機動戦士ガンダムSEED effect   作:kia

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第42話  天使は再び舞い降りる

 

 

 

 

 

 オーブ本島が見える海上から砲弾の音が響き渡り、空気が震える。

 

 空にはモビルスーツが飛び交い、互いに撃ち落とそうと激しい攻防が繰り広げられていた。

 

 そんな中、誰もいない通路を息を切らせながら走っている者達がいた。

 

 皆がシェルターに避難している筈。

 

 しかし彼らはそちらには向かわず、別の場所を目指している。

 

 それだけでも異様ではあるのだが、それ以上に目立つのは中央を走っている男だった。

 

 小奇麗なスーツに身を包み、屈辱に顔を歪めた男。

 

 走っていたのはこの戦いの元凶の一人とも言えるロード・ジブリールだった。

 

 振動が通路を揺らすたびに歯を食いしばる。

 

 「ハァ、ハァ、おのれぇ! デュランダルめ!!」

 

 ヘブンズベースから脱出したジブリールはヴァールト・ロズベルクの提案によってここオーブに逃げ込んでいた。

 

 彼曰くセイランをオーブから離反させた理由の一つがこういう時の為の保険だったらしい。

 

 確かにそれは役に立った。

 

 だからといって今の状況に納得できるほどジブリールは寛大ではない。

 

 そもそもヘブンズベースで奴らを倒し、再び復権する筈だったのだ。

 

 にもかかわらずこんな所を逃げ回る様に走っている事自体が納得出来ない。

 

 鬱憤を少しでも晴らそうと再びデュランダルに関して毒づこうとした時、前を走っていたヴァールトが振り返った。

 

 いつも通りの穏やかな表情を浮かべているのだが、それがジブリールを余計に苛立たせた。

 

 「ジブリール様、もうすぐ予定通りの場所です」

 

 「分かっている!! 見ていろよ、デュランダル! 宇宙に上がったらこの屈辱を何倍にして返してやるぞ!」 

 

 怒りを噛み殺しながらジブリールはヴァールトの後を追っていった。

 

 

 

 

 海上で行われている激戦。

 

 腕を損傷したアカツキのコックピットの中でカガリは目の前のモビルスーツを見つめていた。

 

 蒼い翼を持ったあまりにも特徴的な機体は見間違う筈も無いもの。

 

 何故ならその機体は同盟にとっての象徴的な機体であったからだ。

 

 「……フリーダム」

 

 「カガリさん、大丈夫ですか?」

 

 「マユ!? マユなのか!?」

 

 彼女はザフトに捕まり、最近救出されたばかりだと聞いていたのだが。

 

 「カガリさんはコウゲツと一緒に一旦下がって。ここは私がやります!」

 

 カガリは機体状態と周囲の状況を確認する。

 

 デスティニーとザルヴァートルの攻撃により戦線の一部が突破されてしまっていた。

 

 だが急いで立て直せばまだ何とかなるだろう。

 

 「分かった。気をつけろ、そいつは手強いぞ」

 

 「はい!」

 

 アカツキは損傷したコウゲツと共に後退する。

 

 カガリは敵を警戒しつつ通信機のスイッチを入れるとモニターにショウが映った。

 

 「どうした?」

 

 《カガリ様、スカンジナビアの方から通信です。ジブリールが使っているルートに関する情報が入ってきました》

 

 「何だと!?」

 

 詳細が気にはなるが、それは後回しだ。

 

 おそらく情報を送ってくれたのはアイラだろう。

 

 ならばその情報は信用できる。

 

 「分かった。その情報を基にジブリ―ルを見つけ出せ。私も一旦国防本部に戻る」

 

 《了解しました》

 

 カガリは通信を切ると国防本部に目指して加速した。

 

 

 

 

 

 マユはデスティニーがカガリ達を追撃しないように警戒するがその気配はない。

 

 「どうして追撃しない?」

 

 気にはなるが疑問を棚上げしたマユは装備されている斬艦刀『シンフォニア』を握る。

 

 「これ以上はやらせない」

 

 斬艦刀を片手に斬り込んでいくトワイライトフリーダム。

 

 その姿にジェイルは怒りで歯を食いしばった。

 

 動きを見ただけで分かる。

 

 間違いなく奴だ。

 

 もはや後退するカガリ達の事など、どうでも良かった。

 

