機動戦士ガンダムSEED effect   作:kia

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第19話  真実の光景

 

 

 

 

 透き通るような美しい海面の上を蒼き翼を広げて舞う機体があった。

 

 マユの乗るフリーダムである。

 

 彼女の眼下にあるのは再びオーブに攻撃を仕掛けてきた地球軍の艦隊だった。

 

 数こそ多くはない。

 

 だがマユに油断は微塵もなかった。

 

 「目標捕捉! 地球軍艦隊!」

 

 戦艦の甲板に設置されている砲台から放たれたビームの閃光がフリーダムを撃ち落とそうと迫る。

 

 だが放たれた閃光はフリーダムを捉える事は無かった。

 

 マユは鮮やかともいえる動きでビームを避け、砲台を狙ってトリガーを引いた。

 

 ビームライフルの一射が砲台を射抜くと大きな炎を上げて爆発する。

 

 さらに動きを止める事無く、腰のレール砲、収束ビーム砲を使い分け次々と戦艦を撃沈していく。

 

 もちろん地球軍側も黙ってはいない。

 

 戦艦がミサイルを撃ちこむと出撃していたウィンダムがフリーダム目掛けて突撃する。

 

 彼らとて実戦を重ねてきた実力者だ。

 

 ここまで来て怯むなどあり得ない。

 

 たとえフリーダムが相手だとしても。

 

 「全機、フォーメーション!!」

 

 「了解!」

 

 連携を組みながらビームサーベルをフリーダム目掛けて上段から振り下ろすウィンダム。

 

 しかし―――

 

 「遅いです」

 

 マユは余裕でウィンダムの腕を掴み、そのまま下に引いて機体ごと投げつけた。

 

 投げつけられたウィンダムは別の機体と衝突、動きを止めた所に纏めてバラエーナプラズマ収束ビーム砲で薙ぎ払う。

 

 「くそぉ!」

 

 「落とせぇ!!」

 

 残ったウィンダムがフリーダムの背後から襲いかかる。

 

 「いくら強くともこの数であれば!!」

 

 だが何故かフリーダムは動かず、正面の敵のみを相手にしていく。

 

 「殺ったぞ! フリーダム!!」

 

 こちらを気に掛けないフリーダムにウィンダムはビームサーベルで突きを放つ。

 

 だがウィンダムの刃は届かない。

 

 何故ならフリーダムとの間に割り込んできたレティシアのブリュンヒルデによって腕を斬り裂かれていたからである。

 

 「なっ!?」

 

 驚きで動きを止めてしまうウィンダム。

 

 「迂闊でしたね」

 

 レティシアは躊躇う事無く斬艦刀を叩きつけ、敵機を真っ二つにしていく。

 

 「お嬢ちゃん達ばかりに良いカッコさせられないでしょ!!」

 

 敵艦より放たれる砲撃を掻い潜って、ムウのセンジンが放ったビーム砲が甲板を大きく抉ると爆発、撃沈させる。

 

 「あ、ああ」

 

 奇跡的に残ったウィンダムのパイロットは固まった。

 

 いかに前回の戦闘に比べ数が少ないとはいえ、ここまで追い詰められるなんて思っていなかったのだ。

 

 周囲には同盟軍のムラサメやアドヴァンスアストレイの攻撃で撃ち落とされていく味方機の姿が見えた。

 

 そこでようやく自分達の迂闊さに気がついた。

 

 なんの策も無く同盟に挑む事自体が無謀だったのだ。

 

 フリーダムは残った艦目掛けてバラエーナプラズマ収束ビーム砲、クスィフィアスレール砲を展開すると一斉に撃ち出した。

 

 ウィンダムを巻き込みながら放たれた砲撃が残った敵艦に残らず突き刺さり、貫いた。

 

 爆発と共に炎が上がり、艦が揺らいで撃沈した。

 

 ここに勝敗は決した。

 

 残った敵はすべて後退していく。

 

 マユはほっと息を吐くとフリーダムをオノゴロ島のドックに向ける。

 

