機動戦士ガンダムSEED effect   作:kia

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第39話  魔神再臨

   

 

 

 

 ザフト研究施設を巡る戦い。

 

 双方一歩も引く事無く、激しい攻防が繰り広げられていた。

 

 そんな激戦の中、アストは敵の攻撃を利用しカゲロウで施設内部に侵入した。

 

 破壊された基地の破片を避け、適度な場所に機体を止める。

 

 周囲に敵がいない事を確かめ、降りる前にカゲロウの機体状態も確認する。

 

 右腕、右足は完全に破損。

 

 頭部も殴りつけられた事でセンサーの一部も怪しい。

 

 スラスターが無事だったのが不幸中の幸いだった。

 

 とはいえ戦闘が厳しい事に変わりは無い。

 

 「だが動けない訳じゃない。十分だな」

 

 アストは銃のセーフティーを外してコックピットから降りた。

 

 もう一度周囲を確認するが人影は見えない。

 

 ドミニオンの攻撃で損傷した事で退避したのだろう。

 

 こちらとしては好都合である。

 

 「……まずは二人の居場所を確認しないと」

 

 この施設にしても研究の為に結構な広さがあるのは予想できる。

 

 闇雲に探して見つかるとも思えない。

 

 ならば適当な奴を捕まえて二人の事を吐かせるのが確実だろう。

 

 アストはとりあえず方針を決めると震動の中、通路の向かって移動する。

 

 警戒しながら通路を進んでいくとパイロットスーツを着こんだ兵士達が何かの機材を運び出しているのが見えた。

 

 「脱出するつもりか?」

 

 見つからないように通路の陰に隠れてやり過ごす。

 

 無理やり突破も可能だったかもしれない。

 

 しかし二人を見つけるまではリスクは出来るだけ避けたかった。

 

 「念のために着てきて正解だったか」

 

 アストが着ているのはザフトで使っていたパイロットスーツである。

 

 今回アストとシンが内部に入ると決まった時、多少はやりやすくなるだろうとナタルから提案を受けていたのである。

 

 確かにこれなら万が一見つかってもいきなり発砲される事は無い。

 

 最低でも一瞬動きを止めるだろう。

 

 兵士達が離れて行くのを確認したら、探索を再開する。

 

 慌ただしく動く兵士達を避けつつ、端末のある場所を探す。

 

 その時、二人の研究員が話ながら急ぎ足でこちらに向かって来るのが見えた。

 

 一人は実に研究者らしい男性にもう一人は若い研究者のようだ。

 

 「ったく、こんな場所まで攻撃されるなんて」

 

 「狙いはあの子達ですかね」

 

 あの子達とはおそらくマユとレティシアの事だろう。 

 

 アストは気配を殺し、聞き耳を立てる。

 

 「先に処置しちゃったほうが良かったんじゃないですか?」

 

 「怪我があったからな。治してからじゃないと、余計に時間が掛かるんだよ。にしてもいい女だよなぁ、あの金髪の方」

 

 「本当ですよね、色っぽいし。でも、僕はもう一人の方が―――」

 

 下品な話をしながら部屋に入っていく研究員を観察する。

 

 どうやらあの部屋はデータベースが常備してある場所らしい。

 

 さらに彼らは二人の居場所を知っているようだ。

 

 この機会を逃すまいとアストは部屋の中に飛び込んだ。

 

 「えっ!?」

 

 「なんだ!?」

 

 事前に把握した通り、部屋には二人以外誰も居ない。

 

 突然乱入してきたアストに対し碌な反応もできていない。

 

 訓練も受けていない研究者では当然だろう。

 

 アストは戸惑う研究員の懐に一気に飛び込むと、躊躇い無く相手の鳩尾に拳を叩きこんだ。

 

 「ぐぇ!」

 

 そして妙な声を上げて蹲ろうとする相手の顎を躊躇なく蹴り上げて吹き飛ばす。

 

 倒れた研究員は口から血を流しながら動かなくなった。

 

 それを見ていたもう一人は完全に呆然としていた。

 

 何が起こっているのかも理解できていないようだ。

 

 それで躊躇するほどアストは甘くない。

 

 呆然している相手を銃を持っている手で思いっきり殴りつけ、倒れ込んだ所に背後から腕を回し気絶しない程度に首を絞めた。

 

 「ぐぁああ!」

 

 「……質問に答えろ」

 