 宿敵が―――倒した筈の死天使が生きていたのである。

 

 ジェイルの思考はすでにフリーダムに対する怒りに染まっていた。

 

 「生きていたってことかよ―――テメェェェ!!!」

 

 怒りを吐き出すように操縦桿を押し込み、アロンダイトを構えて振りかぶった。

 

 対艦刀と斬艦刀が交錯する。

 

 同時にすれ違う二機。

 

 マユが振り向きざまにシンフォニアを袈裟懸けに振るい、ジェイルが横薙ぎにアロンダイトを振り抜いた。

 

 だが敵機を捉えるには至らず、空を斬るのみ。

 

 その事実と目の端に映る、舞うように翻る蒼い翼がジェイルの屈辱を煽っていく。

 

 「落ちろォォ!!」

 

 「この機体のパイロットは――――インパルスの」

 

 アロンダイトの一撃を流しながら、マユはデスティニーに乗ったパイロットの事を看過する。

 

 叩きつけるような殺気に合わせて繰り出される剣撃は間違えようも無い。

 

 「前の様にはいきません!!」

 

 マユは振り下ろされる対艦刀を前にあえて懐を飛び込んだ。

 

 「何!?」

 

 「そんな大振りで!」

 

 デスティニーの腕に肘を当て方向を逸らすと蹴りを入れて、シールドに内蔵されたビーム砲を放った。

 

 「ぐぅぅ!!」

 

 ジェイルは吹き飛ばされ体勢を崩しながらも、シールドを展開して防御する。

 

 しかしデスティニーは敵機から大きく引き離されてしまった。

 

 その間にトワイライトフリーダムは背後から襲いかかったバビを斬艦刀で容易く返り討ちにしているのが見える。

 

 それが一層目の前の敵に対する怒りを膨れ上がらせた。

 

 今の間に追撃もせずに他の相手。

 

 奴はこちらの相手は片手間でできると思っている。

 

 つまり舐められているのだ。

 

 「ふざけるなァァァ!!!」

 

 ジェイルの咆哮と共にSEEDが弾けた。

 

 デスティニーの翼が開き光が放出されると、光学残像を発生させトワイライトフリーダムに襲いかかる。

 

 今までとは比較にならない圧倒的な速度。

 

 そして非常に高い射撃精度でビームライフルが放たれる。

 

 「くっ!?」

 

 容赦のない攻撃が次々と撃ち込まれトワイライトフリーダムの行く手を阻んだ。

 

 マユは機体を左右に振り、舞うような動きでビームを避けつつライフルで反撃に転じた。

 

 二機から放たれる閃光が空を裂くように交わっていった。

 

 

 

 デスティニーとトワイライトフリーダムが激しい攻防を繰り広げていた頃。

 

 ザルヴァートルの前にはレティシアのヴァナディスガンダムが立ちふさがっていた。

 

 追い込まれていたトールとムウは呆然と目の前の機体を見つめる。

 

 それは前大戦で共に戦ったアイテルに良く似た機体だった。

 

 しかし量産されたブリュンヒルデとも違う。

 

 「ムウさん、トール君!」

 

 ヴァナディスから聞こえてきた声は予想外の人物のものだった。

 

 「なっ、レティシアさん!?」

 

 「怪我をしてるって聞いていたが。という事はあのフリーダムに乗っているのは、お嬢ちゃんか……」

 

 「ええ。私もマユも大丈夫です。それよりもオーブ本島に向かった敵機を頼みます! この新型は私が相手をしますから!」

 

 一瞬だけ迷ったが、ここはレティシアに任せた方が良い。

 

 防衛線を抜けた敵機を追う方が先だ。

 

 「分かった。ここを頼むぞ!」

 

 オウカが飛行形態に変形すると背中にアドヴァンスストライクを乗せ、本島に向かった敵機を追った。

 

 だがそれを黙って見ているほどセリスは甘くない。

 

 「逃がさない!」

 

 しかし追おうとするセリスをヴァナディスがビームライフルで進路を阻む。

 

 目の前を通り過ぎたビームに冷やりとしながら、お返しにセリスもビームランチャーを撃ち出した。

 

 目を覆うほどのビームの奔流がヴァナディス目掛けて押し寄せる。

 

 しかし直前に展開されたビームシールドによって弾かれてしまう。

 

