機動戦士ガンダムSEED effect   作:kia

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第40話  少女は再び翼を纏う

 

 

 

 

                                          

 ザフトの研究施設からマユとレティシアを救出する事に成功したドミニオンはヘイムダルⅡと共にヴァルハラに帰還していた。

 

 港の隔壁が開くと同時に二隻がドックに入ると修復や補給の為に整備の者達が戦艦に取りついた。

 

 クルー達も落ちついた様子で歩き、和やかな雰囲気が艦内を包んでいる。

 

 一息ついたシンもマユの様子を見る為に医務室に足を運んでいた。

 

 ベットにはマユとその反対側にレティシアが眠っている。

 

 先生の話では怪我の方も医療ポットである程度治療されていたらしく休養は必要だが、他は問題ないと聞かされた。

 

 それを聞いてシンは安心したのだが、そうすると今度は別の事が頭に浮かんでくる。

 

 考えていたのはこれからの事。

 

 マユは助け出せた。

 

 しかしだから終わりという訳ではない。

 

 デュランダルがやろうとしている事や、ジェイルやレイ、そしてなによりもセリスの事。

 

 アストの話を聞く限り、セリスは記憶の操作を受けている可能性が高い。

 

 おそらくシンの事も覚えていないだろう。

 

 だからといって放っておく事は出来ない。

 

 ただそうなると今度はザフトと戦う事になる。

 

 研究施設での戦いはマユを助けるという目的の為にあえて余計な事は考えずにいた。

 

 しかし今度はジェイルやレイと刃を交える可能性は高いだろう。

 

 そうなった時、仲間だった彼らと本気で戦えるのか。 

 

 しばらく考え込んでいると、マユの様子に変化があった。

 

 ゆっくりと目を開き、シンを見る。

 

 「マユ、目が覚めたのか?」

 

 「……夢じゃなかったんですね。どうして?」

 

 自分の置かれていた状況を思い出したのか、疑問をぶつけてくる。

 

 マユからすればザフトに居た筈のシンがどうしてと言いたいのだろう。

 

 すべてを説明する前に自分の本心を口にする。

 

 「俺がマユを助けるのは当たり前じゃないか」

 

 そう微笑みかけるシンに、マユも「そうですか」と呟いて口元を少し綻ばせた。

 

 改めて話をしようとした時、ベットに横たわっていたレティシアも目を覚ました。

 

 「レティシアさんも目が覚めたんですね」

 

 「……マユ? それに貴方は、マユのお兄さんの―――」

 

 「えっと、シン・アスカです!」

 

 椅子から立ち上がるとレティシアに自己紹介する。

 

 初めて見た時から分かってはいたけど、思わず緊張するくらいの凄い美人だ。

 

 ベットから半身を起したレティシアとやや照れながら握手をする。

 

 もし仮にこんな所セリスに見られたら―――

 

 いや、精神的にも怖い想像は止めた方が良い。

 

 落ちついたところでこれまでの経緯を説明する事にした。

 

 ミネルバがザフトに攻撃された事。

 

 そしてアストやキラと共にマユ達を救出に向かった事までを。

 

 「なるほど」

 

 「ザフトでそんな事が……」

 

 「間に合って良かったよ」

 

 シンの話を聞いて何かを考え込むように起き上がったマユは真剣な表情で顎に手を当てる。

 

 「どうしたんだ?」

 

 「いえ、少し」

 

 マユが考え込んでいたのはセリスの事だ。

 

 ダーダネルスの戦いやフリーダムを落とされてしまった時も鬼気迫るとでも言えばいいのか、ミネルバで会った時とはまるで違う殺気を感じていた。

 

 あれはザフトで施された処置が関係していたと考えれば納得できる。

 

 それについてはまた後で整理するとして、それよりも―――

 

 「あの―――アストさんも、一緒だったんですよね?」

 

 「え、ああ、うん」

 

 「そうですか……」

 

 何故かマユも横に居るレティシアもすごく怖い顔をしている。

 

 もしかしなくとも何か怒ってるのか。

 

 若干怯えながらマユに質問しようとした時、医務室の扉が開いた。

 

 「あ」

 

 「シン、二人の様子は―――」

 

 入ってきたのはアストだった。

 

 その瞬間、マユもレティシアも怖いくらいの笑顔を浮かべる。

 

 目は全く笑って無かったが。

 