 今回の戦闘は敵の数自体もそう多くは無かった為、大した被害も無かったのは幸いだった。

 

 オノゴロに帰還したマユは一緒に戻ったブリュンヒルデの近くで端末を弄っているレティシアが珍しく疲れた表情なのに気がついた。

 

 そんな彼女の傍には見覚えの無い男性がいるのが見える。

 

 「誰?」

 

 何かしつこく話をしているらしいが肝心のレティシアは迷惑そうにしているだけだ。

 

 しばらくそんな風に話していたが無駄だとわかったのか肩を落として男性は去っていった。

 

 不思議に思いながら男性の姿が見えなくなるのを見計らってレティシアに話掛ける。

 

 「レティシアさん、あれ誰ですか?」

 

 「さあ、よくは知りません。確かモルゲンレーテの社員さんだったでしょうか?」

 

 「モルゲンレーテの人が何の用事だったんです?」

 

 「今度食事に行きませんかという事でした」

 

 そっけない様子のレティシアを見てなるほどとマユは納得した。

 

 同じ女性であるマユから見てもレティシアは物凄い美人だ。

 

 スタイルも良い。

 

 確かに男が放っておかないだろう。

 

 だがそれをレティシアが受ける事はないとマユは知っている。

 

 「最近はしつこくて困ります」

 

 「あはは。仕方無いですよ、レティシアさんは美人ですからね」

 

 それは偽りのない本音だ。

 

 マユも彼女のようになりたいと憧れすらある。

 

 「何を言っているんですか。マユだって十分美人ですよ。恋人とかは作らないのですか?」

 

 「恋人!?」

 

 マユは一瞬脳裏に浮かんだ顔を振り払うと歯切れ悪く答えた。

 

 「そういうのは……別に」

 

 なんだか変な話になってしまった。

 

 別の話題を振ろうとした時、ラクスが前から歩いてくる。

 

 「二人とも、カガリさんから話があるそうです」

 

 なんの話だろうか。

 

 マユとレティシアは顔を見合わせるとラクスの後をついて歩き出した。

 

 このすぐ後アークエンジェルに出撃の命令が下る事になる。

 

 邂逅の時が確実に近づきつつあった。

 

 

 

 

 マハムール基地を出撃したミネルバはとある渓谷に向かっていた。

 

 ザフトとしては中東最大の拠点であるスエズ基地を叩きたい。

 

 だが正攻法では難しい。

 

 そこで今回スエズと大陸間をつなぐ地域に存在するガルナハン基地を潰し、孤立させ打撃を与えようという作戦が実行に移される事になった。

 

 だがそう思惑通りに運ばないのが現実である。

 

 ガルナハン基地は山岳内部を穿って建設され、強固な防衛力を持っている。

 

 さらに内部には火力プラントを有しており、そこからエネルギー供給されるローエングリン砲台とそれを守るモビルアーマーが配備されていた。

 

 この『ローエングリンゲート』と呼ばれる場所こそ、ザフトがこの基地を攻め落とせなかった理由である。

 

 だが今回は違う。

 

 三人のフェイスと数多の激戦を潜り抜けてきたミネルバがいる。

 

 それが行軍するザフトの士気を高めていた。

 

 そんな期待を背負ったミネルバのブリーフィングルームではシンやセリスといったパイロット達が集められている。

 

 正面にはハイネとアレン、副長であるアーサーと見知らぬ少女が立っていた。

 

 あの中で小柄なアレンよりも背丈が低い。

 

 その容姿から自分達よりも年下である事が分かる。

 

 軍服でないところを見ると彼女が作戦に協力してくれる民間人なのだろう。

 

 今回は地球軍に反抗する抵抗勢力の力を借りる事になっていた。

 

 いかにミネルバが精強とはいえ一隻の艦が加わった程度でこれまで侵攻を尽く防いできた拠点を攻略できるとはザフトも思っていない。

 

 少しでも作戦成功の確率を上げる為に彼らと協力する事になったのだ。

 

