月での激戦が始まる少し前。
港に停泊していたフォルトゥナの待機室でジェイルは会議の行方をラナやセリスと共に見守っていた。
デュルク、レイは護衛役として、ステラはリース達と特殊な任務があるとの事でここにはいない。
正直なところありがたい。
以前はそう思わなかったが、最近フォルトゥナは非常に居心地が悪いと感じる様になっていた。
ステラの件もあるのだろう。
だがそれだけではない。
上手く言えないのだが、ミネルバに比べ空気も重く、常に監視されているかの様に感じる時があるのだ。
だから最近ジェイルはラナの傍で過ごす事が多くなっていた。
フォルトゥナの居心地の悪さの所為か、彼女と話したりすることで余計に安心を感じるのだ。
モニターに映っている会談は平行線を辿ったまま、変わらない。
デュランダルが『デスティニープラン』を導入すると主張しても、他の勢力は頷く事はない。
「……中々纏まらないですね」
「……そうだな」
ラナの呟きに画面を見ながら同意する。
だがそれも当たり前といえば当たり前だ。
『デスティニープラン』の導入を各国家が簡単に受け入れる筈はない。
はっきり言ってしまえば、ジェイルでさえ戸惑っているというのが本音なのだから。
「ジェイル?」
「あ、いや……」
それはここで言うべき事ではない。
ラナまで余計な面倒事に巻き込んでしまうかもしれない。
ジェイルの視線の先にはこちらを見ているセリスの姿があった。
昔とは明らかに違う、冷たい視線。
何の感情も籠っていない無機質な表情。
シンと二人、楽しそうに笑っていた頃とはまるで別人である。
これもまたジェイルが居心地の悪さを感じている理由の一つだった。
前々からセリスの様子が変だとは思っていたが、最近は輪をかけておかしい。
話しかけても冷たくあしらわれ、たまに監視しているかのようにジッとこっちを見ている時がある。
「……何か?」
「別になんでもない」
ジェイルはあえて何も言わず、モニターに集中する。
そこにはデュランダルが不敵な笑みを受かべているのが見えた。
≪どう解釈されても結構です。ただ私はこうも言った筈ですよ。これは人類の存亡を掛けた最後の防衛策であると。それに敵対するという事は――――人類にとっての敵だという事です≫
その瞬間、突然モニターからの映像が途絶えた。
「なっ、なんで!?」
何かのトラブルだろうか。
確認する為ブリッジに連絡を入れようとすると、丁度ヘレンから通信が入る。
《緊急事態よ。全員、モビルスーツの出撃準備を》
「何があったんですか?」
《……詳しい事は不明だけど、会場で何かあったようね。もしかするとテタルトスや他の陣営が仕掛けてきたのかもしれないわ。ともかく準備を急いで》
「「「了解」」」
ジェイルはパイロットスーツに着替え、デスティニーに乗り込むと横に立ったシグーディバイド強化型を見る。
あれに乗るのはラナだ。
通常のシグーディバイドとは違い専用の装備を装着している。
できれば彼女に危険な事はして欲しくはない。
だが命令である以上は否とは言えなかった。
ならば―――
「ラナは俺が守らないと」
そう覚悟を決めた時、ヘレンの顔がモニターに映る。
《議長が戻られたわ。フォルトゥナも発進します》
「会談は?」
《それどころではないわ。会場が何者かに襲撃されたそうよ》
「一体誰が……」
《テタルトスかしらね。ともかく他の勢力が関わっているのは間違いないでしょう。とにかく出撃して。貴方達はアポカリプスの制圧を支援する事。あれの主砲を受けたらフォルトゥナでもひとたまりもない》
「「了解!」」
「……了解」
ヘレンの話は信じ難いというのがジェイルの感想だ。
テタルトスや同盟、連合が今仕掛けてなんの得がある。
むしろ世界から非難の目を向けられ、より立場を悪くしてしまうだけだ。
何よりも動機がない。
今回のデスティニープランを押し通したいのはプラント側であり、他の勢力はすべて反対を表明していた。
つまり不利な状況だったのはあくまでプラントでありこんな強硬策に出る理由はないのだ。
フォルトゥナがトリスタンの砲撃で停泊していた港の隔壁を破壊、離脱を図る。