 「……ビームシールドまで持っているなんて。しかもこのパイロットはあの時の―――」

 

 セリスの脳裏に浮かんだのはフリーダムとの戦いの際、一時的に相手をしたブリュンヒルデの事だった。

 

 あのパイロットの事はその高い技量もあって不思議と覚えていたのだ。

 

 「リースが仕留めたって思っていたんだけど。あの新しいフリーダムといい、簡単には倒せないって事か」

 

 しかもようやく反撃を開始しようというこのタイミングで現れるとは。

 

 完全に出鼻をくじかれてしまった。

 

 「でも逆を言えばここでこの新型を倒せば同盟の勢いを完全に殺ぐ事が出来る。なら!!」

 

 手加減無用。

 

 今度こそ倒せばよい。

 

 ビームサーベルを片手に構え、同時にシールドのロングビームサーベルを発生させる。

 

 長さの違うニ刀のサーベルがレティシアの眼前に繰り出されていく。

 

 「速い、しかも――」

 

 振り抜かれたロングビームサーベルを機体を屈みこませてやり過ごす。「

 

 だが今度は下からすくい上げる様にビームサーベルが斬りあがってきた。

 

 「タイミングが取りづらい!!」

 

 展開されたサーベルの長さが違うため回避するタイミングが狂わされる。

 

 さらに微妙にビームサーベルの出力を調整しているらしく、余計に回避しづらくしていた。

 

 受けに回れば、それだけ不利。

 

 ヴァナディスは斬艦刀『アインヘリヤル』を構えザルヴァートル目掛けて横薙ぎに振り払った。

 

 「そんなもの!」

 

 セリスは後退しながらビームシールドを掲げて斬撃を受け止める。

 

 だがセリスの予想に反しレティシアは力任せに押し込む事無く即座に剣を引いた。

 

 「なっ!?」

 

 まさか引いてくるとは思っていなかったセリスはバランスを崩されてしまう。

 

 そこにアラドヴァル・レール砲を撃ちこんでザルヴァートルを吹き飛ばした。

 

 「きゃあああ!!」

 

 レティシアはその隙を見逃さない。

 

 機体を加速させ、斬艦刀を逆袈裟に斬り上げた。

 

 体勢を崩されたセリスは咄嗟の判断で機体のスラスターを調整、タイミングを合わせて逆噴射させた。

 

 スラスターを使用し機体を傾けた瞬間、目の前を斬艦刀の刃が通り過ぎる。

 

 ただ完ぺきな回避はできず斬艦刀の一撃がザルヴァートルの装甲を掠め、浅い傷を作り出した。

 

 「危ない。まったく厄介な奴ね」

 

 「今のを躱すとは」

 

 機体を後退させライフルで攻撃してくるザルヴァートル。

 

 シールドでビームを弾きながらレティシアはある確信を持った。

 

 ここまでの一連の攻防。

 

 そしてシンから聞いた話を総合すると間違いない。

 

 ビームライフルを巧みに使い、敵機の動きを誘導。

 

 先読みしたレティシアはセイレーンに搭載されたビームブーメランを投げつける。

 

 「しまっ―――!?」

 

 セリスは動きを誘導された事に気がつくがもう遅い。

 

 曲線を描いて迫ってくる刃をシールドで弾き飛ばすがその隙にヴァナディスが懐に飛び込んできた。

 

 不味い。

 

 完全に態勢を崩されてしまっている。

 

 これでは敵の攻撃を避けきれない。

 

 セリスはある程度の損害を覚悟しながらも反撃する為にサーベルを下段に構える。

 

 だが覚悟していた衝撃が来る事は無く、通信機から声が響いてきた。

 

 「聞こえますか? その機体のパイロットはセリスですか?」

 

 「えっ」

 

 通信機から聞こえて来た声は若い女性の声だった。だがそんなことよりも、何故自分の名前を知っている?

