機動戦士ガンダムSEED effect   作:kia

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第53話  集まる力

 

 

 

 

 

 

 多くの岩やゴミが散乱している宙域の中、何条もの光が飛び交っている。

 

 それは戦闘の光であった。

 

 今の時代別段珍しくも無い光景である。

 

 しかしおかしな点を挙げるとすれば戦っている機体であろうか。

 

 争っていたのはお互いに所属を同じくするザフトのモビルスーツだった。

 

 そして戦場の中央。

 

 襲撃を受けた側のナスカ級と共にミネルバが砲撃を放ちながらスラスターを噴射させ駆け抜けていた。

 

 「トリスタン、撃てェェ!!」

 

 敵を近づけさせまいと放たれたトリスタンの一射が敵モビルスーツを撃破していく。

 

 だが数の差は大きい。

 

 迎撃してもすぐに別のモビルスーツが襲いかかってくるのだ。

 

 今のままでは迎撃が追い付かなくなるのも時間の問題だろう。

 

 「ルナマリアは!?」

 

 「現在敵新型モビルスーツと交戦中です!」

 

 ルナマリアの駆るシークェルエクリプスはシオンのメフィストフェレスと未だに一歩も引く事無く戦い続けていた。

 

 「このぉ!」

 

 ビームライフルを連射し、メフィストフェレスを牽制する。

 

 連続でビームを叩き込み、敵機を寄せ付けない。

 

 一見余裕があるように見えるが、そうではない。

 

 敵モビルスーツの火力は通常の機体とは比較にならない。

 

 さらには機動性も非常に高い。

 

 極めつけがパイロットの技量。

 

 こちらもそこらのエースパイロットよりも上であり、非常に厄介だった。

 

 「どうした? もう終わりか?」

 

 腹部のサルガタナスがエクリプスを狙って発射される。

 

 迫る攻撃を前にルナマリアは機体を後退させ、ビームシールドを張って砲撃を防いだ。

 

 「くっ」

 

 咄嗟に計器を確認する。

 

 気にしているのはバッテリーの残量だ。

 

 シークェルエクリプスは稼働時間延長の為に改良が施されていた。

 

 それ故にデスティニーインパルスよりも格段に稼働時間も延長されている。

 

 だが、それでもこちらはバッテリーなのだ。

 

 いつか確実に限界時間は来る。

 

 だからこそ上手く戦わなくてはならない。

 

 こんな乱戦ではデュートリオンビームで補給する事もできないのだから。

 

 そう考えると最初にアンチビームシールドを失ってしまったのは痛い。

 

 ルナマリアは撃ちかけられる攻撃を加速して振りきる。

 

 同時にバロールを放った。

 

 実弾でのダメージは期待していない。

 

 体勢を崩せれば、それで十分。

 

 しかし、相手はそんなルナマリアの狙いを上回った。

 

 シオンはニヤリと笑みを浮かべ、迫る砲撃をいつの間にか分離させていたビームクロウの三連装ビーム砲で撃ち落とす。

 

 さらに背後から分離させたもう一方のビームクロウの三連装ビーム砲でエクリプスを狙った。

 

 「後ろ!?」

 

 ギリギリのタイミングで背後からの砲撃に気がついたルナマリアは咄嗟に光の盾で何条のも閃光を防御する。

 

 どうにか危機を脱したかに見えたエクリプスだったが、シオンはその隙に距離を詰めていた。

 

 「今度はこの武装を試させて貰おう」

 

 「ッ!?」

 

 再びメフィストフェレスに向き合ったルナマリアが見たのは左の掌から光を発する敵機の姿。

 

 それはパルマフィオキーナ掌部ビーム砲の光。

 

 アレの直撃を食らえば、確実に撃墜される。

 

 ルナマリアは持っていたエッケザックスを逆手に持ち、盾代りに前面につきだした。

 

 左手を突きだしたメフィストフェレスがエッケザックスを握り潰すようにして破壊。

 

 爆発に晒されたエクリプスを吹き飛ばす。

 

 「きゃああ!!」

 

 直撃は避けられた。

 

 それだけで十分に僥倖と言える。

 

 しかしエクリプスは吹き飛ばされた事により、大きく体勢を崩されてしまった。

 

 「予想外にそこそこ楽しめた。もう十分だ。―――死ね」

 

 シオンはエクリプスに止めを刺そうと、サルガタナスを発射した。

 

 腹部に収束された光が閃光となって撃ち出される。

 

 タイミング的に回避はできない。

 

 どうにか防御しようとルナマリアが手を突き出そうとしたその時、エクリプスを守る様に展開されたフィールドがビームを弾き返した。

 

 エクリプスの周りに浮遊していたのは―――フリージア。

 

 「えっ!?」

 

 「これは……」

 

 シオンとルナマリアが振り返った先にいたのは翼のようなビーム刃を背中から展開した白い機体。

 

 それを見たシオンの口元に今まで以上の笑みが浮かぶ。

 

 彼の胸中にあった感情は歓喜。

 

 何故ならこの時を何より待ち望んでいたのだから。

 

 「フフフ、アハハハハハハハ!! まさかお前が来るとはな、アストォォ!!」

 

 戦場に乱入して来たのはアストの駆る、クルセイドイノセントガンダムだった。

 

 

 

 

 通信を受け救援に駆け付けたアストは乱戦模様の戦場を見て、眉を顰めた。

 

 数に違いがある所為か、味方の部隊が徐々に押し込まれている。

 

 「不味いな」

 

 ここに来る途中で確認した月に向かって移動する廃棄コロニーの件も気になったが、急いで援護に来たのは正解だったようだ。

 

 背中のヴィルトビームキャノンをせり出し、同時にライフルとシールド内蔵ビーム砲を構えて一斉に撃ち出した。

 

 宇宙を裂くように放たれたビームの雨が正確にザクやグフを捉えては薙ぎ払う。

 

 その爆発に紛れ接近してくる敵機をワイバーンで斬り捨てると、指揮官機らしきイフリートとミネルバに通信を繋ぐ。

 

 「無事か?」

 

 「アレン!?」

 

 「救援はあなたでしたか。助かりましたよ」

 

 タリアとニコルが様々な反応でアストを出迎える。

 

 聞きたい事や言いたい事もあるだろうがそれは後回しだ。

 

 「進路を開きます。反対方向に離脱を。その後、あの廃棄コロニーを追ってください」

 

