機動戦士ガンダムSEED effect   作:kia

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第48話  道化の幕引き

 

 

 

 ウラノスを舞台にしたロゴス派と反ロゴス派の最終決戦。

 

 互いの機体が鎬を削る中、二機のモビルスーツが戦場を駆け抜けていた。

 

 スレイプニルを装備したストライクフリーダムとインフィニットジャスティスである。

 

 キラはスレイプニルのブースターを噴射させ、機体を操作。

 

 砲撃で敵部隊を一掃するとその度に大きな爆発と共に閃光が生み出された。

 

 それに紛れスレイプニルを縦に装着したジャスティスが近接用ブレードを振るって敵機を斬り払っていく。

 

 ザフトの大型機動兵装ユニット『ミーティア』は戦艦に匹敵する火力を持った装備である。

 

 だが『ミーティア』を参考に開発された『スレイプニル』は対照的に火力こそ劣るものの、より対モビルスーツ戦闘に合わせた装備となっていた。

 

 特にラクスの近接戦技能をフルに発揮できるブレードは前大戦でも大きな戦果をあげており、並みのモビルスーツでは防ぐ事もままならない絶大な威力を持っている。

 

 順調に向ってくる敵部隊を駆逐しながら突き進んでいた二機は、ウラノスから出撃してきた新たな機影を発見した。

 

 「キラ、あれを」

 

 ラクスの示した方向にはデストロイを含めた新型機の部隊が展開されていた。

 

 その火力に物を言わせ、反ロゴス派の機体を次々と破壊している。

 

 「不味いね」

 

 当然キラもあの機体に関する事は知っている。

 

 アレは都市部を壊滅させるほどの火力を有している機体。

 

 早めに潰した方がいいだろう。

 

 「ラクス、敵部隊を迎撃しながら、僕達もデストロイの迎撃しよう」

 

 「はい」

 

 もうすぐアストやアークエンジェルも来る筈だ。

 

 それまでに新型を少しでも減らしておけば、作戦も進めやすくなる。

 

 二機はブースターを使い新型機部隊の迎撃に向かっていった。

 

 そしてキラ達がデストロイの迎撃に向かって、時間が立たない内に白亜の戦艦が戦場に到着した。

 

 

 

 

 準備を整えたアークエンジェルはようやくウラノスに到着していた。

 

 戦場はまさに大混戦といった状況。

 

 ロゴス派と反ロゴス派の機体が入り混じり激しい戦闘が繰り広げられている。

 

 さらに奥側にはシンにとって忘れる筈のない黒い巨体まで見えた。

 

 「すごい混戦になってますね」

 

 「ああ、しかも……デストロイまで」

 

 聞こえたマユの声にシンはリヴォルトデスティニーのコックピットに座ってモニターを睨んだ。

 

 シンにとってもあの機体は忌むべき存在だった。

 

 パイロットの事も含め、良い印象など無い。

 

 しかしここでデストロイが出撃している事は当然と言えば当然だった。

 

 ウラノスはロゴス派にとって最後の砦。

 

 ここでアレを出してこない理由はない。

 

 顔を歪めデストロイとは別の場所を見渡すと、そこには見覚えのある機体がいる事に気がついた。

 

 「あれって、アオイの」

 

 エクセリオンだ。

 

 両手にビーム砲を構えて敵部隊を次々と撃破し、デストロイの方へと向かっていた。

 

 いくらアオイでもあれだけの数の新型とデストロイの相手は厳しい筈だ。

 

 「坊主共、準備はいいか?」

 

 モニターに映ったムウに頷き返した。

 

 すでに機体のチェックは済んでいる為、いつでも出撃できる。

 

 隣に控えているトワイライトフリーダムも問題ないらしい。

 

 「あまり時間はないからな。各機出撃後、作戦通りに!」

 

 「「「了解!」」」

 

 「ムウ・ラ・フラガ、出るぞ!」

 

 ハッチが開くと同時に黄金のモビルスーツが戦場に飛び出していった。

 

 カガリの乗機であったアカツキである。

 

 カガリ自身はオーブでの事後処理がある上に、パイロットとしてはブランクがある。

 

 しかしアカツキの性能は高く、このまま使わないというのは惜しい。

 

 出し惜しみする余裕も無いという事でムウに託され、戦場に再び投入される事になったのである。

 

 続くようにマユのトワイライトフリーダムが出撃するとシンもまた機体の最終チェックを行い、問題がない事を確認する。

 

 ここで必ずロゴスを―――ジブリールを倒す!

