機動戦士ガンダムSEED effect   作:kia

57 / 74
第51話  月の死闘

 

 

 

 コペルニクスで世界の行く末を決めるとも言える会談が行われている中、外ではザフトとテタルトスの部隊が睨みあいを続けていた。

 

 別に彼らとて戦闘を望んでいる訳ではない。

 

 しかし過去からの因縁は簡単には払拭できない。

 

 そんな睨みあう両軍を尻目に、テタルトス軍巨大戦艦『アポカリプス』に近づいている者達がいた。

 

 彼らはミラージュコロイドを展開し、姿を隠しながら速度を出さずに徐々に近づいて行く。

 

 「……目標ポイントに到着」

 

 「合図と同時に作戦開始。目標、敵巨大戦艦『アポカリプス』」

 

 「「了解」」

 

 ミラージュ・コロイドを解除し、外装をパージすると数機のモビルスーツが現れた。

 

 

 ZGMFー121D  『シグーディバイド タイプⅢ強化型』

 

 

 中立同盟の新型機に脅威を感じたザフトがシグーディバイドタイプⅢを強化した機体。

 

 片手にしか装備されていなかったソリドゥス・フルゴールビームシールド発生装置を両腕に装備。

 

 さらに両肩に装備されたビームキャノンや強化された複列位相砲『ヒュドラⅡ』など火力も強化されている。

 

 最大の違いは背中のウイングスラスター。

 

 量産化に伴い性能が落されていたが、高出力化した事で通常のシグーディバイド以上の速度を出す事が可能で、他の量産機とは比較にならない性能を持っている。

 

 バラけるように飛び出す数機のシグーディバイド強化型の後ろにもう一機、新型機と思われる機体が佇んでいた。

 

 

 ZGMF-X92S  『サタナエル』

 

 

 ザフトが開発した対SEEDを想定したモビルスーツ。

 

 他の機体を違いモノアイタイプの頭部とパイロットの意向でI.S.システムは搭載しておらず、他の対SEED機とは違う異色の機体となっている。

 

 そしてアスタロスと同様に特殊OSが搭載され、パイロットの技量を最大限発揮できるよう仕上げられていた。

 

 先行するシグーディバイドの姿を眺めながら、パイロットであるクロードはニヤリと笑みを浮かべる。

 

 「さて、テタルトスはどう出るかな」

 

 敵の出方を予測しながら、背中のスラスターユニットを噴射させると異常とも言える加速で戦場となる宇宙を駆けていった。

 

 

 

 

 はっきり言って会いたくない人間というのはいるものである。

 

 理由は様々だ。

 

 相性だったり、過去の因縁だったり。

 

 アストに、そしてアレックスにとっても目の前にいる者は出来る限り会いたくない人物である。

 

 証拠に苦虫を噛む潰すような顔でお互いを睨んでいる。

 

 それを見たマユやレティシア、セレネは呆れたような表情で二人を見ていた。

 

 「もう一度聞く。何でここにいる?」

 

 「別に。ただの観光だ」

 

 真面目に答えるつもりのないアストにアレックスは視線をさらに鋭くする。

 

 銃を持って観光も何もないだろう。

 

 だが流石に騒ぎは不味いと思ったレティシアが割って入った。

 

 「アスト君」

 

 「うっ」

 

 「大人げないですよ、もう。……ごめんなさい、え~と」

 

 「……失礼しました。テタルトス月面連邦軍アレックス・ディノ少佐です」

 

 「そう。私は中立同盟スカンジナビア軍所属レティシア・ルティエンス少佐です。では事情は私からお話しますね」

 

 「……お願いします」

 

 レティシアがアレックスにこれまでの経緯を話していく。

 

 アストがアレックス達とは別の方に視線を向けるとキラと再び変装したラクスが歩いてくるのが見える。

 

 どうやらティアを捕まえる事は出来なかったらしい。

 

 そこでマユがアストの袖を少し引っ張った。

 

 「アストさん、あの二人何かあるんですか? その雰囲気が……」

 

 事情説明をしている二人の様子が少しおかしいような気がする。

 

 何と言うか酷く気まずそうなのだ。

 

 アストはそれだけで大体の事情を察した。

 

 「さあ。色々あるんだろう」

 

 前大戦での奴の発言を考えれば大体予想できるが、口に出すべきではない。

 

 言えばまた険悪な雰囲気になりそうだ。

 

