機動戦士ガンダムSEED effect   作:kia

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第35話  新しき刃

 

 

 

 宇宙を漂うデブリの中、一隻の戦艦が静かに航行していた。

 

 中立同盟軍所属の戦艦ドミニオンである。

 

 テタルトスとの戦闘から離脱しドミニオンに合流したアストは格納庫で自身の機体を見上げていた。

 

 エクリプスは先のテタルトスとの戦闘で大破に近い損傷を受けてしまった。

 

 これは修復に結構な時間が掛かってしまうだろう。

 

 気になる事もあるというのに。

 

 「アスト、どうしたの?」

 

 アストが難しい表情をしていたのに気がついたのか、キラが問いかけてくる。

 

 「いや、ちょっとな」

 

 「それにしても派手にやられたね」

 

 「ああ、この程度で済んだのは奴がまったく本気を出していなかったからだよ」

 

 あの新型であればあっさりこちらを撃墜してしまう事も出来た筈だ。

 

 にも関わらず無事だというのはユリウスに見逃されたという事である。

 

 思う所がない訳ではないが、それはいい。

 

 生き延びる事が出来たというのが重要なのだから。

 

 それよりも問題は再びあの機体や同等の性能を持つ敵と戦うとなるとかなり厳しいという事だ。

 

 「キラ、新型の方はどうなっている?」

 

 「今、ヴァルハラで調整が進んでるよ。それよりアスト、色々話が聞きたいんだけど」

 

 確かに今の内に情報共有をした方が良い。

 

 「そうだな、じゃあブリッジに行こう」

 

 「服着替えないの?」

 

 アストの服は未だにザフトの赤服のままだ。

 

 些か目立ってしまうが、それは我慢しよう。

 

 まだやらねばならない事はある。

 

 「ああ、それは後だ。それに少し気になる事がある。情報共有した後、もう一度地球に降りるつもりだ」

 

 「地球に?」

 

 キラは重ねて質問しようとしたが、丁度ブリッジに着いてしまった。

 

 後で聞けばいいかと思い直すとキラはそのまま中に入った。

 

 「お久しぶりです、ナタルさん」

 

 艦長席に座っている黒髪の女性、ナタル・バジルールに近づいた。

 

 やや髪は伸びているようだが、それ以外は変わった様子は無い。

 

 「ああ、そちらも元気そうだな」

 

 「ええ、まあ何とか」

 

 挨拶もそこそこにキラ達の話を聞く。

 

 敵の実験機の奪取。

 

 テタルトスと合同で行った『アトリエ』と呼ばれる施設に対する作戦。

 

 一通りの話を聞かされるとアストは納得したように頷く。

 

 アスランが言っていたのはこの事だったのだろう。

 

 「それで手に入れたデータというのは?

 

 「一部が破損していた所為で復元に時間がかかっているが、現在読み取れたのは『Dプラン』という名前だけだ」

 

 「『Dプラン』」

 

 デュランダルが進めようとしているものの名前だろうか。

 

 だがこれは何かの手掛かりになる。

 

 「アスト、君の方は?」

 

 「ああ、まずセリス・ブラッスール、彼女はプラントにいた」

 

 「ッ!?」

 

 「そうか、やっぱり」

 

 キラ達も調査の過程でセリスの名が乗ったリストを発見したらしい。

 

 「一応顔を見せたが覚えていなかった。面識はなくとも俺の顔は知ってはいた筈だ」

 

 「じゃあ、彼女は記憶を」

 

 「おそらくは」

 

 今はミネルバに配属され、I.S.システムの影響で意識不明の状態である事を説明する。

 

 「I.S.システム、そんなものまでザフトが開発していたとはな」

 

 「ええ。アスト、そのシステムは―――」

 

 キラの言葉を遮る様に甲高い音が鳴る。

 

 どこからか通信が入ってきたのだ。

 

 受け取った通信士が驚いたようにナタルを呼び寄せる。

 

 「艦長、これを!」

 

 「どうした?」

 

 通信を受け取ったナタルは神妙な顔でこちらを見た。

 

 それだけで良くない知らせである事は分かる。

 

 「……アークエンジェルがザフトからの襲撃を受け、甚大な被害を被ったそうだ」

 

 「アークエンジェルが!?」

 

 「攻撃を仕掛けたのは、どこの部隊か分かりますか?」

 

 「まだ詳しい情報は入っていないが、交戦したのはザフトの新造戦艦と新型モビルスーツらしい」

 

 新造戦艦となるとレイが転属になった戦艦だろう。

 

 それに新型モビルスーツ。

 

 ミネルバからアストを引き離して宇宙に上がる様に指示したのはこの事を伏せる為。

 

 そして今回のテタルトスの待ち伏せ―――

 

 「ナタルさん、モビルスーツを一機貸して貰えませんか? 地球に降ります」

 

 「アスト!?」

 

 「お願いします」

 

 しばらく考え込んでいたナタルだったがすぐに頷いた。

 

 「分かった」

 

 「ありがとうございます!」

 

 アストはすぐにブリッジから飛び出すと、格納庫に向かって走り出した。

 

 良くない予感を振り払うように。

 

 

 

 

 地球軍宇宙要塞『エンリル』

 

 『ウラノス』と同じく前大戦後に建設された宇宙要塞の一つである。

 

 『ウラノス』とはほぼ反対の位置にあるこの要塞はマクリーン派、つまりは反ロゴス派が拠点として使用していた。

 

 現在『エンリル』周辺は何時ロゴス派が攻めて来ても良いように、モビルスーツや戦艦が順次哨戒を行っており、厳しい警備が敷かれている。

 

 その周辺では一機のモビルスーツがデブリを潜り抜けながら、飛びまわっていた。

 

 二枚の羽根をつけ、背中には二基の砲身が見える。

 

 散乱した岩の間を背中のスラスターを噴射させ、速度をつけて潜り抜けいく。

 

 その間に危うげな場面は一度も無く、優雅ともいえる動きですべてのデブリを抜け切った。

 

 パイロットの腕も尋常ではないが、それに追随できる機体もまた普通ではない。

 

 ダークブルーを基調としたその機体のコックピットに座っていたのは仮面をつけた男、ネオ・ロアノーク、いやラルス・フラガであった。

 

 機体の状態をチェックしながら、挙動を確認する。

 

 《ネオ、機体の調子はどうか?》

 

 「はい、特に問題もありません」

 

 モニターに映ったグラントにネオは珍しく高揚したように答える。

 