 

 「良し、いける! シン・アスカ、リヴォルトデスティニー、行きます!」

 

 デスティニーがアークエンジェルから宇宙に飛び出すと機体が色付き、戦場に飛び込んでいった。

 

 

 

 

 その機体『スカージ』を見たアオイの感想は不気味。

 

 この一言に尽きるだろう。

 

 連合製のモビルアーマーを象徴するかのように大型。

 

 デストロイ程ではないにしろ、巨体である事は間違いない。

 

 少なくともザムザザーと同等程度はあるだろう。

 

 外見自体はシンプルであるが、設置されているデストロイと同じ砲身があの機体の火力の高さを物語っている。

 

 あれが危険な機体である事は間違いない。

 

 そのアオイの考えは当たっていた。

 

 「これより攻撃を開始します」

 

 スカージのコックピットに座った№Ⅵはフットペダルを踏み込み、ブースターを点火すると正面に向かって突っ込んだ。

 

 「何だあれは!?」

 

 「速い!」

 

 予想以上の速度に驚きと戸惑いで動きを止めたヴィヒターやウィンダムを尻目に砲門を開放すると、一斉に対艦ミサイルを撃ち出した。

 

 雨のように降りそそぐミサイルに誰もが対応できない。

 

 「うああああ」

 

 「数が、多すぎて―――ぐああああ!!」

 

 対艦ミサイルによって反ロゴス派の機体が次々に撃破されていく。

 

 さらにスカージは動きを止めない。

 

 側面に装備された大型ビームブレイドを展開して、攻撃を仕掛けようとしたヴィヒターを容易く撃破。

 

 上部に設置されているアウフプラール・ドライツェーンから発射された強力なビームの一撃に反ロゴス派の部隊はあっという間に巻き込まれ、消し飛ばされてしまった。

 

 あっという間の出来事に呆然としてしまう。

 

 あの機体は想像以上に危険だ。

 

 火力のみならず、高い機動性。

 

 脅威度でいえばデストロイを上回る。

 

 「くそっ! これ以上はやらせない!!」

 

 エクセリオンは巨大な機体にビームライフルを撃ち出した。

 

 だが次の瞬間、スカージは背後の高出力ブースターを点火すると一気に加速、ビームを振り切ってみせたのだ。

 

 「速度だけじゃない、反応も速い!」

 

 巨体に似合わず異常ともいえる速度で移動を開始するスカージ。

 

 さらにこちらに向ってアウフプラール・ドライツェーンの砲口を構えてくる。

 

 あれの直撃を受けたら撃破される。

 

 かといってシールドで防御すれば動きを止める事になる。

 

 そうなれば狙い撃ちにされるだけ。

 

 「動きを止めたら駄目だ」

 

 アオイは即座に上昇を決め、射線上からの離脱を図る。

 

 急上昇によるGが体に大きく負担を掛けるが構っていられない。

 

 エクセリオンが射線から離脱したと同時にアウフプラール・ドライツェーンの一撃が放たれる。

 

 凄まじい一撃が空間を焼き尽くしていった。

 

 「少尉!!」

 

 スカージの砲撃を回避して回り込んだルシアが高エネルギー収束ビーム砲を撃ち込もうと狙いを定める。

 

 しかしスカージは避ける気配もなく直進してきた。

 

 避けない?

 

 ルシアの疑問に答えるように№Ⅵは素早くコンソールを操作すると、下腹部側面の射出口が開放された。

 

 そこから無数の端末を射出、エレンシアを囲むように配置する。

 

 「ドラグーン!?」

 

 一斉に攻撃を開始するドラグーンにルシアは回避運動を取る。

 

 四方からの苛烈な射撃にルシアは焦る事無く、持前の直感と技量でかわしていく。

 

 しかし―――

 

 「数が多い!」

 

 操作しているのはエクステンデットだろう。

 

 ドラグーン操作に特化して強化されているのか、これだけの数を操り、しかも正確な射撃。

 

 非常に厄介だった。

 

 ラナシリーズ量産型エクステンデットの最大のメリット。

 

 それが特定の能力に特化した調整が可能という点だった。

 

 クローンで生み出された彼女達はオリジナルの能力の高さもあり、ある程度の強化を施せば他の分野に特化させる事ができる。

 

 もちろんすべてが成功する訳ではない。

 

 その分失敗作も多く造られた。

 

 それでも彼女達は換えがいくらでもきく。

 

 多少の失敗作も気にならない程度には便利な存在だったのである。

 

 現在スカージに搭乗している№Ⅵはドラグーンの操作に特化した調整を受けていた。

 

 初期のドラグーンであればこうは上手くいかなかっただろう。

 

 初期のドラグーンシステムは高い空間認識力を必要としていた特殊兵装だった。

 

 しかし最新のドラグーンシステムは量子インターフェイスの改良により、誰でも使用可能となっている。

 

 ただしそれでも使いこなすには相当の技量が必要とされる兵器だったが。

 

 その兵器を手足のように操り、エクセリオンとエレンシアを狙って攻撃を仕掛ける№Ⅵの実力は紛れもなく本物だ。

 

 ルシアは宇宙空間を動き回りながら、ライフルを構えてドラグーンを狙撃。

 

 ビームライフルの一射が的確にドラグーンを捉え、次々と撃ち落していく。

 

 無数に射出されたドラグーンを前に怯む事無く、捌いていく彼女の技量は流石の一言だろう。

 

 しかしスカージは二機に構う事無く先行部隊の方へ機首を向け、上下に開くと複列位相エネルギー砲『スーパースキュラ』を放出した。

 

 「不味い! 回避しろ!!」

 

 アオイの叫びも虚しく、眩いばかりの閃光に呑まれるように味方の機体が消え、後ろに控えていた戦艦も撃沈されてしまった。

 