 「ふ、二人とも目が覚めたんだな」

 

 アストもまたそれに気がついているのだろう。

 

 顔が引き攣っていた。

 

 気持ちは分かる。

 

 シンもまたこんな状況の矢面に立たされたら、きっと同じ様なリアクションになるだろう。

 

 「ええ、もう大丈夫ですよ」

 

 何と言うかどこまでも棒読みで感情がまったく籠っていない。

 

 それが余計に恐怖をかき立てる。

 

 「シン君、申し訳ないのだけれど、少し席をはずしてくれませんか?」

 

 「……はい」

 

 シンは喜んでその願いを聞き入れた。

 

 ここで出て行かないほど空気が読めない訳ではないのだ。

 

 立ち上がって入口に向う。

 

 「シン、待ってく―――」

 

 「す、すいません、アレン」

 

 アストの縋るような声を振り切って医務室を出ようとした時、後ろからマユに声を掛けられた。

 

 「あの……助けてくれてありがとうございました―――兄さん」

 

 思わずマユの方を振り返った。

 

 自分の事を兄と呼んだのは、再会してから初めてだ。

 

 昔はお兄ちゃんだったが、今のマユからは兄さんの方がしっくりくる気がする。

 

 「助けに行くのは当たり前だ。マユが危なくなったら何度だって助けに行くさ。家族だろ」

 

 「……そうですね」

 

 昔通りに戻るのはもう少し時間が掛かるかも知れない。

 

 それでもオーブで感じた距離をようやく一歩縮められた気がした。

 

 「さて、アスト君」

 

 「アストさん」

 

 シンが出て行った医務室でマユとレティシアの声がアストに重く圧し掛かる。

 

 背中の冷や汗が止まらない。

 

 「……なんでしょうか?」

 

 「「正座してください」」

 

 「いや、あの、ここには他に人も来る訳ですし、正座というのは……」

 

 二人がベットから立ち上がり、こちらに無言の圧力を掛けてくる。

 

 それに耐えきれなくなったアストは大人しく医務室の床に正座した。

 

 もちろん先程言った通り医務室に来る人達はいる。

 

 仁王立ちする二人と正座するアストを見た人達はすぐにこの場を離れていった。

 

 「アスト君、私達に何か言う事はありませんか?」

 

 「……え~と、その、これには色々訳がありまして」

 

 「その辺は一応兄さんからも聞きました。でも、せめて一言、言って欲しかったです」

 

 マユが泣きそうな顔で抱きついてきた。

 

 「すごく心配しました」

 

 「すまない」

 

 マユの体を抱きしめてると頭を優しく撫でる。

 

 しばらくそのまま抱きしめていた。

 

 いささかレティシアの目が鋭くなった気がしたけど、気の所為だろう。

 

 そう思いたい。

 

 ただ視線が厳しい事は変わりないので、マユの体を離す。

 

 「はぁ、まあマユなら仕方ないですね……それよりもアスト君、話はまだ終わってませんよ」

 

 「……すいませんでした」

 

 それからしばらく二人からの詰問はやむ事無く、続けられた。

 

 キラもラクスから同じ様な目に遭ってるんだろう。

 

 「まだまだ言いたい事はありますけど、とりあえずアスト君」

 

 「……はい」

 

 何も言わないままレティシアはアストを抱きしめた。

 

 「無事で良かったです」

 

 「……悪かった」

 

 アストもレティシアを抱きしめ返す。

 

 だが徐々に彼女の力が強くなっているような気がする。

 

 というか痛い。

 

 「あの、レティシアさん?」

 

 「……リース・シベリウスって子とどういう関係だったんですか?」

 

 耳元で冷たく囁かれる言葉にアストは凍りついた。

 

 気がつけばマユも先程以上に冷たい目でこちらを見ている。

 

 「……何の事でしょうか」

 

 「とぼけるつもりですか、アストさん」

 

 「マ、マユ、ほ、本当に何のことか―――」

 

 「全部教えて貰いますからね、アスト君」

 

 アストは逃げ場のない状況で、「アネット居なくて良かったなぁ」なんて現実逃避的な事を考えていた。

 

 ちなみにキラもまた食堂で同じ様にラクスから正座させられていたらしい事を後で聞かされた。

 

 

 

 

 医務室から離れたシンは一人窓から宇宙を眺めていた。

 

