機動戦士ガンダムSEED effect   作:kia

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第21.5話  親睦

 

 

 

 セリス・シャリエはすこぶる不満だった。

 

 折角の朝食の席だというのに、機嫌が良くない。

 

 というのも最近シンと過ごす時間が少ないというのがその理由だった。

 

 もちろんセリスも検診やらで忙しかったというのもある。

 

 シンも訓練とか色々あるのは分かる。

 

 だがそれでももっと一緒にいたいというのが彼女の本音である。

 

 「そういう訳なんだけど。どう思う、ルナ、メイリン?」

 

 朝食時にいきなり相談を持ちかけられた二人は呆れたように冷たい視線をセリスに向けた。

 

 「な、何、その目は?」

 

 「アンタね、あれだけ周囲の目を気にせずイチャついてるくせにまだ足りないとかいうわけ?」

 

 「え~、そんなにイチャついてなんてないよ、ねぇメイリン」

 

 「……えっと、自覚なし?」

 

 「何でよ!? 全然イチャついてなんていないってば!」

 

 『気が付いて無いのか』なんて揃って同じ事を考える二人。

 

 それも仕方ないというか、セリスの性格の問題なのかもしれない。

 

 セリスは昔から世話焼きであり、面倒見も良い。

 

 現にルナマリアもメイリンもアカデミー時代は良く彼女に助けてもらった(主に課題など)。

 

 だがそれと同じくらい地獄も見せられた。

 

 彼女は真面目な性格ゆえに訓練など決して手は抜かず、鬼のように厳しかった。

 

 それはシンやルナマリアの間では思い出したくない出来事であり、決して口にはしないと暗黙の了解となっている。

 

 ともかくセリスはアカデミー時代から色々問題があったシンに関しても同じように世話を焼き、いつの間にか付き合っていたという経緯がある(ちなみにシンはセリスに好意を持っていた男達から目の敵にされたとか)

 

 そのおかげでツンツンしていたシンが皆と打ち解ける事が出来たのも確かな訳だが。

 

 そんなセリスだ。

 

 日頃から当たり前みたいにやっている事がどれだけ目の毒か分かってないのだろう。

 

 「アンタは人前で腕組んだりするのは当たり前だし、膝枕とか平気でしてるし」

 

 「うん、人目とか全然気にしてないし」

 

 「えっ、でもそれくらい全然普通だよね?」

 

 ルナマリアは怒鳴りそうになるのを何とか堪えると額に手を当てた。

 

 「……こいつ全然分かってない」

 

 メイリンを見ると諦めたように苦笑しているだけだ。

 

 「とにかく、こっちからしたら十分でしょって言いたいのよ」

 

 「そんな事無いよ」

 

 「まったくアンタらときたら」

 

 ルナマリアとメイリンがそろってため息をついていると話題の彼氏であるシンがアレンと一緒に食堂に入ってきた。

 

 丁度よいタイミングである。

 

 ここで一緒に食事でも取ればセリスの機嫌も良くなるだろう。

 

 そんな風に考えて席を立とうとした時、ふとルナマリアは閃いた。

 

 ただ食事を一緒にするだけでは面白くない。

 

 そう言えばハイネと違ってアレンとは訓練ばかりで他の事を話した事があまり無い。

 

 ハイネは非常に社交的で何度も話をしている。

 

 しかしアレンはどことなくこちらと距離を置いているように感じている。

 

 ならこの機会にアレンと親睦を深めるのも良いだろう。

 

 前から彼には興味があったし、ついでにセリスの機嫌も直るし一石二鳥という奴だ。

 

 「どうしたの、お姉ちゃん?」

 

 「……セリス」

 

 「何?」

 

 「アンタとシンを二人きりにはできないけど、一緒の時間くらいは作れるかも」

 

 「ホント!?」

 

 ルナマリアは頷くと立ち上がってシン達のテーブルに近づいた。

 

 

 

 

 アレンはシンと朝食を取りながら、今日の訓練について話をしていた。

 

 だが、妙にニヤついたルナマリアやセリスの顔を見た瞬間、悪寒を感じた。

 

 あれは不味い。

 

