中東での地球軍の情勢はお世辞にも良いとは言えなかった。
大陸間を繋いでいたガルナハン基地が陥落。
これによりスエズ基地は陸路のルートを断たれ、それに呼応するように各地で地球軍に対する抵抗勢力も活発に動き出していた。
だがこれは戦争ばかりに気を取られ、周辺地域に強硬姿勢を貫いてきたツケともいえる。
そもそも『ブレイク・ザ・ワールド』の被害すら完全に癒えていない現状、戦争をしたがる者などいる筈は無いのだ。
そんな状況下でファントムペインの母艦であるJ.P.ジョーンズのネオの部屋には次の命令が届いていた。
内容はザフトの新造戦艦ミネルバの撃沈。
それはネオにとっては命令されるまでも無く、やるつもりだった。
しかし相手はすでに激戦を潜り抜けたザフト最強と呼び声の高い戦艦である。
正面からただ攻めるだけでは返り討ちに遭う可能性も十分にある。
上もそれを危惧したのか、今回は増援という形でとある部隊がこちらと合流する事になっていた。
それが―――
「……オーブからの離反者とはな」
ネオは資料を見ながら一人呟いた。
合流する事になっているのは『第二次オーブ戦役』時に離反した者達が集まった部隊だった。
彼らが同盟軍の機体を持って離反した事で連合の技術は向上し、それを基にして新型の開発が行われている。
しかしだから彼らが使えるかどうかは完全に別問題だ。
ネオからすれば逆に足を引っ張られないかという懸念の方が強かった。
そしてもう一人、面倒な人物も部隊と一緒にこちらに向かっているらしい。
問題の山積みにネオも頭を抱えたくなってくる。
それにこの先、ネオ自身が動かざる得ない状況が多くなってくる筈。
となれば―――
「……仕方ないか」
ネオは手元の端末を操作すると幾分の間もなく通信が繋がる。
《……何か?》
「……詳しい事は後で話すが、お前に地球に降りて来て貰いたい」
《地球の状況はどうなのです?》
「良くは無いな。私が動かなくてはならない状況もある。だからお前にはこっちに来てもらいたい」
端末に映った人物はため息をつくと頷いた。
《分かりました。では近々地球に降ります》
「頼む」
通信が切れると同時に部屋の扉がノックされる。
「大佐、合流する部隊が到着しました」
「分かった、すぐに行こう」
ネオは呼びに来たスウェンと共にJ.P.ジョーンズの艦橋に移動する。
そこにはすでに部隊の指揮官は待っていたらしく、敬礼してくる。
「お待たせして申し訳ない。ネオ・ノアローク大佐です」
「スウェン・カル・バヤン中尉です」
敬礼を返すと同時にネオは仮面に下から視線を滑らせた。
なんとも奇妙な連中である。
仮面で顔を隠しているネオに言えた事ではないのだが、相手も余程だろう。
目の前に居る部隊の指揮官らしき男は戦場にはあまりに場違いな軽薄な男だった。
「いえいえ、ユウナ・ロマ・セイラン准将です。よろしく、大佐」
なんというか見ているだけでも苛立ちが募る笑みである。
しかし階級はこの中の誰よりも上だ。
つまり今回の作戦の指揮官は彼という事になる。
素人丸出しのユウナに周囲の兵士達は不安を隠せないようだ。
気持ちは分かる。
しかし彼らも兵士である以上、迂闊な事は言わない。
ネオもスウェンも表情を変えず一緒に来た士官にも名乗っていくと、最後の人物に視線を向けた。
不気味な仮面を付けた人物はこちらの視線に気がついたのか、自分の名だけを口にする。
「……カース」
「聞いておきたいのだが、君もセイラン准将の部下か?」
その言葉にカースが一瞬殺気立つがすぐに自分を諌めたのか、殺意を抑えネオに向き直る。
「……ここに来る予定だったヴァールト・ロズベルクの代理だ」
「一応聞いておくが、そのヴァールト・ロズベルクはどうした?」
「……宇宙に所用が出来たらしい。後の事は知らない」
内心納得すると同時にカースに対する警戒心が強くなる。
ヴァールト・ロズベルクといえば連合内では悪い噂の絶えない男だった。
