機動戦士ガンダムSEED effect   作:kia

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第46話  女神の一撃

 

 

 アオイとルシアを乗せた輸送艦が宇宙を航行している。

 

 行先は地球軍宇宙要塞『ウラノス』

 

 この要塞は現在ロゴス派の最後の拠点として使われており、残された兵力が続々と集結していた。

 

 それに対抗するように反ロゴス派はジブリールを捕らえようと『ウラノス』を落とす作戦を決行しようとしている。

 

 アオイとルシアはこの作戦に参加する為にウラノスに向け輸送艦で先行していたのである。

 

 とはいえアオイとしては心中複雑だった。

 

 ウラノスは初めての大規模作戦に参加する為に滞在し、そしてスウェンと出会った場所でもある。

 

 それをこれから落としに行く事になるとは。

 

 あの時は想像もできなかった。

 

 しかし手を抜く事は許されない。

 

 ジブリールを捕えねば戦いは終わらないし、放置しておけば何をするか分からない。

 

 決意を新たにアオイはブリーフィングルームに入る。

 

 「来たわね、少尉」

 

 「お待たせしました、大佐」

 

 ブリーフィングルームの席に着くと現在確認されているウラノスの戦力がモニターに表示された。

 

 確認されているだけでもかなりの数ようだ。

 

 「これだけの数は厄介ですね。しかも新型もあるんでしょう?」

 

 「ええ。入手できたのは図面だけだけど」

 

 表示されたのはモビルアーマーらしき機体だった。

 

 ただ分かるのは全体図のみ。

 

 武装などは何も分からない。

 

 そしてもう一機。

 

 こちらはモビルスーツらしい。

 

 名称も何もないがダガー系の特徴を残している。

 

 「ウィンダムの発展系? 武装等が分からないのは仕方ありませんか」

 

 「ええ、これらの機体が出てくると言う事が分かっているだけでもまだ良い方ね。それからもう一つ。これを見て」

 

 モニターに映ったのは何か筒状の物体だった。

 

 廃棄されたコロニーだろうか。

 

 「これは?」

 

 「以前にウラノス周辺に確認されていたものらしいわ。今は分散されて別の場所に配置されているみたいだけど、何に使われるか分からないから注意して」

 

 「マクリーン中将から何か情報はないんですか?」

 

 「ジブリールが何かを開発していた事くらいしか掴めていないそうよ」

 

 アオイの胸中に何か嫌な予感が湧きあがってくる。

 

 アレは破壊しなければならない。

 

 そんな焦燥感だけが募っていった。

 

 

 

 

 反ロゴス派が宇宙要塞『ウラノス』攻略に乗り出そうとしている頃。

 

 ウラノスに逃げ込んだジブリールも反撃の準備を進めていた。

 

 当然彼らが攻めてくる事は承知の上。

 

 おそらくはザフトも来る筈である。

 

 それはジブリールにとってまさに好都合であった。

 

 何故ならここまで自分を追いついめた連中に報いを与える事が出来るのだから。

 

 指令室のオペレーターに向け、ジブリ―ルは怒鳴り声を上げる。

 

 「『レクイエム』の発射準備はどうなっている!!」

 

 「各中継点への配置は完了していますが、現在エネルギーチャージ50%ほどです」

 

 「チッ、急がせろ!」

 

 「ハッ!」

 

 『レクイエム』

 

 ウラノス内部に設置された軌道間全方位戦略砲と呼ばれる巨大ビーム砲。

 

 これこそがジブリールの切り札であった。

 

 この兵器はウラノス内部に設置された巨大ビーム砲と周辺に配置された複数の廃棄コロニーから成っている。

 

 廃棄コロニーの内側にはフォビドゥンガンダムのゲシュマイディッヒ・パンツァーが設置。

 

 発射されたビームがコロニーの内部を通過すると軌道を変え、目標の対象物をカッターのように切断することが可能となっている。

 

 つまりコロニーの配置次第でどこでも狙う事が出来るのである。

 

 この兵器は本来月に建設される予定だった基地に設置されるはずだった。

 

 しかしテタルトスの存在により計画は頓挫、急遽ウラノスに設置される事になったのだ。

 

 威力は十分にあり、プラントや艦隊を容易く壊滅させるだけの出力を持っている。

 