すでに外では戦闘が始まっていた。
戦艦から放たれた砲撃とモビルスーツ同士の攻撃が暗闇を照らしている。
デスティニーがカタパルトに運ばれ、ハッチが開いた。
色々思う所はあるが、考え込んでいても仕方がない。
すでに戦いは始まっているのだから。
「……ジェイル・オールディス、デスティニー、出るぞ」
宇宙に飛び出したジェイルはいつも以上に重く感じるフットペダルを踏み込んで、セリス、ラナと共にアポカリプスに向う。
状況はザフトが有利に進めており、敵巨大戦艦の傍まで迫っている。
「順調なようね。私達も行くわ」
「はい」
「……了解」
セリスのザルヴァートルを中心にシグーディバイドとデスティニーが続く。
それにしても大きい。
アポカリプスはテタルトスの武の象徴であった。
ザフトや連合がテタルトスを何度攻めても、落としきれなかった理由の一つがあの戦艦の強力な火力が挙げられる。
特に主砲の威力は別格。
巻き込まれれば艦隊だろうが薙ぎ払われてしまう。
だからあの戦艦の主砲を押えようとする事は当然の選択だった。
しかし―――
「あっさり行き過ぎている……」
巨体さ故にアポカリプスは小回りが利かない。
そんな事はテタルトスも分かっている。
だから接近された際の武装として各部にビーム砲が設置されているのだ。
しかし浮足立っている為か上手く機能していない。
ザフトがテタルトスの部隊を誘導し、ビーム砲を使えない様にしている。
まるで初めからこうする予定だったかのように。
「余計な事は考えるな。戦闘に集中しろ」
ジェイルは砲撃を回避しながら、ビームライフルでフローレスダガーを撃墜する。
同時に肩のフラッシュエッジを抜くとジンⅡに向け投げつけた。
投擲されたブーメランがジンⅡのウイングコンバットを破壊すると大きくバランスを崩す。
その隙に肉薄しアロンダイトで敵機を両断した。
それでもテタルトス軍は次から次に現れ攻撃を加えてくる。
ジェイルは舌打ちしながら回避運動を取り、横目でセリスとラナの様子を確認した。
それぞれ連携を取りつつ、敵を撃退している。
二人は問題ないようだ。
ライフルを連射しながら、順調に敵機を撃破しアポカリプスに近づいていく。
このまま順調にいけば―――
しかし思惑通り進むほど甘くは無かった。
ラナやセリスの動きをフォローしながら、アロンダイトを振るっていくジェイルに強力なビームが撃ち込まれる。
「何!?」
腕を突き出しシールドを張ってビームを弾いた。
警戒するように構えるデスティニーの前に現れたのは―――紅き機体。
「これ以上好きにはさせない!」
アレックスのノヴァエクィテスガンダムだった。
傍にはセレネのエリシュオンガンダムも控えている。
部下からザフト奇襲の報告を聞いたアレックスはアスト達を港まで護送するように命じ、セレネと共に戦場へ飛び出した。
状況を聞きある程度押されている事は予想していた。
だがいかに奇襲を受けたとはいえ、ここまで損害が出ているとは思っていなかった。
アレックスは目の前にいる機体を睨みつける。
この機体はヘブンズベースやオーブ戦で多大な戦果を上げたザフトの新型だ。
「セレネ、相手はザフトのエースだ。油断するな」
「了解」
アレックスはデスティニーに標的を定めるとビームサーベルを抜き、加速をつけて斬りかかった。
「テタルトスの新型かよ!」
ジェイルもアロンダイトを構え、光翼を広げて応戦する。
二機が高速ですれ違う。
離脱と激突を繰り返し、刃が交錯する度に火花が散り、宇宙を照らした。
「こいつ強い!?」
アロンダイトの一撃を容易く捌き、斬り返される攻撃がデスティニーに襲いかかる。
ノヴァエクティスのパイロットは通常のパイロットとは比較にならない技量を持っている。
たとえエース級だとしてもこいつと渡りあうのは難しいだろう。
だからこそここで抑えなければ―――
「セリスやラナの所にはいかせない!」
剣を両手で持ち直し加速をつけて振りかぶる。
しかしアロンダイトの斬撃を機体を捻り回避した敵機が、逆袈裟からサーベルを振り上げてくる。
