機動戦士ガンダムSEED effect   作:kia

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第34話  天使、堕ちる

 

 

 デストロイによる進撃が始まる少し前。

 

 宇宙に上がったアレンは輸送艦と共にプラントに向かっていた。

 

 今回彼が宇宙に上がったのはデュランダルからの勅命であるテタルトス新型機運用試験を調査するためだ。

 

 資料によれば偶発的な戦闘で接触したテタルトスの新型はかなりの高性能だったらしい。

 

 その報告が確かならば、調査も必要にはなるだろう。

 

 しかし疑問も残る。

 

 この任務は宇宙にいる他の特務隊員でも可能な筈。

 

 余裕が無いミネルバに増員もせず、アレンに任務を通達してくるとはデュランダルは何を考えているのだろうか?

 

 真意は分からない。

 

 だがこの状況ではもしもの事を考えていた方が良いかもしれない。

 

 エクリプスのコックピットで端末を操作していると、コンコンと叩く音が聞こえた。

 

 「アレン隊長、少しよろしいですか?」

 

 彼らの立場からすれば仕方がないというのは分かってはいる。

 

 元々階級での呼ばれるのに慣れていなかった事もあるが、どうもそう呼ばれるのはしっくりこない。

 

 苦笑しながらもコックピットを開け、外に出ると兵士が敬礼して待っていた。

 

 「何だ?」

 

 「実はブリッジから報告がありまして、前方にモビルスーツの残骸らしきものが浮遊していると」

 

 「このあたりで戦闘があったのか?」

 

 「いえ、そのような報告は入っていません」

 

 テタルトスだろうか。

 

 しかし渡された資料では別の場所で運用試験が行われているらしいと記載されていた。

 

 だがこのあたりでも奴らは動いているのかもしれない。

 

 だとしたら不味い。

 

 この艦には戦力と呼ばれるものはエクリプスと数機の護衛のみ。

 

 襲われればひとたまりも無い。

 

 厳密にいえばもう一機、戦力はある。

 

 だが搭乗できるパイロットがいないのでは無いのと同じだ。

 

 アレンは輸送艦の格納庫に佇む機体を見上げた。

 

 そこに立っていたのはクレタ沖で回収したガイアだった。

 

 輸送艦は回収したガイアをプラントに向けて運んでいるのであり、アレンはあくまでもついでに乗せてもらったに過ぎない。

 

 とにかくここを進むのは危険。

 

 進路を変更すべきだ。

 

 アレンが進路変更を指示しようとした瞬間、輸送艦に大きな爆発音と共に激しい震動が起きる。

 

 「な、なんだ!?」

 

 動揺する兵士を尻目に、エクリプスのコックピットに飛び込むと通信機のスイッチを入れた。

 

 「何があった!?」

 

 《敵襲、テタルトスです!!》

 

 「……遅かったか」

 

 アレンはパイロットスーツを着ると出撃の為にエクリプスを起動させる。

 

 「俺が敵を引きつける。その間に輸送艦は離脱しろ!」 

 

 《しかし、それではアレン隊長が……》

 

 「命令だ!」

 

 格納庫にいる者達を退避させ、ハッチを開くと宇宙に飛び出す。

 

 宇宙に出たアレンの前にはジンⅡやフローレスダガーといった機体が待ち構えていた。

 

 だがそれだけではない。

 

 新型であるリゲルと見覚えのある機体が数機。

 

 「あれは―――」

 

 色は違うが前にユリウスが搭乗していた機体、シリウスだった。

 

 どうやらあの機体を量産したらしい。

 

 周囲に視線を走らせる。

 

 「数も多いが、輸送艦をやらせる訳にはいかない!」

 

 エクリプスシルエットのスラスターを吹かし、敵部隊に向かっていく。

 

 ジンⅡやフローレスダガーの射撃をかわしながら、ライフルのトリガーを引いた。

 

 ビームが正確にジンⅡの胴体を撃ち抜き、背中のエッケザックスをフローレスダガーに袈裟懸けに叩きつけた。

 

 対艦刀の刃が機体の装甲を裂き、致命的な損傷を受けたフローレスダガーは大きく爆散した。

 

 同時にビームライフルを連続で撃ち込んで敵部隊を牽制していく。

 

 だが敵は怯まずエクリプスに向けてビームやミサイルで攻撃を仕掛けてきた。

 

 アレンはフットペダルを踏み込み、機関砲でミサイルを迎撃しながら攻撃を捌いていく。

 

 「鬱陶しい砲撃だな!」

 

 機体を加速させ、敵機の懐に飛び込むとエッケザックスを振り下ろし、バーストコンバットを構えるジンⅡを両断した。

 

 砲撃能力の高い機体を狙って撃墜していくアレンだったが表情は険しい。

 

 連続で撃ち込まれる砲撃や敵の数の事もあるが、それだけではない。

 

 この状況に違和感のようなものを覚えていたのだ。

 

 偶然遭遇したにしては明らかに数が多い。

 

 これは―――

 

 隙を見て背後に回り込んだシリウスのビーム砲を上手く潜り抜けサーベラスを跳ね上げてトリガーを引く。

 

 激しい閃光が砲口から発射され、シリウスの胴を貫くとと大きな光の輪となった。

 

 「迂闊なんだよ」

 

 アレンは敵機の迂闊さに苛立ちながら吐き捨てる。

 

 しかしそこに別方向の爆発による閃光を確認する。

 

 「輸送艦が向かった方……別動隊か!?」

 

 アレンは輸送艦の方を睨みつけた。

 

 やはり間違いない。

 

 テタルトスはここで輸送艦を待ち伏せをしていたのだ。

 

 誰かが情報を漏らした?

 

 一体誰が、何の為に?

