機動戦士ガンダムSEED effect   作:kia

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第41話  三度の激戦

 

 

 

 

 

 中立同盟と反ロゴス連合が開戦した事は、テタルトスにも情報が入ってきていた。

 

 実質的な会議室となっている戦艦アポカリプスの司令室。

 

 そこにはアレックスを含めた数名が集められ、今回の事態に関する話し合いが行われていた。

 

 「どうしますかね、エドガー司令」

 

 バルトフェルドの質問にエドガーは表情を変えずに答える。

 

 「……今から援護に向かっても、間に合わないだろう」

 

 「ですな。時間がなさすぎる」

 

 テタルトスの戦力は同盟に劣らない規模となっている。

 

 しかし地球上の活動には致命的といえる欠点があった。

 

 それが地上での拠点が存在しないことだった。

 

 つまりテタルトスが支援に向かうには月から直接戦力を出撃させるしかない。

 

 しかし今から準備を整え援護に向かったとしても間に合わないだろう。

 

 さらにザフトは月の行動にも注意を払っている筈だ。

 

 派手に動けば月を監視している部隊と一戦交える事になるのは確実。

 

 そうなればオーブの援護どころではない。

 

 「オーブは……今回はどうなるでしょうか?」

 

 アレックスがモニターを注視しながら呟く。

 

 彼としても複雑なのだろう。

 

 この前も同盟と共同作戦を展開し、キラと再会したばかりだ。

 

 アレックスの質問に応える様にユリウスが口を開いた。

 

 「……同盟の力はもう言わなくても分かっているだろうが、今回は前大戦とは状況が違う」

 

 オーブ戦役や第二次オーブ戦役は同盟にとって予測されていた戦いだった。

 

 無論戦いを避けるべく努力はしていた。

 

 だがそれとは別に戦いなっても良いようにあらかじめ準備は行っていたのだ。

 

 それが同盟が勝利した要因の一つであった事は間違いない。

 

 だが今回に限っては別。

 

 今回は防衛艦隊こそ展開させていたが、同盟側が出遅れてしまった。

 

 すなわち結果的に先手を取られてしまっているのである。

 

 「同盟の奮起に期待しよう。それよりこれを見てほしい」

 

 エドガーがモニターに映したのは、宇宙を移動するザフトと思われる部隊の進路だった。

 

 「おそらくザフトの降下部隊だろう。……アレックス、バルトフェルド、二人はこの降下部隊に攻撃を仕掛けて欲しい」

 

 「良いのですか?」

 

 「構わない。機体のテスト中に敵との遭遇戦というのは良くある事だろう? 一応同盟への義理を果たす事にもなる。ただ無理をする必要はない。データを収集後、即座に撤収せよ」

 

 「「了解!!」」

 

 敬礼する二人に頷くとエドガーはもう一つ気になる事を確認する。

 

 「そう言えばアレックス、セレネはどうだ? 『エリシュオン』と『タキオンアーマー』の調子は?」

 

 アレックスは思わずため息をついた。

 

 見ればユリウスも苦笑している。

 

 「なにか問題でもあるのか?」

 

 「『エリシュオン』は問題ありませんが……」

 

 言葉を濁すアレックスを引き継ぐようにユリウスが補足する。

 

 「『タキオンアーマー』は普通のパイロットには厳しいですね。改良の余地があるかと」

 

 「なるほど」

 

 『タキオンアーマー』は開発段階から色々問題が指摘されていたが、二人の回答でエドガーもそれを察した。

 

 新型機はともかく追加装甲の方はまだまだデータを収集しなければならないようだ。

 

 ならばこそ今回の件は丁度良いだろう。

 

 「ならばそれを含めて頼むぞ」

 

 「「了解」」

 

 アレックスとバルトフェルドが出撃の為、司令室から退出。

 

 エドガーはユリウスと今後を話し合う為に再びモニターに目を向けた。

 

 

 

 

 反ロゴス連合によるオーブ侵攻。

 

 作戦名『オペレーション・フューリー』

 

 海上に並ぶ艦隊からオーブ護衛艦隊にミサイルが発射され、モビルスーツが発進する。

 

 ザクやグフ、バビ、イフリートなどの新型から、ディンや水中を移動するグーンと言った旧型機まで。

 

 『オペレーション・ラグナロク』に劣らない数だ。

 

 それを迎え撃つべく、オーブ軍もまた迎撃態勢を取る。

 

 そんな中、部隊を率いる一機のモビルスーツが発進しようとしていた。

 

 SOA-X06 『オウカ』

 

 次期主力機開発計画の新型機である。

 

