機動戦士ガンダムSEED effect   作:kia

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第23話  刃の先に

 

 

 

 

 アークエンジェルとフリーダム。

 

 中立同盟最強戦力である彼らが戦場に現れた事は地球軍、ザフト共に少なからず動揺させた。

 

 しかし旗艦の艦橋に限って言うならば一番の衝撃を受けていたのはユウナ・ロマ・セイランであっただろう。

 

 「な、なんで、アレがここに現れるんだ……」

 

 ユウナは思わず立ち上がり、呟いた。

 

 まさか自分を追ってきたのだろうか。

 

 あり得ないと思いながらも、疑念は沸々と湧きあがってくる。

 

 セイラン家が中立同盟にもたらした損害は大きい。

 

 それをユウナはきちんと理解できていた。

 

 はっきり言って殺されても文句は言えない。

 

 恐怖で立ち竦むユウナを正気に戻したのは、意外にもカースの声だった。

 

 「……来たか。丁度良い」

 

 カースの言葉にユウナは思わず声を荒げた。

 

 「丁度良いだって!? どこがだよ! お前だって知っているだろう! アークエンジェルとフリーダムだぞ! アレは―――」

 

 ユウナの言葉は最後まで続かなかった。

 

 仮面の下から感じるカースの視線に射竦められてしまったからだ。

 

 別段殺気が込められている訳でもない。

 

 ただ感じ取れるのは憎悪のみ。

 

 ユウナは黙り込んで息を飲む。

 

 「知っているかだと? 当然知っているさ。だから丁度良いと言った。ここで奴らを倒せば何の問題も無い。俺にとっても、お前にとってもな」

 

 「うっ」

 

 カースの迫力に思わず後ずさる。

 

 「幸いな事に今お前には力がある……命じればいい。そして奴らを消せばお前に付きまとうすべての不安も恐怖も消えるだろう」

 

 不気味な仮面の言葉がゆっくりとユウナの頭の中に染みわたっていく。

 

 そうだ。

 

 どこに怯える必要がある。

 

 すでに選んだ道なのだから、もはや引き返す事はできない。

 

 ならば―――

 

 そう決意すると同時にユウナは叫んでいた。

 

 「な、なにを止まってる! アレは敵だ! 落すんだよ!!」

 

 「は、はっ!」

 

 ユウナの叫びに周りの兵士達も正気に戻ったように動き出す。

 

 「それでいいんだよ!」

 

 ユウナが満足そうに頷いているその後ろではカースが軽蔑の視線を送りながら踵を返していた。

 

 「……本当に愚かだな。まあいい、今回は様子見といこうか。……ザフトのお前がどんな顔をしているのか見れないのは残念だがな」

 

 愉悦の笑みを浮かべながらカースは艦橋から立ち去った。

 

 そして全軍に行き渡ったユウナの指示をネオは自身の機体の中で聞いていた。

 

 「……言われるまでも無く出るがな」

 

 今回の指揮官はユウナだ。

 

 たとえ彼が素人であり、個人的に思う事があろうとも勝たせる事がネオの仕事である。

 

 しかしあんなものが出てくるとは予想していなかった。

 

 中立同盟の力は周知の事実。

 

 ミネルバに加え、彼らまで相手にする事になると相当の被害を覚悟しなければならない。

 

 出撃しようとしたネオにあの感覚が走った。

 

 「これは……」

 

 エクリプスともあの白い一つ目とも違う。

 

 となれば―――

 

 「……彼までここにいるのか」

 

 なんとも言えない複雑な感情を滲ませながら、ネオはウィンダムを出撃させた。

 

 

 

 

 アークエンジェルの介入により戦闘は一時中断したものの、すぐに命令が下ったのか戦闘は再開された。

 

 地球軍、ザフト、両軍が敵を撃たんと動き出す。

 

 それは予期せぬ介入者であるアークエンジェルも例外ではない。

 

 次々に地球軍の機体が襲いかかってきた。

 

 それは別に構わない。

 

 元々戦闘の中を突っ切るつもりだったのだから。

 

 「予定通り私が先行します!」

 

 「了解。私も後ろからついて行きますから」

 

 「はい!」

 

 レティシアに返事を返すとマユはフットペダルを踏み込む。

 

 フリーダムは蒼い翼が広げて加速すると邪魔な敵機をサーベルで斬り捨てながら戦場に突撃して行った。

 

 単機での突撃。

 

 普通ならばあまりに無謀な行動なのだろう。

 

 しかしフリーダムとマユならば―――

 

 そう信頼しているからこそ、レティシアも何も言わずに追随する。

 

 「フラガ一佐、アークエンジェルをお願いします」

 

 「こっちは大丈夫だ。任せろ」

 

 ムウの頼もしい返事に笑みを浮かべるとレティシアもフリーダムを追ってブリュンヒルデを先に進ませた。

 

 目標は一番後ろの旗艦。

 

 そこにアストレイやムラサメが集まっている。

 

 マユはウィンダム部隊に突っ込むとビームサーベルで瞬時に前方に居た二機の敵機を撃破する。

 

 仲間をやられた他の敵機がビームライフルを撃ちこんでくるが、舞うように動くフリーダムを捉える事が出来ない。

 

 回避運動をこなしながらマユはビームライフルで敵機を正確に射抜いていく。

 

 「は、速い!?」

 

 あまりの早技に呆気にとられる他のウィンダム。

 

 同盟軍最強の一機と呼ばれるのも納得の力だった。

 

 ウィンダムのパイロットはすぐに正気に戻り、動きまわるフリーダムにビームライフルで狙いをつけた。

 

 彼はここで致命的なミスを犯した。

 

 フリーダムの強さを警戒するあまり他の敵の存在を失念してしまったのだ。

 

 コックピットに警戒音が鳴り響き、敵機が迫っている事に気がつく。

 

 しかしそれは遅すぎた。

 