 

 「何で私の名前を……」

 

 「やっぱり記憶を……よく聞いてください。私はレティシア・ルティエンス。貴方の真実を―――」

 

 セリスがレティシアの声に耳を傾けようとしたその瞬間―――ザルヴァートルのシステムが作動する。

 

 

 『I.S.system starting』

 

 

 彼女の視界が開けると、感覚が鋭く広がる。

 

 同時に目の前にいる敵に対する敵意が膨れ上がっていった。

 

 「……敵はすべて、死ね!!」

 

 セリスは一気に機体を加速させヴァナディスに斬撃を繰り出した。

 

 レティシアの不意を突いた形の一撃が下から掬いあげるように軌跡を描く。

 

 「なっ!?」

 

 レティシアは咄嗟に機体を後退させ、サーベルの一撃を回避した。

 

 「セリス! 私の話を聞いて―――」

 

 「うるさい!!」

 

 もはやレティシアの声などセリスには届かない。

 

 ただ敵に対する敵意のみが彼女の中に渦巻いていた。

 

 

 

 

 フォルトゥナのブリッジから戦闘を見ていたヘレンはモニターに映った二機のモビルスーツに目を向ける。

 

 その視線には紛れも無く怒気が籠っていた。

 

 「……レティシア・ルティエンス」

 

 先程のセリスに向けられた会話はこちらでも把握していた。

 

 そこでヘレンはあの機体に搭載されている保険を使用したのである。

 

 ザルヴァートルにはセリスがSEEDを発現させた場合、特殊なOSが起動ようになっている。

 

 それによって彼女の能力をフルに発揮できるようになっていた。

 

 同時にOSの中には万が一の場合に備えてI.S.システムが仕込まれていたのだ。

 

 SEED因子を持っているセリスにはI.S.システム自体が不要ではある。

 

 だが彼女の戦闘意識を高め、外からの情報を遮断するには都合のいいシステムだった。

 

 これでセリスに余計な情報が入ってくる事はない。

 

 後はあのフリーダムだ。

 

 ザルヴァートルと相対している機体にレティシアが搭乗しているのなら、あのフリーダムにはマユ・アスカが搭乗しているに違いない。

 

 ラボが襲撃を受け、サンプルの二人を奪還されてしまった事はヘレンもすでに報告を受けていた。

 

 それがもう戦線に復帰してくるとは。

 

 さっさと始末してしまった方が良かったかもしれないとも考えるがすでに後の祭り。

 

 いや、むしろ戦場に出てきた事で倒す機会を得たのだ。

 

 好都合と考えるべきだろう。

 

 ヘレンはすぐに待機室に連絡を入れる。

 

 「全員、今の状況を見ているわね」

 

 モニターに映ったレイがいつも通り冷静な表情で頷いた。

 

 どうやら彼も分かっているらしい。

 

 あの二機を絶対に落とさなければならない事に。

 

 《艦長、一つご報告があります》

 

 「何かしら?」

 

 《……ここに地球軍機が近づいて来ています》

 

 「地球軍機がこの戦場に?」

 

  反ロゴス派の部隊はヘブンズベースの戦いで損害を受け、現在再編成中であると報告を受けている。

 

 それが済み次第こちらに増援を送るという話はあった。

 

 しかし今回の戦闘には参加は難しいと聞いているから援護の機体とは考えにくい。

 

 なによりレーダーよりもレイが早くに感じ取っているという事実。

 

 おそらくは特務隊の標的とさせていた部隊の機体だ。

 

 ならば排除要因の一つであるアオイ・ミナトもここに来ると考えて良いだろう。

 

 丁度良い。

 

 排除すべき対象が一か所に集まってくれるのだ。

 

 「分かったわ。そちらは貴方達の判断に任せます。ただリースかステラのどちらかがフリーダムの相手をする事。ベルゼビュートやアルカンシェルはその為の機体なのだから」

 

 《了解》

 

 一応保険を掛けておく必要があるかもしれない。

 

 ヘレンは手元の端末を操作してさらに後方に待機させていた部隊に指示を飛ばす。

 

 その時、オペレーターからの報告が入った。

 

 「艦長、オーブから戦艦が接近―――アークエンジェルです!」

 

 「……沈んでいなくても不思議はない」

 

 驚きは無い。

 

 やはりというのが本音だ。

 

 アークエンジェルの撃沈は元々確認されてはいなかったのだから。

 

 「フォルトゥナ、エンジン始動。対艦、対モビルスーツ戦闘用意。 目標アークエンジェル!」

 

 「「「了解!」」」

 

 ヘレンの指示に従い、戦闘ブリッジに移行する。

 

 フォルトゥナはアークエンジェルに向かって移動を開始すると同時にハッチが開いた。

 