 前大戦で予想以上の戦果を上げたSOA-X02『ターニングガンダム』を基に可変型の戦闘データを解析して開発された機体である。

 

 オウカのコックピットに座っているトールは、計器を弄って機体状態を確認する。

 

 《トール、オウカはどう?》

 

 モニターに映ったのはモルゲンレーテの技術者であり、前大戦時にアークエンジェルと関わった事がある女性エルザ・アラータだった。

 

 オウカの調整を行ったのは彼女だ。

 

 機体の調子も気になるのだろう。

 

 「ああ、大丈夫だ」

 

 トールは力強く頷くと気合をいれて操縦桿を握った。

 

 今はキラもアストもいない。

 

 アークエンジェルもまだ出撃出来ない。

 

 ならば自分が踏んばる時である。

 

 「トール・ケーニッヒ、オウカ出ます!」

 

 フットペダルを踏み込むと同時にスラスターが噴射する。

 

 加速した機体が押し出される様に外に向かって飛び出す。

 

 体にかかるGに耐え、正面を見ると海上では戦闘が開始されていた。

 

 「よし、全機、行くぞ!」

 

 「「了解!」」

 

 一緒に出撃したナガミツを連れ、飛行形態のオウカは戦場に乱入する。

 

 ムラサメを追い回すように飛び回るバビに狙いをつけ、トリガーに指を置く。

 

 ディンと戦った経験はあるがバビと交戦するのは始めてだ。

 

 「慎重にいかないとな!」

 

 バビがこちらを排除しようと放たれたビーム砲を機体を傾ける事で回避。

 

 モビルスーツ形態に移行し接近してロングビームサーベルですれ違い様に斬り裂いた。

 

 さらにビームライフルでザクの右腕を吹き飛ばすと、蹴りを入れて海上に叩き落とした。

 

 「結構な数だな!」

 

 やはり物量の違いは大きい。

 

 どれだけ敵機を撃ち落としても攻撃の手は緩む事はない。

 

 オウカは再び飛行形態で旋回しながら敵機をビームライフルを連射して撃破する。

 

 トールは小気味良く操縦桿を動かしながら空を駆けた。

 

 この手の敵との戦いは前大戦で慣れている。

 

 あの頃は今とは全く違った機体だった。

 

 それに比べれば今は十分すぎるほど恵まれている。

 

 後は自分次第だろう。

 

 「落ちろ!」

 

 飛び回るディンをガトリング砲を撃ち込むと、敵機はバランスを大きく崩す。

 

 そこを見計らい踏み台に蹴り落とし下にいたグフに激突させた。

 

 「全機、怯むなよ!」

 

 「「了解!!」

 

 飛行部隊はその機動性を駆使し、敵の進撃を食い止めていった。

 

 

 

 空中で激闘が繰り広げられていた頃、海上でも同じく戦いが始まっていた。

 

 アドヴァンスアストレイが艦隊の甲板からビームライフルで狙撃を行い、ザフトの侵攻を食い止める。

 

 迎撃に追われる艦隊の真下。

 

 水中でも同じように激闘が繰り広げられていた。

 

 母艦から出撃したアッシュやゾノと言ったモビルスーツが本島を目指す。

 

 しかしそれらを阻むように何かが近づいて来た。

 

 「なんだ?」

 

 魚雷ではない。

 

 という事は可能性は一つだけだ。

 

 「オーブの水中用モビルスーツか?」

 

 オーブには確かシラナミとかいうモビルスーツがあった。

 

 ならば恐るるに足らず。

 

 アレは魚雷を撃ち尽くせば撤退するしかない欠陥機。

 

 ならば恐れるに足らず。

 

 身構えた彼らの視界に入ってきた機体はシラナミとは別のものだった。

 

 

 MBF-M2B 『カザナミ』

 

 

 中立同盟が前大戦で投入したシラナミを基に発展させ、他の陣営の水中用モビルスーツに対抗する為に水陸両用として開発された機体である。

 

 武装面の改良も施されており、継戦能力も向上していた。

 

 ザフトが接近する機体を捕捉すると同時にカザナミに搭乗したパイロット達も敵を視認する。

 

 「前方にアッシュ、ゾノ、グーン!」

 

 「皆、油断するな!」

 

 「「了解!!」」

 

 指揮官機の動きに合わせ、攻撃を開始する。

 

 先頭にいるゾノに魚雷を撃ち込んで、撃破。

 

 一気に接近しブルートガングを構えて近くのグーンを串刺しにした。

 

 「くっ、速い!」

 

 カザナミの予想以上の速度に驚き動揺するが、このまま黙っているザフトではない。

 

 「落ちつけ! 迎撃!!」

 

