『第二次オーブ戦役』からしばらく後。
オーブは『ブレイク・ザ・ワールド』や戦闘による被害からの復興に全力を注いでいた。
元々ブレイク・ザ・ワールドの被害も軽微だった事も幸いして、あまり時間はかからないだろうと試算されている。
もちろん再び地球軍が攻めてくる事も考えられる為、油断はできない状態ではある。
そんな中、カガリ達はオノゴロ島のドック内に待機しているアークエンジェル内に集まり、全員が渋い顔でモニターを見つめていた。
その理由はモニターに映ったピンクの髪をした少女にある。
《皆さん、ティア・クラインです》
モニターの中でティアと名乗った少女が笑顔で歌を歌っている。
その姿はまさにかつてプラントの歌姫と言われたラクス・クラインそのものと言って良いほど良く似ていた。
歌う彼女の姿に酔いしれるプラント国民の歓声を聞きながらカガリはため息をつくとラクスに問いかけた。
「ラクス、一応聞いておくが妹がいたのか?」
カガリの問いにラクスは何の迷いもなく首を横に振る。
「いいえ」
「レティシアはどうだ?」
「私もシーゲル様から聞いた事もありません」
二人が知らないとなるとあの少女の正体を知る事は現時点では無理だ。
しかしこの件で彼らの前からあった疑念はほぼ確信に変わっていた。
先の武装集団の襲撃。
これはプラント側の思惑であったという事で間違いないだろう。
この状況ではそう考えざるえない。
すべての疑問が解消された訳ではないが、デュランダル議長が何かをしようとしている事だけはハッキリしていた。
「でも本当に似てますね」
マユがそう思うのも無理はない。
外見や声も本当に良く似ているのである。
「確かに外見は似てます。これでは姉妹と言われても誰も不思議に思わないですね」
この中で一番付き合いの長いレティシアでさえそう思うのならプラントにいる者たちは疑いすら持っていないだろう。
だが全く同一という訳ではない。
雰囲気などは明らかに違うし、スタイルにも違いがある。
心なしかラクスの視線が鋭いのは気のせいだと思いたい。
「えっと、それで私達はこれからどうするんですか?」
マユの問いにカガリは表情を固くした。
現状中立同盟の状況はそう良くは無い。
先の地球軍からの発表により世界から疑惑の目を向けられ、明確な敵対関係にあった国々からは糾弾の的だった。
とはいえこれまでの外交努力の結果か、あの発表を信じているのがごく少数であった事は不幸中の幸いであっただろう。
プラントの関与が濃厚とはいえ、それを訴えた所で今は戦争中。
敵国からの言葉など届くはずも無く、容易に捻じ曲げられてしまうのみだ。
「今は情報収集を最優先に。アークエンジェルも有事に備えてもらう」
オーブより奪取及び離脱したモビルスーツの奪還または破壊。
アークエンジェルにはそれを成してもらう事になる。
これ以上連合に利用される前にこれを為さねばならないのだから。
◇
現在地球連合軍の航空母艦J・P・ジョーンズは、ミネルバが出港したという情報を得た為、急遽南下していた。
目的はミネルバに対して攻撃を仕掛ける為である。
各モビルスーツが出撃準備の取りかかっている中、アオイはとあるトラブルに巻き込まれていた。
トラブルといっても見ている分には微笑ましい出来事だったのだが。
「いいな~みんな……ステラだけお留守番」
「しょうがないじゃんか。ガイアは飛べないし、泳げないしさ」
不満そうなステラの頭を、スティングが優しく撫でる。
「海でも見ながら良い子で待ってろよ。好きなんだろ?」
「……うん」
ステラがこんな風に不貞腐れているのは今回の作戦では彼女には待機が命じられた事が発端である。
今回の主戦場は海上だ。
飛行が可能なカオスや水中戦用に作られたアビスは問題ない。
しかし陸戦用の機体であるガイアでは海上の戦いは無理な為に今回は建設途中の基地防衛に置かれる事になったのである。
一応は頷くステラだが内心は納得していないのかまだ俯いている。
何か言うべきなのだろうか?
いや、そもそもなんて言えばいいんだ?
