機動戦士ガンダムSEED effect   作:kia

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第38話  三つの剣

 

 

 

 

 

 ヘブンズベースにおける激戦は反ロゴス連合軍の勝利で幕を閉じた。

 

 開戦当初こそロゴス側の奇襲により、前衛部隊の艦隊が壊滅的な打撃を受けた。

 

 だがデスティニーを含む新型機の活躍。

 

 そして体勢を立て直した連合軍の反撃によってデストロイを含む戦力の大半を撃破する事ができたのである。

 

 少なからず離脱していった部隊も存在してはいるが、概ね反ロゴス連合軍の思惑通りに事が運んだと言って良いだろう。

 

 だが、本来の目的をすべて達成できた訳ではない。

 

 この戦闘でロゴス幹部を拘束する事には成功したものの、肝心のロード・ジブリールを逃がしてしまったのである。

 

 当然これに反ロゴス連合は慌てた。

 

 他のロゴス幹部を確保できても、ジブリールを逃がしてしまえばロゴス派は活動を続けるだろう。

 

 これ以上なにか行動を起こされる前に確保したいというのが反ロゴス連合の考えである。

 

 その為動ける部隊には即座に周囲の探索が命じられていた。

 

 そして同じ様に離脱していったロゴス派の部隊を叩いている者達がいた。

 

 ファントムペインと呼ばれていた部隊、ロアノーク隊である。

 

 彼らは紛れも無く反ロゴス派ではあるが、ザフトの一部から追われる立場であり、表だって行動できずにいた。

 

 その為に先の戦いにも参加せず、静観、戦闘終了後にヘブンズベースから離脱してきた部隊を叩くつもりだったのだが―――

 

 アオイの搭乗するエクセリオンは海上で激しい戦闘を繰り広げていた。

 

 背中のウイングスラスターを使い機体を左右に動かしながら放たれたビームを回避する。

 

 「くそ!」

 

 加速を掛けて機体を反転させると敵機に向かってビームライフルのトリガーを引く。

 

 これが普通の敵ならば撃破はできずとも牽制くらいにはなっていたに違いない。

 

 しかし今戦っている敵はそんな甘くはなかった。

 

 エクセリオンの攻撃が敵機に当たらんとした瞬間、手元に光の盾が出現してビームを弾いたのだ。

 

 光のシールドを展開して攻撃を防いだのは―――あの時襲いかかってきた機体シグーディバイド。

 

 つまり相手はザフト特務隊である。

 

 「ここで落すぞ、アオイ・ミナト!」

 

 「あまり熱くなるな、ヴィート」

 

 ヘブンズベース戦に参加しなかったデュルクとヴィートは今回の戦いでアオイ達がいつ動いても良いように網を張っていた。

 

 彼らに与えられた任務『アオイ・ミナトの抹殺』は継続中である。

 

 今回の事をただ静観する事は出来ないだろうと判断していたが当たりだったようだ。

 

 網を張っていたデュルク達はヘブンズベースから離脱した部隊に接触した彼らを捕捉すると、連れてきた部隊と共に奇襲を仕掛けたのである。

 

 ヴィートが対艦刀を構え、加速の乗った攻撃を仕掛けていく。

 

 「この前は途中で終わったからな! 今日は若干腹も立ってるし、思う存分やらせてもらうぞ!!」

 

 スラスターを使い、巧みな軌道でエクセリオンに迫るとベリサルダを袈裟懸けに振るう。

 

 左右からの鋭い斬撃をアオイは紙一重でかわし、肩部のマシンキャノンで牽制しながらビームサーベルを抜き放つ。

 

 「しつこい!」

 

 「はあああ!!」

 

 エクセリオンのサーベルが横薙ぎに振るわれ、シグーディバイドのベリサルダが上段から叩き込まれる。

 

 だがそれらが相手に当たる事はなく、お互いの刃が敵を狙い装甲を掠めていく。

 

 「チッ、やるな!」

 

 高速ですれ違う二機。

 

 そこにデュルクのシグーディバイドがエクセリオンの側面からビームランチャーを撃ち出した。

 

 だがアオイはそれに対して反応せず、ヴィートの方へと向かっていく。

 

 別に気がつかなかった訳ではない。

 

 反応する必要が無かっただけだ。

 

 エクセリオンにビームが直撃する瞬間、ラルスのエレンシアがシールドを展開して割り込んだのだ。

 

 「悪いが少尉をやらせる訳にはいかなくてな!」

 

 デュルクは立ちふさがったエレンシアに若干の苛立ちを募らせた。

 

 目的はあくまでもアオイ・ミナトであり、他の連中など眼中にはない。

 

 「任務の邪魔だ」

 

 若干苛立ちながらも、それを感情に出さずエレンシアに攻撃を仕掛ける。

 

 ラルスはゼニスストライカーを吹かせ、ガトリング砲の雨をやり過ごすとスヴァローグを構えて撃ち出した。

 

 凄まじい閃光がシグーディバイドを撃ち抜かんと迫る。

 

 だがデュルクは旋回しながらビームを回避。

 

 再び接近すると対艦刀を叩きつけた。

 

 シールドで受け止めたラルスは距離を取りつつ戦場の状況を確認する。

 

 共に現れたグフやイフリートの相手はスティング、スウェン、そしてルシアがしている。

 

 グフやイフリートのパイロット達も結構な技量を持っているようだが、ルシア達の敵ではないだろう。

 

 向うは彼らに任せておけば良い。

 

 それにこちらの援護に来られても困る。

 

 何故なら機体性能に差がありすぎるからだ。

 

 前回の戦闘でこいつらの性能の高さや技量は承知している。

 

 それが分かっていながら、彼らに無理はさせられない。

 

 ラルスは視線を敵機に戻すと繰り出されるベリサルダを回避しつつ、ビームサーベルで斬り払う。

 

 お互いの剣撃を叩きつけ光の盾で阻みながら、敵機を睨みつけた。

 

 

 

 

 ラルスとデュルクの戦いの傍ら、アオイとヴィートの戦いが続いていた。

 

 だが先ほどまでとは状況が違っている。

 

 もはや五分の戦いとは言えない状態になっていたのだ。

 