 隊長機の飛ばした檄によって我を取り戻したザフト機がカザナミを迎え撃つ為、動き出す。

 

 ゾノの放ったフォノンメーザー砲を回避したカザナミにアッシュが接近戦を仕掛ける。

 

 クローの一撃で体勢を崩しながらもカザナミはさらに振りかぶられたクローをブルートガングで受け止めた。

 

 水中での鍔迫り合い。

 

 ニ機に触発されたように周りの機体も敵機を撃ち落とすべく攻撃を開始した。

 

 

 

 

 各地で激しい戦闘が繰り広げられる中、オノゴロ島ドック内で発進準備を進めている戦艦があった。

 

 白亜の戦艦アークエンジェルである。

 

 アークエンジェルはフォルトゥナによって片方のエンジンを破壊されるという大きな損害を受けた。

 

 だが何とかザフトの包囲網を抜け、オノゴロ島に辿りついていたのだ。

 

 外で行われている戦闘をブリッジから見ていたマリュー達は固く拳を握りしめる。

 

 「調整はまだ終わらないの?」

 

 焦りを抑え、現在の状況を確認する。

 

 しかし急ピッチで作業を行っているマードックからの返事は芳しいものではない。

 

 《もう少し待って下さいよ!》

 

 「急いで」

 

 《了解!》

 

 今のところ展開していた部隊の奮戦もあり、戦況は五分の状態である。

 

 しかし何時均衡が破られてもおかしくない。

 

 そこにムウからの通信が入ってきた。

 

 モニターに映ったムウはパイロットスーツを着込み、コックピットに座っている。

 

 「出るぞ。ハッチを開けてくれ!」

 

 「ムウ!? 貴方、何やってるの!? 怪我が治ったばかりでしょう!」

 

 ザフトからの攻撃を受けた際にセンジンは大破し、ムウも軽傷ではあったが怪我を負った。

 

 それが完治したばかりだというのに。

 

 「悪いがジッとしてられなくてな」

 

 前回の戦闘ではマユやレティシアがやられるのを見ていただけだった。

 

 捕まった彼女達は結果的に助けられたとはいえ、情けない。

 

 ムウは機体状態を確認する。

 

 ある意味懐かしい機体だ。

 

 彼が搭乗しているのはかつての愛機『アドヴァンスストライク』だった。

 

 カガリの機体であったストライクルージュを解体、改修しつつ再び組み上げられたのがこの機体である。

 

 新型アヴァンスアーマー開発の為のデータ収集を目的として組み上げられた機体だが性能は前大戦当時の機体より上がっている。

 

 「無理はしないようにね」

 

 「了解! ムウ・ラ・フラガ、出るぞ!!」

 

 すべてのストライカーパックを装備し、アークエンジェルから飛び出した。

 

 海上の戦闘は一層激しさを増している。

 

 艦隊からもミサイルが一斉に発射され、オーブ艦目掛けて撃ち込まれていく。

 

 ムウはスコープを引き出しアグニで向ってくるミサイルを一斉に薙ぎ払った。

 

 「これ以上はやらせん!」

 

 空中で砲撃を続けるストライク。

 

 それに気がつき、斬り込んできたグフをシュベルトゲーベルを横薙ぎに振るって容易く真っ二つに両断した。

 

 そこにトールのオウカが近づいてくる。

 

 ロングビームサーベルでバビを斬り捨てながらアドヴァンスストライクの傍に並ぶ。

 

 「フラガ一佐!? もう大丈夫なんですか?」

 

 「寝てる場合じゃないからな。行くぞ!」

 

 「了解!」

 

 二機は連携を取り、敵機を次々と撃ち落とす。

 

 オウカと共に動き回るその姿はまさにエンデュミオンの鷹に相応しい戦いぶりであった。

 

 

 

 

 オーブでの戦いが激しさを増していた頃、宇宙でもまた激戦が繰り広げられていた。

 

 アメノミハシラ、そしてヴァルハラから出撃した部隊がザフトの降下部隊との交戦に入ったのである。

 

 援護するため戦闘宙域に辿り着いたオーディンやイザナギといった戦艦からもモビルスーツが出撃する。

 

 オーディンのブリッジで指揮を執るテレサは思わずため息をつきたくなった。

 

 ブレイク・ザ・ワールドではザフトと協力しながら共に戦ったと言うのが彼女を複雑な気分にさせていたのかもしれない。

 

 その様子を横に立って見ていたヨハンが気まずげに話しかけてくる。

 

 「大佐、すぐに戦闘開始ですよ」

 

 「……分かっているさ」

 

 テレサは気分を切り替え格納庫に通信を繋ぐ。

 

 モニターに映ったのはモビルスーツ隊を率いるイザークだ。

 