上層部に繋がりを持ち、彼の査察如何ではたとえ誰であっても消されてしまうという物騒な噂は兵士達の間では有名である。
実際そうなのかは知らないが、彼が上層部、ひいてはロード・ジブリールと繋がっている事だけは間違いのない事実だ。
そんな油断のならない男な訳だが、危険な噂が絶えない人物が寄こしたのがカースである。
警戒しておくに越したことはない。
「とりあえず君の事はわかった。セイラン准将、作戦会議を行いたいのですが?」
「ああ、分かったよ」
軽い口調で呑気に答えるユウナに失笑を禁じえないネオとスウェン。
何度見ても戦闘経験があるとは思えない。
こんなド素人が指揮を執ってあのミネルバ相手にどこまでやれるか、不安ではある。
自分に与えられた権限の中でどうにかするしかないとネオは作戦会議を開始した。
◇
オーブを離れたアークエンジェルは同盟の一国であるスカンジナビア近辺で待機していた。
そこで情報を集めていたのだが、最近地球軍が動き始めたという情報が入ってきた。
しかもその中にはムラサメやアストレイの姿もあったという。
さらにそれを指揮しているのはユウナ・ロマ・セイランであるらしい事も掴んでいる。
強引な同盟と開戦、そして西ユーラシアの強硬なやり方により前大戦以上に連合に不満を持つ各国家から情報を得るのは容易かった。
それに合わせアークエンジェルの艦橋に集まった主要メンバーは今後の事を話し合っていた。
ブリッジに集まっているのはヴァルハラやアメノミハシラなど別の場所で任務についている者達を除き前大戦からブリッジクルー達。
そして艦長であるマリュー、ムウ、マユ、レティシア、ラクスだ。
「それで私達はどうするんですか?」
「俺達の目的を考えれば行くしかないがね」
アークエンジェルがオーブを離れたのにはもちろん理由がある。
現在中立同盟は重要視している事が幾つかあった。
その一つが特殊部隊襲撃に関する真相解明である。
あの時の襲撃は色々と不可解な点が多く、その件に関する情報収集はプラントとの開戦もあり上手く進んでいなかった。
だからと言って放置はできない。
襲撃を受けたオーブの防衛網は見直され、強化もされた。
しかしこちらが気がつかない穴がないとは限らないのだから。
そこで白羽の矢が立ったのが、第二次オーブ戦役で離反したセイラン家である。
あの襲撃に関して何らかの形で関わっていたと推測されるセイラン親子を押えれば、何らかの情報が得られると同盟上層部は考えたのだ。
もちろんリスクはある。
同盟軍最強戦力と言っても過言ではないアークエンジェルが抜ける事で本国防衛に支障をきたす恐れがある。
さらに地球軍の圧倒的な物量を前に彼らだけで目的を達成できるのかという疑問。
万に一つアークエンジェルがやられる事があれば、同盟軍に与える影響は計り知れない。
そしてもう一つ彼らが派遣された理由があった。
それは強奪された新型『SOA-X05』とムラサメ、アストレイである。
技術流失は奪われた時点でどうしようもないが、あれらの機体を悪用させる訳にはいかない。
ただでさえ『ブレイク・ザ・ワールド』を引き起こしたテロリストを匿ったのではないかと疑いを掛けられたのだ。
これ以上余計な疑いを掛けられる前にすべて撃破する。
だからこそカガリもリスクを承知でアークエンジェル派遣を了承したのである。
彼らが抜けた穴埋めの防衛には『ブレイク・ザ・ワールド』の被害も比較的少なかったスカンジナビア軍が戦力を回してくれることになっている。
「オーブの方はトールが残ってくれてるから大丈夫だと思うが……」
戦力を回してくれるとはいえ、スカンジナビア側のエース級のパイロットすべてをこちらに派遣するのは無理だ。
故に恋人のミリアリアと共にトールが本土防衛の為に残っていた。
「それにしても連日殺伐としたニュースばかりで気が滅入りそうになるわ」
ムウの言葉に頷きながらマリューが見上げたモニターに映っているニュースは西ユーラシアの情勢が流されていた。