 

 「ッ!?」

 

 考え込むアレンにロングビームサーベルを構えて斬りかかってくるのは新型のリゲルだ。

 

 「確かに情報通り速い!」

 

 リゲルが上段から振り下ろしてきたロングビームサーベルを機体を逸らして回避、エッケザックスを振り上げ腕ごと斬り落とす。

 

 さらにモビルアーマー形態でビームキャノンを放ちながら突っ込んできたリゲルの背後に回り込む。

 

 「いくら速かろうと!」

 

 ビームライフルでウイングを破壊、バランスを崩した所を踏み台にして、輸送艦の方へ向おうと反転する。

 

 あの爆発では撃沈されてしまったかもしれないが―――

 

 「放ってはおけない」

 

 邪魔する機体を一蹴すると、フットペダルを踏み込んで機体を加速させた。

 

 しかしそんなエクリプスの進路を阻むように一機のモビルスーツが立ちふさがる。

 

 イージス似た造形を持つ機体、ガーネットだった。

 

 「また、お前か。アスラン・ザラ」

 

 「……アスト・サガミ」

 

 アレックスはエクリプスを睨みつける。

 

 テタルトスは前の戦闘で『アトリエ』の襲撃しデータの一部を入手した。

 

 ただし爆発の影響か一部損傷があり、解析には時間が掛かると報告を受けた。

 

 ならば時間は無駄にできないと解析が終わるまでの間『アトリエ』と同じようなザフトの施設を探索し始めたのである。

 

 あのような施設が一つしかないとは思えなかったからだ。

 

 そんな彼らの元に匿名でザフトの輸送艦に関する情報が入ってきたのである。

 

 もちろん罠の可能性が高いのは承知の上。

 

 何かしら手掛かりくらいは得られるかもしれないと考えたのだ。

 

 それがまさかアスト・サガミの機体を遭遇するとは思っていなかった。

 

 「丁度良い。ここで決着をつけてやる! 聞きたい事もあったしな!!」

 

 「チッ」

 

 アレンはシールド三連ビーム砲を上昇して回避するとビームライフルを撃ち込んだ。

 

 アレックスはシールドを使ってビームを弾くと移動するエクリプス目掛けてライフルを発射する。

 

 「今日こそは!」

 

 「お前に構っている暇はない!」

 

 お互いのビームが機体を掠め、装甲に傷を作っていく。

 

 そして二人は接近するとほぼ同時にビームサーベルを敵に向けて叩きつけた。

 

 サーベルの光刃が煌き、敵機を斬り裂こうと軌跡を描く。

 

 エクリプスが袈裟懸けに振るった一撃を受け止め、ガーネットはサーベルを横薙ぎに振るう。

 

 アレンはそれを後退してやり過ごすと、サーベラスを放った。

 

 「お前が何でザフトにいる!?」

 

 サーベラスのビームを潜り抜け、ガーネットが懐に飛び込むと下段からサーベルを斬り上げる。

 

 「またそれか……お前に何の関係がある?」

 

 アレンは下からの斬撃をシールドを使って弾き、逆に上段からビームサーベルを振り下ろした。

 

 「……答える気はないか。なら質問を変えてやる。『アトリエ』と呼ばれるザフトの研究施設。それと同じ様な施設はどこにある?」

 

 『アトリエ』?

 

 確かデュランダルの研究施設の名前だった筈。

 

 アレンは名前は知っているが、詳細は知らない。

 

 もちろん同じ様な研究施設など知る筈も無い。

 

 だがそれをわざわざ目の前にいる奴に答えてやる義理はない。

 

 「敵であるお前に答えると思うか?」

 

 「……そうか。ならば彼女達には悪いが、ここで終わりにするだけだ!!」

 

 エクリプスの一撃をシールドで逸らしながら、アレックスは決着を着ける為に勝負に出た。

 

 スラスターを吹かせ、両足のビームサーベルを構えて斬りかかる。

 

 「はあああああ!!」

 

 縦横無尽の斬撃がエクリプスに向けて襲いかかった。

 

 アレンはシールドを構えて、左右からの剣撃を何とか捌くが、アレックスは動きを止めない。

 

 「このまま一気に押し切る!」

 

 しかしここでアレンは意外な行動に出た。

 

 ガーネットをシールドで突き放し距離を取ると、反転したのである。

 

 「どこに?」

 

 そこで気がついた。

 

 エクリプスが向ったのは輸送艦がいた方向だった。

 

 「援護に向かう気か! 行かせると思うか!」

 

 あの方向には彼女がいる。

 

 奴を行かせる訳にはいかない。

 

 シールドの先端をエクリプスに向けて三連ビーム砲を撃ち出す。

 

 撃ち出されたビームがエクリプスに迫る中、アレンは背を向けたまま操縦桿を動かし、機体を旋回させて攻撃を回避する。

 

 「チッ!」

 

 ターゲットをロックしてトリガーを引くとシールドの先端から何条もの閃光が撃ち出される。

 

 だが、捉えられない。

 

 何度撃とうが、完璧に回避され、掠める事もできない。

 

 歯を食いしばるアレックスだったが、エクリプスの正面から別の機体が近づいてきた。

 

 セレネのバイアラン・クェーサーである。

 

 彼女の部隊は例の輸送艦の方へ向かわせていた。

 

 アレックスが一気に決着をつけようとしたのは、アレンを彼女に近づけたくなかったからだ。

 

 「アレックス!」

 

 「セレネ!? 離れろ! こいつは―――」

 

 「大丈夫です!」

 

 左腕のビーム砲を撃ちながら、ビームサーベルを抜くとセレネはエクリプスの正面から斬り込んだ。

 

 「また新型か!?」

 

 しかもかなり速い。

 

 アレンは逆袈裟に振るわれるビームサーベルを機体を逸らして避ける。

 

 だがバイアランは逃がさないとばかりにもう一方の腕からビームサーベルを抜き今度は逆方向から横薙ぎに振るってきた。

 

 「くっ、こいつもかなりの腕前か」

 

 エース級と言って差し支えない動き。

 

 アレンは繰り返し振るわれる斬撃を潜り抜け、バイアランに体当たりして体勢を崩すとエッケザックスで左腕を斬り飛ばした。

 

 「きぁあああ!!」

 

 「セレネ!!」

 

 腕を斬り落とされたバイアランの姿を見たアレックスの脳裏に過去の情景が思い浮かぶ。

 

 オーブ沖の決戦においてカールが殺された時の事を。

 

 また同じように守れないのか?

 

 また奴に奪われるのか?

 

 ふざけるな!

 

 俺はもう負けない!!

