機動戦士ガンダムSEED effect   作:kia

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第37話  黒き虹

 

 

 

 

 

 

 スカンジナビアのマスドライバー施設ユグドラシル。

 

 そこから一機のモビルスーツを積み込んだシャトルが宇宙に飛び立とうとしていた。

 

 シャトルに格納されていたのはデスティニーインパルス。

 

 そのコックピットにはシンが座り、キーボードを叩いていた。

 

 「シン、機体はどうだ?」

 

 調整を行っていたシンにコックピットに乗り込んできたアストが声を掛ける。

 

 アストは外側からデスティニーインパルスのコックピットに繋いだ端末を弄っていた。

 

 「大丈夫ですよ。それよりこの機体、俺が使っていいんですか?」

 

 「ああ、お前が使え。ただインパルスと同じ様に使っていたらバッテリーがすぐに切れるから注意しろ」

 

 「了解」

 

 これからシンはアストと共に宇宙でドミニオンと合流しマユ達を救出に向かう事になっていた。

 

 ミネルバのブリッジでアークエンジェルに起きた事を聞かされたシンは激しく動揺した。

 

 それこそアストに詰め寄るほどにだ。

 

 妹であるマユが落とされザフトに捕まったなど、冷静でいられないのも無理はない。

 

 あんな話を聞かされた後であればなおさらだろう。

 

 だから即座に救出に向かうと言ったアストに無理を言って付いて行く事にしたのだ。

 

 アストは意外にもすぐにそれを了承し、今宇宙に行く為の準備をしているという訳だ。

 

 一応どうして連れて行ってくれるのか聞いたところ、曰く「連れて行かなかったら一人で突っ走りそうだからな」との事。

 

 シンは機体のチェックを行いながら横目でアストを見た。

 

 ザフトの制服を着ているが、もうサングラスはしていない。

 

 アストの正体を聞いた時、シンは自分でも驚くほど彼に対する憤りを感じていなかった。

 

 それはルナマリアやメイリン達も同じである。

 

 本当ならばもっと憤っても良い筈だ。

 

 にも関わらず何も感じていないのは今まで共に戦い、接してきた事でアストが信用できる人間であると分かっている為かもしれない。

 

 なによりもシンにとっては―――

 

 「あの、アレ、あ、いや、アスト?」

 

 やや戸惑い気味に名前を呼ぶシンに思わず苦笑しながら振り返る。

 

 戸惑うのも無理はない。

 

 今までずっとアレンで通っていたのだから。

 

 「今まで通り、アレンで良い。それで何だ?」

 

 「じゃあ、アレン。その……オーブ戦役でマユを助けてくれて、ありがとうございました」

 

 オーブでマユから聞いた事実。

 

 アストこそマユを助けてくれた恩人であると。

 

 「……助けたと言っても結局間に合わなかったしな」

 

 「それでも助けてくれたんだ。だから、礼を言っておこうかと思って」

 

 照れくさいのか気まずそうに顔を逸らすシン。

 

 不器用な彼らしい。

 

 その様子にアストは笑みを浮かべると作業を再開する。

 

 しばらくキーボードを叩き、デスティニーインパルスの調整が終わったところに丁度通信が入ってきた。

 

 《アレン》

 

 「グラディス艦長」

 

 モニターに映ったのはタリアだった。

 

 本来ならばミネルバも宇宙に上がる筈だった。

 

 しかし思った以上の損傷に未だ修復が終わらず、動ける状態ではなかった。

 

 《ミネルバも修復が終わり次第、宇宙に上がりヴァルハラへ向かいます。その後は―――》

 

 「ええ、彼らに話はしてますから問題ない筈です」

 

 《分かったわ》

 

 「アレン、宇宙に上がって同盟の戦艦と合流するというのは分かったけど、マユ達が運ばれた場所は分かってるんですか?」

 

 そもそも何故宇宙に連れて行かれたと知ってるのだろうか?