 「コロニー? さっき確認した?」

 

 「ええ、月に向かっています。もしかすると……」

 

 言葉を濁すアストにタリア達にも予想がついた。

 

 「急いで!」

 

 「了解」

 

 クルセイドイノセントの援護を受け、開かれた進路から母艦が後退する。

 

 それを確認するとアストは周囲を見渡した。

 

 探していたのはエクリプスの姿である。

 

 ミネルバの傍にはルナマリアの姿はなかった。

 

 彼女ほどの技量を持つパイロットが簡単にやられる筈はないが―――

 

 「ルナマリアはどこに?」

 

 そこでエクリプスが見た事も無い新型機と交戦しているのを発見した。

 

 持っていた対艦刀エッケザックスを潰され、爆発で大きく吹き飛ばされてしまっている。

 

 「ルナマリア!」

 

 アストは急ぎ背中のフリージアを射出する。

 

 エクリプスを守る様に防御フィールドを張ると敵モビルスーツから放たれたビームを弾いた。

 

 その隙に接近しバルムンクを上段から敵機に向けて振り下ろす。

 

 しかしその刃は展開されたメフィストフェレスのビームシールドによって阻まれ、激しく火花を散らした。

 

 「良いタイミングだな、アスト」

 

 「シオンか!?」

 

 聞こえてきたシオンの声に思わず視線を鋭くする。

 

 「来たのはお前だけか? マユ・アスカはどうした? あの女もこの手で殺してやりたいんだがな」

 

 「貴様」

 

 「まあいい。まずはお前からだ!」

 

 シオンはビームサーベルを抜きクルセイドイノセントに向けて振り抜いた。

 

 「ふざけるな!」

 

 メフィストフェレスの光刃を前にシールドで防ぐと負けじとアストもサーベルを叩きつける。

 

 これまでの事でも分かってはいたがシオンは何も変わっていない。

 

 昔と同じだ。

 

 放っておけば再びこいつの所為でまた同じような事が起きる。

 

 「だからここで!」

 

 アストは操縦桿を強く握りしめ、メフィストフェレスを睨みつけると背後にいるルナマリアに声をかけた。

 

 「ルナマリア、ミネルバと一緒に離脱してコロニーを追え」

 

 「でも、アレン!?」

 

 「俺は大丈夫だ。行け!」

 

 「くっ、了解!!」

 

 エクリプスは反転するとサーベラスで残りの敵機を撃ち落としながら、ミネルバの後を追って離脱する。

 

 ルナマリアが戦線を離れたのと合わせ、ライフルを同時に撃ち出した。

 

 射撃のタイミングも殆ど誤差がない。

 

 嫌な話ではあるが、何度も刃を交えてきたが故にお互いの癖も分かっている。

 

 加えてシオンも地球軍で遊んでいた訳ではないらしい。

 

 明らかに前大戦時よりも技量が上がっていた。

 

 メフィストフェレスから放たれた砲撃を紙一重でかわし、距離を詰めると斬艦刀を一閃した。

 

 横薙ぎに払われた斬撃を左手のシールドを張って弾いたシオンは右足のビームサーベルを斬り上げてくる。

 

 「また足にサーベルのついた機体か!?」

 

 イージスといい、こいつといい、面倒な武装ばかりをつけている。

 

 幸いアストにとってこの手の機体と戦うのは慣れていた。

 

 蹴り上げられた斬撃を後退して回避。

 

 しかしその直後、今度は上段からサーベルが振り下ろされてくる。

 

 「この!!」

 

 ナーゲルリングで斬撃を弾き、体当たりでメフィストフェレス吹き飛ばす。

 

 だが敵も腹部のサルガタナスを撃ち込んで来た。

 

 「チッ」

 

 展開していたフリージアを前面に展開して防御する。

 

 「ククク、こうやって貴様を殺す時をどれほど待ち望んでいたか」

 

 正直、シオンにとって地球軍にいた頃は腸が煮えくり返るほどの屈辱だった。

 

 だがそれでもデュランダルに利用されていると分かっていても、従って来たのはこの時の為である。

 

 「さあ、死ね、アスト!!!」

 

 

 『I.S.system starting』

 

 

 I.S.システムが起動するとメフィストフェレスの動きが変わり、クルセイドイノセントに襲いかかった。

 

 

 

 

 激しい戦いが続く月の戦場。

 

 近づいてくるその物体に気がついた者は皆、例外なく絶句していた。

 

 当たり前だ。

 

 大きな廃棄コロニーがこちらに近づいていたのだから。

 

 それはクロードと相対していたユリウスも同様であった。

 

 それでもすぐさま正気を取り戻したのは流石だろう。

 

 サタナエルの攻撃を捌きながら、舌打ちする。

 

 「……チッ、これが本来の狙いか」

 

 ベルゼビュートとサタナキアの相手をストライクフリーダムに任せ、複列位相砲でサタナエルを引き離し視線をコロニーに向ける。

 

 もしもあのコロニーが月の都市に落ちれば、間違いなく壊滅してしまう。

 

 あの速度では市民の避難は間に合わない。

 

 ならば取るべき方法は二つ。

 

 破壊するか、進路を外すか。

 

 だがこの状況ではコロニーを破壊する、もしくは進路を変える為に部隊を派遣するのは難しい。

 

 となればもう残された方法は一つしかない。

 

 ユリウスは軍本部に通信を入れた。

 

 「バルトフェルド、アポカリプスはどうなっている?」

 

 《応戦はしているんですがね。内部に侵入されてしまったようです》

 

 最初の奇襲の際にアポカリプスに近寄られ過ぎた。

 

 しかしもはや猶予は無い。

 

 「……アポカリプスの主砲を使ってコロニーを破壊する。指示を出せ」

 

 《それしかないですかね。しかし内部もゴタゴタしてますからね。上手く狙いをつけられるか》

 

 ユリウスはアポカリプスの主砲が向いている方向を見た。

 

 常に敵勢力の侵攻を警戒している事が幸いし、外側を向いている。

 

 しかし肝心のコロニーからは若干外れてしまっていた。

 

 「狙いが付けられないならば、コロニーの方を主砲の有効範囲に移動させるしかないか」

 

 だがテタルトスの戦力は現在の防衛線を維持する為に外せない。

 

 ならば―――

 

 ユリウスはチラリと背後で戦っているストライクフリーダムを見る。

 