 どうやら思った以上に機体性能が高く、彼も驚いているようだ。

 

 GAT-X000『エレンシアガンダム』

 

 マクリーン派がオーブから奪取したSOA-X05を基に開発した機体である。

 

 オーブの研究者であるローザ・クレウスが開発に関わっていただけあって基本スペックは非常に高く、核動力を搭載している為にパワーダウンも起きない。

 

 背中の部分は連合の機体共通のストライカーパックが装備可能となっている。

 

 「しかし、まさかコーディネイターまで引きこんでいたとは思いませんでしたよ」

 

 元々奪取されたSOA-X05は組み立て途中の未完成な機体であった。

 

 これを完成させる為にグラントは技術者を集め、行き場のないコーディネイター達も受け入れていた。

 

 それだけに反ロゴス派の技術力は高くなっており、他の新型機も開発中である。

 

 《私は生まれに拘ってはいないさ。使える者は使う、それだけだよ。それより、君に極秘任務だ》

 

 グラントの真剣な表情にネオもまた気を引き締める。

 

 この状況で極秘任務とは、よほどの事があるのかもしれない。

 

 《あの機体と一緒に地球に降下してほしい》

 

 「……どういう事ですか?」

 

 《幾つか気になる事があってな。ザフトの……ミネルバが妙な動きをしている》

 

 ミネルバ。

 

 ネオにとっては因縁の戦艦だ。

 

 自然と体が強張るように固くなる。

 

 「どういう事ですか?」

 

 《……ルシア達の部隊がいる方向に近づいているらしい》

 

 「ルシア達の?」

 

 《うむ。だがザフトからは何の通達も無い》

 

 現在、反ロゴス派はザフトと協力関係にある。

 

 その為、今はジブラルタルに戦力を集めロゴス派の拠点であるヘブンズベースを落す準備が進められている。

 

 だから何かしらの作戦行動を取る場合は連絡が来るはず。

 

 にも関わらず連絡も無くミネルバがルシア達に近づいているとなると何かがあるのは間違いないだろう。

 

 「了解です」

 

 ネオは急ぎ地球に降下する為に『エンリル』に帰還した。

 

 

 

 

 デストロイを撃破したアオイ達は即座にその場を離れて部隊と急ぎ移動していた。

 

 理由はいくつかある。

 

 中でも自分達がファントムペインであったというのが一番大きい。

 

 これまで様々な作戦をこなし、ミネルバとも何度も相対してきた。

 

 いかに反ロゴス派であるとはいえ、あの場に留まっていたら諍いの元にもなりかねない。

 

 だからアオイ達は事後処理を別部隊に任せ、急ぎ移動しているという訳である。

 

 「大佐、これからどこに向かうのですか?」

 

 アオイはルシアの部屋で仕事を手伝いながらこれからの事を尋ねる。

 

 仕事といっても精々データ整理くらいしかできる事など無いのだが。

 

 「マクリーン中将が指揮している部隊の大半はヘブンズベースを攻略する為、ジブラルタルに向かう事になるでしょう」

 

 ヘブンズベースは大西洋北部アイスランド島にある地球連合軍の最高司令部である。

 

 現在ここに各地から追われたロゴスの幹部達が集結しているという情報が入っていた。

 

 ザフト、反ロゴス派はこのヘブンズベースを落とす為に戦力を集結させている最中だ。

 

 「俺達は……」

 

 「命令次第でしょうね。おそらくは別行動を取る事になるだろうけど」

 

 自分達の立場からすれば当然か。

 

 しばらく黙々と作業を進め、キーボードを叩く音だけが部屋に響く。

 

 アオイはこのまま黙って作業するのもなんか気まずいと適当に話題を振る事にした。

 

 「大佐はなんで軍に入ったんですか? やっぱりマクリーン中将のためですか?」

 

 「……それもあるけどね。後は身を守る術を身につける為というのもあったけど、兄を、ラルスを助けたかったというのが一番の理由ね」

 

 「それって……」

 

 「知っての通り、兄のラルスは体がね。今でこそある程度は問題なくなったけど、薬の服用はしないといけないから」

 

 そんな素振りは見せなかったが、体が問題無くなった訳ではないらしい。

 

 彼女はそんな兄が心配だったという事だろう。

 

 何と言うか親近感が持てる。

 

 アオイも同じ理由で地球軍に志願したからだ。

 

 そこでもう一つ聞きたい事が出来た。

 

 「あの、大佐の体はどうなのですか?」

 

 やや心配気味に言うアオイに穏やかな笑みを浮かべる、ルシア。

 

 「私は幸い体の方に問題は無かったわ。でも心配してくれてありがとう、少尉」

 

 「いえ」

 

 「貴方は何で軍にって聞くまでも無かったわね。家族の為でしょう?」

 

 「ええ。そして今は仲間の為です」

 

 今度こそと拳を強く握る。

 

 守ると言いながら自分の力不足で守れなかった事もある。

 

 アウルやステラも死なせてしまった上にラナはロゴス派のエクステンデットになっていた。

 

 まだまだ未熟。

 

 この仕事片付いたら、訓練しなければ。

 

 その時、ドンドンと扉を叩く音が聞こえてきた。

 

 ルシアが仮面をかぶると「入れ」と声を掛ける。

 

 「失礼します! 大佐、後方から戦艦が接近してきています!」

 

 「どこの戦艦だ?」

 

 「それが……ミネルバです!」

 

 「ミネルバが!?」

 

 アオイが思わずルシアの顔を見る。

 

 何かしらの連絡を受けていたのかと思ったのだ。

 

 だがルシアは軽く首を横に振ると、即座に指示を飛ばした。

 

 「すぐブリッジに上がる。少尉、念の為、何時でも出られるように機体で待機しておけ」

 

 スティングはメンテナンスの為に動けず、さらにスウェンの機体は整備中だ。

 

 仮に戦闘になれば戦えるのはアオイのイレイズMk-Ⅱとルシアのフェール・ウィンダムしかいない。

 

 アオイはすぐに頷くと格納庫に向って走り出した。

 

 

 

 

 デストロイを撃破したミネルバはすぐに別の命令を受けていた。

 

 休息も無くすぐに別の任務とはこの艦らしいといえばらしいのだが、今回の任務は流石に首を傾げてしまう。

 

 与えられたのは『逃げたロゴス派の部隊を追撃せよ』というもの。

 

 配備されたルナマリアのグフも中破している以上、戦力はインパルスのみ。

 

