機動戦士ガンダムSEED effect   作:kia

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第26話  因果の場所へ

 

 

 

 

 

 ロード・ジブリールはいつも通りにワインを傾けながらモニターを眺め、報告を待っていた。

 

 どこか落ち着きがない素振りでグラスを傾けている。

 

 それにはもちろん理由があった。

 

 彼は最近手に入れた新しい駒に下した任務の成果を早く知りたかったのだ。

 

 あの駒の優秀さを事前に知らされていた事が余計に期待を抱かせたのである。

 

 何度目かのワインを口にすると端末から大きな音が聞こえてきた。

 

 待ちに待った瞬間にジブリールはニヤリと笑うと端末のスイッチを入れる。

 

 端末に映ったのはいかにも研究者と思われる白衣を着た男だった。

 

 《ジブリール様、ラナ・ニーデルが帰還いたしました》

 

 「報告しろ」

 

 白衣の男はつっかえながらも報告を開始する。

 

 報告はジブリールの満足するものではなかったが、及第点と言える内容だった。

 

 事前に期待を抱いていた事が彼に軽い失望を抱かせたのである。

 

 ジブリールの機嫌が悪くなった事を察したのか白衣の男はどこかおどおどしながら視線をさまよわす。

 

 それが余計に苛立ちを煽るのだが。

 

 「任務の報告はもういい。で、ラナ・ニーデルはどうなのだ?」

 

 《素晴らしいですよ、彼女は。最低限の強化処理だけで通常のエクステンデット以上の力を発揮しました》

 

 「ほう」

 

 通信が入って初めて笑みを浮かべるジブリール。

 

 それを見て白衣の男も安心したように息を吐いた。

 

 「それでその『彼女の量産』はどうなっている?」

 

 《……現在彼女のクローンを何体か作成しておりますが、本当に良いのですか?」

 

 ぎろりと睨むジブリールの視線に竦んだように後ずさる。

 

 だが研究者としての彼の立場がそのまま口を閉ざす事を拒む。

 

 《ク、クローンは、じゅ、寿命も含め色々と問題が―――》

 

 「それらの問題解決を含めて研究しろと言っているのだ! さっさと実戦で使えるようにしろ!!」

 

 《は、はい》

 

 怯える様にスイッチを切る研究者にジブリールは侮蔑するように吐き捨てる。

 

 「愚図めが。まあいい。これで仮にロアノークのエクステンデットが使えなくともデストロイに乗せる者は確保できた」

 

 予定では彼らを使うつもりだが、腹立たしい事に戦場で撃墜される可能性も無くはない。

 

 予備はいくらあっても良い

 

 いや、ラナの量産が完了すればそれだけで戦力は十分整う。

 

 後は「デストロイ」が完成しさえすれば、一気に戦局を押し返せる。

 

 「くくく、アハハハハ!!」

 

 その事を想像しながら、ジブリールは声を出して笑った。

 

 屈辱に歪む仇敵の顔を思い浮かべながら。

 

 

 

 

 深い森の中に佇む施設は不気味なほど静まりかえっている。

 

 夜の暗闇が施設の不気味さを際立出せ、何かしらの怪談話で出てきそうな雰囲気である。

 

 ロドニアでの予想外の戦闘を切り抜けたシン達はこちらに向かっているミネルバが到着する前に内部調査を行う事にした。

 

 再び敵機が襲ってくる事も考えて外ではジェイルが警戒している。

 

 後は内部に何もなければ、調査もスムーズに進むはずだ。

 

 「何があるかわからない、注意しろ」

 

 「ああ」

 

 銃のセーフティーを外して周囲を窺いながらレイと共に施設の中に入っていく。

 

 どれほど歩こうと人がいるような気配は全くなく、足音だけが響くのみ。

 

 施設は完全に放棄された後のようだ。

 

 「やっぱり誰もいないよな。さっきの敵はここで何をしてたんだ?」

 

 「さあ。だがあの退き際から見て、すでに重要な情報は破棄されているのかもしれないな」

 

 「じゃあ、一歩遅かったって事か?」

 

 「あくまで可能性の話だ」

 

 ある程度見て回っても何もなく、聞こえてくるのは二人の足音のみ。

 