 

 もう絶対に――――

 

 

 「奪わせるかァァァァァァ!!!!」

 

 

 アレックスのSEEDが弾けた。

 

 全身を包む感覚に身を委ね、アレックスは咆哮する。

 

 

 「おおおおおおおお!!!」

 

 

 エクリプスに向け左足を蹴り上げた。

 

 完璧なタイミングでの奇襲である。

 

 だがアレンは驚異的な反応で左足の一撃をシールドを使って受け流し、エッケザックスを横薙ぎに振るい反撃を試みる。

 

 しかし今回はアレックスの方が速かった。

 

 ガーネットが上段から叩きつけた斬撃がエッケザックスを半ばから叩き折り、さらに蹴り上げた右足がエクリプスの左胸部を大きく抉る。

 

 アレンはその衝撃を呻くように噛み殺す。

 

 「ぐっ、この動きはSEEDか」

 

 体勢を崩したエクリプスにさらにビームサーベルが迫る。

 

 アレンはガーネットに折られたエッケザックスを投げつけ、その隙に逆手で抜いたサーベルを敵の攻撃タイミングに合わせて斬り上げた。

 

 「ッ!?」

 

 煌く一瞬の斬撃。

 

 だがアレックスは機体を横に流して回避して見せた。

 

 エクリプスの斬撃はガーネットの装甲を傷つけながらも致命傷には至らない。

 

 しかしアレンもそのまま当たるとは思っていなかった。

 

 今のはあくまでも体勢を崩すための一撃である。

 

 そのまま背中のサーベラスを跳ね上げガーネットに向けて狙いをつけた。

 

 おそらくこれでも奴はかわしてみせるだろう。

 

 アレンも敵の技量をきちんと理解していたからこそ分かる。

 

 それでもこちらの体勢を立て直す時間くらいは取れる。

 

 だがここでアレンの予想を上回る出来事が起こった。

 

 左腕を失ったバイアランである。

 

 セレネの目からでも敵の技量が尋常でない事はよく分かった。

 

 もしかするとその力はアレックスを上回っているかもしれない。

 

 このままでは多くの味方が倒され、彼は再び傷つくだろう。

 

 セレネは知っている。

 

 人一倍優しい彼はいつも失ってしまった仲間達の事で涙しているのを。

 

 もう彼にあんな思いはさせたくない。

 

 彼を守りたくて―――力を手にしたのだから。

 

 だから―――

 

 

 

 「私が―――守ります!!」

 

 

 

 決意と共にセレネのSEEDが弾けた。

 

 今まで感じた事のない感覚が全身に駆け廻る。

 

 その勢いに任せ、ビームサーベルを抜いて斬りかかる。

 

 サーベラスを構えていたアレンは虚を突かれ、反応が遅れてしまった。

 

 これが普通のパイロット相手ならどうにでもなっただろう。

 

 だが相手がSEEDを発動させていた事は完全な誤算であった。

 

 エクリプスは機体を傾けて回避運動を取るが、遅かった。

 

 バイアランの放った斬撃がサーベラスの砲身を捉えると斬り裂かれ破壊されてしまう。

 

 「何!?」

 

 「これで!!」

 

 さらにバイアランはエクリプスの胴目掛けて蹴りを叩き込む。

 

 アレンはシールドで蹴りを防御するが衝撃を防ぐ事は出来ず、バランスを崩されてしまう。

 

 何とか体勢を立て直そうとするが、そこにガーネットがビームサーベルを構えて迫ってきた。

 

 「落ちろぉぉ!! アスト・サガミィィ!!」

 

 アレンは思わぬ状況に舌打ちする。

 

 まさかあバイアランのパイロットまで『SEED』を使ってくるとは予想外だった。

 

 「だからと言ってやられる訳にはいかない!」

 

 アレンも『SEED』を発動させる。

 

 「はあああああ!!」

 

 「これで倒します!!」

 

 両側から挟むようにビームサーベルでエクリプスを攻撃する二機だったが、今度は先ほどのようにはいかなかった。

 

 剣閃はエクリプスによって容易く捌かれた。

 

 同時にバイアランはシールドで殴りつけられ、ガーネットは回し蹴りで吹き飛ばされる。

 

 「何!?」

 

 「くぅぅ!?」

 

 二機の体勢を崩したアレンは即座にビームサーベルをガーネットに振り抜いた。

 

 もちろんアレックスも黙っていない。

 

 体勢を崩しながも、応戦する。

 

 右腕のサーベルをエクリプスに振り上げた。

 

 交差する両機。

 

 すれ違い様にサーベルが煌き、軌跡を作ると同時に一方の腕が飛んだ。

 

 腕が無くなっていたのはガーネットの方。

 

 右腕が半ばから斬り飛ばされていた。

 

 さらにエクリプスはガーネットの背後からビームサーベルを横薙ぎに振るい、スラスターを深く斬りつけ破壊する。

 

 「ぐぅぅ、まだぁぁぁ!!」

 

 アレックスはスラスターを破壊された衝撃に耐えるとシールドを捨て、左手でサーベルをエクリプス目掛けて振り抜く。

 

 その一撃がエクリプスの腹部を裂いた。

 

 「流石だな、アスラン―――ッ!?」

 

 「まだです!」

 

 側面からバイアランが突撃してくる。

 

 横薙ぎに振るった斬撃がエクリプスのシールドを弾き飛ばした。

 

 これでエクリプスはこちらの攻撃を防御できない。

 

 あの機体を倒すチャンスだ。

 

 セレネはエクリプス目掛け、連続で左右からビームサーベルを叩きつける。

 

 SEEDを発動させた彼女の一撃は鋭く速い。

 

 だがまだだ。

 

 アレンは冷静に機体を沈み込ませて回避、バイアランの腕を右手で弾くと頭部にサーベルを突き刺した。

 

 「きゃああ!」

 

 「くそ、セレネェェ!!!」

 

 ガーネットはスラスターを破壊され殆ど動かない。

 

 バイアランもメインカメラを破壊されてしまいどうにもならない。

 

 このままでは―――

 

 しかし余裕がないのはアレンも同じであった。

 

 コックピットでは今も警報が鳴り続けている。

 

 バッテリー残量が少なくなってきたのだ。

 

 武装も消耗した上に、これ以上の戦闘は厳しい。

 

 「退くしかないか」

 

 後退する為に動こうとした、その時だった。

 

 アレンにあの感覚が駈け巡る。

 

 「これは―――」

 

 全身が強張った。

 

 間違いない、奴が来る。

 

 アレンがその方向を見た瞬間、青紫の機体が凄まじい速度で突っ込んできた。

 

 「くっ、速い!」

 

 とても今の状態では逃げきれない。

 

 つまり迎撃以外の選択は残っていなかった。

 

 奴を相手に今の機体でどこまでやれるか。

 

 そう考えていたアレンの前に突っ込んで来た機体が停止する。

 

 「新型か」

 

 目の前の見た事も無い機体を睨みつける。

 

 「……あの機体は」

 

 アレンは目の前の機体と似た機体を見た覚えがある事に気がついた。

 

 造形に違いはあるが、前大戦の最終決戦で奴が搭乗していたものに良く似ていた。

 

 LFSA-X004『グロウ・ディザスター』

 

 名の通りザフト最強の機体であったディザスターをさらに強化、発展させた機体。

 