この辺りは連合とザフトの協力を得た反抗勢力との凄惨な戦いが行われており、連日そんな報道ばかりである。
「もっと景気の良いニュースはないもんかね」
「例えば『水族館でシロイルカの赤ちゃんが生まれた』とか?」
「そこまではいわないけどな」
マリューの冗談にムウも苦笑しながら応じた。
「ザフトはザフトでこのような感じですからね」
ラクスの指摘に皆が別のモニターに目を向ける。
そこには先日ディアキアで行われたティア・クラインのコンサート映像が流されている。
ザフトの兵士達は歌い終わったティアに歓声を送って大盛り上がりだ。
しかしティア・クラインは何度見ても良く似ている。
マユがラクスの方を見ると真剣にモニターを見つめていた。
よほど彼女の事が気になるのだろう。
そんなラクスにレティシアが気遣うように肩に手を置いた。
「ラクス、彼女の事は―――」
「分かっています、大丈夫ですよ。ありがとう、レティシア」
ラクスの返事に頷くと仕切りなおすようにレティシアが告げた。
「何であれアークエンジェルは戦闘に参加せざる得ないということですね」
「そうなるわ」
マユはオーブでのシンとの別れを思い出す。
戦闘に介入すればザフトとも戦う事になるだろう。
そこにはあの艦ミネルバもいる筈だ。
そうなれば兄であるシンとも――――
周囲を見渡し皆の顔を見る。
皆、自分にとって譲れない大切な人達である。
必ず彼らを守る!
敵が誰が相手であろうとも!
マユは自身の覚悟を改めて確認すると心配そうにこちらを見ているラクスやレティシアに頷いた。
◇
ディオキア基地の港に停泊するミネルバは出港の準備で皆が大忙しだった。
というのも本来の出港時間から大幅に遅れている為である。
補給で運び込まれた予備のコアスプレンダー。
セイバーに搭載されたシステムの調整にも手間取っている。
さらにもう一つ。
それが特務隊であるリースが何故かミネルバに乗船した為、その乗機であるイフリート・シュタールの搬入に時間を取った為である。
アレンは搬入されてきた新型を見ながら考え込んでいた。
何故この期に及んでリースまでミネルバに乗船させる必要がある?
アレンとハイネ、タリアに合わせて四人の特務隊員を一か所に集めるなどデュランダルは何を考えているのか?
「アレン、どうしたんですか?」
エクリプスのコックピットに座っているルナマリアが不思議そうにこちらを見てきた。
今アレンはルナマリアにせがまれてエクリプスのコックピットに座らせている。
ここ最近は彼女はやる気になっている。
頻繁に訓練を申し出てくる為、アレンがそれを見る事が多くなっているのだ。
その為、実力も向上し苦手な射撃もずいぶん良くなっている。
非常に良い事だ。
「いや、あれを見ていただけだ」
「ああ、新型ですか。リース……さんもミネルバに乗られるんですよね。特務隊が四人なんて」
ルナマリアも同じことを思ったらしい。
「……私がミネルバに乗船するのは一時的にだけ」
「えっ」
声がした方に視線を向けるとリースがコックピットを覗き込んでいた。
心なしか視線が鋭い気がする。
あえてそれには突っ込む事無くリースに先を促した。
「どういう事だ?」
「……あの機体イフリート・シュタールは量産化も予定されてて、少しでも実戦データが欲しいって言われているの。だからミネルバは打って付けって訳」
確かにミネルバは実践データを収集するには丁度良いのかもしれない。
だが本当にそれだけなのだろうか。
それにセイバーに搭載されたシステム。
話によれば新型のOSらしいが、どうも気にかかる。
セイバーの隣には予備として運び込まれたコアスプレンダーもある。
あちらはさらに調整が遅れているらしい。
パイロットもまだ決まっていないし、あれはまだ使う事は出来ないだろう。
「……リース、セイバーに搭載されたシステムはどんなシステムなのか知っているか?」
「説明された通り新型のOS、それだけ……ねえアレン、少し話がしたい」
アレンは思わずため息をついた。
