機動戦士ガンダムSEED effect   作:kia

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第47話  ウラノス攻略戦

 

 

 

 

 

 暗い宇宙を通常ではありえない速度で動いている三つの機影が存在した。

 

 スレイプニルを装着したストライクフリーダムとインフィニットジャスティス

 

 そして高機動ブースターを装備したクルセイドイノセントの三機である。

 

 スレイプニルを装着した二機が先行し、それに追随する形で後ろからイノセントがついて行っている。

 

 とはいえ速度の差は大きかったのだろう。

 

 最初はギリギリとはいえついて行く事ができていたのに徐々に距離を開けられ、今では二機の姿を視認できない程に離されてしまっている。

 

 「『フリージア』を使うか?」

 

 追加武装である『フリージア』はスラスターとしても使う事ができる。

 

 これを展開すれば速度は上がりキラ達にも追いつけるだろう。

 

 しかし問題もある。

 

 この装備はやたらと目立つ。

 

 展開すればウラノスの部隊に発見されてしまう可能性があるが―――

 

 「いや、焦る必要はないか。もうすでに『ウラノス』の近くまで来ている」

 

 何時敵に遭遇してもおかしくない。

 

 アストは機体と装備の最終確認を行い、レーダーを見ながらウラノスに向かって一気に加速する。

 

 その時、コックピット内に甲高い警戒音が鳴り響いた。

 

 レーダーの示す方へ視線を向けると上方から突撃してくるダークブルーのモビルスーツが突っ込んでくる。

 

 「上!?」

 

 ビームサーベルを片手にこちらに斬りこんでくる機体はオーブで戦った黒い機体と形状が良く似ている。

 

 「スピードも速い!」

 

 アストは咄嗟に腕部のナーゲルリングⅡを引き出し、振りかぶられた光刃を受け止めた。

 

 受け止めたサーベルとナーゲルリングが鍔迫り合い激しく火花が散る。

 

 「アスト・サガミィィィ!!!!」

 

 「ヴィートか!?」

 

 通信機から聞こえてきたのはヴィートの声だ。

 

 やはりザフトもウラノスに侵攻している。

 

 だがここで新型と遭遇するとは。

 

 ヴィートはナーゲルリングを叩き折る勢いで力任せにサーベルを押し込んでくる。

 

 気迫が違う。

 

 押し込まれる前に一旦距離を取って体勢を立て直した方がいいと判断したアストは押し返す事をせず、横に流すように外側に向けて弾いた。

 

 「逃がすと思うか!! ここで貴様を討つ!!」

 

 サタナキアは下がるイノセントにビームライフルを連続で叩き込み、進路を塞ぎながら再び近接戦を仕掛ける。

 

 サーベルから対艦刀アガリアレプトに持ちかえ、横薙ぎに叩きつけた。

 

 「ヴィート!!」

 

 「貴様の言葉など聞く耳持つかァァァ!!!」

 

 左右から勢いよく振り抜かれた対艦刀がイノセントを斬り裂こうと襲いかかる。

 

 アストは後退しつつも、背中に装着していたバスーカ砲でサタナキアの動きを阻害しようと撃ち込んだ。

 

 だがヴィートは撃ち込まれた砲撃をものともせず、ビームランチャーを構えて砲弾をすべて消し飛ばした。

 

 「今はジブリールをなんとかする方が先じゃないのか!?」

 

 「だから貴様を放置しておけとでも言うのか! ふざけるな!!」

 

 砲弾を破壊した爆煙に紛れ、対艦刀の持ち手を伸ばし分離させるとビーム刃が発生、イノセントに向け投げつける。

 

 「チッ」

 

 爆煙の中から飛び出してきた曲線を描くブーメランをシールドで弾くとアストもビームサーベルを抜いた。

 

 「ようやくやる気になったか!」

 

 「悪いが先を急ぐ。お前に付き合っている暇は無いんだ」

 

 「なん、だと」

 

 その言葉はあの時―――

 

 オーブで言われた言葉だった。

 

 あっさりと一蹴されてしまったあの時と同じ。

 

 こちらの事は歯牙にもかけないとでも言いたいのか。

 

 ヴィートの中に今まで以上の激しい憎しみが湧きあがる。

 

 絶対に許さない!