 「なんの施設だったんだ、ここは?」

 

 思案していたシンにレイから声がかかる。

 

 「シン、こっちだ」

 

 レイが見つけた通路を進んで、施設のさら奥へと足を踏み入れていく。

 

 まったく何でこんな気味の悪い場所に来ないといけないのか。

 

 思わず愚痴りそうになるのを堪えて通路を進んでいくと、比較的広い部屋に出た。

 

 普通なら暗くて何も見えないのだろうが、もう目が慣れてしまった。

 

 部屋の中に机やモニター、円筒状の水槽が所狭しと並んでいるのが確認できる。

 

 「ここって研究室か?」

 

 周囲に視線を走らせて見るが、散乱している実験器具なのだろうか。

 

 物を見てもどう使うのかすらさっぱり分からない。

 

 「まだ奥があるみたいだけど、どうす―――」

 

 シンの言葉は最後まで続かなかった。

 

 振り返った先にはレイが何時もとは違う、どこか怯えたような表情で立ちすくんでいるのが見える。

 

 「レイ、どうした?」

 

 「あ、あああ」

 

 そのままレイは呼吸も荒く床に蹲ってしまう。

 

 「お、おい、レイ! どうしたんだよ!?」

 

 慌てて駆け寄ってレイの肩を揺さぶるが反応がない。

 

 こちらに対する返答はなく、別の場所を怯えたように見つめているだけだ。

 

 「一体どうしたんだよ!?」

 

 もしかしてここには何かあるのか?

 

 だとしたら自分も不味い。

 

 シンはレイを担ぐと急いで施設を飛び出した。

 

 外に待機していたジェイルが驚いたようインパルスのコックピットから顔を出す。

 

 「どうした!?」

 

 「分からない! レイが急に様子がおかしくなった! ジェイル、ミネルバに連絡を入れてくれ!!」

 

 焦ったシンの様子にジェイルも茶化す事無くコックピットからミネルバに連絡を入れた。

 

 幸いだったのは戦闘を確認していたミネルバもすでに近くまで来ていた事だっただろう。

 

 「もうすぐ来るそうだ。レイの様子はどうだ?」

 

 シンはザクの足元に座らせたレイの表情を見る。

 

 顔色は悪く、未だに苦しそうである。

 

 「そうか。とにかく施設に入らず外で待機していろとの事だ。そういやお前はどうなんだよ」

 

 「俺は別に」

 

 シンの体には今のところ不調があるわけでもなく、息苦しさもない。

 

 では何故レイはこうなったのか。

 

 これ以上考えても答えが出る事はなく、出来る事はミネルバの到着を待つ事だけだ。

 

 そう結論を出したシンとジェイルは軽口も叩けない気まずさの中、早く来てほしいと祈りながらミネルバを待ち続けた。

 

 

 

 

 ミネルバが到着すると、すぐに施設内の危険なウィルスやガスが充満していないかの調査が行われた。

 

 突然苦しみ出したレイの様子から、施設内に危険な物質が散布されているのではないかと疑われたのである。

 

 結果―――

 

 施設の中に危険なウィルスなどは一切確認される事はなかった。

 

 安全と判断したタリアはそのままアレン、リース、アーサーを連れて施設内の調査を行う事にした。

 

 無論タリア達以外にも調査する者達は派遣されており、この施設全体を把握するのにそう時間はかからないだろう。

 

 タリアを先頭に先ほどシン達が見つけた通路の奥に進んでいく。

 

 不気味さが漂う施設内を誰もが口を開く事無く歩き続けていると扉の奥から嫌な臭いが漂ってくる。

 

 異臭とでもいえば良いのだろうか。

 

 とにかく酷い臭いである。

 

 「うっ、何ですかこの臭いは」

 

 アーサーは臭いにあてられたのか、顔を真っ青にしている。

 

 普段表情を見せないリースでさえも、顔を顰めていた。

 

 湧きあがってくる吐き気と戦いながら、先に進んでいくとそれは突然現れた。

 

 重なる様に倒れ込む死体。

 

 しかもその内の一つは子供の遺体だった。

 

 周囲を持って来た明かりで照らすと似たような死体がごろごろと転がっている。

 