 「しまっ―――」

 

 「迂闊ですよ!」

 

 接近してきたブリュンヒルデは斬艦刀グラムを振り抜くとウィンダムの胴を横薙ぎに叩きつけた。

 

 胴を斬り裂かれ爆散したウィンダムを尻目にビーム砲を撃ち込んで周囲の敵機を薙ぎ払っていく。

 

 まさに戦女神と呼ばれるにふさわしい戦いぶりである。

 

 縦横無尽に動き回り、ウィンダムを排除していくフリーダムとブリュンヒルデ。

 

 そんな二機に下から攻撃を加える機体があった。

 

 海中を動き回るアビスだ。

 

 「調子に乗るなっての!!」

 

 アビスは海面から背部を出すとフリーダムとブリュンヒルデ目掛けて、バラエーナ改二連装ビーム砲を撃ち放つ。

 

 空中の二機に襲いかかる閃光。

 

 それを回避したマユとレティシアはチラリとお互いを見ると同時に動き出した。

 

 「レティシアさん!」

 

 「先にお願いします! 後は私が!!」

 

 マユは立ちふさがるダガーLを撃破すると腰のクスフィアスレール砲を展開、海中のアビスに連続で叩き込んだ。

 

 撃ち込まれる砲弾が大きな水柱を作っていく。

 

 上からの砲弾の雨に晒されたアウルはその衝撃に思わず呻いた。

 

 エクステンデットとして強化されていてもこれだけの衝撃に連続で晒されれば平気ではいられない。

 

 「ぐぅぅ! このぉ!!」

 

 絶え間なく続く攻撃と反撃が出来ない状況にアウルは苛立ち、焦れた。

 

 「こんな奴らに良いようにやられて堪るかよ!!」

 

 レール砲の攻撃に苛立ちを募らせたアウルはフリーダムにビーム砲を叩き込もうと海中から飛び出した。

 

 「これでぇ―――ッ!?」

 

 意気揚々と攻撃を仕掛けようとしたアウルは完全に固まってしまった。

 

 飛び出したアビスの前には斬艦刀を構えたブリュンヒルデが待ち構えていたからだ。

 

 振り抜かれた斬撃に機体を後退させるが遅い。

 

 グラムがアビスの左腕を捉えると、抵抗も無く斬り裂かれてしまった。

 

 「てめぇぇぇ!!」

 

 激昂しながらトリガーを引き、カリドゥス複相ビーム砲をブリュンヒルデに叩き込む。

 

 しかし胸部から放たれた閃光は相手の機体を捉える事無く、海面を貫いただけだった。

 

 「なっ!?」

 

 「甘いです!」

 

 驚愕するアウルに今度は背後に迫っていたフリーダムがビームサーベルで斬りつけてきた。

 

 「不味い!?」

 

 咄嗟に右手のビームランスを盾にしてコックピットを守る事に成功した。

 

 だが振るわれたビームサーベルによってアビスは右肩ごと腕を破壊されてしまう。

 

 そしてバランスを崩したアビスはブリュンヒルデによって頭部を斬り飛ばされ、海に蹴り落とされてしまった。

 

 「ぐああああ!」

 

 「次に行きます」

 

 「了解」

 

 群がる敵機を圧倒していく、同盟軍の機体。

 

 それはリースと共に地球軍を迎撃していたアレンにも見えていた。

 

 「流石だな」

 

 フリーダムとアイテルの量産機。

 

 アレは地球軍では止められないだろう。

 

 パイロットはおそらく――――

 

 「……マユとレティシアか」

 

 「アレン?」

 

 スウェンのストライクノワールと交戦していたリースに耳に聞きなれない名前が聞こえてきた。

 

 「誰の名前?」

 

 リースはアレンを気にしながらもビームライフルショーティーを回避、二連装ガトリング砲をストライクノワールに撃ちこんだ。

 

 「この様子ならば問題ないだろう」

 

 イフリートの戦いぶりを横目で確認したアレンはここをリースに任せる事にする。

 

 「リース、ここを頼む」

 

 「え、ちょっとアレン!?」

 

 ダガーLをガトリング砲で蜂の巣にしたエクリプスは反転してフリーダムの方へ移動を開始した。

 

 リースは両肩に格納されているベリサルダを展開、両手に構えるとストライクノワールに振り抜く。

 

 スウェンは機体を逸らしながら後退して、回避しながら舌打ちする。

 

 「新型は伊達ではないという事か」

 

 新型の機体性能を確認する為にイフリートに攻撃を仕掛けたが、思った以上の性能である。

 

 さらに両手の対艦刀を苦も無く扱うパイロットの技量も相当に高い。

 

 「やっかいだな」

 

 スウェンは対艦刀の切っ先を見極めながら、距離を取りビームを放った。

 

 撃ちこまれたビームを肩のシールドで弾きながら、リースがストライクノワールに攻撃を繰り出す。

 

 しかしスウェンと戦いながらもリースの関心はそんな所にはなかった。

 

 先程のアレンが呟いた名前は女のものだった。

 

 「……マユとレティシア」

 

 自身の中に湧きあがってくる暗い感情。

 

 ドロドロとした気持ちを抱えながらリースは戦闘に没頭する。

 

 その感情を叩きつけるかのように。

 

 

 

 

 ジェイルのグフと相対していたスティングにもアビスが倒された事は確認できた。

 

 「アウル!?」

 

 コックピットは無事だったからアウルは生きている。

 

 だがそれでもやられたという事実は変わらない。

 

 スティングは奥歯を強く噛みしめた。

 

 自分達は勝つからこそ意味ある存在である。

 

 少なくともスティングはそう認識していた。

 

 自分達に敗北は許されないのだ。

 

 だからこそあの蒼い翼を持つ死天使が許せない。

 

 「戦闘中によそ見かよ!」

 

 「チッ」

 