 その性能は通常の機体を遥かに凌駕しており、当然ユリウス以外は操縦できないほどである。

 

 「久ぶりだな、アスト」

 

 「……ユリウス・ヴァリス」

 

 聞こえてきたのはやはり奴、ユリウス・ヴァリスの声だった。

 

 アレンは最強であり、兄のような存在でもある男が搭乗している機体を睨みつけた。

 

 この損傷とバッテリー残量では、圧倒的に不利。

 

 何とか打開策を見出さなければ。

 

 「戦場では一度お前を見かけていたが、中々話す機会も無くてな」

 

 グロウ・ディザスターはビームライフルをゆっくりエクリプスに向けて構えるとトリガーを引いた。

 

 アレンは機体を上昇させビームを何とかやり過ごす。

 

 こちらもビームライフルを撃ち込むがグロウ・ディザスターは余裕で避けてみせた。

 

 「くそ!」

 

 エクリプスはビームライフルで牽制しながらスラスターを使って後退を始める。

 

 しかし距離を離すどころかすぐに追いつかれてしまった。

 

 グロウ・ディザスターは余裕すら感じる優雅な動きでビームサーベルを振り下ろしてきた。

 

 「ザフトに入ったという事はあの時の忠告を素直に聞いたらしいな」

 

 「くっ」

 

 アレンはアレックスが捨てたガーネットのシールドを拾うと、グロウ・ディザスターの斬撃を受け止める。

 

 だが、押し込まれ受け止めきれない。

 

 「防御しきれないのか!?」

 

 グロウ・ディザスターのビームサーベルがシールドごとエクリプスを押し込み、左腕があっさり破壊されてしまう。

 

 「礼くらい言ったらどうだ?」

 

 「ぐっ、黙れ!」

 

 アレンが―――いや、アストがザフトに入隊した理由の一つ。

 

 それはユリウス・ヴァリスの忠告があったからだ。

 

 前大戦の最終決戦の地、宇宙要塞ヤキン・ドゥーエ。

 

 あの場で最後にユリウスはアストにこう言ったのである。

 

 ≪一つだけ教えておいてやる。これで終わりではない。むしろこれを切っ掛けに始まると言っていい≫

 

 ≪どういう意味だ?≫

 

 ≪知りたければプラントを―――ギルバート・デュランダルを調べてみるんだな。奴はこの戦争を切っ掛けに何かをするつもりらしいからな≫

 

 ≪ギルバート・デュランダル≫

 

 ≪そしてもう一つ。プラントには俺達と同じような存在がいる≫

 

 ≪なっ!?≫

 

 ≪その気があるなら迎えにいってやるといい≫

 

 アレンは過去の情景を振り払うようにビームライフルでグロウ・ディザスターを狙うが回避されてしまう。

 

 敵機の攻撃をどうにか避けながら、デブリの浮かんでいる方向を目指して移動する。

 

 あそこまでたどり着ければ。

 

 そんなアレンをユリウスはどこか楽しそうに見つめながらビームライフルを構え、エクリプスの回避先を読んで狙撃する。

 

 「ぐっ」

 

 思いっきりペダルを踏み込み、急下降すると今までエクリプスがいた空間をビームが薙ぐように通過した。

 

 「流石だな、アスト」

 

 「何故俺にあんな事を教えた?」

 

 「さあ。単にデュランダルが嫌いだからかな」

 

 グロウ・ディザスターのビームが連続で撃ち込まれ、機体に傷を作っていく。

 

 こんな状態で撃墜されていないのは、ユリウスが全く本気を出していないからだ。

 

 「ふざけるな!」

 

 「ふざけてはいない。本心だ」

 

 ユリウスは背中のドラグーンを一基射出すると側面からエクリプスを狙撃して右足を吹き飛ばす。

 

 「反応が鈍い! これでは……」

 

 操縦桿を動かすが機体の挙動が鈍い。

 

 今までの損傷が響いているのだろう。

 

 とてもではないがユリウスの相手をしながらドラグーンを処理する余裕はない。

 

 だがユリウスはそんなこちらの事情など考慮する筈もなかった。

 

 「そんなもので!」

 

 ディザスターは一気に距離を詰めビームサーベルを一閃、エクリプスシルエットの羽根を斬り飛ばし、蹴りを入れて吹き飛ばした。

 

 「ぐああ! くそ―――ッ!?」

 

 アレンの目に入ったのはグロウ・ディザスターの近くに浮いているデブリだった。

 

 「あれしかない!」

 

 背後から迫るドラグーンにエクリプスシルエットの一部を破壊され、体勢を崩されながらもアレンは近くのデブリに向けビームライフルを撃ち込んだ。

 

 撃ち抜かれたデブリは砕け、周囲の飛び散るとグロウ・ディザスターの進路を阻んだ。

 

 アレンはその隙に生きているスラスターを使い、他のデブリに紛れて後退する。

 

 それを見たユリウスはあえて追わず、エクリプスを見送った。

 

 「ふっ、今日はここまでだな。新型のテストにもなったし、十分だろう」

 

 「大佐!」

 

 「無事か、アレックス、セレネ?」

 

 「はい」

 

 「大佐、奴を―――」

 

 「退くぞ。特にガーネットはかなり酷い状態のようだ」

 

 ガーネットは装甲も落ちてメタリックグレーに戻ってしまっている。

 

 特に背中のスラスターはかなりの損傷だ。

 

 動くこともままならないだろう。

 

 「セレネ、お前の機体は?」

 

 「はい、戦闘は無理ですが、動かすくらいなら問題ありません」

 

 「良し、ガーネットを連れて帰還しろ。輸送艦の方は?」

 

 「確保しています」

 

 「なら他の部隊にも撤退命令を出せ」

 

 「了解」

 

 セレネの返事に頷くと一瞬エクリプス逃げた方を見て笑みを浮かべユリウスもまた母艦のエウクレイデスに帰還した。

 

 

 

 

 デブリの間を縫うように移動するアレンはため息をつく。

 

 機体は酷い状態だった。

 

 VPS装甲は落ち、武装もほとんど失ってしまった。

 

 コックピットには今も異常を知らせる警告音が鳴り響いている。

 

 「上手く逃げられたというか、逃がしてくれたって事か」

 

 少々腹立たしいが、見逃してもらえたのならば今は良しとしよう。

 

 撃沈された輸送艦のクルー達には申し訳ないが、このままプラントに辿り着くのは無理である。

 

 少し早かったが、連絡を入れていたのは丁度良かったかもしれない。

 