 アレックスの様子がおかしいと思ったのはマユ達だけではない。

 

 傍にいたセレネもだ。

 

 確か前に一回だけアレックスが洩らした事があった。

 

 前に好きだった人の事を。

 

 その人の名前が確かレティシア。

 

 「この人が」

 

 セレネはレティシアを観察する。

 

 腰くらいまである長く綺麗な金髪に整った顔立ち。

 

 さらに背も高く、スタイルもいい。

 

 見る限り完璧だった。

 

 昔の事とはいえやはりセレネとしては面白くない。

 

 「むぅ」

 

 傍にいるセレネの様子に気がついたアレックスは一瞬、顔を引きつらせながら誤魔化すように「ごほん」と一回せき込む。

 

 「事情は分かりました。それで……」

 

 アレックスが視線を向けた先には手を頭に乗せたアオイやルシア、スティングがいる。

 

 「大佐、大丈夫でしたか?」

 

 「ええ。ありがとう、助かりました、少尉」

 

 戦う様子の無いアオイとルシアとは違いスティングは面白くなさそうに毒づく。

 

 「たく、こんな連中どうってこと無いのに」

 

 「スティング、テタルトスに手を出すなって言われたでしょう」

 

 「分かってるって」

 

 歩いてきた三人に見ると、アストは特に中央の女性に目を引かれた。

 

 感覚で分かる。

 

 アーモリーワンを襲撃した部隊にいたモビルアーマーのパイロットに間違いない。

 

 「大佐、どうしたんですか?」

 

 「いえ、少しね」

 

 ルシアの方もこちらに気付いているのか視線を向けきた為に二人は見つめ合う形になった。

 

 彼女はまさか―――

 

 アオイの訝しむような視線を無視してアストが声を掛けようとした瞬間、脇腹と右耳に痛みが走った。

 

 「イタタタタタ!!」

 

 「アスト君、何を見ているのですか?」

 

 「アストさん、何を見惚れているんですか?」

 

 レティシアとマユが耳と脇腹を思いきり抓ってくる。

 

 かなり痛い。

 

 「ち、違うから。俺はただ―――」

 

 その名前にアオイやルシアも相手の正体を悟った。

 

 「アストって、まさかアスト・サガミ!?」

 

 「彼がイレイズの―――」

 

 地球軍でも彼とキラ・ヤマトの名前は非常に有名である。

 

 『ヤキン・ドゥーエ戦役』において圧倒的な戦果を叩きだした英雄。

 

 彼とここで出会うとは。

 

 そんなアスト達のやり取りを無視し、アレックスがルシア達の為に立つ。

 

 「私はテタルトス月面連邦軍アレックス・ディノ少佐です。あなた達の身元を明らかにしてください」

 

 「……私は地球連合軍ルシア・フラガ大佐です」

 

 それに反応したのはアスト達であった。

 

 「えっ?」

 

 「……フラガという事はやはり」

 

 アストは自分の予測が当たっていたと確信する。

 

 再び声を掛けようとした、瞬間アレックスの持っていた端末が大きく音を鳴らした。

 

 「どうした?」

 

 耳に当てた端末から聞こえてきた報告を聞いた途端、驚愕の表情に変わった。

 

 それはある意味で最悪の報告だったからだ。

 

 

 

 

 

 ≪会談の会場で爆発が起きたと報告が! それだけではなく、アポカリプスに敵襲! ザフト軍と思われます!!≫

 

 

 

 

 

 突然起こった衝撃と爆発。

 

 同時に護衛役として付き添っていた者達が各代表者を庇うように床に伏せさせる。

 

 そして会議室に踏む込む足音と共に銃弾が撃ち込まれた。

 

 「司令、ご無事ですか?」

 

 銃弾を机の下に隠れやり過ごし、ユリウスは懐から銃を取りだすとエドガーに声を掛ける。

 

 「ぐっ、ああ、問題ない」

 

 見れば腕や額から血が流れている。

 

 大丈夫と言ってはいるが出血が多い。

 

 今は大丈夫かもしれないが、万が一という事もある。

 

 早めに医療施設に向かわせるべきだ。

 

 煙で視界が塞がれる中、周囲に神経を集中させる。

 

 聞こえてくる声からして、どうやら他の代表者達も一応は無事のようだ。

 

 ユリウスは近づいてくる侵入してきた者達に銃を向けた。

 