 「さっさと落ちて!!」

 

 リースは腰のビームクロウを飛ばし、自分は背後からストライクフリーダムに襲いかかる。

 

 挟み撃ちだ。

 

 だがキラは機体を上昇させて挟撃を回避。

 

 両手のビームライフルを連結させ、ベルゼビュートを狙い撃つ。

 

 その射撃にリースは残った腕を突き出してシールドを展開し、防御するが後退させられてしまう。

 

 「ぐうううう」

 

 「リース!? くそ、フリーダムゥゥ!!!」

 

 ヴィートはアガリアレプトのビームブーメランを取り外すとストライクフリーダムに投げつけた。

 

 もちろんこれで仕留められるとは思っていない。

 

 ブーメランは囮だ。

 

 サタナキアはブーメランを避けたストライクフリーダムの動きを予測し、ビームランチャーを撃ち出した。

 

 だがそれすらもキラには通用しない。

 

 バレルロールしながらビームの閃光を回避、接近してサーベルを抜き放った。

 

 「速い!?」

 

 ヴィートは咄嗟に機体を横に流す。

 

 その瞬間、すれ違い様にサタナキアの右足が斬り飛ばされていた。

 

 「貴様ァァ!!」

 

 あの二機は完全に意識をストライクフリーダムの方へ向けている。

 

 キラの相手をしている限り、あの二機がこちらの邪魔をすることは無い。

 

 ユリウスはそれを見ながら、バルトフェルドに指示を飛ばした。

 

 そう―――戦力が足りないならば別の所から補えばいい。

 

 利用できるものは利用させてもらおう。

 

 「バルトフェルド、同盟、連合に状況を伝え、協力を要請しろ。コロニーの進路を逸らせとな」

 

 《なるほど。了解しました、大佐》

 

 同盟、連合共に主要人物がまだコペルニクスにいるのだ。

 

 嫌とは言うまい。

 

 「作戦は決まったかな」

 

 「チッ、いちいち鬱陶しい」

 

 デュランダルと全く変わらぬ声。

 

 惑わすように発言してくるクロードに若干の苛立ちを感じながら、ユリウスはライフルでサタナエルを牽制した。

 

 クロードは加速を付けて射撃を回避する。

 

 そして再び残骸に紛れ側面に回り込み、サルガタナスを撃ち込んできた。

 

 クロードの戦い方は非常に上手い。

 

 こちらの動きを読み、分析して最善の手を打ってくる。

 

 「……面倒な奴だ」

 

 「さて君らがどうするのか見せてもらおうか」

 

 クロードはあくまでも余裕を崩さない。

 

 まるで今の状況を全く意に介していないような口ぶりで再びディザスターに襲いかかった。

 

 

 

 

 どの戦場も膠着状態。

 

 近づいてくるコロニーを気にしつつも、目の前にいる敵に集中せざる得ない。

 

 だがその時、各勢力にテタルトスからの通信が入ってきた。

 

 《聞こえるかな。私はテタルトス月面連邦軍アンドリュー・バルトフェルド中佐だ。同盟軍、地球軍、双方聞いて欲しい。現在、月に向かって一基、コロニーが近づきつつある。これをアポカリプスの主砲で排除したいのだが、若干有効範囲からずれてしまっている》

 

 アークエンジェル、ガーティ・ルーそして戦うムウ達やアオイ達もその通信に耳を傾ける。

 

 《こちらが動きたいところだが、生憎こちらも手一杯でね。そこで君達に協力をお願いしたい。コロニーの進路を主砲の有効範囲まで押し込んでほしい。ただしアポカリプス内部にもザフトに侵入、妨害を受けている為、狙えるのは一度きり。しかも時間が無い。無茶なのは承知しているが、どうか頼む》

 

 バルトフェルドが各勢力の意思を確認しなかったのは、何も言わなくとも確実に協力するだろうと確信していたからだ。

 

 何故なら今彼らがテタルトスに協力している事こそがその答え。

 

 コペルニクスには彼らの代表者が未だ留まっているのだから。

 

 最初に動いたのはアオイ達だった。

 

 「中尉! 俺達も」

 

 「そうだな。だがここの守りが」

 

 スウェンはフラガラッハでザクを斬り飛ばしながら港を見る。

 

 突破されてしまえばガーティ・ルーを守る戦力はエレンシアのみ。

 

 一番攻撃力の高いエクセリオンだけを行かせるべきか。

 

 コロニーの進路を僅かだろうと逸らそうというのだ。

 

 戦力は多いに越した事は無い。

 

 その時、強力なビームの一撃が港の方向から放たれ、敵モビルスーツを薙ぎ払った。

 

 アオイ達が視線を向けるとそこには試作高エネルギー収束ビーム砲を構えたエレンシア。

 

 そしてもう一機――――アオイのかつての愛機イレイズがこちらに向かってきているのが見えた。

 

 「全員無事か?」

 

 「大佐!?」

 

 エレンシアから聞こえてきたのはラルスの声だった。

 

 背中の新装備サンクションストライカーに装備されたドラグーンを射出して、敵部隊を襲撃する。

 

 撃ち込まれた砲撃を前に態勢を崩した敵に飛び出してきたイレイズも背中に装着した装備を射出する。

 

 イレイズの背中には『ガンバレルストライカーⅡ』が装着されていた。

 

 「いきなさい!」

 

 四方に放出されたガンバレルの素早い動きに対応できないザフトの機体を次々と撃墜していった。

 

 アオイはイレイズを援護しようとアンヘルを撃ち込んでフォローに回る。

 

 「ありがとう、少尉」

 

 「いえ、それよりもイレイズは修復を終えたんですね」

 

 「ええ、エレンシアは元々兄の機体だもの。何時までも私が乗っている訳にはいかないでしょう」

 

 イレイズmkⅡは地上で中破の損傷を受けてからエンリルに運び込まれ、ストライクノワールやカオスと共に改修を受けていたのだ。

 

 とはいえ外見は殆ど変わらない。

 

 変化といえば一部追加装甲らしきものを付けているくらいだ。

 

 それでも十分機体性能は上がっている。

 

 ある程度の敵を排除するとラルスが指示を飛ばした。

 

 「全員、聞け。我々もコロニーに向かう」

 

 「ここの守りは?」

 

 「機体の火力から考えて、行くのは私、少尉とスティングだ。ここはルシアとスウェンに任せる」

 

