機動戦士ガンダムSEED effect   作:kia

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第16話  動く世界

 

 

 

 地球連合とプラントの開戦。

 

 ヤキン・ドゥーエ戦役の再来とも言えるこの事態に世界は大きな戦いの渦に巻き込まれた。

 

 そして時同じくしてもう一つ、戦火を拡大させるであろう出来事が起きる。

 

 きっかけは中立同盟とテタルトス月面連邦の緊急会談だった。

 

 それに対して連合、プラントは反発を表明。

 

 これは元々テタルトスを敵視している両国からすれば当然の反応であり、別段驚く事でもない。

 

 それだけならば何時ものように誰もが気にせず流していただろう。

 

 しかし今回は違う。

 

 突然連合がユニウスセブン落下を企てたテロリストの一人が搭乗しているシグルドをオーブが匿っていたという情報を公開したのである。

 

 もちろん事実無根の言いがかりだと先の戦闘映像を公開しそんな事実は無いと同盟側は発表したのだが、連合が聞き入れる事はなかった。

 

 ある意味で予想通りであった訳だが、ここでプラント側もこの発表に関しては積極的に追及してきたのである。

 

 まるで同盟が仕組んでいたのではないかと疑うように。

 

 もちろん彼らの立場も理解してはいる。

 

 だが連合側と同様に頭ごなしに決めつけてくるとは思ってもいなかった。

 

 元々前大戦からの因縁やオーブの襲撃。

 

 そしてテタルトスの件などで不信感が高まっていた事も要因の一つだったのだろう。

 

 お互いの主張に反発。

 

 ついにはプラントとの間にも大きな蟠りを残し、開催された会談も物別れに終わった。

 

 結果、ついにプラントと中立同盟も事実上の開戦となったのである。

 

 

 

 戦火は治まる気配もなく、様々なものを巻き込みながら激化していく事になる。

 

 

 

 

 オーブでの戦いからカーペンタリアに辿りついたミネルバはドックで戦闘で負った損傷の修復を行っていた。

 

 ついこの前修復を終えたばかりだというのに、またかと思わなくも無い。

 

 それだけの戦闘を潜り抜けてきたという証明だろう。

 

 以前と同じくクルー達は修復作業中に何もするべき事も無い為、現在休暇が出されていた。

 

 ルナマリアやメイリンなどは買い物に行くなどある程度自由に過ごす中、シンはセリスと二人で久しぶりに外出していた。

 

 「うふふふ」

 

 目新しいことは無いにしろ二人で出掛けられた事がよほど嬉しかったのかセリスは先ほどから上機嫌である。

 

 笑顔で鼻歌を歌うその姿を見るだけでシンも自然と笑みがこぼれるというものだ。

 

 「久しぶりだよね、二人で出かけるの」

 

 「ああ。アーモリーワンから色々ありすぎたよ」

 

 本当に色々と思い出してしまう。

 

 アーモリーワンのミネルバ進水式前に二人で歩いていた時はこんな事になるなんて想像もしていなかった。

 

 死んだと思っていたマユとの再会。

 

 戦場での共闘。

 

 二度と戻る事はないと思っていたオーブへの帰還。

 

 そして最後の別れ。

 

 このまま俺達は―――

 

 思わず暗くなったシンの顔を見たセリスが思いっきり腕に抱きついてきた。

 

 「えい!」

 

 「セ、セリス!?」

 

 「どうしたの、そんなに慌てて? 腕なんていつも組んでるじゃない」

 

 セリスはニヤニヤしながらこちらを見つめてくる。

 

 すべて見透かされている気がするが、何も言わないともっと面倒な事になる気がする。

 

 「そ、そうだけど、くっつきすぎというか」

 

 その色々と不味いというか、柔らかい感触が困るというか。

 

 それに前も平気だった訳ではなく―――

 

 「シンのエッチ」

 

 「違―――」

 

 「あはは、冗談、冗談」

 

 「勘弁してくれよ」

 

 こちらをからかうように笑うセリス。

 

