機動戦士ガンダムSEED effect   作:kia

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第32話  狂気の欠片

 

 

 

 

 

 

 アオイ・ミナトはこの部隊に配属されて最大の危機に瀕していた。

 

 部屋の床に正座しながら、不機嫌そうに椅子に座る人物を恐る恐る見上げる。

 

 凛々しく綺麗で整った顔立ち。

 

 仮面を外したネオの素顔は良く見てもやっぱり美人だった。

 

 まさかあの仮面の下の素顔が女性なんて予想外にも程があるだろう。

 

 「何か、少尉?」

 

 「い、いえ、何でもないです!」

 

 何でこんな事になったのだろう。

 

 やっぱり部屋のドアをすぐに閉めなかったのが不味かったのか。

 

 まさか大佐が女性だなんて思わなかった。

 

 いや、確かに驚きのあまりシャワー室から出てきたタオル一枚の大佐をじっと見てしまったのは悪かったとは思う。

 

 だが誓って言うが決して覗きをする気はなかった。

 

 そんな風に内心どうにもならない言い訳をしているアオイをしばらくジト目でこちらを見ていたネオだったが、「はぁ」と息を吐く。

 

 「まさかこんな事で性別がばれるなんて、例の宣言が終わって少し気を抜いていたのかもしれない」

 

 自分に呆れたように自嘲する、ネオ。

 

 「少尉、もういい。立ちなさい」

 

 「は、はい」

 

 許してもらえるのだろうか?

 

 アオイは痺れた足でネオの対面に用意された椅子に座る。

 

 「知られてしまった以上は仕方がない。アオイ・ミナト少尉、君には私の事を教えておく……その前に言葉使いを崩させてもらうわね。貴方にはこれから色々協力してもらうから」

 

 「協力ですか?」

 

 脳裏に浮かぶ良くない考えに支配され、思わず生唾を飲み込む。

 

 そんな風に内心不安に思っていると、アオイの心情を察したかのようにネオが笑みを浮かべた。

 

 「そんなに不安そうな顔をしなくていい。仕事を手伝ってもらうだけだし」

 

 そう言われても秘密にしていた以上は何か理由がある筈だ。

 

 それを知ってしまったのだから不安になるのも当然だと思う。

 

 この際開き直ったアオイはもう一つ気になっていた事を聞く事にした。

 

 「あの、大佐の性別の事を知っている人は他に誰がいるんでしょうか?」

 

 「知ってるのは貴方だけよ」

 

 「え、俺だけなんですか!? 中尉も知らない?」

 

 「ええ」

 

 まさかスウェンも知らないとは思わなかった。

 

 ネオはスウェンの事をずいぶん信頼していたように見えたので意外だ。

 

 「その辺も含めて話をしましょうか。ただし聞いても気持ちの良い話じゃないわ。聞きたくないなら無理に話す気も無いけど、どうする?」

 

 ここまできて何も聞かないよりは、聞いた方がすっきりする。

 

 アオイは躊躇わずに頷くとネオは静かに話始めた。

 

 「まずは私の名前はルシア・フラガ。とある男の生み出した狂気の欠片よ」

 

 「狂気の欠片?」

 

 それだけでルシアの言った通り嫌な話であるのを察する事ができる。

 

 だがアオイはそれを遮る事無く、耳を傾けた。

 

 

 

 

 アル・ダ・フラガという男がいた。

 

 優秀な弟であるロイ・ダ・フラガに強烈な劣等感を持った事で、歪み、徐々に狂気に染まっていった男だった。

 

 彼は自身の後継者を求め、コロニーメンデルの研究者であるユーレン・ヒビキの協力の元とある人物と自分の遺伝子を使って子供を生み出した。

 

 その人物というのが自分の子供として育てていたロイの娘、アリアという少女だった。

 

 二人の遺伝子を使って生み出された子供は非常に優秀な素養を持っていた。

 

 それこそアルが狂気の笑みを浮かべるほどに。

 

 名をラルス。

 

 だが彼にも欠点があった。

 

 近親者同士の子供であるが故に体が弱かった。

 

 せっかく生まれた後継者を死なせる訳にはいかない。

 

 そこで彼はさらに狂気に手を染める。

 

 彼は子供のクローンを生み出し、様々な臨床試験を行った。

 