 スティングはグフのスレイヤーウィップを回避しながら、向かってくる蒼い翼のモビルスーツを睨みつけた。

 

 「いきなりしゃしゃり出てきて邪魔な連中だ!」

 

 スティングは苛立ちに任せ、斬りかかってくるジェイルを無視するとフリーダムに向かってビームライフルを向けた。

 

 「なっ、こっちは無視かよ!」

 

 「お前の相手は後でしてやる! 先にアイツだ!!」

 

 フリーダムにビームライフルを連続で撃ち込んむ、カオス。

 

 しかしフリーダムは迫る閃光をバレルロールして避け同時に肉薄、あっさりとライフルごとカオスの右腕を斬り捨てた。

 

 速すぎる。

 

 機体だけではない。

 

 あの一瞬で腕を落としたパイロットも隔絶した技量をもっている。

 

 「だからって!!」

 

 機動兵装ポッドを操作すると、背後からフリーダムを強襲、残った左腕でビームサーベルを振り上げた。

 

 「邪魔です」

 

 マユは淡々と操縦桿を操り、サーベルの斬撃と機動兵装ポッドの攻撃を僅かに機体を逸らすのみで回避。

 

 逆に下段に構えていた剣で逆袈裟にカオスを斬り裂いた。

 

 「ぐああああ!」

 

 カオスは機体を斜めに斬り裂かれ、落下していく。

 

 その光景にジェイルは息を飲むと同時に激しい屈辱が彼自身の中に渦巻いた。

 

 カオスのパイロットはまぎれもない強敵である。

 

 アーモリーワンから新型強奪を成功させた事に加え、ジェイル自身が刃を交えた経験からも良く分かる。

 

 そんな敵をあのパイロットはいとも容易く倒したのだ。

 

 フリーダムのパイロットはこちらの技量を圧倒しているという事実。

 

 それが彼の矜持を大きく傷つけた。

 

 さらにフリーダムともう一機は向ってこない敵はすべて無視していた。

 

 つまりこっちは歯牙にもかけないという事。

 

 眼中にないという訳だ。

 

 それが余計に彼の怒りを煽る。

 

 「ふざけるなぁぁ!!」

 

 ジェイルは背を向けていくフリーダムにドラウプニル四連装ビームガンを構えた。

 

 彼らは同盟軍。

 

 つまりはザフトの敵である。

 

 引き金を引く事になんの問題も無い。

 

 何のためらいも無くトリガーを引き、連続で発射されたビームが一斉にフリーダムに襲いかかる。

 

 「ザフトの新型?」

 

 マユは思わず顔を顰めた。

 

 目的はあくまでもセイランやオーブより離脱した機体群だ。

 

 ザフトに構っている暇はない。

 

 次々と撃ち込まれる閃光を翼を広げ、スラスターを巧みに使って避けるとビームサーベルを持ちグフに斬り込んだ。

 

 「くそ、 当たらないだと!」

 

 ジェイルは闇雲に撃っている訳ではない。

 

 すべて狙いを付けている。

 

 しかしフリーダムがこちらの射撃を尽くかわしていくのだ。

 

 「この野郎がァァァ!!!」

 

 「ッ!」

 

 お互いの機体がすれ違う瞬間、閃光が綺麗な軌跡を描くと同時にグフの右腕が宙に舞っていた。

 

 ジェイルは戦慄する。

 

 フリーダムのサーベルが腕を捉え斬り飛ばすのに、回避の反応もできなかった。

 

 それがジェイルのプライドを余計に傷つける。

 

 「うおおおお!!」

 

 激情に任せ残った左腕でテンペストビームソードを構えて振り向きざまに斬りかかった。

 

 しかしフリーダムはそれより早くビームサーベルを横薙ぎに払い、腕ごとグフの下腹部を両断、斬り捨てた。

 

 「ぐあああ!!」

 

 落下し、意識が途切れる一瞬の時間の中でジェイルはフリーダムの姿を目に焼き付けた。

 

 あの死天使は―――必ず落とす。

 

 必ず!

 

 憎悪を抱きながらジェイルの意識は消えた。

 

 マユがグフの撃墜を確認すると先行したレティシアを追うために踵を返す。

 

 だが息つく暇も無く、次の敵が襲いかかってきた。

 

 それは見覚えのある赤い機体。

 

 マユ自身も助けてもらった事があるセイバーである。

 

 「セリスさん」

 

 あれには兄であるシンの恋人が乗っている。

 

 できれば戦いたくない相手だ。

 

 それに彼女の事は嫌いではない。

 

 ミネルバに乗った時も彼女にだけは好感を持った。

 

 それをこれから―――

 

 「覚悟はした筈」

 

 一瞬の躊躇いを振り払うと攻撃してくるセイバーに応戦の構えを取った。

 

 セイバーは変形してモビルスーツ形態になるとアムフォルタスプラズマ収束ビーム砲を跳ね上げ撃ち放つ。

 

 それをすり抜ける様に回避するフリーダム。

 

 「嘘!?」

 

 狙いをつけて撃ちこんだビームをあっさりと避けるフリーダムにセリスは驚嘆してしまった。

 

 「流石ジェイルをあそこまであっさり倒すだけはある」

 

 コックピットの中でセリスは目の前の機体に脅威を感じていた。

 

 ジェイルのパイロットとしての技量は高い。

 

 訓練を積み、実戦も経験していた彼の力はその辺のパイロットでは相手にならないだろう。

 

 それをああも容易く倒すとは。

 

 だからこそこの脅威を放置できない。

 

 砲弾のように突撃してきたフリーダムは腰のレール砲展開して撃ちこんでくる。

 

 セリスは咄嗟に反応でシールドを掲げて防御に成功した。

 

 撃ちこまれた砲撃の震動に歯を食いしばって耐え、敵機にビームサーベルを振り抜く。

 

 「この!」

 

