機動戦士ガンダムSEED effect   作:kia

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第33話  破壊の化身

 

 

 

 

 

 地球軍大型陸上用戦艦ハンニバル級。

 

 連合がザフトのレセップス級の対抗艦として開発した戦艦である。

 

 搭載されたモビルスーツは艦内みならず、艦外にも露天係留が可能となっている。

 

 そして現在、数隻のハンニバル級が目的地に向け夜の平原を駆けていた。

 

 その内の一隻。

 

 中央ドームに何か黒い物を格納している戦艦の格納庫では急ぎ作戦準備に追われ、所狭しと各機が出撃する為に並んでいた。

 

 彼らはこれからとある作戦を実行に移そうとしているのである。

 

 戦艦の中央部に存在するものを使い、敵や裏切った者達をすべて薙ぎ払うのだ。

 

 普通ならば何かしらの嫌悪感や躊躇いを持つのが普通なのだろう。

 

 これから攻撃する場所はザフトが駐留しているとはいえ、普通の市民達が多く暮らしているだけの場所なのだから。

 

 しかし彼らの中にこの作戦に疑問を持つ者は誰もいない。

 

 彼らはブルーコスモスの思想に染まった者達ばかりだからだ。

 

 そう、コーディネイターに死を!

 

 裏切り者には死を!

 

 奴らに味方するからそうなるのだ!

 

 それこそが彼らの思考であった。

 

 そんな狂気が充満している中で、三人の少女が格納庫に立っていた。

 

 年齢的にも明らかに場違いであるにも関わらず、誰一人として不審に思う者も話しかける者もいない。

 

 傍にいるのは白衣を着た男たちだけ。

 

 それだけでもおかしいのだが、この場の異常さを示している事がもう一つあった。

 

 三人の少女は全く同じ顔をしていたのである。

 

 「№Ⅱ、調子はどうか?」

 

 「問題ありません」

 

 「№Ⅲ、お前は?」

 

 「こちらも正常です」

 

 研究者達の質問に淡々と答える少女達。

 

 それをもう一人の少女ラナ・ニーデルは何の感情も見せず眺めていた。

 

 昔の彼女であればこの光景に不審や憤りなどを持っていたかもしれない。

 

 しかしもうすでに彼女は変わっていた。

 

 強化処理を受けた際に必要ない記憶や感情の消去や改変が施されている。

 

 もう覚えているのは自分の大切な人が殺された事とザフトがそれを行ったという事だけだ。

 

 冷たい憎しみと怒りだけが彼女を動かす、すべてになっている。

 

 ラナは冷めた視線を中央に格納されている機体を見上げた。

 

 GFASーX1『デストロイ』

 

 機体全身に多数の砲門を装備しており艦隊や多数の敵機を消滅させる絶大な火力を持っている。

 

 武装はそれぞれ強力な火器が装備されており、強固な装甲と陽電子リフレクターを備え、ビーム・実体弾兵器を防ぐ鉄壁の防御力を有していた。

 

 この機体こそ戦局を変える為のロゴス派の切り札である。

 

 本来はラナが搭乗する予定だったようだが、適性検査の結果№Ⅱが適任と判断された。

 

 ラナ本人は正直それで良かったと思っている。

 

 はっきり言えば通常のモビルスーツを操縦している方が自分には合っている気がしていたからだ。

 

 何でもいい。

 

 連中をすべて排除できるならば。

 

 その時、戦艦全体が立っていられないほど大きく揺れる。

 

 「何が起きた!?」

 

 「これは……敵の攻撃です!」

 

 「チッ、各機準備が出来次第、発進だ!」

 

 作戦前の敵襲に周囲が騒ぎ出す。

 

 しかしラナ達は表情一つ変えず、自分の機体に歩き出した。

 

 騒ぐ事でも慌てる事でもない。

 

 ただ排除すべき者達が向うから来てくれたというだけ。

 

 家族を、マサキを、殺した奴に報いを与えられる。

 

 それだけで十分だった。

 

 だが彼女は気がつかない。

 

 自分が家族の顔を思い出せない事に。

 

 そしてマサキとはどんな人物だったのか分からない事に。

 

 ラナは機体を立ち上げると、即座にフットペダルを踏み込んだ。

 

 「ラナ・ニーデル、ブルデュエル出ます」

 

 装甲が青く染まるとラナは戦場へと飛び出した。

 

 

 

 

 ロゴス派のハンニバル級と先に接敵したのはザフトではなく反ロゴス派の地球軍部隊であった。

 

 ウィンダムを中心とした部隊がビームライフルを構えて敵艦をロックする。

 

 今攻撃しようとしているのは、ついこの間まで仲間として接してきた者達だ。

 

 考え方が違えど、いきなり銃を構えて平気な兵士はいないだろう。

 

 それでも皆それを覚悟してこちら側についたのだ。

 

 何よりも彼らがこれから行おうとしている蛮行を見過ごす事はできない。

 

 味方であったからこそ止めねばならないのだ。

 

 だからこそ指揮官は味方を叱咤するつもりで叫ぶ。

 

 「全機出撃! あれをこれ以上近づけるな!!」

 

 「「「了解!!」」」

 

 ダガーLやウィンダムが夜空を駆けていく。

 

 当然、敵もそのまま何もしない筈はない。

 

 同じくウィンダムやダガーLが出撃し、応戦の構えを取る。

 

 「全機、散開!」

 

 「「了解!」」

 

 反ロゴスの機体には肩や腕に白い線が塗装されている。

 

 これは誤射しないようにと施されたものだ。

 

 目的は中央の戦艦。

 

 アレの中に格納してある機体が出てくる前に撃破する。

 

 そうしなければ甚大な被害が出る事になるだろう。

 

 「油断するなよ! 中央を突破する!」

 

 隊長機のウィンダムがビームライフルで牽制。

 

 同時に僚機のダガーLがビームサーベルを構えて斬り込んだ。

 

 敵のウィンダムはビームを回避、サーベルで斬りかかってきたダガーLを返り討ちにしようとライフルのトリガーを引く。

 