 「これ以上好きにさせるつもりはない」

 

 足音や自身の感覚に従いユリウスが引き金を引く。

 

 銃声が鳴り響く度に呻き声と共に侵入者達が倒れていく。

 

 「ここまで直接的な行動にでるとはな」

 

 何かしら仕掛けてくるとは予想していた。

 

 それだけデュランダルは本気だという事だろう。

 

 煙を潜り抜け近づいてきた侵入者に足を掛け、床に倒すと頭に銃を突きつけ即座に射殺する。

 

 情報は欲しいが、今は時間がない。

 

 排除を優先すべきだと判断し、次々に侵入者を駆逐していく。

 

 その時、別方向から銃声が鳴り響くと侵入者が倒される。

 

 どうやら迎撃に出たのはユリウスだけではないようだ。

 

 思わぬ反撃に怯んだのか足音が遠のいて行く。

 

 「退いたか」

 

 煙が晴れ、周囲を確認する。

 

 デュランダルの姿は見えず、侵入者と思われる死体だけが転がっている。

 

 さらに視線を横に向けると、ラルスやムウが銃を構えているのが見えた。

 

 「……そちらの代表者達は無事か?」

 

 「……怪我はしているが、命に別条はない」

 

 床に座っているグラントは見る限りにおいては軽傷らしい。

 

 「こっちは護衛役の方が重症だな」

 

 ムウの視線の先にはカガリが自分の服を破り、彼女を庇って負ったと思われるショウの脇腹の傷を押えている。

 

 こちらはかなりの重症のようだ。

 

 「ミヤマ、しっかりしろ」

 

 「……大丈夫です」

 

 ユリウスがため息を付きながらも、医療機関の手配をしようとした時、再び足音が聞こえてきた。

 

 皆が銃を構えるが、会議場に入ってきたのはテタルトスの兵士達だった。

 

 「司令、大佐、ご無事ですか!?」

 

 「私は問題ない。だが怪我人がいる。急いで彼らを施設に運べ」

 

 「ハッ!!」

 

 兵士達が負傷した者達を運び出すために担架を準備する。

 

 慌ただしく動く中、一人の兵士から報告を聞く。

 

 「現在の状況は?」

 

 「はい。現在ザフト軍と思われるモビルスーツによってアポカリプスが奇襲を受けています」

 

 「アポカリプスに奇襲だと?」

 

 アポカリプスが狙い?

 

 いや、まだ何かをやるつもりだろう。

 

 各勢力の目を引きつけておく為に今回の会談に応じたのだから。

 

 「フォルトゥナの方は?」

 

 「まだ港に―――」

 

 「大佐、フォルトゥナが隔壁を破壊して、無理やり出港しました!!」

 

 「チッ」

 

 すでにデュランダルは此処から脱出した。

 

 ならば―――

 

 「私が出る。ディザスターを用意しろ。それからアレックスを呼び戻せ。後はバルトフェルドに指示を仰げ」

 

 「了解しました」

 

 「お前達は各母艦に戻れ。負傷者はこちらが責任もって治療する」

 

 ムウ達にそう呼びかけるとユリウスは会議室を飛び出し、自身の愛機が待つ場所に向け走り出した。

 

 

 

 

 月の外側で起きた戦闘はザフトが優勢な状況に立っていた。

 

 これは最初の奇襲を防げなかったのが大きい。

 

 テタルトスは大きく出遅れてしまったのである。

 

 そしてもう一つの理由。

 

 それが奇襲を仕掛けてきた新型モビルスーツの性能だった。

 

 シグーディバイド強化型は明らかに普通の機体とは違っていたのだ。

 

 「なに!?」

 

 「こいつらは!?」

 

 フローレスダガーが放ったビームランチャーを容易く回避した敵は懐に飛び込み、対艦刀を振るう。

 

 ビームの刃がフローレスダガーの胴体を両断、シグーディバイドが飛び退くと同時に爆発する。

 

 さらに背後から迫ってきたジンⅡがクラレントを叩きつける。

 

 しかし背後からの斬撃にも関わらず完ぺきに避けると肩に設置されているビームキャノンをコックピットに放った。

 

 「ぐぁああああ!!」

 

 パイロットは目の前に広がる光に呑まれ消滅すると機体も消し飛んだ。

 