 なにがあっても良いように、そしていざという時のスペアとするために。

 

 それがその後に災厄をもたらす事になるのだが、それはまた別の話である。

 

 確かにアルは子供を生き延びさせる為の対策を取ってきた。

 

 だが確実に大丈夫と過信もしておらず、万が一なんて事も当然想定していた。

 

 そう―――アルは保険を掛けていた。

 

 自分とアリアの遺伝子を使った子供をもう一人生み出していたのだ。

 

 それがルシアである。

 

 アルもまさか女子が生まれるとは思っていなかった。

 

 破棄しようとも思ったが何かに使えるだろうとルシアを処分する事はしなかった。

 

 そしてさらに予備の子供を生みだそうとしたのだが、それもアルのやり方に反対していたロイの手によって水泡に帰す事になる。

 

 ロイは生まれた子供をアルから引き離し、当時友好関係にあったマクリーン家に預け、その存在が見つからない様に匿って貰った。

 

 アルは子供を探すも結局見つけ出す事が出来ず、ロイを謀殺した後、残ったクローン達に手を出した。

 

 臨床試験という名の人体実験を行い、その中で優秀な者を後継者にする事にしたのである。

 

 結局その後、アルも死亡した事で事態は収束、生み出された子供達の事はそのまま忘れ去られた。

 

 

 

 

 

 話終えたネオ―――いや、ルシアは極力表情を見せる事無く淡々と話を進めていく。

 

 彼女の言葉に感情が籠っていないのは、すでに割り切っているからか。

 

 それとも感情を出さず堪えているのか。

 

 どちらにせよアオイが想像もできないほどの葛藤があったに違いない。

 

 それにしてもアルという男は話の通りまともな人間ではない。

 

 拳を握りしめる。

 

 「……それでもう一人のラルスという人は、どうなったんですか?」

 

 最悪な答えも想像しながらルシアに問いかけた。

 

 するとルシアは今までのような無表情ではなく、どこか可笑しそうに笑い出した。

 

 「ふふ、貴方はもう会った事があるわ」

 

 「え、会った事がある?」

 

 「ええ、しかもつい最近まで一緒にいたわ」

 

 会った事があって、さらについ最近まで一緒にいた?

 

 そこまで言われてアオイは気がついた。

 

 「まさか、今まで一緒にいた大佐は―――」

 

 「そう、ラルス・フラガよ」

 

 どうやら入れ替わっていたという事らしい。

 

 そういえば思い当たることがあった。

 

 マクリーン中将に呼び出されて、当初の予定より早く帰ってきたあの時だ。

 

 あの時、いつもなら大佐に駆け寄っていくステラがあの時からネオの傍には行かなくなった。

 

 本人に聞いても「別にいい」と言っていたのを見てどこか違和感を覚えたのだ。

 

 もしかするとステラは何となく別人である事に気が付いていたのかもしれない。

 

 という事は入れ替わっていたのは、ダーダネルス戦後という事になる。

 

 「何でそんな事を?」

 

 「情報収集と裏で動きやすくする為かしら。顔が知られていると動きにくいからね。彼らの目を誤魔化すためにも丁度良かったの」

 

 彼らというのはおそらくロゴス派の事だろう。

 

 「では入れ替わる前は情報収集していたんですか?」

 

 「ええ。宇宙でマクリーン中将の手伝いをしながらね。普段は中将の副官という立場になっているから」

 

 「なるほど」

 

 スウェンに明かさなかったのも出来るだけ、正体がばれないようにリスクを抑える為。

 

 でもスウェンはそれほどお喋りという訳ではないし、話して協力してもらうというのも悪くないと思うが。

 

 「もう一つの理由は……先程話したと思うけど他にも私達には兄弟がいるの」

 

 「ラルスさんのクローンですか……」

 

 「ええ。まあ彼ら以外にも二人ほど兄弟と言える存在はいるのだけれど。ともかく彼らに見つかるのは避けたかったというのがある」

 

 「どうしてですか?」

 

 ルシアはどこか辛そうに俯いた。

 

 不味い事を聞いてしまったかもしれない。

 

 「……彼らは私達を憎んでいるだろうから」

 

 「憎む……」

 

 どうしてなんて口が裂けてもいえない。

 

