機動戦士ガンダムSEED effect   作:kia

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第28話  消えゆく命

 

 

 

 

 

 蒼き翼を広げたモビルスーツが悠然と舞い降りる。

 

 一見美しさすら感じる光景かもしれない。

 

 だがこの戦場において彼らの介入を喜ぶ者など誰もいないだろう。

 

 少なくとも旗艦のブリッジから見ていたユウナはそうだ。

 

 どこの世界に自分の邪魔をする厄介者を好きになる者などいようか。

 

 ただでさえ勝てるかどうかも分からないというのにフリーダムとアークエンジェルまで介入してきたら余計に勝率が下がってしまう。

 

 「くそぉ! 全軍迎撃だよ! あれを落とすんだ!!」

 

 叫ぶユウナの言葉に従うように周りの通信士達が指示を出し始める。

 

 そしてこの場にはただ一人、彼らの介入を喜んでいた者がいた。

 

 仮面の男、カースだ。

 

 彼だけは愉快そうにフリーダムを見ている。

 

 「来たか。前回は様子見だったが今回は私も参加させてもらおうか」

 

 誰もがフリーダムに視線を集める中、カースは誰にも何も言わずに艦橋を後にする。

 

 とびきり深い憎悪の笑みを浮かべながら。

 

 そしてネオもまた艦橋から戦場の様子を観察していた。

 

 ネオの全身に何かが駆け抜ける。

 

 「……これは。なるほど、ムウ・ラ・フラガ。そして白い一つ目に―――エクリプスか」

 

 さてどうしたものかと思案していたネオの視界に黒いフェール・ウィンダムが出撃していく。

 

 あれは仮面をつけたあの男だろう。

 

 「お手並み拝見といったところか」

 

 ネオはそのまま静かに戦場を見つめていた。

 

 

 アークエンジェルの介入で一瞬だけ動きが止まった戦場もすぐさま激戦が再開される。

 

 敵モビルスーツが上空を飛び、ミネルバに向ってミサイル攻撃が撃ち込まれた。

 

 「トリスタン、撃てぇー!!」

 

 アーサーの掛け声と共に艦尾両舷に設置されている主砲が火を噴いた。

 

 トリスタンの閃光が敵モビルスーツを薙ぎ払っていく。

 

 それでも取りつこうとするダガーLをCIWSがハチの巣にして撃破する。

 

 タリアは思わず拳を握り締めた。

 

 やはり物量が違う。

 

 さらに戦力低下も響き、上手く敵を捌けていない。

 

 「回避! 取り舵!!」

 

 せめてセイバーがいれば違うのだろうが―――

 

 いや、無いものねだりをしても状況は変わらない。

 

 ただ今は突破するために全力を尽くすしかないのだ。

 

 タリアの指示が絶えず艦橋に響き渡る。

 

 そして艦の外でも無数に群がってくる敵部隊を迎撃する為、レイのザクファントムがルナマリアのガナーザクウォーリアと共に奮戦していた。

 

 撃ちこまれたミサイルをレイが迎撃し、ルナマリアがモビルスーツを撃破する。

 

 だが、敵機の数はまるで減らない。

 

 アレンのエクリプスがビーム砲で敵機を薙ぎ払い、リースのイフリートが両手に構えた対艦刀リベサルダを振るいウィンダムを両断する。

 

 しかしそれでもミネルバに襲いかかってくる敵の数が多く手が回らない。

 

 「くっ、ルナマリア、左だ!」

 

 「あ~もう、しつこいのよ!」

 

 ガナーザクウォーリアのオルトロスから閃光が放たれ、敵機を撃ち抜く。

 

 だが撃ち込まれたミサイルが容赦なくミネルバ装甲を抉っていった。

 

 ミサイルの爆発に巻き込まれるミネルバの姿をアビスと交戦しながらシンは歯噛みする。

 

 「ミネルバ! くっ、邪魔だ!」

 

 シンは敵機が海中から飛び出した瞬間を狙いビーム砲を撃ち出すが、アビスには当たらず空中を薙いでいくのみ。

 

 「当たるかよ!」

 

 アウルはお返しとばかりにカリドゥス複相ビーム砲を撃ち込んだ。

 

 シンは咄嗟に機体を横の移動させる事で、直撃を避けた。

 

 だが海面の撃ち込まれたビームが大きな水蒸気を発生させ、視界を塞ぐ。

 

 それを見たアウルはチャンスとばかりに再び海中に飛び込むとインパルスの背後から強襲する。

 

 「このぉ!」

 

 アビスが海上に飛び出してすれ違いざまに撃ち込まれた連装砲をインパルスはホバーで後退しながら回避した。

 

 「チッ」

 

 「このままじゃ!」

 

 流石にこれまで自分達が倒しきれなかった手強い相手である。

 

 しかもここはアビスの独壇場とも言える海だ。

 

 こちらが圧倒的に不利である。

 

 海中から飛び出して来る瞬間を狙い、デファイアントビームジャベリンを横薙ぎに振るう。

 

 だがアビスを捉える事は出来ず、水飛沫を斬るのみ。

 

 そのまま背を向けたアビスからバラエーナ改二連装ビーム砲が撃ち込まれる。

 