 「一体何があったのかしら?」

 

 タリアの呟きに答えられる者は誰もいない。

 

 さらに調べを進めようとした時、突然後ろにいたアーサーが叫び声を上げる。

 

 「うわああああ!!」

 

 「副長!?」

 

 咄嗟に反応したアレンとリースがアーサーに駆け寄るとそこにはガラスケースに収められた子供の死体が見えた。

 

 「なんなんですか、ここは!?」

 

 アーサーがそう叫びたくなるのも無理はない。

 

 ここは真っ当な施設ではない。

 

 いくらなんでも常軌を逸している。

 

 「なんらかの実験施設でしょうね。おそらくエクステンデットの。この惨状は反乱でも起きたと言ったところでは」

 

 アレンは傍に落ちていた拳銃を拾ってアーサーに見せる。

 

 おそらくアレンの言う通りだろう。

 

 そこら中に落ちている拳銃やナイフ、そして壁に残されている銃創などがここで何があったのかを物語っている。

 

 なにか他に手がかりがないか、机の引き出しなどを確認するが何も出てこない。

 

 「情報なんかもすべて破棄された後みたい」

 

 リースはすばやく端末を操作しながら、報告してくる。

 

 これ以上ここにいても何も出てこないようだ。

 

 ならばさっさとこんな場所から出たい。

 

 下手をすれば夢に出てきそうなほど、酷い場所である。

 

 「これ以上ここにいても仕方ないわ。ミネルバに戻って他の調査隊の報告を待ちましょう」

 

 「は、はい」

 

 口元を押さえながらアーサーは急ぎ外に向かって歩き出す。

 

 タリアもそれに続き、リースも立ち去ろうとした時、アレンだけが今だ部屋の中に佇んでいる事に気がついた。

 

 「アレン?」

 

 リースが近寄ると、アレンは倒れている子供の死体の前で拳を強く握りしめている。

 

 必死に怒りを抑えるように。

 

 リースは握りしめられたアレンの手を包み込むように握るとこの場に似つかわしくないほど優しげな笑みを浮かべた。

 

 「アレンは優しい。彼らの事でそんなに怒るなんて」

 

 「……優しい訳じゃない。ただ少し昔を思い出しただけだ。俺達も戻るぞ」

 

 アレンはリースの手を振りほどくと外に向かって歩きだす。

 

 その背中をリースはどこか熱に浮かされたような表情で見つめていた。

 

 不気味なほどの笑みを浮かべながら。

 

 

 

 

 施設から戻ったシンは検査が終わると、ため息をつきながら赤い制服を羽織る。

 

 危険な可能性があったというのは分かるが、こちらは何とも無いのだからもう少し早めに終わってもいいような気がする。

 

 仕切られたカーテンを除けると、ちょうど隣のベットから降りてきたレイと鉢合せした。

 

 「レイ、もう大丈夫なのか?」

 

 「ああ、迷惑をかけたな」

 

 レイの顔色は施設にいた時よりもだいぶ良いようだ。

 

 でも何でレイだけがあんな事になったのだろう?

 

 重ねて質問しようとした時、アレンが入ってきた。

 

 サングラスの下からでも表情が固い事が分かる。

 

 「レイ、体の調子はどうだ?」

 

 「ええ、もう大丈夫です。施設の調査の方はどうなっていますか?」

 

 「もうすぐ終わるだろう。ただ重要な情報などはすべて処分されているようだがな」

 

 おそらく攻撃を仕掛けてきた連中の仕業だろう。

 

 もう少し早く駆けつけていれば、情報も手に入ったかもしれないが。

 

 「それよりもアレンは平気だったのですね。施設に入っても」

 

 どういう意味だ?