 しかし銃口からビームが放たれる事は無い。

 

 いつの間にか側面に回り込んでいた隊長機によって撃ち抜かれていたからである。

 

 「良し! 次だ!」

 

 「了解!」

 

 周りと連携を取りながら順調に敵機を突破していくウィンダム隊。

 

 このまま行けるかと思い始めた指揮官だったが、その認識は甘かったと痛感させられる。

 

 中央の戦艦から飛び出してきた青い機体が彼らの進路を阻んだのである。

 

 ウィンダムのコックピットには立ちはだかる敵機体のデータが正確に表示された。

 

 「ブルデュエルか!」

 

 ブルデュエルはリトラクタブルビームガンを撃ち込みながら、こちら目掛けて突っ込んできた。

 

 全機、回避運動を取るがブルデュエルの素早く正確な射撃により、瞬く間に二機のモビルスーツを撃破されてしまった。

 

 「強い!」

 

 今の動きを見ただけでも相当の腕前である事が分かる。

 

 「全機油断するなよ! 囲んで仕留めろ!」

 

 ウィンダムはブルデュエルを囲むように連携を取り、一斉にビームライフルを放つ。

 

 しかしブルデュエルは驚く事に最低限の回避行動でビームをかわし、避け切れなかったものは上手くシールドを使って捌いてみせたのだ。

 

 「何だと!?」

 

 あり得ない。

 

 とても人間業ではない。

 

 あまりの事に動きを止めてしまったウィンダム隊を尻目にブルデュエルはスラスターを使って飛び上がる。

 

 そしてスコルピオン機動レールガンでダガーLをハチの巣にして撃破した。

 

 そのまま動きを止めずウィンダムを蹴り落とすように踏み台にすると、即座にビームサーベルで近くのダガーLを斬り裂いた。

 

 さらにブルデュエルはリトラクタブルビームガンを連続で撃ち込み、味方は為す術無く落とされていく。

 

 「くっ」

 

 あっという間に味方機の大半を落とされてしまった。

 

 「なんて奴だ!」

 

 このままでは突破するどころか、返り討ちに遭ってしまう。

 

 指揮官機は唇を噛みながら、残った僚機と態勢を立て直そうと後退を図る。

 

 それを阻むように別方向から強力な閃光が傍にいたウィンダムを消し飛ばした。

 

 「なんだ!?」

 

 視線の先にいたのは両手に大型火器を持った緑色が特徴的な機体だった。

 

 GATーX103AP『ヴェルデバスター』

 

 ブルデュエルと同じくエースパイロット用カスタマイズモビルスーツ開発計画、通称「アクタイオン・プロジェクト」に基づき、再製造されたバスターを改修した機体である。

 

 艦上の佇むヴェルデバスターは即座にこちらをロック、放った強力な砲撃が味方機に次々と襲いかかる。

 

 その強力な砲撃になす術無く、破壊される味方機。

 

 指揮官機はビームライフルでまずヴェルデバスターを狙う。

 

 あれが存在する限り接近すらできないからだ。

 

 「くそ! まずはお前から―――ッ!?」

 

 指揮官は突然の衝撃に驚愕する。

 

 トリガーを引こうとした瞬間、乗機であるウィンダムの腕が肘から先が無くなっていたからだ。

 

 指揮官が視線を向けた先にはブルデュエルがリトラクタブルビームガンを構えていた。

 

 ブルデュエルが放った一射が腕を吹き飛ばしていたのである。

 

 腕を破壊された衝撃から立ち直る間もなく、蹴りを入れられ地面に叩き落とされてしまう。

 

 「ぐあああ!」

 

 凄まじい衝撃がパイロットの全身を襲った。

 

 意識を失う直前、視界に飛び込んできたのは視界を埋める巨大な黒い存在。

 

 ハンニバル級から出て来たそれはあまりにも大きな物体であった。

 

 「デ、デス、トロイ」

 

 通常のモビルスーツに比べ約二倍はあるだろうその巨体はその場にいる兵士達を驚愕させ、恐怖を煽るには十分過ぎた。

 

 背面の円盤型バックパックを上半身に被り、脚部を鳥脚状に変化させたモビルアーマーが動き出す。

 

 何とか止めなければ―――

 

 しかし動こうとした者達は次の瞬間、跡形も残さず消え失せた。

 

 デストロイバックパックの円周上から放たれた熱プラズマ複合砲ネフェルテム503の攻撃により一斉に撃破されてしまったのである。

 

 円周上に放たれたビーム砲が抵抗する間も与えず、反ロゴス派の機体を残らず消し去っていく。

 

 その勢いが止まる事は無く、ネフェルテム503が平面全方位に存在するあらゆる敵機や建造物を薙ぎ払った。

 

 ラナはブルデュエルのコックピットからその惨状を表情を変える事無く見つめていた。

 

 《お姉さま、これで良いですか?》

 

 「ええ、このまま行きましょうか、№Ⅱ。№Ⅲ、援護しなさい。デストロイに近づく物をすべて叩き落として」

 

 《はい、お姉さま》

 

 進撃していくデストロイ。

 

 その光景を別の場所から見ていたジブリ―ルは歓喜の笑みを浮かべていた。

 

 「あはははは!! どうですか、デストロイは圧倒的でしょう!!」

 

 圧倒的な火力で裏切り者共の部隊を一掃した光景は胸がすく思いだった。

 

 これまでの屈辱をすべて晴らすように暴れるデストロイを見るだけで笑みが浮かぶ。

 

 狂ったように笑うジブリ―ルを他のロゴスメンバーは感情を込めずに淡々と呟く。

 

 《確かにな。しかしこのままではすべてが消え何も残らんが、どこまでする気かね?》

 

 「ザフトが、裏切り者どもがいる限り、どこまでもですよ! 愚かな連中に教えてやらなくてはね! バケモノどもに従うとどういう事になるのか、はっきりとね!!」

 

 そう、これでいい。

 

 あんなバケモノどもが好き勝手にしている事自体がおかしいのだ。

 