 あれだけの技量を持つパイロット相手に接近戦を挑むなど無謀かもしれない。

 

 しかし遠距離からの攻撃でフリーダムは捉えられないし、バッテリーの問題もある。

 

 だからセリスはあえて接近戦を選択したのだ。

 

 セイバーとフリーダムの激突。

 

 互いのビームサーベルがシールドに阻まれ火花を散らした。

 

 

 

 

 セイバーとフリーダムの戦い。

 

 セリスにとって無謀ともいえる戦いはイレイズと交戦していたシンにも見えた。

 

 「セリス!?」

 

 あの機体と一対一だなんて危険すぎる。

 

 オーブの戦いでもフリーダムは凄まじいまでの戦いぶりで地球軍を圧倒していた。

 

 いかにセリスの技量が高くともあの機体相手では流石に危ない。

 

 今すぐにでも援護に行きたいが、簡単にはいかない。

 

 反転しよう試みるが、その度にイレイズが尽く邪魔をしてくるのだ。

 

 インパルスの進路を先読みするかの様にビームマシンガンを撃ち込んでくる。

 

 そんなイレイズにビームライフルを撃ち返しながら怒りを募らせ歯を食いしばった。

 

 「こんな奴に構ってはいられないというのに!」

 

 「インパルス! ここで倒す!」

 

 しくこいまでに食い下がってくる敵機を睨みつけるとシンの怒りが爆発した。

 

 「邪魔なんだよ、お前はァァァァ!!」

 

 シンのSEEDが弾ける。

 

 同時に全身が研ぎ澄まされ視界が一気にクリアになった。

 

 オーブでの戦闘で感じたあの感覚だ。

 

 「はああああああ!!」

 

 怒りの任せ咆哮しながらビームサーベルを構えイレイズに斬り込んだ。

 

 「これは!?」

 

 アオイは振り下ろされるビームサーベルを何とかシールドで受け止める事に成功した。

 

 ほとんど偶然だった。

 

 今の攻撃を受け止められたのはまさに僥倖といえるだろう。

 

 アオイはインパルスの動きが変化した事に気がついた。

 

 オーブ戦で見せたあの動きだ。 

 

 「しっかりしろよ、アオイ・ミナト! これまで訓練を積んで来たのはこいつに勝つためだろう!」

 

 先程までとはまるで違う動きに食らいつこうとアオイは操縦桿を必死に動かしていく。

 

 だがそれを遥かに上回る動きで攻撃を繰り返してくるインパルス。

 

 左右から叩きつけられる激しい斬撃をシールドを使って、流しながら対艦バルカン砲を放つ。

 

 だがそれすらも取るに足らないと敵機は突っ込んできた。

 

 叩きつけられた剣の切っ先がイレイズの装甲を抉っていく。

 

 多少なりとも食らいついていけたのは間違いなく訓練の成果だ。

 

 しかしやはり実戦は違う。

 

 アオイはインパルスの想定以上の動きに徐々に追い詰められていった。

 

 「落ちろォォォォ!!」

 

 「くぅ、まだ!」

 

 何とかしようともがくアオイ。

 

 このままでは駄目だ。

 

 何とか対応策を考えないと撃墜される。

 

 しかしインパルスはアオイの態勢が整うのを待ってくれはしない。

 

 シンは腰のフォールディングレイザー対装甲ナイフを引き抜くとイレイズ目掛けて投げつけた。

 

 「ぐっ」

 

 アオイは投げつけられたフォールディングレイザー対装甲ナイフをシールドで弾く。

 

 だがその隙に接近してきたインパルスのサーベルによってビームマシンガンを破壊されてしまった。

 

 「くそ!」

 

 破壊されたビームマシンガンを投げ捨てる。

 

 反撃に移ろうとするアオイだったが、インパルスはイレイズに蹴りを叩きこみ距離を取って反転した。

 

 「がはっ……逃がすか―――ッ!?」

 

 蹴りを受けた衝撃で吐きそうになりながらも離脱するインパルスを追おうとする。

 

 だがその時、視界に入ったのはザフトの機体と戦っているガイアの姿だった。

 

 敵が放った鞭のような武器にライフルを絡め取られ追いつめられている。

 

 「ステラァ!!」

 

 インパルスの事は後だ。

 

 スカッドストライカーを吹かせ、ステラの急ぐ。

 

 新装備のおかげか思ったよりも早く交戦区域に辿りつくとオレンジのグフに対艦バルカン砲を撃ちこんだ。

 

 グフは突然撃ちこまれたバルカン砲を見事なまでの反応で後退してやり過ごす。

 

 どうやらかなりのパイロットらしい。

 

 「ステラ、大丈夫か!?」

 

 「アオイ!!」

 

 援護に来たアオイの姿にステラは満面の笑みを浮かべた。

 

 見るとガイアには目立った損傷は無い。

 

 どうやら間に合ったようだ。

 

 安堵するアオイとは対照的にガイアと相対していたハイネは援護に来たモビルスーツに舌打ちする。

 

 「イレイズか! 今はあのモビルアーマーを落とすのが先だってのに」

 

 アークエンジェルやフリーダムの介入で戦場は想像以上の混戦となっている。

 

 モビルアーマーを落とし、タンホイザ―による砲撃で状況を打開したいハイネにとってイレイズの存在は邪魔以外の何者でもな。

 

 ガイアを蹴りで突き放し、四連装ビームガンをイレイズに向けて放つ。

 

 連続で叩きこまれたビームガンをシールドを構えて防御、ビームサーベルで接近戦を挑んだ。

 

 「ステラはやらせない!」

 

 「何時までも好きにさせると思うなよ!」

 

 袈裟懸けに振るわれたイレイズの斬撃をシールドで逸らして、テンペストビームソードで反撃を開始した。

 

 アオイは咄嗟に回避行動を取るとビームソードは装甲を掠めていく程度に留まる。

 