 

 例えばジブラルタル基地に拘束されている可能性もある筈なのに。

 

 「……ああ。彼女達は間違いなく宇宙に運ばれた筈だ」

 

 アストには確信があった。

 

 今のザフトはロゴス派の拠点であるヘブンズベースを落とす事を最優先に動いている。

 

 だからジブラルタルは連合の部隊を合わせてかなりの数が集まっており、それに紛れれば外部からの侵入も容易になっている。

 

 当然その分奪還されてしまうリスクも高くなってしまう。

 

 さらにヘレンならば捕らえたマユ達を利用しようと考えるだろう。

 

 ならばすべてのリスクを避けつつ、処置を行う為にそれ相応の施設に運ぼうとする筈だ。

 

 そしてドミニオンが得た情報から推察しても施設は間違いなく宇宙にある。

 

 「詳しくはドミニオンと合流してからだ。地球の近くで待機して、ザフト艦の動きを監視している筈だからな」

 

 「了解」

 

 アストとシンはシャトル発進させる為の準備を終え、シートに座った。

 

 

 

 

 地球連合軍の最高司令部ヘブンズベース周辺には多くの艦が集結していた。

 

 フォルトゥナを中心としたザフト、反ロゴス派の連合部隊が所狭しと並んでいる。

 

 『オペレーション・ラグナロク』

 

 ヘブンズベースに立てこもるロゴス派を捕縛する為の作戦である。

 

 ロゴスにとってこれが味方の艦隊であればさぞかし壮観な眺めであろう。

 

 しかしこれらはすべてヘブンズベースを落とす為に集められたものなのだ。

 

 今はヘブンズベースに対してロゴス派幹部の引き渡しと武装解除の勧告を行っており、返答までに数時間の猶予が与えられていた。

 

 その光景を待機室でセリスやリース、レイと共にジェイルは鋭い視線で見つめていた。

 

 これで作戦が成功し、ロゴスを倒せば戦いは終わるだろう。

 

 そしてもう一つ目的がある。

 

 「奴を―――アオイを倒す!」

 

 此処には奴もいる筈だ。

 

 ジェイルの脳裏にミネルバの事が思い浮かぶ。

 

 必ず皆の仇を討ってやると意気込むジェイル。

 

 すぐ傍にいるセリスやレイも同じように気合いが入った視線でモニターを眺めていた。

 

 「ロゴスは武装解除に応じると思う?」

 

 「無理だろうな。奴らが武装解除に応じる様な連中ならば戦いもここまで長引いたりはしない。だからと言って問答無用で攻撃する事もできない。世界が注目しているんだからな」

 

 「確かに」

 

 セリスとレイの話に耳を傾けていると誰かが待機室に入ってきた。

 

 特務隊のデュルクとヴィートである。

 

 「リース、私達は別の任務がある為、今回の作戦には参加できない。だからモビルスーツ隊の指揮はお前が執れ」

 

 ヴィートとしてはかなり不満だ。

 

 今回の作戦はかなり重要なものである。

 

 だから当然ヴィート達も参加する事になると思っていた。

 

 なのに別の任務が入ってしまうとは、複雑な心境である。

 

 とはいえ議長からの命令を無視する事はできない。

 

 命令された以上はきっちりこなす。

 

 それが特務隊としての彼の矜持だからだ。

 

  声を掛けられたリースはどうでもよさげにデュルクに向き合うとそのまま敬礼を取った。

 

 その態度を不審に思ったヴィートはリースの前に出る。

 

 「おい、大丈夫か。どうしたんだよ? アレンの事をまだ気にしてんのか?」

 

 アレンがMIAになった事もここにいる全員が知っていた。

 

 当然リースもそれを聞いている筈。

 

 気に入らないがアレンの事を認めていたらしいリースとしてはショックを受けていてもおかしくない。

 

 ヴィートがリースの肩を叩こうとした瞬間、パンと乾いた音と共に彼の手が弾かれてしまった。

 

 リースは鋭い視線をヴィートに向ける。

 

 「……私に触らないで。触っていいのはアレンだけ」

 

 氷のように冷たい声に一瞬怯むが、すぐにヴィートはむっとして言い返した。

 

 「お前、何言ってんだよ! アレンは―――」

 

 「アレンは生きてる。MIAなんて嘘だよ。彼が死ぬはず無いもの」

 

 どこか別の場所を見ているかのように視線を彷徨わすリースの姿にヴィートは息を飲んだ。

 

 リースの態度は明らかにおかしい。

 

 元々無口で嫌味ばかり言う奴だったが任務には真面目で、デュルクにもこんな態度は取らなかった。

 

 「リース、お前、アレンの事……」

 

 「ヴィート、そこまでだ。行くぞ」

 

 「あ、はい」

 

 デュルクは大して気にしていないのか先に歩いて行ってしまう。

 

 ヴィートは一度だけリースの方を振り返るとデュルクの後を追った。

 