 すべて想像ではあるが、彼らの心情を察する事は出来る。

 

 彼らがどういう道筋を辿ったにせよ、自分達をこんな目に遭わせた者達に対して恨みを募らせていった事はたやすく想像できる。

 

 その憎しみがオリジナルであるラルスやルシアに向かう事もあるかもしれない。

 

 そうなればマクリーン中将などにも矛先が向く可能性すらある。

 

 ルシア達はそれを恐れたのだろう。

 

 アオイが納得していると今度はルシア質問してくる。

 

 「それで、貴方は何の用で来たのかしら。まさか覗きに来た訳ではないでしょう?」

 

 「あ、当たり前ですよ!」

 

 思わず腰を浮かせながら、反論する。

 

 そもそも女性だなんて知らなかったのだから、覗きなんてする訳が無い。

 

 いや、もちろん女性と知っていても覗きなんてしないけど。

 

 「冗談よ。それで?」

 

 「これからの事ですよ。あの宣言で俺達はどうなるんですか?」

 

 アオイの意図はルシアにも汲み取れる。

 

 つまりザフトと共同で動くのかと聞きたいのだろう。

 

 先日会ったばかりのルシアにもアオイの事は分かっている。

 

 アウルやステラとも普通の仲間として接していた彼からすれば複雑な心境なのだろう。

 

 ルシアは気を引き締めたように、アオイを見返す。

 

 「今言えるのは状況によって変わってくると言う事だけよ。……ただすぐに次の作戦が開始される。それには参加する事になるでしょう」

 

 「次の作戦?」

 

 「GFASーX1『デストロイ』を破壊する。それが次の作戦よ」

 

 

 

 

 クレタ沖での戦いを終えたアークエンジェルはスカンジナビア近辺の海中に潜伏していた。

 

 艦内では不測の事態に備えて、機体の整備などが急ぎ行われている。

 

 戦闘から帰還したマユ達は再びブリッジに集まって得られた情報の整理をしていた。

 

 今回の戦闘でムラサメやアストレイを撃破して、オーブ離反者を捕縛し、いくつかの情報を得た。

 

 といっても得られた情報など微々たるものであったが。

 

 「今回の戦闘でオーブから離脱した機体はほとんど破壊できた訳だが……」

 

 「捕虜から幾つか情報は手に入ったけどね」

 

 彼らが知っていたのはセイランにオーブを見限るように唆したのはヴァールト・ロズベルクである事。

 

 そして第二次オーブ戦役で奪取されたSOA-X05は宇宙に運ばれた事だけだった。

 

 一番重要なアスハ邸襲撃とラクス暗殺の真相については彼らは何も知らなかった。

 

 「最低限の任務は果たしたんだが、これからどうする?」

 

 任務を果たした以上はオーブに戻るべきなのだろう。

 

 だが地球軍とザフトの戦いの行方やこの辺りで情報収集を続けるのも手だ。

 

 何よりも例のデュランダルの宣言もある。

 

 マリューは考え込むよう俯く。

 

 「オーブからの連絡はある?」

 

 「いえなにも。今回の戦闘報告はしましたけど」

 

 今はオーブ本国も例の宣言の事で混乱しているのかもしれない。

 

 「なら命令があるまでは待機しましょう。引き続き情報収集を」

 

 「わかった」

 

 今後の方針が決まり、マユはあの声の事を考えていた。

 

 《見つけたよ。アレンに群がる害虫を》

 

 《私も貴方達の事を忘れない―――絶対に》

 

 名前は確かリース・シベリウス。

 

 レティシアにも聞いてみたが、心当たりは無いという。

 

 なら何故自分達を狙うのだろうか。

 

 それに彼女が口にしていたアレンというのはおそらくアストの事だろう。

 

 ミネルバに乗船した際に名前を聞いた覚えがある。

 

 「どうしたのですか、マユ?」

 

 ラクスが心配そうにこちらを覗き込んできた。

 

 よほど深刻そうな顔をしていたのだろうか。

 

 マユは努めて笑顔を作るとラクスに笑みを返した。

 

 「いえ、何でもありません」

 

 「そうですか。ではラミアス艦長、一つよろしいでしょうか?」

 

 「なにかしら?」

 