迷いながらもアオイは頭をかきながら、ステラに声をかけた。
「えっと、ステラ」
「アオイ」
「これが終わったらまた海を見よう」
アオイの言葉を聞いたステラは笑顔を浮かべて頷いた。
「うん!」
どうやら少しは元気が出たらしい。
アオイがほっとしている所にネオとスウェンが歩いて来るのが見えた。
「私もステラと出られないのは残念けどね」
「ネオ!」
ネオの姿を確認したステラが駆け寄っていく。
「とはいえ仕方ない。ステラ、後は頼む」
「……うん」
ずいぶん懐いているんだなぁなんてアオイが他人事のように眺めているとスウェンが肩を叩いてくる。
「少尉、今回も厳しい戦いになる。だが気負う必要はない。いつも通りにやればいい」
「はい!」
あのミネルバ相手の戦闘でガイアが抜けるのは戦力的にも厳しい。
しかしアオイとてあの時刻まれた恐怖を払拭する為に必死に訓練を積んできたのだ。
それにこちらも何も手を打っていない訳ではない。
オーブでのミネルバの戦いぶりはすでにファントムペインでも把握している。
それを警戒しネオは建設中の基地に連絡を取って防衛戦力として駐留していたウィンダム30機をこちらに回して貰うように手配していた。
基地司令はずいぶん反発していたらしいが。
そしてアオイにとっても負けられない理由がある。
その基地にはアオイの義父であるマサキも現在配属されているからだ。
負ければその基地は丸裸同然。
見つかればその時点で終わり。
だがそんな事はさせない。
必ず守る。
決意を新たにアオイはイレイズガンダムのコックピットへと乗り込んだ。
◇
修理を終えたミネルバはカーペンタリアを出港してインド洋方面に向かっていた。
今回命じられた任務は地球軍スエズ基地攻略を行っている部隊の支援である。
あの辺りはユーラシア連邦からの独立を訴える地域が多く、さらに強硬姿勢に出ている地球軍に対して反発が強い。
ザフトは現在それらの地域の独立を手助けする形で軍を派遣しているのだが、どうやら苦戦しているらしい。
「しかしカーペンタリアにいるミネルバにわざわざそこまで行けとはね」
報告書を眺めながら、タリアが呟くとアーサーも頭を掻きながらぼやいてくる。
「確かに。戦力が増えたとはいえ、ほぼ地球を半周ですよ」
確かに初期に比べればミネルバの戦力もずいぶん整っている。
今までの搭載機とエクリプス。
そして新型機であるグフが二機と潜水母艦のボズゴロフ級ニーラゴンゴ。
搭載機であるグーン。
これだけの戦力があればよほど手強い部隊でもない限りは問題なく進めるだろう。
少なくともタリアはそう考えていた。
だが、すぐに事態は急変する。
ミネルバのレーダーが多数の機影を捉えたのだ。
「これは!?」
「どうしたの?」
「多数の機影が接近! これは……ウィンダムです! 数は30!」
偶然という訳ではないだろう。
待ち伏せされていたと考えた方が自然だ。
タリアが指示を出そうした瞬間、また悪い報告が入ってくる。
「敵機の中にカオスを確認!」
「ええっ!? アーモリーワンで強奪された機体がこんな場所に!?」
その機体がここにいるという事は相手はあの厄介な部隊に間違いない。
あの部隊の手強さはミネルバに乗船している全員が身を持って体験済みである。
「付近に母艦は?」
これだけのモビルスーツが単体で飛んでくるなどあり得ない。
どこかに母艦がある筈だ。
「確認できません!」
「ミラージュ・コロイドか!?」
「地上でそれは無いでしょう」
アーサーが疑いたくなるのも理解できなくはないが、地上でのミラージュ・コロイド運用はリスクがある。
ミラージュ・コロイドは足跡や航跡など外部への影響や、それに伴って発生する音まで消去する事が出来ない。
その為、ミラージュ・コロイドは地上での運用には向かないのだ。
「議論は後よ。ブリッジ遮蔽、対モビルスーツ戦闘用意。ニーラゴンゴとの回線固定!!」
今は考えるよりも敵の迎撃が最優先。
敵があの部隊であるならば後手に回るのは危険だと判断したからだ。
タリアの命令に従って戦闘態勢に移行するミネルバ。
そしてハッチが開くと同時に各機が次々と発進していく。
最初に出撃したインパルスに続きセイバー、エクリプス、二機のグフが出撃する。
レイとルナマリアのザクは空中戦は無理な為に艦内待機となった。
「良いか、ミネルバから離れるなよ!」
正面に立ち指揮を執っているのはハイネのグフだ。
彼は戦場に出れば皆同じと言っていたが、それでも戦う以上指揮官は必要である。
そこで戦場の指揮はハイネに任せる事になった。
ハイネはフェイスとしての先任であるアレンが執るべきと主張していた。
それをアレン自身が辞退したのだ。
少なくともアレンよりも集団戦での経験が豊富なハイネの方が指揮力は高いだろうとの判断ためである。
「よし、全機。行くぞ!」
「「「了解!!」」
接近するウィンダムを視認すると同時にハイネの指示に従ってそれぞれが迎撃体勢に移った。
