機動戦士ガンダムSEED effect   作:kia

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第29話  宇宙を漂う星の中で

 

 

 

 

 

 

 何もない宙域に漂う無数のデブリ。

 

 通常であれば避けるようなその場所を数隻の艦が航行していた。

 

 これらはプラントから出航した輸送艦である。

 

 そして輸送艦に追随するように数機のモビルスーツが護衛についていた。

 

 その護衛の中に特務隊に所属するデュルク・レアードとヴィート・テスティの二人も参加していた。

 

 二人が搭乗しているのは配備されたイフリート・シュタールである。

 

 彼らもまたリース同様イフリートの試験運用を行っているのだ。

 

 特務隊である彼らが輸送艦の護衛についている理由。

 

 それは先に『レイヴン』の襲撃を受けた為だ。

 

 しかもそこにテタルトスまで現れたと報告が上がってきていた。

 

 となれば再びの襲撃もありうる。

 

 そこで特務隊の二人に任務が下ったという訳だ。

 

 輸送艦に追随するイフリートのコックピットでヴィートは顔を顰めながら周囲を見渡していた。

 

 「ヴィート、何か不満でもあるのか?」

 

 デュルクの声にビクッとなったヴィートは咎められた訳でもないのに気を引き締め背筋を伸ばす。

 

 「いえ、不満という訳ではなくて。こんな場所に、その、極秘施設があるとは思わなかったもので。隊長はご存じだったのですか?」

 

 「一応はな。とは言っても詳しい事は知らない。知っているのはこれから行く施設で新型機の開発などが行われているという程度だ」

 

 「プラントの工廠では無く、ここで新型機開発ですか?」

 

 「おそらくアーモリーワンの件があったからだろうな」

 

 それでヴィートも納得する。

 

 アーモリーワンの強奪事件の後、すぐ開戦してしまった為に有耶無耶になってしまったが未だどこから新型機の情報が漏れたのかは不明なまま。

 

 どこから情報が漏れるか分からないのなら、味方にさえもその存在を隠してしまえばリスクは極力抑えられるという事だろう。

 

 「とにかくレイヴンやテタルトスの件もある。リースもいないんだ。気を抜くな」

 

 「別にあいつがいなくても大丈夫ですよ。いちいち嫌味を言う奴がいなくてやり易いくらいです」

 

 相変わらずのヴィートの物言いにデュルクは苦笑する。

 

 「そうか。リースの方も上手くやっているだろう。彼女は優秀だし向かったミネルバにはアレンもいるしな」

 

 デュルクがアレンの名を口にするとヴィートの機嫌はさらに悪くなった。

 

 ヴィートはどうもアレンという奴が前から気に入らなかった。

 

 優秀なのは認めているのだが。

 

 そんな事を考えている内に前方にある大きなデブリの陰にコロニー状の施設が見えて来た。

 

 「あれが……」

 

 「そうだ。あれが目的地だ」

 

 デブリの中に存在するプラント極秘施設『アトリエ』

 

 二人は知る由もないが此処こそが彼らの標的『レイヴン』が探し求めている場所である。

 

 港のハッチが開くと輸送艦が接舷。

 

 それを見届けた護衛部隊も内部に入って行った。

 

 ヴィート達が辿り着いたこの場所で大きな戦いが始まる事になる。

 

 

 

 

 

 極秘施設である『アトリエ』の警戒レベルは最大にまで上がっていた。

 

 度重なるレイヴンの襲撃と散発しているテタルトスとの戦闘により、ここも決して安全ではないと判断されたからである。

 

 輸送艦の護衛に特務隊を付けたのもその表れであった。

 

 だからこれだけ警戒していればどんな事にも対応できる筈であると、『アトリエ』にいる誰もが考えていた。

 

 だがそれは突然訪れた。

 

 『アトリエ』に大きな爆発による振動が襲いかかったのである。

 

 丁度この場に訪れていたヘレンは状況確認の為に管制室に飛び込むと大きな声を張り上げる。

 

 「何が起こったの!?」

 