 これさえ使えば決着はあっさり付く。

 

 懸念があるとすれば第一中継点のコロニーに何かが起きれば、目標への照準合わせが不可能となってしまう事。

 

 だがそれをさせない為の防衛部隊も配置してある。

 

 「ロズベルク、『スカージ』の方はどうなっている!?」

 

 「現在最終調整中です。後の機体も順次発進予定です」

 

 ヴァールトの報告にニヤリと笑う。

 

 後はチャージが完了次第反撃を開始するだけだ。

 

 歓喜の笑みを浮かべるジブリ―ルを尻目にヴァールトは背後に居るカースに声を掛けた。

 

 「さて、カース。君にも出て貰う」

 

 カースは何も言わず沈黙していたが、しばらくしてため息をつきながら頷く。

 

 「……まあ良いだろう。一応付き合ってやる。だが―――」

 

 「ああ、判断は君に任せる」

 

 「……了解した」

 

 カースは機嫌良くモニターを見るジブリ―ルに仮面の下から侮蔑と僅かな憐れみの視線を送る。

 

 「最後まで道化だったな。……行くぞ」

 

 「はい」

 

 傍に控えていた数人のラナシリーズを連れ指令室を出て行った。

 

 

 

 

 

 オーブの宇宙ステーション『アメノミハシラ』

 

 ジブリール追撃の命を受け、宇宙に上がったアークエンジェルはステーションのドックに接舷していた。

 

 ジブリールの行先が『ウラノス』である事は調査によってすでに判明している。

 

 しかしそれは反ロゴス連合、つまりザフトも同様に掴んでいる。

 

 つまり進軍を開始しても再びザフトと事を構える可能性は高い。

 

 その為何が起こっても良いように入念な準備が行われ、キラのストライクフリーダムとラクスのインフィニットジャスティスも合流していた。

 

 しかしここで問題が生じていた。

 

 トワイライトフリーダムとリヴォルトデスティニーに搭載されたC.S.システムの調整に時間がかかっているのである。

 

 現在アークエンジェルの格納庫で二機の調整が急ピッチで行われているのだが、簡単には終わりそうも無いと報告が上がっている。

 

 ブリッジでそのことを聞いたマユ達は頭を抱えた。

 

 この肝心な時に動けなくては意味がないというのに。

 

 「くそ! こんな時に!」

 

 「仕方がないよ、シン。『ウラノス』には僕達が『スレイプニル』を使って先行しますよ」

 

 「そうですわね」

 

 『スレイプニル』とは前大戦で投入された中立同盟の開発した高機動兵装の事である。

 

 モビルスーツの強化に重点が置かれた兵装で、前大戦でも多大な戦果をあげた。

 

 あれなら短時間で目的地までたどり着ける。

 

 現にここまでキラ達はようやく調整が終わった『スレイプニル』を使って合流したのだ。

 

 早く辿り着けばその分『ウラノス』の様子の確認や情報も手に入る。

 

 「なら俺も行く。二機だけじゃ危険だしな」

 

 「だけどアスト、今使える『スレイプニル』は二機分だけだよ」

 

 キラ達が装着してきたものはストライクフリーダムやインフィニットジャスティス用の調整が加えてある為、他の機体では装備できない。

 

 「大丈夫だ。イノセントの追加装備である高機動ブースターがある。あれを使えば『スレイプニル』程ではないけど、速度は出る。アークエンジェルの護衛はレティシアさんやムウさんに任せれば大丈夫だしな」

 

 それを聞いたレティシアは諦めたようにため息をついた。

 

 「……仕方ないですね。アスト君やラクスは待てと言っても無駄でしょうし。ただし無茶をしては駄目ですよ」

 

 「ええ」

 

 「分かっていますわ、レティシア」

 

 微笑むラクスに苦笑するレティシア。

 

 それをシンは不思議そうに見ていた。

 

 あのラクス・クラインが生きていて、モビルスーツのパイロットをしていると聞いた時はそれは驚いたものだ。

 

 それにあのティア・クラインとも顔はそっくりだが雰囲気が違う。

 

 ティアには無かった凛々しさというか、力強さのような物を感じるのだ。

 