 そんな状態で追撃戦など無謀である。

 

 当然異を唱えようとしたタリアだったのだが、上層部の返答に言葉を無くしてしまった。

 

 特務隊デュルク・レアードとヴィート・テスティの二人が新型や率いている部隊とミネルバで任務を行うと通達がきたのである。

 

 これで戦力的な問題は解決され、断る事もできない。

 

 デストロイに関する後処理を他に引き継ぎ、特務隊が率いる部隊と合流したミネルバは敵の追撃を開始した。

 

 そしてパイロットスーツに着替えたシンはルナマリアと二人、待機室で出撃の時を待っていた。

 

 ルナマリアは機体の修理が間に合わない上に、怪我の為に今回の出撃を見合わせる事になっている。

 

 「ホント、人使い荒いよね。休む間もなく次の任務なんて」

 

 「……これが終われば少しは休めると思うけど」

 

 「どうしたのよ、何か気になる事でもあるの?」

 

 「えっ、いや、何でもないよ」

 

 シンが思い返していたのはデストロイに搭乗していたらしいラナの事だ。

 

 ブルデュエルからもラナの声が聞こえてきていた。

 

 戦場で聞こえてきた彼女の言葉。

 

 ≪私の家族を、マサキおじさんを、大切な人達を殺したお前達を絶対に許さない!!≫

 

 シンの心に痛みが走る。

 

 再び彼女と戦う事になったら―――

 

 それにもう一つ、あの黒いフェール・ウィンダム。

 

 マユに恨みを持っていると言ってたけど、アイツは何者なのだろう。

 

 考え事をしていたシンにの下にブリッジから通信が入ってくる。

 

 《シン、敵と思われる戦艦を確認したわ。準備して》

 

 「了解」

 

 「シン、無茶したら駄目よ」

 

 「分かってるよ。何かセリスみたいだな」

 

 「そうかもね。セリスの代わりに言っておかないと。アンタが無茶すると、あの子に「何で止めなかったの!」って怒られそうだし」

 

 ルナマリアの似てないモノマネと確かにセリスが言いそうな言葉に笑いが込み上げる。

 

 お互いに笑いを堪えられずに噴き出した。

 

 ルナマリアのおかげで随分リラックスできた。

 

 笑みを浮かべて頷くとそのまま格納庫に向かい、コアスプレンダーに乗り込む。

 

 今回はロゴス派の追撃だ。

 

 デストロイであれだけの被害をもたらした彼らを放ってはおけない。

 

 気持ちを切り替えると、フットペダルを踏み込んだ。

 

 「シン・アスカ、コアスプレンダー行きます!!」

 

 ミネルバから出撃したコアスプレンダーが射出されたパーツと合体、インパルスになりフォースシルエットを装備する。

 

 モニターの正面には地球軍ハンニバル級がいる。

 

 アレがロゴス派の母艦なのだろう。

 

 そこに二機ほど新型と思われる機体がインパルスの横についた。

 

 ZGMFー120D『シグーディバイド タイプⅢ』

 

 対SEED用として開発された機体。

 

 名前はシグーディバイドとなっているが基になっているのはシグルドである。

 

 標準でI.S.システムを搭載。

 

 背中のウィングスラスターはデスティニーインパルスで得られたデータを基に改良を加えたもので、量産化に伴いやや性能が落としてある。

 

 だがそれでも十分すぎるほどの加速性能を有していた。

 

 「聞こえているか、シン・アスカ?」

 

 モニターに映ったのは特務隊隊長デュルク・レアードだった。

 

 表情を変えず、淡々とした口調で言ってくる。

 

 その様子はあの白衣の連中を思い出す。

 

 嫌な事を思い出したと首を振ると返事を返した。

 

 「……はい」

 

 「これより作戦を開始する。我々の任務は敵の殲滅だ。遠慮はいらない。思いっきりやれ」

 

 「あの、降伏勧告は……」

 

 「必要ないだろ。奴らはロゴス派だ。デストロイで連中がした事を見ただろ。あんな事をする奴らが大人しく降伏なんてする筈がない」

 

 ヴェート・テスティが口を挟んでくる。

 

 言いたい事は分かる。

 

 シンもあれだけの惨事を引き起こした連中に遠慮するつもりは毛頭なかった。

 

 だがここでシンはアレンやハイネに言われた事を思い出していた。

 

 『力を持つ者の責任を自覚しろ』そう言われたあの時の事を。

 

 シンが意を決して二人に進言しようとした瞬間、敵母艦から一機のモビルスーツが飛び出してきた。

 

 「あれは……イレイズ!?」

 

 という事はアオイだ。

 

 ではあの戦艦はロゴス派ではないという事になる。

 

 「敵が出て来たな。これより攻撃を開始する!」

 

 「なっ!? ちょっと待ってください!! アオ―――いえ、あの機体はロゴス派じゃない! デストロイ戦でも一緒に戦って―――」

 

 「それは関係ないな。あれはロゴス派で、殲滅せよと命令が出た。それで十分だろう」

 

 「何言って!」

 

 「隊長、俺から行きますよ」

 

 ヴィートのシグーディバイドのウイングスラスターから光が放出され、翼を形成した。

 

 そして腰に装着されている対艦刀『ベリサルダ』を引き抜くと両手に構えて一気に加速する。

 

 速い!

 

 シンの目の前で凄まじい加速でイレイズに向かっていく、シグーディバイド。

 

 「くっそぉぉ!!」

 

 それを追うようにシンもスラスターを吹かして追尾する。

 

 そんなシンの姿をデュルクは観察するように鋭い視線で見ていた。

 

 

 

 ミネルバからモビルスーツが出撃したのを確認したアオイはゼニスストライカーを装備して外に出る。

 

 《少尉、こちらからは攻撃するな》

 

 「了解!」

 

 相手の目的が不明な以上は迂闊に手は出せない。

 

 下手に手を出せば、それを攻撃理由にされる可能性もある。

 

 アオイはザフトの目的を明らかにする為に通信を入れようとした、その時だった。

 

 インパルスの横に並んでいたザフト特有の造形を持った機体が背中の翼から光を放出しながら突っ込んでくる。

 

 攻撃してくるつもりか!

 

 だがこちらからは撃てない。

 

 あっという間にイレイズに接近してきたシグーディバイドは両手に構えた対艦刀を振り抜いてくる。

 

 「くっ」

 

 機体を流しながら対艦刀の連激を捌く。

 

 だが敵機は逃がさないとばかりにそのまま下がろうとしたイレイズ目掛けて上段から袈裟懸けに叩きつけてくる。

 

 速い!