 「抵抗勢力って?」

 

 「この近辺にいるゲリラだろうな」

 

 「ふ~ん。それがあの子なんだ」

 

 ルナマリアとレイの会話を聞きながら、シンは僅かに顔を顰めながら少女の顔を見つめる。

 

 協力者の話は前に聞いていたがマユよりも年下の少女とは思っていなかった。

 

 アーサーが前に出ると口を開いた。

 

 「これより、ラドル隊と合同で行う『ローエングリンゲート突破作戦』のブリーフィングを開始する」

 

 モニターに周辺の地図が表示され説明が開始された。

 

 今回の目標であるガルナハン基地にアプローチ可能なのは現在ミネルバが向かっている渓谷のみだという。

 

 しかしこの渓谷すべてをカバーする位置に陽電子砲台が設置されているのだ。

 

 これをどうにかしない限りこちらに勝機は無い。

 

 だが―――

 

 「この砲台を長距離射撃などで攻撃しようとして無駄だ。地球軍の新型が持ってる陽電子リフレクターですべて防がれ、その間に砲台自体は格納されるらしい」

 

 アーサーに代わって説明を引き継いだハイネの言葉にシン達もオーブ沖の戦いを思い出す。

 

 あの敵は確かに厄介だった。

 

 シンとセリスの活躍が無ければ突破は難しかっただろう。

 

 「つまり正攻法は難しいって事だな。だから今回は別の手を使う。ミスコニール」

 

 突然声を掛けられて驚いたのかびくりと肩を振るわせる。

 

 ハイネはなるべく驚かせないように優しく声を掛けた。

 

 「彼がそのパイロットだ。データを」

 

 「こいつが……」

 

 コニールが躊躇うようにシンを見た。

 

 もしかして頼りないとでも思われているのだろうか。

 

 少しむっとするシンをハラハラしながらセリスが見ている。

 

 だが割って入ったのはそれまで黙っていたアレンだった。

 

 「ミスコニール。不安は分かるが信じて欲しい。彼は大丈夫ですよ」

 

 アレンの言葉を受けたコニールがシンの前にディスクを差し出した。

 

 シンがそれを受け取ろうとするがコニールの表情を見て手が止まる。

 

 彼女の目には涙が溜まっていたのだ。

 

 「お前……」

 

 「前に砲台を攻めた時……町は大変だったんだ。それと同時に、町でも抵抗運動が起こったから。でも逆らった人達は、滅茶苦茶ひどい目にあわされた! 殺された人だってたくさんいる! 今度だって失敗すればどんな事になるか判らない!」

 

 少女の訴えにシンは目を見開いた。

 

 こんな女の子がこんな必死になってザフトの戦艦に来る。

 

 それがどれだけの勇気が必要だったのだろうか。

 

 間違いなく命懸けだった筈だ。

 

 シンの脳裏に幼いマユの顔が浮ぶ。

 

 「だから絶対にあの砲台を!」

 

 「……分かった」

 

 シンがディスクを受け取るとアレンがコニールの頭を撫でながら外に連れていった。

 

 何と言うかアレンは意外と面倒見もいいらしい。

 

 本当にミネルバに配属されてから彼の印象は覆ってばかりだ。

 

 アレンが戻ると同時にブリーフィングが再開される。

 

 「さて作戦を詰めるぞ」

 

 コニールが持ってきたディスクには昔の坑道跡の詳細な通路のデータが入っている。

 

 ここはすでに地元の人間ですら知らない場所であり、坑道はローエングリン砲台の真下あたりまで繋がっているという事だ。

 

 通常のモビルスーツが抜けるのは無理だが、分離させたインパルスならば可能。

 

 だから砲台から敵を出来るだけ引き離し、インパルスがこの坑道を使って奇襲を仕掛け砲台を破壊する。

 

 「つまり今回の作戦の要はシンという事だ。頼むぞ」

 

 何も言わずモニターを見つめるシンに怖気づいたとでも思ったのかジェイルが嘲るように声を上げた。

 