 オーブの件があって考え込みがちなシンを彼女なりに励まそうとしてくれたのだろう。

 

 気持ちはものすごく嬉しいのだが、やり方は考えて貰いたいものである。

 

 シンはこれ以上変な気分になる前に話題を変えようとすると兵士達の噂話が耳に飛び込んでくる。

 

 その内容は考えまいとしていたオーブ、中立同盟に関する事だった。

 

 同盟との事実上の開戦。

 

 聞こえてくるのは同盟に対する疑念と失望の声。

 

 中には同盟がテロリストを匿い、しかも例のユニウスセブン落下を仕組んだのではないかと言う者達すらいる。

 

 「……そんな訳ないのに」

 

 「ああ」

 

 無責任な噂話にシンもセリスも不機嫌そうに顔を顰めた。

 

 ミネルバに乗船していた彼らは例のシグルドと同盟軍が戦闘しているのを確認している。

 

 先のユニウスセブン破砕作業においても矢面に立ち戦っていた。

 

 そんな同盟がブレイク・ザ・ワールド発生までのすべてを仕組み、あのシグルドを匿うとはどうしても思えなかった。

 

 「……でも」

 

 「え?」

 

 「これで俺達、敵同士……なんだよな」

 

 「シン」

 

 事実上の開戦という事でマユと戦う可能性が現実味を帯びてきた。

 

 あの日の別れの言葉が現実となるなど考えたくもない。

 

 「あ~もう!」

 

 シンは憂鬱な気分を吹き飛ばそうとガシガシ頭を掻くとあえて明るくセリスに話しかけようと横を向いた。

 

 しかしセリスはこちらではなく、驚きながらも別の場所を見つめていた。

 

 「セリス?」

 

 「シン、あれ」

 

 セリスの指差した先には空から降りて来た輸送機が到着し、中から見たことのある機体が降りて来た。

 

 「あれって!?」

 

 忘れる筈もない。

 

 降りて来たのは特務隊『フェイス』アレン・セイファートが搭乗していた機体である『エクリプス』だったのだ。

 

 「なんであの機体が?」

 

 「わからないけど」

 

 さらにその後ろから見たことが無い機体が二機、一緒に降りてくる。

 

 ザクに似た造形ではあるが、少なくともシン達は見たことがない。

 

 「新型機?」

 

 驚きながらも三機に視線を向けていると、そろってミネルバの方へと移動していく。

 

 「ミネルバに行くのか?」

 

 「シン、一旦戻りましょう」

 

 「ああ!」

 

 二人でミネルバの格納庫に飛び込むとヴィーノやヨウラン、ルナマリアなど多くの人間がすでに集まっていた。

 

 そんなシン達に気がついたのかルナマリアが近づいてきた。

 

 「二人共、もう戻ってきたの?」

 

 「ルナ、あの機体って」

 

 「エクリプスよね。向こうの機体は新型らしいけど」

 

 シン達が近づいたと同時にパイロットが機体から降りてくる。

 

 赤い軍服のまま降りてきた三人の内、一人は皆が知る人物であるアレン・セイファートだった。

 

 相変わらずサングラスで顔が見えない為、どのような表情をしているのかも分からない。

 

 もう一人はオレンジ色の髪をした人物はアレンとは対照的に笑顔を浮かべ、最後の一人は不機嫌そうに眉をひそめている。

 

 何というか見るからに不満そうという表情を隠していない。

 

 「……なんだアイツ」

 

 その態度に気分を害しながら、シンは格納庫に先に降り立ったアレン達の方に意識を向けた。

 

 二人は揃って近づいてくるとオレンジ色の髪をした青年が明るい笑みを浮かべて手を上げた。

 

 「よう。アレンの事は知ってるんだよな。今回一緒にミネルバに配属された『フェイス』のハイネ・ヴェステンフルスだ。よろしくな」

 

 ハイネの襟にはアレンと同じ徽章が光っていた。

 

 それを聞いたルナマリアがこの場にいる全員を代表して問いを返す。

 

 「えっと、フェイスのお二人が今後ミネルバにですか?」

 