 しばらくデブリの間を移動していくと、エクリプスのレーダーに反応がある。

 

 そこには懐かしい形状をした戦艦が待機していた。

 

 どうやら向うもこちらを見つけたらしく、通信が入ってくる。

 

 《久しぶりだね》

 

 茶髪と優しげな笑みは変わっていない。

 

 「久ぶりというか、前に戦場で会っただろう」

 

 《こうして話のは久ぶりじゃないか》

 

 懐かしい会話に思わず笑みが零れる。

 

 アレンは―――いや、アストはヘルメットを取るとモニターに向けて笑みを浮かべた。

 

 「久しぶりだな、キラ」

 

 《うん、お帰り、アスト》

 

 

 

 

 

 現在アークエンジェルは敵部隊の奇襲を受けていた。

 

 スカンジナビアでラクスを降ろしたアークエンジェルはそこでオーブからの帰還命令を受けていた。

 

 本国も例の宣言の為にバタバタしていたらしいが、アークエンジェルを帰還させて情報を集約したいらしい。

 

 命令を受けたアークエンジェルはオーブに向けて発進した。

 

 しかし航行していた所に待ち伏せしていた敵による襲撃を受けたのである。

 

 「くっ、こんな場所で襲撃なんて」

 

 「ムウさんはアークエンジェルの方を!」

 

 「分かった!」

 

 エンジンを吹かせ移動していくアークエンジェル。

 

 その上空からのミサイルが連続で叩き込まれ、艦全体が大きく揺れた。

 

 空中を動き周り、攻撃してきているのはバビと呼ばれる機体である。

 

 AMA-953『バビ』

 

 ディンの後継機として開発された空戦用モビルスーツ。

 

 ディンに比べると重武装、重装甲であるが、強力な推力で同等の機動性を持っている機体である。

 

 そう―――つまり襲撃してきているのはザフトであった。

 

 別にザフトが攻撃を仕掛けてくる事は不思議なことではない。

 

 交渉は続けているらしいが、未だ同盟とプラントは戦争状態なのだから。

 

 ザフト迎撃の為、出撃していたマユは飛び回り攻撃を加えてくるバビをビームサーベルで斬り捨てる。

 

 そんなフリーダムを援護する為、レティシアは背後に回り込んだバビを機関砲で牽制しながら、対艦刀を振り抜き両断。

 

 ビームライフルを撃ち込み、サーベルや斬艦刀で斬り伏せていく。

 

 しかし敵の数は減らずアークエンジェルの進路上に次々とミサイルが撃ち込まれていく。

 

 「くっ、数が多い!」

 

 「ミサイルは俺に任せて敵機の迎撃に集中するんだ!」

 

 「「了解!」」

 

 ムウのセンジンが背中のアータルでミサイルを撃ち落としていく。

 

 だが数が多い為かすべて迎撃はしきれていない。

 

 ならばまずは敵機の数を減らす方が先。

 

 マユはバビを一斉にロック。

 

 全砲門を構え、フルバーストモードで一気に敵を薙ぎ払う。

 

 放たれた何条もの砲撃が正確にバビに突き刺さり、次々と撃ち落としてしていく。

 

 奮戦するマユ達と同じ様にアークエンジェルのブリッジでも同じように対応に追わていた。

 

 「海岸まで持たせて、海中に潜れば逃げられるわ!」

 

 「了解!」

 

 「コリントス撃てぇ!!」

 

 アークエンジェルから発射されたミサイルがバビに直撃する。

 

 だが休む間もなくすぐさま別のバビにより放たれたビームが艦を大きく揺らした。

 

 もう少しで海岸だ。

 

 そこまで行けば―――

 

 しかしそこでアークエンジェルのCICが新たな敵影を確認する。

 

 「あれは……ミネルバ? いえ、同型艦?」

 

 

 

 アークエンジェルを捕捉したフォルトゥナのブリッジではヘレンが指揮を執っていた。

 

 手元の端末を操作するとパイロット達が待機している部屋へ繋ぐ。

 

 「貴方達、準備はいいわね?」

 

 《こっちは問題ないぜ》

 

 《大丈夫です》

 

 部屋に待機していたのはジェイルとセリスである。

 

 二人はI.S.システムの影響を受け、心身に異常が発生していた。

 

 それが適切な処置を受けたおかげで元の状態にまで回復していた。

 

 そしてもう一人。

 

 「リース・シベリウス。貴方の機体はもう少し調整に時間が掛かります」

 

 《……何時出撃できるのですか?》

 

 「調整と言っても大した事はありません。いつでも出られるようにしておいてください」

 

 《……了解》

 

 パイロット達に指示を出し終えたヘレンはブリッジでも戦闘準備を開始する。

 

 「ブリッジ遮蔽。対艦、対モビルスーツ戦闘用意」

 

 ミネルバと全く同じように戦闘体勢に移行していく、フォルトゥナ。

 

 そしてモビルスーツが発進する為にハッチが開く。

 

 「セリス、お前は病み上がりなんだから、無茶するなよ」

 

 「大丈夫。何としてもフリーダムを倒さないと……でないと大切な人達が殺されてしまう」

 

 大切な人と言うのはシンの事だろう。

 

 若干様子がおかしいような気がしたが、彼女は相変わらずだったようだ。

 

 その様子に安堵するとモニターに映った蒼い翼を広げる機体を睨みつける。

 

 フリーダムを落とすというのに一切異論はない。

 

 今までの借りを返す時。

 

 今日こそあの死天使を落とすのだ。

 

 「ジェイル・オールディス、コアスプレンダー出るぞ!!」

 

 コアスプレンダーが発進すると同時に別のハッチが開く。

 

 セリスは久しぶりの操縦桿を強く握った。

 

 「私が倒す。そして守る―――」

 

 守る?

 

 誰を?