 訳も無くそんな気がする。

 

 何と言うか今日は朝からなんとなく嫌な予感がしていた。

 

 だから訓練の後は部屋で読書でもしようかと思っていたのだが―――

 

 「アレン、どうしたんです?」

 

 「いや、ただ逃げ遅れたと思っただけだ」

 

 「は?」

 

 シンが「何言っているんだ、この人」みたいな表情でこちらを見ている。

 

 まあ彼は背を向けているから気がつかないのも当然である。

 

 しかし、もう少し上官に敬意くらいもってほしいものだ。

 

 「アレン、シン」

 

 ニヤリと笑いながらルナマリアとセリスが近づいてきた。

 

 その後ろからはメイリンがどこか申し訳なさそうにしている。

 

 とてつもなく疲れそうな予感がする。

 

 ルナマリアが口を開こうとした瞬間、セリスが何かに気がついたように前に出る。

 

 「あ、シン。口元にパンが付いてるよ、取ってあげる」

 

 「えっ、ああ、ありがと」

 

 「ふふ、しょうがないなぁ、シンは」

 

 微笑むセリスに照れくさそうなシン。

 

 そして周りは何かに耐える様に視線を逸らした。

 

 中には露骨な舌打ちをする奴までいる。

 

 そういうのは二人だけの時にして欲しい。

 

 ルナマリアがため息をつきながら、仕切り直すように口を開いた。

 

 「今日私達と一緒に出かけませんか?」

 

 「え、出かけるって街にだよな?」

 

 「そ、まだミネルバの出港は先だし、ほらアレン達と親睦を深める為にもいいじゃない」

 

 この前の休暇は色々あって休んだ気にはならなかった。

 

 今回はセリスもいるみたいだし、いいかもしれない。

 

 シンに異論はなかったので頷いたのだが、アレンはどこか顔色が良くない。

 

 何かあったのだろうか?

 

 「どうしたんですか?」

 

 「あ、ああ、いや、その、昔を少し思い出しただけだ……」

 

 「アレン?」

 

 「ともかくミネルバを留守には出来ないだろう。シン、今日の訓練はいいから皆で出掛けてくるといい」

 

 どこか様子が変だった。

 

 「いいじゃないか、一緒に出かけて来いよ」

 

 話を聞いていたのか後ろから歩いてきたハイネが笑いながら近づいてくる。

 

 「ハイネ、そういう訳には―――」

 

 「仲間と親睦を深めるのも大切な事だぜ。それにリースはミネルバに乗船したばかりなんだ、一緒に連れてってやれよ。艦には俺が残るからさ」

 

 そう言われると断りづらい。

 

 仕方無い。

 

 昔みたいにはならないだろう。

 

 あくまでも仲間との親睦を深めるだけ。

 

 そんな風に無理やり納得すると頷いた。

 

 「わ、分かった」

 

 結局そう答えるしかなかったアレンは私服に着替えてディオキアの街に行く事になった。

 

 

 

 

 「で、なんで俺まで来なきゃならないんだよ」

 

 あからさまに不機嫌そうにしているのはジェイルだ。

 

 親睦なのだから彼が来るのはおかしなことじゃない。

 

 普段からあまり話そうとしないジェイルにルナマリアが気を利かせたのだろう。

 

 だがシンはあからさまに嫌な顔をしている。

 

 セリスが機嫌が良いせいか、面と向って文句は言っていないが、不満が顔に出ていた。

 

 「……本当に仲が悪いな、こいつらは」

 

 ちなみにここにいるのはシン、セリス、ルナマリア、メイリン、ジェイル、リース、アレンだ。

 

 レイも誘ったらしいが、ハイネ一人では不味いだろうと断られたらしい。

 

 「いいじゃない。今回は親睦の為なんだし、アンタどうせ訓練してるだけだったんでしょ? 彼女とかいないだろうし」

 

 「ぐっ、確かにそうだが」

 

 「じゃ、問題ないわよね。さて行きましょうか」

 

 ルナマリアに強制的に黙らされたジェイルは不服そうにしながらも後ろについて行く。

 