 一度すべてを更地に変え、その上で世界を正しい道に戻す。

 

 「すべては青き正常なる世界の為にね!!」

 

 ジブリ―ルはデストロイが進んでいく姿を眺めながら狂ったように笑っていた。

 

 

 

 

 暴れまわるデストロイの姿を離れた場所からただ見つめている機体がいた。

 

 仮面の男カースが搭乗している黒いフェール・ウィンダムである。

 

 反ロゴス派の機体を蹂躙していくデストロイの姿をカースはつまらなそうに眺めていた。

 

 「……くだらん。あんなおもちゃのお守をしなくてはならんとはな」

 

 ようやくあのお坊ちゃんから解放されたと思ったらこれだ。

 

 はっきり言えば興味が無い。

 

 目の前で起こっているのはあくまでナチュラル同士がただ殺し合っているというだけの事。

 

 愚かなナチュラル共らしいとでも言えば良いのか。

 

 しかも暴れているデストロイもあんな巨体ではいかに火力があろうとも小回りが利かない筈だ。

 

 あれでは懐に飛び込まれた時点で終わりだろう。

 

 あんな物が切り札とは。

 

 巨大モビルアーマーを見た時も思ったが、ナチュラルというのはどこまでも愚かな存在である。

 

 「ん? あれは……」

 

 カースの目に映ったのは、駆けつけて来たザフトの部隊だった。

 

 バクゥやザクがデストロイに攻撃を開始する。

 

 ミサイルやオルトロスのビームがデストロイに向け放たれた。

 

 しかしすべて陽電子リフレクターで弾かれ、ネフェルテム503によって反ロゴス派の機体同様に薙ぎ払われていく。

 

 「今のザフトも無能だな」

 

 失望のため息をつくと同時に今後の事を考える。

 

 今回は積極的に何かする気は起きない。

 

 ミネルバでも来れば多少の暇つぶしくらいにはなるかも知れないが。

 

 その時は、お相手してもらうとしよう。

 

 どこかつまらなそうに目の前の惨状をカースは眺めていた。

 

 

 

 

 アオイはスウェン、スティングと共に母艦に先立って戦場に駆けつけていた。

 

 反ロゴス派からの救援を求める連絡が入ったからだ。

 

 破壊された反ロゴス派の機体。

 

 そして同じくザフトの迎撃部隊もやられている。

 

 戦場に駆けつけたアオイが見たのは蹂躙された仲間やザフト機の残骸であり、それを行った巨大なモビルアーマーであった。

 

 無残に蹂躙された残骸を見ながらアオイは唇を噛む。

 

 胸の中に湧き上がる怒りを堪えながら黒い巨体を睨みつけた。

 

 「あれが……」

 

 「そう、デストロイだ」

 

 「アレを倒せってのかよ」

 

 スティングがぼやくのも分かる。

 

 情報通りならば火力は相当なものだ。

 

 しかも陽電子リフレクターも装備されている為、遠距離からの攻撃では意味をなさない。

 

 ならば懐に飛び込んで近接戦に持ち込むのが基本的な戦術になるだろう。

 

 これまで地球軍が開発してきた巨大モビルアーマーと同じだ。

 

 しかしそれは向うも承知しているのだろう。

 

 デストロイを守る様にかなりの数モビルスーツが防衛についていた。

 

 懐に飛び込むにはまずはあれらの機体を突破しなくてはならない。

 

 「アレをこれ以上都市部に行かせるな」

 

 「はい!」

 

 未だ都市部に入り込んでいないのは今まで仲間達が奮闘していたおかげだ。

 

 それに報いるためにもこれ以上好きにさせる訳にはいかない。

 

 「それから少尉、今回は新しい装備だ。問題はないと思うが注意しておけ」

 

 「はい!」

 

 今回イレイズの背中に装着されていたのは二対の羽根を持つ装備だった。

 

 『ゼニスストライカー』

 

 スカッドストライカーのデータを基にして開発された試作ストライカーパックである。

 

 今まで以上の機動性を持たせると共に火力や近接戦闘力を強化した装備であり、武装は機関砲、対艦刀『ネイリング』、複合火線兵装『スヴァローグ改』となっている。

 

 「まずは周りの機体を片づける!」

 

 「「了解!」」

 

 三機が連携を取りつつ防衛部隊に攻撃を開始する。

 

 カオスがモビルアーマー形態に変形してカリドゥス改複相ビーム砲を敵機に叩き込み、それに合わせてストライクノワールとイレイズが同時に動いた。

 

 二機はスラスターを吹かして対艦刀を構えると、ウィンダムに斬り込んだ。

 

 カオスのビーム砲の直撃を受けた機体は破壊され、それに紛れて接近したスウェンはフラガラッハを袈裟懸け振ってウィンダムを斬り裂く。

 

 そしてアオイはダガーLの側面に回り込み、ネイリングを横薙ぎに叩きつけて両断した。

 

 さらに背後に振り向くと後ろから襲いかかろうとしている敵に逆袈裟に剣を振り抜いた。

 

 今のところ問題なく進めている。

 

 しかし雨のように降り注ぐ敵機の放ったビームは正直鬱陶しかった。

 

 それらを加速をつけて振り切りながら、スティングは思わず吐き捨てる。

 

 「数が多い! こんな時にネオはサボりかよ!!」

 

 「仕方ないよ、スティング。大佐は部隊を指揮しなければならないんだし。大佐の分まで、俺達がやろう!」

 

 カオスの機動兵装ポットがら放たれた誘導ミサイルが敵に向かって放たれ、敵機が散開した所をアオイがビームライフルで狙撃する。

 

 「アオイ、何時からそんなにネオと仲良くなったんだよ?」

 

 アオイがネオをフォローしたのが不思議だったのかスティングが突っ込んできた。

 

 まさか素顔や素性を知って警戒心が薄らいだとは言えない。

 

 「い、いや別にそんな事は無いよ」

 

 「ホントかよ?」

 

 若干返事を詰まらせながらも返答する。

 

 秘密にするのは心苦しいが勝手に大佐の素性をばらす訳にもいかない。

 