「チィ!」
サーベルの切っ先がデスティニーを掠めるように通り過ぎ、お返しとばかりにアロンダイトを横薙ぎに振り抜いた。
アレックスはアロンダイトの斬撃をビームシールドで受け止めながら、相手の技量に警戒心を強くする。
「このォォ!!」
「なるほど、流石ザフトのエースか。だが!!」
シールドの角度を変えて、アロンダイトを上方に弾く。
そして生まれた一瞬の隙。
それを見逃すほどアレックスはお人好しではない。
回し蹴りの要領で右足のビームサーベルを蹴り上げた。
「チィ!」
迫る光刃を前にジェイルは咄嗟に左腕をアロンダイトから離し、サーベルに向けて横に払う。
左腕のシールドがサーベルの軌道を変え、同時にノヴァエクィテスに向けて機体ごと体当たりして距離を取った。
「くそ!」
「ぐっ、思った以上にやるな」
激突するデスティニーとノヴァエクィテス。
その傍ではセレネとセリス、ラナが激闘を繰り広げていた。
側面に回り込んだシグーディバイドがエリュシオンに両手に構えたビームガンを誘導するように連射。
その隙にセリスのザルヴァートルがビームランチャーで狙撃する。
「くっ」
ビームをどうにか避けたセレネは両手に構えたイシュタルで狙いをつけて反撃する。
しかし襲いかかる閃光を前に二機は左右に弾け飛ぶ。
「速い!」
「挟み込んで!」
「了解」
ラナが対艦刀の構え、セリスがサーベル二刀を展開すると左右から襲いかかる。
セレネは即座に上昇。
二機の斬撃を回避するがそこにザルヴァートルのビーム砲が放たれる。
放たれたビームを前にエリュシオンはシールドを構え防御に回った。
「流石に二機を相手にするのは厳しいですね。ならば―――」
しかも二機ともそこらのエース級とは訳が違う。
機体性能も高く、技量も高い。
「落ちろ!!」
迫る対艦刀を前に、セレネのSEEDが弾ける。
イシュタルを一旦腰にマウント。
シールドで対艦刀を流し、蹴りを入れて後ろから迫っていたザルヴァートルにぶつけた。
「動きが変わった?」
「こいつ!」
思った以上にこいつはやるらしい。
それならこちらも全力で戦うだけである。
セリスのSEEDが弾け、サーベルを構えて突進する。
「はああああ!!」
「これ以上はやらせない!」
セレネはレール砲とビームキャノンで二機を牽制しながら、サーベルを構えて応戦した。
◇
ザフトとテタルトスの戦闘開始。
これは誰にとっても―――少なくとも同盟にとって予想外の出来事に違いなかった。
アスト達の帰還を待ち、リヴォルトデスティニーに伴われたアークエンジェルは戦場に飛び出した。
戦闘は激化しており、所々で大きな閃光が造られている。
それを見たシンは思わず操縦桿を殴りつけた。
「なんでこんな!!」
会談の様子はシンも見ていた。
途中で突然モニターが映らなくなるとすぐこんな騒ぎになってしまった。
「話し合いじゃなかったのかよ!」
憤るシンの後ろからトワイライトフリーダムを含む味方機が次々と出撃してくる。
同時にアカツキから通信が入った。
「全機、聞け。アスハ代表は無事だ。怪我は無かったが一応医療施設で検査を受けてる」
「良かった、カガリさん」
「俺達はこのままテタルトスを援護する。それからもう一つ、協力してくれてるザフトの部隊から救援の要請がきた。現在襲撃されているらしい」
「襲撃!?」
そこにはミネルバもいる筈だ。
どの程度の規模の部隊から攻撃を受けているのかは分からないが、数によっては厳しい筈。
助けに行きたいが、この状況では―――
「俺が行く」
「アレン!?」
「アスト君!? また君はそんな無茶を! なら私も一緒に―――」
「俺の方は大丈夫です。それにあまり戦力を分散するのは得策ではありませんし、まだ何か仕掛けてくるかもしれない」
確かにここまで用意周到に準備していたからには、まだ何か仕掛けてくる可能性もある。
「それより、シン」
「えっ、はい」
「これが最後の機会だ。わかってるな?」
『デスティニープラン』が発表された際に言った事だ。
直接デュランダルに話を聞くと。
「分かってます」
「キラ、後を頼む。マユ、シンを手伝ってやってほしい」