 

 一瞬何かが見えたような気がするが、セリスは頭を振って余計な考えを追い出す。

 

 今はフリーダムを倒す事が一番重要な事だ。

 

 他の事は後で考える。

 

 「セリス・シャリエ、セイバー行きます!」

 

 セイバーがフォルトゥナから発進すると、ジェイルのインパルスと共にフリーダム目掛けて突撃した。

 

 

 

 

 マユはバビをレール砲で撃ち落とし、振り向き様にサーベルでもう一機を斬り捨てる。

 

 そこでこちらに向かってきた機体に目を向けた。

 

 ミネルバと似た戦艦から飛び出してきたのは良く知っている機体であるインパルスとセイバーだ。

 

 「こんな時に!」

 

 「マユ、連携で行きましょう」

 

 「はい!」

 

 マユは真っ直ぐに向かってきたインパルスにビームライフルを撃ちこんだ。

 

 その一射をシールドで受け止めながら、インパルスはビームライフルを連射してくる。

 

 「はああああ!!」

 

 「くっ!?」

 

 シールドで弾きながら反撃するマユ。

 

 それを回避しながら突撃するインパルスの前にブリュンヒルデがシールドを掲げて割り込んだ。

 

 「チィ、邪魔なんだよ!!」

 

 立ちふさがる敵機にビームライフルを構える。

 

 だが横から飛び込んできたセイバーがブリュンヒルデにビームサーベルを叩きつけて引き離した。

 

 「こいつは私がやるから、ジェイルはフリーダムを!」

 

 「分かった!」

 

 セイバーによって引き離されたブリュンヒルデを尻目にフリーダムに攻撃を仕掛ける、インパルス。

 

 「前みたいに簡単にやれると思うなァァ!!」

 

 ジェイルはフリーダムの射撃をシールドを使いつつ、確実に防ぎながらビームライフルで反撃していく。

 

 敵の放つ正確な射撃を機体を逸らして避け、ビームサーベルに持ち替えるとフリーダム目掛けて上段から振り下ろす。

 

 マユは振り下ろされた剣撃を機体を仰け反らせて回避、背後から回り込んで袈裟懸けに一閃する。

 

 捉えたと確信するマユだったが次の瞬間、驚愕する。

 

 インパルスはフリーダムのそんな一撃すらも読んでいたかのように横に機体を逸らすだけで容易く避け切ってみせたのだ。

 

 「なっ!?」

 

 完全にこちらの動きを見切っている!?

 

 ジェイルはダーダネルスで敗れて以降、対フリーダムの訓練を積んできた。

 

 毎日、毎日シミュレーターに座り、フリーダムの動きを研究してきたのだ。

 

 相手が何をしてきても対応できるように。

 

 ジェイルはフリーダム相手に戦える自信を持ってニヤリと笑う。

 

 やれる。

 

 フリーダムと互角に戦う事が出来る。

 

 確かな手ごたえ。

 

 それがジェイルにより勝利を確信させる。

 

 「お前は俺が撃つ!!」

 

 勢いよくフリーダム目掛けて放ったインパルスの斬撃をマユは横に捌きながらビームライフルで狙う。

 

 だが当たらない。

 

 それらすべてシールドで防ぎ、機体を逸らし、反撃してくる。

 

 その気迫と動きにマユは思わず戦慄する。

 

 「このパイロットは!?」

 

 「お前はここでェェ!!」

 

 ジェイルのSEEDが弾ける。

 

 格段に良くなったインパルスの動きに驚きながらもマユは自身もビームサーベルを振り抜いた。

 

 お互いの剣閃が敵を捉えようと迸る。

 

 シールドで防いだビームサーベルの火花が装甲を激しく照らした。

 

 

 

 

 フリーダムとインパルスの戦い。

 

 その近くではセイバーとブリュンヒルデが攻防を繰り広げている。

 

 レティシアは複雑な軌道でセイバーに接近すると対艦刀を袈裟懸けに叩きつけた。

 

 しかしセリスはそれらを容易く潜り抜けると、ビームサーベルを横薙ぎに振るう。

 

 「反応が速い!」

 

 ずいぶん手強い相手のようだ。

 

 ブリュンヒルデの動きを見切るように、ライフルを構えて撃ちこんでくる。

 

 「目的は貴方じゃない! 邪魔しないで!!」

 

 レティシアはアムフォルタスプラズマ収束ビーム砲を潜り抜け、機関砲で牽制しながらビームライフルのトリガーを引く。

 

 ブリュンヒルデの放ったビームがセイバーを掠め、装甲を傷つけた。

 

 「強い!」

 

 セリスもまた相手の強さに警戒心を強くした。

 

 流石フリーダムの僚機を務めるだけはある。

 

 「だからって退けない!!」

 

 セリスのSEEDが弾ける。

 

 飛行形態でブリュンヒルデのビームを旋回しながらやり過ごし、再びモビルスーツ形態に変形し、背後からビームサーベルを上段から振り下ろす。

 

 それをレティシアは機体を宙返りさせて、剣撃を回避する。

 

 やはりこのパイロットは手強い。

 

 だが同時にこの動きにはどこかで覚えがあった。

 

 的確にこちらを狙ってくる射撃をシールドで受け止めながら、レティシアはセイバーに接近戦に持ち込み、グラムを逆袈裟に振う。

 

 「貴方は、まさか……」

 

 レティシアが目の前の相手に関して何かを気がついた時―――彼女の直感が嫌なものを感じ取る。

 

 悪寒と言っても良いものだ。

 

 その感覚に従って即座に機体を下降させると次の瞬間、ブリュンヒルデのいた空間を強力なビームが薙ぎ払った。

 

 「今のは……」

 

 レティシアが攻撃が来た方向を見るとそこには一対の翼を持った機体が佇んでいた。

 

 外見はどこか禍々しく、悪魔を連想させるような形状だった。

 

 ZGMFーX90S『ベルゼビュート』

 

 ザフトが開発した対SEED用の新型機。

 

 今までの実戦データから改良を施したI.S.システムを搭載している機体である。

 

 ベルゼビュートのコックピットでブリュンヒルデを見たリースは歓喜に包まれていた。

 

 何故ならようやくアレンに群がる害虫を駆除する事が出来るからだ。

 

 この機体ならそれが容易く可能になる。

 

 「ねえ、レティシア、聞こえてる? 約束果たしに来た」

 

 「貴方は、リース・シベリウス」

 

 「覚えていたならもう何も言わなくてもいいね―――死んで」

 

 ベルゼビュートは翼を広げスラスターを吹かせると、一気に加速してブリュンヒルデに襲いかかった。

 

 その隙にセイバーはフリーダムの方に向かっていく。

 

 しかしレティシアにセイバーを追う余裕はない。

 

 ベルゼビュートの動きが予想よりも遥に速かったからだ。

 

 「速い!?」

 

 レティシアは咄嗟にシールドを掲げてビームソードの斬撃を受け止める。

 

 だが止めた筈のビームソードは容易くシールドを斬り裂いていく。

 

 「力任せに押し込むだけで!?」

 

 ギリギリでソードを横に弾き、横っ跳びで距離を取りつつビーム砲を撃ちこんだ。

 

 しかしベルゼビュートは一切動じた様子も無く、ビーム砲を肩のシールドで簡単に弾き飛ばした。

 

 「ッ!?」

 