 

 機体の動きが速過ぎる。

 

 何時までも捌くのは無理だ。

 

 「ザフト機、なんで俺達を攻撃する!? 俺達はロゴス派じゃない!!」

 

 アオイは何とか対艦刀の切っ先を避けながら通信機に向かって叫ぶ。

 

 「関係無いな。お前、アオイ・ミナトだろ?」

 

 「なっ」

 

 こちらを知っている?

 

 どういう事だ?

 

 「当たりか。なら消えて貰うぞ!!」

 

 さらに勢いよく加速してくるシグーディバイド。

 

 応戦せずに避けているだけは無理だ。

 

 アオイはそのままビームライフルを構えて、トリガーを引く。

 

 しかし、敵機はそれらをあまりに容易くすり抜けるように回避すると再び対艦刀を構えて突っ込んできた。

 

 振り抜かれた対艦刀にシールドを掲げて受け止める。

 

 だが、次の瞬間アオイは驚愕した。

 

 シグーディバイドの放った斬撃は凄まじい衝撃と共にシールドごとイレイズを吹き飛ばしたのだ。

 

 「何!?」

 

 受け止める事もできなかった。

 

 まともに受ければそれだけでシールドを破壊されてしまう。

 

 そうなれば丸裸も同然だ。

 

 あれだけの攻撃力を持つ相手にそれは無謀すぎる。

 

 アオイは体勢を立て直すと背中のスヴァローグ改を跳ね上げてシグーディバイド目掛けて撃ち出した。

 

 砲身から撃ち出された閃光がシグーディバイドに迫る。

 

 だが敵機は回避する素振りも見せず、左腕を突き出すとビームシールドが展開され閃光は容易く弾かれた。

 

 「そんな物が通用すると思うなよ!」

 

 「くっ」

 

 シグーディバイドが対艦刀からビームライフルに持ち替え、トリガーを引くと放たれた強力なビームがイレイズの装甲を深々と抉っていく。

 

 このまま守りに入ったら、確実にやられる。

 

 かといって距離を取ってもあのシールドで弾かれてしまうだろう。

 

 ならばリスクは高いが接近戦しかない。

 

 アオイは覚悟を決めてネイリングを抜くとシグーディバイドに斬りかかった。

 

 しかし今度は横から強力なビームが迫ってくる。

 

 「別方向から!?」

 

 アオイは目一杯操縦桿を引きスラスターを吹かして、後退する。

 

 「間に合え!」

 

 だが一瞬遅かった。

 

 通り過ぎたビームが、イレイズのライフルを掠めて破壊してしまう。

 

 破壊されたライフルを投げ捨て、ビームが来た方向を見るとデュルクのシグーディバイドがビームランチャーを構え、こちらを狙っていた。

 

 「もう一機!?」

 

 《少尉、私も出る! もう少し持たせろ!》

 

 「大佐は来ては駄目です! ここは俺が何とか引きつけますから、その間に艦を指揮して撤退してください!」

 

 デュルクの機体がイレイズの背後に回り込み、振り抜かれたベリサルダの一撃を弾きながら叫ぶ。

 

 ここで仮にルシアがやられてしまえば、艦の指揮を取る者がいなくなる。

 

 そうなれば一気に殲滅されてしまうだろう。

 

 それにどうもこいつらの狙いは、俺らしい。

 

 ならばここで引きつける!

 

 「急いで後退して!」

 

 ビームライフルを旋回してやり過ごし、側面からネイリングをシグーディバイドに振り抜いた。

 

 だがそれも通用しない。

 

 敵機はネイリングの切っ先を機体を横に逸らすだけで回避したのだ。

 

 だがそこで動きを止めない。

 

 左右からシグーディバイド目掛けて振り下ろす。

 

 それらの攻撃を回避しながらデュルクは素直に感嘆の声を上げる。

 

 「なるほど、良い腕だ。議長が警戒するのも分かる」

 

 デュルクは再度振るわれたイレイズの斬撃をビームシールドで弾き、同時にビームサーベルを抜くとネイリングの斬撃に合わせて叩きつけ半ばから叩き折った。

 

 「くそ!」

 

 「だが相手が悪かったな」

 

 そのままイレイズに殴りつけ、バランスを崩した所に蹴りを叩き込む。

 

 「ぐあああ!!」

 

 「これで終わり!」

 

 止めを刺すためにヴィートが背後からベリサルダを横薙ぎに振り払ってきた。

 

 「まだだぁ!!」

 

 アオイはフットペダルを踏み込んでスラスターを吹かし、宙返りするとベリサルダをやり過ごした。

 

 「かわしただと!?」

 

 驚くヴィートを尻目にアオイは背後からビームサーベルを構えて振り下ろす。

 

 だがそれも届かない。

 

 シグーディバイドは驚くべき速さでビームサーベルを回避すると、別方向から迫ってきたもう一機がベリサルダを振り抜く。

 

 アオイは何とかシールドを掲げる事に成功する。

 

 しかしそれでも防ぐ事が出来ず、ベリサルダの斬撃はイレイズのシールドを真っ二つに斬り裂いた。

 

 不味い。

 

 アオイは咄嗟の判断で破壊されたシールドを投げつけて距離を取った。

 

 「粘るな、だがそれも何時まで続くかな」

 

 「ハァ、ハァ」

 

 速い。

 

 パワーも違うし、パイロットの腕も一流。

 

 絶望的な状況だ。

 

 だがまだ母艦は逃げきれていない。

 

 「まだやられないぞ」

 

 せめて大佐達が逃げ切るまでは!

 

 アオイは残ったネイリングを構えると二機のシグーディバイドに向かって突っ込んでいった。

 

 

 

 

 この状況をミネルバのブリッジで見ていたタリアは訝しむように呟いた。

 

 「おかしいわね」

 

 そんな呟きを聞いていたのか、アーサーが口を挟んでくる。

 

 「艦長? まあ確かにあの機体は先のデストロイ戦でも味方として―――」

 

 「それもあるけど、後方に待機している部隊はどうなってるの?」

 

 「動きありません」

 

 やはりおかしい。

 

 何故他のモビルスーツは動かない?