 「怯むな! 各機連携を取りつつ、迎撃しろ! 単独で挑むんじゃない!」

 

 「了解!」

 

 指揮官の声で奇襲された動揺から落ちついたテタルトス勢は連携を取り始める。

 

 しかしそれを見て尚もシグーディバイドは止まらない。

 

 徐々に押されていくテタルトス軍。

 

 それに合わせ、周囲に展開していたナスカ級からもモビルスーツが次々と出撃。

 

 同時にサタナキアとベルゼビュートも攻勢に加わっていく。

 

 「……ぐっ、くそ、アオイ・ミナトめ!」

 

 ヴィートは抉られた左目の痛みに耐えながら、残った右目で敵機を睨みつける。

 

 「こんな雑魚共、さっさと片付けてやる!!」

 

 ヴィートは群がる敵機を砲撃で薙ぎ払い、対艦刀を抜いて襲いかかる。

 

 対艦刀を止めたジンⅡに対し、力任せに振り抜くとシールド諸共斬り裂いた。

 

 「どけェェ!!」

 

 さらにライフルとショットガンを同時に構えて発射する。

 

 攻撃が正確に敵モビルスーツを穿ち、大きな閃光を作り出した。

 

 同じく出撃したリースもまた苛立ったように操縦桿を握る。

 

 ベルゼビュートの背中と腰部には新たな武装が追加されていた。

 

 ビーム砲を内蔵した中型ビームクロウと対艦ミサイルポッド、高機動スラスターを装着。

 

 これによりさらなる高機動と高火力を獲得していた。

 

 「……あの女共は……いつも、いつも、いつも、いつもォォォ!!!!」

 

 リースの脳裏に浮かぶのはアストに寄り添うレティシアとマユの姿。

 

 「あいつらさえぇぇぇ!」

 

 怒りを吐き出すように肩のビームキャノンと腰部のビーム砲を一斉に撃ち出す。

 

 強力な火器でジンⅡとフローレスダガーを撃墜し、指揮官機と思われるバイアランに突撃する。

 

 「はああああ!!」

 

 リースは素早く操縦桿を操作。

 

 スラスターを使いバイアランのビームキャノンを回避する。

 

 そして振り下ろしたビームクロウが腕を斬り裂いた。

 

 「邪魔ァァ!!」

 

 同時に腰に装備されたビームクロウを射出する。

 

 飛び出したクロウからビーム刃が発生。

 

 バイアランのもう片方の腕を食いちぎり、背後から胴体を真っ二つにした。

 

 二機の猛攻に成す術なく蹂躙されていくテタルトスのモビルスーツ。

 

 

 そしてさらに―――

 

 

 「くそ、左の部隊をやるぞ! 俺について―――」

 

 その瞬間、彼の搭乗していたジンⅡはコックピットを抜かれ、撃破された。

 

 僚機としてついていた者達はどこからの攻撃なのか気がつかない。

 

 新手の新兵器か。

 

 それともドラグーンか。

 

 そんなパイロット達の疑問はすぐさま氷解した。

 

 ただ単純に速い。

 

 それだけだった。

 

 敵を視界に捕らえた瞬間、いきなり姿がかき消える。

 

 まるでテレポートでもしたかのように。

 

 「くそぉ!」

 

 恐慌に陥りかけた自分を叱咤しリゲルがメガビームランチャーを放つ。

 

 しかし、宙を薙ぐのみで捉えられない。

 

 そして再び敵機の姿を見失ったリゲルにビームライフルの一射が撃ち込まれ、宇宙のゴミへ変えられた。

 

 「フッ、歯ごたえがないな」

 

 手ごたえの無さにクロードは鼻で笑う。

 

 鮮やかな動きで攻撃を回避しながらサタナエルを動かし、次々と敵機を屠っていった。

 

 

 

 

 テタルトスは今完全に不利な状況に陥っている。

 

 誰もが危機感を募らせる中、すべてを覆す一機のモビルスーツが駆けつけた。

 

 ユリウスのグロウ・ディザスターである。

 

 戦場の様子を確認したユリウスは思わず舌打ちした。

 

 奇襲と新型機の猛攻によって完全に戦線をズタズタにされている。

 

 アポカリプスの方にも何機か取りつこうとしているのが見えた。

 

 「バルトフェルド、そちらはどうだ?」

 

 《どうにか落ち着きましたよ。しかし指揮は大佐が執るべきでは?》

 