 倒された同僚の事とアストの冷たい声に怯んだのかコクコクと頷く。

 

 「……お前達が話していた女達の居場所はどこだ?」

 

 「……研究エリア……Bフロア、第二処置室に……」

 

 ジッと観察するが嘘をついているようには見えない。

 

 おそらくは大丈夫だろうが確認の為にもう二、三人から話を聞いた方が良い。

 

 強く首を締め上げ、意識を落とすと解放して床に転がした。

 

 そして端末を操作して検索を掛けて目的の場所を捜し出す。

 

 「どうやら施設の奥らしいな」

 

 必要な情報を得たアストは倒れている研究員を無視して部屋を出ると目的のフロアに向かって動き出した。

 

 

 

 

 暗い宇宙に蒼い翼が翻る。

 

 シグーディバイドの射撃を回避したストライクフリーダムはビームライフルで敵機の右腕ごと対艦刀を破壊する。

 

 キラは思わず舌打ちした。

 

 相手の技量の高さや機体性能から、簡単に行かない事は分かっていた。

 

 だが今の一射で仕留められないとは。

 

 途中から動きが格段に良くなった事といい、この機体群は―――

 

 「例のI.S.システムって奴かな」

 

 だとすれば手強いのも頷ける。

 

 つまりあの機体に乗っている全員がSEEDを使ってくるという事と同じなのだから。

 

 あの機体をどれだけザフトが量産しているのかわからないが、今後かなりの脅威になるのは間違いない。

 

 キラは敵機を散らすように両手のビームライフルで誘導する。

 

 しかしシグーディバイドはストライクフリーダムの射撃をビームをシールドで弾き、回り込んでベリサルダを振りかぶった。

 

 上段から思いっきり振り下ろされた完璧な斬撃。

 

 しかし次の瞬間、その場にいた誰もが驚愕する事になる。

 

 振りかぶられた対艦刀を前にキラもまたSEEDを発動させる。

 

 そしてライフルを腰に装着し、目の前に迫るベリサルダを両掌で挟み込んで止めて見せたのだ。

  

 「はぁ?」

 

 「嘘……」

 

 「ありえない」

 

 少女達はそれぞれの形で目の前で起こった現象を表現した。

 

 それだけ信じ難い光景だった。

 

 だがそれは戦場において致命的な隙だった。

 

 ストライクフリーダムは驚きのあまり止めたシグーディバイドに蹴りを叩き込み、体勢を崩した所にカリドゥス複相ビーム砲を撃ち込んだ。

 

 放たれた一撃が敵モビルスーツの腹部を貫くと大きな閃光となって宇宙に消えた。

 

 「これでようやく一機か」

 

 「くっ、こいつ! 全機、油断するな」

 

 ラナは残ったベリサルダを構えてストライクフリーダムに向かっていく。

 

 それを迎え撃つようにキラは腰のビームサーベルを両手に構えた。

 

 その時―――再び新たな剣が戦場に降り立った。背中に特徴的な翼を持った機体。

 

 運命に抗う力『リヴォルト・デスティニーガンダム』である。

 

 戦場に駆けつけたシンはリヴォルトデスティニーの予想以上のスピードに驚きつつ、さらに機体を加速させる。

 

 デスティニーインパルスと同じように背中の翼が開き、光が周囲に飛び散ると光学残像を作り出す。

 

 それに乗じて斬艦刀『コールブランド』抜き、シグーディバイドに斬り込んだ。

 

 「なっ、速い!?」

 

 Iシグーディバイドのパイロットは凄まじい速度で突っ込んできたリヴォルトデスティニーの攻撃に反応、反撃を試みる。

 

 だがシンの動きはそれを上回っていた。

 

 横薙ぎに振るわれた対艦刀の一撃を回避すると、斬艦刀を振り上げ腕ごと切断する。

 

 さらに敵機を蹴り飛ばし、高出力エネルギー収束ライフル『ノートゥング』を撃ち出してシグーディバイドを撃破した。

 

 そしてビームライフルで敵機を狙撃しながらストライクフリーダムの横に並ぶ。

 

 「キラさん!」

 

 「シン! 連携で行くよ!」

 

 「はい!」

 

 ストライクフリーダムが先行し、その後にリヴォルトデスティニーが続く。

 

 キラは両手のビームライフルを構え、シグーディバイドを分散。

 

 回避先を読んだシンがスラッシュビームブーメランを投げつける。

 

