デブリの陰に隠れながらドミニオンはテタルトスから指定されたポイントに移動していた。
アレックスからの提案を聞いたキラはドミニオンに帰還、共同戦線の件をナタル達に話した。
話し合いの結果、ドミニオンはテタルトスの提案を受ける事にした。
もちろん理由はいくつかある。
その一つが先の輸送艦の件である。
クロードの発言や防衛部隊の規模を考えるとあれが『アトリエ』に向っていたのは間違いなかった。
だが今回襲撃を受けた事でプラント側が警戒を強くしたのもまた事実である。
当然輸送艦のルートは変更され、護衛の部隊もさらに増強されただろう。
同じように追跡しようとしても、向うもさせないように防備を敷くはず。
つまり同じ手は使えない。
しかもある程度の位置が絞れたとはいえこちらは『アトリエ』の正確な場所を特定できた訳ではない。
それに引き換えテタルトスの方は何かしらの情報を握っているのは確か。
でなければ共同戦線の提案などしてこないだろう。
そしてもう一つの理由が敵の戦力である。
輸送艦の防衛部隊でさえもかなりの数が確認されていた。
となれば重要施設である『アトリエ』にはそれ以上の戦力が配置されている可能性が高い。
仮にドミニオンが『アトリエ』の場所を掴んだとしても単艦で戦うのは自殺行為である。
いくらキラが卓越した技量を持っていたとしても単機では限度がある。
しかもクロードがいるとなればなおさら厳しいのは考えるまでも無い。
だからあえてナタルは賭けに出た。
ある程度のリスクは承知の上でテタルトスの申し出を受ける事にしたのだ。
「もうすぐ指定されたポイントです」
「前方に戦艦四隻を確認、テタルトス軍プレイアデス級一、ヒアデス級二、そしてエターナルです」
ブリッジのオペレーターが息をのんだ。
気持ちは分かる。
あれだけの戦力を用意しているとは、それだけテタルトスが本気という事だ。
「プレイアデス級の横につけろ」
「了解」
ナタルは息を吐き出すと気を引き締めて艦長席から立ち上がった。
キラと数名の部下と共にクレオストラトスに乗り込むと、出迎えにアレックスが待っていた。
ナタルやキラ達が敬礼すると向うも敬礼を返してくる。
「ドミニオン艦長、ナタル・バジルールです」
「この部隊を指揮しているアレックス・ディノ少佐です」
一緒についてきた部下達が目の前にいる若者が指揮官である事に驚いている。
ナタルは事前に話を聞いていた事もあり驚きも無く、差し出された手を握った。
キラは極力感情を押し殺しアレックスの姿を見ていたが、彼の後ろに立っている男に驚愕してしまった。
何故ならキラが知っている、死んだはずの男だったからだ。
アンドリュー・バルトフェルド。
キラ、そしてアストと砂漠で死闘を繰り広げた男だ。
彼は初めから気が付いていたのかウインクしながら笑みを浮かべている。
生きていたのか―――
どこかホッとしたような気分になりながら、それを悟られないように視線を外す。
お互いの自己紹介を済ませるとブリーフィングルームに案内されたナタル達が席につくと作戦に関する話し合いが始まる。
アレックスがモニターの前に立つと席に座った全員を見据えた。
「さて早速今回の作戦についてのブリーフィングを行いたいと思います。質問等は最後に纏めてお願いします。作戦目的はプラント極秘重要施設の制圧、最悪破壊すること。場所はすでに判明しています」
設置されているモニターに宙域図が表示される。
示された場所はキラ達が追尾していた艦が向っていたさらに先―――L3とL5の境目だった。
「この場所にある無数のデブリの中に―――普段はミラージュ・コロイドで姿を隠しているようですがコロニー状の施設が存在し、ザフトの輸送艦や護衛部隊が入っていくのを確認しています。当然それ相応の防衛部隊が配置されている事も把握済みです」