 二人が退室した事も気にならない様子でリースはただ別の方向を見ながら笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 世界中でこの戦い行方が気にかけられていたのと同様にアオイ達もまた同じ様に注目していた。

 

 ザフトの追手から隠れるように身を隠す母艦の中で皆がモニターに集中している。

 

 「ロゴス派はどうするんですかね?」

 

 あの物量を覆すのは難しいだろう。

 

 しかもザフトはジブラルタルで見た新型も投入してくるはずだ。

 

 それに対してロゴス派の手札と言えば、デストロイ数機くらいしか思いつかない。

 

 「この戦いの結果で、この先すべての事が決まると言っていい。当然ロゴス派も攻勢に出る筈だ」

 

 ラルスの言葉により緊張感が増した皆はモニターに釘づけになる。

 

 アオイも出来ればこの戦いにも参加したいが、ザフトから狙われている以上は迂闊に動けない。

 

 「では俺達はこのまま待機ですか?」

 

 「ああ。だが少尉、出撃準備だけはしておけ」

 

 「えっ」

 

 「ヘブンズベースから離脱する部隊を俺達が叩く。それにこんな時だからこそザフトの連中が狙ってくる可能性もあるからな」

 

 「了解」

 

 アオイは頷くとパイロットスーツに着替える為にロッカールームに向かった。

 

 

 

 

 ザフト、反ロゴス派連合軍が意気揚々と基地を包囲していく。

 

 その間、ヘブンズベースに立てこもったロゴス派も反撃の準備を整えつつあった。

 

 当然の事ではあるが、彼らに武装解除するつもりなど微塵も無かった。

 

 皆が基地内を動き回り、各部隊のモビルスーツが出撃の為に準備を進めていく。

 

 その様子を満足そうに眺めている者達がいた。

 

 椅子に座り、追い詰められているなどとは全く感じさせない振る舞い。

 

 世界から追われ、ヘブンズベースに逃れてきたロゴスの幹部達である。

 

 「デュランダルはさぞ気分の良い事でしょうな。こんな通告を付きつけて」

 

 その中の一人であるジブリールが吐き捨てる様にモニターに映る艦隊を睨みつけた。

 

 そんなジブリールを椅子に座った男が懐疑的に問いかける。

 

 「だが、これで本当に守り切れるのかね?」

 

 男が不安になるのも無理はない。

 

 物量は向うの方が上である。

 

 こちらもありったけの戦力を集めてきたが、確実に勝てるとは言いきれないのだ。

 

 しかしジブリールは心底おかしそうに返事を返した。

 

 「守るですって! 何を仰っているんですか! 攻めるのですよ、我々は! 今日、ここからね!!」

 

 ここから奴らを薙ぎ払い、すべての帳尻を合わせていくのだ。

 

 これだけの戦力があれば奴らがどれほどいようとも関係ない。

 

 「我らを討てば戦争は終わる? 平和な世界が来る? 馬鹿馬鹿しい! 実に愚かとしか言いようがありませんよ、民衆は! だからこそここで我らが奴を、デュランダルを討たねばならない!!」

 

 「確かに。我らを討った後に奴らが取って代わるのみよ」

 

 「うむ」

 

 ジブリールの言葉に次々と賛同していくロゴスの幹部達。

 

 それを見たジブリールは満足そうに笑みを浮かべると再びモニターを睨みつける。

 

 「準備が出来次第始めますよ。議長殿が調子に乗っていられるものここまでです! 教えて上げましょう、のこのこ戦場に出てきた事が―――我々に戦いを挑んだ事がどれほど愚かな選択であったかをね!」

 

 歓喜の笑みを浮かべながら宣言するジブリール。

 

 その姿を背後からヴァールト・ロズベルクは笑みを浮かべて眺めていた。

 

 ヘブンズベース内の士気が高まる中、ユウナは冷めきった目で周囲を見た。

 

 もう此処ですることは何もない。

 

 ユウナは司令室から退室すると自分の持ち場である後方へ向かう。

 

 元々戦闘経験の乏しいユウナに戦闘で出来る事はない。

 

 それはダーダネルスにおいても、クレタ沖の戦いにおいても身にしみて痛感させられた事だ。

 

 だから今は無理の虚勢を張る事無く、自分に出来る事を精一杯務めるよう努力していた。

 

 廊下ですれ違う兵士達の誰もが自分達の勝利を疑っていない。

 