 ブーメランが曲線を描きながら敵機の脚部を斬り裂くと、その隙にキラがレール砲で敵機を破壊した。

 

 「シン、後は僕だけでも大丈夫だ。君はアストの後を追うんだ!」

 

 確かにいかにアストといえども単独での救出は危険だろう。

 

 内部では何があるかは分からないのだ。

 

 カゲロウも損傷を受けていたし、急いで援護に向うべきかもしれない。

 

 「分かりました。ここをお願いします!」

 

 若干ラナの事は気にかかったが、今優先すべき事は別にある。

 

 シンはその場をキラに任せ、施設に向かった。

 

 当然それを黙って見ているほどラナ達もお人好しではない。

 

 背を向けたリヴォルトデスティニーにビームランチャーで狙いを定めた。

 

 「行かせない!」

 

 だが引き金を引こうとしたラナの前に、またしてもストライクフリーダムの邪魔が入った。

 

 両手のビームライフルを連結させ、通常以上の出力でビームが撃ち出される。

 

 想定以上の威力に警戒したラナは機体を退くが、間に合わずビームランチャーを破壊されてしまう。

 

 「また、お前は!!」

 

 「悪いけど、シンの邪魔はさせない!」

 

 両手にビームサーベルを構えたストライクフリーダムにシグーディバイドもまたベリサルダを抜いて襲いかかった。

 

 

 

 施設内部の奥まで進んだアストは目的のフロアまで辿り着いていた。

 

 幸いな事に連中は施設からの離脱を図っているようで、データや機材を運び出すのに忙しいらしい。

 

 アストがザフトのパイロットスーツを着ていた事も合って、こちらには見向きもしない。

 

 やりやすいのはありがたいが、今の状態にやや違和感を感じなくもない。

 

 いくらなんでも防備に当たっている兵士達が少なすぎるのである。

 

 だが調べている暇もなければ、考え込んでいる時間は無い。

 

 もしも二人が施設から運び出されたら救出は困難になるだろう。

 

 急ぎフロアを探索すると程無く目的の部屋を発見した。

 

 「第二処置室、ここか」

 

 あの後何人かの研究員に話を聞かせてもらったが、皆同じ様にこの場所を口にしていた。

 

 ここで間違いない。

 

 アストはフロアから部屋を覗きこみ、様子を窺う。

 

 するとそこには多くの機材や端末が散らばっている。

 

 その中心には―――床を真っ赤に染める血の海が広がっていた。

 

 赤い血の中央には白衣を着た研究者達が何人も倒れている。

 

 「……一体誰が」

 

 二人の安否も含め、部屋の中を確認しないといけない。

 

 警戒を怠る事無く部屋に踏み込むと直後に銃声が鳴り響いた。

 

 「くっ!?」

 

 アストは咄嗟に机の陰に隠れると即座に銃を構え、銃弾が撃ち込まれた方を覗き見た。

 

 そこにいたのは完全に予想外の人物―――仮面を付けた男カースだった。

 

 「遅かったじゃないか、アスト」

 

 銃を構え、口元には笑みを浮かべている。

 

 同時に合点がいった。

 

 このフロアに兵士達が異常に少なかったのもおそらく奴の仕業だろう。

 

 「貴様、何故ここにいる?」

 

 「そんな事より、お前こそ大切なお姫様達を救いに来たんだろ? まあ、ギリギリ間に合ったな」

 

 そう言うとカースは横の医療ポッドを蹴り倒した。

 

 大きな音が部屋全体に反響し、倒れた医療ポッドの中からマユとレティシアが飛び出し床に倒れ込む。

 

 趣味の悪い事に最初からポッドを開いた状態にしていたらしい。

 

 睨みつけるアストにカースは愉快そうに笑いかけた。

 

 「そう怒るな。むしろ感謝してもらいたいくらいだぞ。こいつらを運び出そうとした連中を始末してやったんだからな」

 

 「何故、そんな事を」

 

 「元々こいつらのやり方は好きじゃなくてな。お前とこいつらが殺し合う様を見るのも楽しみではあったが、できるなら直接この手で殺したかった。もしもお前が間に合わなければ放置していたが、せっかく囚われの姫を王子が助けにきたんだ。それなりの歓迎をしようと思ってな」

 

 銃声が響くと同時に火花が散る。

 

 アストも机の陰から銃を撃ち返すとカースもまた機材の影に身を潜めた。

 