◇
当然攻撃を仕掛ける地球軍側にもザフトが展開する様子は確認できた。
正面に見えるのは見た事も無いオレンジ色に塗装された機体。
造形はザクに似てはいるが、形状が違う。
新型に間違いないだろう。
「また新型とは。ザフトは大したものだな」
次から次に新型機を投入してくるザフトの技術力には感心してしまう。
敵に回すネオ達からすれば厄介極まりない訳だが。
その時、ネオに妙な感覚が走った。
あの白い一つ目ではない。
これは―――
「あいつがいるぞ!」
スティングの殺気立った声にネオは視線をそちらに向ける。
するとそこにいたのは彼らが宇宙で辛酸を舐めさせられた機体エクリプスの姿があった。
「なるほど」
「大佐、奴が一番厄介かと」
この中でアレとの戦闘経験を多く持つスウェンの意見を聞くまでもない。
ネオ自身厄介な相手である事は承知済みである。
「アレの相手は私がする」
「ええっ!」
スティングが不満そうに声を上げる気持ちも分かる。
宇宙で味わった屈辱を晴らしたいというのだろう。
しかしアレが相手ではいかにエクステデットであろうとも返り討ちにされる可能性もある。
「スティング、お前はあの二機の新型を相手にしろ」
「チッ、分かったよ」
カオスがモビルアーマー形態に変形すると正面のグフに突撃していく。
「スウェン、お前は少尉と取り逃がした二機を頼む」
「「了解」」
地球軍とザフト、両軍が散開して攻撃を開始する。
まず動いたのはカオスを相手にする二機のグフだった。
高速で突っ込んでくるカオスにジェイルのグフが四連装ビームガンで迎撃する。
「カオスか!?」
アーモリーワンより奪われた機体であり、対峙するジェイルにとってもいい思い出はない。
むしろ屈辱の象徴だった。
「落ちろぉ!!」
グフから放たれたビームが次々とカオスを狙って撃ち出した。
だが甘いとばかりにスティングはくるりとカオスを回転させるとビームを回避。
逆にグフを狙い撃ちにしていく。
「どうした! この程度かよ、新型!!」
連続で撃ち込まれるカオスのビームをシールドを使って防ぐグフを見たスティングはニヤリと笑みを浮かべた。
「こいつらをさっさと落としてアイツに借りを返してやるぜ!」
スティングは誘導したグフに止めとしてビームサーベルを振りかぶる。
しかし次の瞬間、グフは絶対的に不利な体勢からビームサーベルを回避、テンペストビームソードで斬り返してきた。
「なに!?」
エクステンデット特有の反射神経で機体を掠めるギリギリの位置で躱す事に成功したスティングは背中に冷や汗をかきながらグフを睨みつける。
今のは明らかに狙ってやったもの。
つまり―――
「こいつも新型任されるだけはあるって事かよ!」
距離を取ったカオスにジェイルは舌打ちしながらビームガンを放っていく。
途中までは上手くいっていたのだが、相手の反応が予想外に速かった事が誤算だった。
「もう少しで仕留められたってのによ!」
ジェイルは歯噛みしながらもカオスに追撃を掛ける。
「次こそ落す!」
だがそれが悪かったのか、背後からのウィンダムに対する反応が遅れてしまった。
「くっ」
ビームライフルを向けてくるウィンダムにシールドで防ごうとするグフ。
そこにオレンジ色の機影、ハイネのグフが割り込んできた。
即座にウィンダムの懐に飛び込むとテンペストビームソードを一閃、ライフルごと機体を斬り捨てる。
さらに別方向にいたウィンダムをスレイヤーウィップで撃破すると小気味良く叫んだ。
「遅い! ザクとは違うんだよ! ザクとは!!」
ハイネはその調子で周囲にいるウィンダムを蹴散らすとジェイルに通信を入れる。
「何やってる! もっと周囲に気を配れって模擬戦の後も言われただろう!」
「ッ! 言われなくても分かってる!!」
むきになったようにジェイルはウィンダム隊に突っ込んでいく。
「おい、待て!」
ジェイルのグフを追いかけようとしたハイネだったがその行く手を阻むようにビームが撃ち込まれてくる。
ビームライフルを撃ち込んでくるのは緑色の機体カオスだった。
「落ちやがれ!」
「チッ、邪魔な奴だな!」
カオスが囲むように発射された誘導ミサイルをギリギリまで引き付け、四連装ビームガンで迎撃するとビームソードを構えて斬り込んだ。
互いが振るった斬撃を防いだ二機は弾け飛ぶ。
「こいつ!」
「流石、セカンドステージシリーズの機体だな! 厄介だぜ!」
スティングと切り結びながらハイネがチラリとジェイルの方を確認する。
単機でウィンダム相手に奮戦しているのが確認できた。
とはいえ危なっかしい事に変わりない。
ハイネはいち早くジェイルを援護する為にカオスに対して斬りかかった。
◇
ハイネとジェイルが激闘を繰り広げていた頃、反対方向にいたアレンは真っ直ぐに色違いのウィンダムに向かっていた。
直感的にあの機体のパイロットの技量を見抜いたアレンはシン達では荷が重いと判断したからだ。
「それにこの感覚は……試すか」