 エクセリオンがビームサーベルを上段から振るい、鋭い一撃が容赦なく装甲を削っていく。

 

 ヴィートは苦悶の声を上げつつ、負けじとベリサルダを振り上げた。

 

 「くそぉ!!」

 

 交差する刃。

 

 閃光が走った瞬間、シグーディバイドの装甲をさらに傷つけた。

 

 同時にコックピット内に火花が飛び、さらに警報が鳴り響いた。

 

 「どういう事だ!? こいつどんどん動きが良くなっている!?」

 

 エクセリオンの動きは前回の戦闘と比べて格段に良くなっていた。

 

 これはアオイが機体を使いこなせるようになってきたというのもあるが、W.Sシステムの影響が一つの要因になっている。

 

 このシステムはアオイの戦場でのデータを集め、彼が最大の力を発揮できるように補佐が行われる。

 

 それによってアオイは自分が動かす前に、機体の方が先に反応するかのように錯覚するほどの反応で動けていたのだ。

 

 「はあああ!!」

 

 アオイはガトリング砲を潜り抜け、逆にビームライフルでシグーディバイドの動きを誘導しながら、ビームサーベルを一閃した。

 

 「ッ!?」

 

 振るわれた剣撃がシグーディバイドの右腕を捉えて斬り落とし、蹴りを入れて吹き飛ばした。

 

 「ぐああああ!」

 

 「ヴィート!?」

 

 デュルクはエレンシアの高エネルギー収束ビーム砲をビームシールドで防御しながら歯噛みする。

 

 アオイ・ミナトは強い。

 

 簡単にやれるとは思っていなかったものの、ヴィートに傷をつける程とは。

 

 援護に向かおうにも他の機体は足止めを食らい、デュルクもエレンシアの相手で手一杯である。

 

 とても援護に行ける状態ではない。

 

 「潮時か」

 

 デュルクが撤退を考慮し始めた時―――それは来た。

 

 それに最初に気がついたのは、ラルスとルシアであった。

 

 全身に走るこの感覚は――――

 

 「大佐?」

 

 スウェンがフラガラッハでイフリートを斬り伏せながら、訝しげな声を上げる。

 

 「どうしたんだよ?」

 

 スティングもビームライフルでグフを撃墜しながら同様に聞いてきたが、質問には答えずルシアは唇を噛みながらつぶやいた。

 

 この感覚は間違いなく奴だ。

 

 「……白い一つ目」

 

 近づいてくるのは突き出すような突起を持つバックパックを背負った機体だった。

 

 それだけではない。

 

 翼を持った機体と黒い装甲に覆われた機体がこちらに向かって来る。

 

 デスティニー、レジェンド、アルカンシェルだ。

 

 彼らもまた命令を受け、周辺の探索と離脱した敵部隊の追撃を行っていた。

 

 そして探索を開始してすぐに、戦闘を確認しこうして駆けつけてきたという訳だ。

 

 「ジェイル、あれだ!」

 

 「ああ」

 

 どうやら特務隊が戦闘を行っているらしい。

 

 「援護するぞ」

 

 「了解!」

 

 ジェイルはすぐ後ろを飛行しているアルカンシェルを見る。

 

 すでにアレに搭乗しているのがステラである事は分かっている。

 

 もちろんすぐに声を掛けた。

 

 だが案の定ジェイルの事を覚えてはいなかった。

 

 それには忸怩たる思いがある。

 

 しかし、それは後回しだ。

 

 モニターに表示された正面で戦っている者達を確認する。

 

 二機は特務隊のシグーディバイド。

 

 それと戦うのは見た事も無い機体が二機とストライクにカオス、ウィンダムだ。

 

 カオスにストライクがいるということは、正面で戦っているのはアオイがいる部隊という事になる。

 

 だが肝心のイレイズの姿は見えない。

 

 「別の場所にいるのか?」

 

 彼だけが別の場所にいるという事も当然あり得るだろう。

 

 他に可能性があるとすれば、あの新型のどちらかしかない。

 

 その時、新型がシグーディバイドの腕を斬り裂くのが見えた。

 

 今は考えている場合ではない。

 

 ジェイルは操縦桿を押し込み、新型に向かってスラスターを吹かせた。

 

 そんなデスティニーの前にストライクノワールがフラガラッハを構えて立ちふさがる。

 

 「行かせない」

 

 邪魔立てする敵に対しジェイルは怒りに任せて咆哮した。

 

 「邪魔だァァァ!!!」

 

 光の翼を広げ加速したデスティニーはフラッシュエッジを抜くとストライクノワールに振り抜いた。

 

 「速い!?」

 

 スウェンが機体を逸らした事でビーム刃はストライクノワールの装甲を浅く傷つけるに留まった。

 

 致命傷を避ける事に成功したのは、スウェンの技量の高さ故だろう。

 

 しかしデスティニーの武装は彼の予想を上回っていた。

 

 フラッシュエッジを回避して態勢を崩したストライクノワールにデスティニーは左手を突き出してくる。

 

 「ッ!?」

 

 そこでスウェンも掌が光っている事に気がついた。

 

 掌に武装がある!?

 

 操縦桿を引き何とか避けようとするが間に合わない。

 

 デスティニーのパルマフィオキーナ掌部ビーム砲がフラガラッハ諸共ストライクノワールの右腕を吹き飛ばした。

 

 「ぐぅ!!」

 

 「これでぇぇ!」

 

 さらにジェイルはフラッシュエッジを逆手に持って振り上げる。

 

 ビーム刃がストライクノワールの左胸部を斬り裂き、バランスを崩した敵機を蹴り落とした。

 

 「スウェン!?」

 

 ルシアが救援に向かおうとするが、そこにレジェンドが背中のドラグーンを正面に構えて撃ち出し進路を阻んだ。

 

 「くっ」

 

 「お前の相手は俺だ」

 

 レイはルシアを標的に定め、攻撃を開始する。

 

 彼もまたあの感覚を感じ取っていた。

 

 こいつらとはアーモリーワンからの因縁がある。

 

 だからここで決着を付けると決めたレイはルシアのフェール・ウィンダムを狙ってビームライフルを撃ち出した。

 

