「あ、ああ!」

 

 シンは突然かけられた声に驚きながらも斬り込んできたカオスにエクスカリバーを振り抜いた。

 

 「こいつら!?」

 

 カオスはエクスカリバーをシールドで弾き飛ばすが、次の瞬間にザクがビームトマホークで斬り込む。

 

 「何!?」

 

 ビームトマホークを回避したスティングに今度はインパルスが迫る。

 

 インパルスとザクの見事な連携にカオスは手玉に取られてしまう。

 

 「くそォ!」

 

 堪らず後退したカオスに別方向からビームが撃ち込まれる。

 

 マユの視線の先にいたのは駆けつけてきたザフトの増援であった。

 

 「ここ!!」

 

 マユはカオスの後ろに回り込んで飛び上がり、踏み台にして相手の態勢を崩しながらスラスターを吹かして離脱した。

 

 ザクが離脱するのと入れ替わるように今度は白と赤のザクが駆けつけてくる。

 

 「シン!」

 

 「大丈夫!?」

 

 「レイ、ルナ!」

 

 同期のレイ・ザ・バレルとルナマリア・ホークだ。 

 

 レイやルナとはアカデミー時代から良く組んでおり、他の者達より連携を取りやすい。

 

 二人の援護を受けたシンは連携を取りながら三機に攻撃を仕掛けていく。

 

 「これ以上好きにさせるかァァァ!!」

 

 ガイアに再びエクスカリバーを振り下ろし、アビスのビームを止めながら、シンは自分を助けて後退したザクの事を一瞬考える。

 

 「あの声、どこかで……」

 

 そこまで考えてシンは首を振ると目の前に敵に集中する。

 

 「何考えてるんだ、戦闘中だろ!」

 

 余計な事を振り払うと敵機に向かって前に出る。

 

 今のシンにこれ以上ザクのパイロットを気に掛ける余裕はなかった。

 

 

 

 

 三機のガンダムからなんとか離脱したマユはほっと息を吐く。

 

 今はアレが精一杯。

 

 新型を奪取した機体のパイロット達は間違いなく強敵だった。

 

 インパルスが居たとはいえ、あのまま戦っていたらいずれ追い込まれていただろう。

 

 「あなたがザフトを助けるなんてね」

 

 マユがプラント、いやザフトに対して良い感情を抱いていない事は良く知っている。

 

 だからアイラからしてみれば、ザフト機を助ける為に前に出たのは意外であった。

 

 「……別にザフトだから落されれば良いとは思っていませんよ。それに助けたのは、あくまで結果的にです」

 

 確かに見ていられなかったというのもある。

 

 あのままではインパルスは撃墜されていただろう。

 

 しかしマユが戦闘に割って入ったのはあくまでも離脱する為だ。

 

 インパルスの介入であの三機のガンダムの注意が散漫になっていたとはいえ、ただ離脱しようとしても阻まれていた可能性は非常に高い。

 

 かといって傍観してインパルスが落とされれば、慣れない機体で三機を相手にすることになる。

 

 今の状況でそれだけは避けたかった。

 

 だからインパルスが倒される前に介入し、三機のガンダムの態勢を崩す事で脱出の隙を作ろうとしたのだ。

 

 目論見は上手くいった。

 

 ガイアがインパルスに執着していた為にこちらに対する反応が遅れた事も幸運であった。

 

 「どこか降りられる場所に―――ッ!?」

 

 戦場から離れて安全な場所を探そうとした瞬間、大きく地面が揺れる。

 

 「これは……」

 

 「外から攻撃されている?」

 

 この推測は当たっていた。

 

 内部で激しい戦闘が行われているアーモリーワンの外では、港が襲撃を受けていた。

 

 今も出港しようとしたローラシア級が黒いモビルスーツにブリッジを撃ち抜かれ、港の中で爆散する。

 

 攻撃を加えたモビルスーツ『ダークダガーL』は次の獲物を求めて、すでに外で警戒にあたっていたナスカ級の背後に回り込みエンジンを損傷させる。

 