一気に加速してきたウィンダムをロックすると即座にトリガーを引いた。
ビームライフルから撃ち出されたビームがウィンダム目掛けて一直線に向かっていく。
しかしウィンダムは背中に装備されたジェットストライカーを噴射させ、すり抜けるようにビームを回避。
逆にエクリプス目がけて反撃を加えてくる。
「……この動き、普通のウィンダムよりも速い」
正確な射撃で次々とビームを撃ちこんでウィンダムを狙っていく。
だが撃ち込まれる攻撃を巧みにかわし、隙を見て撃ち返すウィンダム。
「やはりこいつが一番厄介か」
ウィンダムは雲を使って姿を隠すと背後に回り込みエクリプスを急襲する。
「もらった」
背後からの奇襲だ。
いかにこいつが手強くともこれで仕留めた筈。
だがそんなネオの思惑あっさり外れる事になる。
エクリプスは神懸かり的な反応で急上昇し、ウィンダムの放った攻撃を見事に回避して見せたのだ。
「なっ!? 背後からの奇襲を避けただと!?」
これには流石のネオも驚愕する。
今のタイミングで完璧に回避してくるとは、尋常な腕前ではない。
「……こいつは一体何なんだ?」
ネオが一瞬呆けている間にエクリプスは宙返りすると背中のハイパーバスーカ砲を撃ちだしてくる。
持前の直感で回避したネオは再びビームライフルを発射した。
だがエクリプスは先程の意趣返しに雲に隠れてビームをやり過ごし、すかさずビーム砲を発射する。
「強い!」
「これは……このパイロットはまさか―――クルーゼ?」
雲の中から発射された閃光をウィンダムはジェットストライカーを使って尽く回避していく。
「……いや、違う。クルーゼじゃない」
似てはいるが奴は対峙しているだけで滲み出てくるような殺意と憎悪を持っていた。
だがこの機体のパイロットからそれらを感じ取ることができなかった。
「何であれ、面倒な敵という事か」
アレンは雲から飛び出すとビームサーベルで斬りかかる。
それを見たネオもまたサーベルに持ち替えエクリプスと斬り結んだ。
「望むところ」
二機は高速ですれ違い、互いを狙って激突する。
◇
アレン達とはまた違う場所にてインパルスとセイバーは群がるウィンダムの迎撃行動に移っていた。
周囲を飛び回りながらビームライフルを放ってくるウィンダム。
その攻撃をシールドで防ぎながらシンは叫ぶ。
「こんな奴らにやられてたまるかぁぁ!!」
インパルスが放ったビームがウィンダムの胴体を撃ち抜き、さらに連射して側面の敵も撃破する。
狙ってくる敵機を持ち前の機動性をもって回り込んだセイバーがフォローするようにビームサーベルで斬り裂いていった。
「シンはやらせない!」
セリスはモビルアーマー形態に変形、その機動性をフルに使い敵の背後へ周り込む。
そしてウィンダムにスーパーフォルティスビーム砲を撃ち込んだ。
元々の機動性に差がある為、敵機は二機のガンダムを追い切れない。
対応できないウィンダムは次々と撃ち落とされていく。
このまま問題無く撃退できると思った二人だったが、その前に因縁の機体が現れた。
ストライクノワールとイレイズMk-Ⅱである。
「あいつは!」
シンは怒りを込めて迫る敵機を睨みつけた。
イレイズには借りがあるからだ。
あの機体によってオーブ戦では撃破寸前にまで追い詰められた。
しかし今度はそうはいかないと、フットペダルを踏み込んだ。
「今度こそ落としてやる!」
インパルスは背中のフォースシルエットからビームサーベルを引き抜き、イレイズに襲いかかる。
「インパルス!?」
当然、相対していたアオイも応戦の構えを取る。
オーブでの戦闘ではインパルスの鬼気迫る戦いぶりに圧倒されてしまった。
何もできないまま、味方がやられていくのを黙って見ている事しかできなかった。
それも今日まで。
あの光景を振り払う為に訓練を積んできた成果を見せる時だ。
「俺が皆を守る!」
イレイズは腰に装備してあるビームライフルショーティーを構え、突っ込んでくるインパルスに連続で撃ち込んだ。
しかしインパルスには当たらない。
スラスターを的確に使いイレイズの射撃を次々と回避して懐に飛び込むとビームサーベルを振り抜く。
迫るビームサーベルをシールドを掲げて防いぐイレイズ。
そのままインパルスを突き放し、攻撃をやり過ごすと再びビームライフルショーティーを放った。
「そんなものが当たるかぁぁ!!」
「くそ、速い!?」
速度を上げ攻撃を次々に避けるインパルスに焦るアオイだったが、そこでスウェンとの訓練を思い出す。
「そうだ。ただ狙うだけでは当たらない。ならば!」
アオイは再びインパルスにビームを撃ち出した。
撃ちだされたビームは回避行動を取ろうとしたインパルス目掛けて一直線に向っていく。
「な!? いきなりイレイズの射撃精度が良くなった!?」
まるで動きを読んでいるかのようにインパルスの移動先にビームを撃ちこんでくる。
「こいつ!」
「良し、やれる!!」
アオイにはネオのように優れた直感がある訳ではない。