 

 あの新型だけですべてやってしまうつもりなのだろうか。

 

 だとしたらミネルバと合同で作戦を行う必要はないはず。

 

 何かある。

 

 このタリアの考えは当たっていた。

 

 

 

 

 

 攻防を繰り返す三機。

 

 だが明らかにシグーディバイドの方が圧倒的に押している。

 

 イレイズは所々に傷を作り、武装も破壊されていく。

 

 それを見ながらシンは操縦桿を強く握った。

 

 「何やってるんだ、シン・アスカ! お前も撃て!」

 

 「だから待てよ! さっきアオイはロゴス派じゃないって言ってただろう! それに何でアンタ達がアオイの事を知ってるんだよ!?」

 

 言い返すシンにヴィートは呆れたようにため息をつく。

 

 その態度に苛立つシンだったが、ヴィートの言葉は予想外のものだった。

 

 「隊長、イレイズはそう時間もかからず落とせるし、もういいでしょう?」

 

 「そうだな」

 

 デュルクの声はゾクリと背中が寒くなるほど冷たい声だった。

 

 一体何をする気だ?

 

 「全機に告げる、作戦開始だ」

 

 デュルクが命令した瞬間、突然後方にいた部隊から砲撃が始まった。

 

 目標は―――ミネルバ。

 

 「後方コンプトン級より砲撃、本艦に急速接近!」

 

 その報告を聞いたタリアは叫んだ。

 

 「スラスター全開、回避!!」

 

 ミネルバがメインスラスターを吹かして前に出ると直後に砲撃が地面に突き刺さる。

 

 爆煙と共に発生した衝撃にミネルバの船体が大きく揺れた。

 

 「きゃあああ!」

 

 「うあああ!!」

 

 メイリンとアーサーの声がブリッジに響き渡る。

 

 何とか回避できたミネルバだったが、状況を把握する暇も無く、次々と砲撃が降り注ぐ。

 

 攻撃をしているコンプトン級はレセップスを上回る艦体規模を持つ大型陸上戦艦である。

 

 当然搭載しているモビルスーツの数も多い。

 

 今はまだ艦からの砲撃のみだが、これでモビルスーツまで出てきたら―――

 

 そんなタリアの悪い予感は当たる。

 

 「コンプトン級からモビルスーツの出撃を確認、『バビ』です!」

 

 「か、艦長」

 

 アーサーが戸惑ったようにこちらを見てくる。

 

 どうするべきか判断できないのだろう。

 

 だが迷っている暇はない。

 

 タリアは即座に決断する。

 

 「トリスタン、イゾルデ照準!」

 

 「か、艦長、それは―――」

 

 「詮索は後よ! ここを切り抜けなければそれを知る間も無く撃沈されるわ!!」

 

 反撃しなければミネルバはあっという間に撃沈されてしまうだろう。

 

 生き延びる為にはやるしかない。

 

 「り、了解!!」

 

 タリアは焦りを隠す余裕も無く指示を飛ばし、迎撃を開始する。

 

 攻撃される母艦を見ていたシンは驚愕した。

 

 「ミネルバ!!」

 

 ミサイルや砲撃により、爆煙に包まれるミネルバ。

 

 いや、そんな事は後だ。

 

 今はミネルバに群がるバビを排除しないと。

 

 シンはミネルバの援護に向かおうとするが、そこにヴィートのシグーディバイドが割り込んでくる。

 

 「どこ行くんだよ!」

 

 「くっ、邪魔だァァ!」

 

 ビームライフルでシグーディバイドを攻撃する。

 

 しかし放ったビームは敵機に届く事無く、手元のシールドで弾かれてしまう。

 

 そのままベリサルダをインパルス目掛けて振り抜いてきた。

 

 アオイと特務隊との戦いを見ていたシンはシグーディバイドの性能を理解していた。

 

 あの機体の性能は明らかにインパルスを超えている。

 

 アレをまともに受けては駄目だ!

 

 横薙ぎに胴目掛けて振るわれる対艦刀をシンは予想もつかない方法で回避する。

 

 対艦刀がインパルスを捉える瞬間、胴と脚部が分離しその刃をやり過ごしたのだ。

 

 「なんだと!?」

 

 捉えたと思った瞬間、空を斬り驚いたのはヴィートだった。

 

 まさかあんな方法でこちらの攻撃をかわすなんて。

 

 「ヴィート、後ろだ!」

 

 「ッ!?」

 

 デュルクの声に咄嗟に振り向いたヴィートはビームシールドを展開して防御する。

 

 インパルスから放たれたビームを弾くと同時にヴィートは苛立つように舌打ちした。

 

 攻撃をかわしたシンに対してではない。

 

 苛立ったのはあくまでも敵を甘く見て、油断をした自分に対してだ。

 

 「甘く見ていた。だがもうそう簡単にいくと思うなよ!」

 

 ヴィートはビームライフルを構えてトリガーを引き、その攻撃をシールドで防ぎながらシンもライフルを撃ち返す。

 

 だが、シグーディバイドの動きは速い。

 

 翼を広げて加速する敵機の速度やパワーは明らかに従来の機体を上回っている。

 

 間違いなくフリーダム以上だろう。

 

 自分と互角に戦えるアオイがあそこまで一方的に追い込まれる訳だ。

 

 敵機をライフルで牽制しつつ、シンもアオイと同じ様に疑問をぶつける。

 

 「何で、何で俺達を攻撃するんだよ!」

 

 だがその返答はあまりに冷たいものだった。

 

 「命令だ。後の事は知らない」

 

 小型ビームガトリング砲をシールドで防ぎながらもシンは困惑する。

 

 命令―――

 

 「だからさっさと落ちろよ!」

 

 シンは沸騰するほどの怒りを感じていた。

 

 「さっさと落ちろだって!」

 

 今もミネルバはバビや撃ち込まれる攻撃で追い込まれている。

 

 あれでは艦の被害も相当なものだろう。

 

 あのままでは沈む。

 

 そんな事させるか!

 

 

 「―――ふざけるなァァァァ!!!」

 

 

 SEEDが弾ける。

 

 視界が開けると同時にシンはビームサーベルを構えてシグーディバイドに斬りかかった。

 

 「はあああああ!!」

 

 動きの変わったインパルスにヴィートは油断する事無く、誘導するようにビームライフルを撃ちかける。

 

 それらを構う事無くシンは突撃する。

 

 旋回しながらビームをやり過ごすと側面から横薙ぎにサーベルを斬り払う。

 

 殺った!