 「くそ!」

 

 デストロイに引けを取らない上に、かなりの速度。

 

 それに加え側面にはビームブレードも装着され、接近戦も対応できる。

 

 付け入る隙があるとすれば、防御だろうか。

 

 あの機体はどうやら陽電子リフレクターを装備していないらしい。

 

 つまり攻撃を防御する手段を持っていないのだ。

 

 とはいえあの速度と多数のドラグーンを相手では攻撃を当てるだけでもかなり厄介なのだが。

 

 部隊を壊滅させたスかージは旋回、再び対艦ミサイルを撃ち込んできた。

 

 アオイとルシアは何とか迎撃するものの、ヴィヒターやウィンダムは巻き込まれ宇宙を照らす光の華へと変えられてしまう。

 

 そこに進撃してきたデストロイまで加わるとなれば―――

 

 「後手に回れば被害が増える一方だ」

 

 やはり一番厄介な相手を倒すべき。

 

 アオイはアンヘルを構えてスカージを狙い撃つ。

 

 強力な一射が周囲のドラグーンを薙ぎ払い、懐に飛び込もうと突撃した。

 

 撃ちかけられるビームの嵐をやり過ごしビームサーベルを振り抜いて斬りかかる。

 

 「はあああ!!」

 

 袈裟懸けに振り抜いた斬撃は確実にスカージを捉えた。

 

 しかしスカージは前方に加速し、直撃しようとした刃は掠めていく程度に留まってしまう。

 

 だが、それで仕留められると思うほどアオイも相手を舐めてはいない。

 

 今のをかわされるのも想定済みである。

 

 エクセリオンの攻撃をかわすため、前方に加速したスカージの正面に高エネルギー収束ビーム砲を構えたエレンシアが待ち構えていた。

 

 「これで落と―――ッ!?」

 

 ターゲットをロックし、トリガーを引こうとした瞬間、ルシアの直感が警鐘を鳴らす。

 

 それに従い機体を引くと、エレンシアのいた空間を上方からのビームが薙いでいった。

 

 連続で叩き込まれる射撃は正確無比。

 

 微細な操作で回避しながら、ビーム砲を上に向け、射撃する。

 

 しかし放たれた強力な一射を敵機は背中の高機動スラスターを使って回避した。

 

 ルシアは舌打ちしながら、仕掛けてきた敵機を睨んだ。

 

 攻撃を仕掛けてきたのはカースの乗るシグルドであった。

 

 スカージを守る様にエレンシアを引き離す。

 

 「悪いがスカージをやらせる訳にはいかない」

 

 カースはビームクロウを抜き、エレンシアに斬りかかる。

 

 「邪魔よ!!」

 

 ビームクロウの一撃を受け止め、ルシアもネイリングで斬り返した。

 

 だがカースは斬り合うつもりはないのか、すぐにビームライフルとヒュドラを撃ち込んで後退を図る。

 

 カースはこの戦闘でまともに戦うつもりは毛頭なかった。

 

 理由はもちろんいくつかある。

 

 その一つがシグルドと敵機の単純な性能差だった。

 

 シグルドは核動力を使用している分、そこらの量産機を上回る性能を持っている。

 

 しかしそれでも三年前の機体だ。

 

 最新型の機体を相手にまともに打ち合える筈はない。

 

 カースとしては自惚れで死ぬ気はさらさらなかったのである。

 

 ましてやこんな戦場ではやる気も出ない。

 

 エレンシアを砲撃でビームライフルを破壊されつつも、距離を取った。

 

 やはり性能差がある分、不利。

 

 パイロットの技量も高い。

 

 カースは防御に徹しつつ、敵機を引きつけながらカースは指示を飛ばす。

 

 「チッ、鬱陶しい。アルゲス部隊、攻撃開始しろ」

 

 カースの声に合わせ、デストロイの背後に控えていたアルゲスが動き出した。

 

 アルゲスは形状がシグルドの面影を持ちながらも、頭部などはダガー系の面影がある。

 

 背中のスラスターを噴射させながら、長距離エネルギービーム砲『アイガイオン』で攻撃してくる。

 

 ドラグーンや何条ものビームを捌きつつ、アオイはアルゲスを観察する。

 

 性能的にはこちら側のヴィヒターと同等くらいだろうか。

 

 違いがあるとすれば、機動性。

 

 火力はアルゲスの方が上だが、機動性は変形機構を持つヴィヒターの方に軍配が上がる。

 

 アオイはビームシールドで砲撃を防ぎつつ、懐に飛び込みサーベルでアルゲスを斬り裂いた。

 

 さらにアンヘルを側面に射撃し、デストロイの頭部を撃ち抜いて吹き飛ばした。

 

 「手が足りない」

 

 それが今の状況だった。

 

 スウェンやスティングはスカージの攻撃により瓦解しかけた部隊を立て直す為、敵部隊を迎撃するので精一杯だろう。

 

 スウェン達が援護に来られない状況でこの程度の負担で済んでいるのは、ストライクフリーダムとインフィニットジャスティスの二機がいるからだ。

 

 あの二機がデストロイを含め、多くの敵機を迎撃しているから、体勢を立て直す事が出来るのである。

 

 だがそれが何時まで持つか。

 

 「くそっ!」

 

 五連装スプリットビームガンを潜り抜け、サーベルで斬り捨てながらバスーカを構えるアルゲスをマシンキャノンで牽制する。

 

 徐々に押し返されていく反ロゴス派。

 

 

 しかしそこから誰もが予想すらしなかった援軍が現れる。

 

 

 それに最初に気がついたのはルシアだった。

 

 馴染み深いあの感覚が全身に走ったのである。

 

 「これは、まさか!?」

 

 彼が来ている!?