 あの機体は危険だ。

 

 レティシアの直感がそう警告を鳴らす。

 

 ここで破壊しなければならない。

 

 「……ねえ、貴方の後はマユを殺さなきゃいけないから、早く死んでよ」

 

 『I.S.system starting』

 

 リースの全身に感じた事も無い感覚が広がっていく。

 

 そのまま操縦桿を押し込むと、ブリュンヒルデ目掛けて襲いかかった。

 

 

 

 

 

 介入してきたベルゼビュートにブリュンヒルデを任せたセイバーはインパルスと共にフリーダムに攻撃を仕掛ける。

 

 インパルスだけでも厄介だったというのに、セイバーまで―――

 

 ムウはアークエンジェルに襲いかかるバビやミサイルの迎撃だけで精一杯だ。

 

 こちらを援護する余裕はないだろう。

 

 レティシアは論外。

 

 見た事も無い新型を相手にしているのだ。

 

 むしろこちらが援護に向かわなくてはならない。

 

 「早く決着を!」

 

 インパルスが振り抜いてきたビームサーベルを潜り抜け、下段から掬いあげるようにビームサーベルを振り上げる。

 

 しかしその直前に割り込んできたセイバーが背後からビームライフルで狙撃してくる。

 

 「くっ」

 

 攻撃を中止し機体を傾けてビームを回避しようと試みるが、かわしきれず肩部の装甲を深く抉られてしまう。

 

 セリスもまたインパルスのパイロットに劣らない正確な射撃だ。

 

 ならばとインパルスを牽制しながら、宙返りして砲門をセイバーに向けて一斉に撃ち出された。

 

 放たれた何条もの砲撃がセイバーに迫る。

 

 「そんな攻撃はもう通用しない!」

 

 セリスは最小限に動きだけで砲撃をやり過ごす。

 

 だが流石フリーダムと言ったところ。

 

 正確な射撃によってセイバーは完全に避けきることが出来ず装甲を掠めて傷をつけられてしまう。

 

 だがそれも大したダメージではない。

 

 セリスの反応が速く捉え切れなかったのだ。

 

 思わず歯噛みするマユに背後からインパルスがビームサーベルを横薙ぎに振るってくる。

 

 「どこ見てんだァァ!!」

 

 迫る一撃にマユもまた叫んだ。

 

 「くっ、まだです!!」

 

 マユのSEEDが弾ける。

 

 インパルスの一撃をシールドで横に弾くと同時に驚異的な速さで頭部と右腕を即座に落とした。

 

 「チッ、やっぱ強いな!」

 

 だがこうなる事は予定通り。

 

 ジェイルは焦る事無く、フォルトゥナに通信を入れる。

 

 「フォルトゥナ! チェストフライヤー、フォースシルエットを!」

 

 《了解!》

 

 ジェイルはセイバーに向き直ろうとするフリーダムに向けて、破壊されたチェストフライヤー分離して射出した。

 

 「セリス!!」

 

 「分かった!!」

 

 フリーダムにぶつかる直前にセイバーの射撃によってチェストフライヤーが破壊され、大きく爆発する。

 

 爆発に巻き込まれたフリーダムは吹き飛ばされ、地面に向けて落下していく。

 

 「うっ!!」

 

 予想外の攻撃に虚を突かれたマユは碌な防御も回避もできない。

 

 マユは歯を食いしばり、地面に落ちる前に体勢を立て直そうと機体を操作する。

 

 そこにセイバーがビームサーベルを構えて振り下ろしてきた。

 

 「はあああああ!!」

 

 眼前に振り抜かれたサーベルが直撃する寸前にシールドを掲げて防御する。

 

 マユは斬撃を受け止めたまま地上に着地、そしてシールドの角度を変え上に向けて弾き飛ばした。

 

 その隙に懐に入り込んでサーベルを一閃、セイバーの右足を斬り飛ばして蹴りを入れた。

 

 セイバーを吹き飛ばしたフリーダムだったが再びコックピットに警戒音が鳴り響く。

 

 「ハァ、ハァ―――ッ!?」

 

 マユが上を見ると新たなチェストフライヤーとフォースシルエットを装備したインパルスが勢いよくビームサーベルを振り下してきたのだ。

 

 「しつこい!」

 

 ビームサーベルが直撃する寸前に上空に逃れるが、見逃すジェイルではない。

 

 即座にスラスターを吹かし、フリーダムを追うと再びサーベルを振りかぶる。

 

 「逃がすかぁぁ!!」

 

 振り下ろされた斬撃をひらりと宙返りして回避するとビームサーベルを横薙ぎに叩きつける。

 

 だが斬撃がインパルスを捉える直前に下方からのビームがフリーダム目掛けて襲いかかった。

 

 ビームライフルを構えたセイバーである。

 

 セリスはモニターを睨みながら正確にライフルのトリガーを引いていく。

 

 損傷したのはあくまで脚部。

 

 戦闘に支障はない。

 

 「あそこで私に止めを刺さなかったのが貴方の敗因!」

 

 「セリスさん、まだ!?」

 

 マユは驚異的な反応で機体を逸らし、シールドを掲げて何とか防御に成功する。

 

 しかしそれはジェイルにとっては絶好のチャンスだった。

 

 「落ちろ!」

 

 背中を見せた敵機にビームライフルを撃ち込む。

 

 その一撃がフリーダムの片翼を吹き飛ばした。

 

 「きゃああああ!!」

 

 襲いかかる衝撃にフリーダムは体勢を崩されてしまう。

 

 マユは頭を振り、さらに攻勢をかけてくる二機を見つめる。

 

 強い。

 

 分かっていた事だがセリスもあのインパルスのパイロットも並ではない。

 

 「負けられない」

 

 マユは自身を奮い立たせ、操縦桿を握り直した。

 

 

 

 インパルスとセイバー相手にフリーダムが追い込まれていたすぐ傍ではブリュンヒルデがベルゼビュート相手に苦戦を強いられていた。

 

 「強い! パイロットも別人のような動き、これは一体?」

 

 レティシアはベルゼビュートに連続でビーム砲を叩き込む。

 

 ビームをたやすく回避したベルゼビュートは懐に飛び込みビームソードでブリュンヒルデの左腕を破壊する。

 

 防ぐ事もできなかった。

 

 シールドが破損していた事もそうだが、機体のパワーが違いすぎるのがその原因である。

 

 「くぅ、まだです!」

 

 レティシアは懐に飛び込んできた敵機に向け、至近距離からビームライフルを撃ち込む。

 

