機動戦士ガンダムSEED effect   作:kia

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第44話  解放された光

 

 

 

 

 

 

 ルシア・フラガが目の前に居る敵と初めて対峙したのは、この戦争の発端ともいえるアーモリーワンでの戦いだった。

 

 自分はエグザスに乗り、そして相手は白いザクファントムに搭乗していた。

 

 こうしてあのパイロットと銃を向け合っている今の状況。

 

 これまでの戦いはルシア達が避けようとしていた事象そのものと言える。

 

 自分と同じ血を持つ者達との争いだけは避けたかったというのに。

 

 皮肉としか言いようがない。

 

 レジェンドの射撃を潜り抜けたエレンシアは対艦刀ネイリングを握って斬り込んだ。

 

 しかしルシアの動きを読んでいたレイは横薙ぎに払われた対艦刀を余裕で回避。

 

 逆にデファイアント改ビームジャベリンを構えて上段から振り抜いてきた。

 

 だがレイが動きを読めると言う事はルシアもまた動きを読めるのだ。

 

 レジェンドの攻撃を予測していたルシアはシールドで刃を止め、同時に対艦刀を振り抜いた。

 

 「チッ、やるな」

 

 「前と同じで動きが読まれている」

 

 相手を斬り裂かんと何度も剣撃を繰り出すも、すべてが空を切っていくのみ。

 

 埒が明かない。

 

 レイはエレンシアを突き放し、背中のドラグーンとビームライフルを前面に構えて撃ち出した。

 

 一斉に放たれた閃光がエレンシアに迫る。

 

 「くっ!?」

 

 何条ものビームが一斉に向かってくれば普通は防御するだろう。

 

 だがルシアは防御せず、襲いかかるビームの嵐に対しあえて前に出た。

 

 これだけのビームを前に受けに回れば、確実に態勢を崩される。

 

 そうなればさらに不利な状態に追い込まれると判断したルシアは前に出たのだ。

 

 エレンシアの装甲にビームが掠めていくが構わない。

 

 必要最低限の回避運動だけで襲いかかる閃光を避け切り、ネイリングを叩きつける。

 

 「すべて避けるか!」

 

 「そんなものには当たらない!」

 

 振った対艦刀を止めたレジェンドのシールドが光を発し、二機が睨み合うように膠着状態となる。

 

 そこでルシアの耳にレジェンドからの声が聞こえてきた。

 

 「流石だな、ルシア・フラガ」

 

 「なっ!?」

 

 動揺しながらも距離を取ったルシアは背中の砲身を構え実体弾を撃ち出した。

 

 迫る砲弾を前にレイは焦る事無く腕を突き出し、シールドで容易く攻撃を防ぎきった。

 

 ライフルを突き付けてくるレジェンドを前にルシアは堪らず声をかけていた。

 

 「……私を知っているの?」

 

 「当然だろう。あのモビルアーマーのパイロットが貴様であると知ったのは最近だが」

 

 別に目の前の敵が自分の事を知っているのはおかしくはない。

 

 彼は間違いなくラルスのクローンだ。

 

 オリジナルであるルシア達を知っていても不思議はない。

 

 しかしラルスとルシアの違いをどうやって気がついたのだろう。

 

 それともそれだけ彼の感覚が鋭敏という事なのか。

 

 だが思案する間もなく再びレジェンドは背中の砲口をこちらに向けてきた。

 

 「何故私だと気がついたの?」

 

 「それは愚問だろう。俺達は姉弟だ。それにウィンダムに乗っていた貴様の動きと全く同じ。気がつない方がどうかしている」

 

 フラガ家の血筋というのは因果なものだ。

 

 こうして機体越しだというのに、相手の事が分かってしまうのだから。

 

 「貴方は何故はザフトにいるの!?」

 

 ルシアはビームライフルで牽制しながらレジェンドの懐に飛び込まんとスラスターを噴射させた。

 

 しかし刃はレジェンドを捉える事はない。

 

 「答える義務はないと言いたいところだが教えてやる。今のこの世界を終わらせ、議長が創る新たな世界の為にだ!!」

 

 激情と共に振り下ろされたデファイアント改ビームジャベリンを咄嗟にシールドを前に出し受け止めた。

 

 「その為に邪魔な者はすべて排除する! 貴様もオリジナルであるラルス・フラガもそして―――アオイ・ミナトもだ!!」

 

 「くっ」

 

 弾かれ距離を取ったルシアにレジェンドから発せられたビームの暴雨が襲いかかった。

 

 

 

 

 ルシアとレイの戦闘が激しさを増す中、そのすぐ傍ではアオイとデュルクが激突していた。

 