最近やたらとリースが声を掛けてくる。
これも監視の為なのだろうが、ご苦労な事だ。
「済まないが今はルナマリアの訓練を見ている途中だ」
リースはそれが気に入らなかったのかチラリと鋭い視線でルナマリアを見る。
ただの女性ならばそれだけで竦み上がったのかもしれない。
しかしルナマリアもまた普通の女性ではない。
「そういう事なのでご遠慮してもらえますか?」
ルナマリアの挑発的な発言にリースの視線がさらに鋭くなる。
アレンの事はそっちのけで二人で睨みう。
これではもう訓練は無理だろうと判断したアレンは調整が続くセイバーを見る。
搭載されるシステムを調べたい所だが、監視役のリースが傍にいる以上は迂闊に動けない。
「……隙を見て調べるしかないか」
結論付けたアレンは睨みあう二人をどう諌めるか、考え始めた。
結局ミネルバが出港したのはそれからしばらく後の事だった。
◇
ダーダネルス海峡。
地中海に繋がるエーゲ海と黒海に繋がるマルマラ海を結ぶ海峡の事である。
ここは地球軍にとってもザフトにとっても重要な場所だった。
地球軍にとってここは敵艦を攻撃する為の最良の迎撃ポイントだ。
そしてザフトにとってはディオキア防衛の為に重要な場所である。
地球軍は防衛の為に南下してくるザフトの戦艦を待ち構えるように展開を済ませていた。
ザフトもスエズから地球軍艦隊が出撃し、北上している事は掴んでいるだろう。
ならば必ず防衛の為にザフトは来る。
ユウナ達は先方を務める部隊の後方で待機していた。
現在この部隊の中で最も階級が上であるユウナが後方から指揮を執るというのは別段おかしな事ではない。
だが彼らに関しては事情が違う。
ネオ達は余計な事を口には出さず指揮に集中してほしいと言っていた。
しかし本音ではあくまで彼らはオーブから離反してきた裏切り者。
そんな連中は信用できないという事だ。
それは分かっていた。
ヴァールト・ロズベルクの言った通り、オーブから離反した彼らはそれなりの地位で迎え入れられた。
しかし周囲から完全に信用された訳ではない。
あのカースはおそらく監視役だ。
だからこそ戦果をあげ、信用を得れば今の立場も少しは好転する筈である。
そう考えたユウナの脳裏にこれで良かったのかという考えが心の片隅に引っ掛かった。
ユウナは迷いを振り切るように始まる戦闘に備え艦橋の正面を見据えた。
同じ頃、アオイ達も出撃準備を進めていた。
空母の格納庫では各機の最終調整の為、整備兵達が忙しなく動き回っている。
そんな中アオイはスウェンと共に新装備の調整を行っていた。
現在イレイズの背中に装備されているのは『スカッドストライカー』
エールストライカー以上の機動性を持たせた装備ではあるが、操作性は良くない。
そこはパイロットの腕でカバーしなければならない。
武装はビームマシンガンとビームブーメラン、対艦バルカン砲となっている。
最近のアオイは配備されたこの装備を使いこなす為の訓練の時間を割いていた。
休憩がてらスティング達とバスケをやったりステラと海を眺めたりもしていたが。
「ハァ、ハァ」
「すいぶん動けるようになったな、少尉」
「ハァ、ハァ、ありがとうございます、中尉」
訓練に付き合ってくれたスウェンに礼を言いつつ、鋭い視線を機体に向ける。
もうじきミネルバがくる筈だ。
「今度こそあいつを、インパルスを倒す。必ず!」
そしてその時は来た。
展開された地球軍のモビルスーツの視界にザフト最強の戦艦が姿を見せた。
向こうもインパルス、セイバー、エクリプス、グフといった機体がすでに出撃している。
中でも目を引くのは見た事も無い新型『イフリート・シュタール』だろう。
特務隊専用機として開発されたこの機体はザクやグフを上回る性能を持ち、背中にはウィザードも装備可能。
武装は二連装ビームガトリングかビームライフル、ビームショットガンのどれかを出撃の際に選択。
近接武装は高出力ビームサーベル、試作対艦刀『ベリサルダ』と言った物を装備している。