 「二人とも戦闘に集中しろ」

 

 「「了解」」

 

 ストライクノワールが敵機を誘導するように放ったビームライフルショーティーの射撃に合わせてアオイも背中のスヴァローグ改を跳ね上げる。

 

 スヴァローグから強烈な閃光が撃ち出され、一か所に集められたウィンダムを一網打尽に消し飛ばした。

 

 順調に敵部隊の防備を突破していく三機。

 

 だが敵もこのまま易々と行かせるほど甘くはない。

 

 デストロイまでもうすぐという所まで迫った所で、妨害するように一機のモビルスーツが立ちはだかった。

 

 「ブルデュエル……」

 

 「気をつけろ。かなりの腕だ」

 

 「こんな奴に負けるかよ!」

 

 両手に構えたリトラクタブルビームガンを連続で撃ち込みながら、連携を崩してくる。

 

 三機は四方に散るとビームを回避した。

 

 それに対し敵機は即座に対応し、スコルピオン機動レールガンとリトラクタブルビームガンを巧みに使い三機の動きを誘導してくる。

 

 向うは飛べないにも関わらず的確に動き。

 

 なによりも速い。

 

 ブルデュエルはビームサーベルを引き抜きながら、イレイズ目掛けて斬りつけてくる。

 

 「こいつ!」

 

 アオイはシールドで斬撃を弾き飛ばしながら、横薙ぎにネイリングを叩きつけた。

 

 だがブルデュエルは驚異的な反応の速さで機体を後退させて対艦刀をやり過ごし、再び剣を振るってくる。

 

 お互いの放った斬撃をシールドを受け止め、睨み合う。

 

 「アオイ!」

 

 「厄介だな」

 

 周りの敵機を屠りながら、アオイを援護しようとスウェンとスティングが動いた。

 

 激突しているイレイズとブルデュエルに接近するが、同時に突然ミサイルとビーム、レールガンが二機に襲いかかる。

 

 デストロイ近くにいる、機体を見つけたスウェンが呟いた。

 

 「あれはヴェルデバスターか……」

 

 両腕に複合バヨネット装備型ビームライフルを構え、二機を連携させないように的確な射撃で妨害してきた。

 

 それだけではない。

 

 今も隙を見せればそれだけで撃墜しようと攻撃を仕掛けてくる。

 

 ヴェルデバスターの砲撃に晒されるストライクノワールとカオスを一瞬横目で見ながら、アオイは正面のブルデュエルを睨みつけた。

 

 「まずはこいつを突破する!」

 

 スラスターを吹かしシールドで受け止めたビームサーベルを押し返そうとした瞬間、声が聞こえた。

 

 《地球軍でありながらザフトの連中に加担するなんて……裏切り者共め。貴方達は邪魔です》

 

 「えっ」

 

 今の声は―――

 

 ブルデュエルは動きを止めたイレイズに蹴りを入れて突き放す。

 

 その衝撃に呻きながら、アオイは必死に動揺を押し殺した。

 

 今の声は間違いない。

 

 「ラナ?」

 

 何で彼女の声が敵機の中から聞こえてくる?

 

 混乱しながらもアオイは思わず通信機に向かって叫んだ。

 

 「ラナ! ラナなのか!?」

 

 《……馴れ馴れしいですね。貴方は何者ですか?》

 

 「俺だ! アオイ・ミナトだ!!」

 

 しばらく何の返答も無い。

 

 焦れるように再び問いかけようとした時、また通信機から声が聞こえてきた。

 

 《……知りませんね、誰ですか?》

 

 俺の事が分からない?

 

 一体何故?

 

 「ラナ、俺は―――ッ!?」

 

 そこでアオイに思い当たる現象がある事に気がついた。

 

 何も知らずベットに横たわる三人の姿。

 

 目覚めれば余計なすべては忘れている。

 

 そんな姿をアオイは何度も見てきた。

 

 「まさかエクステンデットの強化処理を……」

 

 《貴方が何者か知りませんがどうでも良いです。それよりも良い頃合いですね。№Ⅱ、やりなさい》

 

 《分かりました、お姉さま》

 

 お姉さま?

 

 通信機から聞こえてきたのは、ラナとまったく同じ声。

 

 ラナに他に姉妹なんていない筈だ。

 

 しかしアオイの疑問も次の瞬間、消しとんだ。

 

 デストロイがホバーして上昇すると上半身に被っていた円盤型のものを背中に移動。

 

 下半身を180回転させ、手足が現れると人型に変形したのだ。

 

 アオイはその巨体と迫力に圧倒されてしまう。

 

 デストロイの姿は自分達が乗る機体によく似た造形をしている。

 

 しかし全身の装備された砲口がこの機体の禍々しさを表していた。

 

 《撃ちなさい、№Ⅱ》

 

 《はい》

 

 デストロイの胸部から光が迸るとイレイズ目掛けて強力な閃光が撃ち出された。

 

 複列位相エネルギー砲スーパースキュラである。

 

 「くっ」

 

 凄まじいビームを前にアオイは即座にフットペダルを踏み込むとスラスターを全開にして加速する。

 

 次の瞬間、イレイズのいた空間が薙ぎ払われ、直撃した地面が大きな爆発を引き起こした。

 

 空まで煙が舞い上がり、地面には大きなクレーターが出来ている。

 

 「なんて威力だよ。あんなの食らったらそれで終わりだ……」

 

 あれだけの威力ではシールドで防ぐ事も不可能。

 

 となれば防御に回ればそれだけ不利になる。

 

 予定通り何とか攻撃を潜り抜けて、懐に飛び込まないと。

 

 それを見ていたスウェンがヴェルデバスターの攻撃を避けながら指示を飛ばした。

 

 「少尉、連携でいく」

 

 「は、はい!」

 

 「先に行くぜ!」

 

 カオスが先行してヴェルデバスターを引きつけるようにビームライフルで牽制。

 

 それに続く形でストライクノワールがビームライフルショーティーでブルデュエルを攻撃する。

 

 その隙にアオイはデストロイに突撃する。

 