 確かに二人の実力ならばそうそう遅れを取る事は無い。

 

 「少尉、無理はしないようにね」

 

 「ありがとうございます、大佐」

 

 ルシアの気遣いに力強く頷きながらアオイはラルスやスティングと共にコロニーに向かってスラスターを吹かせた。

 

 

 

 

 動き出したのはアオイ達だけではない。

 

 当然同盟軍もまた動き出そうとしていた。

 

 バルトフェルドからの通信を聞いたマリューはアークエンジェルを守る様に戦うヴァナディスとインフィニットジャスティス、アカツキに連絡を入れる。

 

 「本艦もコロニー迎撃に向かいます」

 

 コロニーの進路を逸らすための火力はいくらあってもいい。

 

 だがそれには敵陣を真正面から突っ切っていく必要がある。

 

 「……危険だって言っても、それしかないか」

 

 後はスレイプニルを使えれば、かなり有利になる。

 

 しかし現在はストライクフリーダム用しかない。

 

 ジャスティス用のスレイプニルはスカージとの戦闘で破壊されてしまったからだ。

 

 だが肝心のキラは現在アポカリプス方面でザフトの新型と戦闘中。

 

 となればキラがこちらに戻れるように誰かが援護に行くしかないだろう。

 

 「私がキラの所に行きます」

 

 「いえ、ラクスはアークエンジェルの護衛を。私が行きます」

 

 「しかし、レティシア!!」

 

 「無理はしません。フラガ一佐、後は頼みます」

 

 「了解だ。こちらは任せてくれ」

 

 レティシアが頷くとアポカリプスの方に向って移動を開始する。

 

 ヴァナディスの邪魔をさせないようアカツキが背中の誘導機動ビーム砲塔を射出し、進路を塞ぐ敵モビルスーツを撃ち抜いた。

 

 「あれは」

 

 レティシアの視界にストライクフリーダムと二機のモビルスーツが交戦しているのが見えた。

 

 その内の一機を見たレティシアは顔を顰める。

 

 ベルゼビュートだ。

 

 正直あの機体のパイロットとはあまり関わり合いになりたくない。

 

 レティシアは首を振って気持ちを切り替えると再びドラグーンを射出し、ベルゼビュートを囲むように展開すると同時にアインヘリヤルを抜き放った。

 

 「リース、下がれ!!」

 

 「なっ!?」

 

 突然ドラグーンによる攻撃を受けたリースはヴィートの声に合わせスラスターを逆噴射。

 

 残った腕でシールドを張り後退する。

 

 四方から撃ちかけられたビーム攻撃を前に操縦桿を絶え間なく動かし続け回避行動を取った。

 

 「鬱陶しい!」

 

 ビームキャノンでドラグーンを薙ぎ払おうとするが、相手は巧みに砲塔を動かし、攻撃をすべてかわしてしまう。

 

 上手い。

 

 こちらの嫌がる位置にドラグーンを配置させ、動きを阻害してくる。

 

 苛立ちながらも反撃の隙を窺っていたリースだったが、コックピットに警戒音が甲高く鳴り響いた。

 

 「くっ!」

 

 斬艦刀を片手に構えたヴァナディスが速度を上げて斬りかかってくる。

 

 リースは斬艦刀の一撃を肩のビームクロウで受け止め、ビームソードで斬り返した。

 

 だがそれを読んでいたレティシアは即座に後退すると光刃は空を斬り、再びドラグーンをリースに向かわせる。

 

 それ動きだけでリースにはパイロットが誰かが分かった。

 

 口元に壊れた笑みが浮かぶ。

 

 「……フフフ、アハハハハ! わざわざ殺されに来たんだね。行く手間省けた。レティシアァァァァァ!!!!」

 

 リースはありったけの憎悪をこめてビーム砲を撃ち出した。

 

 迫る閃光を前にレティシアはアイギスドラグーンを放つと防御フィールドを張ってビームを弾く。

 

 「……だから嫌だったんです。貴方と関わり合いになるのは」

 

 何を言っても通用しない。

 

 それは今までの事から十分すぎるほど分かっている。

 

 正直疲れるだけなのだ。

 

 レティシアはため息をつきながら、自分に引きつけるように誘導していく。

 

 「リース―――ッ!?」

 

 ストライクフリーダムを引き離し援護の向かおうとしたサタナキアにヴァナディスが高出力収束ビーム砲で牽制する。

 

 「こいつ!!」

 

 「レティシアさん!?」

 

 「ここは私が抑えます。キラ君はスレイプニルであのコロニーの進路を逸らしてください。アークエンジェルが既に向っています」

 

 キラはチラリとコロニー方面に向かうアークエンジェルを見る。

 

 ムウのアカツキとラクスのインフィニットジャスティスが奮戦している姿があった。

 

 近づいてくる敵はジャスティスが斬り伏せ、アカツキの誘導機動ビーム砲塔を上手く使い、敵を寄せ付けていない。

 

 そして今度はコロニーの方へ目を向ける。

 

 若干迷いがあるがレティシアならば大丈夫だろうと信じる事にしたキラは頷いた。

 

 「……分かりました。ここは頼みます」

 

 「了解」

 

 ストライクフリーダムは反転し、アークエンジェルに向かって飛び立つ。

 

 「逃がすと思うか!!」

 

 「追わせません!」

 

 キラを追う為に前に出ようとするサタナキアに右足のビームソードで蹴りつける。

 

 「邪魔だ!!」

 

 ヴァナディスの蹴りをかわしたヴィートは苛立ちながらも対艦刀を叩きつけた。

 

 

 

 コロニー方面に向かって行くストライクフリーダム。

 

 その姿はノヴァエクィテスと攻防を繰り広げていたジェイルにも見えた。

 

 「あれは……フリーダム!?」

 

 ジェイルの胸中に怒りと憎悪が湧きあがってくるが、オーブで交戦した機体とは形状が明らかに違う。

 

 おそらくは別の機体だ。

 

 「よそ見をしている暇はあるのか!」

 

 「チッ!!」

 

 下から振り上げられたサーベルにシールドを掲げ、光刃を受け止める。

 

 ジェイルは凄まじい光の中で光刃を押し返そうと力一杯操縦桿を押し込み、同時にアロンダイトを横薙ぎに叩きつけた。

 