 「くっそぉ!!!」

 

 スラスターを逆噴射させ、何とか攻撃をやり過ごし反撃に移ろうとするもアビスはすでに海の中だ。

 

 完全に追い込まれていた。

 

 このままでは敵の攻撃を受けているミネルバの援護に向かう事も出来ない。

 

 焦りは消えず、視線をフリーダムの方へ向ける。

 

 地球軍の機体を薙ぎ払い、突き進んでいく力はまさに圧倒的だった。

 

 それを苦い思いで見つめる、シン。

 

 やっぱり彼らは―――マユは来た。

 

 「俺は……」

 

 シンは思わず唇を噛んだ。

 

 だがここは戦場。

 

 そんなシンの躊躇いが一瞬の隙を生む。

 

 こちらとの戦闘に集中していないインパルスにアウルは苛立ちを募らせた。

 

 「どこ見てんだよ。コラァ!!」

 

 今戦ってるのはこっちだというのに無視された事が屈辱だった。

 

 「無視してんじゃねーよ!!」

 

 海中から飛び出すと、背後からインパルスに三連装ビーム砲を展開して一斉に撃ち出した。

 

 完璧なタイミングで撃ちこまれた、砲撃。

 

 「これで仕留めた、合体野郎!」

 

 アウルはそう確信する。

 

 攻撃を受けたシンもまたアビスからの攻撃に損傷を覚悟した。

 

 やられる!?

 

 その瞬間、シンのSEEDが弾けた。

 

 視界が広がり、鋭い感覚が全身を包む。

 

 迫る閃光がインパルスを貫く直前、シンはコンソールを操作すると背中のブラストシルエットをパージする。

 

 パージしたと同時にブラストシルエットが貫かれ、インパルスに激しい爆発の衝撃が襲いかかった。

 

 シンは歯を食いしばってソレに堪える。

 

 そしてフットペダルを踏み込み機体を回転させ、アビスに突撃。

 

 デファイアントビームジャベリンを叩き込んだ。

 

 「はあああああああ!!!」

 

 「何!?」

 

 アウルは爆煙の中から飛び出してきたインパルスに虚をつかれ完全に反応が遅れた。

 

 仕留めたと思い気を抜いた事も反応が遅れた要因だろう。

 

 それは先ほどのシン同様、一瞬の隙だった。

 

 避ける間もなくデファイアントビームジャベリンがアビスの胸部に突き刺さる。

 

 激しい火花を散らし動きが止まったアビスにインパルスの蹴りが入り、海中に叩き落とした。

 

 凄まじい衝撃が襲われたアウルは朦朧とする意識の中、脳裏に色々な事が浮かぶ。

 

 「……母、さん、スティ、ング、ス、テラ……アオ、イ」

 

 そのまま彼の意識は暗い闇に包まれた。

 

 

 

 

 『I.S.system starting』

 

 それが起動した瞬間、ジェイルの視界が急激に開けた。

 

 ロドニアで感じた感覚と同じだ。

 

 違いがあるとすれば、滾るような激しい怒りと憎悪だろう。

 

 いや、正確には胸に抱えていた感情が解放されたとでもいえば良いのか。

 

 ジェイルは解放された感情に従い、視線を憎むべき相手に向けた。

 

 蒼い翼を翻し、縦横無尽に敵機を駆逐していくフリーダム。

 

 腰から引き抜かれた光の刃が軌跡を描くと立ちふさがるダガーL、ウィンダムの腕や足、胴体を瞬時にバラバラに斬り裂いた。

 

 その鮮やかな早業が余計にジェイルの怒りに火をつける。

 

 「今日、俺がお前を落す!」

 

 相変わらずこちらの事は歯牙にもかけないらしく、完全に無視して艦隊の方へと向かっていく。

 

 「舐めやがって、テメェェェ!!!!」

 

 フォースシルエットのスラスターを吹かし、フリーダムに向かって突撃しようとする。

 

 それを遮るようにイレイズが立ちふさがった。

 

 「どこに行く気だ! お前の相手は俺だ!!」

 

 インパルスにビームマシンガンを撃ちこむアオイ。

 

 立ちふさがる邪魔者にジェイルは咆哮しながら、撃ちこまれた攻撃を回避するとビームサーベルを抜き放った。

 

 「邪魔だァァァ!!!」

 

 迸る閃光がイレイズ目掛けて袈裟懸けに振るわれる。

 

 アオイはその剣閃を見ただけで、冷静に相手の状態を看破した。

 

 間違いない。

 

 この機体のパイロットはあの状態になっている。

 

 「ならば、それに合わせて動くだけだ!」

 

 アオイは機体を横に逸らして、インパルスの剣閃をやり過ごす。

 

 そしてこちらもサーベルを引き抜き、インパルスに斬りかかった。

 

 逆袈裟から振り上げられた斬撃をジェイルは容易く回避するとイレイズ目掛けてサーベルを振りかぶる。

 

 光の剣閃がシールドに阻まれて火花を散らす。

 

 「くっ、強い」

 

 「さっさと落ちろぉ!!」

 

 しつこいまでに食い下がってくるイレイズを突き放すとビームライフルを構えて連射する。

 