モニターにデータが表示されると、キラ達は僅かに顔を顰めた。
予想通り結構な敵の数。
これを突破するのは容易ではない。
テタルトスの部隊がいかに精強でも、苦戦は免れないだろう。
「そこで今回は部隊を二つに分け、正面から攻める部隊が敵を引きつけ、そして反対方向から別部隊が奇襲を仕掛ける。そしてドミニオンには奇襲部隊に加わってもらいたい」
「了解しました」
「ただこの施設は新型の開発を行っているようですので、その辺も注意してください。それからこちらも試作型を投入する事になる。該当するパイロットは後でマニュアルなどよく確認しておく事。何か質問は?」
話を聞いていたナタルは質問の為に手を挙げる。
「よろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「今回の作戦目的ですが、施設の制圧はともかく破壊するのは我々としては―――」
アレックスは分かっていると言わんばかりにナタルの言葉を手で制した。
「そちらの事情は承知しています。こちらも目的自体は同じなのですから。あくまでも破壊するのは最悪の場合のみです。ドミニオンを奇襲部隊に加わって貰ったのはコロニー内に突入してもらう事も考慮した結果です」
「なるほど」
つまりこの作戦ではテタルトスの方でもコロニー内の侵入を考えているという事だ。
「では作戦内容は以上です。詳しい概要はデータで送っておきますので、作戦前にもう一度確認しておいてください」
アレックスが話しを纏めると会議は解散になった。
ナタル達がもう少し話を詰める為、テタルトスの士官達と会話している間にキラはブリーフィングルームを出た。
今回は厳しい戦いになる。
しかも敵にはあのクロードがいるのだ。
気を引き締めなければと思いながら通路を歩いていると声を掛けられた。
「キラ」
振り返った先にはアレックスが立っていた。
二人で顔を合わせるのはいつ以来だろうか。
ヘリオポリスで再会してから碌に話す暇も無く敵として戦ってきた。
こうして正面から向き合うと何を言っていいのか分からない。
気まずい雰囲気ではあるが、今はもう敵同士ではなのだ。
少なくとも今回は一緒に戦う事になる。
気まずいままでは良くないかとキラは笑みを浮かべ、努めていつも通りに話しかける事にした。
「久しぶりだね。アス―――いやアレックス」
その意図を汲み取ったのかアレックスもいつも通りに話をする事にした。
「ああ。お前も元気そうだな、キラ」
メンデルで別れて以来、もうこんな風に話事などないと思っていただけに再び会話を交わしているのがなんとも不思議な感じである。
「少し聞きたい事がある」
「答えられることなら」
「奴は―――アスト・サガミは何故ザフトにいる?」
その質問にキラは何も答えない。
重ねて質問をしようとしたアレックスに別の人物が近づいてきた。
「アレックス」
「セレネ、どうした?」
アレックスの傍に来たのはマユと同じくらいの長い黒い髪が特徴的な美しい少女だった。
セレネと呼ばれた少女はキラに気がつくと、笑みを浮かべて手を差し出した。
「セレネ・ディノです」
「えっ、ああ、キラ・ヤマトです。よろしく」
セレネの手を握りながら、彼女の姓がアレックスと同じ事に気が付く。
そんなキラの困惑を察したのか、セレネが笑顔で驚愕の事実を口にした。
「ここにいるアレックスの妻です。キラさんの事は夫から聞いてますよ」
「えっ、はぁ、どうも?」
「お、おい、セレネ」
慌てたアレックスを気にかける事無くキラは混乱の極みにあった。
今、夫や妻って言った?
どういう事?