 背後から襲いかかるシグーディバイドの一撃を旋回しながら避け切り、シールドのビームガンで牽制する。

 

 だが流石は特務隊と言ったところ。

 

 アオイの射撃をいとも容易く避け切ると今度はビームランチャーを構えてエクセリオンに撃ち込んで来た。

 

 「くっ」

 

 シールドを掲げ機体を急上昇、迫る閃光をやり過ごす。

 

 だがすぐにコックピット内に警官音が鳴り響く。

 

 側面から回り込んだデュルクが対艦刀を繰り出してきたのだ。

 

 「今のは囮か!」

 

 「今日こそ落とさせてもらうぞ。アオイ・ミナト」

 

 「誰がやらせるかよ!!」

 

 機体を沈み込ませ刃を避けるとスラスターを吹かし、シグーディバイドに思いっきり体当たりを食らわせた。

 

 「ぐっ!」

 

 「チィ!」

 

 アオイは衝撃を噛み殺し、ビームサーベルを引き抜く。

 

 そして体勢を崩しながらも牽制してくるシグーディバイドに斬り込んだ。

 

 「何でそこまで俺を狙う!? デュランダルの言っていた世界の為か!?」

 

 ジブラルタルに潜入した際、デュランダルは言っていた。

 

 『初めからすべてが決まった世界を創りたい』と。

 

 未だその真意のすべてを理解はできない。

 

 だが彼がロゴスを排除した後で何かをしようとしている事だけは間違いなかった。

 

 しかし何故アオイが邪魔なのかは分からないまま。

 

 デュルクは速度の乗ったエクセリオンの斬撃を弾き、対艦刀を逆手に持ちかえ振り上げながらアオイの質問に答えた。

 

 「……お前の存在そのものが議長が創ろうとされている世界とっての異物だ。だから議長はお前を排除しようとされているのさ」

 

 「アンタもなのか? アンタもすべて初めから決まっている世界なんてものが良いと思っているのか?」

 

 「関係ない。私は軍人、上の命令に従うだけだ。それらの正否など私が考える事ではない。それは政治家の仕事だ」

 

 「そうかよ。でもどんな理由であれ、俺は死ぬ訳にはいかない!」

 

 「なら足掻いてみろ!!」

 

 アオイはシグーディバイドを突き放し、マシンキャノンを撃ち込みながら肉薄する。

 

 「このまま押し切る!」

 

 「甘い」

 

 シグーディバイドはエクセリオンの放った光刃を止めず、流しながら斬り返してきた。

 

 「対艦刀ではその機体相手では不利か」

 

 デュルクは対艦刀からビームサーベルに持ちかえ、エクセリオンと斬り結ぶ。

 

 確かに対艦刀の威力は絶大だ。

 

 しかしその刀身はサーベルなどの攻撃に対して耐性がない。

 

 正面からぶつかれば折られてしまう。

 

 「強い!」

 

 「特務隊隊長を任されているのは伊達ではないという事だ!」

 

 これまでの戦闘で分かっていたがデュルクの技量は高い。

 

 紛れも無い強敵である。

 

 機体性能に差がありながらもここまで戦える事が彼の力量を示している。

 

 「だけど負けられないんだよ!」

 

 アオイはビームサーベルを振るいながらもデュルクの動きを観察する為に、敵機を凝視する。

 

 すべては生き残る為に。

 

 

 

 

 戦場の各所でエース同士の激突が繰り返されている。

 

 二機のデスティニー。

 

 トワイライトフリーダムとベルゼビュート。

 

 ヴァナディスとザルヴァートル。

 

 アルカンシェルとイノセント。

 

 そして此処でも二隻の戦艦が空を斬り裂く閃光を撃ち合っていた。

 

 フォルトゥナとアークエンジェルである。

 

 「パルジファル、撃てぇー!!」

 

 「迎撃!!」

 

 ミサイルがアークエンジェルに襲いかかり、砲撃がフォルトゥナの装甲を掠めていく。

 

 ほぼ互角。

 

 撃ち込まれた砲撃は尽く互いの戦艦を落とすに至らず、ダメージだけが蓄積されていった。

 

 「流石、不沈艦と呼ばれるだけはあるわね」

 

 ヘレンは素直に感心していた。

 

 フォルトゥナは紛れもなく最新鋭の戦艦である。

 

 ミネルバの戦闘データを蓄積して開発され、性能的にフォルトゥナの方が確実に上だ。

 

 それをここまで拮抗してくるとは見事と言うほかない。

 

 「負ける訳にはいかない。イゾルデ、照準―――ッ!?」

 

 艦首中央にある三連装砲『イゾルデ』を発射しようとした時、別方向からの攻撃によって破壊され大きな振動が襲いかかった。

 