 「ぐぅ」

 

 吹き飛ばされたアオイは衝撃を噛み殺し、シールドを掲げて撃ちこまれたビームを弾く。

 

 反撃を試みようとするが、その隙にインパルスは介入してきたフリーダムの方に突撃していった。

 

 「逃がすか!」

 

 アオイはインパルスを追う為にフットペダルを踏み込もうとした瞬間、それが見えた。

 

 下で戦っていたアビスとインパルスだ。

 

 アビスの三連装ビーム砲に撃ち込まれ、装備をパージするインパルス。

 

 そのままアビスに突撃、ビームジャベリンを胸部に突き刺し海中に叩き落とした。

 

 そして爆発と同時に大きな水柱が立つ。

 

 「え?」

 

 何が起きた?

 

 目の前で起こった事が信じられない。

 

 コックピットのレーダーからアビスの反応が消えた。

 

 それが意味する事はただ一つだった。

 

 「アウル? 嘘だろ……アウルゥゥゥ!!!!」

 

 アウルが死んだ?

 

 アオイの脳裏に先ほどまで一緒にいたアウルの姿が思い出される。

 

 一緒にバスケをやって悔しがる姿。

 

 どこか子供っぽい笑顔。

 

 出撃前にも、もう一度勝負しようって約束したのに―――

 

 それももうできないのだ。

 

 「う、うう、ああああああああああああああああああ!!!」

 

 アオイは思わず操縦桿を殴りつけた。

 

 目から涙が零れる。

 

 あいつが殺した!

 

 また!

 

 また、あいつが!!

 

 アオイは涙を流しながら、インパルスの姿を睨みつけ激情に任せて攻撃を仕掛けようと、ビームサーベルを構えた。

 

 だが次の瞬間、コックピットに甲高い警戒音が鳴り響く。

 

 それに気がついた時にはこちらを狙い斬り払われた光刃がイレイズに迫っていた。

 

 アレンのエクリプスである。

 

 動きを止めていたイレイズを狙ってビームサーベルで斬り込んだのだ。

 

 「イレイズか……」

 

 かつての愛機と同型の機体を落とす事になるとは、皮肉ではあるが躊躇う気はない。

 

 アレンはそのままビームサーベルを振り抜いた。

 

 落したと確信するほど完璧な一撃である。

 

 しかしアレンは驚愕して固まった。

 

 「なっ!?」

 

 エクリプスの斬撃はイレイズを捉える事はなかった。

 

 敵は斬り裂こう放たれた光刃をスラスターを使って機体を傾け、回避したのだ。

 

 相手は虚をつかれていた筈。

 

 にもかかわらずあのタイミングで避けるなど尋常な腕ではない。

 

 「まさか避けるとはな」

 

 「こいつ!!」

 

 アオイは激情を宿した瞳でクリプスを睨みつける。

 

 完全に隙をつかれた形となったアオイだったが、彼の鍛え抜かれた技量は考える間もなく反応し機体に回避運動を取らせたのだ。

 

 一瞬、睨みあうように滑空する二機。

 

 「うおおおお!!」

 

 アオイは怒りに任せて、ビームサーベルを迸らせた。

 

 光の軌跡がエクリプス目掛けて襲いかかる。

 

 「ッ!?」

 

 アレンは咄嗟に機体を引くと同時にエクリプスの装甲を掠める様に敵の斬撃が通り過ぎた。

 

 背中に冷や汗が流れる。

 

 反応が少しでも遅れていたならこちらが返り討ちだった。

 

 「こいつは……」

 

 これだけの腕を持ったパイロットが地球軍にいたとは思わなかった。

 

 シンを手こずらせ、ハイネを撃墜したというのも頷ける。

 

 距離を取りサーベラスを構えてトリガーを引こうとした瞬間、カオスがビームライフルを乱射しながら突っ込んできた。

 

 「スティング!?」

 

 「こいつをやるぞ!!」

 

 カオスはサーベルを構えてエクリプスに斬り込むとそれに合わせるようにアオイも動く。

 

 スティングが動きやすいようにビームマシンガンと対艦バルカン砲を使いエクリプスを誘導。

 

 カオスの機動兵装ポッドが左右から挟むようにビームを放つ。

 

 「二機同時か」

 

 敵ながら良い連携だった。

 

 アレンはスラスターを使いビームマシンガンの射線を外しながら、エッケザックスを構えると動き回る機動兵装ポッドを上段から斬り払った。

 

 エッケザックスが機動兵装ポッドを両断すると、バレルロールしてイレイズにサーベラスを撃ち込む。

 

 「ッ!?」

 

 アオイは目一杯操縦桿を押し込み機体を旋回させ、ギリギリビームを回避した。

 

 やっぱりこいつは強い。

 

 すぐに連携を崩されてしまった。

 

 「だからって!!」

 

 「お前に構ってる暇なんてないんだよ!!」

 

 イレイズとカオスは再び連携を取りながらエクリプスに向かって攻撃を仕掛けた。

 

 アオイは対艦バルカン砲を放ちながら横薙ぎにビームサーベルを叩きつける。

 

 「これで!」

 