「分かった」
「はい」
アストはイノセントに装備されている高機動ブースターを噴射させ、ミネルバの援護するため戦域から離脱した。
それを見届けたシンは改めて戦場を見据える。
「マユ、援護頼む」
「了解しました、兄さん」
リヴォルトデスティニーとトワイライトフリーダムを先頭に各機が戦いに飛び込んで行った。
◇
同時刻。
港に辿りついたアオイ達もまた動きだそうとしていた。
港のガーティ・ルーを守る為に残っているエレンシアを除き、出撃したエクセリオン、ストライクノワール、カオスの三機が攻撃を仕掛けてくる敵機を排除する。
「全員、聞こえるか? 我々もテタルトスを出来る限り援護する。ただし、ガーティ・ルーは港でギリギリまで待機する」
現在この戦場の中で最も戦力的に不利なのは連合だ。
ザフトやテタルトスのように数はない。
同盟のように母艦を確実に守りきれるほど、エース級のパイロットがそろっている訳でもない。
こんな混戦状況で母艦が出て行っても的になりかねないのだ。
「各自状況に応じて臨機応変に判断しろ」
「「「了解!!」」」
スウェンの指示でアオイ達も連携を取る。
「少尉、スティング、俺達は追いこまれた部隊の援護に回る。行くぞ」
「了解!」
ストライクノワールを中心にテタルトスの機体に攻撃を仕掛けているザフトの部隊に向かっていった。
◇
それが激突する度に火花が散る。
二機のモビルスーツが常人では捉えられない凄まじい速度で戦場を駆け抜けていた。
ディザスターとサタナエルである。
両機が放った剣撃が暗闇を照らす。
ディザスターの光刃がサタナエルを狙って袈裟懸けに振るわれ、それをクロードは見切っていたかのように機体を逸らせて回避する。
「……相変わらず、主人に似て逃げるのだけは上手いな」
「フッ、君こそ相変わらず苛烈だ。眩しいほどにね」
サタナエルが周囲の残骸に紛れ、下に回り込むとライフルでディザスターを狙撃する。
ユリウスは放たれた何条もの閃光を容易く避けると、再び機体を敵機に向け加速させた。
「接近戦を好むのも変わらずか」
クロードはディザスターから距離を取って、射撃に徹し接近を許さない。
単純な技量でいえば、紛れも無くユリウスの方が上だろう。
しかしクロードは自身の経験と冷静な状況分析。
なによりも敵の事を知っているが故に互角の戦いに持ち込んでいた。
「忌々しいな、人形。いい加減に本気を出したらどうだ」
「私が本気でないと?」
「まさかその程度で本気だとでも言うつもりか!」
腹部から放たれたアドラメレクの砲撃により、動きを制限されたサタナエルに射出した二基のドラグーンで攻撃する。
当然、クロードにこんな単純な砲撃もドラグーンも通用しない。
だがそんな事は百も承知である。
少しでもクロードの動きを制限できれば十分だった。
当たり前のごとく回避したサタナエルに向い、対艦刀『クラレントⅡ』を振り抜いた。
「チッ」
体勢を崩されたサタナエルに対艦刀の切っ先が装甲を削り、同時に振るったビームカッターがサタナエルをシールドごと吹き飛ばす。
「流石にやる!」
今の激しい攻防で、サタナエルに与えた損傷は僅かな傷のみ。
それだけでもクロードの技量は驚異的と言えるだろう。
しかしユリウスにとっては問題はない。
「……さっさと終わらせ―――ッ!?」
畳みかけようとしたユリウスにビームが撃ちかけられる。
体勢を立て直したサタナキアとベルゼビュートである。
「よくもォォ!!」
「調子に乗るな!!」
二人もやられっ放しで終わるつもりはない。
「この屈辱は晴らす!」
「落としてやる!」
ユリウスは舌打ちしながら砲撃を避け、ビームライフルで反撃する。
「チッ、雑魚が邪魔を」
「さて、いかに君であれどそう簡単に突破はできまい」
「舐めるな」
三機を相手にユリウスは一歩も引かず、射出したドラグーンを巧みに使い互角以上の戦いを繰り広げていく。
そんなユリウスに再びあの感覚が駆け巡る。これは―――
「……キラか」
ユリウスは複雑な感情を押し殺し、斬りかかってきたサタナキアに蹴りを入れた。
