機動戦士ガンダムSEED effect   作:kia

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第20話  手にした断片

 

 

 

 ガルナハン基地を攻略したミネルバ。

 

 今、彼らは黒海沿岸の南岸側に存在するディオキア基地に辿り着いていた。

 

 美しい海に穏やかな町並み。

 

 山やら基地やらばかりだったミネルバクルー達にはそれだけで穏やかな気分にさせられる。

 

 だがそれ以上に彼らが癒される事が現在行われていた。

 

 シン達が眺めているモニターには多くのザフト兵が食い入るように群がっている。

 

 中心にいるのはピンクの髪の毛をした美しい少女が穏やかな笑みを浮かべて手を振っている。

 

《みなさん、こんにちは。ティア・クラインです》

 

 今やプラントで知らぬものなしと言われるティア・クラインがピンクに塗装されたザクの上で歌を歌っていた。

 

 ヨウランやヴィーノは興奮した様子でモニターを見ているがシンは些か引き気味だ。

 

 シンはオーブからの移住者である為か皆とラクス・クラインに対する認識が違う。

 

 要するに皆が大騒ぎするほどの事なのかいまいちよくわからないのだ。

 

 もちろん良い歌だとは思うのだが。

 

 「二人とも好きだよね」

 

 セリスも二人の様子に苦笑気味だ。

 

 「セリスはティア・クライン好きじゃないのか?」

 

 「よく分からないしね。ラクス・クラインの事も……」

 

 どこか様子のおかしいセリス。

 

 頭に手を当てて何かを考え込んでいる。

 

 「どうしたんだ?」

 

 「え、あ、何でも無いよ。勘違いみたい」

 

 「そうか。調子が悪いなら休んでた方がいい」

 

 「うん、ありがと、シン」

 

 セリスの様子を気にかけながら周りを見ると、もう一人だけ浮かない様子の人物に気がついた。

 

 アレンだ。

 

 いつも通りサングラスを掛けている為か表情は分からない。

 

 だがあのティア・クラインを見てから様子がおかしい事は分かる。

 

 「アレン、どうしたんですか?」

 

 ルナマリアもアレンの様子がおかしいと思ったのか顔を覗き込んでいる。

 

 「いや、何でもない」

 

 そう言いながらもアレンの視線は画面から離れない。

 

 アレンがアイドル好きというのも想像できないし、そんな雰囲気でもない。

 

 結局アレンが口を開く事はなかった。

 

 ミネルバは港に寄港すると全員でステージ近くまで降りていく。

 

 周りは凄い人ごみであり、ステージに近づく事はおろか、見る事も難しい。

 

 その熱気にシンは思わず顔を顰めた。

 

 「凄いな、これ」

 

 「ホントだ。ティア・クラインって人気なんだね」

 

 確かセリスの言う通り、凄い人気である。

 

 ティア・クラインの歌は癒されるようなもので本来騒ぐようなものではない。

 

 もちろん彼女が歌っている時はギャラリーもおとなしいが一度歌が終わると大きな歓声が沸き起こった。

 

 それだけで彼女がどれだけの人気を誇っているかが良く分かるというものだ。

 

 歓声に煽られてヴィーノやヨウランも喜び勇んであの人ごみの中に突っ込んでいく。

 

 ヨウランなど前はミーア・キャンベルの方が好きだとか言ってた癖に調子のいい。

 

 しかし何と言うか凄い勇気だ。

 

 シンにはとても真似出来る物ではない。

 

 戦場に出るより度胸があるかもしれない。

 

 そんなシン達の後ろではアレンが変わらず難しい顔でティアを見つめている。

 

 「アレン?」

 

 彼はそのまま別の場所に歩いて行く。

 

 「見なくていいんですか?」

 

 「……俺は十分見たよ。それにこの熱気に当てられていたら疲れるしな」

 

 それは確かに。

 

 こんな状況を見ているだけでも疲れてくる。

 

 シンはセリスと顔を見合わせルナマリア、メイリンと一緒にアレンとその場を離れる事にした。

 

 