 「こいつ、強い」

 

 「やるな、シンが手こずる訳だ」

 

 地球軍のパイロットの中ではかなりの腕前だ。

 

 流石にガンダムを任されるだけはあるという事だろう。

 

 スラスターを使ってイレイズの攻撃をすり抜け、旋回しながらハイネはスレイヤーウィップを巧みに使いライフルを絡め取ろうとする。

 

 アオイは思わず舌打ちした。

 

 あの鞭の動きは面倒だ。

 

 油断すれば絡め取られて終わり。

 

 「ならば!」

 

 フットペダルを踏み込みスラスターを吹かせ、シールドを構えあえて前に出る。

 

 下手に避けようとしても駄目。

 

 ならば一気に懐に飛び込む方が良いと判断したのだ。

 

 スレイヤーウィップは弾きながら突っ込んでくるという敵機の行動に驚くハイネ。

 

 そのままサーベルを横薙ぎに斬り払ってくる。

 

 「へぇ~本当にやるな。けど、甘いぜ!」

 

 だが彼は取り乱す事無く冷静に動きを把握すると、斬撃を避けながらイレイズの後ろに回り込み蹴りを叩きつける。

 

 「ぐっ」

 

 蹴りを入れられイレイズはバランスを崩しかける。

 

 アオイはスラスターを使って態勢を立て直そうとするが、黙って見ているハイネではない。

 

 「これでどうだ、イレイズ!」

 

 「くそ!」

 

 スレイヤーウィップの攻撃によってシールドを弾き飛ばされてしまう。

 

 これで隙だらけだ。

 

 「アオイ!!」

 

 グフの攻撃からイレイズを守ろうとガイアが前に出た。

 

 ビーム砲を撃ちながら、グフにサーベルを叩きつける。

 

 ハイネはあえてガイアの剣を受けずに空中に飛び上がり、四連装ビームガンを撃ち放った。

 

 ガイアに空中での戦闘は無理だ。

 

 ハイネはそれをよく理解している。

 

 ガイアはビームガンをやり過ごし、背中のビーム砲で反撃するしかない。

 

 アレではなぶり殺しにされる。

 

 「ステラッ!!」

 

 何もできないのか。

 

 守りたいと言いながら、結局何も。

 

 インパルスも倒せないまま、ステラを危険にさらして―――

 

 「いや、まだだ! まだ戦える!! 俺は今度こそ!!!!」

 

 その時、アオイのSEEDが弾けた。

 

 研ぎ澄まされた感覚が全身に広がっていき、視界が開ける。

 

 「やめろぉぉ!!」

 

 スラスターを全開にしてグフに突進する。

 

 ガイアに迫るスレイヤーウィップをビームサーベルで斬り捨て、肩のビームブーメランをグフに向かって投げつける。

 

 「チッ、こいつ、いきなり!」

 

 投げつけられたビームブーメランを直前で回避するハイネ。

 

 その隙に肉薄してきたイレイズはビームサーベルを上段から振り下ろしてきた。

 

 「舐めるなよ!」

 

 受け流してカウンターで仕留める。

 

 そう決断したハイネは素早くシールドを掲げた。

 

 だがここに誤算が生じる。

 

 イレイズの反応は彼の予測を上回っていたのだ。

 

 「はあああ!!」

 

 アオイは即座にビームサーベルを逆手に抜きそのまま斬り上げる。

 

 ハイネの予想を上回る速度で放たれた斬撃がグフの右腕を捉え斬り飛ばした。

 

 「な、なんだと!?」

 

 失った右腕を見ながらハイネは驚愕で固まってしまった。

 

 イレイズの攻撃に全く反応できなかった。

 

 「何なんだ、こいつは!?」

 

 さらに敵機は動きを止めず、左足で蹴りを叩き込んでくる。

 

 防御の構えすら取れず、動きに全くついていけない。

 

 たたらを踏むグフに右腕のサーベルを振り下ろし、シールドを掲げた左腕を斬り捨てる。

 

 「ぐぅ!?」

 

 「これで止めだぁ!」

 

 両腕を失い、バランスを崩して隙だらけのグフ。

 

 アオイはブルートガングを抜きグフのコックピット目掛けて突きを放つ。

 

 「完全に捉えた!」

 

 だがその瞬間、アオイの全身に行きわたっていた鋭い感覚が突然消え失せた。

 

 「えっ」

 

 何が起こった?

 

 アオイの戸惑いによってブルートガングの狙いがずれてしまう。

 

 刃はコックピットから逸れてグフの左脇に突き刺さり、凄まじいまでの火花が散る。

 

 アオイは敵機に蹴りを入れて吹き飛ばし、倒れ込んだグフは損傷した部分から、小規模の爆発を起こす。

 

 コックピットは外したが、あれではパイロットもただでは済まないはず。

 

 しばらく警戒していたが、動く気配は無い。

 

 とりあえず倒したと思っていいだろう。

 

 「ハァ、ハァ、倒した。でも、何だったんだ、今のは?」

 

 変な感覚だった―――いや、そんな事は後だ。

 

 「ステラ、大丈夫! 怪我とか!」

 

 「うん、大丈夫」

 

 モニターで笑顔を浮かべるステラの姿にホッと安堵の息を吐くと計器をチェックする。

 

 バッテリーはギリギリ。

 

 これ以上の戦闘は厳しいだろう。

 

 それはガイアも同じはずだ。

 

 「ステラ、戻ろう」

 

 「うん」

 

 アオイは戦場に後ろ髪を引かれながらもガイアを連れJ.P.ジョーンズに帰還した。

 

 

 

 

 セイバーと交戦に入ったフリーダムよりも先行していたレティシアは立ちふさがる敵機を撃破しながら先を急いでいた。

 

 やはり物量の違いというのは大きい。

 

 その点でいえば紛れも無く不利なのはアークエンジェルだ。

 