 もちろん負けると分かって戦う者はいないだろう。

 

 しかし今の現状を見て勝利を確信できるほど、ユウナは楽観的ではない。

 

 自分達は後がないのだ。

 

 ジブリールは「ここからだ!」などと言っていたが、とても信じられない。

 

 もはや無駄な犠牲を出す事無く、降伏してしまった方が良いのではと考えるのはユウナが素人だからだろうか。

 

 「ユウナ」

 

 振り返ると父ウナトと二人の少女が歩いてくる。

 

 「父さん、レナとリナまで」

 

 ウナトに連れられてきた少女はユウナが助けた少女達だった。

 

 あの時に比べても幾分か表情も柔らかい。

 

 レナとリナというのはユウナが付けた彼女達の名前である。

 

 『ラナシリーズ』の失敗作である彼女達にになんの名前も無かった。

 

 それでは不便という事でユウナが名前をつけたのだ。

 

 名前だけではない。

 

 最低限の知識のみを与えられていたが、他の常識のようなものは何も知らなかった。

 

 それらの事もユウナ達が少しづつ教え、彼女達も普通に笑顔が増えていった。

 

 彼女達との生活は短いながらも充実したものであり、今では二人共家族のように大切な存在になっている。

 

 「ユウナ、外の方はどうだ?」

 

 憂鬱な表情から見てウナトも今の状況をきちんと理解しているようだ。

 

 今のこの基地で同じ様に冷静な判断が出来る者が何人いるか。

 

 ユウナはあえて明るく声を上げた。

 

 彼らの不安を少しでも和らげる為に。

 

 「大丈夫ですよ、父さん」

 

 それがたとえ気休めでもこう言うしかない。

 

 ユウナはレナとリナの頭を優しく撫でる。

 

 「二人共、父さんを頼むよ」

 

 「「はい、ユウナ様」」

 

 「前も言っただろう。様はいらない。僕らは家族だからね」

 

 頷く二人に頬笑むと立ち上がったユウナはもう一度ウナトを見て頷き、再び歩き出した。

 

 

 

 

 ヘブンズベースに向けた勧告から時間も過ぎ、猶予として与えられた時間もあと三時間を切ろうとしていた。

 

 しかし未だにロゴス側からの返答はない。

 

 ジェイルは待機室から自身の乗機であるデスティニーに乗り込み最終確認を行っていた。

 

 デスティニーの武装はどれも強力な武装ばかりで、使いこなせばどんな敵も倒す事が出来るだろう。

 

 ジェイルは念入りに機体をチェックしていく。

 

 この機体に乗っての実戦はこれが初めて。

 

 どこに不具合が現れてもおかしくない。

 

 後は自分次第だ。

 

 デスティニーを受領してから、完璧に使いこなそうと血の滲む訓練を積んできた。

 

 今こそ成果を見せる時である。

 

 改めて気合いを入れていたジェイルにレイから通信が入ってくる。

 

 《ジェイル、デスティニーの調子はどうだ?》

 

 「こっちは問題ない。レイの方こそレジェンドはどうなんだ?」

 

 レイやセリスの機体もまた今回の出撃が初めてだ。

 

 何かしら問題があったのかとも思ったが、レイの表情を見る限り、その心配も杞憂だったらしい。

 

 《こちらも問題はない。セリス、そっちはどうだ?》

 

 《私の方も大丈夫、いつでも行ける》

 

 二人もジェイルと同じく機体を使いこなすための訓練に明け暮れていた。

 

 今回の戦いどれほどの敵がいようとも負ける気がしない。

 

 ジェイルは笑みを浮かべて二人に発破を掛けようとしたその瞬間、警報が艦内に鳴り響く。

 

 「何だ!?」

 

 《これは……》

 

 警報に数瞬遅れて震動が伝わってくる。

 

 爆発音だ。

 

 何があったのか確かめる為にブリッジに繋ごうとした時、リースからの通信が入ってきた。

 

 《全員聞こえてる?》

 

 モニターを見た全員が頷いた。

 

 それを確認したリースは淡々と告げる。

 

 《敵軍からミサイルが発射された。さらにモビルスーツ、モビルアーマーの出撃も確認》

 

 つまりロゴス派はこちらの勧告を無視して攻撃を仕掛けてきたのだ。

 

 ジェイルは怒りに拳を強く握り締め、歯噛みする。

 

 「こちらの勧告に何の返答も無く、奇襲してくるなんて!」

 