 攻撃を仕掛けたのはオウカに乗り、前線から戻ってきたアドヴァンスストライクであった。

 

 「アークエンジェルはやらせないってね! マリュー!!」

 

 ムウの声に反応したマリューが声を上げた。

 

 「潜航準備!!」

 

 アークエンジェルの船体が勢いよく海中に沈んでいく。

 

 それを見たヘレンは歯噛みした。

 

 潜られてしまったらフォルトゥナに攻撃手段はない。

 

 急いで退避を命じようとするが遅かった。

 

 ヘレンが命令を出す前に海中からの砲撃がフォルトゥナに襲いかかる。

 

 「ぐぅ、回避! 急いで!」

 

 「了解!」

 

 ヘレンは拳を握り締め、憤りのまま海中に沈んだ敵艦を睨みつけた。

 

 

 

 

 激闘が続く中、兵士達からの追撃を避け、走り続けたジブリールはようやく目的地に辿り着く。

 

 屈辱であり、惨めだった。

 

 こんな所まで追い込まれるなど。

 

 だがそんな鬱屈した感情も目の前にあるものを見た瞬間、吹き飛んだ。

 

 そこに佇んでいたのは世界でもある種もっとも嫌煙されているだろうモビルスーツが存在していたからだ。

 

 脚部にはブースターユニットらしきものが装着され、傍には護衛と思われるヴェルデバスターも鎮座している。

 

 「ロズベルク、これは―――」

 

 「これで脱出します。ジブリール様、これに着替えてください」

 

 手渡されたのはパイロットスーツだった。

 

 という事はこれを使って宇宙に上がるつもりなのだろう。

 

 「貴様、こんなものをどこで手に入れた?」

 

 「彼が宇宙で調達してくれたんですよ」

 

 コックピットを見上げるとカースから出てくるのが見えた。

 

 「カース、手間をかけたね」

 

 カースは不機嫌そうな雰囲気を隠そうともせず、鼻を鳴らす。

 

 「……ふん、さっさと行くぞ」

 

 「了解だ。さあ、ジブリール様、宇宙に参りましょう。そこから貴方の反撃が始まります」

 

 その言葉にジブリールは拳を強く握る。

 

 ここからなのだ。

 

 すべての愚か者どもに報いを与える。

 

 その為にも自分が宇宙に上がらねばならない。

 

 ジブリールはある種の使命感にも似た感情に突き動かされ、喜々とした表情でモビルスーツの方へ歩み出した。

 

 だから彼は気がつかない。

 

 傍でカースが侮蔑の視線を向けていた事を。

 

 そしてヴァールトがどこか愉快そうに見つめていた事に最後まで気がつかなかった。

 

 

 

 

 大空を舞う翼から光が放出され、残像を伴いすれ違う。

 

 その度に振るわれた刃が火花を散らした。

 

 「はああああ!!」

 

 「このォォォ!!」

 

 アロンダイトがリヴォルトデスティニーの装甲を削り、コールブランドがデスティニーの下腹部を抉る。

 

 戦況はほぼ五分。

 

 最初は押していたデスティニーも今は上手く攻めきれていない。

 

 これはシンが最初は無意識にジェイル達との戦いに躊躇いを覚えていた事。

 

 そしてようやくリヴォルトデスティニーで戦う事に慣れてきたという理由があった。

 

 「チッ、しつこい!」

 

 「やらせないっ言ったろ!」

 

 ジェイルはリヴォルトデスティニーを突き放し、一瞬で距離を詰めるとアロンダイトを振り下ろす。

 

 それを捌いたシンも負けじと光刃を叩きつけた。

 

 二機はお互いに振り抜いた刃を受け止め、睨みあう。

 

 「今だ!!」

 

 シンはここで勝負に出る。

 

 先程のパルマフィオキーナ掌部ビーム砲のお返しである。

 

 リヴォルトデスティニーは刃を押し込み、一瞬だけ力を緩める。

 

 それはジェイルからすればまたとない好機だった。

 

 「はああああ!!」

 

 アロンダイトを思いっきり下段から振り上げリヴォルトデスティニーを吹き飛ばした。

 

 その隙に剣を構え直し加速をつけて突撃する。

 

 「これで終わりだ!」

 

 しかしジェイルはどこか妙な違和感のようなものに気がついた。

 

 まるで誘われているような、嫌な感じだった。

 

 だから無意識だったのだろう。

 

 咄嗟に操縦桿を引いていたのは。

 

 だが結果的にその判断がジェイルを救う事になる。

 

 次の瞬間、リヴォルトデスティニーの背中にある『ノートゥング』の銃口からロングビームサーベルを展開され、前面に振り上げてきたのだ。

 