 そしてエンジンから煙を噴きナスカ級が傾いた瞬間、何もない空間から放たれた砲撃の直撃を受け撃沈されてしまった。

 

 それを管制室で見ていた者達は驚愕する。

 

 「いったい何が!?」

 

 だがすぐに疑問の答えが出た。

 

 今まで何も無かった場所から見た事もない戦艦が現れたからだ。

 

 「ミラージュコロイド!?」

 

 「テタルトス、いや地球軍か!?」

 

 そう疑うのは当然であった。

 

 ダガー系のモビルスーツを使用しているのは地球軍とテタルトスのみ。

 

 ならこの襲撃も彼らの仕業と考えるのは自然な事だ。

 

 驚き浮足立つザフトを尻目に、突然現れた戦艦ガーティ・ルーのブリッジで戦場を見つめる男がいた。

 

 いや、男かどうかも分からない。

 

 何故ならその者は顔全体を隠す仮面を被っていたからである。

 

 仮面の者ネオ・ロアノーク大佐は戦況を確認しながら、時間を見ると帰還する予定だった時間を過ぎていた。

 

 アーモリ―ワンの防衛戦力が浮足立っている事を考えれば機体強奪に成功してはいるらしいが、奪った機体が脱出できないなら意味はない。

 

 「失敗ですか……」

 

 ネオの隣に控えていたスウェン・カル・バヤン中尉は艦長イアン・リーの呟きに内心苦笑した。

 

 イアンがそう判断するのも当たり前。

 

 真っ当な軍人であるイアンのようなタイプは皆、生体CPUに対して懐疑的なのだ。

 

 前大戦においても生体CPUは前線に投入され、確かに一定の戦果を上げはした。

 

 だが命令には従わず、連携もほとんど取れず、挙げ句同士討ちにまで発展しかけた例すらあるという。

 

 指揮官としてはこんな厄介なものを使いたくはないだろう。

 

 「……失敗するようなら私もこんな作戦をやらせたりはしない」

 

 「しかし、アーモリーワンは軍事工廠です。時間が経つほどこちらが不利になりますよ」

 

 現状戦況が拮抗しているように見えるのはアーモリーワン内部の騒ぎに合わせ、奇襲を仕掛けた事でザフトが混乱しているからだ。

 

 だがこんな状況はいつまでも続く筈はなく、ザフトが混乱から立ち直るのも時間の問題だった。

 

 「……私が出て時間を稼ごう。スウェン、一緒に来い」

 

 「了解」

 

 ネオと共に格納庫に向かったスウェンは自分の機体ストライクEに乗り込んだ。

 

 この機体は前大戦で驚異的な戦果を上げ『白い戦神』と呼ばれ恐れられたパイロット、キラ・ヤマトが搭乗した機体の強化型である。

 

 「機体状態問題なし」

 

 スウェンは使い慣れたエールストライカーを選択し、機体を起動させていくとモニターにネオの機体『エグザス』が見えた。

 

 エグザスはモビルスーツではなく、モビルアーマーである。

 

 前大戦『エンデュミオンの鷹』と呼ばれたムウ・ラ・フラガも搭乗したメビウスゼロの後継機である。

 

 実弾だった武装のほとんどがビーム兵器に変更され、メビウスゼロと同じくガンバレルを搭載している。

 

 ただし使いこなすには高い空間認識力が必要となるが。

 

 ネオはこの装備を完全に使いこなせる数少ないパイロットであった。

 

 「いくぞ、スウェン」

 

 「了解」

 

 ガーティ・ル―から出撃した二機は時間を稼ぐために行動を開始した。

 

 出撃したエグザスは攻撃を仕掛けてきたジンの攻撃をたやすく回避する。

 

 その動きは明らかに普通ではない。

 

 だが、ジンやシグーのパイロット達はそれにも構わず攻撃を繰り返していく。

 