そしてドラグーンでベルゼビュートを誘導しながら感じ取った方向に視線を向ける。
そこには蒼い翼を持った機体がこちらに向かって来ているのが見えた。
キラのストライクフリーダムである。
「やっぱりユリウス・ヴァリスか! それにあっちの機体に乗っているのは……」
キラは一瞬だけ顔を顰めるが、すぐに戒める。
両手に構えたビームライフルでベルゼビュートとサタナキアを引き離しながら、サタナエルを牽制するとディザスターの横についた。
「……何の真似だ?」
彼らの関係を考えれば、協力し合うなど普通はあり得ない。
「……今はいがみ合っている場合じゃないでしょう?」
確かにようやく味方が奇襲の動揺から立て直して押し返してきたが、不利な状況である事に変わりは無い。
ならば利用できるものは利用すべき。
今は個人的な感情を優先させる時ではない。
「いいだろう。ただし邪魔と判断したら、即座に消してやる」
「それで結構です」
その様子を見ていたクロードは予想していなかった状況に笑みを浮かべる。
「君までここに来ていたとはね。キラ君」
「……クロード」
「丁度良いかもしれないな」
「何?」
「君も見学していくと良い。変革の痛み―――いや、違うか」
そこには何かを嘲るような含みがあった。
「人のエゴを、かな」
サタナエルは再びサーベルを抜き、ディザスターとストライクフリーダムに向って攻撃を開始する。
そしてリースとヴィートもまた乱入者を見て睨みつける。
「フリーダムだと!?」
「邪魔ァァァァ!!!」
ベルゼビュートとサタナキアも怒りを吐きだすように背後から襲いかかった。
◇
目の前に立ちふさがるザフト機を薙ぎ払いながら、二機のモビルスーツが戦場を駆け抜ける。
トワイライトフリーダムとリヴォルトデスティニーである。
ビームライフルを放ち、斬艦刀を振るい、防衛している部隊を次々と撃破していく。
「かなりの数ですね」
「ああ。この先だ」
シン達の向っている途中にはかなりの数のモビルスーツが配置されているようだ。
間違いない。
この部隊を突破した先にデュランダルがいる。
リヴォルトデスティニーはビームライフルでザクやグフを撃ち落とし、トワイライトフリーダムが斬艦刀でイフリートを一刀の下に斬り捨てた。
だがザフトも二機の猛攻を前に何もしない訳ではない。
前面に展開していた機体が割れるように左右に別れ、中央に配置されていたザクがオルトロスを構えて一斉に撃ち出した。
強力な砲撃が二機に襲いかかる。
しかし―――
「そんなもの通じません! アイギス!!」
トワイライトフリーダムの翼から射出されたアイギスドラグーンによって張られた防御フィールドによってすべての砲撃が弾かれた。
その隙にシンはコールブランドで一気に斬り込む。
「そこを通せェェェ!!!」
斬艦刀の一振りが砲身諸共ザクを斬り裂くと背中のノートゥングを放つ。
強力な砲撃にザクは成す術無く、吹き飛ばされていく。
順調に突破していくシン達の前にようやく見えた。
ミネルバに酷似した形状を持つ戦艦―――フォルトゥナの姿が。
そこにいる筈だ。
シンは光翼を発生させ、スラスターを吹かすとフォルトゥナに向けて突撃する。
「このまま行ける!」
そんなシンの前に上方から黒い翼を広げ、大鎌を持った機体が襲いかかった。
「何!?」
振るわれた大鎌の斬撃。
シンは斬艦刀を鎌の持ち手に叩きつけ、受け止めると激しく鍔迫り合う。
攻撃を仕掛けてきたのはデュルクのアスタロスである。
「ここから先には行かせん」
「アンタは……デュルク・レアード」
「久ぶりだな、シン・アスカ」
こいつがここで出てくるとは。
「兄さ―――ッ!?」
援護に駆けつけようとしたマユに四方からの砲撃が襲いかかる。
上下左右に動きまわる砲塔から放たれた閃光をシールドで防ぎながら、敵の姿を確認した。
「あれは……」
そこにいたのは突きだすような砲塔をもつ特徴的なバックパックを背負った機体、レジェンド。
「フリーダム」
レイは邪魔者を見る怒りを込めた視線で蒼い翼を持つモビルスーツを睨みつけた。
互いに武器を構え、睨み合う。