 「戦艦による攻撃です! 『アトリエ』に向けて撃ち込まれました!!」

 

 「戦艦の攻撃? 一体どこの?」

 

 ヘレンが正体を確かめようとオペレーターに索敵を命じようとする前にその答えが手に入った。

 

 「プレイアデス級一、ヒアデス級二、テタルトス軍です!!」

 

 ヘレンは拳を強く握りしめる。

 

 レイヴンかテタルトスのどちらかがここに来ることは予想の範囲内である。

 

 しかし思った以上にここを嗅ぎつけられるのが早かった。

 

 まだここを落とされる訳にはいかない。

 

 「モビルスーツ部隊を出撃させなさい!」

 

 「了解!」

 

 アトリエを防衛するためにかなりの戦力がここには配備されている。

 

 大丈夫だとは思うが、万に一つの事も考えておかないといけない。

 

 ヘレンは指示を出し終えると、固い表情のまま管制室を後にした。

 

 

 

 

 『アトリエ』の正面にプレイアデス級クレオストラトスが二隻のヒアデス級を従えて、作戦を開始しようとしていた。

 

 「全砲門開け! 合図と同時に一斉射撃!! その後モビルスーツ隊発進!!」

 

 クレオストラトスの艦長が指示を飛ばし、戦艦の全砲門が開くと一斉に砲撃が開始される。

 

 ビームとミサイルがクレオストラトスの前に立ちふさがる障害物を薙ぎ払っていった。

 

 それを確認した艦長は格納庫に通信を入れる。

 

 「少佐、予定通りです」

 

 《分かりました。艦の指揮は一任しますのでお願します》

 

 「はっ」

 

 アレックスは自分の機体のチェックを済ませると、先に出撃しようとしている新型に目を向けた。

 

 LFA-03 『リゲル』

 

 テタルトス最新型主力機である。

 

 この機体最大の特徴は専用コンバットを装備する事で、モビルアーマーに変形が可能となる事である。

 

 それによって機動性のみならず、航続距離も飛躍的に伸び、既存のコンバットも装備可能な万能機となっている。

 

 武装は基本装備にメガビームランチャーを装備している。

 

 リゲルは背中に装備された専用コンバット『フォーゲルコンバット』のスラスターを吹かし、宇宙へ飛び出すと飛行形態に変形。

 

 『アトリエ』目掛けて一直線に進んでいく。

 

 それに続くようにアレックスもカタパルトに移動するとフットペダルを踏み込んだ。

 

 「アレックス・ディノ、ガーネット出る!」

 

 視線の先にはすでにザフトがモビルスーツを展開していた。

 

 予測よりも数が多い。

 

 「全機、作戦通りに敵を引きつけろ!」

 

 「「「了解!」」」

 

 先行していたリゲルがフォーゲルコンバットに装備されているビームキャノンで攻撃を開始する。

 

 リゲルの加速のついた動きに翻弄されたザクはビーム砲に反応する前に撃破されてしまった。

 

 さらにテンペストビームソードで近接戦闘を挑もうとしたグフにビームライフルの銃口下に装備されているロングビームサーベルで斬りかかる。

 

 テンペストビームソードごと上段から袈裟懸けに振り抜いた。

 

 ビームソード諸共に斬り裂かれたグフは爆散、それを尻目に連携を取りながら圧倒していくリゲル。

 

 「リゲルは良い感じのようだ。ならばこちらも」

 

 アレックスはビームライフルで立ちふさがる敵機を狙撃しながら撃ち落す。

 

 あくまでも自分達の役目は陽動だ。

 

 ならばそれらしく派手にやらせてもらう。

 

 アレックスはスラスターを全開にして敵陣の中に突っ込んだ。

 

 「いくぞ!」

 

 ビームサーベルを展開、グフの腕や頭部を斬り飛ばして撃破するとさらにザクを三連ビーム砲で撃ち抜いた。

 

 ザクの爆発に紛れ、援護に向かってきたグフの懐に飛び込むとビームサーベルを一閃。

 