 

 レイが探るような鋭い視線でアレンを見ている。

 

 そういえばこの二人は前からの知り合いだとか言っていたが―――

 

 「……平気ではなかったさ。それより、もう此処には用はない。ミネルバはこのままジブラルタルに向う事になる。準備をしておけ」

 

 どうやら自分達の様子を見にきただけだったようで、アレンはそのまま出ていってしまった。

 

 「準備って、つまり」

 

 「敵が来るという事だ」

 

 敵、つまり地球軍。

 

 そして彼らも来るに違いない。

 

 アークエンジェルとフリーダム。

 

 再び彼らとまみえた時、どうするのか決められないまま、シンは立ち上がった。

 

 

 

 

 地上での戦いはさまざまな要因から物量で勝る筈の地球軍が劣勢に追い込まれていた。

 

 そして宇宙でもまた同様に散発的な戦闘のみとはいえ、ザフトが優勢であった。

 

 テタルトスは完全に防衛のみに集中している為に戦闘行動自体ほどんど行っていない。

 

 その期を逃さないよう宇宙での動きを鈍らせた地球軍を牽制する為、ザフトは活発に動いている。

 

 そんな宇宙での動きを観察しながらドミニオンのブリッジでは今後の事を話し合っていた。

 

 「さてどうするか……」

 

 「前回の調査での収穫もリストのみでしたし、さらに宇宙で地球軍が押されている所為でこちらも動き難くなりましたからね」

 

 キラがこの辺りの宙域図をみながら呟いた。

 

 ザフトが動いている理由は地球軍の事だけでなく、ドミニオンの動きを探る目的もあるのだろう。

 

 「何かの手がかりがあるかもしれないメンデルはザフトに張られているでしょうしね」

 

 現最高評議会議長ギルバート・デュランダルが遺伝子学者である事は調べがついている。

 

 遺伝子といえば放棄されたコロニーメンデルが思い浮かぶ訳だが、それは向うも承知済みだろう。

 

 あそこを調査するのは他に手がかりが得られない時の最後の手段である。

 

 「あの、この前指摘された件はどうでしょうか?」

 

 オペレーターの一人が宙域図になにかの航路を表示した。

 

 「この話か……」

 

 ドミニオンが調査を行っている際に指摘されていた事がある。

 

 それがドミニオンの目的である場所の出入りについてだった。

 

 いかに極秘の場所であろうとも必ず人の行き来は行われているはずである。

 

 それが指摘され調査が開始された時からずっとプラントから出ていく輸送艦などを張っていたのだが、最近ようやくその成果が出た。

 

 つまりどこに行くのか行方がつかめない艦を見つけたのだ。

 

 「確かに手がかりではあるかもしれないが……」

 

 「罠の可能性もありますね」

 

 罠の場合多数の敵が待ち構えている事になる。

 

 そんな中に飛び込むのは危険だ。

 

 しかし他に手がかりがないのも事実。

 

 「ドミニオンはここで待機していてください。カゲロウはドミニオンの護衛を。調査には僕が行きます」

 

 「待て、今までとは違う。これが当たりでも罠でもそれ相応の防衛戦力がいるはずだぞ」

 

 「しかし今は他に手がかりはありません。それに次の機会を待っている余裕もない」

 

 ナタルにも他の代案はない。

 

 リスクはあるがいつも通りキラを信じるしかないだろう。

 

 彼ならば大丈夫だという強い信頼もある。

 

 キラとアストはたった二機で前大戦の激戦の中、アークエンジェルを守り抜いてきたのだから。

 

 「分かった、頼むぞ」

 

 「了解」

 

 ドミニオンから発進したレギンレイヴは目的の輸送艦の航路付近に向かって移動する。

 

 途中でザフトに見つからないように慎重に。

 

 こちらはお尋ね者なのだから。

 

 航路近くのデブリに紛れ、機体を隠しながら輸送艦が来るまで待機する。

 

 「上手くいくといいけどね」

 

 キラとしても隠れながらの探索にそろそろ決着をつけたい。

 

 戦線は拡大され続け、戦争は激化している。

 

 いい加減にしないとアネットあたりに説教されそうだ。

 

 そしてラクスからも―――いや、怖い事を考えるのはやめておこう。

 

 無駄な事を考えていた丁度その時だった。

 

 コックピットの甲高い音が鳴り響く。

 

 「来た」

 

 モニターに何隻かの輸送艦が見えた。

 

 防衛にザクやグフといった最新機もついている。

 

 後は見つからないように追跡すればいい。

 

 キラは距離を保ちながら追跡を開始した。

 