 「なんだよ、ビビってんのか。じゃあ変われよ。俺がやる」

 

 「何だと!」

 

 激昂して立ち上がったシンと睨み合うジェイル。

 

 「相変わらず仲が悪いなぁ」

 

 「ハァ」

 

 ルナマリアは手で頭を押さえ、レイも呆れたように視線を逸らした。

 

 「二人とも作戦前だよ! いい加減にして!!」

 

 セリスに言われて気まずそうに二人は睨み合いをやめて席に戻る。

 

 そんな様子を見てハイネとアレンがため息をつく。

 

 「お前達は揉め事を起こさないと気が済まないのか?」

 

 「そんな訳じゃ」

 

 「……シン、そう気負うな。今回の作戦は確かに厳しいものになる。だがお前ならば普段通りにやれば大丈夫だ」

 

 「えっ、あ、はい」

 

 アレンの言葉に驚きながらも頷くシン。

 

 もしかして気を使ってくれたのだろうか。

 

 「ジェイル、お前にもきちんと働いて貰う。頼むぞ」

 

 「……了解」

 

 アレンが宥めてくれたおかげでやりやすくなった。

 

 ハイネがニヤリと笑うと話の締めに入る。

 

 「配置は正面に俺とセリス、レイだ。ルナマリア、ジェイルはアレンとシンが奇襲を仕掛ける反対の位置から攻撃してくれ。インパルスはシルエット無しだからな。敵をいかに引き離すかがカギになる」

 

 「「「了解」」」

 

 シンとジェイルは顔も合わせず部屋から退室した。

 

 「やっぱりあいつとは合わないな」

 

 「シン!」

 

 「分かってるよ。作戦はちゃんとやるさ」

 

 あの少女コニールの顔を思い浮かべると自然と力が入る。

 

 必ずやり遂げて見せる。

 

 ローエングリンゲート突破作戦が開始されようとしていた。

 

 

 

 

 近づいてくるザフトの動きは当然ガルナハン基地の指令室でも確認していた。

 

 しかし彼らに焦りは見えない。

 

 たとえミネルバの姿を確認しようともだ。

 

 指令室のモニターからはすでに発射態勢に入った陽電子砲が見える。

 

 そして彼ら絶対に揺らぐ事の無い自信の根拠も出撃態勢に入った。

 

 YMAGーX7F『ゲルズゲー』

 

 ダガー系の上半身がせり出した半人半虫のような外観を持ったモビルアーマーである。

 

 火力は従来のモビルスーツと大差ない。

 

 しかし両肩部装甲上にある陽電子リフレクタ―によって鉄壁の防御力を誇っている。

 

 だから地球軍の面々はこの機体に絶対の自信をもっていた。

 

 この機体に装備されたリフレクターと陽電子砲台がある限り、ここが陥落する事などあり得ない。

 

 そんな自信漲る彼らを心底見下すように見ている男がいた。

 

 仮面の男カースである。

 

 彼は現在ヴァールト・ロズベルクからの使者という形でこの基地に留まっていた。

 

 「こんな連中が指揮官とは人選ミスだな……どこまでも愚かだ」

 

 この基地の末路も見えた。

 

 だがそれで良い。

 

 カースにはこんな場所がどうなろうと知った事ではない。

 

 あくまでも目的は奴だ。

 

 カースは格納庫に向かい与えられたウィンダムに搭乗する。

 

 本当ならばもう少しマシな機体に搭乗したい所だが今回は我慢しよう。

 

 「さあ、久しぶりのまともな戦場だ。遊ばしてもらおうか」

 

 悪意の笑みを浮かべながらカースも戦場に飛び出した。

 

 

 

 

 シンはミネルバからコアスプレンダーで発進するとチェストフライヤー、レッグフライヤーを引き連れコニールが持って来たデータに示されている場所に向っていた。

 

 「あれか?」

 

 見えたのはギリギリコアスプレンダーで入れそうな岩の切れ目だった。

 