 「なっ!?」

 

 先程のシンと同じく完全に虚を突かれてしまった。

 

 だがすでに後退していたデスティニーはサーベルの直撃を受ける事無く、肩装甲を斬り裂かれただけに留まった。

 

 「避けた!? でもまだァァ!」

 

 もう一撃、背中に装備されたアラドヴァル・レール砲をデスティニーに叩き込んだ。

 

 ジェイルは砲弾の直撃を受け、大きく吹き飛ばされてしまう。

 

 「ぐぅぅ!! くそ、あんな武器が装備されていたとはな!」

 

 先程感じたものの正体はこれだった。

 

 パルマフィオキーナ掌部ビーム砲の策を使った時とまるで同じ戦法に違和感を覚えたのだ。

 

 シンもまた攻撃をかわされた事に驚愕する。

 

 完璧に誘い込んだ筈にも関わらず、損傷も軽微に留まってしまった。

 

 「誘いが甘かったって事か!」

 

 「やってくれるじゃないかよ!」

 

 再び戦いは振り出しに戻る。

 

 二機のデスティニーは手に剣を持ち、睨み合った。

 

 

 

 

 各地で戦いは続いていく。

 

 だがここでついに事態が動いた。

 

 オーブの一角。

 

 崖から出現したハッチが開くとカタパルトがせり出され、一機のモビルスーツが現れる。

 

 それを見た全員が驚愕した。

 

 「あれは……」

 

 「まさか……シグルド!?」

 

 最も忌むべき機体の脚部にはブースターユニットが装着され、今にも飛び立とうとしている。

 

 そこでカガリも気がついた。

 

 ジブリールはあれで宇宙に上がるつもりなのだ。

 

 「配備していた部隊でシグルドを撃ち落とせ! 脚部のブースターユニットを破壊すれば奴らは宇宙には上がれない!!」

 

 「はっ!」

 

 できればマユやレティシアなどの機体も向かわせたいところ。

 

 しかし彼らはザフトの新型を抑えている。

 

 カガリに指示で近くに配備されていたナガミツやムラサメがシグルドのブースターユニットを破壊しようと接近した。

 

 だが彼らは下方から放たれた砲撃によって撃ち落とされてしまった。

 

 そこにはオーブのシュライクを装備したヴェルデバスターが複合バヨネット装備型ビームライフルで狙撃体勢を取っている。

 

 「№Ⅲ、任務を果たせ。その後は分かってるな?」

 

 カースからの命令を受けたラナシリーズの一人、№Ⅲはなんの感情も見せず淡々と答えた。

 

 「はい。任務完了後は機密保持の為、自爆します」

 

 迎撃しようとするオーブ機に対しミサイルやビーム砲で薙ぎ払いシグルドの進路を確保する。

 

 「くそ!」

 

 「近づけん!」

 

 オーブ機は迎撃され、他に増援を送ろうにも位置が遠すぎる。

 

 このままでは逃げられてしまう。

 

 しかしまだ間に合う位置にいた機体が存在した。

 

 エクセリオンとエレンシアである。

 

 飛び立とうとするシグルドの姿を見たアオイは即座に判断した。

 

 「大佐、ここを頼みます!!」

 

 ここでジブリールを逃がす訳にはいかない。

 

 アオイの言葉にルシアは一瞬呆けるが、すぐに意味を理解して笑みを浮かべる。

 

 「行きなさい、少尉!」

 

 「了解!!」

 

 ルシアは目の前のレジェンドをシールドで突き離し、ネイリングを投げつけた。

 

 「そんなもので―――ッ!?」

 

 レイはネイリングを弾こうとした時、気がついた。

 

 エレンシアは試作型高エネルギー収束ビーム砲をこちらに向けている事に。

 

 「不味い!」

 

 レイが後退しながらシールドを展開したと同時にルシアは試作型高エネルギー収束ビーム砲のトリガーを引いた。

 

 砲口から吐きだされた強力な閃光がネイリングを破壊、凄まじい爆発を引き起こしレジェンドを吹き飛ばした。

 

 「ぐあああ!!」

 

 その隙にルシアは反転、アオイの後を追う。

 

 そしてアオイも敵に突き放し、シグルドの所に向かおうとスラスターを吹かせる。

 

 だがそんな事を許すデュルクではない。

 

 「逃がさん!」

 

 エクセリオンの後を追いベリサルダを振りかぶった。

 

 だがここでデュルクの戦士として積み重ねてきた直感が危機を告げた。

 

 次の瞬間、エクセリオンは後ろも見ないまま回転、光刃を振り抜いてきたのだ。

 

 「何だと!?」

 