 「ジュール、毎回同じ事を言っているが頼むぞ。特にお前の機体は新型だ。壊すなよ」

 

 《了解。イザーク・ジュール、シュバルトライテ出るぞ!》

 

 オーディンからイザークの新型が出撃する。

 

 SOA-X07 『シュバルトライテ』

 

 次期主力機開発計画の新型である。

 

 シュバルトライテはレティシアが搭乗していたブリュンヒルデのデータを解析、洗練しスウェアのデータを使って開発された機体である。

 

 さらに続くように別の機体がオーディンから姿を現した。

 

 STA-S5 『ブリュンヒルデ』

 

 名の通りレティシアが搭乗していた機体を量産したものだ。

 

 ブリュンヒルデ最大の特徴はこのタクティカルシステムと呼ばれる装備換装システム。

 

 ストライカーパックやコンバットシステムとは違い、ある程度の火力を保持しながらも高い機動性を得る事が出来るのがこのシステムの特徴だった。

 

 背中に装着されていたのはタクティカルシステムの内の一つ宇宙用の『ヨルムンガンド』と呼ばれる物。

 

 これは高機動スラスターによって高い機動性を持たせる事が出来る装備だった。

 

 イザークはブリュンヒルデを率いて、戦場に駆けつけるとグラムを片手に振るって敵機を斬り捨てる。

 

 さらに後方にいるヘルヴォルが放つ砲撃に援護されたブリュンヒルデは敵部隊に斬り込んでいった。

 

 「数が多い。全機連携を取りつつ、敵機を各個撃破しろ!」

 

 「「了解!!」」

 

 シュバルトライテはビーム砲でグフを消し飛ばすと、攻撃してきたイフリートのガトリング砲を回避。

 

 放ったビームによってイフリートの右腕を破壊し体勢を崩す。

 

 その隙に敵機を撃破しようとトリガーに指を置くが、上方から撃ち抜かれたイフリートは火を噴き爆散する。

 

 「あれは……オウカか!?」

 

 視線の先にいたのはビームライフルを構えたオウカだった。

 

 イザークもあの機体の事は知っている。

 

 機体を任されていたのは自分も知っている人物だからだ。

 

 「余計な御世話だったかしら、イザーク」

 

 「そんな事はない。礼を言っておく―――フレイ」

 

 オウカのコックピットに座っていたのはフレイだった。

 

 彼女は前大戦時、アークエンジェルのブリッジ要員として戦っていたが、戦争終結後に適性を見込まれパイロットに転向したのだ。

 

 モルゲンレーテの技術者であり彼女の親友であるエルザが開発に携わった機体のテストをする為というのも大きい。

 

 しかし何よりも彼女が転向した動機はシンに語った通りだ。

 

 復讐の為ではなく、守るために自分に出来る事をしようと思った結果でもある。

 

 「無理はするなよ」

 

 「分かってる」

 

 先行するシュバルトライテに追随するようにオウカも加速すると敵機に向かって攻撃を開始した。

 

 状況はほとんど五分の状態。

 

 数こそザフトの方が多いものの、同盟の新型機が投入された事で降下部隊を押し返していた。

 

 しかしここで状況は大きく変化する事になる。

 

 「このままなら―――何!?」

 

 状況を見渡し、押されている場所を援護しようと視線を走らせた瞬間、イザークは目を見開いた。

 

 別方向から放たれたビーム砲によってアルヴィト、ヘルヴォルが薙ぎ払われたのである。

 

 振り返った先には翼を広げ、光を放出する機体が佇んでいた。

 

 ハイネのヴァンクールである。

 

 「ま、同盟相手に簡単にいくとは思ってなかったけど、ここまで手こずるとはな」

 

 ハイネの役目は降下部隊の護衛。

 

 邪魔する連中はすべて排除せよとの命令が下っている。

 

 「ずっと機体の調整ばかりだったからな。今日は暴れさせてもらうぜ!」

 

 高エネルギー長射程ビーム砲を背中に戻すと右手にアロンダイトを構えて機体を加速させた。

 

 ヴァンクールに気がついたヘルヴォルがビームランチャーを放ってくる。

 

 しかしそんなものは通用しない。

 

 速度を上げ余裕で攻撃を振り切るとアロンダイトを袈裟懸けに振り下ろした。

 

 全く反応できなかったヘルヴォルは防御する間もなく、胴体を斬り裂かれて撃破されてしまう。

 

 それを見たアルヴィトが斬艦刀リジルを抜き、ヴァンクールに振り下ろしてきた。

 

 「甘いぜ」

 

 ハイネはアロンダイトを振り上げ斬艦刀を持った腕ごと切断。

 