 

 

 

 「貴様はァァァァァ!!!」

 

 

 

 その時、サタナキアのシステムが作動する。

 

 

 

 『I.S.system starting』

 

 

 

 ヴィートは今までに感じた事のない感覚に包まれる。

 

 視界が広がり、感覚が鋭く研ぎ澄まされた。

 

 すべてを感知できるような錯覚すら覚えそうになる。

 

 これこそが―――

 

 「これが……SEEDの力か!」

 

 サタナキアに搭載されたI.S.システムに関しては事前に説明を受けている。

 

 擬似的にではあるがSEEDの力を再現できるものだと。

 

 アルカンシェルと同じく、装甲が展開され、全身から光が放出される。

 

 装甲を翼に変えたその姿はまさに悪魔そのものだ。

 

 だが、それでいい。

 

 奴を倒す為なら悪魔に魂を売るくらいするとも。 

 

 「いくぞォォ!!」

 

 思いっきりフットペダルを踏み込むと対艦刀を構え、イノセントに向かって突撃した。

 

 

 

 

 イノセントとサタナキアの戦いが始まった丁度同じ頃。

 

 輸送艦で先行していたアオイとルシアはウラノスまで辿り着いていた。

 

 少し離れたデブリの陰に輸送艦を待機させるとそれぞれの機体に乗り込む。

 

 「少尉、もうすぐ『エンリル』からの先行部隊も到着する筈よ」

 

 「了解です。部隊が到着し、敵を引きつけたらウラノス内に侵入してあのビーム砲を破壊する」

 

 アオイ達もあの『レクイエム』の砲撃を見ていた。

 

 嫌な予感は的中した。

 

 何あんな兵器を用意していたとは自分達の見通しが甘かったと言わざる得ない。

 

 すでにあの兵器の特性も把握している。

 

 何としてもレクイエムだけは破壊しなければならない。

 

 あれはプラントはおろか、地球だって狙えるのだから。

 

 「これ以上撃たせませんよ」

 

 「ええ、行きましょう」

 

 ルシアは笑みを浮かべてアオイの言葉に頷くと、エレンシアとエクセリオンが出撃する。

 

 すでにこちらの動きを察知しているのか、敵モビルスーツはウラノスの前面に展開されていた。

 

  何とも不思議な光景だった。

 

 敵として目の前にいるのはザフトの機体ではなく、同じ機種のモビルスーツ。

 

 違いがあるとすればマクリーン派である事を示す白い線が塗装されている事くらいだろう。

 

 両陣営が徐々に近づき、武器を構えお互いが射程に入ると戦闘を開始する。

 

 お互いに一歩も引き事無く激しい戦いが繰り広げられていく中、二機のガンダムが戦場に現れた。

 

 RGXー01E 『カオスガンダム・ヴェロス』

 

 カオスガンダムを強化改修した機体であり各部スラスターを強化。

 

 フェールウィンダムで培われ改良されたフォルテストラを一部に装備する事で防御、機動性も向上し活動時間延長の為の改良も施されている。

 

 武装は基本的に変更はないが、機動兵装ポッドの代わりに試作型ドラグーンユニットを装備。

 

 これは空間認識力とは関係なく使用可能になっており、同時にスラスター兼用ミサイルポッド、グレネードランチャーなど火力も上がっている。

 

 そしてもう一機。

 

 GAT-X105Eb 『ストライクノワール・シュナイデン』

 

 中破したストライクノワールを強化改修した機体。

 

 カオスと同様の改良が施されており、武装も改修に伴い高出力化された。

 

 これらの機体に搭乗していたのは当然スウェンとスティングの二人である。

 

 「いくぜ!」

 

 「無茶するなよ、スティング」

 

 「分かってる!」

 

 カオスがスラスターを噴射し敵部隊に突っ込むとミサイルポッドを一斉に発射して薙ぎ払う。

 

 そして後ろからストライクノワールが続いた。

 

 ビームライフルショーティーを連射しながら、敵を撃ち抜き接近すると先端に装備したバヨネットで敵機を斬り裂いた。

 

 スウェンは操縦しながら機体の調子を確かめる。

 

 改修された機体は問題ない。

 

 スティングの方を見ると、いつも以上に動き回っている。

 

 背中に装備されているドラグーンユニットもきちんと使いこなしているし、あれなら心配ないだろう。

 

 二機が武装を巧みに使い敵部隊を圧倒。

 