 サーベルを避ける間もなく対艦刀を捉え、あっさりと叩き折った。

 

 デュルクは背筋に冷たいものが流れる。

 

 一歩判断が遅ければあの刃によってシグーディバイドは斬り裂かれ、デュルクの体も蒸発していただろう。

 

 「……あの反応は」

 

 いくらなんでも速すぎる。

 

 こちらの動きが見えていたかのように。

 

 いや、それ以上にまるでパイロットが反応する前に機体が動いたかのような―――

 

 そんな考えがデュルクの脳裏を過る。

 

 「危険だ。アオイ・ミナトだけではなく、あの機体もまた」

 

 何としても破壊しなくてはならない。

 

 そう決断したデュルクの前にルシアのエレンシアが立ちふさがる。

 

 「少尉の後は追わせない!」

 

 「レイを振り切ってきたか。お前も邪魔な奴だな」

 

 エレンシアに向けビームサーベルを構え刃を振り払った。

 

 

 

 

 ルシアに後を任せたアオイはウイングスラスターを全開にして現場へ向かう。

 

 だがその進路を阻むようにヴェルデバスターが立ちふさがった。

 

 「そこをどけぇ!!」

 

 「任務ですから、行かせません」

 

 ヴェルデバスターはエクセリオンに向けてミサイルを一斉発射する。

 

 機体を囲むように放たれたミサイルをマシンキャノンですべて破壊、敵機の懐に飛び込んだ。

 

 あくまでもヴェルデバスターは砲撃戦用の機体だ。

 

 近接戦用の武装も一応持っているが緊急用の装備でしかない。

 

 接近戦ならエクセリオンの方が圧倒的に有利である。

 

 「邪魔をするなら落とすぞ!」

 

 アオイは速度を上げつつビームサーベルを一閃。

 

 ヴェルデバスターの複合バヨネット装備型ビームライフルを叩き斬った。

 

 体勢を崩されながら戦意は衰えていないのか、ヴェルデバスターは肩のビーム砲とガンランチャーを放ってくる。

 

 だがそれもアオイには見え見えの攻撃だった。

 

 「そんなもの!」

 

 旋回しながら攻撃を避けビームライフルで、ヴェルデバスターの頭部を吹き飛ばした。

 

 その時、シグルドのブースターユニットが点火し、一気に加速、上昇していく。

 

 「ジブリール、逃がさない!!!」

 

 アオイはシグルドにアンヘルを連結して構えた。

 

 ターゲットをロックすると同時にトリガーを引く。

 

 「落ちろ、ジブリール!!」

 

 だがそこに一つの影が射線上に割り込んだ。

 

 損傷したヴェルデバスターである。

 

 「なっ!? 自分の機体を盾に!?」

 

 『アンヘル』から通常とは比較にならない威力のビームが放出され、庇うように射線上に立ちふさがったヴェルデバスターに直撃する。

 

 「……任務完了しました」

 

 誰に報告するでもなくポツリ呟いた№Ⅲはアンヘルのビームに呑まれ、跡形も無く消えていく。

 

 そしてビームに包まれたヴェルデバスターも爆散、消滅した。

 

 それを見たカースはニヤリと笑い、せめても餞に称賛の言葉を送った。

 

 「見事だ。よくやった、№Ⅲ」

 

 彼女に与えられた任務は二つ。

 

 シグルドの発進を妨害する者の撃破する事。

 

 進路及びのブースターユニット防衛だった。

 

 そういう意味で彼女は間違いなく任務を果たしたのである。

 

 誰もが空を見上げる中、シグルドは悠々と宇宙へ上がっていった。

 

 

 

 

 戦場にいたすべての者が空に昇っていくシグルドの姿を呆然と見上げる。

 

 アレにジブリールが乗っていたのなら、これ以上の戦闘に意味はない。

 

 前線の戦いは互角の状態ではある。

 

 しかしアークエンジェルと同盟の水中モビルスーツによって海中の部隊はズタズタ。

 

 さらに旗艦セントヘレンズも撃破されてしまっていた。

 

 しかし後方に移動したフォルトゥナのブリッジでヘレンは冷静な表情を崩していなかった。

 

 この状況を変える最後の一手。

 

 端末を操作して指示を飛ばす。

 

 「部隊を出撃させなさい」

 

 《了解!》

 

 後方で待機、温存していたのは宇宙でも同じく援軍として現れたシグーディバイド部隊。

 

 その数、二十五機。

 

 これでオーブを押しつぶす。

 

 厄介なフリーダムや新型はデスティニーやザルヴァートルが抑えている。

 

 今同盟にはシグーディバイド部隊に対抗できる存在はいないのだ。

 