 「私は戦闘の方に集中する。それに指揮を執るというのは性に合わなくてな。後は頼むぞ」

 

 《ハァ、了解です、大佐》

 

 ユリウスはバルトフェルドとの通信を終えると、正面の戦場を見据える。

 

 「まずは右に展開している部隊だな」

 

 押し込まれている味方を援護する為、戦場に突入した。

 

 攻撃を仕掛けようとするイフリートに肉薄すると、瞬時にビームサーベルで斬り捨てる。

 

 さらに敵からの砲撃をかわしつつ、別方向にいるグフをビームライフルで狙撃。

 

 突然現れたディザスターに対応できないグフはあっさりと撃ち抜かれ、爆散した。

 

 「うぁあああ」

 

 「バケモノだぁぁ!!」

 

 無数の砲撃を容易く潜り抜け、反撃してくるディザスターにザフトは全く対応できない。

 

 「大佐だ! ユリウス大佐だ!!」

 

 「いけるぞ! 全機、攻撃開始!!」

 

 ユリウスの活躍に鼓舞されたテタルトス軍は息を吹き返したように、一斉に反撃に転じる。

 

 それを見たヴィートとリースはディザスターに狙いを定めた。

 

 「あれが隊長機だ! アレさえ落とせば!!」

 

 「さっさと終わらせる!!」

 

 ベルゼビュートとサタナキアがディザスターに襲いかかる。

 

 「ふん、ザフトの新型か。丁度良い」

 

 彼らを落とせばザフトの士気も下がるだろう。

 

 ユリウスもまた応じる様にビームサーベルを構えて突撃する。

 

 「死んでよ!」

 

 リースはミサイルポットをディザスターを囲むように発射、同時に腰のビーム砲を放つ。

 

 その隙に動きを予測していたヴィートがビームランチャーで狙撃した。

 

 これで素早い動きが止まる筈。

 

 その間に接近して仕留める。

 

 そう考えた二人だったが、次の瞬間驚愕した。

 

 ユリウスは避ける事無くはドラグーンを二基ほど射出。

 

 すべてのミサイルを撃ち落とし、最小限度の動きで何条ものビームを避けて見せたのである。

 

 「なっ!?」

 

 「こいつ!?」

 

 今の攻撃で全く体勢を崩さないとは。

 

 ヴィートとリースはムキになったように、再び攻撃を開始する。

 

 しかしユリウスは攻撃には構わず、二機に向かって斬りかかった。

 

 「このぉ!!」

 

 「落とす!!」

 

 高ぶる感情に合わせたようにシステムが作動した。

 

 

 

 『I.S.system starting』

 

 

 

 二人にあの感覚が包み込む。

 

 広がる感覚に身を任せヴィートは対艦刀を、リースはビームクロウでディザスターを迎え撃った。

 

 「はあああ!!」

 

 正面から突っ込んでくる敵機にタイミングを合わせてヴィートは突き放つ。

 

 しかし、斬撃が敵機を捉える事は無い。

 

 ディザスターは機体を僅かに横に逸らすのみで回避、光刃を振り上げた。

 

 その一閃が対艦刀を半ばから叩き折り、体勢を崩したサタナキアの胴体目掛けて蹴りを叩き込んだ。

 

 「ぐああああ!!」

 

 ユリウスは吹き飛ばされるサタナキアに向け、ライフルを構える。

 

 しかしそれをさせまいとリースが攻撃を仕掛けた。

 

 「よくもォォ!!」

 

 背中を向けたディザスターにビームクロウを叩きつけた。

 

 完全に隙を突いた攻撃。

 

 「これで!」

 

 だがそれすらも通用しない。

 

 ディザスターは鮮やかに光爪を避け切ると、シールドのビームカッターを展開。

 

 大型ビームクロウを横から串刺しにして、サーベルを上段から振り下ろした。

 

 「しまっ―――ッ!!」

 

 リースは致命傷を避けようと、串刺しにされた腕ごと無理やり機体を引く。

 

 腕を引きちぎりながら後ろに避けるとギリギリ機体を当たることは無く光刃が装甲を掠めていった。

 

 サタナキアがビームランチャーでディザスターを引き離しべルゼビュートの下に駆けつける。

 

 「無事か!?」

 

 「なんとか」

 

 ヴィートは思わず歯噛みする。

 