 「それにしても結構な規模だな。もしかすると本当に当たりかもしれない」

 

 だが同時に懸念も生じる。

 

 輸送戦にこれだけの部隊をつけているという事は目的地にはこれ以上の戦力がいてもおかしくない。

 

 それをドミニオンだけで攻めるのは厳しいだろう。

 

 しばらく移動する輸送艦を追尾していると、突然キラは何かを感じ取った。

 

 何か殺意のようなもの。

 

 それを感じ取った途端、思いっきりフットペダルを踏み込んだ。

 

 レギンレイヴのスラスターが全力で噴射され機体が前方に加速する。

 

 次の瞬間、レギンレイヴのいた空間をビームの閃光が薙いでいった。

 

 だがそれで終わりではない。

 

 次々と撃ち込まれてくるビーム。

 

 どれも正確にこちらを狙ってくる。

 

 機体をさらに加速させて振り切るとキラはビームを撃ち込んだ敵機を探す。

 

 「あれは……」

 

 見ればザフトの機体ザクに良く似ている。

 

 それだけならば、ただ新型であると流せていたのかもしれない。

 

 だがあの機体を見た瞬間、キラは全身が強張るのを感じた。

 

 忘れた事などない。

 

 彼の嘲笑は未だに耳に残っている。

 

 レギンレイヴの前に立ちはだかる機体は背中のバックパックがあまりにも特徴的だった。

 

 ZGMF-X3000Q『プロヴィデンスザク』

 

 新型ドラグーンシステム性能実証の為に製造された機体である。

 

 武装は高エネルギービームライフルと背中のバックパックに突撃ビーム機動砲、つまりドラグーンシステムを装備している。

 

 その造形はザクの面影を残しているものの、見ればやはりあの機体プロヴィデンスを思い出す。

 

 キラは苦い記憶を押し殺し、応戦に出ようとする。

 

 だがレギンレイヴに気がついた輸送艦の護衛であるザクやグフが襲いかかってくる。

 

 「チッ!」

 

 囲むように攻撃を加えてくるザクやグフにミサイルポッドからミサイルを放出する。

 

 撃ち出されたミサイルが一斉に敵機に襲いかかり、大きな爆発を引き起こした。

 

 その隙に機体を操作してスラスターユニットを排除すると、両手に小型ビームライフルを構えてトリガーを引いた。

 

 撃ち出されたビームが敵機のコックピットを撃ち抜いていく。

 

 さらにブルートガングを展開してザクのコックピットを突き刺し、腰のビームガンでグフの頭を潰した。

 

 それを見ていたグフはある程度の距離を置いてスレイヤーウィップをレギンレイヴに放ってくる。

 

 不規則な軌道で迫る鞭をバレルロールしながら回避して懐に飛び込むとブル―トガングで腕を斬り裂き、背中のレール砲で吹き飛ばした。

 

 キラが敵機に構っている間に輸送艦が離脱していく。

 

 「くそ、逃がす訳には―――ッ!?」

 

 全身に駆け抜ける感覚。

 

 それに従って操縦桿を操ると四方から撃ち込まれてきたビームを回避する。

 

 どこからなど考えるまでも無い。

 

 あの機体のドラグーンだ。

 

 正確に操られたドラグーンがレギンレイヴを狙い撃とうと次々とビームの雨を降らせてきた。

 

 スラスターを巧みに使い、ビームをすべて紙一重で避けていく。

 

 装甲にビームを掠め、浅く傷がついていくがキラの表情は変わらない。

 

 この程度は前大戦で経験済みだったからだ。

 

 冷静にビームライフルで動きまわるドラグーンを狙い撃つ。

 

 ライフルから放たれたビームが機動砲を撃ち落としていく。

 

 そのまま機体を半回転させ背中のレール砲を構えて、プロヴィデンスザクを牽制しながら距離を取った。

 

 「このまま敵機を振り切って輸送艦を追う!」

 

 距離を取ったまま、キラは機体を反転させ離脱を図る。

 

 しかしそう上手くはいかない。

 

 急速に接近してきたプロヴィデンスザクが撃破されたグフからテンペストビームソードをもぎ取るとレギンレイヴに振りかぶってきたのだ。

 