 逆袈裟から叩き込まれたサーベルにグフはなす術無く斬り裂かれ、撃破された。

 

 「良し、このまま―――ッ!?」

 

 次の敵に向かおうとしたガーネットの進路を阻むようにビームが撃ち込まれる。

 

 「増援か!?」

 

 アレックスは機体を逸らして避けると、攻撃してきた相手の姿を確認する。

 

 「あれはザフトの新型」

 

 ビームライフルを構えているのはデュルクのイフリートだった。

 

 そのイフリートのコックピットにいるデュルクは目の前にいる紅い機体に見覚えがあった。

 

 「あいつは前に遭遇したテタルトスのエースか」

 

 レイヴン追撃作戦の時に戦った相手である。

 

 その腕前もヴィートからの報告で聞いていた。

 

 「相手にとって不足なし。ヴィートには悪いが落させてもらうぞ!」

 

 「隊長機か」

 

 イフリートは対艦刀を抜き、ガーネットへ斬りかかってくる。

 

 アレックスは斬撃をシールドで弾きながら、ビームサーベルを上段から振り下ろした。

 

 「甘いぞ!」

 

 イフリートは機体を逸らし、サーベルを回避。

 

 機体を回転させ、ベリサルダを横薙ぎに斬り払ってくる。

 

 「強い!?」

 

 アレックスはベリサルダを後退してやり過ごすとビームライフルを構えて撃ち出した。

 

 正確な射撃。

 

 敵は紙一重で避けているものの、イフリートの装甲はビームが掠めて傷を作っていく。

 

 しかし距離を詰める速度を緩めない。

 

 彼は刃を交えてアレックスの実力をすぐに見抜いた。

 

 これだけの技量の持ち主を相手にして距離をとって戦っても決着はつかない。

 

 だからこそデュルクは接近戦を選択した。

 

 確実に敵を仕留めるために。

 

 左右から連続で叩き込まれる斬撃を流しながら、アレックスも相手の技量に舌を巻いていた。

 

 「流石に隊長機だな。でもだからと言って退く事は出来ない!!」

 

 こちらがいかに敵を引きつけておけるかで作戦の成否は決まると言って良い。

 

 この機体を落とせば敵の士気を下げる事が出来、こちらがさらに有利になる。

 

 「はあああ!!」

 

 「来い!!」

 

 二機は自身の刃を構えて、斬り込んでいった。

 

 

 

 

 戦闘はほぼ拮抗状態になっていた

 

 物量自体はザフトが大きく勝っている。

 

 これは事前に敵襲来を警戒し、防衛戦力を増強していた事が功を奏したと言って良いだろう。

 

 しかしそれでもなおザフトはテタルトスを押し返せずにいた。

 

 その大きな要因の一つが新型機であるリゲルの存在である。

 

 リゲルの想像以上の性能にザクやグフは翻弄され、上手く押し返せなかったのだ。

 

 そしてさらにザフトにとって悪いニュースが飛び込んできた。

 

 最初に気がついたのは『アトリエ』の管制室のオペレーターだった。

 

 「レーダーに反応! 反対方向からテタルトス軍戦艦エターナルとアークエンジェル級です!!」

 

 その報告を受けたヘレンは拳を握って壁に叩きつける。

 

 新型に続いて伏兵まで用意していたとは。

 

 これはもう躊躇っている場合ではない。

 

 ヘレンが決断すると背後から近づいてくる男がいた。

 

 「お困りかな、ヘレン・ラウニス」

 

 「貴方は―――クロード」

 

 いつも通りの笑みを浮かべながら話し掛けてくるクロードにヘレンは苛立ちを募らせる。

 

 「しかし、流石テタルトス。あれほどの新型を用意していたとは」

 

 わざとらしい物言いがさらに苛立つ。

 

 「……そんな事はどうでもいいわ。さっさと出撃しなさい」

 

 「ふ、言われずとも行かせてもらう。それよりもアレを出すという事は―――」

 

 「ええ、そうなるでしょう。しばらく時間を稼ぎなさい」

 