 ティア・クラインのコンサートは最高潮に盛り上がっている。

 

 別段ディオキア基地は壁に囲まれている訳ではない。

 

 その様子は外側からでも観覧できる。

 

 兵士達の歓声に呼び寄せられるように集まってきた市民達に混じって基地の外からその様子を眺めている者達がいた。

 

 明らかにティアのコンサートを楽しんでいるという様子ではない。

 

 そういう意味で彼らは明らかに浮いた存在であった。

 

 「楽しそうだよねぇ、ザフト」

 

 助手席に座ったアウルがあくび混じりに呟いた。

 

 「まったくな」

 

 運転席に座ったスティングもため息をつく。

 

 元々彼らがここに来た理由はディオキアに辿りついたミネルバの調査の為だった。

 

 それが何でかこんなコンサートを見る羽目になるなど拍子抜けもいいところだ。

 

 後部座席に座っているアオイもモビルスーツの手の上で歌っている女性を見る。

 

 確かに良い歌だと思う。

 

 美人だし、プラントに住んでいる人達がファンになるのも無理ないと思う。

 

 「でさ、まだ追うの、あの艦?」

 

 やる気無さそうにミネルバを見るアウルはつまらなそうにぼやく。

 

 アウルは正直あんな艦に興味などなかった。

 

 むしろ面倒ですらある。

 

 とはいえ彼らの立場で命令に対する拒否権は無い訳だが。

 

 「ネオはそのつもりらしいぜ」

 

 「はぁ、めんどくさ」

 

 アウルの言いたい事も分からなくはないが、アオイとしては好都合だ。

 

 奴は―――インパルスだけはこの手で倒す。

 

 憎しみからではなく、これ以上仲間を殺させない為、守る為にだ。

 

 「そ~いやさ、アオイの機体、新しい装備が来るんだろ!」

 

 新しいおもちゃが手に入ったかのような無邪気さでアウルが助手席から乗り出してくる。

 

 もう慣れはしたがこういう所は未だに悲しい気分になってくる。

 

 それをおくびにも出さずに笑顔で答えた。

 

 「みたいだね。まあテストもまだらしいけど」

 

 「良いよなぁ。新しいの」

 

 「アウル達の機体だって新型じゃないか」

 

 ザフトから奪ってきた機体だけど、新型には違いない。

 

 「それはそれだって」

 

 無駄話を始めた二人を尻目にスティングは車のエンジンを掛けるとその場を後にした。

 

 「とにかく俺達にとって重要なのはこの戦争の行く末じゃない。殺るか、殺られるかだけだからな」

 

 「まあね」

 

 そんな風にスティングとアウルが話している時にも後部座席に座っているステラは関係無いとばかりに海を見てはしゃいでいる。

 

 「アオイ、アオイ、海」

 

 「綺麗だね」

 

 「うん!」

 

 ティア・クラインの歌も確かに良かったが、アオイにとってはステラの笑顔の方が癒される。

 

 アオイは海からの風を受けながらステラの横顔を見つめ続けていた。

 

 

 タリアは呆れていた。

 

 目の前で柔和な笑顔を向けている男、最高評議会議長ギルバート・デュランダルに対してだ。

 

 ティアの慰問に合わせてこちらに来ていたらしい。

 

 本来こんな場所に来ている暇もない筈。

 

 「驚いたかな、タリア」

 

 「ええ。今に始まった事ではありませんけど」

 

 言いたい事はあるが今はよそう。

 

 お互いに笑みを向け合うとデュランダルはタリアの背後に控えているレイに向き直った。

 

 「元気そうで何よりだ、レイ。活躍は聞いているよ」

 

 「ギル!」

 

 レイはそのままデュランダルに飛びつく。

 

 そこにいたのはいつもの冷静な彼ではなく年相応の笑顔を浮かべる少年だった。

 

 一通りの話を終えるとテラスに用意されたテーブルにヘレンがお茶が用意していく。

 

 タリアはすぐにテーブルに着くとすぐに切り出した。

 