 敵部隊を押し返す頃合いを見計らいスウェンは命令を下した。

 

 「『ヴィヒター』部隊、攻撃開始」

 

 「「「了解!」」」

 

 スウェンの合図と共に戦闘機の様な形の機体が攻撃を開始する。

 

 GAT-05M  『ヴィヒター』

 

 地球軍のマクリーン派が開発した連合初の可変型高性能量産モビルスーツ。

 

 オーブのムラサメから得た技術で簡略化された可変機構とシステムの改良でナチュラルでも操縦可能になっている。

 

 機動性を生かし、ウィンダムやダガーLを翻弄していくヴィヒター。

 

 背中のアータルⅡを発射。

 

 部隊を切り崩し、背後からモビルスーツ形態に変形したヴィヒターがビームサーベルで敵機を斬り裂いた。

 

 その性能にウィンダムは全くついて行く事ができない。

 

 しかし敵も一歩も退く事なくきっちり連携を取りつつ反撃してくる。

 

 「やらせない!!」

 

 撃破されていく味方に被害を少なくする為、戦場に飛び込んだアオイはサーベルを抜き、すれ違い様にダガーL斬り捨てる。

 

 放たれたミサイルをマシンキャノンで撃ち落とすと、後ろからルシアのエレンシアが高エネルギー収束ビーム砲を構え、敵機を薙ぎ払っていく。

 

 「中尉、スティング!!」

 

 アオイはストライクノワールとカオスの姿を見て歓喜の声を上げた。

 

 二人が来てくれれば心強い。

 

 「遅いぞ、アオイ!」

 

 「俺は最初からいたよ!」

 

 軽口を叩きながら、カオスが敵機をビームライフルで誘導。

 

 それの合わせてアオイはアンヘルを撃ち込んで消し飛ばした。

 

 「少尉、大佐、援護に来ました」

 

 「スウェン、助かります。スティング、油断は禁物よ」

 

 「分かってるって!」

 

 戦場は完全に拮抗状態となっている。

 

 マクリーン派の部隊は想像以上に善戦していた。

 

 エレンシア、エクセリオンに加え、ストライクノワールとカオスが戦線に加わっているのも大きいだろう。

 

 此処までは順調だ。

 

 出来るだけ数を減らしておけば後続部隊が楽になる。

 

 あくまでもロゴス派が今戦っているのは先行部隊。

 

 すぐ後ろからは本隊、さらに後ろにはザフトが控えているのだ。

 

 そしてロゴス派はさらに不利な状況に陥る事になる。

 

 

 

 

 激戦が開始された『ウラノス』

 

 そこに二つの機影が近づいてくる。

 

 スレイプニルを装着したストライクフリーダムとインフィニットジャスティスである。

 

 「すでに戦闘は始まっているようですわね」

 

 「うん」

 

 アストも後で追いついてくる筈だ。

 

 ならばアークエンジェルが来るまでに数を減らす。

 

 「ラクス、僕達も行こう!」

 

 「はい!」

 

 二機が戦場に突入するとすべての砲門を構えて一斉に撃ち出した。

 

 スレイプニルから放たれた強力な砲撃で、ウラノスを守る部隊が一掃されていく。

 

 強力な砲撃を前にロゴス派は近づく事もできず、撃破されていった。

 

 

 

 

 部隊を圧倒してく二機の姿はアオイ達からも確認できた。

 

 「あれって、フリーダム?」

 

 オーブで見た機体とも形状が違う。

 

 あれも新型だろうか。

 

 「大佐、あれは―――」

 

 「こちらに攻撃を仕掛ける気がないなら放って置きなさい」

 

 今同盟と敵対する必要はない。

 

 目的を履き違えてはいけない。

 

 あくまでも目的はジブリールなのだから。

 

 「了解です」

 

 「チッ、借りを返そうと思ったのによ」

 

 ダガーLをドラグーンユニットで撃ち落としながらスティングが不満そうに呟いた。

 

 アオイはアンヘルで敵機を薙ぎ払いながら、苦笑する。

 

 気持ちは分からなくも無いけどアオイとしては助かるというのが正直な感想だった。

 

 彼らの参入により敵の戦力は分散しウラノスを守っていた部隊に穴が空いた。

 

 押し込んでいけば一気に突破できる。

 

 アオイは敵陣の突入するとアンヘルを両手に回転しながら撃ち放つ。

 