 「……悪趣味な歓迎は結構だ。二人は返してもらう。だがその前に―――お前の素顔を見せて貰おうか!」

 

 アストはカースの方へ机を蹴り上げ、前に飛び込んだ。

 

 机が機材にぶつかると同時に放たれた銃弾が火花を散らす。

 

 その隙に拾った端末をカースに投げつけた。

 

 「チッ!」

 

 腕に端末が当たり、態勢を崩したカースの顔面目掛けて蹴りを放つ。

 

 しかし相手も黙ってやられたりはしない。

 

 アストの蹴りを顔を逸らしてかわそうとしたのだ。

 

 だが完全に避け切る事は出来ず、カースの仮面を掠めて弾き飛ばした。

 

 カースもまたお返しとばかりに蹴りを放つ。

 

 アストは腕を交差させて蹴りを止め、背後に倒れこまない様に踏ん張りながら後方に下がる。

 

 仮面を外れた際に見えた顔はアストにとって驚きは無かった。

 

 ある程度予測していたからだ。

 

 

 「やっぱりお前だったのか―――シオン」

 

 

 カース―――いや、シオンは憎悪の籠った笑みを浮べる。

 

 アストもまた殺意の籠った視線を返す。

 

 シオン・リーヴス。

 

 アストの過去に因縁のある男。

 

 そしてマユやシンにとっては自分達の運命を狂わせた原因を作った人物でもある。

 

 前大戦においてマユの乗るターニングガンダムによって倒され、戦死したと思われていたのだが。

 

 「あまり驚いていないようだな、アスト」

 

 「……戦場で戦った時から、予想はしていた。生きていたとはな。お前が地球軍に居たのは誰の指示だ?」

 

 銃を構えてシオンに突きつける。

 

 シオンのナチュラル嫌いは本物だ。

 

 昔からよく知っている。

 

 それにも関わらず地球軍にいたという事は相応の目的があった筈だ。

 

 だが質問には答えずシオンは持っていたもう一丁の銃を取り出すとアストに突きつけた。

 

 「そこまでお前に教えてやる義理は無いな。それより、さっさと続きを始め―――」

 

 その時、睨み合っている二人に乱入するように部屋に飛び込んできた者が居た。

 

 「アレン、大丈夫ですか!?」

 

 「シン!?」

 

 シオンはシンの放った銃弾を機材の影に隠れてやり過ごす。

 

 その隙にアストはシンと共にマユとレティシアを抱えて机の影に飛び込んだ。

 

 「まさかお前まで来ていたとはな、シン・アスカ」

 

 その声には覚えがあった。

 

 あの時―――デストロイと戦った際にマユに恨みがあるとか言っていたパイロットの声だ。

 

 「お前はあの時のウィンダムのパイロットか!? なんでこんな場所のお前が居るんだよ!!」

 

 「そんな事はどうでもいいだろう。それにもう時間切れらしい」

 

 「何だと?」

 

 瞬間、施設内が大きく揺れ、振動が襲いかかる。

 

 揺れに耐えながらシオンに注視していると部屋に二人の少女が入ってくる。

 

 銃をそちらに向けたが、驚きで動きを止めてしまう。

 

 部屋に入ってきた少女は不気味なほどまったく同じ顔をしていたからだ。

 

 しかもシンのとっては見覚えのある少女だったのだから余計に驚くのも無理は無い。

 

 「ラナ!?」

 

 しかしシンの声など聞こえていないように二人のラナは何の反応も見せず、シオンの下に歩いて行く。

 

 「カース様、すべての処理が完了しました」

 

 「データの回収は無事達成、残った研究員もすべて抹殺、脱出しようとしていた者達も艦諸共爆破しました」

 

 すべて抹殺!? 

 

 ではさっきの爆発は脱出しようとしていた連中の艦が爆発したという事か。

 

 それを聞いたシオンは満足したように頷く。

 

 「そうか。では残りの個体と合流した後、この施設から出るぞ」

 

 「了解いたしました」

 

 「シオン!」

 

 銃を構えるアストだったが、二人のラナがこちらに向けて一斉に発砲してきた。

 

 咄嗟に身を屈め、銃弾を回避する。

 

 シオンはそんなシン達を無視して入口まで歩いて行くとこちらに向き直る。

 

 「アスト、お前もそこにいるマユ・アスカも必ず殺す。必ずだ」

 

 「そんな事は俺がさせない!」

 