 「何かあったのですか? そうでなければわざわざ地球においでになったりはしないでしょう?」

 

 「そう思うかね。まあもう少し待ってくれ。もうすぐ彼らも来る」

 

 その頃、ホテルの前には一台の車が止ろうとしていた。

 

 車に乗っていたのはデュランダルに呼び出されたアレン達である。

 

 ティアのコンサートを抜け出した彼らはシミュレーターで訓練をするというアレンに付き合って訓練に勤しんでいたのだ。

 

 「それにしてもルナがやるに気なってるなんて珍しいよね」

 

 「確かに」

 

 ルナマリアはアカデミーから決して不真面目という訳ではなかったが、進んで訓練するタイプでもなかった。

 

 良くも悪くも最近の女の子というのがシンの印象だ。

 

 それが先程は自分からアレンに訓練を見て欲しいと言いだすなんてセリスが珍しがるのも当然だった。

 

 「あんた達、失礼ね。私だってやる気になる時くらいあるわよ」

 

 「でもさ」

 

 騒ぎ出すシン達にジェイルは呆れたように口を出した。

 

 「お前ら静かにしろよ。早く降りるぞ」

 

 本来ならここで口論でも始まりそうなものだが、待たせているのがデュランダルという事もあり全員が素直に車から降りる。

 

 ホテルの前には一人の少女が待っていた。

 

 胸にはアレン達と同じく徽章が光っている。

 

 彼女も特務隊なのだろうか。

 

 シン達が不思議に思っているとハイネが笑って声を掛けた。

 

 「リースじゃないか。 久しぶりだな!」

 

 リース・シべリウスは薄く笑うと敬礼する。

 

 「……久しぶり、ハイネ」

 

 久しぶりというほど離れていた訳ではないが、ここまで色々あり過ぎた所為で懐かしい気がするのだろう。

 

 「えっと、ハイネ」

 

 「ああ、彼女は俺達と同じく特務隊所属の―――」

 

 「リース・シベリウス。よろしく」

 

 敬礼するシン達に自己紹介を済ませると、最後に残ったアレンに向き合う。

 

 「アレン、久しぶり」

 

 「えっ、あ、ああ。そうだな。何故リースがここにいるんだ?」

 

 「議長とティア様の護衛……アレンは私が来たら迷惑?」

 

 「い、いやそんな事はない」

 

 「良かった」

 

 リースはそのまま踵を返して歩き出した。

 

 「おい、アレン。お前リースに何かしたのか?」

 

 「……いや」

 

 ハイネが不思議に思うのも当然であった。

 

 二人の認識ではリースは必要なこと以外は話さない物静かな少女であるという認識だった。

 

 同期のヴィートに対しては辛辣な発言が目立ったが、それでも一言二言のみで表情を変化させる事など稀である。

 

 しかし先程アレンに見せた表情は今まで見た事無い笑顔だったのだ。

 

 正直あんな表情を向けられる覚えは全くない。

 

 「どうしたの?」

 

 振り返ったリースの表情はいつも通りだ。

 

 それが余計に不気味というか。

 

 考えすぎなのか。

 

 アレンはすぐに頭を切り替えると彼女についていく事にした。

 

 案内されたテラスには先に来ていたらしいタリアとレイ、そしてデュランダルとヘレンが待っていた。

 

 その背後には見た事も無い機体が佇んでいる。

 

 また新型のモビルスーツだろうか。

 

 「やあ、良く来てくれたね」

 

 デュランダルが笑みを浮かべながら立ちあがった。

 

 「アレン、久しぶりだね。話は聞いている。よくやってくれた」

 

 「いえ、私は何も。称賛を受けるべきはハイネやシン達です」

 

 「君は相変わらずだ」

 

 デュランダルは苦笑しながらアレンの手を握る。

 

 「ハイネもご苦労だった」

 

 「ありがとうございます。アレンが居たおかげで助かりましたよ」

 

 ハイネの手を握ったデュランダルはさらにシン達に向かって笑顔を向けた。

 

 「それから―――」

 

 「ジェイル・オールディスです」

 