 「私をスカンジナビアで降ろしてもらえませんか?」

 

 ラクスの発言に皆が驚いたように振り向いた。

 

 「ユグドラシルでヴァルハラに上がります。例の機体の調整を手伝いたいのです」

 

 レティシアは思わずラクスに詰め寄った。

 

 「しかし、ラクス、貴方は狙われているんですよ!」

 

 「ヴァルハラなら大丈夫ですよ。アイラ様も事情をご存じですから」

 

 確かにヴァルハラに上がってしまえばある程度は安全だろうが。

 

 それでもレティシアが心配するのも分かる。

 

 どこに敵がいるかも分からない状況では尚の事だろう。

 

 「あれらの機体が近いうちに必要になるかもしれません。ならば出来るだけ早く使えるようにしておくに越した事はないでしょう」

 

 確かにザフトは次々と新型を投入してきている。

 

 このままではフリーダムでも危ういかもしれない。

 

 「レティシアはこのままアークエンジェルの守りに残ってください」

 

 レティシアはラクスに反論しようとするが、諦めたようにため息をつく。

 

 「……はぁ、仕方ありませんね。一度言い出したら聞かないんですから」

 

 皆が苦笑しながら二人のやり取りを見ているとマリューはそのまま指示を出した。

 

 「分かりました。ではスカンジナビアに連絡を取りましょう」

 

 マリューの指示を受け、アネットはスカンジナビアに通信を入れる。

 

 「ラクスさん、本当に気をつけて下さいね」

 

 「ええ。マユもですよ。決して無茶をしない事」

 

 「はい」

 

 ラクスに心配をかけないようマユは力強く頷く。

 

 自分が艦を守って見せるのだと示すように。

 

 

 

 

 デュランダルの宣言以降、ザフトはどの場所でも慌ただしく動いていた。

 

 ロゴスと戦うという事に加え、地球軍の反ロゴス派との協調。

 

 混乱しない方がおかしい。

 

 そんな中、ミネルバはさらなる混乱が起こっていた。

 

 艦長室にはタリア、アーサー、アレンの三人が集まり、司令部の使者からとある事を聞かされていた。

 

 それは修復されたミネルバの次なる作戦の参加要請。

 

 そしてミネルバ所属のパイロット達の転属だった。

 

 「どういう事です! 次の作戦の参加はともかくパイロット達の転属というのは!!」

 

 「……言葉通りです。セリス・シャリエ、ジェイル・オールディスの両名は治療が必要、リース・シベリウスは別の任務があると聞いています」

 

 タリアの剣幕に怯えながらもアーサーも口を開いた。

 

 「え、え~と、でもなんでレイまで転属なのでしょう?」

 

 乗機は中破したが彼自身に怪我はない。

 

 「……彼は新造戦艦の方へ配属されます」

 

 「新造戦艦!?」

 

 アーサーが驚愕の声を出すが気持ちはよく分かる。

 

 ミネルバもこの前就航したばかりの新造戦艦である。

 

 すでに歴戦の艦と言えるほどの激戦を潜り抜けてきたのは事実。

 

 しかしまさかもう新たな戦艦が建造されていたなんて思いもしなかった。

 

 タリアの言葉を遮り、今度はアレンが口を挟んだ。

 

 「そして私にも任務ですか」

 

 「はい。アレン・セイファート、貴方にも議長からの特別な任務が入っています」

 

 デュランダルは何を考えている?

 

 これでは現在ミネルバで戦闘可能なのはシンのインパルスのみという事になってしまう。

 

 ルナマリアに機体が配備されたとしても、二機でミネルバが守りきれるとは思えない。

 

 「ミネルバが参加する作戦というのは?」

 

 「それは命令書をご覧ください。ミネルバ単艦での戦闘という事はありませんからそこはご安心ください。ただ今回の作戦は急がなければならないと聞いています。それが戦力不足のミネルバを作戦に参加させる理由でしょう」

 

 作戦を急ぐ?

 

 なにか理由があるのだろうか?