 マユと少しずつでも距離を縮められたのは良かった。

 

 だが未だに考えなければならない事はたくさんある。

 

 これからの立場もそうだ。

 

 同盟に対する感情は自分なりに整理をつけたつもりだ。

 

 だからと言ってこれから同盟の為に戦えるかと言われればよく分からないというのが本音である。

 

 もちろんマユやセリスの事を考えれば同盟に所属して戦うのが一番だとは思うが。

 

 シンがそんな風に考え込んでいた時、後ろから声を掛けられた。

 

 「あれ、君は……シン・アスカ君?」

 

 声をかけてきたのは赤い髪をした女性だった。

 

 制服からして彼女も同盟の軍人なのだろう。

 

 雰囲気から似つかわしくない気もするが。

 

 「えっと」

 

 戸惑う様子に気がついたのか、女性は穏やかな笑みを浮かべて自己紹介をしてくれた。

 

 「ああ、ごめんなさいね。私はフレイ・アルスター。前大戦ではアークエンジェルのクルーだったからマユちゃんや貴方の事も知っているの」

 

 それでシンも納得した。

 

 アークエンジェルのクルーだったのならマユや自分の事を知っていてもおかしくはない。

 

 「そうだったんですか」

 

 「それでこんな所でどうしたの? 悩み事?」

 

 そんなに顔に出ていたんだろうか?

 

 「ええ、ちょっと」

 

 「良ければ話してみない? 話すだけでも違うわよ」

 

 確かに一人で考え込んでいても仕方がない。

 

 フレイはこちらの事を知っているみたいだし、話してみるのもいいかもしれない。

 

 シンは自分の悩みを話す。

 

 自分の立場や同盟に対する感情、ザフトの事、そしてセリスの事を。

 

 黙って話を聞いていたフレイは静かに自分の事を話し始めた。

 

 「私が軍に志願した理由は―――家族の仇を討つため。つまりザフトに、コーディネイターに復讐する為だったの」

 

 「えっ!?」

 

 フレイの語られた過去はシンにとって非常に共感できるものだった。

 

 そして同時に衝撃も受けた。

 

 この人もまたザフトによって大切なものを無くしてしまったのだと。

 

 彼女が復讐しようと考えていた時、彼女は見たのだ。

 

 憎むべきコーディネイターの少女が同じく家族を亡くして悲しんでいる所を。

 

 大切な人を亡くせば誰だろうと悲しいのは当然だ。

 

 でもそんな事にも当時の自分は気がつかなかったのだと。

 

 「今では一番の親友だけどね。でも昔はそんな当たり前だけど、大切な事にも気がつけなかった。それからは自分の大切な者を守るために出来る事をしようと決めたわ」

 

 「自分に出来る事」

 

 「貴方にもいるでしょう、大切な人達が」

 

 「はい」

 

 「なら、その人達の為に貴方が出来る事を精一杯やればいいと思うわ。ごめんなさい、こんな事しか言えなくて」

 

 「そんな事ありません。ありがとうございました、フレイさん」

 

 笑顔で立ち去っていくフレイの後ろ姿を見ながら考える。

 

 彼女は軽く言っていたけれど、あんな風に考えられるまでにどれだけの葛藤があったのだろう。

 

 自分が同じ立場になったなら出来ただろうか、フレイのように。

 

 「自分の大切なものの為に出来る事をか」

 

 少し答えが見えた気がした。

 

 前に比べれば重く圧し掛かっていたものが、軽くなった気がする。

 

 シンは先程までより軽くなった足取りで格納庫まで歩きだした。

 

 

 

 

 夜の暗闇に紛れ森の中に一隻の戦艦が停泊していた。

 

 大型陸上用戦艦ハンニバル級。

 

 アオイ達の母艦である。

 

 今ブリッジでは保護したユウナ達の話を聞いていた。

 

 ザフトの動向やロゴス派の情報も得られるのでアオイ達も助かる。

 

 アオイは話を聞きながらユウナの傍に控えている少女を複雑な気持ちで見つめた。

 

 彼女達は『ラナシリーズ』と呼ばれた量産型エクステンデット。

 

 レナとリナと呼ばれた彼女達はその失敗作らしい。

 

 破棄され様としたところをユウナが保護したと言っていた。

 

 拳を強く握り締める。

 