 「ルナマリア・ホークであります」

 

 「セリス・シャリエです!」

 

 「シ、シン・アスカです!」

 

 全員の手を握るとシンとセリスに向き直った。

 

 「君達二人は大活躍だったそうだね。叙勲の申請もきていた。結果は今夜にも届くだろう」

 

 二人は顔を見合わせると顔を綻ばせる。

 

 「「ありがとうございます!」」

 

 自分達のこれまでの戦いが最高評議会議長であるデュランダルに認められたのだ。

  

 シンやセリスが誇らしい気分になるのは当然であった。

 

 そんな気分も彼らを横でジェイルが睨んでいたので、水を差されてしまった訳だが。

 

 全員の顔合わせが終わり、席に付くと手元にお茶が運ばれる。

 

 一見気軽なお茶会に見えるかもしれない。

 

 しかし正面にいるのは最高評議会議長だ。

 

 話題も自然に世界情勢の事になる。

 

 「宇宙は今どうなっているのですか? 地球軍やテタルトスは?」

 

 「……懸念事項はあるが、ほとんどが散発的な戦闘に留まっているよ」

 

 懸念事項というのが気になるが宇宙の方は膠着状態といっても問題ない状態のようだ。

 

 とはいえ連合側との和平交渉は一向に進んでいない。

 

 こちらの方が問題だろう。

 

 話にある程度の区切りがつくとデュランダルは立ち上がりテラスの端まで歩いていく。

 

 「……何故こうも人は戦い続けるのか。戦争は無くならず、今なお戦い続けている」

 

 突然別の話を始めたデュランダルに誰もが訝しげに視線を送る。

 

 「何時の時代も誰もが嫌だと叫び続けている筈なのにね。君達はどう思うかね?」

 

 デュランダルの問いかけに答えたのは以外にもジェイルだった。

 

 「それは状況が見えないナチュ―――いえ大西洋連邦やブルーコスモスみたいな勝手な連中がいるからでしょう」

 

 遠慮のない物言いにヘレンの眉がピクリと動くがデュランダルは気にした様子もない。

 

 確かにジェイルの言う事は分かる。

 

 シンも少し前まではそう答えていたに違いない。

 

 だが―――

 

 「うん、確かにそれもあるだろう。何かが欲しい。自分達とは違う。憎い、怖い、間違っている。そんな理由で戦い続けているのも確かだ。だがもっとどうしようもない理由もあるのだよ」

 

 デュランダルは見た事も無いモビルスーツに視線を向けた。

 

 「例えばあの機体ZGMFーK200『イフリート・シュタール』。最近ロールアウトしたばかりの新型モビルスーツだが今は戦争中だからああいった機体は次々と作られている」

 

 先程の問いかけ以上に皆が戸惑った表情をしている。

 

 今までの話とどういう繋がりがあるのかよく分からない。

 

 「戦場ではミサイルが撃たれ、モビルスーツが撃たれ、様々な物が破壊される。だから工場では様々な物を作り戦場へと送り込まれる。工場の生産ラインは追いつけない程だよ」

 

 「それは……」

 

 「そう仕方ない事だ。戦争中だからね。しかし逆に考える者もいる」

 

 逆?

 

 どういう事なのだろうか?

 

 「これらを一つの産業としてみればこれほど効率良く利益の上がる物はない。しかし戦争が終わればそんな利益も消え儲からない。だからそんな彼らにとって戦争は是非とも続けて欲しいものではないかな?」

 

 「な!?」

 

 

 考えた事も無い。

 

 戦争で金儲けを考える人間がいるなんて。

 

 では今までの犠牲もすべてはそんな連中の思惑通りだったという事なのだろうか。

 

 シンはテーブルの下で拳を強く握る。

 

 「これまでの人類の歴史には『あれは敵だ、戦おう。撃たれた、許せない、戦おう』そう言って人々を煽り、戦争を産業として捉え、作ってきた者達がいるのだよ」

 

 つまり今回の戦争にも―――

 