 エクリプスはバルカン砲を避けつつ、横薙ぎに叩きつけられたサーベルの切っ先をシールドで弾く。

 

 同時に突き放すが、背後からカオスの機動兵装ポッドのミサイルが撃ちだされた。

 

 即座に反応してサーベラスで薙ぎ払うと破壊されたミサイルが爆煙を上げてアレンの視界を塞いだ。

 

 「チャンスだ!」

 

 スティングはそのまま爆煙を突っ切って、エクリプス目掛けてサーベルで突きを放つ。

 

 しかしアレンにとっては迂闊としか言えない。

 

 こちらと拮抗出来ていたのは間違いなく二機が連携を取っていたから。

 

 それを単機で突っ込んでくるなど―――

 

 「これで終わりだ」

 

 アレンはカオスの放った突きを機体を逸らすのみで避けると、下に構えたエッケザックスを振り上げた。

 

 仕留めたと思っていたスティングは当然その攻撃に反応できない。

 

 対艦刀の一撃がカオスの右手を斬り裂くとアレンはさらに返す刀でそのまま振り下ろした。

 

 その攻撃が左手を破壊、カオスはそのまま海面に墜落していった。

 

 「うあああああ!」

 

 「スティングゥゥ!!! 貴様ァァァァ!!」

 

 スカッドストライカーを吹かしてエクリプスに突撃する。

 

 アレンはイレイズの放った剣撃を機体を沈み込ませてやり過ごし、対艦刀を構えて応戦した。

 

 

 

 

 艦隊からの砲撃が飛び交う中、マユはレティシアと予定通りに旗艦目掛けて突き進んでいた。

 

 立ちふさがる敵機の攻撃を避けながら、ライフル、サーベル、レール砲など巧みに使い分け、ダガーLを落としていく。

 

 それはブリュンヒルデも同じだ。

 

 斬艦刀が敵機の砲身を斬り裂き、ビームライフルで胴体を撃ち抜いていく。

 

 「もう少しです、マユ」

 

 「はい!」

 

 この場を抜ければ旗艦に辿りつける。

 

 そして任務を果たした後は―――アストの下に向かう。

 

 彼の話を聞かせてもらうのだ。

 

 ウィンダムが放ったミサイルを機関砲で迎撃、すれ違いざまにビームサーベルで斬り裂く。

 

 このままいけるかと思いきや、マユの背後から急速に接近してくる機体に気がついた。

 

 こちらを正確に狙ってくるビームを避けながら、ライフルを構える。

 

 マユの視線の先には、ある意味馴染み深い機体がいた。

 

 「インパルス!?」

 

 兄のシンか?

 

 いや、機体色や動きも違いがある。

 

 おそらく別人だ。

 

 「落ちろ! 死天使!!」

 

 ジェイルはようやく追いついたフリーダムの姿に更なる憎悪を燃やしながらライフルのトリガーを引いた。

 

 彼の感情を吐き出すようにライフルから発射される閃光。

 

 それをフリーダムはたやすく回避すると、逆にライフルを構えて撃ち返してくる。

 

 それが余計に彼の感情を逆撫でする。

 

 「はああああ!!!」

 

 フリーダムの射撃をシールドで弾きながら、サーベルを構えて肉薄すると躊躇う事無く振り抜いた。

 

 「今度こそ!!」

 

 蒼い翼を斬り裂く為に振るわれた剣閃が、フリーダムに迫る。

 

 だがマユは決して焦る事無く、シールドを使っていなすと、逆に下から斬り上げた。

 

 普通のパイロットであればこれで終わっていたに違いない、

 

 だが今のジェイルは普通ではなかった。

 

 斬り上げられたビームサーベルの斬撃が見える。

 

 ジェイルは操縦桿を引くと、インパルスの装甲を掠めるようにサーベルが流れた。

 

 それに驚いたのはマユである。

 

 「避けた!?」

 

 「前と同じだと思ってんじゃねぇぇぇ!!!」

 

 咆哮を上げて斬りかかるジェイル。

 

 「くっ」

 

 フリーダムを斬り裂こうとする剣撃を流しながら、マユもまた反撃に転じた。

 

 「マユ、援護を―――ッ!?」

 

 フリーダムとインパルスの戦いに割って入ろうとしたレティシアの進路を阻むようにビームライフルが撃ち込まれる。

 

 ブリュンヒルデの前に立ちはだかったのはイフリートだった。

 

 「ザフトの新型!?」

 

 レティシアは機関砲で牽制を行いながらも、斬艦刀を抜く。

 

 イフリートはスラスターを使って回避運動を取りながら、両手に対艦刀を構え突っ込んで来た。

 

 左右から振り降ろされた対艦刀ベリサルダをレティシアは機体を逸らしてやり過ごすと、斬艦刀グラムを袈裟懸けに振り抜いた。

 

 だがイフリートは肩のシールドで斬艦刀を弾くと左手の対艦刀を横薙ぎに叩きつけてくる。

 

 「……やりますね」

 

 レティシアは機体を後退させ、ベリサルダの斬撃をいなすと相手の技量に舌を巻く。

 

 強い。

 

 流石に新型を任されるだけの技量を持っている。

 

 右手の対艦刀をシールドで受け止めると意外な事に敵機から若い女の子の声が聞こえてきた。

 

 《……貴方がレティシア?》

 

 こちらの名前を知っている?