 シンとセリスだけは腕を組んでいて、あそこだけは別の空間が形成されていた。

 

 ルナマリア達は慣れているのか、あえて無視しているがジェイルなど慣れていない者はその空気にどん引きしている。

 

 アレンも(シン達を極力視界に入れないようにして)全員の後ろ姿を追っていく。

 

 流石に港町だけあって人通りが多い。

 

 かなりの人ごみだ。

 

 人を掻き分けながら一緒のついてきたリースが視界に入る。

 

 表情はいつも通りだが、なんとなく楽しそうにルナマリアやメイリンと話をしている。

 

 正直彼女がついてきたのは意外だった。

 

 てっきり断ると思っていたのだが―――

 

 これからの事を考えて仲良くなるのは良い事だろう。

 

 女性陣の後ろ姿を見ながらそんな事を考えていた。

 

 

 

 リース・シベリウスにとってアレン・セイファート―――いや、アスト・サガミはまさに憧れの存在であった。

 

 プラント市民でいうところのラクス・クラインみたいなものである。

 

 彼が前大戦でザフトにもたらした被害を考えれば、憎むのが当然かもしれない。

 

 ヴィートなどはあからさまに嫌っていたし、それが普通だろう。

 

 しかしリースはそんな風には思わなかった。

 

 戦争だったのだし、ザフトもまた地球や他の場所にも大きな被害を出したのだからお互い様である。

 

 もちろんそんな事をプラントでは口が裂けても言えない。

 

 ともかく彼の素性を知って、残っていた映像データなど出来るだけ調べ上げ、その時の感じた高揚は今でも思い出せる。

 

 彼の動きは凄かった。

 

 とても綺麗な機体の挙動に無駄のない動き。

 

 まさにリースの理想を具現化したものだ。

 

 そして人柄も話している分には信用できると思うし、少なくともヴィートの奴よりも好感が持てる。

 

 だからそんな憧れの存在が今プラントの有名人であるティアなどと話しているのを見ると面白くないのも仕方ない事だった。

 

 そして今回、彼と任務につけるばかりか一緒に出かけられるなんて―――実にいい日である。

 

 「リースさん、嬉しそうですね」

 

 隣を歩いていたメイリンが話しかけてくる。

 

 「……分かる?」

 

 「はい、なんとなくですけど」

 

 「こうやって出かけるのは久しぶりだからかも」

 

 なんとなく本当の事を話すには気恥ずかしかったのでそう言って誤魔化した。

 

 振り返った先にはアレンが人を掻き分けてついて来ている。

 

 それだけでリースはどこか嬉しくて仕方無かった。

 

 

 

 

 皆で適当に店を見て回り、幾つかの買い物をする。

 

 女性陣の買う物はやはり服である。

 

 クールなリースでさえ真剣に服を見ているのだが、いつまで経ってもこういうのは慣れない。

 

 それはシンやジェイルも同じらしく、所在無さげに店内の端に立っている。

 

 「あ。あれ……」

 

 シンが何かを見つけたように一着の服の所に歩いていった。

 

 アレンとジェイルも暇なのでシンを追うようについて行く。

 

 この女性服の店の中で取り残されるのはかなり厳しい。

 

 というか絶対に嫌だ。

 

 「その服がどうしたんだよ」

 

 「いや、マユに似合うかなって」

 

 「マユ?」

 

 そういえばジェイルはマユを知らないんだったと気がついたシンは仕方無く教えてやる事にする。

 

 「妹だよ」

 

 その服を見たアレンはつい口を挟んでしまった。

 

 「それは少々子供っぽいだろう。彼女にはこちらの方が似合うと思うが」

 

 アレンが手に取ったのはシンが選んだ服よりも、やや大人びた服だった。

 

 しかもシンが選んだ物よりも、今のマユに良く似合った服だ。

 

 自然とシンの視線が鋭くなる。

 

 「……何でアレンがマユを知っているんです?」

 

 「えっ、ああ、彼女がミネルバに乗り込んでいた時に姿を見た事がある。その時の印象から選んだだけだ」

 

 やや慌てたようにアレンが捲くし立てる。

 