 「彼らこそ『ロゴス』。今の戦争の裏にも必ず彼らがいるだろう。彼らこそあのブルーコスモスの母体なのだ。彼等に踊らされている限りプラントと地球はこれからも戦い続けて行くだろう。それを何とかしたいのだがね。それこそが何より本当に難しいのだよ」

 

 考えた事もない現実を突き付けられ、誰もが言葉を発せない。

 

 結局そのままお開きとなり各自このホテルに泊まって行く事になった。

 

 「さて、アレン。君にはもう少しだけ話があるのだがいいかね?」

 

 「分かりました」

 

 デュランダルと共に中庭にでも移動しようとした時、正面から歩いてくる人影に気がついた。

 

 その特徴的なピンクの髪は間違えようがない。

 

 歩いてきたティアもこちらに気がついたのだろう。

 

 笑みを浮かべると近づいてきた。

 

 「これはティア様、コンサート御苦労様でした。素晴らしかったですよ」

 

 「ありがとうございます、議長」

 

 ティアがはにかむように笑みを浮かべる。

 

 そしてこちらに向き直るとアレンに歩み寄ってきた。

 

 「お久しぶりです。アレン様」

 

 「お元気そうでなによりです、ティア様」

 

 アレンとティアが知り合いだった事が意外だったのか全員驚いている。

 

 「あの、コンサートの方は見ていただけましたか?」

 

 「ええ。良い歌でした」

 

 アレンの賛辞にティアも嬉しそうに顔を綻ばせた。

 

 そこにリースが割り込んでくる。

 

 いつも通りの表情に見えるがどこか不機嫌そうに見えるのは気のせいだろうか。

 

 「……ティア様、申し訳ありませんが、アレンは先に議長とお話しがあるのです」

 

 「そ、そうですか」

 

 落ち込むように顔を伏せるティアにデュランダルは苦笑する。

 

 「話といってもそう長く時間は掛かりません。その後でアレンと一緒に食事でも行かれると良いですよ」

 

 「はい!」

 

 アレンは内心ため息をつくとそのままデュランダルと中庭に向かった。

 

 中庭には暗く人の気配はない。

 

 ここならば内緒話も問題ないという事か。

 

 「それでお話というのは」

 

 「そんなに固くならないでくれ。彼女の事を伝えておこうと思ってね」

 

 一緒についてきたリースが前に出る。

 

 「実は彼女がアレンの素性について知ってしまったのだよ。宇宙での戦闘中に君の事を知っているパイロットの声を聞いたらしくてね」

 

 素性を知られた!?

 

 リースを見ると笑みを浮かべて頷いた。

 

 宇宙での戦闘といえば、地球に降下する前のテタルトスとの戦闘だろう。

 

 テタルトスでこちらの素性を知った敵は二人、アスランとユリウスのみ。

 

 リースと接触した敵はアスランだったから奴から漏れたのだろう。

 

 アスランも余計な事を言ってくれたものである。

 

 ホテル前の笑みはこれを意味していたらしい。

 

 アレンは何時でも動けるように構えを取った。

 

 「アレン、そう警戒しなくてもいい。彼女には口止めしてあるし、君の素性の知った者が傍にいた方が何かと協力して動きやすいだろう」

 

 「そういう事、これからよろしくアレン―――いえ、アスト」

 

 アレンはデュランダルが言うほど楽観視してはいなかった。

 

 つまりリースは新しい監視役という事に他ならない。

 

 「もう一つ、君に確認したい事があってね」

 

 「何でしょうか?」

 

 「コードネーム『レイヴン』について、何か知っている事は無いかな。宇宙では今でも彼らが動き回っているんだよ」

 

 サングラス越しにしばらくデュランダルを見つめると首を横に振った。

 

 「私は何も知りません」

 

 「……そうか。いや、ありがとう。前回の戦闘でレイヴンと接触したと聞いていたからね。何か気がついたことでもあればと思ったのだが」

 

 「では私はティア様を待たせていますので」

 

 アレンは踵を返すとティアと約束したホテルのレストランに向かうために歩きだした。

 