 「やはりな。分かっていただろう、これがロゴスのやり方だと」

 

 その光景に憤りをあらわにしたのはジェイル達だけではない。

 

 フォルトゥナのブリッジにいたデュランダル達も同じであった。

 

 「ジブリールめ! 何の返答の無く、攻撃を仕掛けてくるとは!」

 

 ロゴス相手に勧告と猶予の時間を与えたこちらが甘かったという事なのかもしれない。

 

 艦長席でその様子を見ていたヘレンはデュランダルに向き直る。

 

 「議長、ここは応戦するしかないかと」

 

 「……そうだな。全軍、戦闘開始せよ」

 

 デュランダルの合図に合わせて迎撃を開始する。

 

 各艦からモビルスーツが発進してミサイルを撃ち落としていく。

 

 だがここでヘブンズベース側から見覚えのある巨体がせり出してくるのが見えた。

 

 背面の円盤型バックパックを上半身に被り、脚部を鳥脚状に変化させた黒い巨体。

 

 ロゴス派の象徴ともいえる機体、デストロイである。

 

 しかも次々と出撃してくるその数は五機。

 

 反ロゴス連合を恐怖させるには十分すぎる数である。

 

 一斉に動き出したデストロイが背中のアウフプラール・ドライツェーンを構えると同時に撃ち出した。

 

 砲口から放たれた強烈なまでの閃光が前衛部隊のモビルスーツ諸共艦隊を薙ぎ払う。

 

 破壊された戦艦から大きな爆発が起き、炎が上がった。

 

 ロゴス派からの先制で放たれたミサイル攻撃から生き延びた艦もすべて壊滅してしまった。

 

 「何と言う事だ!」

 

 デュランダルは憤りに震えながらも拳を握った。

 

 戦闘を開始直後でここまでの損害を受けてしまうとは。

 

 何にしても今はこちら側の体勢を立て直すのが優先である。

 

 その時、上空からの何かが降りてくるのが見えた。

 

 降りてきたのは降下ポッド。

 

 つまりザフトの降下部隊だ。

 

 あれだけの戦力が降りてくれば今の不利な状況も好転する筈だと、この時誰もが思っていた。

 

 だが、ジブリールはそれを読んでいた。

 

 ザフトの連中は必ず降下部隊で攻めて来るだろうと予測していたのだ。

 

 そして迎撃する為の兵器も用意し、準備も整っている。

 

 「ニーベルング発射用意!」

 

 命令を受けた司令部が動き出した。

 

 雪山部分が開くと同時に巨大なアンテナのようなものがせり出されてきた。

 

 対空掃討砲『ニーベルング』

 

 巨大な広角レーザー発生装置である。

 

 「ククク、デュランダル、貴様らのやり口などお見通しだ。理想、糾弾、大いに結構! だがすべては勝たねば無意味なのだ!」

 

 そう、たとえなんと言われようとも勝ってこそだ。

 

 負ければそれまで。

 

 それが世界の真理。

 

 勝者こそがすべてを手中に収めてきたのだから。

 

 だから―――

 

 「ニーベルング発射準備完了」

 

 降下ポッドからザクなどのモビルスーツが飛び出してくる。

 

 今こそがこれまでの屈辱を晴らす時!

 

 「ニーベルング発射!!」

 

 ジブリールの声に合わせ上空に放射状に放たれた一撃がザフトの降下部隊を巻き込み、すべて薙ぎ払っていく。

 

 光と共に消えていく降下部隊。

 

 あれでは助かった者などいよう筈も無い。

 

 その光景を反ロゴス連合軍の指揮官たちは呆然と見つめていた。

 

 あれだけの戦力を失い、戦線もガタガタである。

 

 このままではヘブンズベースを落とす事も難しい。

 

 デュランダルのそばに控えていた者が一時撤退を進言しようとした時、それに気がついた。

 

 艦長であるヘレンもデュランダルも全く動じていない。

 

 まるで予測していたかのように。

  

 一体どういう事だろうか?