 「配置は事前に決めた通りだ。リース、お前はフリーダムを殺れ。ヴィート、ステラはもう一機の新型を。私とレイは接近してくる地球軍の機体を迎え撃つ」

 

 「「「「了解!」」」」

 

 デュルクの指示に頷いた全員が準備を整え、発進する。

 

 各々が目標に向け戦場に介入した。

 

 

 

 

 フォルトゥナがアークエンジェルと戦闘を開始したのと同刻。

 

 トワイライトフリーダムとデスティニーも激しい戦いを繰り広げていた。

 

 「しつこいんだよ!! 落ちろ!!!」

 

 ジェイルの叫びに応えるようにデスティニーの動きは鋭さを増し、攻撃の精度も上がっていく。

 

 それはかつて戦った時以上のものだろう。

 

 だがフリーダムはデスティニーがかなりの速度で動いているにも関わらず、すべて見切っているかのように攻撃を回避する。

 

 先程から何度となく繰り返す攻撃も敵を捉えるには至らない。

 

 その鮮やかな動きが余計にジェイルの怒りを煽った。

 

 「一気に蹴りをつけてやる!」 

 

 ビームライフルで動きを牽制しながら、アロンダイトを構えて斬りかかった。

 

 「はあああああ!!!」

 

 しかしそれはマユからすれば、あまりに単調な攻撃だったと言わざる得ない。

 

 ジェイルが冷静さを欠いていたのも原因だったのだろう。

 

 トワイライトフリーダムはアロンダイトの斬撃が届く前にエレヴァート・レール砲を発射しデスティニーを吹き飛ばした。

 

 「ぐあああ!!」

 

 「これで―――ッ!?」

 

 吹き飛ばされたデスティニーに向け、ビームライフルを構えトリガーに指を掛けた。

 

 だがそこで別方向から発射された閃光がトワイライトフリーダムに襲いかかる。

 

 マユはシールドを展開してビームを防御し、攻撃を仕掛けてきた敵を見る。

 

 そこには悪魔のような翼を持った機体が佇んでいた。

 

 「あの機体は……」

 

 忘れるはずもない。

 

 レティシアを落とした機体、ベルゼビュートだ。

 

 そしてパイロットであるリース・シベリウスもまたマユ達にとっては忘れ難い存在だった。

 

 マユがレティシアの方を見ると彼女もまたザフトの新型と思われる三機と交戦していた。

 

 いくら彼女でも新型三機を相手にするには厳しい。

 

 ならばやることは決まっている。

 

 決着をつけて援護に向かう。

 

 それだけだ。

 

 そしてジェイルもまた戦いに割り込んで来たベルゼビュートを睨む。 

 

 「リース! こいつは俺が―――」

 

 「……うるさい」

 

 思わず怒鳴るジェイルだったが、リースのあまりに冷たい声に言葉が続かない。

 

 「……生きてんだね。マユも、レティシアも。だったら、アレンが帰ってくる前に――――殺さなきゃ」

 

 

 『I.S.system starting』

 

 

 ベルゼビュートが腕部のビームソードを放出。

 

 不気味な翼を広げてトワイライトフリーダムに突撃してくる。

 

 それを見たマユはビームサーベルを抜いて応戦した。

 

 お互いの光刃がシールドに阻まれ、装甲を照らす。

 

 激突と同時に弾け飛ぶとリースは両肩のビームキャノンを撃ち込んだ。

 

 「流石特務隊、強い」

 

 「貴方を落とした後は今度こそレティシアをやるから―――だから早く消えて!!」

 

 マユは強力なビームの奔流を旋回しながら潜り抜け、再びベルゼビュートに光刃を振るう。

 

 横薙ぎに払われた斬撃がシールドで受け止められる。

 

 続けて攻勢に出ようとしたフリーダムに今度はデスティニーが介入してきた。

 

 「フリーダム!!」

 

 「なっ!?」

 

 マユは咄嗟に機体を翻し、上段から振り下ろさせるアロンダイトの回避。

 

 入れ替わるようにベルゼビュートが斬り込んできた。

 

 牙を立てる様に振りかぶられたビームクロウを直前で止め、力任せに弾き飛ばす。

 

 「邪魔です!」

 

 ベルゼビュートを仕留める為、ビームライフルを構えた。

 

 だがリースをやらせまいとデスティニーが高エネルギー長射程ビーム砲を撃ち出した。

 