 周囲の敵を消し飛ばし正面の敵に攻撃を加えていった。

 

 

 

 

 外で行われている激闘の様子をジブリールは忌々しげに睨みつけていた。

 

 そもそも先程放ったレクイエムはプラント首都アプリリウスを落とす筈の一射。

 

 しかし目論みは外れた。

 

 中継地点のコロニーを撃破された事でプラントを破壊もできず、逆に攻め込まれているという現実が許せなかった。

 

 さらに同盟がここまで追ってくるとは。

 

 拳を握り締め、モニターを睨む。

 

 今すぐにでもレクイエムで薙ぎ払ってやりたいところだが、エネルギーチャージまでにはまだ時間が掛かる。

 

 それまでは絶対に持ちこたえなければならない。

 

 ならばもう残ったカードを切る他道は残されていなかった。

 

 ジブリールは憤りに任せて声を上げる。

 

 「おのれぇ! ロズベルク、『スカージ』の調整は!?」

 

 「今、完了しました。『アルゲス』の方も問題ありません」

 

 ヴァールトの報告に頷くとオペレーターに怒鳴りつける様に指示を出した。

 

 「すぐに出せ! デストロイもだ!!」

 

 「り、了解!」

 

 怒りの表情から一転してジブリールは口元に笑みを浮かべる。

 

 新型とデストロイ。

 

 これで時間を稼ぎ、レクイエムのチャージが完了すれば敵部隊すべて一掃できる。

 

 今度こそ奴らを―――デュランダルを討つのだ。

 

 ジブリールは拳を握り締め、ここにはいない宿敵を睨みつけた。

 

 

 

 

 二機のモビルスーツが高速で動きながらも交差し、激突しては弾け飛ぶ。

 

 暗い宇宙を裂くように何条もの閃光が放たれる。

 

 しかしそれが目標に当たることはない。

 

 操縦桿を強く握りしめ、ヴィートは歯を食いしばる。

 

 サタナキアは全身から光を放出し、光学残像を残しながらひたすらにイノセントの姿を追い続ける。

 

 「落ちろ!」

 

 高速移動しながらもI.S.システムによる感覚拡張。

 

 より精度を増した射撃でイノセントを狙い撃つ。

 

 何度も。

 

 何度も。

 

 しかし―――当たらない。

 

 当たらないのだ。

 

 完璧なタイミングでの射撃にも関わらず、イノセントを捉える事が出来ない。

 

 「くそォォ!!」

 

 加速するイノセントの背後からライフルで牽制し、シールドに仕込まれたビームショットガンを撃ち込んだ。

 

 だがそれも敵機を捉えるには至らない。

 

 まるで背後に目がついているのではと錯覚しそうになるほど放ったビームを鮮やかに回避していく。

 

 上下、左右。

 

 機体を振り動く敵機に連続で撃ち込んだ攻撃はかすりもしない。

 

 それどころか逆にシールドを背後に向け、内蔵されているビーム砲でサタナキアを牽制してくる。

 

 「チィ!」

 

 ビーム砲の一撃を避け、反撃しようと試みる。

 

 だがそれを見越していたかのように振り向いたイノセントがバズーカ砲を連続で撃ち込んできた。

 

 撃ち出された砲弾をヴィートは機関砲で破壊するが、目の前が爆煙で覆われ視界を塞いでしまう。

 

 「この隙に距離を詰める!」

 

 前に出ようとした次の瞬間、強力なビーム刃がサタナキアに襲いかかった。

 

 イノセントの背中から放出されたワイバーンⅡである。

 

 「アレを受けたらやられる!」

 

 ヴィートはビームシールドで斬撃を受け止めるが、勢いに押されて吹き飛ばされてしまう。

 

 「ちくしょうが!」

 

 今はこちらもI.S.システムを使用している。

 

 奴もSEEDを使っていたとしても、条件は互角の筈なのだ。

 

 にも拘わらずこちらの攻撃が当たらない。

 

 その姿にヴィートは思わず呆然としてしまう。

 

 「……くっ、これがカウンターコーディネイターの――――本物のSEEDの力」

 

 ヴィートは歯が砕けるのではというほど強く歯噛みしながら、イノセントを睨みつけた。

 

 「この、バケモノがァァァァァ!!!!」

 

 叫びながらもイノセントのビームをやり過ごしてビームサーベルを振り抜く。

 