 「ではアークエンジェルは予定通りでお願いします。僕とアスト、ラクスの三人が先行、『ウラノス』に向います」

 

 ブリッジを出ようとしたアスト達にマユが心配そうに声を掛けてくる。

 

 「アストさん、気をつけてくださいね。私達もすぐに追いかけますから」

 

 「ああ、ありがとう、マユ」

 

 アストに声を掛けるマユの様子をシンは横からジト目で見ていた。

 

 前から思っていたけど―――

 

 「……なんかアレンに対しては反応が違う気がする」

 

 「な、何を言ってるんですか、兄さんは! ラクスさんもキラさんも無茶しないでください」

 

 誤魔化すようなマユの態度がますます怪しい。

 

 そんなマユ達にキラは苦笑し、ラクスは微笑む。

 

 「ふふ、ありがとう、マユ」

 

 「僕達は大丈夫だよ」

 

 ラクスがマユの頭を優しく撫でアストやキラも安心させるように頷くと三人はブリッジを出た。

 

 格納庫では作業が既に済んでいるのか、イノセントに高機動ブースターと一緒に追加装備が装着されていた。

 

 ドラグーン式ビームフィールド発生装置『フリージア』。

 

 これはドラグーンシステムを応用したビームフィールド発生装置だ。

 

 防御フィールドを展開する事も可能でナーゲルリングⅡやワイバーンⅡと併用する事で強力なビーム刃も展開できる。

 

 さらにスラスターとしての使い方もあり、背中で連結させるとリヴォルトデスティニーの光の翼のようなフィールドを発生させ、高い機動性を得る事が可能な補助兵装となっている。

 

 「どうしたの、アスト?」

 

 「いや、ドラグーン系の兵装と戦った事は何度もあったけど、自身の武装として使うのは初めてだからな」

 

 正直なところキラやクルーゼのようにうまく使える自信はない。

 

 「アストなら大丈夫だよ」

 

 キラは励ますようにアストの肩を軽く叩き、ストライクフリーダムの方へ歩いていく。

 

 確かにこれ以上考え込んでいても仕方がない。

 

 「マードックさん、調整はどうですか?」

 

 「おう、後はコックピット周りだけだ」

 

 「ありがとうございます」

 

 アストはコックピットに乗り込むとキーボードを取り出して、調整を開始する。

 

 機体、追加装備共に問題はない。

 

 《アスト、そっちはどう?》

 

 「ああ、大丈夫だ」

 

 《では行きましょう》

 

 「了解!」

 

 キラとラクスに返事を返すとイノセントがカタパルトに移動し、正面のハッチが開く。

 

 他の追加武装にバズーカを背負うと、フットペダルを踏み込んだ。

 

 「アスト・サガミ、イノセントガンダム、行きます!」

 

 押宇宙に機体が飛び出すと背中のブースターが点火し一気に加速。

 

 スレイプニルを装着したキラ達と共にウラノス方面に向かって移動を開始した。

 

 

 

 

 誰も好き好んで岩やゴミが散乱する暗礁宙域を移動する者はいない。

 

 それは当然リスクが存在するからだ。

 

 岩やゴミにぶつかればよくて漂流、悪ければ死ぬ。

 

 これらは人ならば誰もが考える事であり、当然無人の物体がそれらを気にする事はない。

 

 ならば暗礁宙域を避け宇宙を移動するその物体もまた人の意思が介在しているのは誰の目にも明らかだった。

 

 宇宙機動要塞『メサイア』

 

 ザフトが第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦後に建造した機動要塞である。

 

 現在この要塞は非常に緊迫した状況にあった。

 

 それは最高議長であるデュランダルが滞在し、ジブリールを今度こそ捕らえる為の作戦が実行され様としていたからである。

 

 緊迫感の増す要塞では宇宙から上がってきたデュルクと合流したハイネが格納庫を眺めていた。

 

 そこでは機体を万全な状態にする為の調整が行われている。

 

 そして今、ヴィートの乗る新型機が戦場に向って出撃しようとしていた。

 

 ZGMFーX93Sb 『サタナキア』

 

 ステラが搭乗していたアルカンシェルの同型機。

 

 武装も扱いやすいものに変更され、展開される装甲も武装が排除された分、機動性強化に重点がおかれていた。

 