「えっと、アスラ、いや、アレックス、君、結婚したの?」
「いや、その」
歯切れの悪いアレックスにセレネが機嫌悪そうに睨む。
それを誤魔化すように咳払いしながらキラに向き直る。
「彼女は俺の義妹で、その、婚約者なんだ。だから、まあ、妻というのも間違ってはいない」
やや不満そうではあるが、彼女もアレックスの性格を知っているのか、それ以上は何も言わなかった。
何と言うかこういう所はあまり変わっていないらしい。
キラは吹き出しそうになるのを堪えると、そばに寄ってきたもう一人に気がついた。
「よう、久しぶりだなぁ、少年」
砂漠の虎と呼ばれたザフトの名将、かつて刃を交えた相手が目の前にいた。
「……生きていたんですね」
なんというか、本当に今日は変な日だ。
もう話す機会はないと思っていた相手と話をしたり、死んだと思っていた相手が生きていたり。
アストが知ったらどう思うだろうか。
きっと微妙な表情を浮かべるんだろう。
「まあな。当たり所が良かったみたいでね。そういえばもう一人の少年は元気かな」
もう一人とはアストの事だ。
キラは笑みを浮かべて何の躊躇いも無く頷いた。
「ええ、間違いなく、元気ですよ。彼は」
◇
とある場所にある作戦会議室。
そこに地球軍の制服を着込んだ将校達が集まっていた。
一見なんの変哲もないただの会議に見えるかもしれない。
だが見る者が見ればそこにいる者達の特徴に気がついただろう。
彼らは地球軍の中でもブルーコスモスの思想に染まっていない軍人たちばかりだった。
その中心にいるのはグラント・マクリーン中将である。
グラントは端に座った黒い制服の者を一瞥する。
全員がそろった事を確認して、立ち上がり口を開いた。
「皆、忙しいところを良く集まってくれた。各地域の詳しい報告を聞かせて欲しい」
手元に配られた資料を手に持って会議が始まった。
グラントの一声に各地域にいる将校たちより報告が上がってくる。
各地域の状況はやはり厳しい。
そもそも『ブレイク・ザ・ワールド』の復興も完全に行われていない。
そこに来てあの強硬姿勢。
支持を失っていくのも当然である。
最初こそ連合からの発表に同調していた人々の中にさえ厭戦気分になっている者がいるくらいだ。
「中将、このまま戦争など続けている時ではありません」
「その通りですよ。しかも現在はザフトに押され戦力を無駄に消耗しています。犠牲も増える一方です」
「ふむ」
それはグラントも分かっている。
だからと言って今の上層部が戦争をやめるとも思えない。
彼らはコーディネイターを殲滅するのが目的なのだから。
そしてそのさらに上にいる存在『ロゴス』も同様だ。
「中将、これ以上は!」
「ええ。今こそ―――」
「待て、焦るな」
口を開き掛けた将校たちを手で制する。
彼らの気持ちは良く分かるが、焦りは禁物だ。
押されているとはいえ、地球軍には状況打開の手札が残されている。
迂闊な行動はこちらの首を絞める事になりかねない。
「クレタ沖の戦いの行方次第か」
「中将、では」
「……皆、準備だけはしておいてくれ。私の方でも進めておく」
「「「はっ」」」
全員が立ち上がり敬礼する。
グラントが敬礼を返すと同時に皆が動き出した。
◇
補給を受け再編成を終えた地球軍は急ぎ行動を開始しようとしていた。
ミネルバがジブラルタルに向かって動き始めたと報告が上がってきたためだ。
布陣を敷き迎え撃つべき場所はクレタ沖。
ここが勝負どころである。
もしも再び敗れるような事があれば、連合はさらなる劣勢に立たされるだろう。
敗北する訳にはいかない。
だから今回地球軍は最近では例を見ないほどの大部隊を編成していた。
これだけの戦力をもってすれば倒せない相手はいないだろう。
しかし誰一人として余裕をもっている者はいない。
何せ相手はザフト最強の戦艦ミネルバである。
ダーダネルスの戦いでその力をまざまざと見せつけられた地球軍の兵士達の中には戦々恐々としている者すら存在している。
だがもちろん例外も存在する。
緊張感漂う空母の甲板ではアオイがスティング達とバスケで気分転換を図っていた。