 

 シンはそう確信する。

 

 少なくとも損傷を与える事は出来たはず。

 

 しかし、放った斬撃が敵機を捉える事無く、空を切った。

 

 「なっ!?」

 

 かわした!?

 

 シグーディバイドは機体を沈みこませてシンの放ったサーベルを回避して見せたのだ。

 

 ヴィートが回避できた要因はいくつかある。

 

 機体の性能差やビームライフルでインパルスの動きを誘導し攻撃を予測しやすくしていた事、そしてヴィートの技量。

 

 これらが合わさってシンの斬撃をかわしきったのである。

 

 ヴィートはさらにインパルスの胴に蹴りを入れて引き離すと、その隙にベリサルダを構えて突っ込む。

 

 払うように叩きつけられた一撃が体勢を崩したインパルスの右足を斬り裂いた。

 

 「やっぱり流石だな。今ので仕留めるつもりだったんだけどな!」

 

 足だけで済んだのはまさにシンの技量の高さ故だ。

 

 並のパイロットでは先の一撃で終わっていたに違いない。

 

 「流石は特務隊ってことかよ!!」

 

 至近距離からのビームランチャーをバレルロールで避けながら思わず毒づく。

 

 そこでシンは気がついた。

 

 ミネルバ、アオイ共にかなり追い込まれている。

 

 特にミネルバは限界だ。

 

 援護に行かなければ落される!

 

 「くっそォォォォ!!!」

 

 胸中の焦りを吐き出すようにシグーディバイドに向けてビームライフルで狙撃する。

 

 だが引き離せない。

 

 このままでは―――

 

 その時―――ミネルバに付きまとっていたバビに対して何条かのビームが襲いかかった。

 

 「なんだと!?」

 

 バビの胴体を撃ち抜き撃墜したのはシグーディバイドと同じく翼をもったモビルスーツだった。

 

 しかしシンにはその機体見覚えがある。

 

 いや見覚えがあるどころか、自分の乗っているインパルスそっくりの機体だったからだ。

 

 そして覚えがあったのはデュルクやヴィートも同様だった。

 

 「あれはデスティニーインパルス!?」

 

 「隊長、なんであの機体が!?」

 

 「……前に実験機の内、一機が行方不明になったと報告が上がっている」

 

 「じゃあ、あの機体は行方不明になった機体ってことですか」

 

 ヴィートは突然現れた機体を睨みつける。

 

 あれさえ来なければミネルバは落とせていただろうに、邪魔な奴だ。

 

 そして追い込まれていたミネルバのブリッジでもバビを撃ち落とした機体を驚きながら見つめていた。

 

 味方なのか?

 

 追い込まれ徐々に絶望感が増していたブリッジにわずかに安堵の空気が流れる。

 

 そこに通信が入ってきた。

 

 「ミネルバ、聞こえているか?」

 

 「その声、アレン!? 宇宙に任務に行った筈のアレンが何でここに?」

 

 「話は後です! バビは俺が排除します、その間に離脱を!」

 

 「離脱と言ってもどこに」

 

 「二時方向へ!」

 

 「でもそちらは同盟の―――」

 

 「分かったわ」

 

 アーサーの言葉を遮って頷くタリアの姿を確認したアストはエクスカリバーで敵機を斬り裂く。

 

 デスティニーインパルスはビームライフルでバビを撃墜しながら、ミネルバ目掛けて撃ちこまれたミサイルをテレスコピックバレル延伸式ビーム砲塔で薙ぎ払った。

 

 アストはコックピットの計器を確認する。

 

 「アレだけでバッテリーをここまで消費するなんて、この機体、燃費が悪すぎるだろ!」

 

 かつての自身の愛機イレイズ以上だ。

 

 デスティニーインパルスは鹵獲した際にコックピット部分が破壊されていた。

 

 コアスプレンダーを通常のコックピットに交換、少しでもバッテリー消費を抑える為の改良とデスティニーシルエットの後ろの部分に予備バッテリーを搭載した。

 

 その改良を加えてこの状態では長期戦は圧倒的に不利である。

 

 さらに今インパルスやイレイズMk-Ⅱと交戦しているシグルドの面影を持つ新型の性能はかなりのもの。

 

 しかもミネルバの損傷は撃沈寸前まで追い込まれている。

 

 「急いで決着をつけなければ」

 

 背中の高機動スラスターを吹かせると刃を構えて敵機の迎撃に向った。

 

 極力他の火器は使わず、エクスカリバーのみで決着をつける。

 

 バビの放つビーム砲をスラスターを使って、次々に回避しながらエクスカリバーを振り抜いていく。

 

 「数が多い。だがミネルバはやらせない!」

 

 光の翼を展開して対艦刀を構えなおすと、そのまま敵部隊に突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 デスティニーインパルスの介入によってミネルバの状況は変化した。

 

 少なくともすぐに撃沈される事だけはなくなっただろう。

 

 だがアオイの状況は変わらず悪いまま、デュルクのシグーディバイドに追い詰められていた。

 

 撃ち放たれるビームに肩部の装甲が抉られる。

 

 「くそ!」

 

 アオイは機関砲でシグーディバイドを牽制しながら残ったネイリングとビームサーベルを構えて応戦する。

 

 放った斬撃がお互いを斬り裂こうと振るわれる。

 

 だがアオイの刃は敵機に届く事無く空を斬り、逆に敵の放った一撃がイレイズの右腕を斬り落とした。

 

 「ぐぅ!」

 

 「これだけの差がありながら、たった一機で良く持ちこたえた。見事だよ。しかしそれもここまでだ!!」

 

 デュルクはさらに機体を回転させ、薙ぎ払うように対艦刀を叩きつけ、イレイズの両足を斬り裂いた。

 

 さらに地面に向け蹴り入れて叩き落とす。

 

 「ぐあああああ!!」

 

 地面に落下した衝撃がアオイの体を襲う。

 

 痛みが全身に走る。

 

 直前でスラスターを吹かさなければ気を失っていたかもしれない。

 

 「う、うう」

 

 敵機はライフルを構えてこちらを見下ろしながら止めを刺そうとしてくる。

 

 ここまでなのか。

 

 せめてもの意地だ。

 

 最後まで敵から目を逸らさないとシグーディバイドを睨みつけた。

 

 地面に落下したイレイズの姿にシンは駆けつけようとする。

 

 「アオイ!?」

 

 「お前の相手は俺だろう!」

 

 シンもヴィートを振り切ろうとするが、焦ったのがまずかったのだろう。

 

 逆に肩部の装甲を斬り飛ばされてしまう。

 

 こちらも油断していたらやられる。

 

 集中しないと。

 

 しかし、このままではアオイが!