 デスティニーほどではないにしろ光学残像も発生させる事も可能である。

 

 ヴィートは機体を弄りながらも暗い闘志を燃やしていた。

 

 この機体の力を100%引き出せば相手が誰であろうと―――

 

 たとえアスト・サガミでも倒せる筈だ。

 

 「奴は絶対に許せない」

 

 この手で必ず倒して見せる。

 

 メサイアのハッチが開くとサタナキアはスラスターを吹かし、宇宙に飛び出していった。

 

 その様子をモニターで見ていたハイネは眉を顰める。

 

 「……いいんですか、デュルク隊長? ヴィート一人を先行させて。今回の作戦はあくまでも支援に徹するって聞いてましたけど」

 

 今回のウラノス攻略に関しては地球軍、つまりはマクリーン派が前面に立ち、ザフトは後方から支援に回るという風に通達がされていた。

 

 これは『オペレーションフューリー』におけるザフトの被害が決して少なくなかった事が主な理由だった。

 

 同時にこれは地球軍側の希望でもある。

 

 ウラノスは現在ロゴス派の拠点として使われてはいるが、それでも地球軍の施設である。

 

 ザフトに任せていたら拠点を徹底的に破壊されてしまう可能性があった。

 

 宇宙の足がかりが少ない地球軍側としてはそれは防ぎたい。

 

 だからウラノス内部の情報に詳しい地球軍で対処したほうが施設の被害を少なくできるとマクリーンは考えたのである。

 

 「構わない。あいつも特務隊、自分の事に責任くらいは持てる。それよりハイネ、お前は大丈夫なのか、アレンの事は?」

 

 ハイネもアレンの正体を聞いた時は驚きはした。

 

 同時にあれだけの技量を持っているのも納得できた。

 

 「まあ、アレンの事は色々複雑ですけどね。俺はヴィートと違ってそこまでアレンを敵視するつもりはありませんよ」

 

 「戦えるのか?」

 

 「そりゃま、複雑ではありますけど、俺は軍人ですからね。命令には従います」

 

 その答えにデュルクは満足したように頷いた。

 

 「それで十分だ。私達も機体の準備が整い次第出撃する」

 

 「了解!」

 

 ハイネは敬礼を取り、自身の機体であるヴァンクールの状態を確かめようと格納庫に連絡を取った。

 

 

 

 

 ザフトの三英雄と言えばプラントで知らない者はいない言うほど有名な存在である。

 

 ディアッカ・エルスマン、ニコル・アルマフィ、エリアス・ビューラー。

 

 彼ら三人はそれぞれに部隊を率い、今回の戦争でも大きな戦果を上げていた。

 

 周囲からは「流石は三英雄だ」などと揶揄されている。

 

 三人としてはそんなものは煩わしさしか無いのだが、それとは別に現在悩みがあった。

 

 とあるルートからもたらされた情報と彼らの前に現れた存在が頭を抱えさせているのである。

 

 彼らに追随するゴンドワナ級の隊長室に集まった三人はここ最近なって増えたため息を吐きだす。

 

 「ハァ、でどうするか決めたのか?」

 

 ディアッカの真剣な眼差しにニコルもエリアスも背筋を正す。

 

 「……まあ、全部あいつの懸念通りでしたからね。放っておくのは無理でしょう。それに保護した『戦艦』の方からも再三に渡って返事を聞かせてくれってせっつかれていますし」

 

 「ええ。彼らが嘘を言っているとは思えませんし、データもすべて本物でしたから」

 

 「だよなぁ。全く、なんでこうなるんだか」

 

 ディアッカは頭を掻き毟ると勢いよく立ちあがる。

 

 「しょうがない。俺達は約束通りに動くか」

 

 「はい」

 

 「ええ。まずは任務を終わらせましょうか。戦艦の偽装も終わっていると報告を受けていますし」

 

 ニコルやエリアスも立ち上がり、ブリッジに向かった。

 

 現在ディアッカ達に与えられている任務は不審な動きをするコロニーの調査である。

 

 数日前には動きが確認できなかったにも関わらず、ここ数時間で全く別の位置に移動して来たと報告を受けている。

 

 それは此処だけではない。

 

 別の場所にもいくつかコロニーが移動していると報告があったのだ。

 