 しかしイノセントには届かない。

 

 イノセントは光刃をシールドで受け止め、逆に斬艦刀バルムンクを振り上げ斬り返した。

 

 「そんなものに!!」

 

 斬艦刀を後退して避け切ると、再び光刃を構えて叩きつけた。

 

 それもビームシールドによって阻まれ、激しい光が二機を照らした。

 

 ヴィートはスラスターを吹かし、サーベルを押し込んでいく。

 

 「ヴィート!!」

 

 「うるさい!!」

 

 負けてたまるものかと歯を食いしばる。

 

 信頼して託してくれた議長や隊長の為にもイノセントだけは落とさねばならない。

 

 「聞く耳持たずか」

 

 イノセントとサタナキアは攻防を繰り返しながら睨みあう。

 

 「当然だな」

 

 憎まれるのは仕方ない。

 

 それはザフトに入った時から覚悟していた事だ。

 

 だが、それと今の状況は別。

 

 ジブリールをどうにかする方が先なのだ。

 

 「だがお前の相手は後だ」

 

 サーベルを力任せに突き付けてくるサタナキアを突き放し距離を取った。

 

 その時再びコックピットに警戒音が鳴り響く。

 

 「増援か!?」

 

 アストは別方向から放たれた攻撃を振り切る。

 

 だがそれを待ち構えていたように回り込んで来た翼を持つ機体が対艦刀を振りかぶってきた。

 

 振りかぶられたのはアロンダイト。

 

 イノセントの目の前にいたのは特徴的なオレンジ色の機体。

 

 アストはナーゲルリングを展開して対艦刀を受け止めると敵機から知っている者の声が聞こえてきた。

 

 「久ぶりだな、アレン」

 

 「ハイネ!?」

 

 ラボで目撃していたデスティニーの同型機に乗っていたのがハイネだったとは。

 

 驚くアストにハイネはいつも通りに声をかけてくる。

 

 「こんな形での再会は残念だけどな。けど手加減はしないぜ! まあお前相手にそんな事していたら俺がやられるだろうしな」

 

 ザフトで一緒に戦ってきたが故にアストの実力は良く分かっている。

 

 ハイネとしてもアストと戦いたくはないが、これも任務。

 

 仕方がいないとすでに割り切っていた。

 

 アストはこんな時だというのに口元に笑みを浮かべた。

 

 ハイネはどうやらいつも通りのようだ。

 

 だが声を掛ける間も無く、新たな敵が襲いかかってきた。

 

 アストはヴァンクールの対艦刀を弾き飛ばすと、背後からビーム刃を発生させた鎌を振るってきた機体を迎え撃つ。

 

 「速い!」

 

 シールドで攻撃を防ごうと前面に掲げるが、鎌の斬撃を防ぐ事が出来ずに刃が盾に食い込んでいく。

 

 「斬り裂かれる!?」

 

 シールドを横にずらし、刃を外側に向け弾き飛ばす。

 

 そして逆手にサーベルを抜き放ち新型に斬り付けた。

 

 だが敵機は鎌の持ち手を前に出し、予想以上の反応で光刃を止めてみせた。

 

 「流石だ、アレン。初見でこれを防ぐとはな」

 

 「今度はデュルクか!?」

 

 不味い。

 

 特務隊の隊長を任されるだけあって、デュルクの実力は本物だ。

 

 そこにハイネとヴィートが加われば流石にこちらも厳しい。

 

 舌打ちするアストの視界にヴィートのサタナキアがビームランチャーでこちらを狙っているのが見えた。

 

 さらにハイネのヴァンクールも背中の高エネルギー長射程ビーム砲を展開している。

 

 防御か、回避か―――

 

 防御に回れば動きが止まり、回避しても体勢が崩される。

 

 その隙をデュルクの新型が突いてくるだろう。

 

 「できるだけ手札を見せたくは無かったけどな」

 

 出し惜しみして撃墜されたら何にもならない。

 

 アストはデュルクから距離を取り、背中に装備されたフリージアを射出する。

 

 イノセントに周囲に展開されたフリージアが光のフィールドを発生させ、二機から放たれた砲撃を防いで見せた。

 

 「なっ!?」

 

 「あんな装備まであるのかよ」

 

 これでは遠距離での戦いでイノセントを落とすのは難しい。

 