 その途中で振り返るとデュランダルに問う。

 

 「……中立同盟の件ですが、何故開戦なさったのですか?」

 

 「私もあのような形で開戦する事になるとは残念だと思っているよ。未だに信じ難い話ではある」

 

 よくもまあ抜け抜けと言えるものだ。

 

 詳しく話す気はないという事だろう。

 

 アレンはデュランダルに一礼すると振り返る事無く歩み去った。

 

 

 デュランダルの言う通り、宇宙では大規模戦闘は行われず散発的な戦闘に留まっていた。

 

 とはいえ誰も動いていなかった訳ではない。

 

 各軍共に防衛圏内を常に巡回、警戒しており、いつまた戦闘が起こってもおかしくない状態であった。

 

 そんな一触即発の宇宙で残骸が漂う暗礁宙域に一隻の戦艦が近づいていた。

 

 不沈艦と呼ばれたアークエンジェルとよく似た形状を持つ戦艦ドミニオンである。

 

 ザフトとテタルトスの戦闘を逃れたドミニオンは姿を隠しながら、今尚目的の為に動いていた。

 

 そして情報収集の結果、このあたりに目的の場所があると当たりを付け調査にきていたのだが―――

 

 「ようやく見つけたと思えばあれか」

 

 モニターに映っていたのは明らかに廃棄されたコロニーだった。

 

 レーダーの方にも何の反応もない。

 

 「今回も外れか」

 

 「いえ、艦長、コロニーの調査を行いましょう。何かの情報が手に入るかもしれない」

 

 同じくモニターを見ていたキラがそう進言してくる。

 

 確かに少しでも情報は欲しい所だ。

 

 だがコロニーが廃棄されているならば何らかの痕跡が残っているとは思えない.

 

 それでも何もしないよりは良いだろうと考え直すとナタルは指示を飛ばした。

 

 「良し、『カゲロウ』を出せ」

 

 「僕も行きますよ」

 

 「頼む」

 

 ドミニオンのハッチが開きレギンレイヴが飛び出すと同時に黒い機体も発進した。

 

 MBFーM3E 『カゲロウ』

 

 全身を黒く塗装された装甲によりミラージュ・コロイド程ではないがステルス性を持った機体であり、情報収集や偵察を主任務としている。

 

 背部に装備されたX字の大出力スラスターにより高い性能を持つ。

 

 武装はビームライフル、ビームマシンガンを切り替える事が出来る複合ビームライフルとビームサーベル、腕にブルートガング、電磁アンカー、そして肩にはチャフ入りスモークディスチャージャーが装備されている。

 

 キラはコロニーに先行するカゲロウの後に警戒しながらついて行く。

 

 モニターに映るコロニーは外見上はボロボロでとっくに廃棄されているようにしか見えない。

 

 「先にコロニー内に潜入します」

 

 「了解」

 

 カゲロウがこのまま何事も無くコロニー内に侵入出来るかと思われた。

 

 しかしこういう時の悪い予感程、良く当たる。

 

 侵入しようとしたカゲロウ目掛けて強力なビームが撃ち込まれたのだ。

 

 「危ない!」

 

 キラはカゲロウに迫る閃光に両腕のシールドを掲げて割り込んだ。

 

 シールドに防がれた閃光が弾けるように飛び散るとモニターを照らす。

 

 ビームが撃ち込まれた先に居たのはデータで見た事がある機体だった。

 

 「インパルス?」

 

 だが背中に装備されているのは見た事も無い装備だ。

 

 ZGMFーX56S/Θ『デスティニーインパルス』

 

 フォース、ソード、ブラストの全シルエットの特性を備えた万能型モジュール「デスティニーシルエット」を装備した機体である。

 

 各強力なビーム兵器を装備している事もそうだが一番の特徴は翼型の高機動スラスターユニットだろう。

 

 この翼の内部にはヴォワチュール・リュミエールと呼ばれる惑星間航行システムを転用した高推力スラスターが搭載されている。

 

 「新型か……」

 

 デスティニーインパルスの背後には母艦らしきナスカ級が一隻と数機のザクがいる。

 