 ルシアは持ち前の直感でビームを回避、お返しとばかりにビームライフルで反撃する。

 

 それもビームシールドによってあっさり防がれてしまう。

 

 「厄介ね!」

 

 レジェンドの動きを読み連続で攻撃を加えていくが、レジェンドには通用しない。

 

 すべてを回避するとデファイアント改ビームジャベリンを構えて斬り込んできた。

 

 「お前はここで倒す!」

 

 ルシアは振るわれた斬撃を機体を沈ませてやり過ごし、至近距離から肩部のミサイルを叩き込む。

 

 あの機体も間違いなくPS装甲だろう。

 

 損傷はさせられないが、それでも衝撃で距離を取ることくらいは出来る筈だ。

 

 しかしレイもそう容易くはない。

 

 ドラグーンを前面に向け迎撃。

 

 直感に従い爆煙を突っ切り、デファイアント改ビームジャベリンを振り抜いた。

 

 ルシアもまた回避運動を取るが機体が彼女の反応に付いてこない。

 

 剣撃がライフルを捉え、破壊されてしまった。

 

 フェール・ウィンダムを落とそうとレジェンドが迫るがそこにカオスが回り込みビームサーベルを構えて斬り込んだ。

 

 「落ちろ!」

 

 しかしカオスの斬撃はレジェンドを捉える事無く、空を斬った。

 

 驚愕するスティング。

 

 そんなカオスを仕留めようとレジェンドはデファイアント改ビームジャベリンを構える。

 

 「邪魔だ。お前に今用はない」

 

 「スティング、下がりなさい!!」

 

 ルシアの声に反応したスティングは機体を後退させるが無造作に振られた斬撃が機動兵装ポッドを斬り裂いた。

 

 スティングはすぐに機動兵装ポッドを切り離すと、大きく爆発する。

 

 爆煙によって視界が塞がれてしまうがレジェンドはそんな事に構う事無く背中のビーム砲を構えて一斉に撃ち出した。

 

 降りそそぐビームの嵐に二機はシールドを構えて何とかやり過ごすとルシアはスティングに通信を入れた。

 

 「スティング、一機で前に出ては駄目。連携で行くわ。ただし機体性能に差があるから、防御優先で」

 

 火力と防御力、そして機動性。

 

 すべてが通常の機体を上回っている。

 

 決して上手い手とは言えないが、何とか攻撃をやり過ごしながら隙を窺うしかない。

 

 「分かったよ」

 

 カオスとフェ―ル・ウィンダムは連携を取りつつレジェンドを迎え撃った。

 

 

 

 

 エクセリオンは右腕を斬り落とされ体勢を崩したシグーディバイドに止めを刺そうとアンヘルを構えた。

 

 今のシグーディバイドに防御や回避をするだけの余裕はない。

 

 「捉えた!」

 

 アオイがトリガーを引こうとしたその時、目の端に映ったのは光の翼を広げた機体。

 

 それが凄まじい加速でこちらに突っ込んできた。

 

 「はああああ!!」

 

 「あの機体は!?」

 

 見覚えがある。

 

 ジブラルタルで見た新型だ。

 

 背中の光を放出している翼などはシグーディバイドに良く似ている。

 

 おそらくは同型か発展型だろう。

 

 デスティニーはビームライフルを連射しながら、圧倒的な速度でこちらに肉薄してきた。

 

 「速い!?」

 

 アオイはスラスターを使って上方へ回避、ビームライフルを撃ち返す。

 

 しかしデスティニーは光学残像を発生させながらビームを潜り抜け、アロンダイトを振り抜いてくる。

 

 横薙ぎに振るわれた斬撃をエクセリオンはシールドを展開して受け止める。

 

 シールドで突き放し、アンヘルをデスティニーに撃ち込んだ。

 

 激しい閃光が放出され、デスティニーを破壊せんと迫った。

 

 だがビームシールドによってアンヘルは受け止められ、アロンダイトを突き刺すように構えて突っ込んでくる。

 

 エクセリオンは突き出された対艦刀の切っ先をシールドで流すが、それでも敵は手を止める事無く攻撃を加えながら叫んでくる。

 

 「新型のパイロットは誰だ!!」

 

 「その声は……ジェイルか!?」

 

 あの機体に乗っていたのがジェイルだったとは。

 

 驚くアオイだったが、対照的にジェイルはある程度分かっていたかのように驚きはない。

 

 「……ヘブンズベースにいないと思ったら、こんな場所にいたのかよ!!」

 

 ジェイルのSEEDが弾ける。

 

 勢いに任せ、袈裟懸けに対艦刀を振り抜くとエクセリオンは再びシールドで受け止める。

 

 しかしデスティニーは動きを止める事無くスラスターをさらに吹かし、エクセリオンを弾き飛ばした。

 

 「ぐぅ!」

 

 「落ちろ、アオイィィ!!!」

 

 追撃を掛ける為にアロンダイトを構え、突っ込んでいく。

 

 体勢を崩したエクセリオンにジェイルは躊躇う事無く剣撃を振り抜いた。

 

 だがアオイは機体を半回転させ振り下ろされたアロンダイトに向けシールドを叩きつけ刃の軌道を逸らした。

 

 そして回転させた勢いのまま、回し蹴りを入れて距離を取るとビームサーベルを構える。

 

 「ッ、やるな!」

 

 「ジェイル、止めろ! 俺達は―――」

 

 「止めろだと! ふざけるなァァァ!!!」

 

 ジェイルは聞く耳持たず、再びアロンダイトを振りかぶってきた。

 

 アオイは舌打ちしながらも迎え撃とうとデスティニーに向かっていく。

 

 アロンダイトとビームサーベルが交差する。

 

 しかしお互いを捉える事は出来ず、両機とも弾け飛んだ。

 

 仕切り直しとばかりに距離を取って、再び激突しようとしたその時―――黒い装甲に包まれた機体アルカンシェルが乱入してくる。

 

 「はあああああ!!!」

 

 「な!?」

 

 アルカンシェルが収束ビームガンを撃ち出すとビームが鞭のように複雑な軌道を描き、エクセリオンに襲いかかった。

 