 「好きにさせるかぁぁ!!」

 

 マユはデスティニーの砲撃を何とか機体を後退させ逃れた。

 

 だが同時にベルゼビュートの砲撃がトワイライトフリーダムを襲う。

 

 「このォォォ!!!」

 

 「くっ!」

 

 ベルゼビュートの攻撃をシールドで防ぐ事には成功したが、その威力にトワイライトフリーダムは体勢を大きく崩されてしまった。

 

 「今だァァァ!!!」

 

 憎むべき死天使を再び葬り去る絶好の機会。

 

 ジェイルは決着をつけるべく、トワイライトフリーダムに突撃する。

 

 翼を開き発生した光学残像を伴い、速度を上げた。

 

 

 

 「これでェェェ、終わりだァァァァ!!!!」

 

 

 

 デスティニーがアロンダイトを振り下ろそうとした時――――

 

 

 上空からその声が聞こえてきた。

 

 

 

 「やめろォォォォォォ!!!!!!」

 

 

 

 声が聞こえたと同時にジェイルは目の端で何かを捉えた。

 

 回転しながら光を放つその物体は―――こちらを狙って投げられたブーメランだった。

 

 「ッ!?」

 

 直前で気がついたジェイルは咄嗟に手元のシールドで弾き飛ばす。

 

 しかし次の瞬間、撃ちこまれた砲弾の爆発で吹き飛ばされてしまった。

 

 「ぐうう!!!」

 

 何とかもう片方のシールドを展開して防いだがトワイライトフリーダムからは引き離されてしまった。

 

 スラスターを使い踏みとどまるジェイルの目の前には翼を持った機体が死天使を守る様に立ちふさがっていた。

 

 それを見た瞬間、ジェイルは固まった。

 

 ただの同盟の援軍ならそう気にはならなかったに違いない。

 

 しかし今眼前にいるのは明らかに自身の乗機であるデスティニーに良く似た造形を持った機体であった。

 

 いや、似ているというならばインパルスの方だろうか。

 

 「……デスティニーなのか?」

 

 何よりも彼を混乱させたのは先ほどの声。

 

 あの声には覚えがある。

 

 「まさか―――シン?」

 

 空から降りてきたリヴォルト・デスティニーのコックピットの中でシンは目の前の機体を睨みつけた。

 

 「これ以上はやらせないぞ!」

 

 同じく運命の名を持つ二機が対峙した。

 

 

 

 

 

 

 地上の状況が変わろうとしている頃、宇宙の戦いもまた変化しようとしていた。

 

 圧倒的な力を持つヴァンクール相手にイザークはフレイと共に善戦していた。

 

 機動性、パワー共に段違い。

 

 イザーク達の機体も新型でなければ足止めすら難しかっただろう。

 

 「チッ、こいつに構っている暇はないというのに」

 

 イザークの視線の先には味方機がザフトに押し込まれている様子が見えた。

 

 新型のブリュンヒルデのおかげか、何とか持ちこたえている。

 

 しかし何時まで持つかは分からない。

 

 早く救援に駆けつけたいところだが、ヴァンクールの前にはイザーク、フレイ共に抑えるのがやっとだった。

 

 このままでは不味い。

 

 そう考えた時、数機の味方が一斉に薙ぎ払われた。

 

 「何!?」

 

 次々と味方機を屠っていくのは見た事も無い三機のモビルスーツだった。

 

 『ドムトルーパー』と呼ばれたこの機体は元々ザクやグフと同様にザフト主力機の一つに選定されていたもの。

 

 だがいくつかの事情により正式採用には至らなかった。

 

 そして今現在戦場に現れた機体はオリジナルの装備を変更、改修したものだ。

 

 ドムの三機にはティア・クラインの護衛役である三人、ヒルダ・ハーケン、ヘルベルト・フォン・ラインハルト、マーズ・シメオンが搭乗していた。

 

 高度な連携でナガミツやムラサメを次々と薙ぎ払っていく。

 

 「数が多いな」

 

 「ああ。パイロットの技量や機体の性能も高いし、面倒だ」

 

 「黙ってやりな! さっさと終わらせるよ、野郎ども!!」

 

 ヒルダの声に合わせて左胸部に設置されたスクリーミングニンバスが展開。

 

 撃ちこまれたビームを弾きながら突撃する。

 