 「了解した」

 

 クロードは乗機であるプロヴィデンスザクに乗り込み機体をチェックする。

 

 こちらの要望通り腰の部分にビームサーベルが追加されているのが確認できた。

 

 これで近接戦闘も可能。

 

 これから戦う相手を考えれば選択肢は多い方が良い。

 

 何せ相手は最高のコーディネイターなのだから。

 

 「これで少しはマシに戦える。さて、行かせてもらおう」

 

 アトリエのハッチが開くとクロードは戦場に向かって飛び出した。

 

 

 

 

 正面から攻撃を仕掛けたアレックス率いる部隊は奮戦していた。

 

 ガーネットが敵隊長機を引きつけ、リゲルが防衛部隊を撹乱する。

 

 これにより作戦の下地は十分に整っていた。

 

 その戦場とは反対側。

 

 『アトリエ』の背後から接近してくるのはエターナルとドミニオンである。

 

 戦場の状況を把握したバルトフェルドはニヤリと笑みを浮かべた。

 

 流石アレックス。

 

 敵の多くは正面に引きつけられていた。

 

 「良し、こちらも作戦開始! 各機出撃させろ!!」

 

 「了解!」

 

 バルトフェルドに従い、ダコスタ達が各部に指示を出すと出撃準備を整えていたモビルスーツ部隊がエターナルより出撃していく。

 

 セレネは先に出撃したリゲルの姿を確認すると、自身の機体を再チェックする。

 

 LFAーX04 『バイアラン・クエーサー』

 

 テタルトス軍が開発した新型機。

 

 元々は地球上での戦闘を考え考案された試作機である。

 

 両肩に搭載している高出力スラスターによって何の装備も無く空中での戦闘が可能で地上だけでなく調整によって宇宙での高速機動戦も出来る。

 

 《セレネ、そいつは試作機だ。無茶はしないようにな》

 

 「了解です。セレネ・ディノ、バイアラン・クエーサー行きます!」

 

 フットペダルを踏み込むと高出力スラスターを噴射させ、出撃する。

 

 凄まじいGにセレネの体がシートに押し付けられる。

 

 想像以上の加速に歯を食いしばり、操縦桿を握って機体を操作すると向ってくる敵機が見えた。

 

 どうやらザフトもこちらに気がついたらしい。

 

 数が少ないのはアレックスが上手く引きつけてくれたおかげだろう。

 

 セレネはどこか嬉しくなり、場違いにも笑みを浮かべた。

 

 「いきます!」

 

 ザクから放たれたミサイルに向け両腕に装備されているビームキャノンのトリガーを引いた。

 

 凄まじい閃光が撃ち出され、ミサイル諸共ザクを撃ち抜くと大きな爆発を引き起こす。

 

 セレネは腕部に格納されているビームサーベルを引き抜き、すれ違いざまにグフをたやすく両断する。

 

 バイアランの機動性に驚いていたザクだったが、すぐさまオルトロス構えて撃ち出してくる。

 

 放たれたビームを機体を傾けて回避したセレネは懐に飛び込むとビームサーベルで砲身ごと叩き斬った。

 

 「良し、いい調子」

 

 セレネは進路を邪魔するデブリをビームキャノンで吹き飛ばし、アトリエに向かって突っ込んで行くと一機のモビルスーツが立ちふさがる。

 

 ヴィートのイフリートだ。

 

 「流石デュルク隊長! 敵の動きを読んで、こっちにも戦力を配置させるなんて」

 

 ヴィートの背後から輸送機を護衛する為に付いてきた機体が次々と出撃していく。

 

 「この新型は俺がやる。他の機体は任せたぞ!」

 

 「「「了解!」」」

 

 セレネは操縦桿を強く握りしめた。

 

 「まだこれだけの戦力が残っていたなんて」

 

 だとしてもやることは変わらない。

 

 「ここを突破する!」

 

 バイアランはイフリートに向かってビームサーベルを横薙ぎに叩きつける。

 