 上手い具合に二機はアオイの進路上からは消えた。

 

 「今がチャンスだ!」

 

 ラナの事は気にかかるが、今はあれを止める方が先だ。

 

 邪魔するように群がる敵機をネイリングで斬り捨てながら、スラスターを吹かす。

 

 しかしここでデストロイは攻撃を仕掛けようしたイレイズに向けて、両腕が飛ばしてくる。

 

 シュトゥルムファウストと呼ばれる遠隔操作が可能な攻盾システムである。

 

 両手の指先には五連装スプリットビームガンが、そして腕に陽電子リフレクター発生器シュナイドシュッツが装備されている。

 

 これらの装備によってそう簡単には迎撃できなようになっているのだ。

 

 シュトゥルムファウストの指先から幾重にも放たれる閃光にアオイは舌打ちしながら紙一重で回避していく。

 

 細かい傷がイレイズに刻まれていくが気にしてはいられない。

 

 「まだだ!」

 

 右腕の五連装スプリットビームガンのビームを掻い潜り隙を見てビームライフルを撃ちこむ。

 

 しかし回り込むように飛んで来た左腕の陽電子リフレクターですべて弾かれてしまった。

 

 降り注ぐビームを回避しながら、何とか接近しようと試みるが、別方向からの砲撃に晒される。

 

 ヴァルデバスターだ。

 

 カオスと戦いながら、肩のビーム砲でこちらを狙ってきたのだ。

 

 そこにデストロイの腕が迫る。

 

 「くっ」

 

 こちらを狙ってくる指先のビームを上昇して回避する。

 

 だが今度は背中の装備されている二つの砲身が輝き出した。

 

 「あれは不味い!?」

 

 スラスターを吹かして横に移動すると高エネルギー砲アウフプラール・ドライツェーンが火を噴いた。

 

 どうにかギリギリのタイミングで回避に成功したイレイズ。

 

 先ほどのスーパースキュラを凌ぐのではないかと思われるほどの強力なビームが上空に撃ち込まれ、夜の暗闇を明るく照らす。

 

 「あんな物がまた都市に向けて撃たれたら―――」

 

 さらに甚大な被害が出る。

 

 アオイは歯をかみしめながら、デストロイを睨みつけた。

 

 体勢を立て直そうとしたアオイに今度はストライクノワールを振り切ったブルデュエルが襲いかかる。

 

 リトラクタブルビームガンをシールドで弾きながらスウェンの方を見るとシュトゥルムファウストの相手でこちらに気を配る余裕はないようだ。

 

 「なら俺がこいつを倒す!」

 

 ブルデュエルのスコルピオン機動レールガンの攻撃がイレイズに容赦なく降り注ぐ。

 

 それをシールドで防ぎながらアオイはブルデュエルに話しかける。

 

 「やめろ! ラナァ!」

 

 《……裏切り者がいちいちうるさいですね。馴れ馴れしいですよ》

 

 ブルデュエルが袈裟懸けに振るってきたビームサーベルをアオイはシールドを掲げて受け止めた。

 

 アオイは横目にデストロイを見る。

 

 こちらを無視して都市に向かおうとしているのが確認できた。

 

 「あれを行かせる訳には……邪魔しないでくれ、ラナ!」

 

 《馴れ馴れしいと言った筈ですよ》

 

 連続で振るわれたビームサーベルがシールドに阻まれ火花が散り、装甲を照らす。

 

 このままでは―――

 

 しかしラナを突破しなくてはデストロイまで辿り着けない。

 

 アオイが焦れたその時、一条のビームがデストロイに向け撃ちこまれた。

 

 そのままビームがデストロイに直撃するかと思われたが、戻された右腕の陽電子リフレクターで防がれる。

 

 しかしデストロイの進行を止める事はできた。

 

 アオイが安堵しながら振り返った視線の先にはある意味、馴染み深い戦艦と機体がそこにいた。

 

 「ミネルバ―――それにインパルス」

 

 

 

 

 戦場に駆けつけたシン達は目の前の状況に息を飲んだ。

 

 先に接敵していたらしい反ロゴス派と先行したザフトの部隊は無残に破壊され全滅していた。

 

 現在戦っているのは三機のみ。

 

 しかもこちらとは因縁深い機体ばかりだった。

 

 「まさかあいつらが先に戦ってるとはね」

 

 ルナマリアが複雑そうに呟く。

 

 気持ちはわかる。

 

 これまで殺し合いをしてきた間柄なのだ。

 

 でもシンはどこかホッとしていた。

 

 アオイがこんな惨状を作り出した連中に加担している訳ではないと分かって。

 

 「今はあのデカブツを落とす方に集中するんだ。ルナ、その機体は初めてだろ。怪我も完全に治って無いんだから無理するなよ」

 

 ルナマリアが搭乗しているのはハイネやジェイルが搭乗していたグフである。

 

 違いがあるとすれば全身のカラーが青色だという事くらいだろうか。

 

 シンの心配をルナマリアは不敵な笑みで返してきた。

 

 「慣れてない機体だけど大丈夫よ。これでもシン達と一緒にアレンの訓練を毎日受けてたんだからね」

 

 彼女の勝気な発言にシンは笑みを浮かべる。

 

 確かにそうだ。

 

 彼女なら心配いらないだろう。

 

 「じゃあ行くぞ!」

 

 「ええ!」

 

 インパルスとグフはフットペダルを踏み込みスラスターを全開にしてデストロイに向かっていく。

 

 それを阻もうとウィンダムやダガーLといった機体が襲いかかってくる。

 

 「邪魔だぁぁ!!」

 

 「どきなさい!!」

 

 インパルスがビームライフルでウィンダムを撃ち落とし、ルナマリアがビームソードでダガーLを斬り伏せる。

 

 周囲に群がる敵を撃破していく二機に右腕のシュトゥルムファウストが迫る。

 

 五連装スプリットビームガンがインパルスとグフを囲むようにビームを放った。

 

 「このぉ!!」

 

 「シン、こいつは私が! アンタはデカブツをやりなさい!」

 