 ディオキアで再会した時、何故気がつかなかったのか。

 

 彼女が言っていた知り合いというのはロゴス派の人間だったに違いない。

 

 ラナの憎しみを利用してエクステンデットに改造したのだろう。

 

 あの時、気がついていたならこんな事にはならなかったかもしれないのに。

 

 そんなアオイの肩に手を置くとルシアが首を振った。

 

 「少尉、そんなに自分を責めては駄目よ」

 

 「……ありがとうございます、大佐」

 

 今はユウナの話を聞く方が優先だ。

 

 気持ちを切り替えると話に耳を傾ける。

 

 「……まずはレナの手当してくれた事を感謝したい。ありがとう」

 

 礼を述べたユウナは頭を下げた。

 

 前に会った時に比べてずいぶん印象が違う。

 

 それは面識にあったラルスやスウェンが一番よく感じているだろう。

 

 「治療については別に構わないが、施したのはあくまでも応急処置だ。きちんとした施設で処置しなければ―――」

 

 「分かっている。それには考えている事があるんだ。それよりも話を聞きたいんだろう?」

 

 「ああ。ヘブンズベースであった事を出来るだけ詳しく教えてほしい」

 

 ユウナは頷くと自分達が持っていたデータを渡し、詳細な話を始める。

 

 最初は奇襲とデストロイの攻撃によって反ロゴス連合を圧倒していた。

 

 しかし空から降りてきた黒い機体やミネルバ級から出撃してきた新型によって形勢は逆転。

 

 抵抗もできずロゴス派は敗北したらしい。

 

 基地内部も火災や崩落によって危機的状況であり、ユウナ達は少しでも安全な場所に向かうため移動していた。

 

 そこに脱出しようとしていたロード・ジブリールと鉢合わせになり、ウナトは殺害され、レナは重傷を負ったということだ。

 

 「ジブリールが脱出していたか」

 

 「どうやら前回の戦いで後から来た新型機はジブリールを追っていたようですね」

 

 スウェンの推測通りだろう。

 

 おそらくジェイル達はユウナ達をジブリールと思いこんで追撃してきたのだ。

 

 だとしたら何故撤退する必要があったのかという疑問が浮かぶ。

 

 考え込む面々にユウナはさらに驚くべき事を告げた。

 

 「……ジブリールが向ったのはおそらく―――オーブだ」

 

 「オーブ!?」

 

 「しかし同盟がジブリールを受け入れる筈はありません」

 

 ユウナは悔しそうに表情を歪めながら、両手を強く握りしめた。

 

 「ヴァールト・ロズベルクだ。第二次オーブ戦役時から彼の手の者が国内に紛れ込んでいる。入国自体は僕ら、つまりセイラン家が脱出した時のルートを使えばいい。オーブ政府の誰もが知らない筈だ。もしかすると僕達を離反させたのはこうなった時の為の下準備だったのかもしれない」

 

 納得したようにスウェンが頷く。

 

 「……なるほど。つまりジブリールは宇宙に上がって、ウラノスに行くつもりか。確かそこでは新型も開発されていましたね」

 

 「ああ。ウラノスの戦力を使って体勢を立て直すつもりだな」

 

 それは悪あがきだ。

 

 もはやロゴス派に勝ち目はない。

 

 しかし仮にジブリールがウラノスに上がれば、面倒な事になる。

 

 その前に阻止したいところだが。

 

 「しかし同盟にそれを伝える手段はありませんよ」

 

 「それは僕がやる」

 

 ユウナが立ち上がると真っ直ぐラルスを見つめる。

 

 「どうするつもりだ?」

 

 「……僕をスカンジナビアの国境に連れていって欲しい。ユウナ・ロマ・セイランがいると分かれば向うも出向いてくる。情報と引き換えならレナの治療もしてくれる筈だ」

 

 「ユウナ様!?」

 

 傍に控えて兵士達が驚いて立ち上がった。

 

 「そんな事をすれば!」

 

 「……これは僕のけじめだよ。こうなった事に悔いはない。だけどきちんと責任は取らなくては」

 

 「しかし、それではユウナ様は!!」

 

 「分かっているさ。それでもこの子たちに胸の張れる自分でいたいんだよ」

 

 ユウナはリナの頭を撫でながら、笑みを浮かべる。

 

 「ロアノーク大佐、今さらこんな事を言う権利は無いが彼らの事を―――」

 