 だがヴィートは甘いとばかりにシールドでサーベルを受け止めると、至近距離からビームショットガンを撃ち込んだ。

 

 「これでぇ!」

 

 セレネはスラスターを全開にして上昇、ビームをやり過ごすと上段から斬りつける。

 

 しかしイフリートは容易く斬撃を捌き、逆に斬り返してきた。

 

 「ッ!」

 

 迫る斬撃に肩部のスライドシールドを展開して受け止める。

 

 そして距離を取ってビームキャノンを撃ち込んだ。

 

 「なかなかやるじゃないか!」

 

 強力なビームをすり抜けるようにかわしたヴィートは敵パイロットの力量に素直に関心する。

 

 そして同時に闘志がわき上がってくるのも感じていた。

 

 彼もエースとしての矜持がある。

 

 故に強敵であろうとも後れは取らない。

 

 「お前はここで仕留めさせてもらうぜ!」

 

 「この敵、強い!」

 

 セレネは敵の力に脅威を感じつつも再び斬り込んできた敵機にビームサーベルを振った。

 

 

 

 

 テタルトス軍の出撃と合わせレギンレイヴの調整を終えたキラは戦場に飛び交うビームの光を見つめながら操縦桿を強く握る。

 

 この戦闘、間違いなく彼が―――クロードが来る。

 

 彼の強さは前大戦から経験済みだ。

 

 さらに今回は機体性能の差もある。

 

 「だけど、やるしかない。キラ・ヤマト、行きます!!」

 

 キラはレギンレイヴを戦場に向けて出撃させる。

 

 レギンレイヴと共にカゲロウも一緒に出撃していく。

 

 彼らにはドミニオンの護衛以外にもやってもらう事がある。

 

 その為にもここを突破しなければならない。

 

 キラは道を開く為、敵部隊に向けてビームランチャーを撃ち込んだ。

 

 モビルアーマーの先端から放たれた光が敵を薙ぎ払うと、アトリエに向かって一直線に向かっていく。

 

 「道は僕が作る! カゲロウ隊はアトリエに! ニーナ、頼む!」

 

 「了解!」

 

 カゲロウを援護する為、派手の動きまわるレギンレイヴに突如四方からのビームが襲いかかる。

 

 「来たか!?」

 

 キラは攻撃を振り切るため機体を加速、バレルロールしながらビームを回避する。

 

 そして背中のスラスターユニットを排除し、両手にもったビームライフルで周囲に展開されたドラグーンを狙ってトリガーを引いた。

 

 連続で撃ち込まれた正確な射撃により、動き回るドラグーンを撃ち落としていく。

 

 しかしそこにビームサーベルを構えたプロヴィデンスザクが懐に飛び込んできた。

 

 「接近戦装備!?」

 

 前の戦闘では確認できなかった武装だ。

 

 ギリギリ斬撃を避けたキラは肩からドラグーンを射出する。

 

 普段ならバッテリーの事を考えるが、今回は出し惜しみは無しだ。

 

 囲むようにドラグーンを配置するとプロヴィデンスザクにビームを撃ち込んだ。

 

 だがクロードは撃ち込まれたビームを容易く回避する。

 

 「君がドラグーンとはね。しかし甘い」

 

 しばらく観察するように動き回っていたプロヴィデンスザクだったが、突然反転すると発射しらビームライフルでドラグーンを破壊する。

 

 「まさか……もう対応してきた!?」

 

 キラは即座にドラグーンを回収するとレール砲を展開して散弾砲を放った。

 

 これ以上ドラグーンは使えない。

 

 あっさり見切られた今、もう意味がないからだ。

 

 いかに予備バッテリーを装備しているとはいえ、余裕がある訳でもない。

 

 プロヴィデンスザクが左右から叩きつけてくる斬撃を小型シールドを構えて受け止める。

 

 「どうした、キラ君。そんなものかな?」

 

 「まだ!」

 

 振るわれたビームサーベルをシールドで弾き、ビームライフルでプロヴィデンスザクを狙う。

 