 

 だがこの声に覚えはない。

 

 「誰ですか?」

 

 《そう、貴方がレティシアなんだ……じゃあフリーダムの子がマユ》

 

 マユの事まで知っている。

 

 このパイロットは一体。

 

 イフリートの斬撃を弾き、ビーム砲を撃ち込んで距離を取る。

 

 しかし敵機はビーム砲をすり抜ける様に潜り抜けて、再び対艦刀を振るってきた。

 

 左右から振り抜かれる斬撃をシールドで弾きながら、こちらもまた斬艦刀を逆袈裟に振り下ろす。

 

 イフリートがシールドで受け止めると同時に通信機から不気味なほど感情の籠らない声が聞こえてくる。

 

 《じゃあフリーダムは後回し……まず貴方から―――死んで》

 

 「なっ」

 

 下から掬いあげる様に振り上げられた対艦刀がブリュンヒルデを斬り裂こうと迫ってくる。

 

 レティシアは機体を横へと流し、イフリートをシールドで殴りつけて体勢を崩した所に斬艦刀を叩きつけた。

 

 この敵は危険だ。

 

 少なくともマユの所へは行かせられない。

 

 「ここで倒す!」

 

 そう決めたレティシアはスラスターを吹かし、イフリートに突っ込んだ。

 

 

 イフリートとの戦いに集中し始めたブリュンヒルデの傍ではフリーダムの戦いが続いている。

 

 「落ちろぉ!!!」

 

 インパルスの射撃を避けながら、こちらも撃ち返していく。

 

 だがジェイルはそれらをたやすく回避すると、今度はビームサーベルを構えて突っ込んできた。

 

 「強い」

 

 兄のシンにも劣らない技量だ。

 

 さらにこちらに対する殺気も異常なほど伝わってくる。

 

 まるで前回のセリスのように。

 

 インパルスの放ったサーベルの切っ先がフリーダムの肩部を掠めていく。

 

 「くっ」

 

 確かに強いがそれでも負けられない。

 

 両機が弾け飛び、距離を取る。

 

 「これ以上時間は掛けられない。次で決着をつけます」

 

 インパルスが突っ込んでくるのに合わせ、マユもまた前に出る。

 

 再び激突する二機。

 

 そしてマユのSEEDが弾けた。

 

 上段から振り下ろしてくるインパルスの斬撃をシールドで掬いあげる様に弾き飛ばすと蹴りを叩き込む。

 

 「ぐっ」

 

 腰のレール砲を展開してインパルスを吹き飛ばすと、懐に飛び込みビームサーベルで背中のフォースシルエットを斬り裂いた。

 

 この戦いはマユの勝ちだった。

 

 しかしインパルスのシルエットを破壊したマユの表情は曇っている。

 

 やはり強い。

 

 今ので撃墜するつもりだったのだが、あのパイロットは回避運動を取って機体への損傷を避けた。

 

 あのパイロットはきっとこれからも強くなる。

 

 今度戦う時があるとするならこうも簡単にはいかないだろう。

 

 マユは背中に冷たいものを感じながら、落下していくインパルスを尻目に接近していた旗艦に向けて攻撃を開始した。

 

 すべての砲身を展開してフルバーストモードになると一斉に砲撃を開始する。

 

 凄まじい閃光が発射され、アストレイやムラサメを撃ち落としていく。

 

 それを阻止しようとしてくる敵機を返り討ちにしながらマユはひたすらアストレイやムラサメを狙って攻撃を加えていった。

 

 

 

 

 

 フォースシルエットを破壊されたジェイルはスラスターを逆噴射させ墜落だけは免れようと操縦桿を動かしていた。

 

 「くそぉぉぉ!!」

 

 負けた。

 

 またあの死天使に負けた。

 

 耐えがたい屈辱がジェイルの中に渦巻いていく。

 

 インパルスは何とか海面に降り立つ。

 

 再びフォースシルエットを射出するように通信機のスイッチを入れた。

 

 「このまま逃がして堪るか!」

 

 今度こそあいつを落としてやる!

 

 そう考えたジェイルに意外な相手が近づいてくるのが見えた。

 

 黒い機体、ガイアだ。

 

 モビルアーマー形態で戦艦の甲板を飛び移りながらこちらに迫ってくる。

 

 どうやらやる気らしい。

 

 さらに言えば戦艦からの砲撃が逐一降り注いでくるのも、鬱陶しかった。

 

 フリーダムとの戦いには邪魔なだけだ。

 

 ならまずは―――

 

 「ミネルバ、ソードシルエットを射出!!」

 

 《は、はい》

 

 ジェイルは破壊されたフォースシルエットをパージして飛び上がる。

 

 そしてシルエットグライダーの進路を邪魔する敵をライフルで撃ち落としながら、ソードシルエットを装着した。

 

 「残らず俺が落してやる!!」

 

 敵艦の甲板上に降り立ち、対艦刀エクスカリバーを構えてガイアに向けて上段から振り下ろした。

 

 「はああああ!!」

 