 そう言おうとした瞬間、兵士達がユウナに詰め寄った。

 

 「我々は最後までお供します」

 

 彼らの言葉に従うようにリナもユウナの服を掴んだ。

 

 「私も、行きます。家族、ですから」

 

 皆を見渡し、説得は無理と判断したのだろう。

 

 苦笑しながら「仕方ないね」と呟いた。

 

 「……分かった。スカンジナビア国境までは送っていこう」

 

 「感謝する。大佐」

 

 話が纏まり、艦をスカンジナビア国境近くまで移動させる為に準備を開始する。

 

 アオイはしばらく考え込んでいたが、腹を決めるとブリッジから出ようとするラルスに話掛けた。

 

 「大佐、俺をオーブに行かせてもらえませんか?」

 

 「……ステラの事か?」

 

 もしもこの先オーブで戦端が開かれるなら、間違いなくザフトの新型も投入されるだろう。

 

 同盟の力が精強である事は今までの戦いからも十分証明されているからだ。

 

 ならばザフトの新型に搭乗していたステラも戦場に現れる。

 

 「もちろんそれもありますけど、ジブリールの事も気になりますから。自分の目で確かめたいんです」

 

 ラルスはしばらく考え込むように顎に手を当てる。

 

 自分達はマクリーン中将の命令でエンリルに上がるつもりだった。

 

 しかしザフトと同盟の戦いが起こるならば見ておいて損はない。

 

 ザフトの新型もあの時、相対した機体だけではない筈。

 

 これからの事に備えるならばデータはいくらあってもいい。

 

 「分かった許可しよう。ただし単独では駄目だ。私も一緒に―――」

 

 「待って下さい。少尉とは私が一緒に行きます。貴方には部隊の指揮があるでしょう」

 

 「ルシア、しかし―――」

 

 「……体の事もありますから、私に任せて下さい。それにモビルスーツ戦で兄さんに負けた事ないでしょう?」

 

 ラルスはため息をつきながらも苦笑する。

 

 ルシアはこう見えてかなり頑固だ。

 

 やめろと言っても聞かないだろう。

 

 それに操縦の技量も申し分ない。

 

 ここは任せよう。

 

 「分かった。エレンシアを使え。ただし、二人とも無茶はするなよ」

 

 「「了解!!」」

 

 アオイとルシアがブリッジから出ていくのを見届けたラルスは艦を発進させる為、指示を飛ばし始めた。

 

 

 

 

 

 ヘブンズベースの戦いから帰還したフォルトゥナはジブラルタルに駐留していた。

 

 戦場から帰還したジェイル達は現在ジブラルタルの司令室に集められていた。

 

 部屋には多くの将校たちが集まり、その中央にはデュランダルが笑みを浮かべてこちらを見ている。

 

 そんな落ち着かない状況の中でジェイルはレイ、セリス、リースと共に立っていた。

 

 何をしているのか。

 

 それは―――

 

 「ヘブンズベース戦での功績を称え、ネビュラ勲章を授与する」

 

 四人の胸元には与えられた勲章が付けられていた。

 

 ネビュラ勲章はザフトにおいて多大な戦果を上げたものに送られる勲章である。

 

 あの戦いで目覚ましい働きをし、功績をあげた四人に勲章が送られる事になったのである。

 

 中でもセリスはオーブでの戦いで与えられたものに合わせて二つ目だ。

 

 これには将校たちも称賛の声を上げている。

 

 そして勲章を与えられた四人の前にデュランダルが前に出ると小さな箱を差し出した。

 

 「これをジェイル・オールディス、レイ・ザ・バレル、セリス・シャリエの三人に」

 

 「えっ」

 

 デュランダルが差し出したのは見覚えのあるバッチ、特務隊フェイスの証だった。

 

 驚きながらデュランダルの顔を見る。

 

 「どうかしたかね、ジェイル」

 

 「いえ」

 

 「これは我々が君達の力を頼みにしているという証だよ。どうかそれを誇りとして今後もまた力を尽くしてもらいたいと思ってね」

 

 ジェイルは思わず拳を握った。

 

 これはデュランダルに認められたと言う事に他ならない。

 

 その重責が肩に圧し掛かる。

 

 これからはアレンやハイネと同じ立場になるのだから。

 

 「光栄です。議長」

 