 気がかりなのはアオイ・ミナトであるが、そちらはデュルクやレイが上手くやるだろう。

 

 出撃していくシグーディバイドの姿にヘレンは勝利を確信していた。

 

 

 

 

 シンと交戦していたデスティニーのコックピットでジェイルはあの機体を見つけていた。

 

 アオイのエクセリオンである。

 

 「何故アオイがここに?」 

 

 何よりも今のシグルドにジブリールが乗っていたなら、どうしてアオイが撃墜しようとするのか。

 

 疑問は尽きない。

 

 だが一つだけ分かっているのはアオイをステラに近づけてはならないという事だけだ。

 

 「ジェイル!」

 

 「そこを退け、シン!!」

 

 リヴォルトデスティニーを退け、エクセリオンの下に行こうとする。

 

 

 だがそこで再び状況に変化が訪れた。

 

 

 ベルゼビュートの砲撃を回避したマユが近づいてくる幾つかの機影に気がついた。

 

 「あれってデータで見たザフトの新型!?」

 

 「アイツらがまだあんなに」

 

 それはシンにとっても忘れようがないラボで戦った厄介な新型機だ。

 

 前と違うのはその数だ。

 

 ざっと見ただけで二十機以上はいるだろう。

 

 あれの相手をするのは他の機体では厳しい上にあの数。

 

 かといって自分達に援護に向かう余裕はない。

 

 それはアスト達も同様だった。

 

 今も敵の新型と戦いを繰り広げている。

 

 

 どうすれば―――

 

 

 その時、シンの耳にマユの呟きが聞こえてきた。

 

 「……せない」

 

 「マユ?」

 

 「撃たせない。もう絶対に」

 

 そうだ。

 

 アイツらを行かせれば間違いなくオーブは滅茶苦茶にされるだろう。

 

 記憶に齟齬はあれどプラントにいた頃に味わっていた痛みや悲しみ、やり場のない怒り。

 

 そしてどうにもできない絶望。

 

 あの感情は紛れもなく本物だった。

 

 もしも孤独で―――セリスが傍に居てくれなかったら、どうなっていたか。

 

 この状況は間違いなく記憶にこびり付いたあの日の悪夢を再現だ。

 

 「ああ、そうだ。やらせてたまるか」

 

 その時、シンの脳裏に浮かんだのはフレイの言葉だった。

 

 『大切な人達の為に貴方が出来る事を精一杯やればいい』

 

 彼女はそう言っていた。

 

 シンに出来る事は―――守ることだ。

 

 その為の力は此処にある。

 

 今、やらねば今までの決意も覚悟も何の為だったのか。

 

 そしてマユもまた同じ様に考えていた。

 

 昔と同じような事だけは繰り返させない。

 

 その為に自分は戦う道を選んだのだから。

 

 

 そう、俺は――――

 

 

 そう、私は――――

 

 

 

 

 「「絶対に守る!!」」

 

 

 

 

 二人のSEEDが弾けた。

 

 

 

 

 

 同時に二機に搭載されたシステムが作動する。

 

 

 

 

 『C.S.system activation』

 

 

 

 

 

 その瞬間、リヴォルトデスティニーとトワイライトフリーダムの装甲が一部解放。

 

 背中から新たなスラスターがせり出され、両翼が広がり光の翼が現れた。

 

 機体から流れ出すように光が放出され、今までとは比較にならない速度で二機が動き出す。

 

 「シン!!」

 

 様子の変わったリヴォルトデスティニーの姿に警戒したジェイルは先手を取る。

 

 速度を乗せ勢いよくアロンダイトを袈裟懸けに振り抜いた。

 

 しかし斬撃は容易く流されてしまう。

 

 その隙にシンは逆手に持ったビームサーベルを抜くとデスティニーに向って振り上げた。

 

 「くっ!」

 

 ジェイルは機体を退くがサーベルに一撃がデスティニーの装甲を浅く抉った。

 

 「避け切れなかっただと!?」

 

 通常とは比較にならない動きと速度。

 

 アレは異常だ。

 

 挑むには決死の覚悟が必要になる。

 

 そんな弱気ともとれる確信を持つには十分な一撃だった。

 

 だが次の瞬間、ジェイルに更なる衝撃が襲いかかる。

 

 「何ィィ!?」

 

 動揺したジェイルは何が起きたのか確認するために前を見る。

 

 答えは簡単だった。

 

 リヴォルトデスティニーのアラドヴァル・レール砲がデスティニーに直撃したのである。

 

 吹き飛ばされたデスティニーは体勢を立て直す事を迫られてしまう。

 

 しかし体勢を立て直す前にシンはシグーディバイド迎撃に動き出していた。

 

 「くっ、待て―――ッ!?」

 