 

 ヘレンは手元の端末を操作する。

 

 「いいわね?」

 

 《……はい》

 

 「ではあの兵器を破壊しなさい―――ステラ」

 

 《了解》

 

 ニーベルングによってすべて撃破されてしまった降下部隊。

 

 しかしそのすぐ後に一機、降下してくる機体があった。

 

 不気味なほど黒い装甲に包まれたモビルスーツ。

 

 その機体の装甲が開くと同時に翼の様に展開される。

 

 ZGMFーX93S 『アルカンシェル』

 

 ザフトが開発した対SEEDを想定したモビルスーツである。

 

 普段は装甲のようなもので覆われており、これが展開されると背後に移動して翼になる。

 

 その際に全身に配置されたスラスターが解放され、非常に高い機動性を発揮。

 

 さらに装甲の間から微量のミラージュ・コロイドを散布して、デスティニーほどでは無いにしろ、虹色の光学残像を残す事ができる。

 

 アルカンシェルのコックピットには金髪の少女が座っていた。

 

 ザフトの捕虜となったステラ・ルーシェである。

 

 彼女はかなりの速度であるにも関わらず、躊躇う事無く操縦桿を押し込む。

 

 そして機体をさらに加速させ、左腕の大型ビームクロウを構えてトリガーを引いた。

 

 ビームクロウに内蔵された高出力ビームキャノンが光を集め、撃ち出されるとニーベルングに直撃する。

 

 ビームがニーベルングを抉り、大きな爆発を引き起こす。

 

 同時に今度は右腕の高エネルギー収束ビームガンを構えて撃ち出した。

 

 一直線に放たれたビームがニーベルングを切り裂くように破壊していく。

 

 もちろんロゴス派も黙ってはいない。

 

 防衛の為に展開していたモビルスーツがビームライフルを撃ち出してアルカンシェルを狙い攻撃する。

 

 しかしビームはアルカンシェルを捉える事ができない。

 

 凄まじい速度であるというのもある。

 

 だがそれ以上に全身や翼の部分から放出されている微量のミラージュ・コロイドによって発生している光学残像によって幻惑されているのだ。

 

 「……邪魔ァァァ!!!」

 

 『I.S.system starting』

 

 加速したアルカンシェルは圧倒的な速度で敵機に肉薄、ビームサーベルで一瞬の内に斬り捨てた。

 

 さらに群がるウィンダムに向け、高エネルギー収束ビームガンを放つ。

 

 討ち出されたビームが鞭のように複雑な軌道を描き、斬り裂くようにウィンダムを次々と薙ぎ払っていった。

 

 それを見たデュランダルはニヤリと笑う。

 

 アルカンシェルの襲撃により、ヘブンズベースは混乱に陥っている。

 

 彼らを出すにはこのタイミングしかない。

 

 「ヘレン、彼らに出撃命令を」

 

 「了解」

 

 ヘレンの指示に従って四機の新型モビルスーツがフォルトゥナから出撃する。

 

 「ジェイル・オールディス、デスティニー出るぞ!」

 

 「セリス・シャリエ、ザルヴァートル行きます!」

 

 「レイ・ザ・バレル、レジェンド発進する!」

 

 「リース・シベリウス、ベルゼビュート出ます」

 

 飛び出した四機が発進と同時にVPS装甲が展開される。

 

 戦場ではアルカンシェルが周囲の敵機を次々と撃破しているものの、デストロイの猛攻によって他の部隊は近づけないようだ。

 

 あれを何とかしない限り、状況は一向に変わらないだろう。

 

 「ジェイル、レイ、セリス、まずはあれを落とす。でないと被害が増える一方だから」

 

 「ああ!」

 

 「了解!」

 

 「分かりました!」

 

 機体を加速させ、戦場に突撃する。

 

 リースは両肩の高出力ビームキャノンで敵機を纏めて消し飛ばす。

 

 そして敵に接近するとビームクロウを構えて、ウィンダムを胴体を食いちぎるように撃破する。

 

 横目でそれを確認したジェイルはデストロイまでの道を阻むウィンダムにビームライフルを撃ち込んだ。

 

 コックピットを撃ち抜かれて撃破されたウィンダムを尻目に肩のフラッシュエッジビームブーメランを引き抜き別方向の敵機に向けて投げつける。

 

 ブーメランに斬り裂かれた敵機の爆発に紛れ、サーベルを構えたウィンダムに高エネルギー長射程ビーム砲を撃ち出した。

 

 「邪魔なんだよ!!!」

 

 敵機を落としながら動き回るデスティニー。

 

 そのすぐ傍で変形したザルヴァートルがその速度を持って敵機を翻弄している。

 

 「遅い!」

 

 すれ違う瞬間に側面に装備されたビームウイングが展開されダガーLを即座に両断。

 

 さらにビーム砲の閃光が複数敵を巻き込んで吹き飛ばしていく。

 