今の状況からして場違い極まりない訳だが、彼らに文句をいう兵士は誰もいない。
好き好んでファントムペインのエクステンデット達に話し掛ける物好きなどいないのだ。
「ほらよっと」
ゴール下を守るアオイをフェイントで抜こうとするアウル。
「速い、だけど!」
しかし、甘いとばかりにアウルが抜こうとする際に後ろからボールを弾いた。
「げ!」
弾かれたボールを取ると同時にシュートを放つ。
ボールは綺麗なループを描いてゴールの中に吸い込まれた。
「あーくそ! またやられた!」
「やるじゃないか、アオイ!」
「もう一回、もう一回、勝負だ!」
悔しがるアウルと感心したように称賛してくるスティング。
それは嬉しいしのだが、流石に限界だった。
「ハァ、ハァ、ちょっと休憩させて」
「だらしねーぞ、アオイ」
「無茶、言わないでよ」
何というか二人とも体力が半端じゃない。
はっきり言って訓練並に疲れた。
「しょうがね~な。スティング、勝負だ」
「いいぜ。来いよ、アウル」
そのまま勝負を始める二人。
「元気だなぁ」
こっちはもう無理だ。
フラフラになりながらステラの下に歩いて行くとそのまま座り込む。
「大丈夫?」
「うん、休めば、大丈夫」
心配そうなステラに微笑み返しバスケに興じているスティング達を観察する。
「なんとか上手くできた」
アオイは単純に気分転換の為にバスケに興じていた訳ではない。
先程スティングはアオイを称賛していたが、身体能力の差は歴然だ。
普通にやっても絶対に勝てない。
だから最初に二人の動きを観察して、積極的には攻めず、ずっとカウンター狙いで動いていた。
要するにスウェンに教えてもらった動きを読むというのを実践したのだ。
それでも身体能力の差は大きく、負けた方が多かった訳だが。
だが訓練自体は確実にアオイの力になっている。
後は実戦でやれるかどうかだけだ。
「はぁ」
それはともかく疲れた事に変わりない。
アオイはバスケをしている二人から今度は海の方に視線を移動させた。
「綺麗だなぁ」
「うん」
同じく海を眺めていたステラも嬉しそうに呟いた。
これからまた戦いが起こるなんて信じられないほど海は穏やかだ。
「ねぇ、アオイ」
「え、どうしたの、ステラ?」
ステラは笑みを浮かべてこちらを見てくる。
「戦いが終わったら、また海見ようね」
「えっ、うん。もちろん。でも何でそんな事を?」
「ん~なんとなく?」
重ねて問いかけようとしたアオイにアウルが後ろから大声で呼んでくる。
「アオイ!! もういいだろ、早く来いよ!!」
もう少し休みたかったんだけど、仕方ない。
「ステラ、少し行ってくる」
「うん」
ステラに一声かけて立ち上がるとアウル達の所に歩いていった。
◇
海上を進むミネルバの格納庫。
そこでジェイルは一人黙々とシミュレーターに向かっていた。
映像に映し出されているのは蒼き翼を持つモビルスーツ『フリーダム』だ。
フリーダムを必ず倒して見せると決意したジェイルはこうして毎日、シミュレーターに向かうのが日課になっていた。
並みいる地球軍のモビルスーツを薙ぎ払い、宿敵がジェイルの元へ向かってきている。
「今度こそ!」
圧倒的な機動性を誇るフリーダムに対して接近戦での真っ向勝負に出る。
「うおおおお!!」
しかし抜いたサーベルがフリーダムを捉える事はない。
逆に斬りかかったインパルスの腕が斬りおとされていた。
「ッ!?」
何とか態勢を立て直そうとするが、その前にコックピットを潰され訓練は終了した。
「くそ!」
ジェイルはシミュレーターを殴りつける。
これで何回目だろうか。
全く対応できないまま撃墜されてしまった。
横目で別のシミュレーターを見るとそこではシンやルナマリアが同じ様に訓練をこなしている。
その中でシンは格段に腕を上げつつあった。
「負けるかよ」
シンにも。
そして憎きフリーダムにも。
ジェイルは気を取り直し、再びシミュレーターを起動させる。
その日の訓練は夜遅くまで続いていた。
◇
戦いの時は来た。
布陣した地球軍の大部隊は各モビルスーツを出撃させ、万全の状態でミネルバを待ち構えていた。