単純にスウェンに教え込まれた技術だ。
相手の動きを観察して動きを読む。
ただそれだけ。
これは現在インパルスとセイバーにのみ有効な戦い方だった。
アオイはオーブでの戦闘以降この二機相手に戦う事を想定して訓練を積み、何度もデータを見て解析してきた。
だからこそ動きを読む事が出来るのである。
「調子に乗るな!!」
「今日は負けない!」
アオイはライフルからビームサーベルに持ち替えインパルスに斬り込み、シンもまた向かってくるイレイズに向けて光刃を振り下ろした。
◇
刃を振りかぶるシンとアオイが激しい空中戦を繰り広げている傍らでセリスにもストライクノワールが襲いかかる。
「シン!」
「行かせない」
インパルスの援護に行かせないようスウェンは対艦刀を構えてセイバーに斬りかかる。
斬撃をシールドで受け止めたセリスにスウェンは蹴りを叩きこんで吹き飛ばす。
「シンから引き離すつもり!?」
「お前を行かせる訳にはいかない」
何とかストライクノワールを引き離そうとするセイバー。
しかしそれをさせるほどスウェンは甘くない。
リニアガンとビームライフルショーティーを巧みに使いセイバーを牽制していく。
「この敵はやっぱり強い!」
セリスもモビルスーツ形態とモビルアーマー形態を使い分けストライクノワールを撹乱しながらビームサーベルをすれ違い様に振り抜く。
しかしそれを容易く捌いたスウェンは逆にセイバーを捉え対艦刀を叩きつけた。
「ぐっ」
どうにかシールドを掲げて防御に成功するセリス。
だがさらにインパルスから引き離されてしまった。
完全に相手のペースに乗せられてしまっている。
セリスは焦りを抑えながらストライクノワールを振り切る為に攻撃を仕掛けていった。
◇
地球軍のウィンダムは現在のところミネルバに近づく事無くモビルスーツ隊によって阻まれている。
それはありがたいのだが、疑問は何一つ解決していない。
要するにあれだけのモビルスーツがどこから来たのかという疑問である。
今も母艦などは全く確認できない。
それはニーラゴンゴの方でも同じようで、苛立ちからかこちらの言い分に全く耳を貸そうともしない。
思わず頭を抱えたくなるのを堪えながらタリアが再び情報の整理をしようとしたその時、悲鳴にも似た報告が耳に飛び込んできた。
「水中に機影を三つ確認! その内の一機はアビスです!!」
「なっ」
なんて迂闊。
カオスがいる以上奪われた他の機体もいて当然である。
そして奪われたアビスは水中用の機体。
この状況で使用してこない筈は無い。
「レイとルナマリアを水中戦用の準備をさせて出撃を!」
「は、はい!」
レイとルナマリアには酷な役目をしてもらう事になるが仕方がない。
アビス相手にグーンでは対抗しきれないだろう。
だがそれはザクでも同じ事。
しかし他に出せる機体は無い以上は無理にでもやってもらうしかなかった。
◇
アビスでニーラゴンゴに奇襲を仕掛けたアウルは向ってくる敵を見て落胆を隠せなかった。
その特徴的な造形は忘れる筈も無い。
ザフトの水中戦用モビルスーツグーンである。
「なんだよ、雑魚じゃんか。あれはお前らにやるよ」
アビスの後方から追随する二機のモビルスーツがアウルの声に合わせて動き出す。
GAT-707E『フォビドゥンヴォーテクス』
連合が開発した水中戦用モビルスーツ『フォビドゥンブルー』の直系の量産機である。
装甲はTP装甲。
胴体周辺にはチタニウム耐圧殻を採用し、潜行深度の向上及び潜水時間の延長が図られている。
二機のフォビドゥンヴォーテクスがグーンに向けて加速、魚雷で牽制するとトライデントで串刺しにして撃破した。
そこにアビスも加わり出撃してきたグーンを次々と屠り、さらにニーラゴンゴに向けて魚雷を発射する。
撃ち出された魚雷にニーラゴンゴは成す術無く直撃を受けた。
「あはは、ごめんね! 強くてさぁ!」
残ったグーンが距離を取って魚雷を発射しようと構えるが、アビスを捉える事が出来ない。
その隙をついて回り込んだフォビドゥンヴォーテクスのフォノンメーザー砲によって撃ち抜かれてしまった。
グーンは確かに前大戦時には海中での圧倒的な機動性をもって他を圧倒していた。
しかし今は連合も水中用の機体を投入していた。
もうグーンではアビスはおろかフォビドゥンヴォーテクスにもついていく事が出来ないのだ。
アウルは敵機の脆さを嘲りながら、次々と撃ち落としていく。
そんな彼の前に見覚えのある機体が近づいてきた。
赤と白のザクである。
どうやら頑張って援護に来たらしい。
「わざわざやられにくるなんてご苦労さん!」
速度を上げて迫るアビスにザクは構えたバスーカを構えて撃ち出しくる。
「当たる訳ないでしょ、そんなもの!」
バスーカの砲弾をアビスは旋回、あっさりと回避していく。
「くっ、速い! こっちは慣れない水中戦なのに!」
「ルナマリア、後ろだ!」
レイの声に咄嗟に反応するものの、ザクは水中では上手く動けない。