 しかしそれも完ぺきに防がれてしまう。

 

 「くそ!」

 

 密着状態から蹴り上げられた敵機のビームソードを飛び退いて回避したジェイルは両肩のフラッシュエッジを投げつける。

 

 しかしその攻撃もまたノヴァエクィテスによって捌かれてしまう。

 

 ジェイルはこの局面で迷いが生じていた。

 

 その理由は言うまでも無い。

 

 近づいてくるコロニーの存在である。

 

 議長はあれを月に落とすつもりなのだろうか。

 

 いくらなんでもそんな事を―――

 

 その時、すぐ傍でエリシュオンと攻防を繰り広げていたザルヴァートルが突然距離を取って動きを止めた。

 

 「セリス!? 何を―――」

 

 そこでジェイルも気がついた。

 

 フォルトゥナの近くで戦闘を行っている機体の存在に。

 

 オーブで見たシンの機体リヴォルトデスティニー、そして自身の討ち果たすべき宿敵トワイライトフリーダム。

 

 「何故奴らがあんな所に?」

 

 そんなジェイルの疑問を余所にセリスは飛行形態に変形し、フォルトゥナの方へ向かって行く。

 

 「セリス、待て!!」

 

 「フォルトゥナが落とされたら意味が無い」

 

 確かにその通りだ。

 

 フォルトゥナには議長も乗っている。

 

 落とさせる訳にはいかない。

 

 再びこちらに突っ込んでくるノヴァエクィテスを睨みつけ、ジェイルは叫びを上げた。

 

 「邪魔だァァァァ!!!」

 

 ジェイルのSEEDが弾けた。

 

 デスティニーが翼を広げ、光学残像を伴って向かってくる敵機に突撃する。

 

 「何!?」

 

 振りかぶられたサーベルを潜り抜け、アロンダイトを一閃した。

 

 デスティニーの刃がノヴァエクィテスのライフルを切り裂き、同時に蹴りを入れて吹き飛ばす。

 

 同時にエリシュオンに高エネルギー長射程ビーム砲を放ち、ラナ機から引き離した。

 

 「ジェイル!」

 

 「ラナ、俺達もフォルトゥナの方に――――!?」

 

 ジェイルは目の端で捉えた何かから発せられた攻撃を避ける為、咄嗟にデスティニーを前面に加速させる。

 

 すると今までいた空間を強力なビームが通り過ぎた。

 

 囲むように何条ものビームが別方向から次々に襲いかかる。

 

 「これは―――ドラグーンか!?」

 

 デスティニーの周囲には通常よりも大きい三つの砲門を持った砲塔が浮かんでいた。

 

 ノヴァエクィテスのリフター『シューティングスター』から射出されたドラグーンである。

 

 「お前の好きにはさせない!!」

 

 アレックスもまたSEEDが弾けた。

 

 スラスターを噴射、加速をつけながらデスティニーにサーベルを叩きこむ。

 

 「この!!」

 

 ジェイルもまたアロンダイトを構えて斬りかかり、再び二機の斬撃が交わると眩い光を放った。

 

 

 

 

 各勢力が動き出した時、ザフト以外で最もコロニーに近い位置にいたのはシンとマユだった。

 

 シンはビームライフルを連射しながら大鎌を振りかぶってくる黒い機体アスタロスを注視する。

 

 その姿はまさに悪魔を連想させる形状だった。

 

 いや、あんな大鎌を持っている所から見て死神と言った方が適切な表現になるだろうか。

 

 振りかぶられた大鎌をバレルロールしながら避け、コールブランドを一閃する。

 

 だがお互いを狙った斬撃は当たる事無く空間を薙ぐのみで終わった。

 

 シンは距離を取りながら、近づいてくるコロニーに目を向ける。

 

 あんな物が月へ落ちればどれだけの被害が出るか。

 

 憤りを抑えながら離れていくフォルトゥナを見る。

 

 「議長! くそ!!!」

 

 とっくに通信は切られ、もうこちらの声は届かない。

 

 確実に分かっている事。

 

 それは議長はもう止まるつもりは無いという事だけだ。

 

 「させてたまるかァァ!!」

 

 互角の戦いを繰り広げるリヴォルトデスティニーとアスタロスの傍ではトワイライトフリーダムとレジェンドが鎬を削っている。

 

 マユはドラグーンから放たれるビームを上手くシールドを使いながら捌き、本体であるレジェンドにライフルで攻撃を加えていく。

 

 だがレイはビームの射撃をシールドで容易く防ぐと周囲にすべてのドラグーンを集め、ライフルと共に一斉に撃ち出した。

 

 「ッ!?」

 

 マユは咄嗟にビームシールドを張り、襲いかかるビームの雨を防御する。

 

 しかし無数のビームを受け止めた衝撃で吹き飛ばされてしまった。

 

 「マユ!? くそ、レイ!!」

 

 シンはアスタロスをライフルで牽制しつつ、ノートゥングを放ちトワイライトフリーダムから引き離す。

 

 「大丈夫か!?」

 

 「私は大丈夫です!」

 

 マユは即座に体勢を立て直し、警戒しながら目の前にいる機体を見つめる。

 

 攻撃方法といい、動きといい、前大戦時に一度だけ相対した敵とよく似ている。

 

 しかもドラグーンの扱い方も上手い。

 

 これでは迂闊にアイギスドラグーンの展開も出来ない。

 

 何故なら射出した瞬間、レジェンドに落とされてしまうからだ。

 

 「フリーダム!! 議長の創る世界、最大の障害の一つである貴様はここで!!」

 

 「簡単にはやられません!!」

 

 マユは背後に回り込んできたドラグーンを宙返りして回避する。

 

 遠距離戦は不利。

 

 ならば接近戦で決着をつける。

 

 サーベルを抜いたフリーダムがレジェンドに向けて突撃した。

 

 

 

 

 フリーダムとレジェンドがすれ違い光刃を交える。

 

 同時に振り返り、ビーム砲を撃ち込もうとしたレイにあの感覚が全身に駆け巡る。

 

 「これは!?」

 

 咄嗟に機体を引くと一条のビームが空間を薙いでいった。

 

 それで終わりではない。

 

 周囲に展開されたドラグーンがレジェンドに襲いかかる。

 

 「これは……ラルス・フラガ!!」

 

 戦場に介入してきたのはラルス達だった。

 