 左目が見えない状態とはいえ、自分とリースを相手にしてここまで圧倒されるとは。

 

 この程度で済んだのは間違いなくI.S.システムのおかげである。

 

 起動させていなければ間違いなくやられていただろう。

 

 敵機の動きを見てすぐに何らかの仕掛けがある事を看破したユリウスは今度こそ失望のため息をついた。

 

 「何か小細工をしているようだが、そんな物に頼って私が倒せるとでも思っているのか?」

 

 自身の技量を高める事を止め、あんなものに頼るとは。

 

 ザフトの質は本当に落ちたらしい。

 

 一気に止めを刺そうとした瞬間、ユリウスの全身に電流が走ったような感覚が襲い、危険を伝える。

 

 「何!?」

 

 ユリウスが機体を後退させると、一条のビームが宇宙を斬り裂いた。

 

 視線の先にいたのは、ビームライフルを構えたサタナエルだ。

 

 「……クロード・デュランダルか」

 

 サーベルを構えるディザスターをクロードは楽しそうに見つめる。

 

 「見せて貰おうか。ザフト最強と謳われたその実力を」

 

 サタナエルとディザスターは睨みあうように対峙した。

 

 

 

 

 反デュランダルの部隊と合流したミネルバは情報共有を行いながら、コペルニクスで行われている会談の状況を把握する為月に近づきつつあった。

 

 ザフトの部隊に見つからぬ様に慎重に動きながらである為に、ゆっくりな速度ではあったが。

 

 「艦長、会談の方は上手くいっているでしょうか?」

 

 アーサーが不安そうに聞いてくる。

 

 気持ちは分からないでもない。

 

 デュランダルが素直に会談に応じたというだけでも、非常に不気味である。

 

 何か仕掛けてくるのではないかという疑惑もミネルバクルーからすれば当然だった。

 

 「さあね。正直、上手くいくとは思わないけど」

 

 タリアはデュランダルの事を誰よりもよく知っている。

 

 だからこそ彼が今回の会談で自身の考えを改めなどあり得ないと確信していた。

 

 そんな彼女の考えを証明するかのように―――それは来た。

 

 気がついたメイリンであった。

 

 レーダーに動いている物体を発見したのである。

 

 「これは……」

 

 「どうしたの?」

 

 「えっと、前方に月に向って移動している物体が―――」

 

 報告していたメイリンの様子が突然変わった。そして即座にタリアの方に振り向く。

 

 「レーダーに反応! 後方からモビルスーツが接近してきます!!」

 

 「機種は?」

 

 「ザク、グフ、イフリート、シグーディバイド、それに不明機です!」

 

 報告を聞くだけでも結構な数のようだ。

 

 しかもあのシグーディバイドに不明機というのは、おそらく新型機。

 

 現在の戦力はミネルバとアルマフィ隊のみ。

 

 エルスマン隊とビューラー隊は別の場所で戦力を集めている最中だからだ。

 

 後手に回るのは不味いと判断したタリアは即座に指示を飛ばす。

 

 「対モビルスーツ戦闘用意! ルナマリアを出して! それから他の隊にも連絡を入れて!!」

 

 「了解!」

 

 ミネルバの背後から近づいていた数機のモビルスーツ。

 

 その中の見慣れぬ機体があった。

 

 

 ZGMF-X91S  『メフィストフェレス』

 

 

 ザフトが開発した対SEEDを想定したモビルスーツである。

 

 セカンドシリーズや対SEEDモビルスーツに搭載された武装の試験機としての側面を持ち、試作型パルマフィオキーナ掌部ビーム砲や試作型の『サルガタナス』などを搭載し高い火力を持っている。

 

 メフィストフェレスのモニターには戦艦と展開されたモビルスーツが映っている。

 

 パイロットである仮面の男カース、いやシオン・リーヴスはつまらなそうに鼻を鳴らした。

 

 「ザフトに戻って最初の任務がネズミの始末とはな。まあ慣らし運転には丁度良いだろう」

 

 シオンはビーム突撃銃で狙撃してきたザクの懐に瞬時に飛び込む。

 

 「は、速い!?」

 

 「いや、貴様らが遅すぎるだけだ」

 

 ビームサーベルを引き抜くと躊躇う事無くザクのコックピットに突き刺した。

 

 そして横に回り込んだグフに投げつけ、背中の『ルキフグス』ビームキャノンで消し飛ばした。

 