 今度は返す刀で上段から振り下ろした。

 

 しかし今度は敵もあっさりとはやられてくれない。

 

 アルヴィトは残ったブルートガングでアロンダイトを止め、蹴りを入れて突き放すと背中のレール砲を撃ち出した。

 

 「おお、やるねぇ。でもそれじゃ俺は倒せないぜ!!」

 

 砲弾を機体を逸らして回避したハイネはフラッシュエッジを引き抜き、傷ついたアルヴィトに投げつけた。

 

 後退しようとするアルヴィトを曲線を描くように側面から迫ったブーメランが斬り裂いた。

 

 「やっぱり錬度が高い。侮れないな」

 

 翼を広げたヴァンクールは次々と敵機を撃破していく。

 

 それを見たイザークは舌打ちした。

 

 ドミニオンからの報告は受けていたがあれほどの性能とは。

 

 「チッ、厄介な! 全機、あの機体には近づくな! あれは俺がやる!」

 

 シュバルトライテはビームライフルでヴァンクールを攻撃する。

 

 しかし銃口から放たれたビームが届く事は無く、手の甲から展開されたシールドによって防がれてしまった。

 

 「くっ、こいつ!」

 

 遠距離戦は不利だと判断したイザークは斬艦刀を用いた近接戦を挑む。

 

 「隊長機か!」

 

 こいつは動きが違う。

 

 繰り出される剣撃も他の機体とは違い鋭く速い。

 

 「成程ね。流石は新型とそのパイロットだ。けどまだまだ!」

 

 ハイネはシュバルトライテを突き放し、ビームライフルを連続で叩き込んだ。

 

 「ッ!」

 

 「落ちろ!」

 

 ビームが装甲を掠め、シュバルトライテに傷を作っていく。

 

 そしてフラッシュエッジを抜こうとしたハイネの背後から今度はオウカがロングビームサーベルを振り抜いてくる。

 

 「はああああ!!」

 

 横薙ぎに振るわれたオウカの斬撃を軽く受け止め、押し返すようにして弾き飛ばす。

 

 「ったく。また新型かよ」

 

 思わず毒づくハイネ。

 

 弾かれたオウカは即座に体勢を立て直し超高インパルス砲を放つ。

 

 それに合わせるようにイザークもまた背中のビーム砲を使ってヴァンクールを引き離した。

 

 「イザーク、こいつに一機で相手をするのは危険よ」

 

 「……分かった。だが無理はするなよ」

 

 「了解」

 

 二機はグラムとビームサーベルを握り連携を取りながらヴァンクールに向っていく。

 

 それを見たハイネもニヤリを笑みを浮かべた。

 

 「二機同時か。上等!」

 

 ヴァンクールもアロンダイトを構えて二機を迎え撃った。

 

 

 

 

 

 宇宙と地上。

 

 両方で激戦が繰り広げられている。

 

 状況はオーブがやや不利。

 

 物量の差が響き始めている。

 

 虚を突かれた形になったのは痛い。

 

 このままでは徐々に押し込まれてしまうだろう。

 

 国防本部から戦況を見ていたカガリは両手を固く握り、意を決して立ち上がった。

 

 「……私が出る。ここの指揮はオーデン准将に任せる」

 

 「了解しました」

 

 「ミヤマ、ジブリールは?」

 

 後ろに控えていたショウは首を横に振った。

 

 「キサカ、お前は部隊を率いて艦隊の援護に回れ。アサギ、マユラ、お前達は私について来い」

 

 「分かった」

 

 「了解です!」

 

 「はい!」

 

 ジブリールの事はショウに任せるしかない。

 

 後は自分にできる事をするだけだ。

 

 アサギとマユラを連れて格納庫まで歩いて行くとそこにはウズミが立っていた。

 

 「行くのか、カガリ?」

 

 「はい。私は今出来る事をするだけです」

 

 「そうか。私から言うべき事はない。お前は自分の決めた道を行けばいい。ただこれだけは言わせてくれ……気をつけてな」

 

 「はい。行ってきます、お父様」

 

 ウズミを真っ直ぐに見つめて頷くと格納庫にある機体を見上げた。

 

 ORB-01 『アカツキ』

 

 オーブのフラッグシップ機となるべく開発された機体である。

 

 最大の特徴は黄金色の装甲は『ヤタノカガミ』と呼ばれる装備だ。

 

 これは敵のビームをそのまま相手に跳ね返す事ができる鏡面装甲となっている。

 

 背中には大気圏用航空戦闘用装備『オオワシ』を装備している。

 

 カガリは機体を立ち上げると横に立つ機体を見た。

 