 シンが机の陰から身を乗り出して、再び銃を構える。

 

 しかしシオンは興味無さげに視線を逸らすと部屋を出た。

 

 「前にも言ったがお前には興味がない。だが邪魔をするというのならお前もついでに殺してやる」

 

 「このぉ!」

 

 憤りに任せて引き金を引こうとするが、ラナ達がそれを阻むように発砲してくる。

 

 シオンはラナ達を率い外へと向かった。

 

 「待てよ!」

 

 「シン! 落ちつけ、今は二人を安全な場所に運ぶ事が優先だろう!」

 

 アストはシオンを追おうとするシンの肩を掴んで制止する。

 

 シンは堪える様に頭を振るとため息をついた。

 

 「マユ達は大丈夫ですか……ってなんでそんな格好なんですか!?」

 

 倒れている二人の姿は裸同然の姿だった。

 

 シンはアストの視界からマユを遮るように立ちふさがった。

 

 「アレンはマユから離れてくださいよ!」

 

 「はぁ、そんな事言っている場合じゃないだろう。まずはここから脱出する方が先だ」

 

 アストは出来るだけ汚れていない、白衣を拾うとマユ達に着せる。

 

 これで少しはマシだが、どこから空気が漏れているかも分からない。

 

 途中で宇宙服を確保した方がいいだろう。

 

 「シン、デスティニーインパルスはどうした?」

 

 「あ、キラさんから新型を渡されて、乗り換えたので、そのまま―――」

 

 「そうか。シン、お前の機体に二人を乗せて一旦ドミニオンに戻れ」

 

 「えっ、アレンはどうするんですか?」

 

 「外ではシオンが待ち構えている筈だ。奴は俺を狙ってくる。二人を乗せるには危険だ。それにカゲロウは損傷もしているからな」

 

 シオンというのが奴の名前だろう。

 

 だがカゲロウでは戦えない筈だ。

 

 「でもそれじゃ―――」

 

 「何とかするさ。それよりも早く行くぞ」

 

 アストはレティシアとマユの頬を撫でると抱え上げて入口に向かう。

 

 シンもまたマユを背負いアストの後を追う。

 

 その時、背中から微かに声が聞こえてきた。

 

 「マユ、目が覚めたのか?」

 

 「……うう、誰?」

 

 「俺だ。シンだよ。もう大丈夫だぞ」

 

 「……なんで」

 

 マユは微かに目を開くとシンの顔を見て、そして隣にいたアストの顔を見た。

 

 「アスト、さん?」

 

 マユの声にアストは頭を優しく撫でると微笑んだ。

 

 「すまない。来るのが遅くなってしまった」

 

 「……夢かなぁ」

 

 「今はそれでいい。とりあえず眠っていろ」

 

 マユは嬉しそうに目を閉じた。

 

 シンはどこか納得いかなそうにジト目でアストを見る。

 

 「なんか今の反応、納得いかないんだけど」

 

 「だから話は後だ。さっさと外に出るぞ」

 

 確かに今は話をしている場合ではない。

 

 シンは必ず後で話を聞かせて貰おうと決めるとマユを担ぎ直し、アストの後を追って行った。

 

 

 

 

 シグーディバイドとストライクフリーダムの戦いは徐々にラナ達の方が不利な状況に陥っていた。

 

 何度も反撃を試みるがその度にストライクフリーダムに押し返されてしまう。

 

 初期に比べラナ達の人数は減り、技量と性能の差も相まって確実に劣勢に追い込まれていたのだ。

 

 「まだ!」

 

 ラナはストライクフリーダムにガトリング砲を撃ち込んで引きつけると、別方向の味方機がビームランチャーを撃ち放つ。

 

 しかし敵機は降り注ぐガトリング砲をすべて回避しつつ、ビームランチャーまでも避け切って見せた。

 

 「なっ!?」

 

 「焦ってるのが見え見えだよ!」

 

 キラは速度をさらに上げ、背中のドラグーンを射出すると敵機を狙い撃つ。

 

 四方から降り注ぐ攻撃。

 

 シグーディバイドは防御しながら後退、ストライクフリーダムを狙いビームライフルを連射する。

 

 しかしフリーダムはさらに加速。

 

 ビームを振り切り、ビームサーベルで斬り込んでくる。

 

 接近してきたストライクフリーダムが腕を振ると同時に煌く軌跡が描かれ、シグーディバイドの両腕が斬り裂かれてしまう。

 