 「速い!?」 

 

 キラは咄嗟に後退すると振りかぶられたビームソードをやり過ごした。

 

 だが今度は返す刀で下段から逆袈裟に振り上げてくる。

 

 その斬撃が左手に持っていた小型ビームライフルを斬り裂いた。

 

 「この!」

 

 破壊されたライフルを投げ捨てるとビームサーベルで斬り込んでいく。

 

 横薙ぎに叩きつけられた剣をプロヴィデンスザクは肩部に装着されているシールドで受け止め、弾けあった二機が再び剣閃を迸らせた。

 

 スラスターを吹かし、高速で二機がすれ違う。

 

 機体性能は間違いなくプロヴィデンスザクの方が上だ。

 

 この力は核動力に間違いない。

 

 「まともに受ければそれだけで押し切られる!」

 

 キラは巧みにシールドを使って敵の攻撃を流していくが、敵機はそれすら見越しているかのようにドラグーンを使ってこちらの動きを誘導してきた。

 

 誘導された先にはザクやグフが待ち構えて、攻撃を加えてくる。

 

 迫るのはオルトロスやドラウプニル四連装ビームガン。

 

 並みいる砲撃を避けつつ敵機に肉薄するとサーベルで砲身や腕を斬り飛ばしながら、思わずキラは舌打ちした。

 

 完全にあの機体に誘導されている。

 

 このままでは駄目だとビームトマホークで斬りかかってきたザクを一蹴。

 

 機体をプロヴィデンスザクの方に向き直らせライフルで狙撃するが軽々とかわされてしまう。

 

 「厄介な!」

 

 そこで違和感に気がついた。

 

 この敵の戦い方をキラは知っている。

 

 ドラグーンを掻い潜り、プロヴィデンスザクにサーベルで突きを放つ。

 

 渾身の突きを読んでいたかのようなタイミングでシールドを掲げて防ぐプロヴィデンスザク。

 

 そこで敵機のパイロットの声が聞こえてきた。

 

 「聞こえているかな、キラ君」

 

 「貴方は……クロード!?」

 

 プロヴィデンスザクに搭乗していたのは前大戦の最終決戦においてキラと死闘を繰り広げたクロードだった。

 

 あの時は何とも思わなかったが彼の声はあのデュランダルに良く似ている。

 

 一体何者なのだろうか?

 

 何故クロードがザフトの機体に乗っているのか?

 

 疑問が脳裏を駈け巡る。

 

 「久しぶりだね、キラ君。相変わらずの腕前だ、素晴らしい。その様子だとあの時言った私の言葉を聞いてくれたようだね」

 

 「くっ」

 

 巧みに操られたドラグーンによってレギンレイヴの装甲が傷つけられていく。

 

 「輸送艦を追尾していたという事は目的は『アトリエ』か。なるほど」

 

 「『アトリエ』?」

 

 「君の探し物の名前さ」

 

 「なんでそんな事を!?」

 

 「まあ色々思う所もあってね。すべてあの女狐の思惑通りに事が運ぶのも面白くない。たまには良い薬だよ」

 

 愉快そうに笑うクロードの言葉にキラの視線も鋭くなる。

 

 「ではやはりセリス・ブラッスールを誘拐したのは、貴方達か!?」

 

 キラの質問には答えず、、クロードはレギンレイヴにビームソードを叩きつけてくる。

 

 それを流しながら逆にサーベルを斬り上げる、キラ。

 

 二つの光刃が機体の装甲を傷つけていく。

 

 昔戦った時と同じだ。

 

 押しきれない。

 

 ビームライフルによる攻撃をシールドで弾きながら、ドラグーンを回避する。

 

 しかしキラは徐々に追い込まれていた。

 

 クロードだけでも厄介だというのに、他の敵機も相手にしなければならない。

 

 このままではやられてしまうだけだ。

 

 バッテリーを消費しないレール砲とブルートガングを駆使して、何とか打開策を模索しようとする。

 

 しかし背後からブレード状の機動砲が脚部に叩きつけられバランスを崩してしまった。

 

 「くっ」

 

 プロヴィデンスザクがビームライフルを構えてこちらを狙っていた。

 

 「不味い!?」

 