「全機、向かって来る敵を排除しろ!」
「「「了解!!」」」
ハイネの指示に従ってまずはインパルスがビームサーベルを構えて斬り込んでいく。
シンは向かってくるダガーLにビームサーベルで撃破する。
袈裟斬りに斬り裂かれたダガーLは撃破され海面に落下した。
調子は良い。
しかしシンの表情は暗い。
撃破された敵モビルスーツを見ると苦い思いが湧いてくる。
「くそぉぉぉ!!」
脳裏に浮かぶのはディオキアで出会ったザフトの攻撃で家族を亡くした少年達の事だ。
「しっかりしろ! 戦闘中だぞ!」
集中しなければこちらがやられるのだ。
頭を振って余計な考えを振り払いビームライフルのトリガーを引いた。
突っ込むシンに対してセリスもまた何時も通りに援護に回る。
操縦桿を巧みに動かし、インパルスが動きやすいようビームライフルを撃ちこんでいく。
「機体はいつも通りに動く」
新しいシステムという事だったのでどういうものかと思いきや変わった様子は無い。
ウィンダムが放ってきたビームを余裕で回避しながら、敵機の胴体をビームサーベルで斬り払った。
動きまわるセイバーを囲もうとしてくるウィンダム。
しかしミネルバの甲板からルナマリアのガナーザクウォーリアの放ったオルトロスの一撃が次々にウィンダムを撃ち落とした。
「やるじゃない、ルナ!」
「あんた達ばかりに良い恰好はさせないわよ!」
周りの奴らはルナマリアに任せ、セリスは正面に集中する。
別方向ではジェイルのグフがテンペストビームソードを抜いてウィンダムを斬り飛ばしていく。
「おらぁ!」
背後に回り込みウィンダムを串刺しにすると、周りにいる敵機に投げつけドラウプニル四連装ビームガンを撃ち込み撃破する。
ジェイルの動きに全くついていけないウィンダム。
毎日行っている訓練の成果か彼の技量の向上は目を見張るものがある。
すでにミネルバに合流した時とは別人だった。
そんなジェイルを援護するようにハイネはスレイヤーウイップを放ちダガーLを破壊する。
するとハイネとジェイルの進路を確保するようにビームが飛んでくる。
レイのザクファントムだ。
こちらの動きを的確に読み援護してくるレイの技量も並ではない。
ハイネはそんな彼らを頼もしく思いながらもビームソードを展開してジェイルに続く。
そしてエクリプスと新型であるイフリートシュタールも獅子奮迅の働きを見せていた。
アレンがガトリング砲でダガーLをハチの巣にすると、ビームサーベルを振り上げてきたウィンダムを蹴りあげる。
エクリプスの蹴りを至近距離で受けたウィンダムは装甲が拉げ、同時にバランスを崩す。
そこを見逃す事無くシールドで殴りつけ海面に叩き落とした。
アレンはチラリと傍で戦うリースを見た。
イフリートは撃ち込まれるビームをものともせず、二連装ビームガトリング砲を撃ち込みウィンダムを薙ぎ払う。
さらに肩のシールド内に格納されている試作対艦刀『ベリサルダ』を展開させ、周囲に敵機を斬り裂いた。
強い。
特務隊に選ばれるだけの事はある。
宇宙で戦った時から分かっていたが、彼女も相当な腕前だ。
アレンも負けじとばかりにサーベラスで敵機を薙ぎ払っていく。
物量においては地球軍が圧倒している。
だがミネルバのモビルスーツ隊はそれをものともしない。
「皆、上手くやってくれるわね」
「タンホイザ―が使えればもっと楽だったんですけどね」
タリアの作戦では先方の部隊をある程度片付けた後で、タンホイザーで一掃する予定だった。
しかし地球軍も馬鹿ではない。
艦隊を守る様に陽電子リフレクターを装備した巨大モビルアーマーが配置されているのが確認できる。
あれを排除しないとタンホイザーを撃っても防がれるだけだ。
「まずはデカブツモビルアーマーを優先して叩け!」
「「「了解!」」」
ハイネの指示に従いミネルバのモビルスーツが群がる敵機を薙ぎ払っていく。
だがそれも地球軍にとっては想定通りだった。
「良し、予定通り出撃させろ」