 MBF-M3A 『コウゲツ』

 

 スカンジナビアのブリュンヒルデの同型機だ。

 

 今背中にはタクティカルシステムの内の一つ地上用機動戦闘装備『カラドリウス』を装備していた。

 

 これは大型スラスターによって高い機動性と空戦能力を得る事が出来る。

 

 「アサギ、マユラ、そちらはどうだ?」

 

 《いつでもいけますよ!》

 

 《こっちはカガリ様待ちです》

 

 「全くお前らは! さっさと行くぞ!」

 

 《は~い!!》

 

 カガリは呆れながらも笑みを浮かべた。

 

 この状況でもいつも通りなんて緊張感の欠片もない。

 

 全く頼もしい奴らである。

 

 準備を整えハッチが開くと外が見えた。

 

 その先は戦場だ。

 

 政務の合間を縫って訓練はしていた。

 

 しかし前大戦の様にはいかないだろう。

 

 それでも―――

 

 「行くぞ。オーブを守る為に。カガリ・ユラ・アスハ、アカツキ発進するぞ」

 

 『オオワシ』の羽を広げたアカツキが戦場に飛び出した。

 

 

 

 

 オーブの防衛網は強固なものだった。

 

 だがそれも綻び始め懸念通り徐々に押し込まれていった。

 

 艦隊やモビルスーツの迎撃を抜けた何機かは本島に向けて移動する。

 

 国防本部を落とさせばザフトの勝ちだ。

 

 しかしその前にあからさまに目立つ機体が現れた。

 

 何と言っても全身が黄金に包まれているのだから。

 

 「何だよ、あれ」

 

 「悪目立ちし過ぎだろ」

 

 落としてくれと言わんばかりだ。

 

 何なのかは知らないがさっさと落としてしまおうと考えたザクのパイロットはオルトロスを撃ち出した。

 

 正確に放たれたビームが黄金の機体に向けて迫る。

 

 だがここで彼らの予想を裏切る事が起きた。

 

 ビームは敵機を撃ち抜くどころか反射し、ザクの方へ跳ね返って来たのである。

 

 ザクのパイロットは反応する事も出来ず、跳ね返ってきたビームによって撃破されてしまった。

 

 「な、なんだ今のは!?」

 

 思わず動きを止めてしまうグフ。

 

 「動きを止めたら!」

 

 「駄目でしょ!」

 

 そこに二機のコウゲツが左右から斬艦刀を振るいグフを斬り裂いた。

 

 「良し、このままいくぞ!」

 

 「「了解!!」」

 

 アカツキを中心に、コウゲツと連携を取りながら敵機を撃ち落としていく。

 

 敵機のビームをヤタノカガミで弾き返し、隙ができた所にコウゲツが斬撃を放つ。

 

 相手の動きが分かっているかの様な見事な動きである。

 

 それも当然だった。

 

 彼女達は前大戦から訓練を共にし戦ってきた戦友。

 

 そこらの連中に負ける気はなかった。

 

 そんなカガリ達に触発された同盟軍の士気は上昇し、敵を押し返していく。

 

 このままならばいけると戦場にいる誰もが思い始めた時―――ザフトの英雄が到着した。

 

 

 

 

 『オペレーション・フューリー』が発動され、出撃命令を受けたフォルトゥナはようやくオーブに辿り着いていた。

 

 出撃に備えパイロットの控室に集まっているのはいつものメンバー。

 

 そしてステラと特務隊のデュルクとヴィートもいた。

 

 全員がモニターに映し出された戦況に顔を顰めた。

 

 「押されてる?」

 

 セリスの呟きの通りだった。

 

 物量ではザフトが有利であるにも関わらず、未だオーブの防衛線を突破できずにいる。

 

 それだけでなく徐々に押し返されているのだ。

 

 「強固に抵抗されているらしい。この物量差を押し返すとは流石は同盟軍といったところか」

 

 確かにデュルクの言う通りだった。

 

 こうして目の前で見せつけられると感嘆する他ない。

 

 しかし同盟の力は前大戦からも分かっていた事である。

 

 だからこそジブラルタルにいたフォルトゥナに出撃命令が下ったのだろう。

 

 「さて、まずは俺が―――」

 

 「いや、俺が出る」

 

 レイの言葉を遮ってジェイルが立ち上がった。

 

 これはフェイスとしての初めての任務。

 

 オーブはアイツの―――シンの故郷でもある。

 

 だからこそジェイルは自分の手でオーブを撃ちたかった。

 

 別に悪い意味ではない。

 

 先に逝ったシンもこんな故郷の姿は見たくないだろう。

 

 だからさっさと終わらせたかったのだ。

 