 ドラグーンを感覚に任せて回避したレイは近づいてきたエレンシアに向け、ビームライフルを撃ち込んだ。

 

 ラルスは最低限の動作のみで攻撃を避け、背中のガンバレルからミサイルを発射する。

 

 当然の事ながらそんなものはレジェンドには通用しない。

 

 網の目のように張り巡らされたドラグーンの射撃によりすべてが撃破されてしまった。

 

 しかしこれでいい。

 

 一時的とはいえ視界は封じられた。

 

 その隙にアオイが両手に構えたアンヘルを放ち、数基のドラグーンを諸共に消し飛ばす。

 

 「アオイ・ミナトか!」

 

 強力な砲撃にレイは舌打ちしながら、アオイを睨みつける。

 

 奴こそが議長にとって最大の障害。

 

 「貴様はここで排除する!!」

 

 ドラグーン操作しながら四方からエクセリオンに撃ち出した。

 

 「くっ!」

 

 動き回りながらシールドを構えて襲いかかるビームをやり過ごし、アンヘルを放った。

 

 「チィ、アオイ・ミナト!」

 

 エクセリオンの一撃をシールドで止めたレジェンドだったがその強力なビームを防御した影響で動きを止めた。

 

 その隙にエレンシアが横からレジェンドに斬りかかる。

 

 「少尉、スティング、ここは私が引き受ける。コロニーに向かえ」

 

 レジェンドと斬り結びながら、アオイ達に指示を飛ばす。

 

 「しかし大佐一人では!」

 

 「大丈夫だ。それに一人ではない」

 

 ラルスは仮面の下で笑みを浮かべる。

 

 彼は近づいてくる存在を感じ取っていた。

 

 訝しむアオイ達だったがすぐに気がつく。

 

 ジャスティスとアカツキに伴われた白亜の戦艦アークエンジェルが近づいていたのだ。

 

 「奴らもか!」

 

 レイは舌打ちしながら、エレンシアを力任せに吹き飛ばす。

 

 そしてドラグーンでトワイライトフリーダム、エクセリオン、カオスを攻撃する。

 

 コロニーに向かわせる訳にはいかない。

 

 しかし再びエレンシアが光刃を振るいレジェンドの動きを妨害する。

 

 「そこをどけ!」

 

 「悪いが聞けんな! 行け、少尉、スティング!!」

 

 「了解!!」

 

 「分かった!!」

 

 エクセリオンとカオスがコロニーに向け離脱した。

 

 

 

 

 コロニーへ向かうアークエンジェル。

 

 その護衛をしていたジャスティスが戦場に飛び込んできた。

 

 ラクスは腰のサーベルを連結させ、リヴォルトデスティニーと交戦しているアスタロスに斬りかかる。

 

 「ジャスティスだと!?」

 

 「ラクスさん!?」

 

 デュルクはリヴォルトデスティニーを蹴り飛ばし、ジャスティスのサーベルをギリギリのタイミングで受け止めた。

 

 「シン、マユ、ここは私が押さえます。貴方達はアークエンジェルとコロニーへ! キラも後で来る筈ですから!」

 

 シンは一瞬返事に窮するが、今はあれをどうにかする方が先決。

 

 「分かりました。ここを頼みます! マユ!」

 

 「はい! ラクスさん無茶しないでください!!」」

 

 「ええ!」

 

 ラクスはアスタロスにビームブーメランを投げつけ、同時に懐に飛び込むとサーベルを斬り上げる。

 

 「追わせない気か」

 

 標的であるアオイ・ミナトまでいるというのに、逃がす訳にはいかない。

 

 デュルクは外装でブーメランを弾き、鎌でビームサーベルを外側に流す。

 

 そして返す刀で上段からビーム刃を振り下ろした。

 

 「そんなものでは!」

 

 ラクスは背中のリフターを分離させ、大鎌の斬撃をやり過ごし今度は右足のビームブレイドで蹴り上げる。

 

 「やるな」

 

 眼前に迫るビームブレイドをシールドで止め、ジャスティスを殴りつけアスタロスは距離を取った。

 

 「流石はジャスティスと言ったところか」

 

 噂通りの技量。

 

 簡単には突破できないらしい。

 

 「だが何時までもお前に付き合っている訳にはいかない」

 

 「貴方の相手は私です!」

 

 ビームサーベルを分割し両手に構えたジャスティスは大鎌を握るアスタロスと激突した。

 

 

 

 

 戦場を突っ切るようにコロニーに突き進むアークエンジェル。

 

 当然ザフトは白亜の艦を落とそうと躍起になって攻撃を仕掛けてくる。

 

 前大戦からの因縁も当然あるのだろう。

 

 撃ち込まれる砲撃は生易しくはない。

 

 群がるように妨害してくる敵機をトワイライトフリーダム、リヴォルトデスティニー、アカツキが迎撃する。

 

 「アークエンジェルには手を出させません!」

 

 アイギスドラグーンがアークエンジェルを守るように防御フィールドでビームを受け止める。

 

 その隙にシンが斬艦刀やビームサーベルを使って敵機を斬り飛ばした。

 

 同様に進んでいるのがアオイ達。

 

 彼らもまた敵部隊を突破し、突き進んでいく。

 

 コロニーはもう目の前だ。

 

 「よし、このまま行くぜ、アオイ」

 

 「ああ!」

 

 勢い増し突き進んでいく各機だったが、黒い機体アルカンシェルが立ちふさがる。

 

 「あの機体はステラか!?」

 

 ステラはコックピットの中で冷たい視線をエクセリオンに向ける。

 

 あれが倒すべき目標だ。

 

 「コロニーには近づけさせない。敵は排除する!」

 

 スラスターを使って加速すると一気にエクセリオンに向かって突撃する。

 

 「ステラ、やめろ!」

 

 凄まじい速度で突っ込んでくるアルカンシェルを真正面から受け止めたアオイは機体を襲う衝撃を噛み殺しながら叫ぶ。

 

 しかしステラはその声を無視し、ビームクロウを振りかぶった。

 

 「くそ!」

 

 アオイはマシンキャノンで牽制しながらアルカンシェルの手首をつかみ、咄嗟にシールドで突き放す。

 

 「ステラ、今は!」

 

 歯を食いしばり、アルカンシェルを振り切ろうと速度を上げた。

 

 今はコロニーの方をどうにかする方が先なのだ。

 