 ここまで多くの仲間が倒された事で冷静さを失っていたのだろう。

 

 「……迂闊な」

 

 ネオは表情一つ変えずに機体に接続されているガンバレルを展開。

 

 弾けるように外側に飛び出した砲台が素早く動き、四方からビームを撃ち込む。

 

 「なに!?」

 

 「どこから!?」

 

 ガンバレルの放ったビームを回避する事が出来ないジンやシグーはそのまま撃ち抜かれて爆散した。

 

 「歯応えのない連中だな」

 

 その方が時間稼ぎも楽であるが、軍事工廠であるアーモリーワンの防衛戦力としてはいささか拍子抜けである。

 

 しかしネオは油断はしない。

 

 すぐに気を引き締めるとゲイツRのビームを回避、リニアガンで狙い撃ちにして撃破した。

 

 さらに動きを止める事無く敵機を牽制、ガンバレルを巧みに操りながら次々と敵機を蹂躙していく。

 

 「くそォォ!」

 

 どうにか降り注ぐビームの雨から抜け出たゲイツRが接近戦を挑むためビームサーベルを展開、一気に距離を詰め、エグザスに斬りかかった。

 

 しかし斬りかかられたネオは何の反応も示さず、別方向にガンバレルを操作し続けている。

 

 「貰った!」

 

 ビームサーベルを袈裟懸けに振り抜こうとした瞬間、ゲイツRはスウェンの放ったビームライフルでコックピットを撃ち抜かれていた。

 

 スウェンもまたザフト機がついていく事の出来ない動きで翻弄するとビームライフルで次々と敵モビルスーツを撃ち抜いていく。

 

 「あれはストライク!?」

 

 「やっぱり地球軍か!?」

 

 スウェンの乗っているストライクEはやはり目立つ。

 

 ザフトにとってはGAT-X104『イレイズ』と並んで忌むべき機体だからだ。

 

 こちらの素性がバレた可能性もあるがダガーを使用している以上今更だ。

 

 「どけ」

 

 スウェンはビームライフルから腰に装備されている二丁のビームライフルショーティーに持ち替えビームを連射して敵に叩き込んだ。

 

 ビームライフルショーティーは銃身が拳銃サイズになっている接近戦を想定した装備である。

 

 その分射程は通常のビームライフルより劣るものの、連射性はこちらの方が勝っている。

 

 「……流石に数が多いな。大佐、スティング達は?」

 

 「まだのようだ。もう少し時間を稼ぐ」

 

 「了解」

 

 二機は増援目掛けて加速すると敵陣に突っ込んでいった。

 

 

 

 

 アーモリーワン内部の戦闘は地上戦から空中戦に移行していた。

 

 現在はほとんどのモビルスーツが引き離され、追撃しているのはインパルスと二機のザクのみ。

 

 このままでは逃げられる可能性がある。

 

 その芳しくない現状は新造戦艦ミネルバの方でも確認が取れていた。

 

 このミネルバこそアーモリーワンで行われる予定であった進水式の主役であり、同時に今戦闘を続けているセカンドシリーズの母艦でもある。

 

 そんなミネルバの待機室で戦闘の様子をもどかしく見ていたセリスはそわそわしながら準備が整うのを待ち続けていた。

 

 「……シン」

 

 いつもの事ながらシンの無茶な戦い方を見ていると生きた心地がしない。

 

 これまでは演習だったからこそ後で文句を言う事はいくらでもできた。

 

 だが今行われているのは命懸けの実戦であり、無謀な行動は死に直結している。

 

 せめて傍にいられればフォローもできるというのに。

 

 しかし彼女の機体は一機だけ調整が遅れていた為に出撃できない状態である。

 

 今もミネルバの整備スタッフが急ピッチで調整を進めてくれているのだが―――

 

 焦れるセリスだったが、その時待ち望んでいた連絡がようやく入ってきた。

 

 《準備が整ったぞ!》

 

 「分かりました!」

 