 「分かった!!」

 

 ルナマリアにシュトゥルムファウストを任せ、シンはそのまま機体を加速させる。

 

 無論デストロイからのビームが降り注ぐが、それらをすべて回避するとビームサーベルで斬り込んだ。

 

 「はああああああ!!!」

 

 加速のついた状態で懐に飛び込むと躊躇う事無くビームサーベルを横薙ぎに一閃する。

 

 凄まじい閃光が弾け、火花が飛び散るとデストロイの装甲を深く抉った。

 

 「良し、このまま―――ッ!?」

 

 それを見た瞬間、シンは思わず動きを止めてしまった。

 

 インパルスのサーベルはデストロイの装甲を斬り裂き、コックピットを露出させていた。

 

 当然パイロットの姿も確認できる。

 

 そこから見えた顔はシンが知っている少女の顔だったのだ。

 

 「まさか―――ラナ」

 

 ディオキアで一度出会い、ザフトの攻撃で家族を失った少女がそこにいた。

 

 「な、なんで……」

 

 完全に呆けたシンに横から攻撃が加えられる。

 

 咄嗟の反応で操縦桿を引き、その場から飛び退く。

 

 だがその退避行動を読んだように、インパルスの動きに合わせ連続でビームが撃ち込まれる。

 

 「くっ」

 

 正確な射撃にシールドを掲げて弾く。

 

 反撃を試みようとしたシンの視線の先に居たのは黒いフェール・ウィンダムだった。

 

 さらにビームサーベルを叩きつけてくるフェール・ウィンダム。

 

 スラスターを使い後退してやり過ごすと今度は一気に前に出てサーベルを上段から振り下ろした。

 

 しかし剣閃が敵機を掠める事無く、ただ空を切るに終わる。

 

 「こいつ、強い!」

 

 敵機から振り抜かれた斬撃を潜り抜け、お返しとばかりに下から斬り上げた。

 

 しかしそれもシールドで弾くように横に払われてしまう。

 

 歯噛みするシンに敵機か声が聞こえてきた。

 

 《……お前がシン・アスカか?》

 

 「誰だ!」

 

 《そうだな……お前の妹に恨みを持つ者だ》

 

 「妹って、マユの事か!」

 

 フェール・ウィンダムの突きを機体を逸らして避けると、今度は逆袈裟から叩きつける。

 

 「マユに恨みだと? お前は―――」

 

 《一応お前にも因縁はあるが、私自身お前には興味が無い。今日もただの暇つぶしみたいなものだ》

 

 「暇つぶしだと……この惨状を見て何とも思わないのか!!」

 

 《別に何も。それが気に入らないなら早くデストロイを破壊したらどうだ? できればの話だがな》

 

 「このぉぉ!!」

 

 シンは怒りにまかせてフェール・ウィンダムに斬りかかる。

 

 だが同時に下からリトラクタブルビームガンを構えたブルデュエルが襲いかかる。

 

 《インパルス!!》

 

 「くっ」

 

 シールドでビームを弾きながら、ライフルを構えるが正面からフェール・ウィンダムに蹴りを入れられて態勢を崩されてしまう。

 

 《私の家族を、マサキおじさんを、大切な人達を殺したお前達を絶対に許さない!!》

 

 飛び上がったブルデュエルがリトラクタブルビームガンを両手で構えて連続で撃ちこんでくる。

 

 「ラ、ラナ!?」

 

 だがシンは動揺していた。

 

 聞こえてきたその声と言葉に。

 

 それが一瞬の隙を生む。

 

 リトラクタブルビームガンの一射がインパルスに迫る。

 

 「しまっ―――」

 

 避け切れない!

 

 何とか回避運動を取ろうとするシン。

 

 だが間に合わない。

 

 そのまま直撃する!

 

 被弾を覚悟したシンの前に、意外な者が割ってはいった。

 

 シールドを掲げたイレイズである。

 

 リトラクタブルビームガンを受け止め、引き離すようにビームライフルで牽制する。

 

 「アオイ!?」

 

 「無事か、 シン!」

 

 《本当に邪魔ですね、貴方は》

 

 「やめろ、ラナ!」

 

 「えっ、やっぱりラナなのか?」

 

 思わずデストロイのコックピットに座る少女とブルデュエルを見比べる。

 

 「一体どうなっているんだ?」

 

 シンがアオイに疑問をぶつけようとした瞬間、動きを止めていたデストロイの胸部と背中の砲口が輝き出した。

 

 「ッ!? 不味い、シン下がれ!!」

 

 「くっ」

 

 二機は飛び上がるように上昇するとデストロイから凄まじい閃光が撃ち出される。

 

 何とか回避に成功した二機だったが、問題はその射線だった。

 

 アオイやシンが気がついた時にはもう遅い。

 

 放たれた眩いほどのビームは二機の背後に存在する都市部に向かって直進すると凄まじいばかりの爆発を引き起こした。

 

 大きな衝撃と爆煙が上がる。

 

 「くっ!!」

 

 「くそぉ!」

 

 アオイは操縦桿を殴りつけ、シンは叫びを上げる。

 

 あれだけのビームが直撃したのだ。

 

 避難勧告が出ているとはいえどれだけの被害が出ている事か。

 

 一体何人の人が犠牲になっただろう。

 

 想像するだけでも怒りでどうにかなりそうだった。

 

 これ以上撃たせてはならない。

 

 それはシンもアオイも共通した思いだった。

 

 しかし―――

 

 「なんで……ラナが二人いるんだよ」

 

 「俺にも分からない……だけど止めないと」

 

 シンの脳裏にブルデュエルの言葉が思い起こされる。

 

 《私の家族を、マサキおじさんを、大切な人達を殺したお前達を絶対に許さない!!》

 

 シンは操縦桿を強く握る。

 

 やはり彼女は俺達を憎んでいた。

 

 だから彼女は地球軍に加わったのだろうか。

 

 シンにも分かる。

 

 自分もまた同じような理由でザフトに入隊したからだ。

 

 でもだからといって―――

 

 シンは破壊された街を見る。

 

 これを、こんな事を見過ごす事などできない。

 

 「……シン、行くぞ」

 

 アオイの声にシンは聞かなくてはならない事を口にする。

 

 見て見ぬ振りだけはできないからだ。

 

 「アオイ、だけど分かってるのか? 相手は―――」

 

 「分かってる! だから、だから止めなくちゃいけないんだよ! 俺はこれ以上ラナにこんな事をさせたくない!」

 

 血を吐くように言うアオイにシンは俯いた。

 つらいのはアオイも同じだ。

 

 いや、シン以上につらいに決まっている。

 

 彼らは家族なのだから。

 

 だからこそ―――シンも覚悟を決めた。

 

 「……分かった」

 

 「行くぞ!!」

 

 これ以上の攻撃が行われる前にデストロイを撃破する!