 

 いや、それよりも重要なのは今後の戦力の方が重要だろう。

 

 「今後の補充人員は?」

 

 「もちろん配属されるでしょう。ただ何時になるかは未定です。決まり次第通達があると思います。以上ですのでよろしくお願いします」

 

 そのまま使者が退室していくとアーサーがオロオロしながらタリアの方を見た。

 

 「か、艦長」

 

 「……命令なのだから仕方ないでしょう。作戦に参加するのが私達だけで無いのがせめてもの救いね」

 

 タリアは送られてきた命令書を開き、作戦を確認する。

 

 内容は『敵巨大機動兵器GFASーX1『デストロイ』を動き出す前に破壊する』というのが次の任務だった。

 

 やたら詳細なデータが付属されているのは反ロゴス派からの情報提供があったからだ。

 

 確かにこれが暴れるとなると相当の被害がでる可能性もある。

 

 しかもこの機体はロゴス派の切り札的な存在らしい。

 

 ならこれを落とせば連中の士気を削ぐ事も出来る。

 

 上が早急に動こうとするのも頷けるのだが。

 

 「これは確かに急ぎたくなるのも当然かもしれませんけど」

 

 それでもミネルバが戦力不足なのは変わらない。

 

 それだけシンに上層部が期待を寄せているという事か。

 

 「泣き言言っても始まらないわ。出撃準備をさせて」

 

 「了解」

 

 アーサーが準備の為に艦長室から退出する。

 

 「それでアレン、貴方の任務を聞いても構わないかしら」

 

 アレンは送られてきた命令書を確認する。

 

 「『テタルトス軍新型機の調査』」

 

 どうやら宇宙で行われているテタルトス新型機の運用試験を調査しろという事らしい。

 

 必要ならば新型を破壊する事も任務に含まれる。

 

 しかし、これは宇宙にいるデュルク達でも可能な任務の筈。

 

 話にあった新造戦艦が関係しているのか。

 

 「艦長、任務を終え次第急ぎ帰還するつもりですが、それまでは―――」

 

 「分かっているわ。貴方も気をつけなさい」

 

 「了解です」

 

 アレンは敬礼を取って艦長室から退室するとその足で格納庫に向かう。

 

 今回の件であの研究者達も捕虜になったガイアのパイロットと一緒にミネルバから降りるらしい。

 

 という事はI.S.システムのデータ収集も終わったということだろう。

 

 「アレン」

 

 考えを纏めていたアレンの前にリースが立っていた。

 

 怪我自体は大した事無いらしく、外見上は包帯なども巻かれていない。

 

 それは良いのだが、アレンは目の前に立つ彼女にどこか危うさのようなものを感じていた。

 

 「怪我はもういいのか?」

 

 「心配してくれたの? 嬉しい」

 

 「……仲間だからな。当然だろう」

 

 しかしリースはこちらの声など聞こえていないのかそのまま近づいてくるとアレンに向かって囁いた。

 

 「ねえ、アレン。私、見つけたんだぁ。貴方に群がる害虫を。次会うまでに―――それを駆除してくるね」

 

 「何を言って―――」

 

 「またね、アレン」

 

 こちらの言い分など聞く気も無いのかリースはそのまま背を向けて去っていく。

 

 最初に会った頃とはずいぶん様子が違う。

 

 何か言うべきか?

 

 「……いや、時間がない」

 

 どこか嫌な予感を覚えながら、アレンはリースの背中を見つめていた。

 

 

 

 

 その頃ミネルバの格納庫ではセイバーやジェイルのコアスプレンダーを含むインパルスのパーツが外へ運び出されていくのをシンは黙って見つめていた。

 

 「シン、そんな顔してもしょうがないでしょ」

 

 「……分かってるよ」

 

 あのデュランダルの宣言を聞いた時は驚いた。

 

 でも正直な話、ホッとしたというのが本音だった。

 

 これでロゴス派を倒せばこの戦争も終わる。

 

 同盟はあくまで専守防衛を主としているから、ロゴス派を倒した後にでも話し合えば戦う必要も無い筈だ。

 

 そうすればマユやアオイとも―――

 

 だが結局セリスは目を覚まさないまま。

 

 これ以上はミネルバではどうしようも無いという事で本国に運ばれる事になったらしい。

 

 あの胡散臭い連中が言った事だからどこまで信用出来るか分からないが。

 

 「それにしてもレイまで転属となるとパイロットは私にシンとアレンしかいないよね。どうするんだろ」

 

 「うん」

 