 

 シグルドの攻撃を捌きながら感じ取った方向を見た。

 

 デストロイのツォーンmk2に巻き込まれそうになった反ロゴス派の部隊を守る様に黄金の機体が射線上に割って入ると、強力なビームを弾き返した。

 

 「あれは、オーブにいた機体!?」

 

 戦場に現れたのはあまりに特徴的な黄金のモビルスーツ、アカツキだった。

 

 弾かれたビームは巨体を撃ち抜き、穴を穿つ。

 

 そこに翼を広げた二機のモビルスーツが剣を構えて突撃。

 

 胴体を十字に斬り裂いた。

 

 デストロイが爆散して発生した爆煙の中から姿を見せたのは、リヴォルトデスティニーとトワイライトフリーダム。

 

 「マユ、あのデカ物には接近戦だ!」

 

 デストロイの弱点は今までの戦闘や手に入っている情報ですでに把握済みだ。

 

 「了解! 行って、アイギス!!」

 

 トワイライトフリーダムの背中から射出された、アイギスドラグーンが他の機体を守る様に光のフィールドを展開する。

 

 それによって一斉に撃ち込まれたスーパースキュラの砲撃をすべて弾き飛ばした。

 

 「やるねぇ、お嬢ちゃん。俺も負けてられないでしょ!」

 

 ムウはビームライフルでアルゲスを狙撃しながら背中に装備された宇宙戦装備シラヌイの誘導機動ビーム砲塔を射出する。

 

 周りにいるアルゲスをまとめて四方から狙い撃ちにして腕や足、胴体を同時に破壊、撃破していく。

 

 流石エンデュミオンの鷹といったところ。

 

 卓越したドラグーンの動きで敵に全く対応する隙を与えない。

 

 そして続くようにリヴォルトデスティニーが翼を広げ、コールブランドで斬りかかる。

 

 「はあああああ!!」

 

 光学残像を伴い、ビームを掻い潜りデストロイを袈裟懸けに振り抜いた。

 

 刃がデストロイの装甲を抉りながら斬り裂くと火を噴き爆散した。

 

 それを見たアオイは反撃のチャンスと判断して、一気に押し返そうと攻勢に出た。

 

 「少尉、これを!」

 

 シグルドと交戦しているルシアから投げ渡されたのはネイリングだった。

 

 確かにビームサーベルよりはデストロイには有効かもしれない。

 

 「ありがとうございます、大佐!!」

 

 ここが状況を変える最大の好機!

 

 だがそれはロゴス派も同じく分かっている事だった。

 

 「同盟軍」

 

 敵部隊を迎撃していた№Ⅵは戦場に介入してきたシン達の方を見る。

 

 №Ⅵも同盟軍の事はデータで把握していた。

 

 最初に現れたフリーダムやジャスティスも含め危険な存在であると。

 

 だが今回命じられていたのは、あくまでも反ロゴス派の機体を優先して迎撃する事だ。

 

 それにカースからはフリーダムやジャスティスには絶対に手を出すなと言い含められている。

 

 しかしここで彼らを放置しておけばこちらが押し返されてしまう可能性が高くなる。

 

 №Ⅵは一瞬判断に迷う。

 

 その瞬間―――コックピットに警戒音が鳴り響いた。

 

 「上!?」

 

 №Ⅵが上を向くと、戦いは避ける様に言われていたストライクフリーダムとインフィニットジャスティスが上方から突っ込んで来た。

 

 スレイプニルから放たれた砲撃を前方に加速して回避すると№Ⅵは覚悟を決める。

 

 これでは戦闘は避けられないし、命令違反にはならない。

 

 機体を加速させながら、ドラグーンを射出して迎撃を開始した。

 

 予想よりも遥かに多いドラグーンの数にキラは舌打ちしながら、スラスターを逆噴射。

 

 網の目のように交差する閃光を回避すると両手にビームライフルを構えた。

 

 銃口から放たれたビームが正確にドラグーンを射抜いて行く。

 

 「キラ、私が本体を!!」

 

 ドラグーンからの射撃を振り切る様に逃れたラクスはスレイプニルのビーム砲でスカージ本体を狙う。

 

 しかし、それに気がついた№Ⅵは即座に機体を傾け、ラクスが放ったビーム砲をやり過ごした。

 

 だがスレイプニルの砲撃は強力だ。

 

 当然無傷とまでは行かずスカージの装甲が剥がされ、コックピットに警告音が鳴り響く。

 

 だが№Ⅵは怯む事はない。

 

 インフィニットジャスティスに向け対艦ミサイルを、その直後にドラグーンを射出する。

 