 いかにムウがそこらのパイロット以上の技量を持っていたとしても、一機では厳しいだろう。

 

 ならば最速で目的を達成して撤退する。

 

 それが一番被害が少ない。

 

 ダガーLの胴体にビームサーベルを叩き込み、接近してきたウィンダムを機関砲でハチの巣にする。

 

 地球軍は思った以上にこちらに対する攻め手が甘い。

 

 どうやら大半の戦力はザフトのモビルスーツの迎撃に向かっているらしい。

 

 そしてもう一つ。

 

 あの艦隊の前に配置してある巨大なモビルアーマーの守護にも戦力を割いているようだ。

 

 レティシアも第二次オーブ戦役であの機体の事は知っている。

 

 陽電子砲を防ぐ防御力と強力な火器を装備した機体だ。

 

 それを今回は前面には出さずに、ミネルバからの陽電子砲に対する防御に使っている。

 

 攻撃に加わらせないのはおそらく前回の戦闘でインパルスやセイバーに落とされてしまった為だ。

 

 もし仮にあれが落とされたならミネルバの陽電子砲で地球軍は大きな打撃を受ける事になる。

 

 それだけは避けたいのだろう。

 

 ならば今がチャンスだ。

 

 今の内に艦隊を突破して、オーブ機を破壊する。

 

 戦艦からの迎撃ミサイルを機関砲で迎撃しながら、砲台をビームライフルで次々と撃ち落とす。

 

 その時、レティシアの前にザフトの機体がいる事に気がついた。

 

 アレンのエクリプスである。

 

 「ガンダム……インパルスに似ているけど」

 

 ザフトは現在敵。

 

 こちらの進路を阻むならば、倒していくしかない。

 

 だが何故だろうか。

 

 レティシアにはあれが敵には思えなかった。

 

 「何を考えているの。集中しないと」

 

 ビームライフルで牽制しつつ、即座にグラムに持ち替えて斬りかかった。

 

 エクリプスは機体を傾けビームを回避。

 

 上段からのグラムの斬撃を受け流し、ビームサーベルをブリュンヒルデに横薙ぎに振るう。

 

 叩きつけられたサーベルをシールドで受け止めるブリュンヒルデ。

 

 ニ機は高速で動きまわり、激突を繰り返す。

 

 何度目かのエクリプスの攻撃を受けとめたところでレティシアは気がついた。

 

 「ま、まさか……」

 

 自分はこの動きを知っているのだ。

 

 だがそれは―――

 

 一瞬の困惑の隙。

 

 その瞬間にエクリプスはブリュンヒルデの懐に飛び込むと、サーベルを一閃し斬艦刀を半ばから叩き折った。

 

 「ぐっ、まだです!」

 

 レティシアは折れたグラムを投げ捨てビームサーベルを構える。

 

 しかしエクリプスは構わず正面から突っ込んできた。

 

 お互いがサーベルをシールドで受け止め、膠着状態になる。

 

 この動きは間違いない。

 

 確信を持ったレティシアは通信機のスイッチを入れて叫んだ。

 

 「アスト君! その機体に乗っているのはアスト君でしょう!?」

 

 レティシアの声に反応して通信機から聞こえてきた声は紛れも無く待ち望んでいた少年の声だった。

 

 《……アークエンジェルまで後退して下さい。その機体はバッテリー機の筈です。単機での突破は危険すぎる》

 

 「アスト君、どうして―――」

 

 《いいですね。後退してください》

 

 前と変わらない優しい声色で呟くとエクリプスはブリュンヒルデを突き飛ばして反転した。

 

 「待って!」

 

 しかしエクリプスは止まる事無くそのまま行ってしまう。

 

 レティシアは追いかける事も出来ず、混乱したままエクリプスの去っていった方向を見続けるだけだった。

 

 

 

 

 ザフトと地球軍の戦いは激しさを増していた。

 

 それはアークエンジェルも同様だ。

 

 地球軍はザフトを標的としている為かこちらにはあまり攻撃仕掛けてこない。

 

 それでも正面から地球軍を相手にしているミネルバよりはマシという程度だ。

 

 そんな中アークエンジェルを落とそうと迫ってくる敵機をたった一機でこの艦を守り抜いていたのはムウのセンジンである。

 

 飛行形態とモビルスーツ形態を巧みに使い分け、迫る地球軍の機体を圧倒していた。

 

 「やらせるか!」

 

 ビームライフルでダガーLを撃ち、背中のビーム砲で突っ込んでくるウィンダムに発射した。

 

 強力なビームによってウィンダムは為す術無く破壊されていく。

 

 ムウはエンデュミオンの鷹と呼ばれた程の猛者。

 

 そこらにいるパイロットでは太刀打ちできないだろう。

 

 小気味良く、敵機を撃破していたムウに久ぶりな感覚が走った。

 

 前大戦終結からずいぶんご無沙汰していたあの感覚である。

 

 「誰だ?」

 

 感覚に従って視線を動かした先にいたのは、通常のウィンダムとは色違いの機体だった。

 

 他の機体とは色だけではなく明らかに動きが違う。

 

 おそらく隊長機だろう。

 

 「この感覚は……ラウ・ル・クルーゼか?」

 

 いや、似ているがどこか違う。

 

 一体誰なのか?