 すでに赤いパイロットスーツに着替えていたセリスは格納庫に駆け込むと、そこには準備の出来た自身の乗機が佇んでいた。

 

 ZGMF-X23S『セイバー』

 

 セカンドステージシリーズの一機でありモビルアーマーへの変形機構を備えた機体である。

 

 セリスが急いで機体に乗り込もうと走り寄った時、セイバーの横に見た事もない機体があるのに気がついた。

 

 「あの機体は……」

 

 その造形は自分達の乗るセカンドステージシリーズによく似ている。

 

 「あれは特務隊の機体らしいよ。今議長と一緒に特務隊の人がミネルバに乗り込んでるから念の為に積んどけって」

 

 「え、デュランダル議長が!?」

 

 「うん。まあプラント内部は大混乱だからね。状況把握の為に乗り込んで来たんじゃないの?」

 

 同期のメカニックであるヴィーノ・デュプレがわざわざ説明してくれる。

 

 セリスは興味深そうに横に立つ機体を見ていたが、それどころではない事を思い出すと慌てて機体に乗り込んだ。

 

 《言っとくけど、調整が完全に済んだ訳じゃないからな。無理だけはするなよ》

 

 「うん、分かってる」

 

 ヨウランの忠告に頷きセイバーをカタパルトまで移動させるとミネルバのハッチが開く。

 

 「セリス・シャリエ、セイバー行きます!」

 

 セリスはフットペダルを踏み込むとセイバーはミネルバを飛び出し戦場に向かった。

 

 

 

 

 準備を整えたらセイバーが戦場に向け発進した頃、シン達の奮戦は未だ続いていた。

 

 「なんて奴らだ、奪った機体でここまで!」

 

 シンが毒づくのも無理はない。

 

 新型を奪った相手は初めてセカンドステージシリーズに搭乗した筈にも関わらず、その動きに違和感はない。

 

 カオスのパイロットは背中の機動兵装ポッド分離させて、的確に使用してくる。

 

 ガイア、アビスのパイロット達も完全に機体を使いこなしていた。

 

 シンに焦りが募っていく。

 

 しかしそれはスティング達も同じであった。

 

 さっさと追手を振り切って外にいる味方と合流しなくてはならない。

 

 だが―――

 

 「このォォ!!」

 

 ステラはビームサーベルを振りかぶると、インパルスに叩きつける。

 

 しかしその斬撃は掲げられたシールドに阻まれて届く事はない。

 

 それが余計に怒りを煽る。

 

 完全に冷静さを失ったステラは目的すら忘れて暴れまわっている。

 

 「やめろ! 後退だぞ、ステラ!」

 

 「私が、私がァァ!」

 

 熱くなりすぎだ。

 

 このままでは不味い。

 

 舌打ちしながら再びステラを制止しようとした時、アウルが余計な一言を口にした。

 

 「じゃ、お前はここで『死ね』よ!」

 

 それはステラにとって言ってはならない言葉であった。

 

 「あ、ああ」

 

 「アウル! お前!」

 

 「止まんないからさ、しょうがないじゃん」

 

 「余計な事を!」

 

 アウルの放った一言でステラの様子は一転し、その顔から怒りに満ちた表情は完全に消え、逆に恐怖と怯えに満ちていた。

 

 「あ、あああ、嫌ァァァァァァァ!!!!」

 

 様子を変えたステラに操られたガイアは反転するとプラント外壁に向って移動を始めた。

 

 「結果オーライだろ」

 

 「チッ」

 

 それを追うようにカオスとアビスも反転した。

 

 当然、黙って見ているようなシン達ではない。

 

 「逃げられたら終わりだぞ」

 

 「分かってる!」

 

 「これ以上好きにさせないわよ!」

 

 三機もスラスターを噴射させて後を追う。

 

 その時ルナマリアの乗っているザクのスラスターが爆発すると徐々に高度が落ちていく。

 

 「嘘でしょ!?  こんな時に!」

 