 「くっ!?」

 

 ラクスは対艦ミサイルを迎撃するが、側面に回り込んだドラグーンがインフィニットジャスティスに襲いかかった。

 

 ミサイルとドラグーンの波状攻撃。

 

 すべてを避け切れず、左側のビーム砲が破壊されてしまう。

 

 「きゃああ!」

 

 「ラクス!?」

 

 スレイプニルは一部損傷したが戦闘には問題ない。

 

 本体にも傷はない。

 

 あれなら大丈夫だ。

 

 敵機の注意を引きつけるためにキラはここで前に出た。

 

 「ラクス、僕があいつを引きつける! その間に!!」

 

 「わかりました!」

 

 無数に襲いかかるドラグーンの群れにビームライフルで狙撃。

 

 さらにカリドゥス複相ビーム砲で吹き飛ばす。

 

 「これ以上は!!」

 

 サーベルを抜き正面からの攻撃を斬り払い、ドラグーンを捌いていく。

 

 「突っ込んでくる?」

 

 №Ⅵはストライクフリーダムに目を見開いた。

 

 無謀な特攻という訳ではない。

 

 アレだけの数を相手に全く怯む事無く応戦してくる。

 

 囲むように展開しているドラグーンをすべて薙ぎ払いながらだ。

 

 ようやく№Ⅵは同盟軍の脅威を実感できた。

 

 奴らはやはり危険であると。

 

 ドラグーンをストライクフリーダムに向かわせようとした瞬間、再び警報が鳴り響いた。

 

 「なっ!?」

 

 スカージの下方から突っ込んで来たのは、傷ついたスレイプニルを装着したインフィニットジャスティスであった。

 

 あんな状態でまだ戦うつもりなのか。

 

 侮られたように感じた№Ⅵは初めて感じる怒りと共に艦首をそちらに向けスーパースキュラで迎撃する。

 

 だがラクスは避ける事無くそのまま閃光の中に突入した。

 

 「避けない?」

 

 スーパースキュラの一撃をインフィニットジャスティスはビームシールドで防御しながらスラスターを吹かし、突っ込んでいく。

 

 「はああああ!!!」

 

 シールドで守られた機体は無事である。

 

 しかしスレイプニルはそうはいかない。

 

 装着していた装備はビームに巻き込まれ、爆発を起こす。

 

 ラクスは破壊される直前にスレイプニルをパージすると、爆発に押し出される様にスカージの懐に飛び込んだ。

 

 「しまっ―――」

 

 「これで!」

 

 唯一無事だった装備、近接戦用ブレードでスカージの側面に突き刺すと横薙ぎに斬り払う。

 

 斬り裂かれ、損傷した部分から火を噴き爆発を起こした。

 

 「損傷自体は大した事は無い。だが……」

 

 ドラグーンのコントロールシステムが一部がショートしてしまった。

 

 これではこの二機相手には―――

 

 一瞬の思案。

 

 その隙を突くように今度は上方からストライクフリーダムの砲撃が襲いかかる。

 

 何条もの閃光がスカージの機体を射抜き、凄まじいまでの衝撃が№Ⅵに襲いかかった。

 

 「きゃああああ!!」

 

 コックピットの警戒音は止まらず、コンソールの一部も破損している。

 

 スラスターは生き残っているが、武装は使えず、もう戦う事は出来ない。

 

 ここまでだろう。

 

 機密保持の為に自爆を決断する。

 

 だが―――

 

 

 

 「二時方向へ離脱しろ!」

 

 

 

 聞いた事も無い声が、彼女を救った。

 

 スカージに止めを刺そうとしたキラに円弧を描きながらビーム刃が迫る。

 

 咄嗟の反応で機体を引き、投げつけられた刃を回避した。

 

 「あれは!?」

 

 距離を取ったストライクフリーダムの前に立ちふさがっていたのは、ダークブルーの機体サタナキアだった。

 

 戦場に駆けつけたヴィートは周囲を見渡し即座に状況を把握する。

 

 そこには彼らの目標である、アオイ・ミナトの機体も確認できた。

 

 だが今は任された任務が優先。

 

 でなければアストとの戦いを放棄してきた意味がない。

 

 今回の任務自体が不服ではあったが、任務は任務だ。

 

 命じられた仕事は確実にこなす。

 

 アオイ・ミナトに関する事はその後だ。

 

 彼に任せれていたのは地球軍新型モビルアーマー『スカージ』を無事保護する事。

 

 パイロットもこちら側の人間だと聞いている。

 

 「聞こえているな。早く離脱しろ」

 

 №Ⅵは突然の事に対処できない。

 

 何故ザフトが自分を助ける?