 「くぅ」

 

 インパルスが叩きつけたエクスカリバーの一撃をステラはシールドを掲げて受け止める。

 

 斬り返そうとするがインパルスの動きはステラの反応をさらに上回っていた。

 

 サーベルを振り上げる直前にインパルスは膝蹴りをガイアの胴体に直撃させる。

 

 直撃を受けたステラに凄まじい衝撃が襲う。

 

 吹き飛ばされ甲板から落とされそうになるが、ギリギリで踏ん張る。

 

 そして歯を食いしばって衝撃に耐えるとインパルスを睨みつけた。

 

 エクステンデットとして強化されていなければ、今ので意識を失っていたかもしれない。

 

 「こいつ!!!」

 

 ステラは怒りで我を忘れ、ビームサーベルを構えて突撃した。

 

 「遅いんだよ!!」

 

 ジェイルにその刃は届かない。

 

 ガイアの放ったビームサーベルを機体を沈めて回避すると、左手のエクスカリバーを下から斬り上げて右腕を斬り落とす。

 

 「な!?」

 

 「これで終わりだぁ!!」

 

 ジェイルは上段に構えた右手のエクスカリバーを振り下ろした。

 

 ステラは機体を後退させるが、一瞬インパルスの斬撃の方が速い。

 

 袈裟懸けに斬り裂かれガイアは甲板の上に背中から倒れ込んだ。

 

 同時にVPS装甲が落ちて色を失う。

 

 「浅かったか」

 

 ガイアが爆発しなかったのはパイロットが咄嗟に機体後退させた為だろう。

 

 おそらくまだパイロットは生きている筈だ。

 

 ジェイルは止めを刺すためにガイアに近づき、エクスカリバーを振り上げる。

 

 その時、彼の目にパイロットの姿が見えた。

 

 「えっ、ま、まさか」

 

 ヘルメットの間から見えたのは綺麗な金髪。

 

 その顔にも覚えがあった。

 

 「……ステ、ラ」

 

 その瞬間、システムが停止すると今までの過負荷がジェイルに襲いかかる。

 

 「ぐぅぅぅ、な、なんで」

 

 意識を失いそうなほどの頭痛。

 

 そんな痛みと纏まらない思考の中でジェイルはただ呆然と倒れ込んだガイアの姿を見つめていた。

 

 

 

 

 ミネルバは依然として窮地に立たされていた。

 

 群がる敵機は減らず、絶えず砲弾が降り注ぐ。

 

 「くそ!!」

 

 フォースシルエットに換装したシンは襲いかかってくるウィンダムをビームライフルで次々と撃ち落としていく。

 

 しかしそれでも捌ききれない。

 

 先ほどまでジェイルとフリーダムが交戦しているのが見えた。

 

 その光景を見るだけでも、忸怩たる思いが湧き上がる。

 

 だがミネルバを見捨てる訳にはいかなかった。

 

 インパルス目掛けて撃ち込まれたミサイルをCIWSで撃ち落とし、ビームライフルで狙撃する。

 

 その爆煙に紛れてインパルスを突破していく機体があった。

 

 スウェンのストライクノワールである。

 

 「今行かせたらミネルバは!?」

 

 追おうとするもウィンダムやダガーLがそれを阻むようにビームサーベルを振るってくる。

 

 「邪魔だぁ!!」

 

 ウィンダムの振りかぶられたビームサーベルが機体に届く前に蹴りを入れ、態勢を崩した隙にビームライフルで撃ち落とす。

 

 SEEDを発動させているシンはまさに鬼神の如き戦いぶりで、敵機を薙ぎ払っていった。

 

 そんなインパルスを尻目にスウェンはミネルバに直接攻撃を掛ける。

 

 もちろんそれを黙って見ているレイやルナマリアではない。

 

 「やらせないわよ!」

 

 ストライクノワール目掛けてオルトロスを放つ。

 

 迸る様に撃ち出された閃光が黒い機体目掛けて迫る。

 

 「正確な射撃だ」

 

 流石ミネルバのパイロットといったところだろうか。

 

 スウェンは焦る事無く海面スレスレの位置から一気に上昇してオルトロスの一撃を回避する。

 

 そしてビームライフルショーティーを構え、ルナマリアのザクを狙って撃ち込んだ。

 

 甲板の上で身動きがとれないザクはビームライフルショーティーの攻撃を避ける事が出来ない。

 

 撃ち込まれたビームによってオルトロスの砲身は破壊され、生じた爆発で吹き飛ばされた。

 

 「キャアアア!」

 

 「ルナマリア!?」

 

 レイの視界を遮る爆煙が晴れた後にはルナマリアのザクが無残に破壊され、倒れ込んでいるのが見える。

 

 アレでは完全に戦闘不能だ。

 

 レイはこちらを狙うストライクノワールに照準を合わせてトリガーを引く。

 

 ザクファントムのビーム突撃銃がストライクノワールに襲いかかる。

 

 スウェンはビームを掻い潜る様に肉薄すると、フラガラッハ対艦刀をザクファントムに叩きつけた。

 

 「お前もいい加減に邪魔だ」

 

 「やらせるか」

 