 しかし上手く操作されたドラグーンが装甲を抉り、体勢を崩されたキラは狙いを外してしまう。

 

 「相変わらず誘導兵器の扱いが上手い!」

 

 さらに肉薄してきたプロヴィデンスザクが振るったビームサーベルが胸部の装甲を斬りつけた。

 

 大きく傷つけられたレギンレイヴは蹴りを入れられ吹き飛ばされてしまう。

 

 「ぐぅ、まだだ!!」

 

 不利な体勢から狙いをつけたビームライフルの一射がプロヴィデンスザクの左肩部装甲をシールドごと吹き飛ばした。

 

 「ふふふ、ははは!! 流石だよ、そうこなくてはな!!」

 

 ドラグーンを展開して四方からビームの雨をレギンレイヴに撃ち込んでいく。

 

 キラはたまらず後退する。

 

 しかしプロヴィデンスザクが配置していたドラグーンはレギンレイヴの行動を読んでいたかのように先回りして攻撃を撃ち込んで来た。

 

 容赦なく次々に撃ち込まれていく閃光が黒い装甲を抉っていった。

 

 

 

 

 アトリエの内部は大混乱に陥っていた。

 

 ヘレンの命令により緊急退避が命じられたからである。

 

 皆が必要な資料や機材を持って格納庫に集まっていった。

 

 そこにはザフトの人間ならば誰もが知っているであろう戦艦が鎮座していた。

 

 ミネルバ級二番艦『フォルトゥナ』

 

 この戦艦はアトリエで最終調整が行われていたのだが、この状況を不利と見たヘレンが脱出の為に使用することを決めたのである。

 

 ヘレンが艦長席に座り、管制室のオペレーター達をブリッジに入れて出港準備を進めていた。

 

 「状況は?」

 

 「はい。人員の退避は完了。機材やデータの移動も八割ほど完了しました」

 

 ヘレンの表情は曇ったままだ。

 

 今の状況ではいつ突破されてもおかしくない。

 

 「ッ!? 外部からハッキングを受けています!!」

 

 コロニーの外壁にモビルスーツが取りついているのが確認できる。

 

 ヘレンは即座に決断した。

 

 「施設の自爆装置作動! 同時にフォルトゥナ発進する! 全機に打電!!」

 

 「し、しかし!?」

 

 「データを奪われては意味がない! 急げ!!」

 

 「り、了解!」

 

 アトリエの自爆装置が作動すると同時に準備の整ったフォルトゥナの前にあるハッチが開いて行く。

 

 「フォルトゥナ発進!!」

 

 

 

 レギンレイヴとプロヴィデンスザクの戦いは続いていた。

 

 煌くビームサーベルがお互いを斬り裂こうと繰り出される。

 

 すれ違う二機が一閃すると、機体の装甲を抉った。

 

 「速い!」

 

 「君もね」

 

 キラは機体の状態を確認する。

 

 殆どの武装を破壊され、スラスターも一部損傷。

 

 引き換え相手の機体は傷ついてはいるが、損傷具合はこちらほどではない。

 

 その時、回り込むように配置されたドラグーンが至近距離からレギンレイヴへビームを撃ち込んだ。

 

 「ッ!」

 

 咄嗟に回避しようとするが間に合わず、撃ちだされたビームが肩の装甲を吹き飛ばした。

 

 コックピットに警報が鳴り響く。

 

 外部装甲はすでに限界だった。

 

 こうなれば仕方無い。

 

 「ドミニオン!!」

 

 《どうした?》

 

 「オオトリ装備を射出してください!!」

 

 《何?》

 

 「急いで!」

 

 キラは両手のビームライフルを使ってプロヴィデンスザクを引き離すとコンソールを操作する。

 

 するとレギンレイヴを覆っていた黒い装甲が一斉にパージ。

 

 中から現れた機体が近づいてくるオオトリ装備を装着すると全身がトリコロールに染まった。

 

 背中に装着されたオオトリがX状の翼を広げるその姿を見たクロードは呟いた。

 

 「イレイズ? いやストライクか?」

 