 アオイはシールドを掲げ、咄嗟に上昇してビームをやり過ごす。

 

 だがそれすら気にしていないのか、アルカンシェルは機体を加速させエクセリオンに突撃した。

 

 衝突する二機。

 

 その時―――

 

 「落ちろォォォ!!!」

 

 聞こえて来た声にアオイは驚愕する。

 

 通信機から聞こえてきた声は間違いなくステラの声だったからだ。

 

 「なんで……」

 

 そこでジブラルタルでの出来事が思い出される。

 

 デュランダルが言っていたのはこういう事だったのだろう。

 

 アオイは通信機を入れ、アルカンシェルに呼びかけた。

 

 「ステラ!! 止めろ!!」

 

 「誰だ、お前は!!!」

 

 「なっ、俺だ! アオイだ!!」

 

 「ア、オイ―――知らない、お前の事などォォ!!」

 

 左腕のビームクロウを展開してエクセリオンに向け振り抜いた。

 

 アオイはそれをかわす事無く手首を掴んで受け止めるとステラに呼びかけ続けた。

 

 「ステラ!!」

 

 「う、うるさい!!」

 

 腕のブルートガングを展開して叩きつけられたビームクロウを外側に弾く。

 

 再びステラに呼びかけようとするが、今度はデスティニーが側面から割り込んできた。

 

 「ステラから離れろ!!」

 

 「ジェイル、お前も!」

 

 アオイはアロンダイトの突きを宙返りして回避、アンヘルのトリガーを引いた。

 

 一進一退の攻防。

 

 苛立ちながらジェイルはエクセリオンに再び刃を向けるが、そこにフォルトゥナから通信が入ってきた。

 

 《全機、即座に撤退しなさい》

 

 「撤退!? 俺はまだ―――」

 

 《命令です、撤退しなさい》

 

 ジェイルは思わず歯噛みしてエクセリオンを睨みつける。

 

 「次こそは、必ず!」

 

 ジェルはビームライフルでエクセリオンを牽制するとアルカンシェルを連れて反転する。

 

 「待て! ステラ!!」

 

 「うる、さい! うるさい!!」

 

 ステラに声を掛けるアオイに割り込むようにデスティニーが立ちふさがった。

 

 「アオイ、お前は必ず俺が倒す!!」

 

 「ジェイル!」

 

 アオイは反転して遠ざかっていく二機を見ながら操縦桿を殴りつけた。

 

 まさかあんな機体に乗せられているなんて。

 

 しかもアオイの事を覚えていなかった。

 

 まさか何らかの処置を受けたのか?

 

 アオイは不安と苛立ちを押さえ込み、周囲を確認する。

 

 ラルスのエレンシアは無事だ。

 

 目立った損傷も無い事から、危うげなく敵を撃退できたうようだ。

 

 しかしカオスとフェ―ル・ウィンダムはボロボロで良くここまでもったと思えるほどの損傷だった。

 

 だがそこでストライクノワールの姿が見えない事に気がついた。

 

 「大佐、中尉は無事なんですか!?」

 

 アオイの脳裏に嫌な予感が駆け巡る。

 

 しかし返ってきた返答は良い意味でアオイの予想を裏切っていた。

 

 「ええ、大丈夫。スウェンは無事よ」

 

 スウェンほどの実力ならそう簡単にやられる筈は無いとは思っている。

 

 だがあれらの機体は驚異的なほど高い性能を持っていた。

 

 そんな敵を相手にしていたのだ。

 

 無事だと聞いて安堵する。

 

 「良かった」

 

 後はこちらが補足したヘブンズベースからの脱出者達だが―――

 

 アオイがどうするかの指示を受けようとした時、向こうから通信が入ってきた。

 

 《待ってくれ、こちらは敵対する気は無い! 怪我人がいるんだ》

 

 「その中に指揮官はいるか?」

 

 《……ああ。僕が指揮官、ユウナ・ロマ・セイランだ。話を聞いて欲しい》

 

 ユウナ・ロマ・セイランとは前に自分達を率いていた人物だ。

 

 それがなんでこんな場所にいるのだろう?

 

 そんな疑問を抱きながら、話を聞く為に彼らを誘導する事にした。

 

 

 

 

 

 ユグドラシルから宇宙に飛び立ったアストとシンを乗せたシャトルはドミニオンと合流を果たしていた。

 

 格納されていたデスティニーインパルスをドミニオンに移乗させ、ブリッジに入るとキラが出迎えてくれる。

 

 「アスト、地上はどうだった?」

 

 「ああ、何とかギリギリ間に合った」

 

 「そっか。それで―――」

 

 キラがアストの後ろにいたシンに向き合った。

 

 この人がキラ・ヤマト。

 

 前大戦でアストと共に戦った英雄で「白い戦神」と呼ばれたパイロットだ。

 

 とてもそんな風には見えず、戦いとは無縁な感じに見える。

 

 茶髪の穏やかな人と言うのがシンの第一印象だった。

 

 「キラ・ヤマトです。よろしく」

 

 「あ、はい! シン・アスカです、よろしくお願いします!」

 

 差し出された手を握ると艦長であるナタルとも挨拶を交わし、早速マユ達の行方についての話し合いが行われる。

 

 ドミニオンの方でも地球から上がってくるザフト艦をいくつか付けていたらしい。

 

 その大半がプラントに向かったみたいだが、一部は別方向に向かって行ったようだ。

 

 「じゃあ、それが……」

 

 「多分二人を連れていった部隊だと思う」

 

 その部隊が向かった場所にマユ達がいる。

 

 シンは拳を握り締めた。

 

 時間が経てば経つほどマユ達は危険にさらされる筈だ。

 

 今どんな目に遭っているかを想像するだけでも、焦りが募っていく。

 

 「……では俺達もそこに向かう。他に気になる事はあるか?」

 

 「後はザフトが防衛にどの程度の戦力を待機させているか分かっていない事かな」

 

 『アトリエ』襲撃の際にはある程度の情報収集をおこない、戦力もテタルトスの協力があった。

 

 しかし今回はそんな猶予はない。

 

 「戦力はこの艦だけですか?」

 

 「一応援軍の要請はしてあるけどね。でも期待しない方がいい。現在同盟は大っぴらに戦力は動かせないんだ」

 

 世界は反ロゴス派に傾いている。

 

 戦争状態とはいえこちらからザフトに仕掛けるというのは不味い。

 

 「俺達だけでやるしかないって事ですか」

 

 「ああ」

 

 話し合いを終えたアスト達は目的地に向かって急ぎ移動を開始した。

 

 

 

 

 マユはゆっくりと意識が戻っていくのを感じた。

 

 ゆっくりと瞼を開くと自分が何かに入れられているのに気がつく。

 

 これは医療カプセル?