 これから新しい作戦が始まるというと聞いている。

 

 その作戦にはミネルバも参加する事になる。

 

 ルナマリアの怪我も完全に治った訳でもないのに―――

 

 二人でそんな事を話しているとアレンが格納庫に入ってきた。

 

 「二人とも話がある」

 

 「何ですか?」

 

 「俺は今回の作戦には参加できなくなった」

 

 「な!? どういう事ですか!?」

 

 「議長からの任務が来た。そちらを優先しろと命令もな」

 

 アレンは顔を曇らせた二人の肩を叩く。

 

 「俺は任務が終わればすぐにミネルバに戻る。それまでは二人とも頼むぞ。シン、ミネルバの守りの要はお前だ。いつも通りにやれば問題ない」

 

 「は、はい!」

 

 「ルナマリア、お前も初陣の頃とは比較にならないほど腕を上げている。だから訓練通りにやれば大丈夫だ。ただ怪我はまだ治っていない。無理はするなよ」

 

 「はい!」

 

 そこに格納庫にいたレイもまた近づいてくる。

 

 「アレン、今までお世話になりました」

 

 「いや、こちらも色々助けられた」

 

 やはりどこかこちらを探るような視線だ。

 

 分かってはいたが、レイもこちらを疑っている。

 

 「シン、ルナマリア、後は頼む」

 

 「レイもまたな」

 

 「こっちは任せなさい!」

 

 「ああ」

 

 同期だけに仲の良い。

 

 整備班のヨウランやヴィーノも別れを惜しんでいたようだし。

 

 レイは終始淡々としていたけど。

 

 伝えたいことは伝えたしこれ以上邪魔をするつもりも無い。

 

 アレンはそのままエクリプスに乗り込むとミネルバから発進した。

 

 

 

 

 苛立ちながら机を指で叩くジブリールは、報告を待っていた。

 

 現在世界はあの宣言の後、混乱に陥りロゴス派と反ロゴス派に分かれてしまった。

 

 勢力図ははっきり言ってロゴス派が不利な状況であると言わざる得なかった。

 

 これは今まで小賢しくもプラント側が行ってきた支援の結果ともいえる。

 

 しかもロゴスの幹部達の顔も晒されてしまい、今では迂闊に外も歩けない状況に陥っていた。

 

 その為今までいた屋敷から別の場所へ移り、重要な連絡を待っているのだ。

 

 そんなジブリールの下に待ちに待った通信が入ってきた。

 

 《ジブリール様、『デストロイ』最終調整が終わりました。パイロットには№Ⅱを使います》

 

 「オリジナルではなくか?」

 

 《彼女よりも№Ⅱの方が適正があったので。それから№Ⅲも念の為に護衛につけました》

 

 「くくく、良し、すぐに出撃させろ!!」

 

 《はっ!》

 

 通信が切れると同時にジブリールは久しく感じていなかった歓喜に包まれていた。

 

 これで奴らを、デュランダルや裏切り者のマクリーンを消せる。

 

 多少予定は狂ったが、これですべては元通りだ。

 

 「見ていろよ、デュランダル、裏切り者共が! すべてはここからだ!」

 

 暗がりの部屋でジブリールは笑い続ける。

 

 自身の勝利を全く疑う事無く。

 

 

 

 

 ―――そして破壊の巨人が動き出す。

 

 

 

 

 

 

 地球で大きな戦いが始まろうとしていた頃、プラントの港から一隻の艦が発進した。

 

 ミネルバ級二番艦『フォルトゥナ』である。

 

 その艦長室ではヘレンがデュランダルと打ち合わせを行っていた。

 

 「ほぼ準備は完了しています。後はジブラルタルでセリス達を回収すれば……」

 

 「うむ、作戦が上手くいけば『大天使』に消えてもらえばいい」

 

 「ところでミネルバの件はあれで良かったのですか?」

 

 「彼らならば問題ないさ。それよりも―――」

 

 見極めなければならない。

 

 アオイ・ミナトを。

 

 何にせよ―――

 

 「君にかかっているんだ。頑張ってくれよ、ジブリール」

 

 デュランダルは最大限の声援を送りながら、笑みを深くした。

 




なかなか書く時間が取れず、今回淡々としているかも。
後で時間ができたら修正します。

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