 ルナマリアの機体は三機のガンダムが暴れまわった際に瓦礫の下敷きになってしまっていた。

 

 おそらく機体が瓦礫の下敷きになった時にスラスターを損傷していたのだろう。

 

 「運がないね! さっさと落ちろよ!」

 

 降下していくザクを見たアウルはカリドゥス複相ビーム砲を構えた。

 

 シンはアビスの攻撃を阻止するために射線上に割り込もうと前に出る。

 

 しかしモビルアーマー形態に変形したカオスの突撃に阻まれてしまう。

 

 迎撃しようと対艦刀を振りかぶるが、逆にエクスカリバーを叩き折られてしまった。

 

 「くそ! この装備じゃ駄目だ!! ミネルバ、フォースシルエット!!」

 

 モニターのメイリン・ホークが戸惑い艦長であるタリア・グラディスの顔を見る。

 

 「許可します」

 

 タリアは躊躇う事無く許可を出した。

 

 もはや機密も何もない。

 

 インパルスまで失う訳にはいかないのだから。

 

 ミネルバからフォースシルエットが射出される。

 

 だがルナマリアの危機には間に合わない。

 

 シンは吹き飛ばされ、レイはカオスを抑えている為に援護する余裕がない。

 

 「ルナ!!」

 

 「くっ」

 

 アビスから放たれた閃光がザクを撃ち抜こうと迫る。

 

 だが直撃する直前に射線上に割り込む機体があった。

 

 赤き機体がシールドを掲げ、ビームを受け止めた。

 

 「ルナ、大丈夫!?」

 

 「セリス!?」

 

 割り込んで来たのはセリスの搭乗する機体セイバーであった。

 

 「そのままミネルバまで後退して!」

 

 「り、了解!」

 

 セリスの援護に驚くシン達だがさらに驚いていたのはスティング達だった。

 

 「さらに新型だと!?」

 

 「どうなってんだよ、これ!」

 

 もはや予想外どころではない。

 

 事前に与えられていた情報と違いすぎる。

 

 セリスはビームライフルでアビスを牽制しながらザクの後退を援護する。

 

 「この!」

 

 アビスは三連装ビーム砲をセイバーに撃ち込むが、セリスは潜り抜けるように回避するとビームライフルを叩き込む。

 

 「それじゃ私には当たらない!」

 

 セイバーの動きは卓越しており、さらに射撃も正確。

 

 それだけでセリスの技量も分かるというものだ。

 

 「舐めないで!」

 

 「こいつも厄介な奴だな! あれは……」

 

 スティングが戦場に飛来してきた物に気がついた。

 

 それはミネルバから射出されたインパルスの高機動戦闘用装備フォースシルエットである。

 

 インパルスはソードシルエットをパージ、背中にフォースシルエットを装備すると色が白と青を基調とした配色に変化した。

 

 「装備を換装!?」

 

 「チッ、さっさと退くぞ、アウル!」

 

 「分かってるよ!」

 

 手に持ったシールドがスライドして拡大すると同時に動き出したインパルスは先程までとはまったく違う速度でガイアに肉薄、ビームサーベルを抜いて斬りかかった。

 

 「逃がすかァァ!!」

 

 振り下ろされたビームサーベルをステラは半狂乱で回避する。

 

 「こっちに来ないでぇぇ!!」

 

 ガイアはビーム砲をインパルス撃ち込み、接近させないように後退していくが今のステラでは冷静な対処は無理だ。

 

 「やらせるかよ!」

 

 スティングはレイのザクを蹴り飛ばすとステラを援護するために全火器をインパルスを牽制するように叩き込んだ。

 

 「シン、後ろ!!」

 

 「ッ!?」

 

 シンはセリスの声に合わせて機体を旋回させるとカオスの攻撃をギリギリ回避する。

 

 「この!!」

 

 そこにセイバーを振り切ったアビスがプラント外壁に向けてカリドゥス複相ビーム砲と三連装ビーム砲を撃ち込んだ。

 