 

 だがそんな疑問も通信機から聞こえてきたカースの声でかき消えた。

 

 「№Ⅵ、その機体に従え。命令だ」

 

 「……了解しました、カース様」

 

 スカージは生き残ったスラスターを使い、反転すると指示された方向に離脱した。

 

 「逃げる!?」

 

 「キラ、追撃を―――」

 

 スカージを追おうとしたキラ達の前にサタナキアが立ちふさがる。

 

 「不本意ではあるが、お前らの相手は俺だ!」

 

 ヴィートはアガリアレプトを構えるとI.S.システムを作動させ、二機のガンダムに斬りかかっていった。

 

 

 

 

 スカージの撤退したと同じ頃、シン達も残った敵部隊とデストロイに対して一気に攻勢に出ていた。

 

 「はあああああ!!!」

 

 シンは光学残像で敵機を幻惑しながらコールブランドでデストロイの腕を袈裟掛けに斬り裂いた。

 

 だがデストロイは腕を破壊されても尚、動きを止めずスーパースキュラを放とうと胸部光を集めていく。

 

 だが構わない。

 

 避ける素振りも見せず、リヴォルトデスティニーは次の敵に向かって刃を振るう。

 

 そんなシンを狙いスーパースキュラが放たれた。

 

 強力なビームの奔流がリヴォルトデスティニーに迫る。

 

 しかしその前に光のフィールドが守る様に張られ、ビームを弾いた。

 

 トワイライトフリーダムのアイギスドラグーンである。

 

 「ありがと、マユ!」

 

 「油断しないでください、兄さん!」

 

 マユはシンが攻撃に集中できるようにアイギスドラグーンで援護しつつ、自身もまた斬艦刀シンフォニアでデストロイを背後から突き刺し、斬り払った。

 

 シンとマユの二人がデストロイを引きつけているおかげか、反ロゴス派の部隊は後退できた。

 

 追撃しようとしているアルゲスはすべてアカツキが抑えていた。

 

 そして別方向にいたアオイも撃ちかけられるビームの嵐を潜り抜け、ネイリングを振るってデストロイを撃破する。

 

 今度は側面からアルゲスのスキュラがエクセリオンを狙って放たれる。

 

 アオイが回避しようとした瞬間、再び機体の方が先に動いたような錯覚を覚えた。

 

 何の淀みも無くスキュラの砲撃を避けたエクセリオンはシールドに内蔵されているビームガンで、アルゲスのコックピットを撃ち撃破する。

 

 アオイは驚いていた。

 

 別に敵の事ではない。

 

 此処に来てエクセリオンの反応がさらに上がってきている。

 

 「何なんだ、この機体は?」

 

 確かに今までもこんな感覚を覚えた事は多々あった。

 

 お陰で敵を撃退出来た事もある。

 

 おそらくは搭載されているW.S.システムの影響だろう。

 

 アオイは若干感じた不気味さを押し殺し、残ったデストロイに向かって突撃する。

 

 「うおおおお!!」

 

 突撃したエクセリオンにスーパースキュラが発射されるが、アオイは速度を緩めない。

 

 ビームの奔流をシールドで受け流し、コックピットをネイリングで突き刺した。

 

 その傷跡にビーム砲を突き付け、発射。

 

 撃ち抜かれた巨体は崩れ落ち、爆散した。

 

 殆どのデストロイは破壊された。

 

 残りは僅かだ。

 

 これらが撃破されていくのも時間の問題だろう。

 

 さらにアルゲスはアカツキによって撃破され、フェ―ルウィンダムやダガーLの部隊はカオスやストライクノワールによって押し返されている。

 

 その様子をウラノスの指令室から見ていたジブリ―ルは思わず後ずさる。

 

 まさか切り札の一つであったスカージまで戦闘不能に追い込まれるとは。

 

 新型のアルゲス部隊が壊滅するのも、時間の問題。

 

 ならば―――

 

 「レクイエムは!?」

 

 「は?」

 

 「レクイエムのチャージは!? どうなってる!?」

 

 ジブリ―ルの剣幕に怯えながらもオペレーターが報告する。

 

 「げ、現在、エネルギーチャージ60%です」

 

 「それなら撃てる! レクイエム発射しろ!!」

 

 敵をすべて薙ぎ払えば、いくらでも態勢を立て直せる。

 

 そう考えてジブリ―ルが指示を飛ばす。

 

 しかしここでまた彼の計算外の事態が起こった。

 

 「これは……レクイエムに近づいている熱源あり! 敵モビルスーツです!!」

 

 「なんだとぉ!!」

 

 モニターに映っていたのは部隊を撃破しながら近づいてくるシークェルエクリプスだった。

 

 「作戦通り、敵が要塞から引き離されてる。これなら問題ない!」

 

 これが最初からの同盟の作戦だった。

 

 中継地点のコロニーを破壊したミネルバは戦場付近に待機。

 

 敵部隊が要塞から出撃し守りが薄くなったタイミングを見計らってウラノスに接近。

 

 要塞に侵入したルナマリアがレクイエムを破壊するというものだった。

 

 今ミネルバはザフトに見つからないようミラージュ・コロイドで姿を隠している。

 

 とはいえ長時間の展開は無理なので、急いで決着をつけなければ。

 

 エッケザックスを振るい、敵機を撃破したエクリプスは要塞内部に突入した。

 

 ウラノス内部の構造はディアッカ達から情報を得ている。

 

 ビームライフルで隔壁を吹き飛ばしながら突き進んでいくと、目的の場所を発見した。

 

 レクイエムのコントロールルームだ。

 

 「見つけた!!」

 