 「じゃあ私も出る。何機か厄介そうなのもいるしね」

 

 「……セリス、お前はやめておいたほうが」

 

 「何で?」

 

 「……いや、何でも無い」

 

 彼女にシンの事を口にするのは憚られた。

 

 それに駄目だと言っても彼女もフェイスである以上、止める権限はない。

 

 ジェイルはそれ以上何も言わずに一度だけステラに視線を向ける。

 

 だが結局言葉は出ず黙ってセリスと共に格納庫に向かう。

 

 デスティニーのコックピットに座り機体を立ち上げる。

 

 その間にカタパルトに運ばれ、正面のハッチが開いた。

 

 「ジェイル・オールディス、デスティニー出るぞ!」

 

 「セリス・シャリエ、ザルヴァートル行きます!」

 

 フォルトゥナから二機のモビルスーツが出撃する。

 

 デスティニーが翼を広げ、ザルヴァートルが飛行形態で戦場に向かう。

 

 まずは正面に見えたナガミツとムラサメに狙いを定めた。

 

 あちらもすぐに敵機接近に気がつきビームライフルで攻撃してくる。

 

 だがそれらの攻撃はデスティニーには通用しない。

 

 「なっ、速い!」

 

 光学残像を発生させ、高速で動くデスティニーを捉えられないのだ。

 

 ジェイルは撃ち込まれたビームを避け、ライフルで迎撃する。

 

 ナガミツを撃破し、アロンダイトで近くにいたムラサメを斬り捨てる。

 

 「そんなもので!!」

 

 デスティニーは舞うように動き回り、アロンダイトで敵機を斬り裂いていく。

 

 「流石! こっちも負けてられない!!」

 

 ザルヴァートルも飛行形態の速度で敵を引き離す。

 

 そしてビームランチャーで敵機をまとめて薙ぎ払い、モビルスーツ形態に変形。

 

 シールド内蔵のビームサーベルで接近してきたアドヴァンスアストレイを撃破した。

 

 圧倒的な二機の猛攻。

 

 押し返していた筈の同盟軍は再び窮地に立たされた。

 

 指揮していたトールとムウはデスティニーとザルヴァートルの戦いぶりに歯噛みするしかない。

 

 「あれってザフトの新型か」

 

 「不味いな」

 

 せっかく立て直したというのに。

 

 だがこれ以上やらせる訳にはいかない。

 

 トールとムウはお互いに頷くと二機の方に機体を向けた。

 

 アドヴァンスストライクとオウカに気がついたセリスは動きの違いからすぐにエース級だと見抜く。

 

 「同盟のエースね。その実力、見せて貰いましょうか!!」

 

 セリスはムウが放ったアグニを回避すると、トールのサーベルを力任せに弾き飛ばす。

 

 さらに胴に向け蹴りを入れビームライフルを撃ち込んだ。

 

 ビームがオウカの装甲を削り、態勢を崩した。

 

 「ッ、速い!?」

 

 「トール、態勢を立て直せ!」

 

 回り込んだムウが背後からシュベルトゲーベルを横薙ぎに叩きつける。

 

 「そんな見え見えの攻撃なんて!」

 

 しかしその斬撃すらも容易く止めたセリスはロングビームサーベルでシュベルトゲーベルを半ばから叩き折った。

 

 「ぐぅ!!」

 

 「フラガ一佐!?」

 

 トールは吹き飛ばされたストライクを援護する為にガトリング砲でザルヴァートルを引き離す。

 

 「やるね。今ので仕留めたと思ったんだけど、そこまで甘くないか」

 

 「このパイロット強い」

 

 明らかにこちらよりも格上である。

 

 「でもこのパイロット、どこかで? いや、今は集中しろ」

 

 これだけの腕を持ったパイロット相手では集中力が切れた時点で詰んでしまう。

 

 「いくぞ!」

 

 「了解!」

 

 折れたシュベルトゲーベルを捨て、ビームサーベルに持ち替えたムウと共にトールも再びザルヴァートルに攻撃を仕掛けた。

 

 

 

 セリスがムウ、トールと戦っている時、ジェイルもまた敵の隊長機と相対していた。

 

 カガリのアカツキである。

 

 「チッ、面倒な機体だな!」

 

 先ほどから攻撃を繰り返し撃ち込んでいるのだが、すべて弾かれてしまう。

 

 さらに―――

 

 「はあああ!!」

 

 僚機であるコウゲツが悉くデスティニーの邪魔をしてくるのである。

 

 撃ち込まれたビームを回避してアカツキに斬り込もうとする。

 

 その絶妙ともいえるタイミングを見計らいライフルで攻撃してくるのだ。

 