 そんなザルヴァートルを狙い、ビームサーベルで攻撃を仕掛けようとするウィンダム。

 

 「セリス、援護するぞ」

 

 そこにレジェンドが回り込みビームライフルを撃ち込んだ。

 

 撃ち抜かれたウィンダムが爆散すると、残った機体にデファイアント改ビームジャベリンを構えて斬り払う。

 

 横薙ぎに斬り払われた敵機は胴から真っ二つになって爆発した。

 

 「ありがとう、レイ」

 

 「余計なお世話だったかもしれないがな」

 

 順調に敵機を落としていく四機。

 

 しかし戦場の先には黒い巨体が立ちふさがっている。

 

 両腕のシュトゥルムファウストを射出して、空中をいるディンやバビを次々蹴散らしていく。

 

 圧倒的な火力である。

 

 並の機体では突破するのは難しいだろう。

 

 「それがどうした!!」

 

 しかし今のジェイルの乗っている機体は並の機体ではない。

 

 「これ以上、やらせるかァァ!!!!」

 

 ジェイルのSEEDが弾けた。

 

 背中の翼が展開されると同時に光の翼が発生する。

 

 アロンダイトを引き抜き、スラスターを吹かして加速するデスティニー。

 

 デストロイはそんなデスティニーに向け、両腕のシュトゥルムファウストで囲むようにビームを放つ。

 

 だが当たらない。

 

 あまりの速度に捉える事すらできず、デスティニーの残像がデストロイを翻弄する。

 

 「うおおおおおお!!」

 

 一気にデストロイの懐に飛び込んだジェイルはアロンダイトを上段から振り下ろした。

 

 圧倒的な速度で放たれた一閃が巨人の右腕を容易く両断する。

 

 「俺の相手はお前らじゃないんだよ!!!」

 

 さらに振り向き様に右手のパルマフィオキーナ掌部ビーム砲を叩きつけて頭部を吹き飛ばした。

 

 「リース、レイ、セリス、情報通りだ! こいつらは懐に飛び込まれれば何もできない!」

 

 この機体と交戦したミネルバのデータはザフト全軍に行き渡っている。

 

 そこに反ロゴス派から提供されたデータを含めれば、攻撃パターンも弱点もすべて筒抜けだ。

 

 それが分かっていればどれだけの火力を持とうが敵ではない。

 

 「了解!」

 

 四機が散開してデストロイに向かう。

 

 「落とさせてもらうから!!」

 

 セリスにSEEDが弾ける。

 

 ザルヴァートルが変形すると速度を上げて、デストロイの放つスーパースキュラの砲撃を容易く潜り抜けた。

 

 懐に飛び込み同時にモビルスーツ形態に変形。

 

 シールド内に装備されているロングビームサーベルを叩きつけ頭部をあっさり斬り落とした。

 

 「レイ!!」

 

 「了解」

 

 頭部を破壊されたデストロイに上部からデファイアント改ビームジャベリンを突き刺し、背中に装備されたドラグーンを正面に向け撃ちこんだ。

 

 破壊された部分から炎が上がり爆散する。

 

 それを横目で確認したジェイルはニヤリと笑みを浮かべる。

 

 「やるじゃないか!」

 

 「私達、同じ赤だしね」

 

 「そう言う事だ」

 

 「そうかよ!」

 

 デスティニーは撃ち込まれるビームの嵐を尽く回避しながら、アロンダイトを振りかざしデストロイを一刀両断する。

 

 「これで二機目!」

 

 爆煙をあげて崩れ落ちるデストロイを尻目にジェイルはリースの方を見る。

 

 ベルゼビュートがデストロイのシュトゥルムファウストをビームキャノンで撃破、あっさりと懐に飛び込んだ。

 

 「……貴方達、早く死んで」

 

 ビームクロウを右腕にスライドさせるとデストロイの中央部に叩き込む。

 

 さらに左腕にもビームクロウをスライドさせ、下からすくい上げる様に突き刺した。

 

 そしてデストロイの上半身と下半身を引きちぎる様に裂いて撃破する。

 

 「邪魔する貴方達が悪いんだよ」

 

 笑みを浮かべるリース。

 

 そして別方向にいたアルカンシェルが加速し、戦線に参加してくる。

 

 高エネルギー収束ビームガンが鞭のような一撃となり巨大な機体を斬り裂き、左腕のビームクロウで頭部を食いちぎる。

 