 冷静なレイに合わせ、ジェイルとセリスもまた敬礼を返す。

 

 「自分も精一杯やらせてもらいます」

 

 「期待に応えられるよう頑張ります」

 

 周囲から惜しみない拍手が送られる中、ジェイルは一つだけ気になっている事に目を向けた。

 

 デュランダルの背後に立っている少女。

 

 ザフトの赤服を纏ったステラ・ルーシェである。

 

 アオイとの戦闘から帰還したジェイルはすぐにステラのアルカンシェルの下に向かった。

 

 何故ザフトにいるのか、色々聞きたい事があったのだ。

 

 しかし機体の下に駆けつけたジェイルの前に再びあの白衣の研究者達が立ちふさがった。

 

 近づこうとしても門前払いを食らうだけだった。

 

 それでも諦めず何とか話しかけたのだが―――

 

 「お前は確かデスティニーのパイロット」

 

 「やっぱり覚えていないのか、ステラ。ディオキアで会っただろ?」

 

 「知らない」

 

 立ち去ろうとするステラにジェイルは、アレを見せた。

 

 ポケットに入れていたのは彼女から別れ際に貰った貝殻だ。

 

 これを見せれば何か思い出すかもしれないと考えたのだ。

 

 「ステラ、これを見てくれ。君に貰った貝殻だ」

 

 「……貝殻?」

 

 しばらくそれを眺めていたステラだったが、突然とつらい表情で頭を押さえ始めた。

 

 「おい、どうした!?」

 

 「あ、お、……なんだこれは! くそ、それを遠ざけろ! 頭が、痛い」

 

 苦しみ始めたステラに駆け寄ろうとした時、白衣の連中が現れ彼女を連れて行ってしまった。

 

 その時、「余計な事をしないでくれ」と釘を刺されてしまった。

 

 それ以降は近寄る事も出来なくなった。

 

 しかしあれは何だったんだろうか。

 

 あの様子は明らかに普通ではなかった。

 

 ステラの事で考え込んでいると司令室に入ってきたヘレンがデュランダルの下に駆け寄った。

 

 「議長、ジブリールの居場所が判明しました」

 

 「何!?」

 

 ヘレンの言葉にその場にいた誰もが驚愕する。

 

 逃げたジブリールの行方は反ロゴス連合の総力を挙げて追跡したが見つからなかった。

 

 どこかに潜伏しているのではと捜索が続けられていたのだがこうも早く判明するとは。

 

 「それでヘレン、ジブリールはどこに?」

 

 「……オーブです」

 

 反ロゴス連合の次なる作戦が決まった瞬間であった。

 

 

 

 

 ジブリールの居場所を突き止めた反ロゴス連合は艦隊を組み、オーブに向けての侵攻を開始した。

 

 その動きを掴んでいたカガリは即座に軍を展開させた。

 

 それですぐ開戦と言う事にはならない。

 

 反ロゴス連合から通告があったのである。

 

 内容は簡単。

 

 『貴国に居るロード・ジブリールを引き渡せ』というものだ。

 

 もちろんカガリ達はジブリールなど匿ってはいない。

 

 しかしザフトが嘘を言って正面から軍を展開させるとも考えにくい。

 

 となれば可能性は一つ。

 

 「ミヤマ、ジブリールは?」

 

 国防本部に詰めていたカガリは背後に控えているショウに問う。

 

 通告を受けた時点で、ジブリールがオーブ国内に潜入している可能性にはすぐ辿り着いた。

 

 即座に指示を出して探索させているのだが一向に足取りはつかめないままだ。

 

 「未だ発見できません。おそらくずいぶん前から周到に準備していたのでしょう」

 

 「なんとしても見つけ出せ!」

 

 「はっ」

 

 状況は良くない。

 

 ジブリールは発見できず、すでに反ロゴス連合の艦隊は目と鼻の先だ。

 

 彼らは本気だ。

 

 このままでは開戦は避けられない。

 

 戦闘を避ける為には奴の居場所を掴み、捕らえるのが必須。

 

 一般市民の退避がほぼ完了しつつある事が唯一の救いである。

 

 カガリはそばに控えていたキサカに命令を下す。

 

 「キサカ、ORB-01を用意しろ」

 

 「出るつもりか?」

 

 「万が一の場合にはだ。私とて迂闊にここを離れる気はない。だが状況次第では出ない訳にもいかない」

 