 だがここでもあの機体はレティシアの予想を大きく超えていた。

 

 ベルゼビュートは手の甲から発生させたビームシールドで弾いたのだ。

 

 「なっ!?」

 

 「そんなもの効かない。もういいよ、目障り」

 

 右腕に肩のビームクロウをスライドさせてマウントすると、腕からさらに強力なビーム刃が発生する。

 

 リースは再びブリュンヒルデの懐に飛び込むとビーム刃を振り抜く。

 

 強力な斬撃が構えたグラムごと右腕を斬り飛ばした。

 

 「ぐぅぅ」

 

 「これで終わり!!」

 

 さらに左肩のビームクロウが振り抜かれ、ブリュンヒルデの胴体を大きく斬り裂いた。

 

 ブリュンヒルデのコックピット内に警戒音が鳴り響くが、機体は一切動かない。

 

 薄れゆく意識の中で彼女は一言だけを呟いた。

 

 「―――アスト」

 

 レティシアの意識はそこで消えた。

 

 ブリュンヒルデは地面に倒れ込み、動きを止めた。

 

 リースは倒れたブリュンヒルデに近づくと残骸目掛けて右腕を振り上げる。

 

 「バイバイ、レティシア」

 

 その時、ムウのセンジンが駆けつけベルゼビュートに攻撃を仕掛けてくる。

 

 「これ以上やらせるか!」

 

 ブリュンヒルデから引き離そうとビームライフルを撃ち込んだ。

 

 だがそれを容易く肩部で弾き飛ばすと、苛立ったようにセンジンを睨みつける。

 

 「……邪魔ァァ!!」

 

 左肩のビーム砲をセンジンに向けて薙ぎ払う。

 

 その強力なビームを機体を旋回させて回避する、ムウ。

 

 だがその隙に肉薄したベルゼビュートはセンジンの足を食いちぎる様にビームクロウで引き裂く。

 

 そしてさらにもう片方のビームクロウで右肩の装甲を大きく抉った。

 

 「ぐあああ! この―――」

 

 「邪魔するから、そうなる!」

 

 続けて振るったビームソードがセンジンの頭部を斬り飛ばす。

 

 完全に体勢を崩したセンジン。

 

 このまま止めを刺そうとしたリースだったが、そこでコックピット内に警報が鳴り響いた。

 

 「何―――ぐっ! システムダウン!? 何で、頭が!!」

 

 まだ機体の調整が不完全だったのか動きが鈍ったベルゼビュートはセンジンを蹴り飛ばすとゆっくりと地面に着地した。

 

 これ以上は動けない。

 

 「でも、まあいいか」

 

 目ざわりな残りの一匹。

 

 フリーダムももうじき仕留められるだろう。

 

 リースは頭痛に頭を押さえながらも、壊れたようにニヤリを笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 フリーダムはインパルス、セイバーからの攻撃を何とか防ぎながらも、アークエンジェルと共に海岸線まで辿り着いた。

 

 「ハァ、ハァ、もう少し!」

 

 ビームライフルを撃ち返したマユの視界に信じられない光景が飛び込んでくる。

 

 それは悪魔のような姿の機体ベルゼビュートによって斬り裂かれたブリュンヒルデの姿だった。

 

 「レティシアさん!!」

 

 まさかレティシアが倒されるなんて―――

 

 さらに近くにはムウのセンジンと思われる機体の一部もある。

 

 ムウもやられてしまったらしい。

 

 あの新型はそれほどの力を持っているのか。

 

 それだけではない。

 

 ミネルバに似た戦艦の艦首砲が光を発している。

 

 「陽電子砲!?」

 

 狙いは―――アークエンジェルだ。

 

 「アークエンジェル!!!」

 

 一瞬だけマユは別の方向へ意識を向けてしまった。

 

 それが彼女の致命的な隙となる。

 

 隙をついたセイバーの一射がフリーダムのビームライフルを叩き落とし、腰のレール砲を破壊する。

 

 その衝撃にバランスを崩した、フリーダム。

 

 「ここだ! フォルトゥナ、ソードシルエット!!」

 

 ジェイルは射出されたソードシルエットを装備する事無く、そのまま掴むとビームブーメランを海面を進むフリーダム目掛けて投げつけた。

 

 曲線を描きながらフリーダムを狙って進む刃。

 

 それに気がついたマユは咄嗟の反応でシールドを前に出すと何とか防ぐ事に成功する。

 

 「ここ!!」

 

 だが背後から撃ち込まれたアムフォルタスプラズマ収束ビーム砲の一撃が海面に直撃。

 

 激しい水蒸気を発生させ、マユの視界を塞いだ。

 

 その隙にエクスカリバーをセイバーにも投げ渡すと、ジェイルはそのまま突撃した。

 

 「うおおおおおおお!!!!」

 

 「これで今度こそ!!」

 

 「ッ」

 

 その突撃に気がついたマユはなんとか回避しようとする。

 

 しかし側面から迫ってきたセイバーがエクスカリバーを叩きつけ、フリーダムのシールドごと左腕を斬り捨てた。

 

 「これでぇ!!」

 

 さらに返す刀で背中目掛けて斬撃を振るってくる、セイバー。

 

 「くぅ、この!」

 

 マユは残った右腕でビームサーベルを引き抜くと逆袈裟に振り上げ、エクスカリバーを叩き折り、そのままセイバーを斬り裂いた。

 

 「きゃあああ!」

 

 エクスカリバーがあった為にセイバー本体の損傷は浅かったが、もう戦えない筈だ。

 

 このまま離脱を―――

 

 「セリスをよくもぉぉ!!」

 

 落されたセイバーを見たジェイルは咆哮を上げて操縦桿を押し込み、さらに機体を加速させた。

 

 マユは眼前まで迫ってきた刃を回避しようと機体を上昇させようとするが、遅すぎた。

 

 「しまっ―――」

 

 「これでぇぇぇぇ!!」

 

 加速したインパルスの刃がフリーダムの肩に突き刺さると、ジェイルは袈裟懸けに振り抜いて胴体を斬り裂いた。

 

 

 「消えろォォォォォ、死天使ィィィィィ!!!!」

 

 

 同時にフォルトゥナのタンホイザーがアークエンジェルに向けて発射される。

 

 

 発射された閃光がアークエンジェルを狙って一直線に進むと、直後凄まじい爆発が引き起こされた。

 

 

 マユの視界が光に覆われ―――すべてが白く包まれた。




機体紹介2更新しました。
グロウ・ディザスターのイメージはサザビー、ベルゼビュートのイメージはエピオンかな。

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