 これで戦闘可能な状態なのはラナ本人を含めて二機のみ。

 

 今の自分達はI.S.システムを使っているというのに、ここまで追い込まれるとは。

 

 追い詰められたラナ達だったが、施設内からまた数機のシグーディバイドが飛び出してきた。

 

 それを確認したキラは思わず歯噛みする。

 

 「まだあれだけの数がいたのか」

 

 今でこそ押しているとはいえ、この機体はパイロットの動きも含め決して侮れるものではない。

 

 油断すればこちらも痛いしっぺ返しを食らう事になるだろう。

 

 警戒するキラの前に現れたシグーディバイドに搭乗していたのは施設から脱出してきたシオン達だった。

 

 ストライクフリーダムと相対している数を確認して舌打ちする。

 

 敵の新型が相手とはいえここまで派手にやられているとは。

 

 「ふん、どれだけ手を加えても所詮は人形か。とはいえこれ以上死なす訳にもいかないか。お前達はラナ達の援護をしてやれ」

 

 「カース様は?」

 

 「あいつが出てくるのを待つさ。後は状況見て判断しろ。お前達でもそれくらいはできるだろう?」

 

 「「「了解!!」」」

 

 護衛に二機を残し、他の機体はストライクフリーダムの迎撃に向かう。

 

 それを見届けるとシオンは施設内から出てきた二機のモビルスーツに目を向けた。

 

 カゲロウとリヴォルトデスティニーだ。

 

 「出てきたか。お前達は手を出すなよ。さて、少し遊ばせてもらおう」

 

 シオンは笑みを浮かべるとカゲロウに向けてベリサルダで斬りかかった。

 

 アストは突撃してくるシグーディバイドを予測していたかのように、残った左腕のブルートガングで対艦刀を受け止める。

 

 「やはり来たか、シオン!」

 

 「アスト、その機体でどこまで足掻けるか見せてみろ!!」

 

 押し込まれる対艦刀をアストは流すように弾き飛ばした。

 

 まともに受けていては再び叩き折られてしまうからだ。

 

 しかしシグーディバイドは動きを止めずにカゲロウの腹部を蹴り上げる。

 

 「ぐっ!?」

 

 アストはスラスターを使って体勢を立て直し、距離を取った。

 

 しかしシグーディバイドは容赦なくカゲロウに向けビームライフルを連射して装甲を抉っていく。

 

 ギリギリで致命傷を避け、撃ち込まれたビームをブルートガングで弾きつつ、さらに後ろに下がる。

 

 「アレン!? くそォォ!!」

 

 離脱しかけていたシンはアラドヴァル・レール砲を構え、シグーディバイドに撃ち込んだ。

 

 「チッ」

 

 砲弾を弾いたシオンは邪魔をしたリヴォルトデスティニーに対艦刀を袈裟懸けに叩きつけた。

 

 「ふん、お前になど用はない!」

 

 「アレンはやらせるかぁ!!」

 

 戦闘機動を取ろうとするシンだったがコックピット内にマユ達がいる為に思いきり動く事が出来ない。

 

 「シン、早くドミニオンに!」

 

 「いくらアレンでもこいつ相手にその機体じゃ無理ですよ!」

 

 シグーディバイドはシンの攻撃を避けながら、次々ビームを撃ち込んでくる。

 

 カゲロウも援護に加わるが、このままではじゃジリ貧だ。

 

 そこに複数のシグーディバイドと戦っていたストライクフリーダムが割り込んできた。

 

 リヴォルトデスティニーを援護するようにカリドゥス複相ビーム砲を撃ち込んでシグーディバイドを引き離す。

 

 「アスト、シン、君達は一旦下がれ! ここは僕が引き受ける!!」

 

 「俺も残りますよ。マユ達には少し我慢してもらますから」

 

 シンの申し出にキラは笑みを浮かべると周囲にドラグーンを展開、全砲門を構えてフルバーストモードで一斉に撃ち出した。

 

 「アスト、ドミニオンのそばにいるヘイムダルⅡに君の機体がある。早く取りに行って!」

 

 「俺の機体が? 分かったしばらく頼む」

 

 ストライクフリーダムとリヴォルトデスティニーの援護を受け、アストはヘイムダルⅡに方へ向かう。

 

 「チッ、逃げる気か、アスト!!」

 

 シオンは背を向けたカゲロウにビームライフルを構えるが、リヴォルトデスティニーが立ち塞がる。

 