 明らかに物量も違う上に、英雄とされているアークエンジェルはまだ出られず、フリーダムも撃破されてしまった。

 

 ならば兵士達の士気を上げる為にもカガリ自らが前線で指揮する事も必要になってくるかもしれない。

 

 そんな事にならない事に越したことはないのだが。

 

 「ここの指揮はどうする?」

 

 「彼に頼む。オーデン准将、ここへ」

 

 カガリに呼ばれセーファス・オーデン准将が正面に立つ。

 

 国防本部を任せられる人物がいるとすれば彼しかいない。

 

 「もしも私が出る事になったら、その時は指揮を頼む」

 

 「私でよろしいのですか?」

 

 「貴方が一番戦闘経験が豊富だ。頼む」

 

 「了解!」

 

 一通りの指示を出し終えた時、オペレーターから報告が入る。

 

 「カガリ様、ザフト艦から通信です!」

 

 「……繋げ」

 

 モニターに映ったザフトの将校らしき男は明らかに好意的でない様子で口を開いた。

 

 《こちらは反ロゴス連合、ザフト軍旗艦セントヘレンズだ。先の通告に対する返答を聞かせてもらいたい》

 

 「現在ジブリールの所在を調査中だ。もう少し時間が欲しい」

 

 《……申し訳ないがそれはできない。貴国がジブリールを逃がすための時間稼ぎをしている可能性もある》

 

 「……なんだと」

 

 《同盟とプラントは戦争中である。敵国を疑うのは当然だろう。仮に貴方の言う通りだとしても、ジブリールを捕らえられるという保証は無い。これ以上奴を逃がす訳にはいかないのだ》

 

 カガリは拳を強く握りしめた。

 

 《もう一度言おう。ジブリールを引き渡して貰いたい》

 

 「だから現在居場所を特定する為に―――」

 

 《それが返答では仕方ない。では我らもそれなりの行動をとらせて貰う、以上だ》

 

 「待て!」

 

 カガリの声を無視するかのように通信が切られた。

 

 あの対応、ザフトは始めから理由はどうあれ強引にでも開戦するつもりだったとしか考えられない。

 

 「戦艦からモビルスーツの出撃を確認!」

 

 迷っている暇はない。

 

 「……仕方無い。こちらも順次出撃させろ。ミヤマ、ジブリールを何としても探し出せ。奴を捕らえれば戦闘も止まる」

 

 「はっ」

 

 オーブは三度、戦火に包まれ様としていた。

 

 

 

 

 

 オーブでの開戦。

 

 それはスカンジナビアや赤道連合、そして宇宙ステーション『ヴァルハラ』にも伝わっていた。

 

 シンがヴァルハラの司令室に駆けつけた時にはすでにアストやキラ、マユ、レティシア、ラクスと言った面々が集まっていた。

 

 「オーブで開戦ってどういう事なんですか!?」

 

 司令室に飛び込むと同時にシンは声を上げた。

 

 明らかに余裕がない。

 

 だがそれは当然の事だ。

 

 シンやマユにとっては三年前の再現なのだから。

 

 アストは出来るだけ冷静に感情を込めずに答えた。

 

 「ヘブンズベースから脱出していたジブリールがオーブに逃げ込んでいたらしい」

 

 「ジブリールが、オーブに……」

 

 つまり今回ジブリールを捕まえる為にザフトはオーブに侵攻したという事。

 

 「うん、どうやってオーブに入り込んだのかは分からない。今も捜索を継続しているけど見つからないんだ」

 

 「じゃあそう伝えれば―――」

 

 シンの言葉にキラは首を横に振った。

 

 「もちろん伝えたけど、ザフトは信用できないって聞き入れなかったそうだ。今は戦争中だから、疑うのは当然かもしれないけどね」

 

 「くそっ!!」

 

 シンは憤りに任せて壁を殴りつけた。

 

 マユもまた感情を押える様に俯いている。

 

 「ザフトの降下部隊と思われる戦力が地球に向かっているって情報もある。これが本当なら、敵部隊の降下を阻止する必要がある」

 

 つまりヴァルハラから地上に向かう者と宇宙で迎撃する者に分かれる必要があるということである。

 

 だが状況的に不味いのは地上の方だ。

 

 急いで援軍に向かわなければオーブが落とされてしまう。

 