撃ち込まれた魚雷を避け切れずルナマリアのザクの右腕を吹き飛ばされてしまう。
「きゃあああ!」
倒れ込むルナマリア機のフォローに回りたくともレイ自身も手一杯だ。
「さっさとやられちゃえよ!!」
獰猛な捕食者のごとくアビスは二機のザクを仕留める為に一直線に突進した。
◇
海中の死闘を物語るように大きな爆発音の後、高い水柱がそそり立つ。
ネオのウィンダムから発射されたビームライフルを旋回してやり過ごしたアレンはビーム砲で反撃する。
「不味いな」
空中戦の方はこちらが有利になりつつある。
しかし海中は完全に劣勢である。
このままでは全滅しかねないと判断したアレンは即座に決断を下す。
「ハイネ、俺が降りる!」
「なに!?」
兵装ポッドを巧みに使いビームサーベルで斬り込んでくるカオスに応戦するハイネはアレンの提案にすぐ様思考を巡らせる。
確かにアレンの言う通り、海中は不味い状況にある。
誰かが援護に行くしかない。
だが援護に行くなら海中で行動可能な汎用性の高い機体でなければならない。
最有力の候補はインパルスだが、現在はイレイズとの交戦とても援護にいける余裕はないだろう。
となればアレンのエクリプスが一番妥当な選択だった。
しかし問題は隊長機の相手を誰がするかだ。
本来ならハイネがするのが筋だろうが、こっちもカオスの相手がある。
どうすべきか判断に迷っていると、隊長機に他の敵機を落としたジェイルが向かっていく。
「こいつは俺がやる!」
「なっ、ジェイル、無茶するな!」
色違いのウィンダムにジェイルがスレイヤーウィップを叩きつけるとネオはビームライフルを絡め取られる前に距離を取る。
「邪魔を」
「こいつを落とせば!」
ジェイルは迷わずビームソードを引き抜いてウィンダムに斬りかかっていく。
「ジェイル!? くっ……」
アレンは一瞬判断に迷う。
あの隊長機は明らかにジェイルよりも格上だからだ。
「行け! こっちは俺がフォローする!」
「……頼む、ハイネ! ミネルバ、ソードシルエットを!」
その場をハイネに任せエクリプスをミネルバに向かって反転させたアレンはメイリンに通信を入れる。
《えっ?》
「メイリン、急げ!」
《は、はい!》
「聞こえるか、レイ! 敵機のデータを送れ!」」
《了解!》
アレンはキーボードを取り出して機体に調整を加えると海中に向けてバスーカ砲を連続で撃ち込んだ。
海中に撃ち込まれたバスーカによってフォビドゥンヴォーテクスは動きを鈍らせ海上に浮かんでくる。
アレンはそれを見逃さず、見えた機影に容赦なくビーム砲を叩きこんだ。
放たれた閃光によって撃ち抜かれた機体が大きな爆発と共に水飛沫を撒き散らす。
さらにもう一機にも同じようにバズーカ砲を撃ち込んだ後にビーム砲で吹き飛ばした。
「これで海中にいるのはアビスだけ!」
その時ミネルバから射出されたソードシルエットが近づいてくる。
アレンは背中の装備をパージ。
ソードシルエットを装着すると機体の色が白から赤へと変化、エクスカリバーを構えて水中に飛び込んだ。
海中ではアビスによって追い詰められていたザクが見える。
スラスターを吹かせアビスの放った魚雷の射線上に割り込むとルナマリアのザクを庇うようにシールドで防御した。
「無事か! レイ、ルナマリア!」
「助かりました、アレン!」
「こちらは問題ありません。戦闘継続可能です」
レイのザクは損傷は見られないがルナマリアの機体は腕が吹き飛ばされている。
アビス相手に撃破されていなかった事は僥倖といえるだろう。
だがこの状況が面白くないのはアウルの方だった。
僚機のフォビドゥンヴォーテクスは撃破され、損傷したザクの止めを邪魔された。
さらにこいつは宇宙で散々やられたアイツだ。
アウルが怒りを抑えられないのも仕方がない。
「お前ぇ! 宇宙での借りを返してやる!!」
水中での機動性に物を言わせ一気に懐に飛び込んだアビスはビームランスをエクリプスに振り抜いた。
振り抜かれたランスにエクスカリバーを横薙ぎに振り抜き鍔ぜり合う。
しかしやはり海中ではアビスが有利。
エクリプスは蹴りを入れられ突き飛ばされてしまう。
「チッ、機動性は向こうが圧倒的に上か。ならば!」
動きを止めたエクリプスに突っ込んでいくアビス。
ここでアウルが冷静であったならば勝負の行方はまだ分からなかったのだ。
彼はいつの間にか失念していた。
敵機はエクリプスだけではなかった事に。
敵機目掛けて上段からランスを振り下ろした瞬間、アレンは叫んだ。
「レイ、ルナマリア!!」
待ち構えていたように左右からザクが飛び出すと至近距離からバズーカ砲を叩きこんだ。
「ぐううう、雑魚が邪魔を!」
「今だ!」
バズーカ砲の直撃を受けた衝撃で動きを鈍らせたアビスに今度はエクリプスが突進する。
「うおおおお!!」
体当たりでぶつかったままアビスを掴むとそのまま海上まで押し上げた。
「まさか、こいつの狙いは!?」