 度重なる攻撃でついに限界を超えたのだろう。

 

 プラントの外壁に大きな穴が空き、空気が流出するとそこからカオス、アビス、ガイアが離脱していく。

 

 「ここまでやられてみすみす逃がすか!」

 

 そのままインパルスは外壁の穴に突入する。

 

 「ちょっと、シン!」

 

 「待つんだ! 闇雲に追っても!」

 

 ザクとセイバーも先に出たインパルスを追って外に飛び出すが、そこでレイは今まで感じた事のない感覚に襲われた。

 

 「なんだ、これは?」

 

 言い知れぬ不安感が全身を包む。

 

 だがこのままシンを放っておく事はできない。

 

 レイは不安を押し殺してインパルスの後を追っていった。

 

 

 

 

 

 戦闘から離脱したマユとアイラはどうにかミネルバの格納庫に辿りついていた。

 

 何故ミネルバに入ったかといえば、ここにデュランダル議長が入っていくのを確認したからである。

 

 今さら言うまでもいないがアイラやマユは中立同盟の人間だ。

 

 デュランダルによって招かれたものの、両国間の関係を考えれば確実に安全とは言えない。

 

 この騒ぎに乗じて何かよからぬ事を考える者がいる可能性もあるからだ。

 

 ならば確実に安全を保障してくれる人物のいる場所に居た方が良いと判断したのだ。

 

 マユはコックピットから降りようとアイラの様子を確認すると難しい顔で考え込んでいた。

 

 彼女が何を考えているかは、大体分かる。

 

 「アイラ様はこの件をどう考えていますか?」

 

 「そうね、テタルトスではないでしょう。彼らがこの時期に世界を刺激するような行動を取るとは思えない」

 

 ならば考えられる可能性は一つしかない。

 

 「地球軍ですか」

 

 「そう考えるのが自然ね。厄介な事になりそう」

 

 今回の事は間違いなく争いの火種になるだろう。

 

 二人してため息をつきながらコックピットを降りていく。

 

 見慣れないこちらの姿に驚きながら銃を構えてくるザフトの兵士に告げる言葉を考えながらアイラが前に出るとマユもこれからどうするべきかを考える。

 

 いや、やる事は決まっているのだ。

 

 アイラを守りきりオーブに戻る。

 

 ここを切り抜けて地球に帰還しなければ、これから先の対策も練れないのだから。

 

 殺気立つザフト兵と対峙しながら、そんな事を考えていた。

 

 

 

 

 ミネルバのブリッジで一連の戦闘を見ていたタリアは頭を抱えた。

 

 追撃を行っていたインパルス、セイバー、ザクが宇宙に出た敵を追ってプラントの外に飛び出していったのだ。

 

 「あいつら何を勝手に!」

 

 アーサーが慌てるのも無理はない。

 

 タリアは視線だけを後ろに向ける。

 

 そこには現最高評議会議長であるデュランダルが座り、その後ろには補佐する秘書官と特務隊であり議長の護衛役であるアレン・セイファートが立っていた。

 

 彼らがここにいるだけでも正直な話、頭が痛い。

 

 議長は言うまでもないが、自分達よりも上の立場にあるアレンがいるのは非常にやりにくい。

 

 ―――とはいえこのままという訳にはいくまい。

 

 「……インパルスとセイバーまで失う訳にはいきません。ミネルバ、発進します! よろしいですね?」

 

 タリアの言葉にデュランダルは沈痛な面持ちで頷いた。

 

 「頼むよ、タリア」

 

 同時に傍に立つアレンを見るが特に何の反応も示さない。

 

 サングラスをかけている為に表情は見えないが何も言わないという事は異論はないらしい。

 

 タリアは正面を向くと同時に自分を叱咤する意味を込めて大きな声で叫んだ。

 

 「ミネルバ、発進!」

 

 ここから事態はさらに混迷を極めていく事になる。


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