 バロールを腰だめに構え、砲弾を撃ち出すとコントロールルームに直撃し、吹き飛ばした。

 

 「このまま離脱する!」

 

 エクリプスは外に飛び出すと、隔壁が開き解放されたレクイエムの砲身に向け、サーベラスを叩き込む。

 

 ビームに貫かれたレクイエムは大きな爆発を引き起こし、破壊された。

 

 レクイエムの爆発に巻き込まれたウラノスは火を吹き、所々で爆発を引き起こす。

 

 これでウラノスは陥落した。

 

 ロゴス派ももう兵力は残っていないだろうし、戦闘も終息するだろう。

 

 ルナマリアは周囲を警戒しつつ、ミネルバに帰還する為、反転した。

 

 

 

 

 炎に包まれた要塞。

 

 切り札であるレクイエムは破壊され、戦力もほとんど残っていない。

 

 もはやウラノスの陥落に疑いの余地は無く、ロゴス派の敗北は確定的であった。

 

 だがそんな中でもただ一人未だ諦めていない人物がいた。

 

 言うまでも無い、ジブリールである。

 

 息を切らせながら、格納庫に向かって走っていく。

 

 「くそ! くそ!!」

 

 脱出して行き場など無い。

 

 しかしそれでも彼は諦めない。

 

 奴に―――デュランダルに屈辱を晴らすまでは、決して捕まる訳にはいかないのだから。

 

 爆発によって起こる火を避けつつ、辿りついた格納庫で待っていたのは指令室からいなくなっていた、ヴァールト・ロズベルクだった。

 

 宇宙服を着て、待ち構えるようにこちらを見ている。

 

 本当なら自分を置いていった彼に怒りの感情を向ける所だが、ジブリ―ルはニヤリと笑みを浮かべる。

 

 おそらく脱出の準備を整えていたのだろう。

 

 「ロズベルク、脱出の準備は整っているな!」

 

 だがヴァールトは呆れたように首を振った。

 

 そして懐から銃を取りだすとジブリ―ルに突き付けた。

 

 「どういうつもりだ、貴様!?」

 

 「まったく、この期に及んで呆れたものだな、ジブリ―ル。往生際が悪いというか。……アズラエルはもう少し賢かった」

 

 「アズラエルだと!?」

 

 何故彼が前ブルーコスモスの盟主であるムルタ・アズラエルを知っているのだ?

 

 ヴァールト・ロズベルクにアズラエルとの接点は無かった筈だ。

 

 するとヴァールトは自分の頭に手を当てると、髪の毛を引っ張った。

 

 茶髪の髪の毛が取れ、特徴的な黒髪が見える。

 

 さらに目に指を当て、碧眼のコンタクトを取った。

 

 その姿にジブリールは思わず驚愕の声を上げた。

 

 「な、なんだと、貴様は―――デュランダル?」

 

 ジブリ―ルの目の前には自身の宿敵ギルバート・デュランダルが佇んでいたのである。

 

 正確にはジブリ―ルの前に居たのはデュランダルではなく、クロードだったのだが。

 

 それを彼が知る由も無い。

 

 「本当ならこのまま脱出した君を撃墜して、終わりでも良かったのだが。最後に言っておきたい事があってね」

 

 声まで同じだ。

 

 今まで声も変えていたという事だろう。

 

 しかしジブリールはそんな事は全く気にしていない。

 

 血がにじむ程、強く拳を握りクロードを睨みつける。

 

 「言いたい事だとぉ!!」

 

 「ああ。君は実に良い協力者だったよ。感謝しよう。ありがとう、ジブリ―ル。そして―――さようならだ」

 

 そこでようやく自分は奴に利用されていたのだと気がついたジブリールは激昂して、状況も忘れ殴りかかった。

 

 

 「デュランダルゥゥゥゥ!!!!」

 

 

 だがその拳は届く事無く―――撃ち出された銃弾はジブリ―ルの眉間を正確に射抜いた。

 

 ジブリ―ルは屈辱に塗れた表情のまま、頭から血を撒き散らし、炎に巻き込まれて消えていった。

 

 クロードはすぐに興味を無くしたように踵を返すと、丁度迎えが格納庫に到着していた。

 

 カースのシグルドである。

 

 結構な損傷具合から見て余程の敵と戦ったらしい。

 

 所々が破壊されているが、離脱する分には問題ないだろう。

 

 「終わったのか?」

 

 コックピットから顔を出したカースがそう訊ねてくる。

 

 「ああ、そちらは?」

 

 「問題ない。『スカージ』も回収したと報告が入った」

 

 「そうか、ならば戻ろう」

 

 クロードはシグルドのコックピットに乗り込むとウラノスから離脱していった。

 

 

 

 

 ハイネのヴァンクールは速度を上げ、ドラグーンから撃ち掛けられるビームを振り切る。

 

 「たく、正確な射撃に緻密なコントロール。大したパイロットだな!」

 

 高速で移動する砲台を撃ち落とす、技能はハイネにはない。

 

 故にドラグーンと相対する上で出来る対処方は精々囲まれないようにすることくらいだ。

 

 「埒が明かない。本体を狙わせてもらうぜ!」

 