 「やらせないって言っただろ!!」

 

 「貴様、邪魔するな!!」

 

 振るわれたコールブランドをシールドで流しながら、シオンもまたベリサルダで斬り払った。

 

 ニ機の激突を尻目に戦域から離脱したアストの目の前には懐かしい戦艦が見えていた。

 

 前大戦時に潜入したプラントを脱出に際に世話になったヘイムダルに似た戦艦である。

 

 ハッチが開き、着艦すると通信が入ってきた。

 

 《君も久しぶりだね、アスト君。まったく、たまにはアルミラ大佐に連絡くらい入れてくれ。でないと愚痴を言われるのは僕なんだからさ。しかも最近はルティエンス君やアスカ君まで加わって大変だった》

 

 「すいません、レフティ艦長」

 

 容易にその光景が浮かぶ為、やや苦笑いをしてしまう。

 

 今度何かお詫びでもするとしよう。

 

 《まあ、その話は後だ。それより君の機体を用意してある》

 

 カゲロウのコックピットから這い出るように降りると、格納庫には馴染み深い機体が佇んでいた。

 

 ZGMF-X17A 『クルセイド・イノセントガンダム』

 

 前大戦でアストが搭乗していたイノセントガンダムのデータを基に現在の技術をつぎ込んで開発された機体である。

 

 アストの力を存分に発揮できるように調整が加えてあり、機動性、火力ともに強化されている。

 

  コックピットに乗り込んだアストはキーボードを叩きスペックを確認すると、カタパルトに移動する。

 

 《もうすぐ戦闘も終息する筈だ。それまでは頼むよ》

 

 「了解。アスト・サガミ、イノセントガンダム、出るぞ!!」

 

 機体の装甲が白く染まるとスラスターを吹かして戦場に飛び出した。

 

 フットペダルを踏み込み機体を加速させる。

 

 ドミニオンを狙っているザクに目標を定めると、ビームサーベルを抜き斬り込んだ。

 

 「あれは……イノセント!?」

 

 ザクのパイロットが驚きつつもオルトロスを構えて反応するが、あまりに遅すぎる。

 

 あっという間に接近され、すれ違いざまに胴体を斬り裂かれたザクはあっけなく爆散した。

 

 「くそ、囲んで仕留めろ!」

 

 「了解!」

 

 イフリートとグフが挟み撃ちする様に左右から襲いかかる。

 

 しかしアストは振り下ろされたグフのビームソードをサーベルを叩きつけて破壊。

 

 シールド内のグレネードランチャーを至近距離で撃ち込んで撃破する。

 

 さらに背後からベリサルダを構えて斬り込んで来たイフリートの斬撃を宙返りして回避。

 

 斬艦刀バルムンクにて両断した。

 

 「良し、機体に問題はない」

 

 機体の調子を確かめるとアストはキラやシンが戦っている場所に向かって速度を上げた。

 

 

 

 

 「シン、左だ!」

 

 「了解!」

 

 シンはシグーディバイドの連撃をストライクフリーダムと連携を取って迎撃していく。

 

 それらを押し込むように苛烈な攻撃を加えていくシオン達。

 

 一斉に撃ち出されたビームランチャーの攻撃をシールドで受け止めながら、『ノートゥング』で反撃する。

 

 シオンはシールドを展開。

 

 ビーム砲を弾き飛ばすが、同時にストライクフリーダムがレール砲を撃ち出してきた。

 

 フリーダムの放った砲弾を機体を後退させてやり過ごすシオンにシンはコールブランドを叩きつける。

 

 「しつこいな」

 

 「アンタは俺が倒す!」

 

 互いが繰り出した剣撃を受け止めながら弾け合う二機。

 

 両者は完全な膠着状態に陥っていた。

 

 

 そこに一機のモビルスーツが戦場に駆けつけてきた。

 

 

 白い四肢に背中からリヴォルトデスティニーとは違う光の翼のようなビームの光を放出している。

 

 まさに天使を連想させる機体、クルセイドイノセントガンダムだった。

 

 「二人とも待たせたな!」

 

 シンは駆けつけてきた白い機体を見つめる。

 

 「あれがアレンの機体」

 

 フリーダムやジャスティスと同じく前大戦で多大な戦果をあげた機体、イノセント。

 

 マユはあの機体によって救われたのだ。

 

 そう思うと少し不思議な気分になった。

 