「海中での戦闘は不利すぎるからな!」
初めからアレンの狙いはこれだった。
元々水中で勝てるとは思っていない。
水中はアビスの土俵だからだ。
ならばこちらの土俵に引っ張り出せばいいだけの話である。
水しぶきを上げながら海上に飛び出す二機。
「海上に出たからって調子に乗るな!」
アビスは確かに水中で高い戦闘力を誇る。
しかし同時に陸上でも問題なく戦闘可能な機動性と火力を持っている機体なのだ。
水中から出た所で遅れはとらない。
アウルはエクリプスを引き離すとカリドゥス複相ビーム砲と三連装ビーム砲を構えて一斉に撃ち出した。
態勢を崩し、高機動スラスターをパージした奴に回避する術はない。
「これで倒した!」
確信するアウル。
だが次の瞬間―――アレンのSEEDが発動した。
アレンは撃ち込まれたビームを最低限の動きのみで回避。
シールドを投げ捨て加速するとアビスにエクスカリバーを上段から振り下ろした。
完全に予想外の動きに対応出来なかったアビスは右肩シールドを深く抉られ、さらにエクリプスはビームサーベルを横薙ぎに叩きつけた。
「ぐああああ!」」
「これで!」
ビームサーベルの一撃によりアビスは両足を切断されてしまった。
「くそぉぉ!!」
苦し紛れに背中のバラエーナ改二連装ビーム砲を撃ちこむが、それすらあっさり回避されてしまう。
《アウル、退け》
「でも、まだ!」
《命令だ。その機体ではどうにもならない》
「わかったよ!」
止めを刺そうと迫るエクリプスにアビスはビームランスを投げつけると海中に飛び込む。
ビームランスをエクスカリバーで弾き飛ばしたアレンは後退するアビスを見届けた。
というのもそろそろバッテリーが限界だったからだ。
「どうにか海中の敵は排除できたな。一度戻ろう」
アレンはデュートリオンビームによる補給を受ける為に一旦ミネルバに引き返した。
◇
イレイズと激しい攻防を繰り広げていたシンはいつの間にか陸地の方へと流されている事に気がついた。
良く見れば完全に味方から引き離され、一番近くにいた筈のセイバーは離れた位置でストライクノワールと斬り結んでいる。
すでに近くにいるのは隊長機と思われるウィンダムと戦闘しているジェイルのグフだけ。
見る限りかなり苦戦しているらしい。
ハイネも援護してはいるがカオスを相手にしている事とあの隊長機に技量の高さに翻弄されている。
とはいえ戦闘開始当初に比べれば他のウィンダムの姿はほとんどない。
もはやこちらの勝利は動かないだろう。
「なら後はこいつらを落とせば終わりだ! いい加減に落ちろ!!」
イレイズにビームサーベルを袈裟斬りに叩きつける。
「くっ」
「そこ!」
シールドを掲げて防ぐイレイズにシンは胴目掛けて蹴りつけた。
咄嗟に後退しようとしたアオイだったが間に合わず態勢を崩されてしまう。
「これで終わりだぁ!」
止めとばかりにビームサーベルを構えてイレイズに突っ込んでいく。
だが、そこで予想外の横やりが入る。
横から飛び出してきた黒い影がインパルスに体当たりを仕掛けてきたのだ。
「何っ!? ぐあああ!!」
インパルスは吹き飛ばされ、海面に落ちてしまう。
シンは頭を振って視線を上げるとそこにいたのは黒い機体ガイアだった。
「ステラ!?」
態勢を立て直したアオイはその黒い機体を見て驚いた。
ガイアは基地防衛に置かれていた筈なのにどうしてここにいるのか?
「アオイ、下がって!」
ガイアはビームサーベルを引き抜きインパルスに向かって斬りかかる。
「こんな所にガイアまで! クソォォ!!」
シンは上段からサーベルを振り下ろすとガイアは後退する。
ビームの熱が海面を掠めると水蒸気を発生させ、二機の視界を塞ぐ。
「ステラに手は出させないぞ!」
斬り合う二機の戦いに割って入ったイレイズのビームサーベルがインパルスの装甲を掠めていく。
「チッ!」
インパルスはシールドでサーベルを弾き、ガイアとイレイズの剣舞から逃れるように空中に飛び上がった。
流石にあの二機を同時に相手にするのはきついと判断したからだ。
しかし次の瞬間、別方向からのビームに機体の態勢を崩されてしまう。
「なにが!?」
シンの視線の先にはジェイルのグフを相手にしながらビームライフルを構えているウィンダムが見える。
おそらく奴がグフと戦いながらこちらを狙撃してきたのだ。
「何だよアイツ!? ジェイルを相手にしながら、味方を援護してきたって言うのかよ!!」
ジェイルの技量は決して低くない。
癪に障るが、あいつの実力はそこらのパイロットよりも上である。
にも関わらずあのウィンダムはそれの相手をしながらこちらにも攻撃してくるとは並みも腕ではない。
シンが一瞬だけウィンダムに注意を向けた瞬間、下から飛び上がってきたイレイズのビームサーベルがインパルスのビームライフルを斬り裂いた。
「チッ、こいつ―――なっ!?」
そこにウィンダムに蹴りを入れられたグフが吹き飛ばされてくる。
避け切れない!?