 

 当然ムウが感じ取ったようにネオもまたその存在を感知していた。

 

 「私が君を感じる様に、君もまた私を感じ取るか。不幸な宿縁とでもいえばいいのかな、ムウ・ラ・フラガ」

 

 ネオはビームライフルを向ってくるセンジンに撃ち込んだ。

 

 しかしセンジンはこちらの攻撃を読んでいたかのような反応で上昇し回避すると、ライフルを撃ち返してくる。

 

 上手い。

 

 敵の正確な射撃に感嘆する、ネオ。

 

 「流石エンデュミオンの鷹だな。しかし甘い」

 

 動きを読めるのはこちらも同じ事だ。

 

 ネオはジェットストライカーの推力を使い、旋回して撃ち込まれたビームをやり過ごす。

 

 「今のをかわす!?」

 

 ウィンダムはセンジンをビームライフルで誘導しながら距離を詰めるビームサーベルを袈裟懸けに叩きつけた。

 

 センジンは斬撃をシールドで攻撃を流そうとするも、ネオの動きはそのさらに上をいった。

 

 ムウが斬撃を受け止めた瞬間、ウィンダムはシールドでセンジンを殴りつけ、態勢を崩したところにビームライフルを撃ちこんできたのだ。

 

 「チッ、この!」

 

 ギリギリで機体を逸らして直撃は避けたが、閃光が装甲を抉り掠めていく。

 

 「こいつ強い!」

 

 「この程度か、ムウ」

 

 やや失望したような声で呟くネオ。

 

 「まだだ!!」

 

 飛行形態に変形してウィンダムの背後に回り込む。

 

 諦めない敵機の姿にニヤリと笑みを浮かべると、ネオはセンジンを迎え撃った。

 

 

 

 

 戦況が変化していく中、フリーダムと交戦していたセリスは完全に追い込まれていた。

 

 フリーダムの速く強力な斬撃をなんとかシールドで防いでいく。

 

 「くっ!」

 

 完全に防戦一方である。

 

 攻勢に出れたのはあくまで最初だけ。

 

 その後セリスはずっと防御一辺倒になっていた。

 

 フリーダムと交戦して分かったのは、相手の技量は確実にセリスよりも上だという事。

 

 それをすぐに理解したセリスは無理に攻勢に出ずフリーダムの攻撃に合わせシールドで防ぐという戦法を取っていた。

 

 そうしなければ一瞬で倒されていたに違いない。

 

 だがそんな戦いも限界に近付いていた。

 

 セイバーの装甲はサーベルによって所々傷がついている。

 

 むしろここまで持ちこたえられた事が僥倖といえるだろう。

 

 フリーダムの蹴りを受けて態勢を崩すセイバー。

 

 マユはその隙を見逃さない。

 

 このまま決着かと思われた時―――

 

 「やめろぉぉぉぉ!!」

 

 ビームライフルを放ちながらインパルスが突っ込んで来た。

 

 「ッ!?」

 

 マユは撃ちこまれたビームを宙返りして回避すると思わず唇を噛んだ。

 

 やはりシンと戦う事は避けられないらしい。

 

 「セリス、大丈夫か!?」

 

 シンは目の前に機体を警戒しながら、通信を入れセリスに声を掛けた。

 

 「シン! 私は大丈夫!」

 

 安堵すると同時に蒼い翼を持つ機体に対する怒りが湧き上がってくる。

 

 「フリーダム!! よくも、よくもセリスをやったなぁぁ!!」

 

 ビームサーベルを構えるとフリーダム目掛けて斬りかかった。

 

 同時にマユも動く。

 

 二つの斬撃が敵機を狙い繰り出されるが、掲げたシールドに阻まれ弾け飛ぶ。

 

 二人の実力を比較するなら未だにマユの方がまだまだ上である。

 

 だからすぐに決着がつくかといえばそうではない。

 

 現在シンはSEEDを発動させている。

 

 それ故に動きや反応は通常時とは比較にならない程に研ぎ澄まされていた。

 

 煌めくように振るわれる剣閃を潜り抜けるようにやり過ごすと、即座に反撃する。

 

 ついて行くことができる。

 

 フリーダムを相手にしても。

 

 「はああああ!!」

 

 インパルスの攻撃を弾き飛ばし、後退するマユ。

 

 彼女は以前とはまるで違う兄の技量に驚いていた。

 

 強い。

 

 前とは比べ物にならないほど腕を上げている。

 

 「……それでも!!」

 

 インパルスが上段から振り上げたサーベルに合わせ、マユもまた斬撃を繰り出した。

 

 二つの光刃がお互いに迫ると同時にフリーダムとインパルスがすれ違う。

 

 一瞬の攻防。

 

 結果―――斬り裂かれ、宙に舞っていたのはインパルスの右腕であった。

 

 シンは驚愕する。

 

 間違いなく勝ったと思ったのだ。

 

 そんなシンの反応をフリーダムのパイロットは完全に上回った。

 

 このままでは不味い。

 

 フリーダム相手に片手で勝てるとは思わない。

 

 ミネルバにチェストフライヤーを射出するように呼びかけようとした瞬間、通信機から声が聞こえてきた。

 

 《これ以上は無理です。後退してください》

 

 「えっ」

 

 それはある意味シンにとって最悪の声。

 

 決して戦場で聞きたくない声だった。

 

 「ま、まさか……フリーダムの……パイロットは―――マユ?」

 

 今までの憤りは消え、手が震え、息が荒くなる。

 

 「……俺は、今、マユを、本気で、殺そうとしたのか?」

 

 完全に動きを止めたインパルス。

 

 それを見て悲鳴を上げたのはセリスだ。

 

 「シン!!」

 

 あれではやられてしまう。

 

 セリスはフリーダムを睨みつける。

 

 駄目だ。

 

 シンを殺させない。

 

 あれを倒せる力があれば。

 

 セリスの力の渇望に反応したようにソレは動きだす。

 

 

 

 その瞬間、秘めたるシステムが起動した。

 

 

 

 『I.S.system starting』

 

 

 

 システムが動き出した瞬間、セリスの視界はクリアになり、感覚が研ぎ澄まされる。

 

 それはオーブで感じたあの感覚に良く似ていた。

 

 ただ違う所があるとすれば、セリスの感情と思考だった。

 

 余計な考えは一切浮かばず、敵意だけが大きく膨れ上がっていく。

 

 「うああああああ、フリーダム!!!!」

 

 あれが敵だ。

 