 アストは背中のヴィルト・ビームキャノンを発射。

 

 動きを止めたシグーディバイドの右半身を消し飛ばした。

 

 「フ、フフ、フハハハ!! 懐かしくも、忌々しいな、その機体は!!」

 

 シオンにとってイノセントは尽く邪魔をしてくれた屈辱の象徴である。

 

 初めてオーブで相対してきた時からずっとそうだった。

 

 あの機体を倒す事こそシオンにとって目的の一つだったと言っていい。

 

 「行くぞ、アストォォ!」

 

 シオンは加速をつけリヴォルトデスティニーを引き離し、ベリサルダを構えて突撃した。

 

 クルセイドイノセントに肉薄すると上段から振り下ろす。

 

 しかしその一撃が届く事はない。

 

 イノセントはシールドを掲げ対艦刀の一撃を容易く受け止め、バルムンクを振り抜いた。

 

 回避の間もなくバルムンクの一撃がシグーディバイドの肩部に直撃すると大きく傷を作った。

 

 「シオン、ここでお前を倒す!」

 

 「調子に乗るなァァ!!」

 

 しかしシオンの放った斬撃はイノセントを掠める事無く空を斬り、逆に反撃されてしまう。

 

 そこにシオンを援護する為、シグーディバイドが突撃してきた。

 

 「カース様!」

 

 「援護します!」

 

 だがそれにも焦る事無く、アストは冷静に対処する。

 

 背後からの攻撃を上昇して回避、スラスターを使って今度は下降する。

 

 クルセイドイノセントは敵機をすれ違うその瞬間に背中の『ワイバーンⅡ』を展開。

 

 瞬時に両機の腕を容易く斬り裂いた。

 

 「シオン!」

 

 さらに狙いをつけて高出力エネルギー収束ライフル『アガートラム』のトリガーを引いた。

 

 その強力な一射がシオンが構えていたビームランチャーを破壊する。

 

 「チッ、貴様―――」

 

 「カース様、時間です」

 

 激昂しかけたシオンだったが水を差すようにラナが時間を告げた。

 

 つまり今回はここまでという事だ。

 

 「……いいだろう。アスト、続きはまた今度だ。マユ・アスカに伝えておけ、決着をつける時は相応の機体を用意しておけとな」

 

 「逃がすと思うか!?」

 

 クルセイドイノセントは再びアガートラムを構える。

 

 そこに損傷していたシグーディバイドの一機が前に出るとアスト達の前で大きな爆発を引き起こした。

 

 「なっ、まさか自爆!?」

 

 「くそっ!」

 

 爆発の衝撃に紛れ、シグーディバイド全機が後退していく。

 

 「ではまた。精々オーブで警戒しておくんだな」

 

 「なんだと? どういう意味だ!」

 

 シオンは何も答える事無く、他の機体と共に退いていった。

 

 後退していく味方の動きはインフィニットジャスティスと戦っていたハイネにも確認できた。

 

 「基地は放棄されたか」

 

 ならばこれ以上の長居は無用だ。

 

 ジャスティスの振るってきた斬撃をシールドで受け流しながら、ハイネは軽やかな口調で呟いた。

 

 「流石同盟の英雄だ。ここまでやるなんてな。けど今回はここでお開きだぜ!」

 

 アロンダイトを横薙ぎに振り抜き、ジャスティスを弾き飛ばしてヴァンクールも撤退する。

 

 退いて行く敵機の後ろ姿を確認したラクスはホッと息を吐いた。

 

 「退いてくれたようですわね。向うも上手く行ったようですし、良かったです」

 

 彼女にとってもマユやレティシアは家族も同然である。

 

 捕まったと聞いた時は動揺したものだが、作戦がうまく行って良かった。

 

 ラクスは助け出された二人の事を考えながら、ヘイムダルⅡに帰還した。

 

 そしてシン達もまた後退していく敵機の姿を見届けると母艦へ移動を開始する。

 

 シンはコックピットにいるマユの姿を見た。

 

 未だに眠り続けている妹の姿を見てようやく心から安堵出来する。

 

 「無事で本当に良かった」

 

 色々あったし、これで終わりではない。

 

 だがとりあえずは安心した。

 

 シンはマユの頭を撫でるとリヴォルトデスティニーをドミニオンに向けた。




機体紹介2更新しました。

まあ、こんな名前なのはいつものごとく思いつかなかったからです。

 

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