 

 なんで自分は医療カプセルに入っているのだろう。

 

 意識がはっきりしない中、横に視線を向けると綺麗な金髪の女性が見えた。

 

 あれはレティシアだ。

 

 彼女もまた医療カプセルに入っている。

 

 一体何が起こっているんだろうか。

 

 よく分からない。

 

 ただ白衣を着た者達が忙しなく動き回っているのだけは確認できた。

 

 そこでマユの意識が再び落ちていく。

 

 だがその時、あり得ないものを見た。

 

 不気味な仮面をした男が部屋に入ってきたからだ。

 

 何であの男がここにいるんだろう。

 

 激しい憎悪をこちらに向けて歩いてくる男を見ながらマユの意識は再び沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 仮面の男カースが入った場所は様々な機器の置いてある部屋だった。

 

 そこを白衣を着た男達が計器を弄りながら、手元の書類に何かを書き込んでいる。

 

 だがカースはそれらすべてを無視して奥に進んでいく。

 

 彼はそんなものに興味はなかった。

 

 興味があるのは奥に並んでいる医療ポッドだ。

 

 横たわっているのは二人の女性。

 

 両名とも紛れも無く美人といっても差し支えない容姿をしている。

 

 若い研究員の何人かはチラチラと彼女達に視線を向けていた。

 

 そんな彼らを心底侮蔑するような視線を向けるが、すぐにポッドの方に向き直る。

 

 「無様だな、レティシア。そしてマユ・アスカ、このまま八つ裂きにしてやりたいところだが、それではつまらない」

 

 近くの研究者を捕まえ、マユ達の状態を聞く。

 

 彼女達はまだ傷が癒えておらず、治療を最優先にしており、ある程度傷が治った後で処置を施す予定らしい。

 

 温いと言いたいところだが、そうなったらそうなったで楽しいだろう。

 

 「こいつらが敵になったらお前はどう思うかな、アスト」

 

 奴の苦悶の表情を思い浮かべるだけでこれまでの溜飲も下がるというもの。

 

 そして仮にこいつらが処置前に救出されたとしても、カースとしては一向に構わない。

 

 その時は自身の手でこいつらを地獄に突き落とせばいいだけだ。

 

 カースとしてはそうなった方が楽しいのだが。

 

 「早く来ないと手遅れになるぞ、アスト」

 

 心底楽しそうに笑みを浮かべるとカースは処置を受けているラナ達の様子を見る為に部屋を退室した。

 

 それからすぐに暗礁宙域にあるこの研究ラボは戦火に包まれる事になる。

 

 

 

 

 それは『アトリエ』の時と同じであった。

 

 いきなり大きな振動と共に爆発が起きたのだ。

 

 「なんだ!?」

 

 ラボの管制室に研究員の一人が飛び込むとモニターに映った映像に息を飲む。

 

 何故ならいつの間にか黒いアークエンジェル級が目の前に映っていたのだから。

 

 「くっ、また奴らか!」

 

 皆の顔に苦々しいものが浮かぶ。

 

 此処には破壊された施設である『アトリエ』から移動してきた者も多くいる。

 

 『アトリエ』を破壊した元凶の一つが再び現れたとなれば、彼らがそういう表情になるのも無理はない。

 

 「モビルスーツ隊を出撃させろ!」

 

 「り、了解」

 

 ラボを護衛していたモビルスーツが出撃していく。

 

 その様子はドミニオンから出撃していたシン達にも見えていた。

 

 目標の場所は『アトリエ』とは違いコロニー状の施設ではなく、小惑星の中に施設を造られているようだ。

 

 「では作戦通り、ある程度敵を迎撃したら隙を見て俺とシンが内部に突入する。その間キラ達は出来るだけ敵を引きつけてくれ」

 

 「了解!」

 

 ドミニオンから出撃したモビルスーツ隊が攻撃を開始する。

 

 カゲロウがビームマシンガンでザクを蜂の巣に、もう一機が電磁アンカーでイフリートを戦闘不能にする。

 

 それに続くようにキラのオオトリを装備したストライクが正面に出た。

 

 キラは斬艦刀を抜いて正面にいたザクに斬りかかる。

 

 上段から振り下ろされたビームトマホークを容易く避けたキラは刃を横薙ぎに振り抜くとザクを真っ二つに切り裂いて撃破した。

 

 さらに振り返り様にビームライフルとレール砲を巧みに使ってグフやザクを落としていく。

 

 それを見たシンは思わず感嘆の声を漏らした。

 

 「キラさんも凄いな」

 

 噂に違わぬと言ったところだろう。

 

 こちらも負けてはいられない。

 

 シンも背中のエクスカリバーを構える。

 

 相手は今までとは違い地球軍でもなければロゴス派でもない。

 

 戦う相手はザフトなのだ。

 

 一瞬だけ躊躇いを覚えるものの、今は優先すべき事がある。

 

 マユを絶対に助けるのだ。

 

 「そこをどけよ!!」

 

 グフの放ったスレイヤーウィップを潜り、袈裟懸けにエクスカリバーを振り抜く。

 

 対艦刀が敵機を斬り裂くと同時にビームライフルでザクを狙撃する。

 

 デスティニーインパルスのビームがザクの胸部を撃ち抜き、閃光に変える。

 

 そのすぐ傍ではアレンの乗るカゲロウがイフリートに斬りかかっていく。

 

 スラスターを巧みに使いイフリートの二連装ガトリング砲を避けつつ、懐に飛び込むとサーベルを一閃する。

 