陽電子砲対策にザムザザーも配置済み。
新型のフェール・ウィンダムも何機か配備された。
物量は前回と変わらず地球軍が圧倒し、なおかつ新型も投入している。
引き換えミネルバは変わらずの単艦での戦闘だ。
それでも敵ながら恐ろしい事に勝てるという保証はどこにもなかった。
イレイズのコックピットの中で計器の調整しながら、アオイは静かに出撃命令を待っていた。
やれるだけの訓練は積んだ。
「今度こそインパルスと決着をつけてやる!」
そこに珍しい事にアウルから通信が入ってくる。
「アオイ、戻ったら勝負の続きな。今度は勝つ」
バスケで負けた事が余程悔しかったらしい。
アオイが勝てたのはあくまで数回で、通算で言えばアウルの方が勝利数は上だったのだが。
負けず嫌いなアウルに張りつめた気分が吹き飛び、笑みが浮かんだ。
「うん、分かった」
「なら俺とも勝負だ、アオイ」
「なんだよ、割り込むなよ、スティング!」
「……私も」
「ステラはバスケとかしないだろ」
通信機から騒がしい声が聞こえてくるが、まったく不快に感じないのはスティング達だからだろうか。
出撃前の緊張感が薄らぎ、リラックスした気持ちで通信機から聞こえてくる声に耳を傾けていると、今度はスウェンから通信が入ってきた。
流石に騒ぎすぎたかと思ったが、通信機から聞こえてきたのはスウェンからの叱責ではなくアオイ達が待っていた出撃命令だった。
「全員、ミネルバを視認した。出撃だ」
「「「「了解!」」」」
艦のハッチが開くと青い空が見えた。
「じゃ、先に行くぜ!」
「後でな!」
カオスとアビスが戦場に飛び出し、それに続いてガイアも甲板に降り立つ。
それを見届けたアオイもフットペダルを踏み込む。
「アオイ・ミナト、イレイズガンダムMk-Ⅱ行きます!」
背中に装備したスカッドストライカーが噴射して、弾丸のように空中に飛び出した。
◇
ミネルバの方でも待ち構えていた地球軍の大部隊に気がついた。
レーダーに反応があると同時に報告が上がる。
「前方に地球軍の大部隊です!!」
「なにぃ!!」
アーサーの叫びにタリアはいい加減に動揺するなと言ってやりたかったが、それを呑み込んで指示を飛ばす。
「アーサー、早く座って! ブリッジ遮蔽、コンディションレッド発令!! 各機発進!!」
ロドニアから出発した時点である程度予想はしていたがやはり地球軍は来た。
だが正直状況は良くない。
未だセリスは目覚めない為にセイバーは出撃出来ず、ハイネは重傷を負った為戦線を離脱した。
ただジェイルが予備のコアスプレンダーで出撃できるようになったのが不幸中の幸いだろう。
しかし戦力的には低下している事に変わりは無い。
目の前には空を埋め尽くすほどのモビルスーツにその後ろには艦隊が控えている。
タンホイザーで一掃しようにもあの巨大モビルアーマーの姿がある。
さらに言ってしまえば、『彼ら』が来る可能性すらあるのだ。
これであの大部隊を突破しなければならない。
だが泣き事を言っている暇は無い。
突破できなければこちらが沈む事になるのだから。
「敵艦からの砲撃です!!」
展開していたモビルスーツ部隊が綺麗に割れると、そこから砲撃が飛んできた。
「迎撃!!」
降り注ぐミサイルを撃ち落とそうとCIWSが放たれる。
しかし、ミサイルは破壊される前にミネルバ上空で弾け飛び、無数の断片となってミネルバの装甲に次々と穴を開けていく。
「上面装甲、二層まで貫通されました!!」
タリアは思わず舌打ちする。
今頃ミネルバ上階の艦橋は穴だらけにされているだろう。
この戦闘艦橋は装甲に覆われている為被害はないが艦体などには相当な被害が出たはずだ。
「ダメージコントロール! 面舵―――」
「九時の方向から、モビルスーツ急速接近してきます!!」
不味い。
このままでは囲まれて終わりだ。
「モビルスーツ隊急速発進! トリスタン照準! パルジファル、発射、目標敵モビルスーツ!!」
「了解!」
近づいてくるモビルスーツ部隊を迎撃する為にミネルバから二機のインパルス、エクリプス、イフリートが出撃する。