 だがそれ以外に敵を確認できないことから、どうやら彼らは待ち伏せしていた訳ではないようだ。

 

 ならば―――

 

 「援軍を呼ばれる訳にはいかない。カゲロウはザクとナスカ級を頼みます! 新型は僕が!」

 

 「「了解!」」

 

 カゲロウが分散してザクに向かっていく。

 

 加速して接近してきたカゲロウにザクはオルトロスを撃ちこんだ。

 

 カゲロウは背中のX字の大出力スラスターを使ってビームを避け、ビームサーベルを一閃する。

 

 カゲロウの速度についていけなかったザクは胴を斬り裂かれ撃墜された。

 

 さらに腕から電磁アンカーを飛ばし、別のザクに巻きつけて電流を流した。

 

 名の通り電磁アンカーは強力な電流を流す事で機体のみならずパイロットにもダメージを与える事が出来る武装である。

 

 強力な電流によって動きを止めたザクをビームマシンガンで撃ち落とした。

 

 あっちは任せても大丈夫だろう。

 

 それを確認したキラはデスティニーインパルスに攻撃を開始する。

 

 レギンレイヴは小型のビームライフルを構えるとデスティニーインパルスに撃ちこんだ。

 

 キラの正確な射撃は狂い無く敵機に向かっていく。

 

 だがそれは思わぬ形で防がれてしまった。

 

 デスティニーインパルスは左腕を前に出すと発生させた光の盾がビームいとも容易く受け止めたのだ。

 

 「なんだ、今のは!?」

 

 もう一度ビームライフルを撃ちこむ。

 

 しかし何度撃ちこんでも完全に防がれてしまう。

 

 背中のレール砲も一緒に撃ち込むが、それらもすべて通用しない。

 

 デスティニーインパルスの腕に装備されているのはソリドゥス・フルゴールビームシールド発生装置と呼ばれる装備である。

 

 ビーム兵器・実体弾を問わず遮断可能で対ビームコーティングを施した従来のシールドを凌駕する防御力を持っているのだ。

 

 キラは即座に遠距離戦は不利と判断すると、ビームサーベルを構え一気に懐に飛び込んだ。

 

 近接戦闘ならばまだ戦いようもある。

 

 しかしデスティニーインパルスも黙っている訳ではない。

 

 背中の翼が開き光の翼を形成すると凄まじいまでの加速で旋回。

 

 レギンレイヴを振り切るように距離を取り、背中のテレスコピックバレル延伸式ビーム砲塔を展開して撃ちこんできたのだ。

 

 「くっ」

 

 キラは操縦桿を動かし回避行動をとると、装甲を掠めるようにビームが通り過ぎていく。

 

 「速い!」

 

 強力な火力も面倒だがあの速度は驚異的だ。

 

 デスティニーインパルスはレギンレイヴが撃ちこんだビームを回避しながら対艦刀エクスカリバーを構えると今度は接近戦を挑んできた。

 

 対艦刀の一撃をまともに受ければいくらシールドで防御しても斬り裂かれてしまう。

 

 キラは驚異的な速度で肉薄してきた敵機が叩きつけてくるエクスカリバーをシールドを構えて受け流す。

 

 そして同時に下段からビームサーベルで斬り上げた。

 

 ややカウンター気味に放たれた斬撃だったがデスティニーインパルスはビームシールドでサーベルを受け止めるとレギンレイヴを突き放し距離を取る。

 

 その隙に腕部に装備されたビームブーメランを構えるとレギンレイヴに投げつけた。

 

 キラはスラスターを吹かせて上昇、レール砲でビームブーメランを撃ち落とす。

 

 その隙に距離を詰めたデスティニーインパルスが両腕に構えたエクスカリバーを振り下ろしてきた。

 

 「まだだ!」

 

 キラのSEEDが発動した。

 

 研ぎ澄まされた感覚が全身に広がる。

 

 キラは振り下ろされるエクスカリバーを回避せず、背中のレール砲を至近距離で撃ちこんで炸裂させた。

 