 ハイネはドラグーンを操作していえるヴァナディスに向け、高エネルギー長射程ビーム砲を撃ち出す。

 

 しかし予測済みの攻撃だったのかアイギスドラグーンによって阻まれてしまう。

 

 「チッ、やっぱ駄目か!」

 

 遠距離からの攻撃ではヴァナディスのアイギスドラグーンのフィールドを突破できない。

 

 かといって接近戦を挑みたくとも周囲のドラグーンが邪魔で近づけない。

 

 しかもこのパイロットが接近戦が弱い訳ではない。

 

 むしろ隙が見つからず、困っているくらいである。

 

 対艦刀を持って挑めば、向こうも斬艦刀を持って応戦してくるという厄介さだ。

 

 「此処までのパイロットが同盟にいるとはな!」

 

 ハイネはさらに機体の速度を上げ、アロンダイトを下段に構えて斬りかかる。

 

 当然ただ突っ込んでいく訳ではない。

 

 途中でフラッシュエッジを投擲していた。

 

 フラッシュエッジの反対方向に回り込み、左右から挟むようにヴァナディスに襲いかかる。

 

 「なるほど、良い攻撃ですね。しかしそんなもので!!」

 

 ヴァナディスはヴァンクールの方に向き、アインヘリヤルを構えた。

 

 背後にフラッシュエッジが迫る。

 

 しかしレティシアは直撃する直前に上昇し、ブーメランをかわして見せた。

 

 「なっ!?」

 

 そうなればハイネの前にフラッシュエッジが現れる形になってしまう。

 

 直前まで迫った刃を避け切れない。

 

 「チッ!」

 

 シールドで弾き飛ばすが、その隙にヴァナディスはアインヘリアルを振り下ろしてきた。

 

 手の甲から発生させた光の盾で刃を受け止めると、ハイネはニヤリと笑みを浮かべた。

 

 「マジで強いねぇ! けどこっちも負けてられないんだよ!!」

 

 アロンダイトを構え、ヴァナディスに向かって振りかぶった。

 

 そしてその直ぐ傍でアスタロスとイノセントの戦闘が続いていた。

 

 速度を乗せた斬艦刀の一振り。

 

 それを鎌で受け止めたアスタロスとイノセントは鍔ぜり合って、弾け飛ぶ。

 

 アスタロスはデュルクの技量と相まって非常に手強い。

 

 特に近接戦闘は明らかにこちらが不利だ。

 

 特にあの鎌『ネビロス』の直撃を受ければアンチビームシールドであっても容易く斬り裂かれてしまう。

 

 だが遠距離戦ではビームシールドを持っているアスタロスに致命的な損傷を与えるのは難しい。

 

 となればリスクはあれど、接近戦しかない。

 

 アストはフリージアを展開しながらアスタロスに『アガートラム』を放つ。

 

 そして同時に背後に回り込みバルムンクを横薙ぎに叩きつけた。

 

 しかしそんな動きすら読んでいたようにデュルクは逆手で対艦刀アガリアレプトを抜きイノセントに突きつけた。

 

 「なっ!?」

 

 眼前に迫る対艦刀を傷ついたアンチビームシールドで切っ先を逸らす。

 

 もう役に立たないと判断したアストは躊躇う事無くシールドを投棄。

 

 残った左手でサーベルを抜き、上段から振り下ろした。

 

 「流石、議長が認めるだけはある」

 

 デュルクは機体を半回転させ、ネビロスの持ち手を斜めに構えてサーベルを受け止める。

 

 「強い」

 

 それが偽りないデュルクに対する評価だった。

 

 しかし不意を突いた攻撃にすら反応してくるとは。

 

 もちろんそれにはカラクリがある。

 

 アスタロスには特殊なOSが搭載されていた。

 

 I.S.システムのデータから造られたこのOSが戦闘中に起動すると機体の反応が極端に上がる。

 

 同時にアルカンシェルの装甲を改良した全身を包むマントのような外装が展開され、凄まじい機動性を発揮できるのである。

 

 「さて―――ん?」

 

 どうイノセントを落とすかを考えていたデュルクに通信が入ってきた。

 

 内容は非常に単純で『ウラノス陥落』。

 

 ジブリ―ルも死亡したらしい。

 

 ならばここでの戦闘に意味は無い。

 

 「ハイネ、戦闘は終わりだ。退くぞ」

 

 「了解」

 

 ヴァナディスを引き離したヴァンクールは即座に反転、離脱する。

 

 それに合わせ、アスタロスもまたイノセントから離れていく。

 

 「待て! デュランダルは何をしようとしている!?」

 

 「私がそれを言うと思うか? だが、すぐに分かる」

 

 向こうが撤退したのはウラノスでの戦いに決着がついたという事だろう。

 

 「アスト君、大丈夫ですか?」

 

 「ええ、レティシアさんは?」

 

 「私も大丈夫です」

 

 あの二人を相手にしては新装備とレティシアが来てくれなかったら厳しかったかもしれない。

 

 しかしデュルクの言葉が気になる。

 

 彼はもうじき分かると言っていたが―――

 

 余計な考えを振り捨てるように頭を振るとアストは深くシートに座り込んだ。


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