 ビーム刃が胴体を斬り裂くと同時に別方向にいたグフに電磁アンカーを撃ち込むと電流を流す。

 

 電流によって敵機は動きを止め、ビームライフルを撃ち込んで撃破した。

 

 今のところ順調だ。

 

 思ったよりも戦力は多くない。

 

 さらに他の機体も問題なく敵機を迎撃している。

 

 このままなら施設内の侵入も時間を掛けずに行けるだろう。

 

 シンがそう判断しかけた時だった。

 

 施設内から見覚えのあるモビルスーツが出てくるのが見えた。

 

 「あれは……」

 

 「特務隊が使ってた機体か」

 

 数機のシグーディバイドがこちらに向けて突っ込んでくる。

 

 あの機体の性能は相当高い。

 

 いくらキラやアストが高い技量を持っていても、機体の性能差がありすぎる。

 

 とはいえ戦いを避ける事はできないだろう。

 

 向うはやる気満々といった様子だ。

 

 シグーディバイドは背中の翼を広げるとベリサルダを構えて突撃してくる。

 

 「やるしかないね」

 

 「シン、キラ、何とか突破して施設内に突入するぞ!」

 

 「了解!」

 

 シン、キラ、アストは向ってくるシグーディバイドを迎撃するために動き出した。

 

 

 

 

 しかしここで予想外の機体が一機、この戦場に乱入する事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 暗礁宙域で一機のモビルスーツが移動していた。

 

 背中の翼から光を放出して、凄まじいまでの速度で動き回るその機体は地上で圧倒的な力を見せたデスティニーと同型のものだった。

 

 違いがあるとすれば機体の色くらいだろう。

 

 胴体の部分が青ではなく、オレンジ色に染まっている。

 

 ZGMF-X42S『ヴァンクール』

 

 デスティニーと全く同じこの機体に搭乗していたのは、ダーダネルスの戦いにおいて負傷し、プラントで治療を受けていたハイネであった。

 

 彼らは現在ヴァンクールの最終調整を行っていた。

 

 地上ではロゴス派との戦争にも決着がつきそうだと聞いているにも関わらず、こんな強力な機体を用意しているとは相変わらず議長の考えは分からない。

 

 それとも今後こんな機体が必要になる事態が起こるとでもいうのだろうか。

 

 機体の挙動を確認しながらそんな事を考えていたハイネの所に母艦からの通信が入ってきた。

 

 《ヴェステンフルス隊長、機体はどうですか?》

 

 「ああ、いい感じだ。それからヴェステンフルス隊長はよせって言っただろう」

 

 《す、すいません。ともかく一度帰還してください》

 

 「了解!」

 

 ハイネが母艦に向けて移動しようとした時、レーダーに反応があった。

 

 どうやらモビルスーツの反応のようだが。

 

 モニターを操作して拡大すると、爆発の光が見える。

 

 おそらく戦闘の光だろう。

 

 しかしこんな場所で戦闘など、一体どこの連中だろうか?

 

 「ふむ、少し見てくるか」

 

 母艦に通信を入れるとハイネは光が発生した方向に機体を加速させた。

 

 

 

 

 シグーディバイドの斬撃を回避したシンはビームライフルを撃ち込むが光の盾によってすべて防がれてしまう。

 

 さらに敵機はガトリング砲でスティニーインパルスを誘導、懐に飛び込むとベリサルダを振り抜いてきた。

 

 タイミング的に回避は間に合わない。

 

 「くそ!」

 

 シンは迫る刃を前にギリギリシールドを展開して受け止めた。

 

 盾を使わされてしまった。

 

 アストが言っていたように、この機体の燃費はかなり悪い。

 

 迂闊に盾を使わされればあっという間にバッテリーが尽きてしまうだろう。

 

 もっと上手く戦わないといけない。

 

 そんな事を考えている隙に背後に敵機が回り込み、対艦刀を横薙ぎに振り抜いてくる。

 

 だがそれは別方向から放たれたビームランチャーの一撃によって阻まれた。

 

 キラのストライクだ。

 

 「シン!」

 

 キラはシグーディバイドをデスティニーインパルスから引き離す。

 

 そして背後から斬りかかったアストのカゲロウがビームサーベルを叩きつける。

 

 それを驚くべき反応でシグーディバイドが回避した所に待ち構えていたシンが蹴りを叩き込んだ。

 

 敵機を吹き飛ばし連携を崩す事に成功した。

 

 ストライク、カゲロウと背中合わせになりシグーディバイドを迎撃する。

 

 しかし状況は良くない。

 

 あの機体の性能はもう言うまでも無いが、パイロットの技量も高く連携まで上手いと来ている。

 

 厄介極まりない。

 

 三機が隙を窺い再び動こうとした瞬間、上方から放たれたビームによってザクの相手をしていたカゲロウの肩部を撃ち抜き吹き飛ばした。

 

 「増援か!?」

 

 翼を広げて戦場に乱入してきたのはハイネの搭乗しているヴァンクールだった。

 

 「こんな場所に基地があったなんて知らなかったが、友軍を見捨てる訳にもいかないからな。それに機体の慣らし運転には丁度良い!」

 

 ハイネは背中のアロンダイトを引き抜き、攻撃してきたカゲロウを容易く両断するとこちらに迫ってくる。

 

 キラが前に出てビームランチャーを撃ち放つも、左手の甲から展開したシールドによって受け止められてしまう。

 

 「悪いが効かないね!」

 

 「くっ」

 

 ストライクを目標に定めたハイネは加速をつけ、アロンダイトを逆袈裟から振り下ろす。

 

 しかしキラは絶妙のタイミングでシールドを構えて斬撃を流しながら、斬艦刀を構えて迎え撃った。

 

 「ッ、なんてパワーとスピードなんだ!」

 

 「やるねぇ。機体だけでなく、パイロットも一流か」

 

 「キラさん!」

 

 ヴァンクールと戦うストライクの援護に向かいたいが、シグーディバイドが前に立ちふさがりデスティニーインパルスの進路を阻む。

 

 「邪魔だぁぁ!!」

 

 シンは機体を操作して、ビームをギリギリのタイミングですべてかわす。

 