 「逃がすと思う―――ぐっぅぅ!? 貴様ァァ!!」

 

 「行かすかよ!」

 

 エクセリオンを追おうとしたアルカンシェルに横から飛び込んできたカオスが組みついていた。

 

 「スティング!?」

 

 「こいつは俺に任せろ!」

 

 「けど!」

 

 「大丈夫だ! 行け!」

 

 「スティング……分かった。無茶するなよ!」

 

 アオイが先に進んだ事を確認するとスティングは暴れるアルカンシェルを力ずくで抑え込む。

 

 しかしやはりというべきか、パワーが違う。

 

 カオスの腕を容易く払ったアルカンシェルは勢いよく腕を振り下ろし殴りつけてくる。

 

 「ぐぁぁぁ!!」

 

 コックピットに凄まじい震動が襲いかかる。

 

 それでも歯を食いしばりスティングは叫ぶ。

 

 「ぐぅ、おい、お前! いい加減に目を覚ませよ!!」

 

 「な、に」

 

 「本当は気が付いてるんだろうが!! そこはお前の居場所じゃないってよ!!」

 

 スティングの声にまたもステラの頭に痛みが走る。

 

 この声もまたどこかで―――

 

 「ステラ!!」

 

 瞬間、ステラの脳裏に覚えのない顔が複数浮かんだ。

 

 それが何か分からない。

 

 だがそれに伴い激しい頭痛が襲いかかった。

 

 「く、そ。頭が……お前も、黙れェェェェェェ!!!!」

 

 

 『I.S.system starting』

 

 

 黒い装甲が展開され、翼のように広がる。

 

 ステラは頭の痛みを振り捨てる様に叫ぶ。

 

 カオスを吹き飛ばし、ビームキャノンを撃ち出した。

 

 スティングは咄嗟にシールドで凄まじいまでのビームの奔流を受け止める。

 

 「消えろ! 消えろ!!」

 

 ビームを受け止めたカオスにステラは苛立ちをぶつける様にサーベルを左右から連続で斬り込み叩きつけていく。

 

 「チィ!」

 

 スティングは何とか斬撃を捌きながら後退。

 

 背中のミサイルを撃ち出し、ドラグーンユニットを射出する。

 

 声が届かないならば、せめてここで足止めする。

 

 だがあの黒い機体の力はスティングの予想を超えていた。

 

 ステラは四方から放たれる砲撃を回避すると収束ビームガンを持ってミサイル諸共ドラグーンを一斉に薙ぎ払った。

 

 「何!?」

 

 驚きで一瞬動きを止めたカオス。

 

 それを見逃すステラではない。

 

 一気に加速するとカオスをシールドで勢い良く突き放した。

 

 「ぐああああ!!」

 

 吹き飛ばされた衝撃を堪え、スティングは参ったとばかりに笑みを浮かべる。

 

 「……急げよ、アオイ。こりゃ長くはもたないぞ」

 

 アルカンシェルからの猛攻にさらされ全身傷だらけになりつつも、カオスは足止め為にビームライフルを構えた。

 

 

 

 

 

 コロニーに向かうエクセリオンを先頭にシン達も後ろからついていく。

 

 「落ちろ!」

 

 「そこをどけ!」

 

 「邪魔です!」

 

 先行するエクセリオンのアンヘルが正面にいる部隊に穴を穿ち、コールブランド、シンフォニアといった斬艦刀が振るわれる度に敵機が斬り刻まれていく。

 

 さらにアカツキの誘導機動ビーム砲塔が三機が動きやすいように敵を誘導する。

 

 「よし、このままいけば―――ッ!?」

 

 だがシン達の前に再び立ちふさがる敵がいた。

 

 いや正確には敵ではない。

 

 それはシンにとって取り戻すべき存在だ。

 

 目の前に立ちふさがるのはザルヴァートルがシグーディバイドを連れて佇んでいる。

 

 「ここから先には行かせない」

 

 「まさか……セリスか!?」

 

 よりによってこんな時に。

 

 いや、これはチャンスである。

 

 シンは通信機のスイッチを入れて呼びかけた。

 

 「セリス!!」

 

 「ッ!? 誰だ?」

 

 やはり彼女は自分の事をを覚えていない。

 

 話には聞いていたし、予想もしていた。

 

 それでもショックである事は変わらない。

 

 それでも―――

 

 「俺だ! シン・アスカだ!!」

 

 「う、シ、ン?」

 

 「そうだ。帰ろう、セリス。皆の所に!」

 

 セリスは目の前にいる機体から聞こえてくる声に何かを感じ取っていた。

 

 この声を知っている?

 

 そんな疑問と共に声が出る。

 

 「皆?」

 

 「ああ。仲間だ。ルナもメイリンも心配している。だから―――」

 

 ルナとメイリン。

 

 どこか聞き覚えのある気がする名前。

 

 セリスは無意識にリヴォルトデスティニーに向け手を伸ばそうとした瞬間―――

 

 

 

 

 『I.S.system starting』

 

 

 

 

 ザルヴァートルのシステムが作動する。

 

 オーブでの戦いと全く同じ。

 

 視界が広がり、セリスの思考が一つの事だけに染まっていく。

 

 「敵は死ね!」

 

 目の前にいる敵に対する殺意。

 

 それに従い両手にビームサーベルを構え、リヴォルトデスティニーに襲いかかる。

 

 「セリス!?」

 

 「死ねぇ!」

 

 もはやシンの声も届かない。

 

 これもヘレンの仕込みだった。

 

 シンが彼女にとって悪影響をもたらす事は事前に把握している。

 

 だから接触を持った時点でI.S.システムが作動するように細工されていたのである。

 

 殺意の籠ったサーベルの連撃を機体を逸らす事でどうにか回避したシンは再び声を上げた。

 

 「やめてくれ!!」

 

 I.S.システムの影響だろう。

 

 鋭く速い。

 

 「くそ! セリス!!」

 

 「落ちろ!」

 

 「兄さん―――ッ!?」

 

 システム起動と同時にザルヴァートルの傍にいたシグーディバイドも動きだす。

 

 両手に対艦刀を構えて斬りこんでくる。

 

 マユはシールドで受け止め、アオイはウイングスラスターを吹かして回避する。

 

 「時間がないっていうのに!」

 

 目標であるコロニーはお構いなしで進んでいく。

 