 フラガラッハをシールドで弾き、ブレイズウィザードのミサイルを撃ち出す。

 

 スウェンはそれらを迎撃しながら、ミネルバに取りつこうと再び攻勢に出る。

 

 「やめろぉぉ!!」

 

 その時、妨害していた敵機を薙ぎ払ったシンが背後からストライクノワールに突っ込んで来たのだ。

 

 「チッ」

 

 スウェンは機体を引くと逆袈裟から振るわれたサーベルの斬撃を回避する。

 

 しかしシンの攻撃はそれで終わらない。

 

 持っていたサーベルを後退するストライクノワールに投げつける。

 

 スウェンは驚異的な反応でサーベルを弾くが、その隙に懐に飛び込んできたインパルスはもう一本のサーベルを袈裟懸けに叩きつけてくる。

 

 それでもなお回避行動を取るが機体が付いてこない。

 

 インパルスの斬撃がストライクノワールの右腕を斬り落とした。

 

 「くっ、ここまでか」

 

 後退しようとするスウェン。

 

 だがレイは逃がさないとばかりにビーム突撃銃で狙撃してくる。

 

 「相変わらず邪魔な奴だ」

 

 スウェンはビームライフルショーティーでザクの左腕を撃ち落とし、フラガラッハを投げつけて頭部を斬り飛ばした。

 

 「ぐあああ!!」

 

 「レイ!?」

 

 シンは後退するストライクノワールを睨みつけるが、艦隊からの砲弾の雨が降り注ぎインパルスの進路を阻んだ。

 

 「追わせないつもりかよ!」

 

 このままではミネルバが持たない。

 

 「くっそぉぉ!! ミネルバ、ソードシルエットを!! 邪魔な艦を排除する!!」

 

 《はい》

 

 ミネルバから射出されたソードシルエットに換装したシンは対艦刀を構えると地球軍の艦に飛び移り、砲台やブリッジを斬り裂いていく。

 

 邪魔な砲台を優先してエクスカリバーを一閃。

 

 斬り裂き撃沈させた艦から別の艦に飛び移ると艦橋を叩き斬っていった。

 

 

 エクリプスと交戦していたアオイの視界に炎を上げて沈んでいく味方の艦が見えた。

 

 それを行っているのは宿敵のインパルスだった。

 

 二振りの対艦刀を自在に振り、艦を斬り裂いて行く。

 

 今すぐにでも駆けつけたいところだが、強敵であるこいつを野放しにする事はできない。

 

 でも、このままでは艦隊は全滅するかもしれない。

 

 高速ですれ違いながら、互いにサーベルを一閃する。

 

 何度も繰り出し、敵を斬り裂こうと振るわれる剣閃はエクリプスを捉えられない。

 

 倒せない目の前の敵に対してアオイの焦りは募る一方であった。

 

 その時、黒い影が戦闘に割り込んでくる。

 

 フェール・ウィンダムだ。

 

 大佐のではない。

 

 一体誰の機体だ?

 

 突然の乱入に驚くアオイに通信が入ってきた。

 

 モニターに映っていたのは、不気味な仮面をつけた者。

 

 遠目でしか見た事がなかったが、確か名前は―――

 

 「邪魔だ。さっさと下がれ。こいつは昔から私の獲物だ」

 

 「いきなり何なんだ」

 

 突然割って入ってきた相手の物言いに腹が立つが下がれというならこちらは行くべき場所に行かせてもらうだけだ。

 

 自分が戦うべき相手、インパルスの所に。

 

 アオイは何も言わずに反転すると暴れまわっているインパルスの下に向かった。

 

 「さてこれで邪魔者はいなくなったな。なあ、アスト」

 

 「……カースか」

 

 ガルナハン基地で交戦したこちらの素性を知る仮面の男。

 

 分かっているのはこちらに対して激しい憎悪を持っているという事だけ。

 

 「この前のダーダネルスにも居たんだがな。あの時は様子見をさせてもらった。それでどうだった? レティシアやマユ・アスカと敵として対峙した気分は」

 

 「貴様」

 

 「その時のお前の顔を真近で見られなかったのは非常に残念だった。今回も同じ様に傍観するか、フリーダムの相手をしても良かったが、いい加減あの坊ちゃんのお守りも飽きてきたからな」

 

 これ以上カースの言葉を聞く必要はない。

 

 アレンは即座に操縦桿を押し込み、フェール・ウィンダムをサーベルで斬り払った。

 

 しかしカースはエクリプスの斬撃を機体を上昇させて避けると同時に三連ミサイルを撃ち込んでくる。

 

 後退しながらミサイルを頭部機関砲で撃ち落とした。

 

 だがそれはカースも織り込み済みである。

 

 即座に爆煙を避ける様に機体を旋回させ、ビームマシンガンを撃ち込んでくる。

 

 アレンはシールドを掲げてビームを弾くと同時にサーベラスのトリガーを引いた。

 

 強力な閃光が発射され、フェール・ウィンダムを穿とうと迫っていく。

 

 カースは機体を半回転させビームをやり過ごし、同時にサーベルを横薙ぎに斬り払ってきた。

 

 フェール・ウィンダムの剣閃をシールドを掲げて受け止めるとエクリプスの装甲を火花が照らした。

 