 あやしいとばかりにシンはアレンを睨みつけるときっぱりと言った。

 

 「アレン、ジェイルもだけどマユに手を出したら―――絶対許さないぞ」

 

 シンの目はマジだ。

 

 流石のジェイルも引き気味に答える。

 

 「会った事も無いのに手なんか出せるか。アレンだってそうだろ?」

 

 「えっ、あ、ああ。も、もちろんだ」

 

 シンはまだ納得してないようだが、それ以上は何も言わない。

 

 そんなシンをからかうようにジェイルが呟いた。

 

 「たく、シスコンかよ」

 

 「シスコンじゃねーよ! 俺はただマユが大切なだけだ!!」

 

 シンの大声が店内に響き渡る。

 

 「それをシスコンって言うんだよ。じゃあ、お前、もしも妹に彼氏とかできたらどうするんだよ」

 

 「マユに彼氏!? 出来る訳ないだろ、そんなの!! いくらなんでも早すぎる!!!」

 

 シンが興奮気味に詰めよってくる。

 

 「少し落ちつけ。店内にいる他の客の視線が痛いだろ」

 

 会話の内容が聞こえていたのか、セリス達もどこか冷めた目でこちらを見ている。

 

 というかセリスにはシンを宥めてに来て欲しいのだが。

 

 「けどな、そのうち好きな相手くらいは―――」

 

 「だからマユにはまだ早い! 彼氏なんて絶対に認めないぞ!!」

 

 誰も彼氏とか言ってない。

 

 もうこちらの声も聞こえていないらしい。

 

 「い、いや、その、まあ、そうかもな、うん」

 

 完全にどん引きしたジェイルは何も言わずに折れた。

 

 それが正しい選択だろう。

 

 そんなシン達の後ろでアレンが背中に若干の冷や汗をかいていた事には誰も気がつかなかった。

 

 買い物を終えて店を後にするがシンは未だ「まだ早い」などとぶつぶつ言っている。

 

 呆れたようにジェイルはため息をつくとルナマリアやメイリンが買った荷物を自分から持った。

 

 「あら、持ってくれるの? へぇ~いいとこもあるじゃない」

 

 「ありがとう」

 

 「チッ、感違いすんなよ。別にたまたま目についたからだ。ほら行くぞ」

 

 「素直じゃない奴」

 

 シンはセリスの荷物を持ち、アレンは苦笑しながらジェイルに倣ってリースの荷物を手に取った。

 

 驚いたようにりースが反応する。

 

 「え、アレン? 私は大丈夫だけど」

 

 「そう言うな。リースにだけ荷物を持たせるなんて心苦しいからな」

 

 リースはしばらく呆然としながらも、徐々に顔を赤くして俯き、囁くように礼を言った。

 

 「……ありがとう」

 

 「気にするな」

 

 そのまま買い物を続け、終わった頃には夕方になっていた。

 

 親睦は一応できたとは思う。

 

 全員の顔は明るく楽しそうだ。

 

 そんな様子を後ろから見ていたジェイルは不思議な気分になっていた。

 

 大切な家族を失って以降、ただひたすら力を求めてきた。

 

 奪った者達に報いを。

 

 そしてもう自分の前で誰も奪わせない為の力が必要だったのだ。

 

 それ以外はすべて無視したし、どうでも良かった。

 

 でも―――

 

 「何やってんだよ、早く来いよ、ジェイル!」

 

 シンが大声で名前を呼んでくる。

 

 「声がでかいんだよ!」

 

 ムカつくし、気に入らない奴だ。

 

 それでも不快感を覚えていないのが不思議だった。

 

 「そういえば、あの子―――ステラの時もこんな気分になったな」

 

 脳裏によぎる海辺で戯れる金髪の少女の姿。

 

 思い出すだけで穏やかな気分になれた。

 

 無理やり連れて来られた時は流石に腹が立ったが、今日みたいな日があっても良いのかもしれない。

 

 「おい、早く来いよ」

 

 「うるさいんだよ、お前は!」

 

 怒鳴りながらも、シン達に追いつこうと走り出すジェイルの口元は微かに笑みを浮かべていた。

 

 


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