 「落ちろォォ!!」

 

 頭部を失い動きを止めた巨体に高出力三連装ビーム砲を至近距離から撃ち込んで破壊する。

 

 デストロイは残り一機。

 

 最初に頭と腕を失った機体に向けて突撃するジェイル。

 

 撃ち出されたスーパースキュラをビームシールドで受け止め、アロンダイトを構えて突きを放つ。

 

 「はあああああ!!」

 

 突き出されたアロンダイトが正確にコックピットを貫くと、巨体を斬り上げて撃破した。

 

 「どこだ! どこにいる!! アオイィィィィ!!!!」

 

 咆哮を上げデスティニーが残像を残しながら刃を構えて舞う。

 

 斬り裂かれ、撃ち抜かれ、もはや為す術無く撃破されていく、ロゴス派の機体群。

 

 最初とは全く逆の状況になり、反ロゴス連合軍に蹂躙されていくヘブンズベース。

 

 そんな彼らを止められる者など、もうこの基地には存在していなかった。

 

 

 

 

 ヘブンズベース基地内は大きく揺れ、所々で爆発が起きている。

 

 もはや勝敗は決した。

 

 誰もがそう思っている。

 

 そんな中ユウナは怪我をした部下達を連れて廊下を走っていた。

 

 彼の持ち場はすでに崩壊して炎に包まれてしまった。

 

 このままでは全滅すると安全な中央部に向かっていたのだが―――もうそんな場所などないかもしれない。

 

 だが無為に命を散らすつもりもなかった。

 

 震動する廊下を走っていると、前からウナトがレナとリナと共に向ってきた。

 

 「ユウナ!」

 

 「父さん! レナ、リナ、無事か!」

 

 「……はい、大丈夫です。でも、こちらの道は瓦礫で埋まってしまいました」

 

 レナの報告にユウナは歯噛みする。

 

 ここが通れないとなると、港側から迂回するしかない。

 

 「皆、こっちだ!」

 

 全員を連れて再び走り出すと、此処には居る筈のない男と鉢合した。

 

 数人の兵士やヴァールト・ロズベルクと共にロード・ジブリールが曲がり角から飛び出してきたのだ。

 

 「なっ、なんでここに?」

 

 彼らは司令部にいたはず。

 

 今も劣勢とはいえ戦闘中である。

 

 そこですぐに気がついた。

 

 「まさか自分だけ逃げるつもりで―――」

 

 「チッ、邪魔だ」

 

 ユウナが糾弾する前にジブリールは手を上げると、兵士達が銃を構えて発砲してくる。

 

 咄嗟の事に反応できない。

 

 「ユウナ様!」

 

 放たれた銃弾がウナトの頭と同時に自分を庇うように前に出たレナの腹部を撃ち抜いた。

 

 「父さん、レナ!?」

 

 倒れ込む二人に駆け寄るユウナ達。

 

 さらに発砲させようとしたジブリールにヴァールト・ロズベルクは余裕すら感じられる態度で制止する。

 

 「ジブリール様、こんな事をしている場合ではありませんよ」

 

 ジブリールは舌打ちすると、兵士達を連れて走り出した。

 

 ユウナは頭から血を流すウナトを起こすが全く反応がない。

 

 頭を撃ち抜かれ、完全に即死してしまっているようだ。

 

 「くっ、父さん」

 

 悔しさと憤りで拳を強く握った。

 

 ゆっくりウナトを寝かせると今度は腹部を撃たれたレナを見る。

 

 「レナはどうだ!?」

 

 レナを抱き起こす兵士達が応急処置を施しながら報告してきた。

 

 「はい、急所は外れていますが、このままでは」

 

 治療しなければ、命の危険すらある。

 

 だが今は治療をしている余裕はない。

 

 ユウナは固く目を閉じると、指示を出した。

 

 「僕達も港に行くぞ!」

 

 「ユウナ様」

 

 「……ジブリールの好きにさせない。皆には悪いけど」

 

 傍にいた兵士達が顔を見合せて頷くと、立ち上がって敬礼を取る。

 

 「お供させて下さい!」

 

 「すまない」

 

 ユウナはレナを抱えあげ、不安げなリナに笑顔で頷くと爆発で震動する基地内を走り出した。

 




機体紹介2更新しました。
アルカンシェルのイメージはバンシィかな。
装甲の翼のイメージはデスサイズヘルのアクティブクロークですね。


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