 さらにエクスカリバーを袈裟懸けに振るい、敵機もまたベリサルダを叩きつけてくる。

 

 お互いの刃の切っ先が目の前に迫るが、機体を逸らしやり過ごした。

 

 シンはどこか違和感を覚えた。

 

 今の動きをどこかで見たような気がしたのだ。

 

 「……まさか」

 

 「どうした、シン?」

 

 いや、まさか―――

 

 彼女は地球軍の筈だ。

 

 でもあの動きは彼女を思い起こさせる。

 

 「まさかパイロットは……ラナ?」

 

 シンの予想は当たっていた。

 

 シグーディバイドのコックピット内にいたのはカースによってラボに連れてこられたラナ達だった。

 

 彼女達はすでに全員が処置を施されていた。

 

 あのシステムを使うための処置を。

 

 「……埒が明かない。全機、システム起動」

 

 《了解》

 

 『I.S.system starting』

 

 システムが作動するとラナ達の視界が急激に開け、感覚が鋭くなる。

 

 同時にシグーディバイド全機の翼が広がり、両手に対艦刀を構えて動き出すと凄まじい加速で突っ込んでくる。

 

 「速い!」

 

 「くっ」

 

 カゲロウは斬り上げられる剣撃を何とか回避する。

 

 だが次の瞬間、背後から別に機体が襲いかかった。

 

 アストは両腕のブルートガングを構えてベリサルダを受け止めるが、パワーの違いは大きい。

 

 スラスターを吹かしたシグーディバイドにあっさりと押し込まれ、ブルートガングを叩き折られてしまう。

 

 さらに振り抜かれた一撃が右腕を落とし、殴りつけられ吹き飛ばされてしまう。

 

 「アレン―――ッ!?」

 

 援護に向かおうとしたシンにベリサルダの刃が迫る。

 

 咄嗟に機体を退くがビームライフルを斬り裂いてしまった。

 

 「くそぉぉ!!」

 

 吹き飛ばされたアストのカゲロウは敵機の斬撃でさらに右足を切断され、大きくバランスを崩した。

 

 それを見逃すほど敵は甘くはない。

 

 数機が刃を構えて突きの構えを取ると、カゲロウ目掛けて突撃する。

 

 「アレン!!!」

 

 しかしそれはアストにとっては計算済みであった。

 

 突っ込んでくるシグーディバイドに肩のスモークディスチャージャーを放つ。

 

 視界を封じ、電磁アンカーを岩場に射出すると一気に施設まで接近して突入した。

 

 そこでようやくラナ達も気がついた。

 

 あのパイロットが攻撃を受けたのはわざとだ。

 

 施設に自分の機体を落下させるべくシグーディバイドの攻撃を誘導していたのである。

 

 「……よくもやってくれた!」

 

 まさかこちらの攻撃を利用してラボの中に突入するなど。

 

 追おうとするシグーディバイドの前にデスティニーインパルスが立ちふさがりエクスカリバーを振りかぶってくる。

 

 「ラナなのか!?」

 

 「誰だ、お前は!? いや、誰でも良い、邪魔するな!!」

 

 「くっ」

 

 ラナのシグーディバイドからの攻撃を避けつつ、シンは計器を確認する。

 

 バッテリー残量が少ない。

 

 でも退く訳にはいかないのだ。

 

 たとえ相手がラナだとしても!!

 

 「俺はマユを―――助けるんだァァァァ!!!」

 

 シンのSEEDが弾ける。

 

 周囲を動き回るシグーディバイド目掛けてエクスカリバーを振り抜いた。

 

 

 

 

 ヴァンクールと相対していたキラは完全に劣勢に立たされていた。

 

 性能の違いやパイロットの技量の高さもある。

 

 だがそれ以上にストライク自体が限界に近づいていたのである。

 

 要するにキラの操縦に機体がついてこれなくなっているのだ。

 

 懸命に機体を動かすものの、アロンダイトの一撃がストライクの装甲をなぞるように抉っていく。

 

 「そんな機体で良くやるよ!」

 

 「機体の反応が鈍い!」

 

 ヴァンクールのビームライフルがオオトリの翼を破壊し、ストライクがバランスを崩した隙にフラッシュエッジを投げつける。

 

 キラはシールドを掲げ、直前まで迫っていたフラッシュエッジを防ぐ。

 

 それは囮だ。

 

 フラッシュエッジを投げた隙に接近していたハイネはアロンダイトを叩きつける。

 

 キラは咄嗟に上昇する事で機体への直撃を避けるが右足を斬り裂かれてしまう。

 

 「ぐぅ!」

 

 「チッ、粘るじゃないか!」

 

 今ので仕留めるつもりだったのだが、あのタイミングで避けるとは。

 

 このパイロットは只者ではない。

 

 ヴァンクールは翼を広げ、再びアロンダイトを構えて突っ込んでいく。

 

 不味い。

 

 機体が思うように動かず、避け切れない。

 

 シールドで受け切れるかどうか。

 

 キラが損傷を覚悟した時、ヴァンクールに連続でビームが撃ちかけられた。

 

 ハイネはいくつかをシールドで防ぎ、攻撃を仕掛けてきた敵機を見る。

 

 「なんだと!?」

 

 「あの機体は―――」

 

 そこにいたのはかつてキラ達と共に戦った機体とよく似た機体だった。

 

 ZGMF-X19A 『インフィニット・ジャスティスガンダム』

 

 名の通り前大戦で戦果を上げたジャスティスガンダムを基に開発された機体であり、主に近接戦闘用兵装を強化されている。

 

 誰があの機体に乗っているかなど考えるまでも無い。

 

 モニターに映っていたのはピンク色の髪をした少女。

 

 「大丈夫ですか、キラ?」

 

 前に見た時と変わらぬ笑顔を向けてくる。

 

 「……ラクス?」

 

 「はい。お久しぶりですね。言いたい事はたくさんありますが、今はともかくヘイムダルⅡに向かってください」

 

 「ヘイムダルⅡ?」

 

 キラが見上げた先にいたのは前大戦の際に投入された特殊作戦艦ヘイムダルだった。

 

 殆ど外見は変わっていないが、細部に違いがある。

 