その時、シンの下に通信が入ってきた。
突然の事に驚愕する。
何故なら通信相手は、フォルトゥナ―――ギルバート・デュランダルだったからだ。
「……議長」
《久ぶりと言ったところかな、シン。君には色々と聞きたい事があるのだがね》
「俺も議長にお聞きしたい事があります」
本当に聞きたい事は山ほどある。
セリスやミネルバの事など。
でも今は―――
「『デスティニープラン』、本気なんですか?」
デュランダルはいつも通りの笑みを崩す事無く躊躇わずに頷いた。
《放送で言った通りだよ。私は世界を変える為に『デスティニープラン』を施行する》
「なら何でこんな事をするんですか!? 今まで皆で話し合っていたじゃないですか!! 今回の会談は―――」
《……シン、君も思った事がある筈だ。「何故こんな事に?」「どうしてこうなる?」、そんな憤りを感じた事が。今の世界にはそんな理不尽や戦いが溢れている》
「ッ!?」
確かにそうだ。
シンも過去でも、そして今回の戦争で何度も見てきた。
《私はそんな世界を変えたいと思っているだけさ。君も戦いを―――戦争を無くしたいと思った筈だ。その願いを叶えたければザフトに戻りたまえ》
「その為の……『デスティニープラン』ですか?」
《そうだよ。生きる人々が自分の役割を理解し、運命を知る。―――そこに戦いはない。皆がただ自分の役割を全うし、争う事も無く、穏やかに生きられる世界。私はそんな世界を創ろうとしている》
そんな都合のいい世界なんて―――
「……ならなんでこんな戦いが起きているんですか? 貴方は平和を望んでいるんでしょう?」
《それは仕方ないよ。君も聞いていただろう、これは人類の存亡を掛けた最後の防衛策であると。それを邪魔するという事は世界の敵という事だよ》
「でも!」
《シン、考える必要はない。君は戦士だ。それこそが君の役割だ。何も考える事などないのだよ。さあ、平和な世界を創る為に戻ってきたまえ》
その言葉にシンは呆然と―――そして憤りを込めて拳を握り締める。
今デュランダルは役割と言った。
戦士であると。
結局それが彼の本音なのだ。
確かにシンは戦う道を選んだ。
それは紛れも無く確かな事だ。
でもマユが言ったようにそれはあくまでも自分で決めた事。
決して役割だからではない。
つまり彼はシンが何を考え、何を感じようとも関係ない。
ただ役割をこなす存在であればそれで良いと。
そしてそんな考えを世界すべてに反映させるつもりなのだ。
これでシンの意思は固まった。
「……断ります。俺は自分の意志でここまで来ました。植えつけられた悲劇でも、あんな事はもう嫌だと。誰も失いたくないと。そう思って銃を手に取った」
すべてが上手くいった訳じゃない。
自分の所為で―――傷つけてしまった人も間違いなくいる。
迷ったし、正しい事なのかなんて分からない。
それでも―――
「自分で決めたんです。ここにいる事もだ。俺はただの―――何も考えず従うだけの駒じゃない! そうだ、俺はシン・アスカだ!! 貴方の言いなりにはならない!!」
その言葉を聞いて初めてデュランダルの顔から笑みが消えた。
今までとは違う冷たい視線でシンを見つめる。
《……そうか。なるほど、結果的にとはいえ、ヘレン、君の考えは正しかったようだ》
《そのようですね》
「何を!」
《シン、もう君は不要だ。ここで邪魔な妹共々、消えてもらおうか》
シンが言い返そうとしたその時―――正面から何かが近づいてくるのが見える。
大きな筒状の物体。
シンも知っている。あれは―――
「レクイエムの」
月に向かって移動してきているのはレクイエム使用の際、中継点に配置されていた廃棄コロニー。それが徐々に近づいてきていた。
《テタルトスと一緒にね》
まさか―――
シンはモニターに映ったデュランダルがニヤリと笑ったのを見逃さなかった。
「アンタは! アンタって人はァァァァァ!!!」
月での戦いは佳境を迎えていた。
機体紹介3更新しました。
今回もまた中途半端なところで終わってしまいました。
しかも時間が無かったので、またおかしな部分もあるかも。
後日修正します。