 三機は仕切り直すつもりか、一旦距離を取りイノセントの前に並び立つ。

 

 アストはサタナキアとヴァンクールの中央にいるデュルクの機体を見た。

 

 ZGMFーX94S『アスタロス』

 

 ザフトが開発した対SEEDを想定したモビルスーツ。

 

 今までの対SEEDモビルスーツのデータを収集して開発された機体だが、パイロットであるデュルクの希望でI.S.システムは搭載されていない。

 

 代わりに特殊なOSを搭載。

 

 I.S.システムのデータから造られたこのOSが戦闘中に起動すると機体の反応が極端に上がる。

 

 そしてアルカンシェルの装甲を改良した全身を包むマントのような外装が展開され、凄まじい機動性を発揮できる。

 

 ただしシステム起動無しでも外装展開は可能でアンチビームシールドと同じ効果を持ち、防御力も高い。

 

 「落ちつけ、ヴィート」

 

 デュルクの声にヴィートはやや冷静になる。

 

 しかしそれでも―――

 

 「隊長、こいつは―――」

 

 「お前は特務隊だろう。ならば今すべき事はなんだ? 任務を果たす事ではないのか?」

 

 「くっ!」

 

 「ここは私とハイネでやる。お前はウラノスで任務を果たせ」

 

 「……了解」

 

 サタナキアは徐々に後退していくと反転してウラノスの方へ向っていく。

 

 それを見届けたデュルクは再びアストに声を掛けた。

 

 「アレン、一応聞く。ザフトに戻ってくる気は無いか?」

 

 「何?」

 

 「お前の実力を議長は高く評価している。もちろん私もだ」

 

 「悪いが俺はこれ以上、デュランダルに利用されるつもりは無い」

 

 「そう言うだろうな。ならば仕方ない、ここで消えて貰うぞ。敵になればお前は厄介な相手だ。ハイネ!」

 

 アスタロスが持った鎌からビーム刃を展開すると、ヴァンクールもアロンダイトを振りかぶってくる。

 

 左右から挟むように攻撃してくる二機にイノセントもフリージアを展開しつつ、斬艦刀を構えて迎え撃つ。

 

 お互いに振りかぶった斬撃が火花を散らし、遠距離からの攻撃はすべて動き回るフリージアによって防がれる。

 

 両者の戦いは拮抗状態になっていた。

 

 宇宙を照らす何条もの線が交差する。

 

 何時までも続くかと思われた戦いの中、状況を変える乱入者が現れた。

 

 鎌を振りかぶるアスタロスの進路を塞ぐように、攻撃が撃ち込まれた。

 

 「なんだ?」

 

 「増援か」

 

 戦いに飛び込んで来たのは宇宙用の装備『リンドブルム01』を装備したヴァナディスだった。

 

 『リンドブルム01』は前大戦で使用されたリンドブルムの改良型。

 

 セイレーン01と同じく火力よりも宇宙空間での機動性強化に重点が置かれ、トワイライトフリーダムに搭載されているアイギス・ドラグーンが装備されている。

 

 「アスト君!!」

 

 「レティシアさん!?」

 

 レティシアは背中のドラグーンを射出して、イノセントから引き離すように四方からビームを撃ち込む。

 

 「あの機体は報告にあった新型の一機か」

 

 「ドラグーン!?」

 

 縦横無尽に動き回るドラグーンからの射撃をデュルクとハイネはシールドで防ぎながら後退する。

 

 動き回るドラグーンを迎撃しようとライフルを撃ち出すが、巧みな動きを捉える事が出来ない。

 

 「厄介だな」

 

 「なら本体を狙えば!」

 

 ハイネは高エネルギー長射程ビーム砲を構えてヴァナディスに撃ち放った。

 

 これでドラグーンの操作は乱れる筈。

 

 しかし予想に反し敵機は避ける気配がない。

 

 ヴァナディスにビームが直撃する瞬間、射出されたアイギスドラグーンがフリージアと同じようなフィールドを張り、砲撃を弾き飛ばした。

 

 「あの機体もあんな装備があるのかよ!?」

 

 ハイネは加速をつけながら後退し、ドラグーンの射撃を回避していく。

 

 「レティシアさん、どうして?」

 

 「準備が整ったので、アークエンジェルも追ってきたんですよ。途中でイノセントが戦闘しているのを確認したので援護に来たんです」

 