 正直本当に大丈夫かという不安が過るが躊躇っている時間は無い。

 

 シンはフットペダルを踏み込むと切れ目に飛び込んだ。

 

 「なんだよ、これ!」

 

 シンが毒づくのも当然だった。

 

 コアスプレンダーが進む先は何も見えない暗闇なのだ。

 

 機体の翼部が岩盤に掠める度にひやひやする。

 

 操縦を誤れば即激突。

 

 コニールのデータがなければ飛ぶこともできない。

 

 再び毒づきかけたシンの脳裏にジェイルの嫌みな言葉が浮かんでくる。

 

 あいつの事だ。

 

 もしシンのタイミングが遅れでもしたなら、また嫌みを言ってくるに違いない。

 

 「冗談じゃない! やってやるさ!」

 

 シンは怯む事無く正面を見据えると操縦に集中する。

 

 

 

 

 インパルスが情報にあった通路を抜けている頃、ミネルバの方でも戦闘が開始されようとしていた。

 

 各機が順次発進するとハイネのグフが正面に立つ。

 

 「各機、作戦通りに! セリス、レイ、ついて来いよ!」

 

 「「了解」」

 

 グフとザクファントムそしてセイバーが動き出した。

 

 それに合わせアレンも指示を飛ばす。

 

 「ジェイル、ルナマリア、こちらも行くぞ」

 

 「「了解」」

 

 エクリプスとグフ、ガナーザクウォーリアが側面に回る。

 

 もちろん敵も黙ってはいない。

 

 迎撃の為にモビルスーツが展開され、姿を見せたダガーLが迎撃体勢を取った。

 

 現在の地球軍の最新型であるウィンダムは数機しか確認できない。

 

 ガルナハンよりは重要拠点のスエズ防衛を優先しているのかもしれない。

 

 だがこれはこちらにとっては好都合である。

 

 つまり厄介なのは正面に目立つ異形のモビルアーマーのみ。

 

 あいつを落とし、砲台を破壊すれば基地自体の防衛力は恐れるほどではない。

 

 「タンホイザー、照準! 撃てぇ――!!」

 

 正面にいるモビルアーマーゲルズゲーに向かってミネルバの艦首が開きタンホイザ―が発射される。

 

 凄まじい閃光がゲルズゲー目掛けて撃ち出された。

 

 しかしゲルズゲーは退くどころか前に出ると陽電子リフレクタ―を展開。

 

 タンホイザーの一撃を受け止め、激しい光と共に衝撃が周囲に襲いかかる。

 

 想定通りタンホイザーを受け止めたゲルズゲーは健在だ。

 

 そして次の瞬間、基地に設置されたローエングリン砲台からお返しとばかりに陽電子砲が撃ち出された。

 

 あれの直撃を受ければ、今までと変わらない敗走が待っている。

 

 しかもミネルバは沈むだろう。

 

 当たる訳にはいかない。

 

 ミネルバは急速に降下、迸る閃光の射線から外れると地面すれすれを移動する。

 

 「チッ、厄介だな。各機、敵モビルスーツを引き離せ!」

 

 ハイネの声に合わせて全員が動き出した。

 

 グフがテンペストビームソードを構えると一直線にダガー部隊に斬り込んだ。

 

 袈裟懸けに振るわれたビームソードがダガーLを容易く両断。

 

 続けてドラウプニル四連装ビームガンを撃ちこんで撃破していく。

 

 「これで!」

 

 ハイネが動くと同時にモビルアーマー形態になったセイバーが回り込みスーパーフォルティスビーム砲でダガーLを牽制する。

 

 そして即座にモビルスーツ形態に戻りビームサーベルで斬り捨てた。

 

 縦横無尽に動くグフ、セイバーにダガーLはまったくついていく事が出来ない。

 

 「ハイネ、セリス、援護する」

 

 レイは二機が動きやすいようにビーム突撃銃と誘導ミサイルをダガーLに叩きこむ。

 

 「ハイネ達に遅れるなよ」

 