 

 二機が一気に加速をつけ、デストロイに向けて突撃した。

 

 「シン! 目標はあくまでもデストロイ本体のみ、邪魔する奴以外他は無視しろ!!」

 

 「分かってる!!」

 

 黒い巨体から放たれるビームの嵐をスラスターを吹かせて潜り抜ける。

 

 機体に襲いかかる閃光を最小限、速度を落とさないギリギリの機動でかわしていく。

 

 「うおおおお!!」

 

 「そこをどけぇぇ―――!!」

 

 インパルスがビームライフルで狙撃し、止まった敵機をイレイズがブルートガングで串刺しにして撃破する。

 

 さらにイレイズは機関砲で周囲の敵を牽制すると、突撃したインパルスによって斬り刻まれた。

 

 その猛攻は誰にも止められない。

 

 行く手を阻む機体を一蹴しながら、デストロイ向って一直線に突き進む。

 

 そんな二機の目の前にフェール・ウィンダムとブルデュエルが立ちふさがる。

 

 「……行かせる訳にはいかんな」

 

 「貴方達はここで倒す!」

 

 「ラナ!」

 

 「くそぉぉ!!」

 

 構ってられないというのに。

 

 しかしそんなブルデュエルにカオスが体当たりで吹き飛ばし、ストライクノワールがビームライフルショーティーでフェール・ウィンダムを引き離す。

 

 「中尉、スティング!?」

 

 「少尉は先に」

 

 「こいつは俺がやる! アオイ、行け!!」

 

 「……頼む!!」

 

 ビームライフルを撃ち込んでくるカオスを忌々しげに睨みつける、ラナ。

 

 スコルピオン機動レールガンで攻撃しながらビームサーベルで斬り込んだ。

 

 「邪魔です!」

 

 「行かせるかよぉぉ!!」

 

 機動兵装ポッドを巧みに使い、ブルデュエルを誘導しながらスティングもまた右手の剣を叩きつけた。

 

 そしてカースもまたフラガラッハを振るい迫ってくるストライクノワールを睨みつけた。

 

 「チッ、まあ今回はそれほどやる気も無いしな。お前で我慢してやる」

 

 「こいつもやるな」

 

 右のフラガラッハの斬撃を潜り抜け、ビームサーベルで斬りつけてくるカース。

 

 それを機体を逸らしながらやり過ごすと、同時に左のフラガラッハを横薙ぎに振りきった。

 

 それをカースは機体を一瞬上昇させ回避、そのまま回転させ蹴りを叩き込んでくる。

 

 舌打ちしながらスウェンもまた機体を傾け、蹴りを捌く。

 

 そして距離を取りフェール・ウィンダムと再び交戦を開始した。

 

 

 

 

 厄介な二機を任せたシンとアオイはデストロイ目掛けてさらに機体を加速させる。

 

 撃ち放たれるビームの嵐はヴェルデバスターの攻撃が加わった事で一層激しさを増していく。

 

 スラスターを限界まで吹かし、苛烈なビームを掻い潜り、デストロイに近づこうと試みる。

 

 だが絶妙のタイミングでヴェルデバスターの射撃が進路を阻んできた。

 

 「ちくしょう!」

 

 「まずはアイツをどうにかしないと!」

 

 ヴェルデバスターが両手の複合バヨネット装備型ビームライフルを平行に連結させ、連想キャノンモード変更、さらに強力なビームを放とうと構えてきた。

 

 「撃たせないわよ!」

 

 そこにルナマリアのグフがドラウプニル四連装ビームガンを放ちながら、ヴェルデバスターの前に立ちふさがる。

 

 ビームソードで左の複合バヨネット装備型ビームライフルを斬り裂き、さらに返す刀で下段から振り上げた斬撃が右肩のガンランチャーを破壊する。

 

 見事な攻撃だった。

 

 ヴェルデバスターがこちらに意識を向けていたとはいえ、ああも見事に損傷させるとはルナマリアも相当な腕前に成長している。

 

 彼女もまたアーモリーワンから出撃した頃に比べて格段に腕を上げていた。

 

 惜しむらくは彼女の怪我が完治していた訳ではなかったという事。

 

 敵は損傷はしたが戦闘不能になった訳ではないのだから。

 

 ヴェルデバスターは傾きながらもグフに向けて肩のビーム砲を撃ち出した。

 

 ルナマリアは咄嗟に回避しようとするも、怪我の影響で反応が一瞬遅れてしまった。

 

 撃ち出されたビームがグフの左腕を消し飛ばした。

 

 「きゃああああ!」

 

 「ルナ!」

 

 「……私は大丈夫だから、行きなさい!」

 

 ルナマリアは何とか機体を立て直すと残った右腕のビームガンでヴェルデバスターを攻撃する。

 

 シンは歯を食いしばり、ビームを振り切るように操縦桿を押し込んだ。

 

 デストロイの放った閃光がインパルスとイレイズを掠め次々と傷を刻んでいく。

 

 だがシンもアオイも構わない。

 

 このまま一気に懐に飛び込む!