 リヴォルトデスティニーを追おうとしたジェイルは視界の端にエクセリオンを捉えた。

 

 向っている先にはアルカンシェルがいる。

 

 「ッ、ステラの所に行くつもりかよ! させるかァァァ!!!」

 

 ステラのアルカンシェルの元へ向かうアオイにデスティニーが襲いかかる。

 

 「ジェイル!?」

 

 「はああああ!!」

 

 勢いをつけ振り下ろしたアロンダイトをエクセリオンに叩きつける。

 

 目の前に迫る刃をアオイは激しい衝撃と共に受け止めた。

 

 凄まじい一撃だ。

 

 ビームシールドでなければ、受け止める事もできないだろう。

 

 「アオイィィ!!!」

 

 ジェイルの気迫を示すようにさらに勢いを増すデスティニー。

 

 「くそ、お前に構っている暇なんてないんだよ!!」

 

 サーベルを横に振り抜くがデスティニーは飛び退いて回避、ビームライフルを連射してくる。

 

 アオイはビームをブルートガングⅡで斬り裂くとデスティニーに突撃した。

 

 「アオイ!! ここで何をしている!?」

 

 「お前には関係ない!!」

 

 エクセリオンはビームサーベルで斬り付け、デスティニーはアロンダイトを逆手に持って振り上げた。

 

 「チィ!!」

 

 アオイはシールドを前面に出し、機体に接する前に刃を食い止める。

 

 「前よりもさらに速い!」

 

 デスティニーの厄介な点は速度や強力な斬撃だけではない。

 

 高速移動と共に残される光学残像も厄介だった。

 

 アレでアオイの視覚が狂わされ、狙いがずれてしまう。

 

 それでも対応できているのはW.S.システムの補正があればこそ。

 

 「ステラを返してもらう!!」

 

 「そんな事をさせると思うなァァァァ!!」

 

 ジェイルのSEEDが弾ける。

 

 パルマフィオキーナ掌部ビーム砲でエクセリオンを吹き飛ばし、アロンダイトを上段から思いっきり振り下ろした。

 

 先ほど以上の速度で突っ込んでくるデスティニー。

 

 今の体勢を崩した状態からでは防御も回避も間に合わない。

 

 ならば―――  

 

 その時、再び機体が先に動いたような錯覚を覚えた。

 

 だがそれに抗う事無く、操作を継続し――――アオイもSEEDを発動させた。

 

 「落ちろォォォ!!!」

 

 「はああああああ!!!」

 

 二機がすれ違い交差する。

 

 次の瞬間―――デスティニーのアロンダイトが刀身半ばから叩き折られていた。

 

 「ば、馬鹿な!?」 

 

 ジェイルは信じ難い出来事に呆然とする。

 

 ジェイルの方が速かった筈だ。

 

 なのに何故アロンダイトが叩き折られる?

 

 「いや、今はそんな事は後回しだ」

 

 頭の中を無理やり切り替える。

 

 残ったビームライフルでエクセリオンを狙撃するがそれもあっけなく避けられ当たらない。

 

 「くそォォォ!!」

 

 「しつこい!」

 

 アオイがデスティニーより速く動けたのは、『SEED』の力と言うよりもW.S.システムの恩恵があればこそ。

 

 通常の機体であれば負けていたに違いない。 

 

 アオイはエクセリオンの性能に驚きつつ、デスティニーに剣を構えた。

 

 

 

 

 トワイライトフリーダムのシステム作動と同時にリースもまたマユに攻撃を仕掛ける。

 

 姿を変えた敵に対する警戒したからではなく、あくまでも自分の標的を始末する為に。

 

 「死ね、マユゥゥ!!!」

 

 加速するトワイライトフリーダム。

 

 それに対しベルゼビュートはビームソードを構える。

 

 だが放った斬撃は空を斬り、機体を捉えられない。

 

 「なっ、速い!?」

 

 リースの反応を上回る速度でトワイライトフリーダムが刃を振るい、ベルゼビュートの腕が斬り裂かれ宙に舞った。

 

 それがリースの怒りを煽る。

 

 「このォォォ!!!」

 

 咆哮と共に肩のビームキャノンを撃ち出すがフリーダムはそれすらあっさり避け切った。

 

 「何!?」

 

 そして速度を上げてベルゼビュートに肉薄、シールドのビーム砲を撃ち込んでくる。

 

 リースは残った腕を振り上げ防御するが、至近距離だった為に受け切れずに吹き飛ばされてしまった。

 

 「きゃあああ!!」

 

 「そのまま海に落ちてください!」

 

 マユはベルゼビュートを無視すると、シグーディバイドの迎撃に向かった。

 