 キラが乗っている機体は両方の特徴を持っていた。

 

 それも当然。

 

 この機体は前大戦中に破壊されたオリジナルのイレイズにアドヴァンスストライクのパーツを組み込んだものだからだ。

 

 とは言ってもオリジナルのイレイズは多くの問題があった為、大半がストライクのパーツに入れ替えられている。

 

 背中の部分もストライカーパックを装備可能なようにしてある為、もはや原形を留めていない。

 

 特性からイレイズというよりもストライクと言った方が正しいだろう。

 

 キラはオオトリのミサイルをプロヴィデンスザクに撃ち込み、斬艦刀を構えて斬り込んだ。

 

 突っ込んでくるストライクの姿にクロードはニヤリを笑みを浮かべた。

 

 「ふっ、まだまだやれるという訳だ」

 

 クロードは後退しながらドラグーンでミサイルを撃ち落とすと振りかぶられた斬艦刀を右のシールドで弾き、サーベルを叩きつける。

 

 キラは咄嗟に機体を引き、オオトリに装備されているビームランチャーを撃ち放った。

 

 放たれた砲撃をすり抜けるように回避したクロードは動き回るストライクを囲むようにドラグーンを配置して攻撃を加えていく。

 

 「やっぱり上手い!」

 

 キラはオオトリのスラスターを吹かし、ドラグーンをやり過ごしながらコロニー外壁近くを駆け抜ける。

 

 そんなストライクを逃がさないとばかりにビームの雨が降り注いでいった。

 

 「コロニーの損傷も関係無しか!?」

 

 ドラグーンの攻撃が容赦なくコロニーの外壁を破壊し、抉る。

 

 飛び散った破片がストライクの進路を阻み、爆発の衝撃で動きを鈍らせてしまう。

 

 それでもシールドを使って何とか攻撃を受け止めると機体を反転させ、ビームライフルのトリガーを引いた。

 

 ビームライフルの射撃が数機のドラグーンを撃ち落とす。

 

 だがこの数には焼け石に水だ。

 

 降り注ぐビームは全く減る気配がない。

 

 「このままじゃ追い込まれる!」

 

 キラは決死の覚悟で接近すると斬艦刀を横薙ぎに振り抜いた。

 

 振り抜かれた渾身の剣撃。

 

 それがプロヴィデンスザクのビームライフルを斬り裂いて破壊する。

 

 もちろんクロードもやられっ放しではない。

 

 ドラグーンを囮に使い、一瞬キラの視界から機体を隠す。

 

 そして破壊されたコロニーの破片に紛れ、ビームサーベルを構えてストライクの懐に飛び込んだ。

 

 迸る剣閃がストライクに迫る。

 

 キラはスラスターを逆噴射させてに機体を引き、斬撃を回避しようとするが間に合わない。

 

 プロヴィデンスザクのビームサーベルが上段から振り下ろされストライクの左腕を斬り飛ばした。

 

 「ぐぁぁ、このぉ!!」

 

 キラのSEEDが発動する。

 

 クロードはバランスを崩したストライクに止めを刺さんとビームサーベルを突き出した。

 

 しかしストライクは直撃する前にビームサーベルを持った腕に蹴りを叩き込み、剣閃を逸らす。

 

 そして斬艦刀を横薙ぎに振るい、プロヴィデンスザクの右腕を半ばから斬り落とした。

 

 「やる! だが!!」

 

 クロードはストライクを体当たりで吹き飛ばすと四方からドラグーンを撃ち込んだ。

 

 キラは次々と撃ち込まれたビームをスラスターを使って避け、ライフルでドラグーンを撃ち落とす。

 

 しかしやはり数の違いは大きい。

 

 徐々に機体がキラの操縦について行く事が出来ず、反応が遅れ始めた。

 

 「くっ、動きが鈍い」

 

 そしてついにバランスを崩したストライクに群がるようにドラグーンが集まってきた。

 

 キラは咄嗟に機体を逸らすが、反応しきれず右足とオオトリの左翼を破壊されてしまった。

 