「ぐあああ!」
「ぐううう!」
インパルスとグフはそのまま激突して落下していく。
「少尉、ステラ、撤退だ」
「大佐、でも基地の方は!」
「すでに基地には退避命令は出してある。これ以上の戦闘は無理だ。退くぞ」
確かにウィンダムはすべて撃破され、アビスは中破の損傷を受けている。
イレイズのバッテリー残量も残りわずかであり、これ以上の戦闘続行は物理的にも不可能だった。
「ステラ、行こう」
「うん」
アオイは一度だけ基地の方を見るとガイアを連れて後退した。
◇
吹き飛ばされたインパルスとグフは体勢を立て直す事もできないまま陸地に叩き落とされてしまった。
「くっ、何やってんだよ!」
「お前こそ、あんなナチュラルに良いようにやられて恥ずかしくないのか!」
「ハァ!? お前だってあの隊長機にやられてたじゃないか!」
戦場でありながら言い争いを初めてしまう二人。
そこにいきなり衝撃が襲いかかる。
「なんだ!?」
「あれって」
二人に視界に入ったのは地面からそびえ立つ砲台と格納庫や司令部らしき建物。
そこにあったのは地球軍の基地だった。
所々作りかけの建造物があるところを見ると、どうやらまだ建設途中らしい。
「こんなカーペンタリアの近くに!」
完全な盲点だった。ここは中立同盟である赤道連合の目と鼻の先だ。
そんな場所に基地を建設していたとは予想外だった。
「おい、ここで潰すぞ!」
「えっ、いや、ちょっと待て」
ジェイルは躊躇う事なく四連装ビームガンを放って次々と建造物を破壊していく。
「おい――ッ!?」
戸惑うシンはそこで見た。
金網と鉄条網に仕切られた基地施設の一画に明らかに通常の軍人とは違う者達がいる。
「あれはまさか!?」
そこでシンは気がついた。
地球軍はこの基地建設の為に現地の者たちを使っていたのだ。
グフの攻撃に怯えたのか現地の人間達は四方に散って逃げ始めた。
そんな彼らに銃を突きつける兵士達。
それを見た瞬間シンの頭は沸騰したように熱くなる。
「やめろぉぉ!!」
シンは叫びながら頭部のCIWSを発射して施設を破壊していく。
完全に頭に血が上っていたシンは気がつかない。
現地の者たちを撃とうとした兵士を制止した者がいた事に。
◇
二機のモビルスーツはその力を容赦なく振るい蹂躙していく。
逃げる者にも容赦は無い。
地上はまさに地獄と化していた。
「た、助けて!」
「うぁあああ!」
倒れ込み動けなくなった兵士の青年の視界に映るザフトの機体。
このまま死ぬのか。
そう思った瞬間、誰かが手を引き起こしてくれた。
「立て! 死にたいのか!」
「ミナト中尉殿!?」
助けてくれたのは最近配属されてきた変わり者マサキ・ミナト中尉だった。
来たばかりだというのに現地の人間にも対等に接することで彼らからの信頼も厚かった。
先程も銃を構えた兵士を制止して退避させたのもこの男だった。
「早く!」
「は、はい」
マサキと共に走り出す。
だが次の瞬間、背後で起こった爆発に吹き飛ばされてしまう。
「うあああ!」
爆風に吹き飛ばされ倒れ込む。
全身を打ち付けられ一瞬意識が飛び掛けるが何とか顔を上げる。
だが近くにいた筈のマサキの姿が見えない。
「……中尉殿?」
視線を彷徨わす彼が見たのは物言わぬ死体となり果てたマサキの姿だった。
思わず口を抑え視線を上げると暴れまわるモビルスーツの姿が見える。
青と白を基調とした悪魔の姿が――――
「あ、悪、魔どもめ!」
結局その破壊は基地が完全に沈黙するまで続けられた。
◇
戦闘は終了した。
地球軍のウィンダムはほぼ全機撃墜に成功し、建設中の基地も破壊された。
一見ザフトの勝利に見える。
だが襲撃を受けたミネルバは損傷こそ軽微だったが、ニーラゴンゴはアビスの攻撃で大きな損傷を受け、カーペンタリアに引き返す事になってしまった。
そして全機が無事帰還してきたミネルバの格納庫に二発の乾いた音が響く。
アレンがシンを、そしてハイネがジェイルを平手打ちした音だった。
「なんで殴られなきゃいけないんですか!?」
「そうだ! 俺達は敵の基地を破壊しただけだ! それだけじゃない! あそこにいたナチュラルも助かったんじゃないか!」
続けてジェイルの頬をアレンの平手打ちがお見舞いされた。
シンとジェイルはアレンを睨みつける。
自分達は間違ってないとばかりに。
だがアレンも退く気はなかった。
「シン、ジェイル、お前達のやった事はただの暴力。虐殺だ」
「なっ」
そんなアレンの言葉に続くようにハイネも鋭い視線で口を開いた。
「お前らはもっと自分達が大きな力を持っているって事をちゃんと自覚しとけ。でなきゃ力に飲まれた挙句、痛いしっぺ返しを食らう事になるぜ」
アレンとハイネはそのまま去っていく。
二人はそんな彼らの背中を睨む事しかできなかった。