 上層部としてはロゴス派の最終拠点である『ウラノス』攻略が始まろうとしている時に不確定要素は排除しておきたいのだろう。

 

 「どうなっている?」

 

 「はっ、もうじき目標地点です」

 

 「『戦艦』の方は?」

 

 「準備完了との事です」

 

 その時、正面に目標のコロニーが見えてきた。

 

 それを守る様に地球軍の艦隊も展開されている。

 

 ただの廃棄されるコロニーを守ろうとするには些か数が多すぎる。

 

 ロゴス派が護衛につく理由も不明。

 

 つまり何かがあるという事だ。

 

 「何かあるみたいですね」

 

 「ああ、こりゃ放っておけば面倒な事になりそうだな。良し、俺達も出るぞ! 彼らも出撃させろ!」

 

 「了解!」

 

 ゴンドワナ級の周りにいたナスカ級から次々とモビルスーツが出撃する。

 

 当然ディアッカ達も自身の機体であるイフリートに乗り込んで戦場に向かった。

 

 そして最後にゴンドワナ級から一隻の戦艦が出撃する。

 

 黒い外装に覆われたその戦艦はかつてザフト最強と謳われた――――ミネルバであった。

 

 「ブリッジ遮蔽、対艦、対モビルスーツ戦闘用意!」

 

 「了解!」

 

 艦長であるタリアの声に従い、淀みのなく皆が動き出す。

 

 幾度となく激戦を潜り抜けてきた彼らに戸惑いは無い。

 

 スカンジナビアで修復を終えたミネルバはディアッカ達に連絡を取り、アストからのメッセージを伝える為、極秘裏に合流していたのである。

 

 「でも、艦長、こんな所を特務隊に見つかったら……」

 

 「大丈夫よ。ここには彼らの目は届かないし、本艦は作戦中単独で動きます」

 

 いざとなれば外装に装備されたミラージュ・コロイドを使用して離脱する。

 

 もしもの時の話もつけてあるから問題はない。

 

 それよりも今は目の前の戦闘の方が重要だ。

 

 「敵が来るわよ! ルナマリアを出して!」

 

 タリアの指示が飛ぶ。

 

 格納庫にある機体にルナマリアが乗り込み、ヨウラン達と話しながら計器をチェックし始めた。

 

 「一応、初めての機体なんだから無茶すんなよ」

 

 「分かってるわよ。私だって赤なんだから」

 

 ヨウランに軽口を返すとハッチを閉じた。

 

 「大丈夫、訓練通りにやれば出来る!」

 

 ZGMF-X51Sα 『シークェル・エクリプスガンダム』

 

 テタルトスとの戦闘で中破したエクリプスをミネルバに残されていたインパルスのパーツで修復。

 

 破損したデスティニーインパルスのパーツを組み込んで改修を施した機体である。

 

 デスティニーインパルスで指摘されたエネルギー問題を解決するためにバッテリーを改良。

 

 背中にはデスティニーシルエットとエクリプスシルエットを混ぜ合わせたデスティニーシルエット02を装着している。

 

 当然従来のシルエットも装備可能である。

 

 《お姉ちゃん、気をつけてね》

 

 心配そうなメイリンを安心させようとウインクして返事をする。

 

 「了解! ルナマリア・ホーク、シークェル・エクリプス出るわよ!」

 

 ハッチからエクリプスが飛び出すとディアッカ達の部隊に追随する形で後を追った。

 

 

 

 

 ザフトの進路を阻むようにウィンダムやダガーL、さらにはかつてミネルバを追い込んだザムザザーまでもが立ちふさがる。

 

 近づくザフト機に向け一斉に放たれた砲撃とミサイルが襲いかかる。

 

 「やらせるかよ!」

 

 三機のイフリートが前面に出ると、砲撃を回避しながらミサイルを迎撃していく。

 

 爆発したミサイルの閃光に紛れ敵部隊が接近してきた。

 

 三機を囲むように敵部隊が武器を構えて襲いかかってくるが、三人共冷静に攻撃を捌き、反撃を繰り出していく。

 

 「やっぱり数は多いな!」

 

 「そうですね。これだけの数、やはり何かあります」

 

 「となるとあの廃棄コロニーは破壊すべきですね」

 