「了解しました!」
指示が飛ぶとアオイ達に出撃命令が出される。
カオス、アビス、ガイアが出撃するとスウェンがアオイに声を掛けた。
「よし、行くぞ、少尉」
「はい、中尉!」
ストライクノワールの出撃に続いてアオイも機体を立ち上げる。
背中の装備は初めてのものだがあれだけ訓練を積んで来たのだ。
ここでその成果を出す。
「アオイ・ミナト、イレイズガンダムMk-Ⅱ出ます!」
機体のPS装甲が起動して色付くとスラスターを吹かせて戦場に飛び出した。
「ぐっ!」
急激なGに体がシートに押しつけられる。
スカッドストライカーの加速はシミュレーターで経験した以上のものだ。
アオイはシートに押し付けられながら歯を食いしばり、計器を操作すると目標の機体を探す。
目標はすぐに見つかった。
一番目立つ最前線にいたからだ。
「いたな、インパルス! これ以上やらせないぞ!!」
アオイは思いっきり機体を加速させるビームマシンガンを構えてトリガーを引いた。
連続で撃ち込まれたビームがインパルス目掛けて襲いかかる。
「イレイズ!? またお前かよ!! 邪魔するなぁぁぁ!!」
シンは苛立ちの任せて絶叫しながらビームを回避するとイレイズを迎え撃つ。
ビームライフルを構えて連続でイレイズに叩き込んでいく。
しかしイレイズはスラスターとシールドを巧みに使って攻撃をすべて防御する。
そしてシンの思った以上の速度で接近、ビームマシンガンを撃ち込んで来た。
「はあああ!!」
「チッ」
前回の戦闘以上に正確な射撃。
撃ち込まれるビームマシンガンをシールドを構えて防ぐと思わず舌打ちした。
確実にこのパイロットは腕を上げている。
「だからって!」
訓練を積み、実戦を重ねてきたのはシンもまた同じだ。
「負けられない!」
ビームサーベルを構えてイレイズに突っ込んでいくシン。
「望むところだ!!」
そしてアオイもまたサーベルを構えるとインパルスに向かって突撃する。
インパルスが袈裟懸けにビームサーベルを振り抜くが、イレイズもまた横薙ぎにサーベルを叩きつけた。
お互いがサーベルをシールドで防ぎ、同時にビームが弾けて火花が散る。
「こいつ!」
「まだまだ!」
弾け飛ぶ二機。
アオイは対艦バルカン砲で牽制しつつ、再び上段からサーベルを叩き込む。
だが流石はインパルスというべきなのだろう。
最小限度の動きで回避されてしまう。
だがそれもアオイの計算通りだ。
インパルスが反撃とばかりに叩きつけてきたサーベルを横に流すとカウンター気味に下から斬り上げた。
「ッ!?」
シンは咄嗟に機体を後方へ下げるとイレイズの振るった斬撃が機体の装甲を掠めていいった。
サーベルの軌跡に冷や汗をかきながら、シンは驚愕していた。
もはや疑うべくも無くイレイズは強い。
ナチュラルとかそんな事は全く関係なく、油断すれば倒されるのはこちらだ。
だけど、
「負けてたまるかよ!!」
「今日こそは!!」
二機のガンダムが加速しながら激突し、互いのビームサーベルをシールドで受け止めた。
激しい戦いを繰り広げる二機に当てられるように他の機体もまた激闘を繰り広げていく。
だからそんな中心にいたシンとアオイがそれに気がついたのはまさに僥倖と言えるだろう。
激突を繰り返しサーベルがシールドに阻まれ弾け合う。
睨み合い再び激突しようとした時、戦場を斬り裂く数条の光が撃ち込まれた。
撃ち込まれた閃光は正確に数機のウィンダムを撃ち落としていく。
「なんだ!?」
「今のって!?」
完全に別方向からの攻撃にシンとアオイはその場から飛び退くとそちらに視線を向ける。
そこにはあまりに特徴的な機体と戦艦が佇んでいた。
白亜の戦艦に蒼き翼を持ったモビルスーツ。
「アークエンジェル―――フリーダム」
彼らの介入によりダーダネルス海峡の戦いはより激しさを増していく事になる。
機体紹介更新しました。
スカッドストライカーは刹那さんのアイディアを若干変更して使わせてもらいました。
ありがとうございました。