 正面のハイネ達が獅子奮迅の動きで地球軍を圧倒していた時、別方向でもアレン達が同じく敵機を撃破していた。

 

 エクリプスがバロールレール砲で敵部隊を撃ち抜く。

 

 それに合わせたジェイルのグフがスレイヤーウィップを叩きつけダガーLを破壊する。

 

 「これでぇ!」

 

 勢いに乗ってさらにテンペストビームソードを振るっていくジェイル。

 

 そこを援護するようにルナマリアがオルトロスを構えて敵機に撃ち出した。

 

 「落ちなさいよ!」

 

 オルトロスのビームが数機の敵機を巻き込んで薙ぎ払っていく。

 

 形勢はこちらが有利。

 

 完全にザフト側が押していた。

 

 作戦は順調と言っていいだろう。

 

 厄介なゲルズゲーは陽電子砲防御の為に正面から動けない。

 

 「このままあの機体も引き離すぞ」

 

 アレンはビームガトリング砲でウィンダムをハチの巣にするとゲルズゲーにバロールを構える。

 

 しかしその邪魔をするかの様に一機のウィンダムが割り込んできた。

 

 「ウィンダムか?」

 

 バロールの標的をウィンダムに変更してターゲットをロックするとトリガーを引く。

 

 だが予想外にもウィンダムは速度を上げ、放たれた砲弾を回避。

 

 ビームサーベルを構えて突撃してきた。

 

 「こいつだけ動きが違う!?」

 

 あのインド洋で戦った隊長機も手強かったがこいつもかなりの腕前らしい。

 

 上段から振り下ろされたビームサーベルをシールドで止めエクリプスもサーベルを横薙ぎに叩きつける。

 

 だがウィンダムは驚くべき反応で斬撃を流すと蹴りを放ってきた。

 

 シールドで攻撃を捌きアレンはジェイル達に叫んだ。

 

 「チッ、ジェイル、ルナマリア、二人は作戦を継続しろ。こいつは俺が引きつける」

 

 「了解」

 

 ダガーLを斬り飛ばしながらジェイルは敵部隊を引きつけるために直進していく。

 

 だがウィンダムはそれを追う様子は無い。

 

 それどころかしつこいほどエクリプスに攻撃を仕掛けてくる。

 

 だがそれはアレンにとっては好都合だ。

 

 このウィンダムが邪魔をすれば間違いなく作戦に支障をきたすだろう。

 

 だからこそこいつを引きつける意味がある。

 

 「アレン、援護します!」

 

 ルナマリアは前進しながらアレンを援護するためにオルトロスを撃ち出した。

 

 放たれたビームがウィンダム目掛けて迫る。

 

 だがウィンダムはスラスターを使って機体をバレルロールするとオルトロスのビームを回避して見せた。

 

 「なっ、避けた!?」

 

 いくらルナマリアが射撃を苦手としているとはいえ、あっさり回避するとは。

 

 ガナーザクウォーリアを引き離す為にビームライフルで牽制したウィンダムは再びエクリプスにビームサーベルを叩きつけてくる。

 

 袈裟懸けに振るわれたビームサーベルを避け、反撃に移ろうとしたアレンの耳に敵機のパイロットの声が聞こえてきた。

 

《聞こえているか?》

 

 誰だ?

 

 くぐもった声である為に男女の区別もつかない。

 

 だがこちらに対する憎悪だけは嫌というほど伝わってくる。

 

 まるでクルーゼのように。

 

 「お前は誰だ?」

 

 《ククク、誰でもいいだろう。あえて名乗るならばカースだ》

 

 苛烈なまでに左右からビームサーベルを叩きつけてくるカース。

 

 アレンはそんなウィンダムを突き放し、ビームガトリング砲を叩きこんだ。

 

 だが降り注ぐビームの雨を潜り抜けるようにウィンダムはジェットストライカーを吹かして回避すると、逆にビームライフルを撃ちこんでくる。

 

 正確な射撃に舌を巻く。

 

 《しかしお前は相変わらずだな。愚か過ぎて物が言えない》

 

 「なに?」

 

 《ここで引導を渡してやる! 死ね、アスト!》

 

 「なっ!?」

 

 こちらの素性を知っている!?