 「ああ、全軍に通達、廃棄コロニーを狙え!」

 

 ディアッカの指示に従い、全機がコロニーに向かって突撃する。

 

 暴れまわる三機の動きに感化され、ザクやグフと言った機体も勢いよく敵部隊を撃破せんと砲撃を放った。

 

 砲撃に紛れる様にルナマリアもまたコロニーに向け移動する。

 

 ザフトの部隊と連携は取らずあくまでも単独で動く。

 

 「邪魔よ!」

 

 スラスターを噴射させながらエッケザックスを引き抜き、ウィンダムを斬って捨てた。

 

 そしてビームライフルに持ちかえ敵機の胴体を破壊した。

 

 撃ち込まれた砲撃をやり過ごしながら、ビームライフルを連射、敵部隊を突破していく。

 

 順調に進むルナマリアの前に今度はあのモビルアーマーが立ちふさがった。

 

 「あいつは!」

 

 シンとセリスの二人掛かりで落としたモビルアーマーザムザザーだ。

 

 あの戦場にはルナマリアもいた。

 

 ザムザザーがどれだけの火力と防御力を持っているかは承知済みである。

 

 しかも今回は援護は誰もいない。

 

 自分一人。

 

 しかしルナマリアは動じてなどいなかった。

 

 「訓練の成果、見せてやるわよ!」

 

 ザムザザーが前面に装備されたビーム砲をこちらに向けてくる。

 

 アレに当たればその時点で終わる。

 

 でも―――

 

 「そんなものに!」

 

 撃ち出された強力な砲撃をバレルロールして回避、サーベラスを撃ち込んだ。

 

 ビームは直撃コースで向っていく。

 

 しかし砲撃が命中する寸前に展開された陽電子リフレクターによって、損害を与える事も出来ずに受け止められてしまう。

 

 「相変わらず面倒な装備。でも、もう弱点はわかってる!」

 

 遠距離戦では不利。

 

 何をやっても無駄だ。

 

 「なら!!」

 

 ザムザザーからの苛烈な砲撃にも怯まず、機体を加速させると懐に飛び込む。

 

 エッケザックスを一閃してリフレクター発生装置を破壊、すれ違い様にバロールを数発撃ち込んだ。

 

 砲撃に撃ち抜かれたザムザザーは火を噴き爆散、閃光になって消え失せた。

 

 「やれる!」

 

 アレンとの訓練は決して無駄ではなかった。

 

 ルナマリア自身が思っている以上に技量が向上している。

 

 ビームライフルで敵機を撃破し機体をコロニーに向けた瞬間、レーダーに反応があった。

 

 「くっ!」

 

 正面から撃ち込まれた何条かのビームをシールドで止めるとブルデュエルが銃口を向けていた。

 

 「そう簡単にはいかないってことね」

 

 連続で放たれるリトラクタブルビームガンの射撃を回避しながら、ルナマリアもビームライフルを撃ち返した。

 

 

 

 

 「ククク、やはり来たか馬鹿共めが」

 

 中継点に設置されたコロニーにザフトからの攻撃を受けたと報告を受けたジブリールは笑みを深くした。

 

 こういうのを飛んで火にいる夏の虫と言うのだろう。

 

 準備はすでに完了しているのだ。

 

ザフトの部隊諸共薙ぎ払ってやる。

 

 「照準はどうしますか?」

 

 オペレーターの質問にジブリールが怒鳴り返した。

 

 「アプリリウスに決まっているだろう! 奴も、デュランダルもそこにいる筈だ!」

 

 「り、了解!」

 

 目標であるプラント首都アプリリウスには宇宙に上がったデュランダルもいる。

 

 そこを落とせばデュランダルは死に、すべてに決着がつく。

 

 そこから反撃が始まるのだ。

 

 裏切った連中に、邪魔をした愚か者達に報いを与える。

 

 そして再び世界の覇権を取り戻す。

 

 「照準入力開始、目標点アプリリウス!」

 

 オペレーター達の復唱が司令室に響き渡り、着々と発射準備が進められていく。

 

 ウラノスの外壁が開き、巨大な砲身が姿を現した。

 

 「トリガーを!」

 

 司令が頷くとジブリールは前にせり出されたトリガーを掴んだ。

 