 

 その時、再び胸部が輝き出した。

 

 「またあれを撃つ気か!」

 

 「……やらせるかぁぁ!!」

 

 突撃する二機に両腕のシュトゥルムファウストが迫ってくる。

 

 「鬱陶しい!」

 

 迎撃しようとしたインパルスより先にイレイズが前に出た。

 

 「あれは俺がやる!!」

 

 アオイは左右から迫る巨大な腕を睨みつける。

 

 動き回る腕と、指先から放たれるビームの動きを見極め、ネイリングを構えた。

 

 「……これ以上は撃たせない!」

 

 アオイのSEEDが弾ける。

 

 視界が広がり、鋭い感覚に包まれる。

 

 正直使う気は全くなかった。

 

 アオイにとってSEEDは本当に最後の切り札だ。

 

 ましてや時間が限られているのならなおの事。

 

 しかし今はそんな事を言っている時ではない。

 

 指先から放たれるビームを避け、機体をバレルロールさせシュトゥルムファウストの行き先に先回りするとネイリングを振り抜いた。

 

 横薙ぎに斬り裂かれていくシュトゥルムファウスト。

 

 さらにインパルスを襲おうとするもう一方の腕にネイリングを投げつけ、自機も加速させる。

 

 シュトゥルムファウストはネイリングを陽電子リフレクターで弾き飛ばすが、それはすでに予測していた事。

 

 回り込んだアオイは背中のスヴァローグ改を跳ね上げ、至近距離から撃ちこんだ。

 

 スヴァローグ改の一撃で貫かれたシュトゥルムファウストはそのまま落下し大きく爆散する。

 

 これで守りはすべて破壊した。

 

 後は本体のみ。

 

 シンは一瞬だけコックピットに座る少女に目を向ける。

 

 脳裏に浮かぶのはディオキアで見た悲しそうな表情。

 

 「ッ、躊躇うな!」

 

 迷いを振り切るようにシンはあえて叫ぶ。

 

 「撃たせるかァァァ!!!」

 

 シンのSEEDが弾ける。

 

 インパルス目掛けて撃ち込まれるビームの雨をすべて紙一重で避け切る。

 

 そして再びデストロイの懐に飛び込み、光を発している胸部目掛けてビームサーベルを一閃。

 

 シンは手を止める事無くさらにもう一本胸部にビームサーベルを突き刺した。

 

 ビームサーベルが突き刺さった部分から激しい火花が散ると今度は口部のツォーンmk2が光を放ち始める。

 

 「やらせないぞ!」

 

 そこに上方から飛び上ってきたアオイのイレイズがネイリングを振り下ろした。

 

 対艦刀の斬撃がデストロイの頭部を真っ二つに斬り裂き、完全に破壊する。

 

 インパルスとイレイズが飛び退くと、デストロイは背中から倒れ込み、大きな爆発を引き起こした。

 

 「ハァ、ハァ」

 

 「ハァ、ハァ、やったのか?」

 

 破壊されたデストロイを見たカースはつまらなそうにストライクノワールを引き離し反転した。

 

 「今回は幕引きまでつまらなかったな」

 

 そしてカオスと交戦していたラナもまた苛立ちを押し殺しながら撤退を選択した。

 

 「……№Ⅲ、退きましょう」

 

 《はい、お姉さま》

 

 カオスの機動兵装ポッドを踏み台にして、地面にスコルピオン機動レールガンを撃ち込んで煙幕代りに使うとヴェルデバスターと共に後退する。

 

 一瞬だけデストロイの方を見て静かにつぶやいた。

 

 「お休みなさい、№Ⅱ。あなたの仇も必ず取る」

 

 ラナはロゴス派の機体と共に撤退していった。

 

 その姿を確認するとシンはホッと息を吐きだす。

 

 しかし都市部にもかなりの被害が出た筈だ。

 

 現在の状況ではロゴス派を追撃する事も出来ず、破壊されたデストロイを見ながら凄惨な惨状の大地にインパルスは降り立つ。

 

 「……ラナ」

 

 アオイの辛そうな声を聞きながら、撤退していくブルデュエルを見つめる。

 

 何とも言え無い苦々しい思いを抱え、シンはそれを晴らすように操縦桿を殴りつけた。

 

 だが、少しも気が晴れる事はなかった。

 

 

 

 

 プラントから出港したフォルトゥナは地球に降り立ち、ジブラルタルに辿りついていた。

 

 一緒にジブラルタルに降下してきたデュランダルは入ってきた報告を見ながら頷く。

 

 「どうしましたか、議長?」

 

 「どうやら上手くいったようだ」

 

 「デストロイの破壊に成功しましたか。その割に嬉しそうではありませんね」

 

 ヘレンの質問にデュランダルは端末を操作してデータを呼び出した。

 

 そこに映っていたのはアオイ・ミナトのデータだった。

 

 「彼がそんなに気に入りませんか?」

 

 デュランダルはその質問には答えない。

 

 それこそが彼の回答だった。

 

 彼の存在はデュランダルにとって目障り以外の何者でもない。

 

 デュランダルは独自の情報網を使い、アオイのデータを手に入れていた。

 

 解析の結果はこんなものかと―――取るに足らない存在であると結論を下した。

 

 特に気にせずとも、いずれ倒される筈だと。

 

 何故なら彼は普通の者より多少は優れているがそれだけだったからだ。

 

 潜在的能力はシンやジェイルとは比べるべくもない。

 

 SEEDの素養も持ってはいたが、シン達に比べれば明らかに劣っていたのである。

 

 しかしそんなデュランダルの予想に反し、彼は戦場を生き延び続け、シン達と互角に戦い挙句ハイネまで倒したのだ。

 

 それはあってはならないイレギュラーである。

 

 デュランダルは先の戦闘のデータを確認する。

 

 その動きはシン達と比べても遜色ないように見えた。

 

 やはり彼は捨ておけない。

 

 「ヘレン、予定通り消えて貰おう、『大天使』に。そしてもう一つ、彼もまた不要な存在だ。故に消えてもらう―――アオイ・ミナトにも」

 

 「了解しました」

 

 準備はすでに整っている。

 

 ヘレンは出撃の為に艦長室から艦橋に向かった。

 




機体紹介を更新しました。

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