 「……私が地上の援護に行きます」

 

 「マユ!? お前はまだ体が―――」

 

 「もう大丈夫です。それに皆さんの機体は前の戦闘の影響で調整がまだ終わって無いでしょう」

 

 確かにシンやキラ、アストの機体は研究施設での戦闘の影響で最終調整がまだ終わっていないのだ。

 

 「マユの言う通りです。私も行きます。ラクス、あの機体は使えますよね?」

 

 「レティシア、貴方まで」

 

 「もう大丈夫ですよ」

 

 ラクスも分かっている事だ。

 

 例の機体は別の人間が乗ろうにもマユとレティシア専用。

 

 二人の為の調整が加えてある。

 

 つまり現状もっとも早く戦場に駆けつけられるのはマユとレティシアしかいないのだ。

 

 「分かりました。ついて来てください」

 

 皆がラクスの後について行く。

 

 その途中でシンはマユの手を掴んだ。

 

 「なんですか?」

 

 「……俺が代わりに行く。だからマユは―――」

 

 心配そうに言うシンにマユは微笑み返した。

 

 以前なら振り払っていただろう。

 

 だがマユはその手を優しく両手で包んだ。

 

 「心配してくれて、ありがとうございます。でも行かせてください。私も皆を守りたいんです」

 

 覚悟を決めた顔で言うマユに何も言えなくなった。

 

 そんな顔して言われたら、反対なんてできない。

 

 シンはため息をつきながらマユを見る。

 

 「……分かった。俺も機体の調整が終わったらすぐに行く。それまで絶対無理しちゃ駄目だ」

 

 「はい、分かってます。兄さん」

 

 マユとシンはラクス達に追いつき格納庫に向かう。

 

 その先にあったのは二機のモビルスーツ。

 

 「あれがレティシア、貴方の機体ですよ」

 

 

 ZGMF-X18A 『ヴァナディスガンダム』

 

 

 前大戦で戦果を上げたアイテルとブリュンヒルデのデータを基に製作された機体。

 

 レティシアの特性に合わせた調整が施され、アイテルの特徴を引き継ぎ、背中には専用の装備を装着する事でどんな局面にも対応できる。

 

 高い汎用性を持たせながらも、装備なしでも十分に戦えるように仕上がっている機体である。

 

 現在背中に装備されているのは専用装備である『セイレーン01』

 

 前大戦で使用された物よりも機動性強化に重点が置かれている。

 

 そしてヴァナディスの横に立っていたのは皆にとってあまりに見覚えのある機体だった。

 

 「フリーダム?」

 

 「はい。貴方の機体ですよ、マユ」

 

 その形状はマユが搭乗したフリーダムの形状に良く似ていた。

 

 

 ZGMF-X22A 『トワイライト・フリーダムガンダム』

 

 

 この機体はリヴォルトデスティニーガンダムで得られたデータを参考に、フリーダムのデータを基に開発された新型機。

 

 ローザ・クレウスが開発したSEEDシステムが搭載された同盟のフラッグシップ機である。

 

 マユとレティシアは互いに頷くとパイロットスーツに着替えてコックピットに座った。

 

 キーボードを叩き、スペックを確認する。

 

 そこでマユは機体に付けられた武装の名前に気がついた。

 

 「これって音楽用語?」

 

 《詳しい事は知りませんが、開発チームの強い意向があったとか》

 

 マユの声が聞こえていたのか、ラクスが教えてくれた。

 

 よく分からないが何か理由があるらしい。

 

 碌でもない理由な気がするけど、深くは聞かない。

 

 聞けば疲れそうな気がする。

 

 「はぁ、別にいいですけど」

 

 VPS装甲のスイッチを入れると、機体が色付くとヴァルハラのハッチが開いた。

 

 モニターに映るシンが心配そうな顔でこちらを見ている。

 

 それに笑顔で頷き返すと正面を見据えた。

 

 「レティシア・ルティエンス、ヴァナディスガンダム」

 

 「マユ・アスカ、トワイライトフリーダムガンダム」

 

 

 「「行きます!!」」

 

 

 二機のガンダムが戦場に向けて飛び立った。




機体紹介2更新しました。

マユの機体であるトワイライトフリーダムの武装の名前は刹那さんのフリーダム強化案のアイディアを参考に使わせてもらいました。ありがとうございました。

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