 バランスを崩しながらもキラはシールドを掲げて防御態勢に入った瞬間―――別方向から放たれたビームにドラグーンが撃ち落とされた。

 

 「なんだ!?」

 

 「あれは……」

 

 二人が振り返った先にいたのはイージスの面影を持つ、紅き機体ガーネットだった。

 

 「テタルトスか?」

 

 「なんでこの場所に?」

 

 ガーネットの背後からはテタルトスの戦艦クレオストラトスが見える。

 

 ハッチが開きジンⅡとフローレスダガーが出撃してくると輸送艦の護衛部隊と戦闘に入った。

 

 ジンⅡの構えたビームクロウと斬り結ぶザク。

 

 その背後からはバーストコンバットを装備したフローレスダガーの一撃が敵を薙ぎ払っていく。

 

 当然ザフトもやられっ放しではない。

 

 ライフルや剣を構えて応戦していくがレギンレイヴとの戦闘で数を減らしていたザフトはじわじわとテタルトスに押されていく。

 

 「いくぞ!」

 

 他の機体に指示を飛ばしていたアレックスは自身もまた戦闘を開始する。

 

 フッポペダルを踏み込み背中のウイングコンバットを吹かすとプロヴィデンスザクに斬り込んだ。

 

 袈裟懸けに迸る剣閃。

 

 クロードはその斬撃を紙一重でやりすごすと、お返しとばかりにテンペストビームソードを下段から振り上げた。

 

 「まだ!」

 

 下からの斬撃を機体を横に流してやり過ごしたアレックスは右足のサーベルを展開すると、そのまま蹴りを放つ。

 

 クロードはガーネットの蹴りを後退して回避するとビームライフルで誘導しながら囲むようにドラグーンを配置する。

 

 「ドラグーンか!? こんなもので!」

 

 前大戦ではこの兵器に手酷くやられた。

 

 しかし今の自分は昔とは違う。

 

 アレックスはシールドでビームを弾きながら、ライフルで動き回るをドラグーンを破壊、プロヴィデンスザク目がけて両足のサーベルを蹴りあげた。

 

 クロードはガーネットから繰り出されるサーベルをスラスターを使って流しながら、素早く周囲を見渡した。

 

 テタルトスの機体に落とされていくザクやグフ。

 

 残った機体が落とされるのも時間の問題だろう。

 

 最低限の仕事はこなしたのだから、後退したところで文句は言われまい。

 

 クロードはレギンレイヴにドラグーンを差し向け、持っていたテンペストビームソードをガーネットに向けて投げつけるとビームライフルで撃ち抜いた。

 

 「くっ」

 

 至近距離で破壊されたビームソードの爆発に視界を塞がれたアレックスは咄嗟に後退して爆煙から離脱を図る。

 

 爆煙が晴れた先にプロヴィデンスザクの姿は無い。

 

 敵の後退を確認したキラは輸送艦が向かった方向をチラリと見ると、紅い機体に向き直る。

 

 何でここにテタルトスがいるのかは分からない。

 

 出来れば彼らと事を構えたくはないが―――

 

 バッテリー残量を確認しながら、ゆっくり近づいてくるガーネットに警告のつもりでライフルを構えた。

 

 トリガーに指を掛けた時、ガーネットから通信が入ってくる。

 

 《その黒い機体に乗っているのは、キラ・ヤマトだな?》

 

 その声を忘れる筈はない。

 

 幼いころからの友人であった者の声なのだから。

 

 「……アスラン・ザラ」

 

 キラの声に一瞬だけ躊躇うように、声を詰まらすと切り替える様に咳払いする。

 

 その様子が容易に想像できたキラはこんな時にも関わらず微笑ましくなった。

 

 どうやら彼はあまり変わっていないらしい。

 

 《こちらはテタルトス月面連邦軍、アレックス・ディノ少佐だ。君達に話がある》

 

 「話?」

 

 《君達にプラント極秘施設に対する作戦の共同戦線を申し込みたい》

 

 「なっ」

 

 アレックスの言葉に驚愕すると同時にキラは操縦桿を強く握る。

 

 宇宙もまた大きな戦いが始まろうとしていた。

 

 


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