シンはブラストシルエット、ジェイルはフォースシルエットで外に飛び出した。
「全機、ミネルバに敵を近づけるな!」
アレンの指示が飛ぶと同時にシンは目の前の敵に向かって迎撃を開始する。
「ミネルバはやらせない!」
ブラストでは飛行する事は出来ないが、ホバー推進を使用する事で海上を進む事ができる。
海上を滑るように疾走すると背中に装備した2基のケルベロスを跳ね上げダガーLを撃ち落とした。
このままいけるかと思いきや、シンの背後から何かが飛び出すように水飛沫が舞う。
アビスだ。
「今度こそ落とすぜ、合体野郎!!」
アウルはインパルスの背後から両肩シールド裏面に搭載された三連装ビーム砲を展開して一斉に撃ち出した。
「チィ」
シンはスラスターを使い機体を回転、ビームをやり過ごすがアビスは逃さないとばかりにそのままビームランスを振り下ろしてくる。
「このぉ!」
ケルベロスの砲身に沿う様にして収納されているデファイアントビームジャベリンを引き抜き、アビスのビームランスを受け止めた。
鍔ぜり合うように睨み合う二機。
だがアビスはそのまま力勝負には出ず、弾け飛ぶと同時に水中に潜った。
海中に逃げられてしまってはインパルスに追撃する手段はない。
シンはミネルバの方を気にする余裕も無くアビスの攻撃を何とか凌ぎながら、突破口を見出そうと相手に集中し始めた。
そして空中でダガーL部隊を相手にジェイルが圧倒していた。
「落ちろ!」
敵機が放ってくる攻撃を動き回りながらやり過ごし、ビームライフルを構えてトリガーを引く。
銃口から発射された閃光が、容赦なくダガーLのコックピットを破壊する。
かといって接近戦を挑んでも状況は変わらない。
ビームサーベルを振りかぶったウィンダムの斬撃を容易く流す、ジェイル。
思いっきり胴に蹴りを叩き込み、態勢を崩した所に至近距離からライフルを撃ちこんだ。
「訓練の成果は出てるみたいだな!」
墜落していく敵機に構わず、ジェイルは次々と地球軍の機体を屠っていった。
そこに駆けつけてくるように、一機のモビルスーツがジェイルの視界に入ってくる。
「イレイズか!?」
「インパルス!? でもあっちもインパルスだよな。二機もいるのか」
だがアオイはすぐに見抜いた。
目の前の機体は今までのパイロットではない。
色の違いもあるが、これまで戦ってきた奴とは動きが違う。
おそらくアウルと戦っているのが今まで自分が戦ってきたパイロットだろう。
いや、そんな事は関係ない。
二機とも倒せばいいだけなのだから。
「行くぞ!!」
スカッドストライカーの出力を上げ、ビームマシンガンを構えてインパルスに突っ込んでいく。
当然それを無視するジェイルではない。
向かってくるイレイズにライフルを向け、こちらも突撃した。
「お前も落としてやる! 俺がな!」
お互いにトリガーを引くと同時に銃口から発射されたビームが敵機を狙って撃ち出された。
高速動き回り、すれ違い様にビームを放つ。
ここで驚かされたのはジェイルの方だった。
最初は小気味よく攻撃を加えていた彼だったが徐々にイレイズはこちらを動きを読むように攻撃を繰り出してくる。
イレイズのビームマシンガンがインパルスの装甲を掠めていく。
「このぉ! こんなナチュラルに手こずるなんて!」
ジェイルが怒りに任せ、サーベルに持ち替えようとした瞬間―――それは来た。
それはまさにダーダネルスでの戦いの再現だった。
ミネルバに襲いかからんとしていた部隊に別方向からの攻撃が襲いかかる。
正確な射撃により、次々とダガーLやウィンダムが撃ち落とされていく。
誰もが振り返った先にいたのも、また前回と同じ機体であった。
そこには上空から蒼い翼を広げ、ビームライフルを構えたフリーダムが悠然と佇んでいた。
天使を彷彿させるその機体を見たジェイルの中に落とされた屈辱と激しいまでの憎悪が湧きあがる。
「来たかよ! 死天使がぁぁぁ!!!」
ジェイルの叫びと同時に再びそれは起動した。
『I.S.system starting』
今週は珍しく仕事の休みが取れたので、投稿出来ていますがいつまでこのペースが続くか……