 「うざったいんだよ!」

 

 これは地味に効いてくる嫌な攻撃だ。

 

 そして見事な連携。

 

 これだけの芸当ができるという事はオーブ歴戦の勇士らしい。

 

 ここまで押し返されたのも納得である。

 

 しかしそれはジェイルには通用しない。

 

 「いい加減にどけぇぇ!!」

 

 二機が動こうとする瞬間にタイミングに合わせ、ビームライフルで狙撃するとコウゲツの連携を崩す。

 

 そしてフラッシュエッジを叩きつけコウゲツの右腕を破壊した。

 

 「きゃあああ!!」

 

 「マユラ!?」

 

 アサギが傷ついたマユラ機を助けようとする所に回り込む。

 

 しかしそれを阻む為ジェイルは蹴りを入れた。

 

 「しまっ―――」

 

 蹴りで吹き飛ばされたコウゲツはもう一機と衝突させられた。

 

 「落ちろ!」

 

 その隙にデスティニーは高エネルギー長射程ビーム砲を発射する。

 

 これで一網打尽。

 

 後はあの隊長機に集中できる。

 

 だがコウゲツを撃ち抜こうとしたビームの前にアカツキが割り込みビームを跳ね返した。

 

 「大丈夫か!? お前達は一旦下がれ!!」

 

 「しかし!!」

 

 「いいから!!」

 

 コウゲツの前に立ちはだかるアカツキにジェイルは舌打ちする。

 

 「やっぱりお前から落とさないといけないらしいな、金色!」

 

 ビームは何度撃ち込んでも弾かれてしまう。

 

 遠距離からの攻撃では埒が明かない。

 

 「なら!」

 

 ジェイルはアロンダイトを抜きアカツキに向かって突撃した。

 

 凄まじい速度で突っ込んで来たデスティニーにカガリも腰のビームサーベルを構えて迎え撃つ。

 

 お互いに振るわれた剣撃が激突。

 

 ジェイルはアカツキのサーベルを容易く盾で受け止めると鼻を鳴らした。

 

 「ハッ! 隊長機だからどんなもんかと思いきや、この程度かよ!!」

 

 ジェイルはサーベルを弾き、アカツキのシールドに向けパルマフィオキーナ掌部ビーム砲を撃ち込んだ。

 

 「何!?」

 

 掌にある武器に反応が遅れたカガリは機体ごと吹き飛ばされてしまう。

 

 「こんな手に引っ掛かるなんて甘いんだよ!」

 

 体勢を崩したアカツキにジェイルはアロンダイトを勢いよく振り下ろした。

 

 カガリの目の前にデスティニーの刃が迫る。

 

 避け切る事も防御も無理。

 

 やられてしまう。

 

 こんな所で―――

 

 「まだァァァ!!!」

 

 

 カガリのSEEDが弾けた。

 

 

 全身に広がる感覚に任せ、操縦桿を動かすとアロンダイトの斬撃を潜り抜けた。

 

 「あの体勢から避けただと!?」

 

 その動きに驚いたのはジェイルである。

 

 今の一撃で確実に仕留めた筈だった。

 

 しかし敵機はこちらの反応を確実に上回った。

 

 「ウオオオオオオ!!!」

 

 「チッ」

 

 アカツキはデスティニーの側面からビームサーベルを横薙ぎに叩きつける。

 

 しかしその斬撃がデスティニーを捉える事はなかった。

 

 ジェイルは振り返り様に逆手に持ったフラッシュエッジを振り抜き、アカツキの腕を斬り裂いたのだ。

 

 「なっ!?」

 

 「訂正する。アンタは大した腕前だよ。けどここまでだ!!」

 

 アカツキを殴りつけ、体勢を崩した所に両肩のフラッシュエッジを投げつけた。

 

 「しまっ―――」

 

 左右から迫るブーメランに回避しようと試みるが―――間に合わない。

 

 ジェイルは今度こそ仕留めたと確信する。

 

 

 だが次の瞬間―――

 

 

 アカツキを捉えかけていたブーメランが何かによって叩き落とされてしまった。

 

 

 驚くジェイルの視界にあり得ないものが映る。

 

 

 広がる蒼い翼に白い四肢。

 

 

 あれは―――死力を尽くし、すべてを賭けて落した筈の死天使。

 

 

 「……フリーダムだと!!」

 

 

 黄昏の天使が戦場に舞い降りた。




機体紹介2更新しました。

今回フレイさんが出来てましたが、あくまでもゲスト出演的な感じです。
それから機体名のオウカは刹那さんから投稿されたアイディアの機体名を使わせてもらいました。
名前の響きが好きだったので。

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