 

 イレイズに向けられたシグーディバイドのライフルのトリガーが引かれ様としたその瞬間―――新たな刃が降り立った。

 

 上空から物凄い速度で降りてきた一機のモビルスーツがシグーディバイドに向けて正確な射撃でビームを放つ。

 

 それに気がついたデュルクは機体を咄嗟に後退させるが、間に合わずライフルを捉えられ破壊されてしまう。

 

 「何!?」

 

 「また新手か!」

 

 アオイはその見た事も無い機体を見つめる。

 

 形状は自分達が乗っている機体とよく似ており、まさに『ガンダム』だった。

 

 背中にはゼニスストライカーと思われる装備が装着されている。

 

 あの機体はどこの機体なんだ?

 

 助けてくれたという事は味方なのか?

 

 《少尉、聞こえているか?》

 

 「その声、大佐!?」

 

 降りて来たのはネオの搭乗するエレンシアだった。

 

 そしてすぐに輸送コンテナらしきものが降りてくる。

 

 《どうにか無事のようだな。ならばあのコンテナの中にある機体に乗り換えろ》

 

 機体を乗り換えるという事は新しい機体か?

 

 いや、今は時間がない。

 

 疑問は後回しだ。

 

 「わ、分かりました」

 

 アオイはどうにか生き残っているイレイズのスラスターを使ってコンテナまで移動を開始する。

 

 その間にネオは新型に目を向けた。

 

 あの機体はどうやら相当の性能を誇るらしい。

 

 アオイがあそこまでやられる敵、油断はできない。

 

 「このエレンシアでどこまでやれるか、試させてもらう」

 

 ネオはビームサーベルを構えるとシグーディバイドに向けて斬りかかった。

 

 エレンシアの想像以上の速度に驚くデュルク。

 

 しかしすぐに思考を切り替え、向ってくる新型に対して応戦の構えを取った。

 

 ビームガトリング砲をエレンシアに向けて撃ち出す。

 

 ネオはそれらを機体を旋回させて回避すると、サーベルを横薙ぎに叩きつける。

 

 デュルクは敵機の性能を試すためにあえて受け止める選択をした。

 

 左腕を突き出し、ビームシールドを構えて防御する。

 

 だがエレンシアはそのままサーベルを押し込み、シールドごとシグーディバイドを弾き飛ばした。

 

 「このパワーは互角以上か!」

 

 しかも敵機はまるでこちらの動きを読んでいるのではと疑ってしまうほど正確に攻撃をかわしてくる。

 

 何度ビームを放っても掠める事も出来ない。

 

 「厄介な奴だ」

 

 デュルクはビームライフルからにベリサルダに持ち替えると、エレンシア目掛けて突撃した。

 

 

 

 

 何とかコンテナまで辿り着いたアオイはイレイズから降りて中に飛び込んだ。

 

 コンテナの中にあったのは一機のモビルスーツ。

 

 それは―――

 

 「ガンダム」

 

 GAT-X001『エクセリオンガンダム』

 

 オーブから奪取したSOA-05の実験データを基にして開発した機体。

 

 核動力を搭載し、背中には二基の高出力ウイングスラスターと同時に各部に設置されているスラスターのよって非常に高い機動性を持っている。

 

 武装もマシンキャノン、高エネルギービームライフルやサーベル、そして最大の武器である高エネルギー収束ビーム砲『アンヘル』。

 

 そして最大の特徴はW.S.システムと呼ばれるシステムを装備している事。

 

 『war area pilot information synthesis system』

 

 これは元々ローザ・クレウスが搭載しようとしていた、試作SEEDシステムを独自に発展させたもの。

 

 搭乗したパイロットの戦場での戦闘情報を収集、特性に合わせて機体調整や補正、支援を行うものでさらに学習プログラムも搭載されている。

 

 アオイは機体のコックピットに乗り込むとスペックを確認する。

 

 「凄い機体だ……俺に使いこなせるのか」

 

 いや、やらなければならない。

 

 ラルスの体の事もある。

 

 ルシアは大丈夫だと言っていたが無茶はさせられない。

 

 機体を起動させ、PS装甲のスイッチを入れると全体が色づいた。

 

 「アオイ・ミナト、エクセリオンガンダム、行きます!」

 

 ビームライフルでコンテナを破壊するとそのまま外に飛び出した。

 

 コンテナから現れた新たな機体にすべての者達が注目し動きを止める。

 

 「また新型か」

 

 「チッ、まずあいつから!」

 

 「待て、ヴィート!」

 

 インパルスから距離を取り、現れたエクセリオンに向かって斬りかかる。

 

 だがアオイも黙ってはいない。

 

 ここまでの借りを返す時だ。

 

 「行くぞ!」

 

 フットペダルを踏み込み、スラスターを吹かせると機体が凄まじい加速によるGがアオイに襲いかかる。

 

 「なんだよ、この加速は!?」

 

 スカッドストライカーやゼニスストライカーが可愛く見えるほどだ。

 

 「だが使いこなして見せる!」

 

 歯を食いしばりそのままさらに操縦桿を押し込む。

 

 機体を加速させたまま、ビームサーベルを構えると突っ込んで来たシグーディバイドに向けて横薙ぎに振り抜いた。

 

 すれ違う二機。

 

 煌く一瞬の斬撃がシグーディバイドのベリサルダを破壊していた。

 

 勝ったのはアオイの方だった。

 

 「な、何だと!?」

 

 驚くヴィート。

 

 だが驚いていたのはアオイもまた同じであった。

 

 物凄く動かしやすい。

 

 まるでこちらが操作する前に準備が完了しているような感覚だ。

 

 これならやれる!