 態勢を崩し吹き飛ばされる二機。

 

 普通ならばこのまま仕切り直しという形になるのだろう。

 

 だがデスティニーインパルスのパイロットにとって想定外だったのは、敵は想像以上の相手であった事だ。

 

 完全に敵と自身との技量の差を見誤っていたのだ。

 

 レギンレイヴは爆煙に紛れ、ドラグーンを展開するとデスティニーインパルスに差し向けた。

 

 撃ち掛けられた別方向からのビームにデスティニーインパルスはシールドを展開して後退する。

 

 それこそがキラの狙いだった。

 

 レギンレイヴは小型アンチビームシールドを投げつけ、驚いたようにデスティニーインパルスは機体を横に流す。

 

 なんとかシールドの激突を避ける事に成功したが完全に態勢を崩されてしまった。

 

 そんなデスティニーインパルスの背後にはビームサーベルを構えたレギンレイヴが待ち構えていた。

 

 捉えた!

 

 「これでぇぇ!!」

 

 キラはそのままデスティニーインパルスの胴目掛けてビームサーベルを突き刺す。

 

 ビームサーベルはコックピットに直撃。

 

 パイロットを蒸発させ、機体は機能停止、同時に装甲から色が消えた。

 

 「ハァ、面倒な装備だった」

 

 コックピット以外に損傷は見られない為、爆発の心配もない。

 

 キラは息を吐き出すとカゲロウの方を見る。

 

 カゲロウは迎撃の為に出撃したザクをすべて撃破すると、ナスカ級のエンジンにビームライフルを叩きこんで撃沈させていた。

 

 これでしばらくは大丈夫だろう。

 

 しかしキラの目の前に浮かぶ機体は間違いなくザフトの最新機だ。

 

 こんな場所にいた理由は機体のテストか何かだろう。

 

 だがこれらが戻らないとなるとザフトも動き出す。

 

 早めに調査を終わらすべきだ。

 

 「誰かこの機体をドミニオンに回収してください。残りの機体は僕と一緒にコロニーの調査を」

 

 「「了解」」

 

 デスティニーインパルスを回収する機体を残し、他はコロニーの中に入っていく。

 

 レギンレイヴを港に置くと、キラは銃を持って外に出る。

 

 このコロニー内には誰も居ないとは思うが念の為だ。

 

 キラは港に併設されていた端末を操作して内部の施設を確認する。

 

 コロニーの施設はすべて何かしらの研究施設だったらしい。

 

 とりあえず一番大きな施設に侵入する。

 

 残されていた施設の端末を操作してデータが残っているかどうかを確認する。

 

 やはりというか何の痕跡も残っていない。

 

 「まあ、初めから期待していなかったけど」

 

 それにしても気分が悪い。

 

 キラをそんな気分にさせているのは、この場所の空気だった。

 

 ここはあそこに良く似ていた。

 

 キラにとって忌むべき場所コロニーメンデルに。

 

 しばらく施設内を探索するが、何も見つからない。

 

 一緒に潜入したカゲロウのパイロット達からも何も見つからないと通信が入ってくる。

 

 「潮時か」

 

 これ以上は何も見つからないだろう。

 

 急いで機体に戻ろうとしたキラは何かの紙らしきものが机の下に落ちている事に気がついた。

 

 しゃがみ込み紙が破れないように慎重に机の下から取る。

 

 「これは何かのリストか」

 

 どうやら人の名前らしい。

 

 所属と人物名が書かれていた。

 

 すべてを見ている暇は無いがともかくリストの上に書かれている数人の名前をだけでも確認するとキラは顔をしかめた。

 

 「どうやらここに来た事もあながち無駄じゃなかったみたいだ」

 

 そのリストを手に急いで機体に戻っていく。

 

 リストの上に書かれていた数人の中にはとある名前が記載されていた。

 

 『セリス・ブラッスール』という名が。

 




機体紹介更新しました。

イフリートシュタールとカゲロウは刹那さんのアイディアを使わせてもらいました。
ありがとうございました。

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