 いつの間にかドミニオンに隣接し、敵機の迎撃に当たっているようだ。

 

 「この敵は私が相手をします。キラ、急いで貴方の機体を取って来て下さい」

 

 ジャスティスは腰に装備されたシュペールラケルタ・ビームサーベルを連結させハルバード状態にするとヴァンクールに斬りかかった。

 

 「……こんな場所で同盟の英雄と戦えるとはな」

 

 ハイネはニヤリと笑みを浮かべるとアロンダイトを構えて応戦する。

 

 相手にとっては不足は無い。

 

 お互いの攻撃をシールドで受け止めながらも弾け合う二機。

 

 ラクスはファトゥム01に装備されたハイパーフォルティスビーム砲を撃ち出し、シールドに搭載されたグラップルスティンガーを撃ち出した。

 

 クローがワイヤーと共に射出されヴァンクールに迫る。

 

 だがハイネは動じる事無く機体を加速、回転させ回り込むとアロンダイトを袈裟懸けに叩きつける。

 

 ジャスティスは対艦刀の一撃を見切り、シールドを掲げて受け止めた。

 

 キラは激突する二機を横目に見ながら、ヘイムダルに向かってスラスターを吹かせる。

 

 そこに懐かしい人物から通信が入ってきた。

 

 《キラ君、久ぶりだね》

 

 「レフティ中佐!」

 

 モニターに映っていたのは前大戦で一緒に戦ったヨハン・レフティ中佐だった。

 

 挨拶もそこそこにヨハンは告げる。

 

 《早く格納庫に。そこに君の機体がある》

 

 「はい!」

 

 進路を阻むザクに斬艦刀を投げつけ撃破すると、滑り込むようにヘイムダルの格納庫に着艦する。

 

 コックピットから飛び降りるとそこには主を待ちわびる様に一機のモビルスーツが佇んでいた。

 

 ZGMF-X20A『ストライク・フリーダムガンダム』

 

 インフィニットジャスティス同様、フリーダムのデータを基に開発された機体である。

 

 背中にはドラグーンと合わせ、ヴォワチュール・リュミエールなどが装備されフリーダムを遥かに凌駕する性能を持っている。

 

 キラはすぐにコックピットに乗り込むと凄まじい速さでキーボードを叩き調整を終わらせた。

 

 《キラ君、準備は?》

 

 「はい、行けます。そう言えばあの機体は?」

 

 ストライクフリーダムの横には二機のモビルスーツが立っている。

 

 その内の一機はキラにとって共に戦った事があるなじみ深い機体だ。

 

 しかしもう一機は―――

 

 《詳しい話は後でするけど、今までその機体のテストをしてたんだよ》

 

 「今すぐ使えますか?」

 

 《使う分には問題ない》

 

 キラは少し考え込むとすぐに結論を出した。

 

 「なら僕が出撃した後、指示した方向に射出してください。お願します!」

 

 《……分かった》

 

 キラは機体をカタパルトに移動させると、すぐにハッチが開く。

 

 「キラ・ヤマト、フリーダム、行きます!」

 

 押し出される様に機体が飛び出すと装甲が鮮やかに色づき、蒼き翼が戦場に向かった。

 

 

 

 

 デスティニーインパルスは未だシグーディバイド達との激闘を繰り広げていた。

 

 敵機の攻撃をやり過ごしたシンは横薙ぎにエクスカリバーを叩きつける。

 

 「捉えた!」

 

 だがここでシンにとって最悪の瞬間が訪れた。

 

 コックピット内に甲高い音が鳴り響き、デスティニーインパルスのバッテリーが切れてしまったのだ。

 

 「しまっ―――」

 

 機体の装甲が色を失い、エクスカリバーの刃が消える。

 

 その瞬間をラナは逃さない。

 

 「よくも邪魔ばかりを!!」

 

 シンはシグーディバイドのベリサルダの斬撃を何とか回避しようと機体を動かす。

 

 だが遅い。

 

 デスティニーインパルスの片翼が斬り飛ばされ、左腕が落とされてしまう。

 

 「ぐあああ!!」

 

 「これで止め―――ッ!?」

 

 ラナが止めを刺そうとした瞬間―――蒼い翼を広げた機体が舞い降りた。

 

 その機体は妹が乗っていたフリーダムに似た機体だった。

 

 「新型機?」

 

 両手に構えたビームライフルがデスティニーインパルスからシグーディバイドを引き離すとビームサーベルを構えて斬りかかる。

 

 フリーダムが叩きつけた斬撃がラナのベリサルダを叩き折った。

 

 「……フリーダム、一体誰が―――」

 

 「シン、大丈夫!?」

 

 「キラさん!」

 

 「シン、二時方向に行くんだ。そこに新型がある、それに乗るんだ!!」

 

 「ッ、了解!」

 

 迷っている暇はない。

 

 デスティニーインパルスではもう戦えないのだ。

 

 シンを援護するようにキラのストライクフリーダムが背中のドラグーンを射出すると周囲のシグーディバイドを狙って攻撃する。

 

 ドラグーンの攻撃に敵機は回避しながら散開した。

 

 「今だ!」

 

 「はい!」

 

 シンは隙を見て飛び出すと言われた方向を目指す。

 

 キラが言った地点に辿り着くと翼を持ったメタリックグレーのモビルスーツが浮かんでいた。

 

 今自分が乗っているデスティニーインパルスに非常に良く似た機体だった。

 

 シンはすぐに乗り換え機体のコックピットに入るとスペックを確認する。

 

 ZGMF-X21A 『リヴォルト・デスティニーガンダム』

 

 デスティニーインパルスのデータを基に開発された最新鋭の機体。

 

 元々ローザ・クレウスが開発したSEEDシステムを試験的に搭載し、テストするために企画されていたもので非常に高い性能を持つ。

 

 「凄い! この機体は!」

 

 これならやれる!

 

 シンはVPS装甲のスイッチを入れると装甲がトリコロールに色づく。

 

 「マユ、今行くぞ! シン・アスカ、リヴォルト・デスティニーガンダム行きます!」

 

 運命に抗う戦いの天使が動き出した。




機体紹介2更新しました。


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