 今ので体勢が崩れてしまった。

 

 このままではただの的になるだけ。

 

 一瞬の判断でドラグーンを薙ぎ払おうとレール砲を構えた。

 

 その時、コロニーの港のハッチが解放され一隻の戦艦が発進していく。

 

 「あれは、ミネルバ!?」

 

 キラが驚くのも無理はない。

 

 その形状は現在地上で活躍している戦艦に良く似た形状だったからだ。

 

 クロードは飛び出してきたフォルトゥナを一瞥すると距離を取る。

 

 「……どうやらここまでか」

 

 そしてフォルトゥナのブリッジから戦況を確認したヘレンは即座に指示を飛ばす。

 

 やはりかなり状況は悪い。

 

 あと一歩遅かったら手遅れになっていたかもしれない。

 

 「残ったモビルスーツに帰還信号! 正面のプレイアデス級に向かってタンホイザー発射! 陣形を崩すと同時にアトリエの爆発に紛れて離脱する!」

 

 「了解!」

 

 フォルトゥナから撃ちだされた信号。

 

 それは撤退信号であった。

 

 それを見た各機が退き、フォルトゥナの艦首から閃光が迸ると同時にクレオストラトス目掛けて発射された。

 

 デュルクと交戦しながらその光を目撃したアレックスが叫ぶ。

 

 「クレオストラトス、スラスター全開!! 緊急回避しろ!」

 

 クレオストラトスのクルー達はアレックスの命令を即座に実行した。

 

 右舷スラスターを全力で噴射して、タンホイザーの射線からギリギリで逃れる。

 

 その一瞬後に凄まじい閃光が艦の横を通り過ぎて行った。

 

 何とか直撃だけは避けられたが代償も大きかった。

 

 クレオストラトスが回避運動を取った事で完全に陣形を崩されたテタルトス軍の穴を抜けようとフォルトゥナが移動開始する。

 

 そして次の瞬間、アトリエから大きな爆発が起き周囲のものを吹き飛ばした。

 

 「まさか、自爆!?」

 

 爆発に巻き込まれないようにオオトリをスラスターを全開で噴射させ、何とか退避しようとフットペダルを踏み込む。

 

 しかし爆発の範囲が大きく、爆風に巻き込まれたストライクは吹き飛ばされてしまった。

 

 「ぐああああ!」

 

 キラは機体を操作しスラスターを使って体勢を立て直す。

 

 何とか爆発範囲から逃れると状況を確認するため視線を走らせる。

 

 そこで再びコックピットから警戒音が鳴り響き、プロヴィデンスザクが近寄ってきた。

 

 この損傷では厳しいかもしれないが―――

 

 キラはまだ使えるオオトリのビームランチャーを構えたがその前に意外にも敵機から通信が入ってくる。

 

 「キラ君、決着はまた今度だ」

 

 「なっ、どういう―――」

 

 「そんなモビルスーツに乗っている君とこれ以上戦う気はない。次の時はもう少しマシな機体に乗ってきてもらいたいな」

 

 それだけ言うとクロードは機体を反転させフォルトゥナを追った。

 

 デブリの間からチラリと見えた地球に視線を向けると静かに呟く。

 

 「……さて、そろそろ戻らないとな」

 

 プロヴィデンスザクは先行した戦艦を追って離脱して行った。

 

 キラは退いて行く敵機の姿に息を吐き出すとシートにもたれ掛かる。

 

 危なかった。

 

 もし敵が退かずあのまま戦っていたらどうなっていたかは考えなくても分かる。

 

 次、戦うとしたらこの機体では彼の相手は難しい。

 

 「……ともかく一旦戻ろう」

 

 キラは思考を打ち切ると周囲を警戒しながら帰還するためにドミニオンの方へ機体を向けた。

 

 




時間が無かったので後で加筆するかもしれません。

今回登場したリゲルの基はガンダムUCに登場したリゼルです。
そしてバイアラン、両方ともunnownさんのアイディアを使わせてもらいました。
ありがとうございました。

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