 「さあ、デュランダル!! これが貴様らに奏でられる鎮魂歌だ!!」

 

 ジブリールはトリガーを力一杯押し込んだ。

 

 だが彼は知らなかったのだ。

 

 中継点に彼にとっての最悪の相手―――ミネルバが存在している事に。

 

 

 

 

 ミネルバの周囲に取りついたモビルスーツに向け絶え間なくミサイルが発射され、同時にトリスタンが敵機を狙う。

 

 「トリスタン、撃てぇ――!!」

 

 アーサーの声に合わせトリスタンが火を噴き、ウィンダムを薙ぎ払っていく。

 

 ここまでは順調に敵部隊を押している。

 

 何もなければ遠からず敵を排除できるだろう。

 

 しかしあのコロニーの用途が分からない。

 

 一体アレを何に使うつもりなのか。

 

 そんな風に警戒していた事が幸いしたのか、メイリンが気がついた。

 

 「これは……」

 

 「どうしたの?」

 

 「コロニーが動いています」

 

 モニターに映ったコロニーを見ると確かに設置されたスラスターが噴射し、微妙に動いている。

 

 「一体何の為に?」

 

 嫌な予感がしたタリアは即座に決断を下す。

 

 何か起きる前に排除する。

 

 「タンホイザー起動、照準前方スラスター!」

 

 ミネルバの艦首が解放。

 

 砲口が顔を出し光が集まっていく。

 

 コロニーが動いている事は外壁近くでブルデュエルと交戦していたルナマリアも確認していた。

 

 ミネルバがスラスターを狙うなら、自分の役目はタンホイザーの邪魔をさせないことだ。

 

 「アレに邪魔させる訳にはいかないわね」

 

 面倒な事にあと数機ザムザザーがいる。

 

 陽電子リフレクターを展開させる訳にはいかない。

 

 ブルデュエルの射撃を避け、シールドを叩きつけて突き放す。

 

 そしてタンホイザーの射線に割り込もうとしたザムザザーにサーベラスを叩き込んだ。

 

 エクリプスの砲撃に邪魔をされ、進路を上手く取れないザムザザーは後退せざる得ない。

 

 リフレクターを展開出来ねば、ただ撃破されてしまうだけだからだ。

 

 「行かせないわ!!」

 

 ザムザザーを牽制していたルナマリアの背後からビームサーベルを片手にブルデュエルが飛び込んでくる。

 

 しかしそれは想定済みだ。

 

 「甘いのよ!」

 

 機体を沈み込ませ光刃を潜る。

 

 そして逆手に抜いたビームサーベルをブルデュエルの中心に突き入れた。

 

 パイロットであったラナシリーズの一人は叫ぶ間もなく蒸発。

 

 動きを止めた敵機に向けルナマリアは回し蹴りを食らわし、コロニーのスラスターの方へ蹴り飛ばした。

 

 「丁度良い、利用させてもらう!」

 

 エクリプスはブルデュエルに向け、サーベラスを構える。

 

 砲口から放たれたビームがブルデュエルを完璧に捉え、コロニーのスラスターごと爆散する。

 

 それを確認したルナマリアは即座に離脱を図った。

 

 同時にタンホイザーに光が集まるとタリアが叫ぶ。

 

 「撃てぇぇ―――!!!」

 

 タンホイザーからの砲撃がスラスター諸共外壁を貫通し、コロニーは大きくバランスを崩した。

 

 

 

 その瞬間―――閃光が駆け抜ける。

 

 

 

 どこからか撃ち出された強力なビームがバランスを崩したコロニーを巻き込んで、宇宙を斬り裂いていった。

 

 誰もが突然の事に言葉も無い。

 

 呆然としていたタリアは正気に戻ると即座に指示を飛ばした。

 

 「何が起きたの!?」

 

 その言葉によって皆が正気に戻ると慌ただしく動き出す。

 

 「少し待って下さい!」

 

 他の部隊から送られてきたデータを回してもらい解析して、モニターに表示する。

 

 「これは!?」

 

 それでようやくカラクリが読めた。

 

 あのコロニーにはゲシュマイディッヒ・パンツァーが搭載されており、発射された強力なビーム砲を歪曲させ目標を破壊するという兵器なのだ。

 