 「……カース、お前は、まさか」

 

 「そんな事はどうでもいい。死ね! アスト!!」

 

 エクリプスとフェール・ウィンダムは互いに弾け飛ぶと、激突を繰り返した。

 

 

 シンのインパルスがまた一つ地球軍の戦艦を斬り裂き、撃沈させた。

 

 これで何隻目だろうか。

 

 戦闘はすでに終息しようとしている。

 

 シンはチラリとミネルバに視線を向けると残った武装を使って敵を迎撃しながら近づいてくるのが見えた。

 

 艦全体が酷い有様ではあるが何とか無事のようだ。

 

 もう少しで地球軍も撤退するだろう。

 

 後一息だ。

 

 シンは次の戦艦にスラスターを吹かして飛び移ろうとした。

 

 その時―――

 

 SEEDによって研ぎ澄まされたシンの視界に急速に迫ってくるものを捉える。

 

 「なっ!?」

 

 それが投げつけられたブーメランであると気がついた瞬間、シールドを横に振るい弾き飛ばした。

 

 そしてコックピットに敵機接近の警戒音が鳴り響く。

 

 「イレイズか!?」

 

 凄まじい加速で突っ込んで来たのはシンにとって忌々しく邪魔な敵であるイレイズであった。

 

 対艦バルカン砲を放ちながらビームサーベルを構えて突っ込んでくる。

 

 丁度良い。

 

 いい加減に鬱陶しいと思っていたところだ。

 

 「ここで決着をつけてやる!! 今日こそ落とす! イレイズ!!」

 

 イレイズが攻撃してくるタイミングを合わせてカウンター気味にエクスカリバーを振り抜いた。

 

 これで損傷させる事はできなくとも勢いを殺す事はできたはず。

 

 しかし次の瞬間、シンはそれが甘かったと知ることになる。

 

 インパルスの放った斬撃をイレイズは機体をバレルロールさせ回避する。

 

 そしてビームサーベルを叩きつけ、エクスカリバーを刀身半ばから叩き折ってきたのだ。

 

 「なに!?」

 

 さらに懐に飛び込んできたイレイズが振るったサーベルが眼前に迫る。

 

 驚きながらもシンはシールドを掲げて剣閃を直前で受け止めた。

 

 そこでイレイズのパイロットの声が聞こえてくる。

 

 《インパルス!!》

 

 これがイレイズのパイロットの声?

 

 同い年くらいの少年の声だ。

 

 それにこの声はどこかで聞いた事がある気がする―――

 

 余計な雑念を振り払い、シンは操縦桿を押し込んだ。

 

 「このぉ!!」

 

 シールドでサーベルを押し返し、残った左手のエクスカリバーを叩きつける。

 

 しかしイレイズは信じがたい反応速度で致命傷を避け、逆に反撃に転じてきた。

 

 シンはイレイズに対して脅威を感じつつ、対艦刀を振り続ける。

 

 「うおおおおおお!!!」

 

 エクスカリバーとビームサーベルの切っ先がお互いの機体を傷つけていく。

 

 刃が掠め、装甲が抉られた。

 

 シンはビームサーベルの斬撃を流しながら、思わず歯噛みした。

 

 前から分かっていた事だけど本当に強い。

 

 前回よりもまた技量が向上しているのではないだろうか。

 

 「何なんだこいつは!」

 

 その技量は自分と互角。

 

 普通のコーディネイターパイロットの力を確実に上回っている。

 

 もはやナチュラルとは信じがたい力量と反応速度だ。

 

 シンは知るよしもないがアオイはこの時、SEEDを発動させていた。

 

 確実にインパルスを葬る為にここで切り札の使用を決断したのである。

 

 SEED同士の戦いは高レベルの攻防となって周囲の機体を寄せ付けない。

 

 「だとしても負けてたまるか!!」

 

 意気込む、シン。

 

 しかし次の瞬間、聞こえてきた声にシンは動きを鈍らせてしまう。

 

 《許さない!! よくもアウルを! 父さんを! 全部お前がぁぁ―――!!》

 

 「なっ」

 

 動きを鈍らせたインパルスにイレイズの放った斬撃がコックピットハッチを吹き飛ばした。

 

 シンの眼前に広がるのは倒すべき敵機の姿。

 

 「ぐぅ、うおおお!!」

 

 シンはエクスカリバーを捨て、背中のフラッシュエッジビーメランを逆手で引く抜くとイレイズ目掛けて叩きつけた。

 

 ブーメランの刃がイレイズを逆袈裟に斬りつける。

 

 その一撃がイレイズのコックピットハッチを傷つけた。

 

 「えっ?」

 

 「あっ?」

 

 お互いの機体を斬り裂こうと接近していたからか、へルメット越しに互いの顔がはっきり見えた。

 

 それはつい最近、紛れも無く偶然の出会いだった。

 

 もう二度と出会う事など無いとそう思っていたのに―――

 

 

 「アオイ?」

 

 

 「シン?」

 

 

 

 シン・アスカとアオイ・ミナト。

 

 

 

 運命に選ばれた二人の少年は再び戦場にて邂逅した。

 


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