 

 「貴様は……」

 

 《今度こそ消えろ!》

 

 ビームライフルを撃ちこみながら突撃してくるウィンダムを睨みつけアレンもサーベルを構えて応戦した。

 

 

 

 

 アレンとカースが激しい攻防を繰り広げていた頃、戦局は変わらずザフトが優勢だった。

 

 防衛の為に動けないゲルズゲーを除いた敵部隊はかなり引き離され、同時に撃破されている。

 

 とはいえ地球軍側は焦ってはいない。

 

 手こずった事は認めよう。

 

 だが次のローエングリンの一撃で決着をつければ良いだけの事。

 

 確かにその戦略は間違ってはいない。

 

 現にこれまでもそれでザフトを撃退してきたのだから。

 

 彼らの失態があるとすればザフトがなんの策もなく向かってきたと思いこんでいた事だろう。

 

 

 それが彼らの思惑を外してしまう事になる。

 

 

 発射準備に入る砲台。

 

 

 この一射で終わりであると誰もが確信していた時、地球軍にとって予想外の事が起きる。

 

 

 砲台の真下で大きな爆発が起きると同時に何かが飛び出してきたのだ。

 

 「何だ!?」

 

 幾つかの飛行物体が合体すると一機のモビルスーツとなる。

 

 「アレは……」

 

 「インパルスだと!?」

 

 飛び出してきたのはミネルバ所属のモビルスーツであるインパルスであった。

 

 坑道を抜け外に飛び出したシンは周囲を見て一瞬で状況を把握する。

 

 「作戦は上手くいっているみたいだな!」

 

 ならば後はこっちの役目。

 

 砲台までにいるダガーLは数機のみ。

 

 やれる!

 

 「はあああ!!」

 

 ビームライフルを構えてダガーLを撃破すると砲台目掛けて動きだす。

 

 スラスターを噴射させ砲台まで一気に距離を詰めるが、上空からこちらに駆けつけて来たダガーLが迫ってくる。

 

 「時間が無いってのに!」

 

 シンが応戦の構えを取りライフルを構えた瞬間、ダガーLが撃ち落とされた。

 

 攻撃したのは四連装ビームガンを構えたジェイルのグフだった。

 

 「ジェイル!?」

 

 「何やってんだ! さっさと行け、シン!!」

 

 反射的に言い返そうとしたシンだったが、今はそれでどころではない。

 

 上空の敵は無視して砲台に向かう。

 

 「そこをどけよ!」

 

 ライフルを捨てフォールディングレイザー対装甲ナイフを抜くと立ちふさがるダガーLのコックピットに叩きつける。

 

 コックピットを貫かれたダガーLを置き去りにさらに上を目指して飛び上がる。

 

 「良し、このまま―――ッ!?」

 

 シンが砲台を破壊しようとした時、危機的状況を察した砲台が内部に格納を開始した。

 

 「不味い!」

 

 格納されたらどうしようもない。

 

 シンの脳裏にコニールや信頼してくれたアレンの顔が思い浮かぶ。

 

 「まだだぁぁぁぁ!!!!」

 

 残ったフォールディングレイザー対装甲ナイフで近くのダガーLを撃破すると抱え上げハッチの中に投げ込んだ。

 

 さらにCIWSをダガーLに叩きこみ同時に砲台が完全に格納される。

 

 撃ち抜かれたダガーLが内部で大きく爆発を起こすと、巻き込まれ砲台もまた破壊された。

 

 

 砲台の破壊は戦場のどこからでも確認できた。

 

 ハイネはニヤリと笑うと指示を飛ばす。

 

 「良し、後はあのモビルアーマーだけだ!」

 

 「了解!」

 

 セリスは動きを止めたゲルズゲーにビームサーベル構えて突撃する。

 