 データから推察するにおそらく発射された場所は『ウラノス』

 

 つまり中継点のコロニーの配置次第でどこでも狙い撃つ事が出来る訳だ。

 

 もちろんプラントも例外ではない。

 

 いや、今の一射はプラントを狙っていたのかもしれない。

 

 ミネルバからのデータを受け取ったディアッカ達も歯噛みした。

 

 彼らが居なければプラントに甚大な被害が出ていた可能性があったのだから。

 

 「くそ! あれを落とせ!!」

 

 ディアッカやニコル、エリアスが残った敵機を薙ぎ払い、射線を確保するとザクが一列に並びオルトロスが発射される。

 

 一斉に発射された閃光がコロニーに外壁を抉り、真っ二つに引き裂かれて崩壊していく。

 

 それを確認した残存のロゴス派の機体は撤退していった。

 

 だがザフトに追撃するほどの精神的な余裕は無い。

 

 もう少しで自分達の住む場所が薙ぎ払われていたかもしれないのだから。

 

 

 

 

 ウラノスに向かって移動していたヴィートも宇宙を照らした閃光を確認していた。

 

 「あれは……敵の新兵器か! くそ!!」

 

 ヴィートは操縦桿を殴りつける。

 

 これ以上奴らの好きにさせてはならない。

 

 確実に倒さなければ、被害が増える一方だ。

 

 今まで以上に機体を加速させ、ウラノスに急ぐ。

 

 そんなヴィートに前に地球軍と思われる部隊の姿が見えた。

 

 どうやら戦場から引き揚げてきたらしい。

 

 敵もこちらの存在に気がついたのか、攻撃を仕掛けてくる。

 

 「地球軍め! 邪魔だ!!」

 

 敵機からのビームの雨を軽く回避し、接近すると対艦刀『アガリアレプト』を振り抜いた。

 

 ビーム刃が敵の胴体を容易く斬り裂き、大きく爆散する。

 

 その爆発に紛れ後ろに回り込んだウィンダムがビームサーベルで突きを放ってくる。

 

 しかし、あまりに遅い。

 

 ヴィートはその刃が機体に届く前にシールドをコックピットに突きつけ、内蔵されたショットガンを叩きこんで吹き飛ばす。

 

 さらに左右から挟みこむようビームサーベルを振るってきたウィンダムの斬撃を無造作に払いのけ、対艦刀を横薙ぎに振り払った。

 

 刃がウィンダムのコックピットを捉えパイロット諸共消し去った。

 

 その戦いぶりにパイロット達は叫び声を上げる。

 

 「うわあああ!」

 

 「あ、悪魔だぁぁ!!」

 

 サタナキアは止まらない。

 

 恐慌を起こし動けない者にも容赦せず、ビームランチャーで敵機諸共母艦を撃ち落とした。

 

 敵部隊は纏めて破壊され、大きな閃光になって宇宙のゴミとなる。

 

 ヴィートはそんな連中には興味も失せたように一瞥するのみで、その場を離れた。

 

 「余計な時間を食ったな」

 

 移動を開始したヴィートは、再び甲高い音を鳴らすレーダーの反応に顔を顰めた。

 

 また地球軍だろうか?

 

 「……放ってもおけないか」

 

 ロゴス派の好きにはさせない。

 

 そう意気込むがヴィートが捕捉した相手は地球軍などではなかった。

 

 視界に映ったのは見覚えのある白い機体。

 

 オーブで屈辱を与えられた仇敵の姿。

 

 「あれは!?……フ、フフ、ハハハハ! 初めて神がいるって信じそうになったよ!!」

 

 こんなにも早く再戦できるなど誰が思うだろうか。

 

 歓喜と憎悪の表情を浮かべビームサーベルを構えると―――――イノセントに突撃する。

 

 

 「アスト・サガミィィィィ!!!!」

 

 

 すべての怒りと憎しみを込めた光刃が振り抜かれた。




外伝を投稿しようと思ったのですが、あまりに出来が悪いのでやめました。

機体紹介2更新、機体紹介3投稿しました。

シークェル・エクリプスのデスティニーシルエット02は刹那さんのアイディア。
イノセントの追加武装フリージアはakaさんのアイディアを使わせてもらいました。
ありがとうございました。

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