 襲いかかってくるシグーディバイドを迎え撃つ為、構えるマユとアオイ。

 

 そこに一条の閃光が割り込んできた。

 

 閃光がシグーディバイドの片翼を破壊するとバランスを崩し、隙を生む。

 

 「そこだ!」

 

 その隙にムウがビームライフルでコックピットを撃ち抜いて撃破した。

 

 ビームが放たれた方から向ってくるのは一隻の戦艦とモビルスーツ。

 

 ミネルバとシークェルエクリプスだった。

 

 シオン達から奇襲を受けたミネルバはエクリプスをデュートリオンビームで補給させた後、コロニーを追ってここまで来たのだ。

 

 ルナマリアはバロールとサーベラスでシグーディバイドを散らし、ビームサーベルでザルヴァートルに斬りかかる。

 

 「ルナ!? 待ってくれ、この機体にはセリスが乗ってるんだ!」

 

 「セリスが!? なるほどね。シン、アンタはコロニーに行きなさい!」

 

 「けど!」

 

 「今優先なのはコロニーを止める事でしょうが! セリスの事は後回し!」

 

 「ぐっ」

 

 確かにその通り。

 

 今はコロニーを優先すべきだ。

 

 「……分かったよ。ここを頼む」

 

 「任せなさい!」

 

 シンはマユと共に分散したシグーディバイドの隙を突きコロニーを目指す。

 

 しかしすべての機体を振り切れた訳ではない。

 

 こちらの進路を阻むようにザフトのモビルスーツが立ちはだかる。

 

 「邪魔だァァァ!!!」

 

 シンのSEEDが弾けると同時にシステムが起動する。

 

 

 『C.S.system activation』

 

 

 リヴォルトデスティニーの装甲が解放され、光が溢れ出す。

 

 今まで以上の速度で動き出すと、残像を伴いライフルを連射し次々敵を撃ち倒す

 

 「今は貴方達に構っていられないんです!」

 

 マユのSEEDも弾ける。

 

 トワイライトフリーダムが光を伴い、動き出す。

 

 目の前の敵機を斬り刻み、二機は凄まじい速度でコロニーに一直線に向かっていく。

 

 そしてミネルバはメインスラスターを全力噴射させ、コロニーにに追いつくと全砲門を開いた。

 

 「アークエンジェル、こちらミネルバ」

 

 「グラディス艦長!」

 

 群がる敵を排除しながら進んでいたアークエンジェルのモニターにタリアの姿が映る。

 

 「状況はすでに確認しています。これからタンホイザーでコロニーを撃ちます。そちらも合わせてください!」

 

 「分かりました!」

 

 アークエンジェルもコロニー外壁部に向け、陽電子砲を構えた。

 

 さらにビームライフルで敵を撃ち落としながら、キラのストライクフリーダムが追いついてくる。

 

 「アークエンジェル、スレイプニルを!」

 

 「了解!」

 

 ストライクフリーダムにスレイプニルが装着されると同時にドラグーンを射出し、すべての砲口をコロニーに向ける。

 

 「ローエングリン」

 

 「タンホイザー」

 

 二隻の戦艦の砲口に光が集まると同時にマリューとタリアが叫んだ。

 

 

 「「撃て――――!!!」」

 

 

 発射された陽電子砲がコロニー外壁に直撃。

 

 外壁を貫通し、爆発を引き起こす。

 

 それに続くようにキラもムウのアカツキとタイミングを合わせて撃ち出した。

 

 「ムウさん!」

 

 「おう!」

 

 スレイプニルとストライクフリーダムの砲撃と展開されていたアカツキの誘導機動ビーム砲塔が火を噴いた。

 

 何条もの閃光が外壁に突き刺さる。

 

 爆発と連続で叩き込まれる砲撃でコロニーは進路を変え、少しずつ逸れていく。

 

 それでも後一歩足りない。

 

 そこにエクセリオン、リヴォルトデスティニー、トワイライトフリーダムが駆けつける。

 

 マユが全武装の砲門をせり出し、シンがノートゥングを、アオイがアンヘルを連結させて構え、同時にトリガーを引いた。

 

 

 「「「いけェェェェ!!!」」」

 

 

 三機から放たれた激しい閃光が外壁部分に直撃する。

 

 激しい爆発と衝撃によってコロニーの進路は逸れていった。

 

 それを確認したバルトフェルドは即座にオペレーターに指示を飛ばす。

 

 「アポカリプス、主砲発射!」

 

 「……了解!」

 

 宇宙に佇む巨大戦艦がスラスターを逆噴射しながら、中央にある砲口に眩い光が収束、凄まじいまでの光が放たれる。

 

 

 

 光は直進するとそのままコロニーを呑み込み、そして―――消滅させた。

 

 

 

 

 宇宙を照らす閃光はアストとシオンの位置からでも見えた。

 

 互いの刃を受け止め、弾けあうとシオンは白けたように吐き捨てた。

 

 「時間切れ、ここまでか」

 

 どのような結果であれ、作戦は終了したのだろう。

 

 無視して戦闘を継続しても構わないが、どうせならあの女と共に始末してしまうのがシオンの理想だ。

 

 「アスト、決着は今度だ」

 

 「何だと!」

 

 「安心しろ。おそらく次が最後になる。マユ・アスカ諸共必ず次で殺す! 俺以外の奴に殺されるなよ」

 

 ビーム砲を放ちながらメフィストフェレスは後退していった。

 

 アストは苛立ちを押し殺しながら、息を吐きだした。

 

 迂闊な深追いは危険だろう。

 

 今は月の方が気になる。

 

 フリージアを回収するとアストもミネルバが離脱した方向に移動を開始した。

 

 

 

 

 コロニーが消え去る光景をフォルトゥナのブリッジで見ていたデュランダルは全く表情を変えていなかった。

 

 ただいつも通りの笑み、そして鋭い視線で状況を見つめている。

 

 「ヘレン、どうかな?」

 

 「はい。完了しました」

 

 その返答に満足そうに頷くとデュランダルは撤退の指示を出した。

 

 

 

 

 ここに月での激闘は終結した。




機体紹介3更新しました。

すいません。遅くなってしまいました。
もっと早く投稿するつもりだったんですけど。
久しぶりの連休で、積んでたゲームと録りためてたアニメを消化してたらいつの間にか終わってました(汗 
しかも今回も出来が悪いし。

いつも通り後日加筆修正します。

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