 さらに大型ビームクロウを腕部に装着。

 

 斬りかかってきたグフを胴体を挟み、左右から食いちぎる様に真っ二つにして撃破する。

 

 素晴らしい。

 

 反応速度や火力、速度も申し分ない。

 

 これならば―――

 

 「フフフ、アハハハ、アスト、マユ・アスカ! お前達をこの手で殺せる!!」

 

 シオンにとって何よりも待ち望んだ瞬間が現実のものとなる。

 

 『ヤキン・ドェーエ戦役』と呼ばれた戦い。

 

 その最終決戦においてシオンはマユの乗るターニングガンダムによって撃破された。

 

 だが不幸中の幸いとでも言えば良いのか。

 

 ターニングガンダムの一撃はコックピットから逸れており、重症ではあったが何とか命を取り留める事が出来た。

 

 しかしシオンとしては生還を喜ぶ気になどなれなかった。

 

 あったのはアスト・サガミと自身を撃墜したターニングガンダムのパイロットに対する激しいまでの憎しみ。

 

 それを晴らす為にシオンは仮面で顔を隠し、名も変え、デュランダルの狗に成り下がってでも復讐の機会を待ち続けたのである。

 

 ようやくその望みが叶う。

 

 歓喜に震え、憎悪の笑みを浮かべていたシオンの視界に一機のモビルスーツが目についた。

 

 アストが搭乗していたエクリプスだ。

 

 細部に違いはあるが間違いない。

 

 シグーディバイドの放った斬撃を宙返りして回避、背後に回るとビームライフルで撃墜する。

 

 「少しはマシな奴もいるらしいな」

 

 今シグーディバイドに乗っているのはラナシリーズでもなければエースパイロットでもない。

 

 一般のパイロットだ。

 

 さっさとシステムを発動させれば多少はマシだろうに。

 

 判断の遅れがそういう結果を招くのだ。

 

 「ではお前に肩慣らしに付き合ってもらうか」

 

 シークェル・エクリプスに狙いをつけ、腹部に装備された複列位相砲『サルガタナス』を放つ。

 

 「なっ!?」

 

 撃ち込まれたビームに気がついたルナマリアは咄嗟に機体を引いた。

 

 その瞬間、エクリプスがいた空間を閃光が焼き尽くされる。

 

 強力なビーム。

 

 直撃すれば致命傷だ。

 

 ルナマリアが視線を向けた先にいたのは、白くどこか禍々しさを感じさせる機体だった。

 

 「新型機!? だからって!!」

 

 エッケザックスを抜き、メフィストフェレスに斬りかかる。

 

 シオンは斬撃を容易く回避すると、脚部に装備されたビームサーベルを放出し蹴り上げた。

 

 下からの斬撃をシールドを掲げて受け止めたルナマリアは相手の技量に舌を巻く。

 

 「くっ!」

 

 「どうした! この程度か!!」

 

 「このぉ!!」

 

 弾け合い、ライフルを構えて交差しながらビームを撃ち合う。

 

 「やるわね」

 

 それがルナマリアが相手の技量に対する素直な感想だった。

 

 しかも全く本気で戦っていない。

 

 まるで様子見しているかの様な不気味さがあった。

 

 ルナマリアはサーベラスとバロール同時に構え、メフィストフェレスに叩き込む。

 

 しかしシオンはあえて避けなかった。

 

 ビームシールドで砲撃を弾き返して突撃。

 

 懐に飛び込んでビームクロウを薙ぎ払いエクリプスを吹き飛ばした。

 

 「きゃああ!!」

 

 サーベルを防ぐ為にシールドを掲げていたのが、幸いした。

 

 クロウのビーム刃が抉ったのはシールドのみ。

 

 機体に損傷はない。

 

 「いいぞ。そのまま粘れ」

 

 「舐めるなぁ!!」

 

 ルナマリアは抉られたシールドを投げ捨て、対艦刀とビームサーベルを構えるとメフィストフェレスに斬りかかった。

 

 

 

 

 

 激闘は続く。

 

 しかしその為に彼らは失念した。

 

 月に向かって一直線に突き進んでいく物体――――コロニーの存在を。




機体紹介2、3更新しました。

メフィストフェレスのイメージはリボーンズガンダム、サタナエルはシナンジュかな。

それから今さらですけど巨大戦艦アポカリポスのイメージはリーブラです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。