 

 「調子に乗るなぁ!」

 

 エクセリオンに対してビームライフルで攻撃してくるシグーディバイド。

 

 アオイは振り向きざまにシールドを展開して防御すると高エネルギー収束ビーム砲『アンヘル』を構えて撃ち出した。

 

 「いけぇぇ!!」

 

 砲口から凄まじいばかりの閃光が撃ち出されシグーディバイドに襲いかかる。

 

 シールドを展開して防御しようとするヴィート。

 

 「これ以上好きにさせるかぁ!!」

 

 だがそこに追いついてきたインパルスがライフルを構えてビームが撃ち込んだ。

 

 「こいつ!」

 

 機体を上昇させ、インパルスのビームを避ける事には成功するが、タイミングを見計らったように撃ち込まれたアンヘルの一撃がシグーディバイドの右腕を防御の間もなく吹き飛ばした。

 

 「ぐあああ! くそ、お前ら!」

 

 残った左手でビームサーベルを構える。

 

 「このままでは済まさない!」

 

 エクセリオンに攻撃を仕掛けようとしたヴィートだったがそこに制止する声が届いた。

 

 「退くぞ、ヴィート」

 

 「隊長!? ですがアオイ・ミナトも抹殺出来ず、ミネルバもまだ!!」

 

 「これ以上は無理だ。ミネルバの方もデスティニーインパルスの妨害で上手く行っていないようだからな」

 

 「後一歩というところで!」

 

 ヴィートはコンソールを殴りつけると歯噛みする。

 

 次こそは!

 

 そのまま二機は同時に地面に向けビームキャノンを撃ち込んで爆煙をまき散らすとそれに紛れて後退を開始した。

 

 それに合わせて他の部隊も撤退していく。

 

 「はぁ、何とかなったか」

 

 アオイは退いて行く敵をモニターでながら安堵のため息をつく。

 

 こちらの部隊も後退出来たようだし、良かった。

 

 でもあの敵の口ぶりからすると、狙いは俺だったようだから母艦はどうでも良かったのかもしれない。

 

 だけど何で―――

 

 「少尉、我々も撤退するぞ」

 

 「あ、はい」

 

 ネオと共に撤退しようとするアオイだったが、近くにいたインパルスに声を掛ける。

 

 彼のおかげで先程は助かったのだ。

 

 礼くらいは言いたい。

 

 「シン、さっきは助かった、ありがとう」

 

 「え、ああ、いや」

 

 声に覇気がない。

 

 それも当たり前か。

 

 どんな理由があったのかは知らないが、裏切られたも同然なのだから。

 

 礼は言ったし、彼らにも事情はある筈だ。

 

 これ以上の長居は無用だろう。

 

 エクセリオンを反転させようとした時、シンから声が掛かる。

 

 「アオイ」

 

 「なんだ?」

 

 「お前に言っておく事がある」

 

 そこでシンから告げられたのはアオイにとって完全に予想外のことだった。

 

 「……ステラは生きてる」

 

 

 

 

 

 

 『エンジェルダウン作戦』が終了したフォルトゥナはジブラルタルに帰還していた。

 

 そこで特務隊からの報告を聞きいたヘレンは拳を握りしめる。

 

 後一歩のところまで追い詰めていながら、任務失敗とは情けない。

 

 さらに見た事も無い新型と行方不明になっていた実験機が現れ妨害したとか。

 

 完全に予想外だった。

 

 こちらの作戦はほぼ上手く行ったというのに。

 

 とはいえデュランダルへ報告しない訳にはいかないだろう。

 

 「失礼します」

 

 ヘレンがデュランダルに執務室に入ると鋭く睨む視線が彼女を出迎えた。

 

 だが彼女は怯む事無くデュランダルの前に立つ。

 

 「ヘレン、色々あったようだが、報告してもらいたいな」

 

 「……はい」

 

 そのまま報告を始め、すべてを終えた時、デュランダルはため息をついた。

 

 「フリーダム撃墜は間違いなし、アークエンジェルは逃げ延びた可能性がある。まあこれはいい。作戦は成功と言えるだろう。だが問題はこちらだな。何故ミネルバを攻撃するように指示を出した? 私は様子を見ろと言ったはずだが」

 

 「お言葉ですが、ミネルバにはI.S.システムについてやセリスの事に関しての不確定要素が多すぎます。ここで消してしまった方が後々の為には良いと判断しました」

 

 ヘレンの言葉にデュランダルは眉一つ動かさず静かに聞いている。

 

 「それにフォルトゥナやジェイル・オールディスがきちんと機能している以上もはや彼らは必要ありません」

 

 元来フォルトゥナはミネルバの、そしてジェイルはシンの予備として存在していた。

 

 その彼らがミネルバやシンがこなす筈だった役割を担えるなら確かに彼らは不要となる。

 

 「それとも個人的な感情からミネルバを切りたくないとでも?」

 

 「……何のことかな。それは分かった。しかしアレンの件は流石に性急過ぎたと言わざる得ないな」

 

 アレンの乗る輸送艦の情報をテタルトスに流したのもヘレンである。

 

 元々彼の存在を疑っていた彼女はアレンをミネルバから引き離し、そのまま排除しようとしたのである。

 

 「何故彼に拘るのですか?」

 

 「彼にはしてもらわないといけない事があった。ユリウス・ヴァリスを殺す役目を」

 

 デュランダルはテタルトスこそ最大、最後の敵だと捉えていた。

 

 そして最高のコーディネイターに対するカウンターとして誕生した彼、ユリウス・ヴァリスは最大の障害になる。

 

 勝てる可能性のある者は極端に限られているのだ。

 

 テタルトスを打倒するにはユリウスは絶対に倒さねばならない男。

 

 だからこそ同じくカウンターのアレンが必要だった。

 

 「まあいい。ジェイルやセリス、デュルク達もいる。対抗は出来るかもしれない」

 

 それでも万全とはいえないが、それは今後考えよう。

 

 最悪の場合、『彼女』を使えば良い。

 

 できれば避けたい所ではあるが。

 

 それよりも今はアオイ・ミナトの抹殺とヘブンズベースを落とす方が優先である。

 

 「もう二つほど報告があります。地球軍のエクステンデットの処置が完了しました。手こずらされましたが、クロードが手に入れてきたデータのおかげで処置は問題なく済みました」

 

 「そうか、もう一つは?」

 

 「はい、新たなサンプルが二名程手に入りました。まあ一名は重傷、もう一名は軽傷ですが、両名とも命に別条はありません」

 

 デュランダルは笑みを浮かべると頷いた。

 

 「分かった。君に任せるよ」

 

 「はい、宇宙のラボに運んでおきます」

 

 退室していくヘレンの背を見ながらデュランダルは次の事に向けた考えをまとめ始めた。




時間が無くてなかなか上手く書けませんでした。後で加筆修正します。

機体紹介2更新しました。

エレンシアのイメージは……なんだろう。背中の部分を除いてウイングガンダムかな。
エクセリオンはウイングゼロですね。
こんな名前なのは単純に思いつかなかったからです。


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