 それだけ結構な時間をヴィートに足止めされていたという事だ。

 

 ではキラ達はとっくにウラノスの到着している。

 

 ヴィートを逃がしてしまったのは失敗だったかもしれない。

 

 「ではアークエンジェルは―――」

 

 「ウラノスの方へ向かいました」

 

 「分かりました。俺達も此処を突破してウラノスに向かいましょう」

 

 「はい!」

 

 イノセントはヴァナディスと連携を取りながら、ヴァンクールとアスタロスを突破する為に戦闘を開始した。

 

 

 

 

 『ウラノス』を舞台としたロゴス派と反ロゴス派の戦いは続いている。

 

 宇宙を無数のモビルスーツが飛び交い、破壊された機体が爆発して暗闇を照らす。

 

 当然反ロゴス派のガンダムも各々が奮戦。

 

 さらに後から参戦したストライクフリーダムとインフィニットジャスティスもスレイプニルの砲撃で部隊を撃破する。

 

 ウラノスの戦いは激しさを増していき、徐々にロゴス派の方が押され始めていた。

 

 「このままいける」と誰もが考え、攻撃部隊の勢いは増していく。

 

 しかしこのまま勝てるほど敵も甘くはなかった。

 

 ウラノスから大きな黒い巨体が数機、出撃してきたのだ。

 

 あの機体を知らぬ者はいない。

 

 都市部や反ロゴス派の部隊を壊滅状態まで追い込んだ破壊の化身『デストロイ』

 

 そしてその中央には新型のモビルアーマーらしき機体がいた。

 

 YMAG-X10D 『スカージ』

 

 地球軍ロゴス派が開発した大型モビルアーマー。

 

 デストロイのデータを基にし、強力な火器を装備しながらも機体後方に装備された大型高出力ブースターにより驚異的な加速性能を誇る。

 

 さらに側面に接近戦用の大型ビームブレイド、対艦ミサイルや中型のドラグーンを装備した死角の無い機体となっている。

 

 ただし並の人間に操縦できる機体ではなく、事実上のエクステンデット専用機となっている。

 

 そしてそれらの周りにはオーブから脱出したシグルドと一緒に見た事も無い機体もいた。

 

 GAT-05L 『アルゲス』

 

 ロゴス派がシグルドのデータを基に開発させた高性能量産機。

 

 ヴァールト・ロズベルクが入手してきたデータを参考に、ナチュラルでも操縦可能なように設計され強力な火器を装備。

 

 それと別にパイロットの意志で武装の変更も可能となっており、汎用性も高い。

 

 背中の高機動スラスターによって地上での飛行も可能だがストライカーパックは装備できない。

 

 シグルドのコックピットの中でカースは興味が無さそうに戦場を見つめた。

 

 いや、実際にこんな戦いに興味はない。

 

 此処にいるのはあくまでも義理のようなもの。

 

 そのままスカージに指示を飛ばした。

 

 「№Ⅵ、やれ」

 

 「はい、カース様」

 

 スカージのブースターが点火し、一気に加速すると戦場に突撃する。

 

 アオイは敵機を撃ち落としながら現れた新型機を睨みつけた。

 

 「ロゴス派の新型か」

 

 デストロイの火力は重々承知している。

 

 最初にアレを落としたのはアオイなのだ。

 

 勿論あの新型機も放置できない。

 

 どのような性能を持っているかは分からないが、この状況で出してくるくらいだ。

 

 余程、性能に自信があるのだろう。

 

 「大佐、デストロイとあの新型の相手は俺がします!」

 

 「少尉」

 

 「お願いします。行かせて下さい」

 

 「いいわ。ただし私も行きます。いくら少尉でも一人では厳しいでしょうから。スウェン、指揮を頼みます」

 

 「了解」

 

 エレンシアとエクセリオンはスラスターを噴射させると、動き出したデストロイとスカージに向かっていった。




今回でジブリール関して決着をつけるつもりでしたが、時間が無くまたもや中途半端なところで終わりです。すいません。後日また修正、加筆します。

機体紹介2、3更新しました。

アスタロスのイメージはデスサイズヘル、スカージはガデラーザですね。

カオス、ストライクノワール強化案はドロイデンさんのアイディアを、アルゲスは刀鍛冶さんのアイディアを参考にさせてもらいました。ありがとうございました。

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