 光を伴い、シグーディバイドに向かっていくフリーダムとデスティニー。

 

 急速に接近してきた敵の姿に気がついた部隊は一斉に迎撃行動に出た。

 

 前面にいる機体がビームランチャーを構え、後方の機体が対艦刀を両手に握る。

 

 迫りくる二機に狙いを定め、トリガーを引くと強烈なビームが撃ち出された。

 

 「はああああ!!!」

 

 「ここから先には行かせない!!!」

 

 全身に広がる鋭い感覚に従い、何条もの閃光を潜り抜ける。

 

 あの程度の攻撃は全く脅威に感じない。

 

 無傷でビームの嵐を超えたニ機は刃を抜いた。 

 

 トワイライトフリーダムはシンフォニアを、リヴォルトデスティニーがコールブランドを構え一気に斬り込んだ。

 

 「行くぞ!」

 

 向かってくる光の天使。

 

 それを迎い撃つべくランチャーを構えた機体と入れかわるように対艦刀を持ったシグーディバイドが前に出た。

 

 しかし彼らの斬撃は二機を捉える事ができず、逆にトワイライトフリーダムのシンフォニアによって返り討ちにあう。

 

 続くようにリヴォルトデスティニーのコールブランドがシグーディバイドのコックピットを斬り潰した。

 

 刺さった刃を横薙ぎに払って両断。

 

 繰り出されたすべての斬撃をかわし、逆に斬り返しては次々と撃破していく。

 

 しかしそれでも四方からの斬撃は驚異だ。

 

 一撃でも食らえば動きが止められてしまう。

 

 だがトワイライトフリーダム、リヴォルトデスティニーはそれを物ともしない。

 

 「兄さん!!」

 

 「了解!!」

 

 マユの正確な射撃がシグーディバイドを確実に捉え足や腕を破壊。

 

 そして動きを止めた機体から一気に加速してきたリヴォルトデスティニーがコールブランドで斬り捨てる。

 

 「マユ、左だ!!」

 

 「はい!」

 

 トワイライトフリーダムの側面に回り込んだシグーディバイドはベリサルダを振り抜く。

 

 殆ど奇襲に近い一撃だった。

 

 しかしそれすらも通用しない。

 

 マユは敵機に刃が届く前に腕部実剣ノクターンでシグーディバイドの腕ごと叩き斬る。

 

 同時に撃ち込んだビームライフルがコックピットを貫通した。

 

 そして残った機体に向けシンはノートゥングを構え、マユもすべての砲身を正面にせり出した。

 

 「いけェェェェ!!」

 

 「これでェェェ!!」

 

 砲口に光が集まり、吐き出されたビームが残りのシグーディバイドを呑み込んでいく。

 

 すべてが閃光に消え、大きく爆散した。

 

 その光景に誰もが黙りこんでしまった。

 

 だが一番の衝撃を受けていたのは間違いなくヘレンだっただろう。

 

 呆然と艦長席から立ち上がり、目を見開く。

 

 「全滅? 二十五機のシグーディバイドがたった二分で……全滅?」

 

 信じがたい光景に血が滲むほど強く拳を握る。

 

 どれだけ信じられないものであったとしても目の前の光景は現実だ。

 

 怒りを必死に噛み殺し、ヘレンは指示を飛ばした。

 

 「一時撤退します。撤退信号!」

 

 「り、了解!」

 

 フォルトゥナから撤退信号が発射されると攻め込んできていたザフト機は次々と退いていく。

 

 それはアストやレティシアの相手をしていたアルカンシェルやザルヴァートルも同じだった。

 

 「撤退?」

 

 「セリス!!」

 

 「うるさい! 次こそ落としてやる!!」

 

 後退するザルヴァートルと従うようにアルカンシェルも続き、デスティニーとベルゼビュートも合流してフォルトゥナに向かって行った。

 

 アストはため息をつきながらヴァナディスに近づく。

 

 「レティシアさん、大丈夫ですか?」

 

 「ええ、私は大丈夫です」

 

 アストはその返事に満足しながら、シン達の方に視線を向ける。

 

 今回はシンとマユのおかげで助かった。

 

 あの二人がいなければもっと被害が大きくなっていたに違いない。

 

 ジブリールを捕えられなかった懸念もあるがとりあえず戦闘を切り抜ける事ができた。

 

 今はそれで十分。

 

 アストは無事に切り抜けられた事に安堵しながらシン達に通信を入れる。

 

 地上の戦闘が終わると同時に宇宙の部隊も撤退を選択。

 

 ここに戦いは終結した。




ようやくオーブ戦終了です。
とはいえ出張先で時間を見つけて書いていたので、おかしな部分などは後日加筆修正したいと思います。

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