 これはビームと同じ性質を持った粒子を展開する事で攻撃、防御の両方が可能なフィールドを作り出す事が出来る装備。

 

 初見でどうこうできるものではないとヒルダ達は自負している。

 

 三機はスラスターを使いさらに加速。

 

 それぞれに武器を構えて攻撃を開始した。

 

 「「「ジェットストリームアタック!!」」」

 

 作り出された防御フィールドが撃ちこまれた攻撃諸共、機体を大きく弾き飛ばす。

 

 さらにドムが構えた光刃、砲撃が周辺の敵機を屠っていった。

 

 「チッ! あれもザフトの新型か?」

 

 あの機体も厄介なものらしい。

 

 放っておけば被害が増える一方である。

 

 しかし―――

 

 「よそ見してる余裕があるのか!」

 

 「くっ!」

 

 ヴァンクールが複雑な軌道を取りながら、ビームライフルを撃ち込んでくる。

 

 当然隙を窺っているフレイを牽制しながらだ。

 

 シールドで攻撃を防ぎながらイザークも反撃の機会を窺う。

 

 しかしその間にもドムトルーパーの蹂躙はやむことなく続けられていた。

 

 続くようにザフトの機体も勢いを取り戻し、攻勢に出る。

 

 このままでは戦線が維持できない。

 

 

 

 だがその時、同盟の兵士達にとっての英雄が戦場に現れた。

 

 

 

 一機は蒼い翼を広げ、もう一機は特徴的なリフターを背負っている。

 

 それを見たイザークはニヤリと笑った。

 

 「遅いぞ! フリーダム、ジャスティス!!」

 

 戦場に駆けつけたストライクフリーダムは腰のビームサーベルの抜き放つと瞬時に敵機を二機同時に撃破する。

 

 そしてカリドゥス複相ビーム砲をヴァンクールに撃ち込むとシュバルトライテから引き離した。

 

 「イザーク、大丈夫?」

 

 「ああ」

 

 シュバルトライテの近くにいたオウカも横に並ぶとストライクフリーダムに通信を送る。

 

 「助かったわ、キラ」

 

 「フレイ!? 君までモビルスーツに?」

 

 「ええ、色々あってね」

 

 キラは疑問を飲みこむと正面を見据える。

 

 あの機体の力は研究施設での戦いで重々承知済み。

 

 ヴァンクールの相手はフリーダムでする他ない。

 

 「イザークとフレイは味方の部隊を立て直して! ラクスはあの新型三機の相手を。この機体とは僕が戦う」

 

 「分かりました」

 

 「頼む!」

 

 「了解!」

 

 キラはヴァンクールにサーベルを構えて斬り込んだ。

 

 途中で道を阻むザクの砲撃をすり抜けるかの様に易々と回避すると光刃が舞う。

 

 光が一瞬の線を描くと同時にザクの砲身を分断し、機体をバラバラに破壊した。

 

 「おいおい」

 

 その光景にハイネは戦慄する。

 

 何という早業だ。

 

 寒気がする。

 

 さらに別方向に目を向けると以前交戦したジャスティスがハルバードモードにしたビームサーベルを振るってザフトの部隊に斬り込んでいくのが見える。

 

 あのパイロットも相変わらずの腕前だった。

 

 この二機相手では普通のパイロットがいくら集まっても撃破はおろか、傷一つ付けられないだろう。

 

 「たく、フリーダムが相手とは。だが敵がなんであれ、こっちも退けないんでね!!」

 

 ハイネはザフトの部隊を撃破しながら向かってくるフリーダムにアロンダイトを構えて突撃する。

 

 二機は手の中の刃を振り抜き、高速ですれ違う。

 

 そして再び振り返るとスラスターを噴射させながら激突した。

 

 

 

 状況は振り出しに戻り、戦場は激化していく。

 

 そんな中、増援であるザフトの部隊が宇宙の戦場に到着しようとしていた。

 

 複数の機影がかなりの速度で暗い宇宙を駆け抜ける。

 

 展開されたモビルスーツの両手には対艦刀。

 

 モノアイが不気味に光りを発する。

 

 そして背中にある翼が展開され、さらに機体を加速させていく。

 

 

 近づいてきているモビルスーツはシグーディバイド。

 

 

 そしてその数は―――二十機以上。

 

 

 脅威がすぐそこまで迫っていた。


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