 セイバーが振るったサーベルが瞬く間に両腕を斬り落とす。

 

 さらに別方向にいるルナマリアのオルトロスがゲルズゲーの脚部を消し飛ばした。

 

 「ルナ、ナイス!」

 

 セリスが敵機の下腹部にビームサーベルを叩きこみ、ハイネのグフがゲルズゲーの上半身であるダガー部分にビームソードを突き刺した。

 

 「これでぇ!」

 

 ハイネが飛び退くと同時にセリスはアムフォルタスプラズマ収束ビーム砲を撃ち出す。

 

 強力なビームに撃ち抜かれたゲルズゲーはいともたやすく破壊され、残った敵機はレイやルナマリア達によって撃破されていった。

 

 「チッ、役立たず共が」

 

 撃ちこまれたレール砲を回避したカースは苛立たしげに吐き捨てた。

 

 元々期待などしていなかったが、ここまでとは。

 

 「よそ見している暇があるのか!」

 

 「くっ」

 

 突っ込んでくるエクリプスに回避行動を取るが、反応が遅れた所為かシールドを構える前に左腕が斬り落とされてしまった。

 

 機体の反応が遅すぎる。

 

 「ここまでか。また会おう、アスト」

 

 「待て!」

 

 カースは残った右腕でスティレット投擲噴進対装甲貫入弾を抜き、エクリプスに向けて投げつける。

 

 アレンはシールドで防御するも、突き刺さった対装甲貫入弾が爆発してシールドを破壊されてしまった。

 

 「ぐっ」

 

 爆発の煙幕に紛れ、エクリプスを一瞥するとカースは反転、後退する。

 

 

 ここにガルナハン基地は陥落した。

 

 

 町の人々は歓喜に満ちていた。

 

 今まで地球軍によって支配されていた彼らはついに解放されたのだ。

 

 喜びはしゃぐのも無理は無い。

 

 インパルスのコックピットでその様子を見ていたシンもまた達成感に浸っていた。

 

 自分のやった事は無駄ではない。

 

 あんなに皆が笑っているのだから。

 

 下ではグフから降りたハイネやジェイルが民衆から揉みくちゃにされている。

 

 普段から不機嫌そうなジェイルでさえ笑みを浮かべていた。

 

 シンもまたコックピットから降りようとした時、エクリプスが動かない事に気がついた。

 

 アレンは降りないのだろうか?

 

 《シン、左を見てみろ》

 

 「は?」

 

 暗い声で呟くアレンにシンは訝しげに左を見る。

 

 そこには信じられない光景が広がっていた。

 

 広場のような場所に一列に膝をついて並ばされた地球軍兵士がゲリラ兵士によって頭を撃ち抜かれていたのだ。  

 

 もう抵抗も出来ない人間に対してなんの躊躇いも見られない。

 

 「止め――」

 

 シンの声など届く筈もないが思わず口に出していた。

 

 彼らを止める事など出来ない事も分かっている。

 

 コニールも言っていたがこのあたりで地球軍はやりたい放題していたらしい。

 

 中には大切な人を殺された人達もいるだろう。

 

 つまり彼らは正当な復讐をしているのだ。

 

 理解できる。

 

 それでも真下で笑っている皆と広場で抵抗できない者を平然と殺していくゲリラ達。

 

 そのギャップに強烈な気持ち悪さを覚えてしまう。

 

 シンは初めて戦争の現実を垣間見た気がした。

 

 《昔、とある男に聞かれた事がある》

 

 「えっ」

 

 《『戦争には制限時間も得点もない。ならどうやって勝ち負けを決める? どうやって終わりにするのかな? すべての敵を滅ぼしてか?』とな》

 

 「……どう答えたんですか?」

 

 《……碌な答えじゃなかったよ。お前はどう思う、シン?》

 

 シンは何も言えなかった。

 

 答えられなかった。

 

 皆が笑顔で喜び合う中、なんとも言えない苦い思いを抱えながらシンはただその光景を見続けていた。


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