 殺さなければ、殺される。

 

 だから殺す。

 

 殺してやる。

 

 「死ね!」

 

 セイバーはスラスターを全開にするとビームサーベルを構えて襲いかかった。

 

 「なっ」

 

 斬りかかってきたセイバーにフリーダムもビームサーベルを構える。

 

 だがセイバーは先程までとは動きがまるで違う。

 

 攻撃には異常なまでに殺意に満ちて、躊躇いなど何もない。

 

 乗っているパイロットが別人なのではないかと錯覚するほどだ。

 

 振るわれる斬撃がフリーダムを捉えようと迫ってくる。

 

 「くっ」

 

 機体を上手く逸らしながら、マユはシールドでセイバーを突き飛ばす。

 

 「落ちろ、フリーダム!!」

 

 「いったい何が、セリスさん!」

 

 二機の戦いを呆然と見ていたシンだったが、すぐに正気に戻るとセリスを制止しようと叫んだ。

 

 「セリス、やめてくれ! フリーダムに乗ってるのは―――」

 

 「うるさい! 邪魔するな!」

 

 「なっ」

 

 セリスの今まで一度も聞いた事が無い殺意に満ちた声にシンは驚きを隠せない。

 

 「一体何が起きたんだ?」

 

 サーベルが弾け合い、激突と離脱を繰り返す二機。

 

 「死ねェ、死ねェェ!」

 

 セリスはフリーダムの背後に回り込んで斬りかかった。

 

 「まだです!!」

 

 背後から迫る光刃を前にマユのSEEDが弾けた。

 

 逆袈裟から振り下ろされる剣を機体を半回転させて避けたマユは同時にセイバーの背後からサーベルを斬り払う。

 

 フリーダムの予想以上の反応に、回避しきれない。

 

 セイバーの背中に装備されているビーム砲の砲身の片方が半ばから切断されてしまった。

 

 さらに回し蹴りの要領で背中から蹴りを叩きこみ、セイバーを吹き飛ばした。

 

 「ぐぅぅ」

 

 「セリス、もういいやめろ!」

 

 フリーダムにやられた衝撃なのかセリスの呻き声が聞こえてくる。

 

 「セリス!」

 

 「ハァ、ハァ、シ、シン?」

 

 「そうだ、俺だ! シンだ!」

 

 苦しそうだが普段のセリスの声が聞こえてくる。

 

 だが今にも意識を失いそうなほどか細い声。

 

 これ以上の戦闘は危険だ。

 

 「早く撤退しないと。でも……」

 

 フリーダム―――マユの事は。

 

 「シン、どうした!?」

 

 通信機から聞こえてきたのはアレンの声だった。

 

 別方向からエクリプスが近づいてくる。

 

 シンは切羽詰まったように通信機に叫んだ。

 

 「アレン、セリスの様子が……」

 

 「ッ!? セリスを連れてすぐに後退しろ!」

 

 「り、了解!」

 

 駆けつけてきたエクリプスに任せてセイバーを掴むと撤退を開始する。

 

 シンは一度だけフリーダムを見ると、顔を顰める。

 

 知らなかったとはいえ、マユを―――

 

 それ以上余計な事は考えず、シンはインパルスをミネルバに向けた。

 

 マユは退いて行くインパルスとセイバーを見届ける事無く、目の前にいる機体を見つめていた。

 

 エクリプス。

 

 ミネルバに乗船した時からあの機体の動きには見覚えがあった。

 

 でもまさか―――

 

 そう考えて、否定しようとする。

 

 だが通信機から聞こえてきたのはマユの考えていた通りの懐かしい声だった。

 

 《……マユ、戦闘はもう終わりだ。早く後退するんだ》

 

 「……そんな、やっぱり」

 

 マユが待ちわび、そして会いたいとずっと思い続けていた人。

 

 アスト・サガミの声だった。

 

 「アストさん、なんで……」

 

 《……アークエンジェルまで戻るんだ。いいね》

 

 質問に答える事無く、マユの記憶通りの優しい声で後退を促すとエクリプスはそのままミネルバに向かっていく。

 

 「アストさん!!」

 

 追いかけようとするも、各勢力は撤退を開始している。

 

 大勢は決した。

 

 地球軍は想定以上の損害を受けた事で撤退を選択した。

 

 退くというならこれ以上の戦闘に意味はない。

 

 ブリュンヒルデもアークエンジェルに戻ったようだ。

 

 マユはミネルバに戻るエクリプスを見ると、後ろ髪を引かれながらもアークエンジェルの方へ機体を向けた。

 

 

 

 

 ダーダネルス海峡での戦いはどこの勢力も勝利を手にする事無く幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 ミネルバの戦闘を監視させていた者からの報告を受けたヘレン・ラウニスは笑みを浮かべた。

 

 どうやら上手くいったらしい。

 

 部屋で仕事をこなすデュランダルに上機嫌で声を掛けた。

 

 「議長、例のシステム上手く起動したようです」

 

 「そうか……」

 

 デュランダルはそっけなく返事をするだけだ。

 

 「そんなに気に入りませんか?」

 

 それは当然だった。

 

 デュランダルは内心あのシステムを使いたいとは思っていなかった。

 

 『Imitation Seed system』

 

 特殊な催眠処置と投薬を用いてSEED発現状態を擬似的に再現する事が出来るシステムである。

 

 このシステムは確かに有効な面もある。

 

 SEEDの因子を持たない者も同じように力を使う事ができるのだ。

 

 しかし当然リスクも存在する。

 

 「お言葉ですが、力は必要です」

 

 「……分かっている」

 

 「詳しい事はミネルバからデータを回収してからですね」

 

 ヘレンが部屋から退出するとデュランダルは表情も変えず、ただミネルバが戦闘を行っていた方向を見ていた。

 




すいません、今回急いで書いたのでどこかおかしい部分があるかも知れません。


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