 「そうだ。議長からの命令でな」

 

 「まあ、思うところはあるだろうが、仲良くやろうぜ」

 

 「あ、はい」

 

 気さくな雰囲気のハイネに周りの空気も弛緩したらしい。

 

 「名前は知っていると思うが、一応挨拶しておく。特務隊のアレン・セイファートだ。ハイネ同様よろしく頼む」

 

 「堅いぜ、アレン。こういう時は明るくな」

 

 気さくに肩を叩いてくるハイネにアレンも微笑んだ。

 

 誰にでもこうして気さくに接する事ができるのかハイネの明るい雰囲気にアレンも笑みを浮かべている。

 

 それを見たルナマリア達も面食らったように茫然としてしまった。

 

 「……笑っているとこ初めて見たかも」

 

 「うん……って私たち殆ど話をした事ないでしょ」

 

 以前はほとんど関わる事もなかったので、厳格なイメージがついていたのかも知れない。

 

 「んで、後は」

 

 ハイネが後ろにいる同い年くらいの赤服の少年に目を向けると全員がそちらに注目する。

 

 彼も『フェイス』なのかと思いきや、襟には何もついておらず、どうやら補充人員という事らしい。

 

 「お前も挨拶くらいしたらどうだ?」

 

 ハイネに促されるといかにも不服そうに前に出てくる。

 

 その態度にシンは若干苛立ちを覚えた。

 

 「……何だよ、あの態度は!」

 

 「シン」

 

 「分かってるって」

 

 いきなり喧嘩腰になりそうなシンをせりスが押し留めると、赤服の少年もため息をつきながら自己紹介を始めた。

 

 「ジェイル・オールディスだ。よろしく」

 

 明らかによろしくという感じではなく、けんか腰ともとれる態度である。

 

 そんな彼の態度にミネルバのメンバーも明らかに不機嫌そうに顔を顰めている。

 

 「たく、着任早々揉め事を起こすなよな」

 

 「全くだ」

 

 アレンとハイネは内心ため息をついた。

 

 ジェイルとは大気圏突入前に合流したのだが、その時もこのような態度を崩さなかった。

 

 ミネルバに配属されて大丈夫なのかとかなり不安だったのだが、その不安が的中してしまったらしい。

 

 睨み合う彼らの雰囲気を変える為にアレンはハイネに声を掛けた。

 

 「ハイネ、まずグラディス艦長の所にいくぞ」

 

 「そうだな。後で改めて挨拶するからパイロット全員格納庫に集めといてくれ。ジェイル、お前もこれから一緒に戦うんだから整備班とかにも挨拶くらいしておけよ」

 

 「……分かりました」

 

 「あ、私が艦長室まで案内しますよ」

 

 「頼む」

 

 ルナマリアの案内でアレンとハイネは格納庫から出ていくと二人の背中を見つめながらセリスが呟いた。

 

 「フェイスの二人に補充人員って事はまたきつい戦いになりそう」

 

 「そうだな」

 

 その相手が何であれやる事は変わらない。

 

 自分がセリスを―――ミネルバを守るのだ。

 

 シンは歩み去る二人の後ろ姿を見つめながら、改めてそう決意する。

 

 そんなシンの前にジェイルが近づいてきた。

 

 その眼は仲良くしようなんて気はまったく感じられず、自然とシンの視線も鋭くなる。

 

 「何だよ」

 

 明らかなけんか腰のジェイルにシンも険のある言い方になってしまう。

 

 しかしジェイルは怯む事無く、睨みつけるとシンに向かって吐き捨てた。

 

 「俺はお前には負けない。絶対にな!」

 

 その言うとこちらの言葉は聞かないとばかりにジェイルは自身の機体へと歩いていった。

 

 「何なんだよ、あれ」

 

 「シン、彼のあの態度は良くないと思うけど揉め事は駄目だよ。これから一緒に戦うんだし」

 

 「分かってるって」

 

 シンは若干不貞腐れながらも嫌な気分を振り払うように、セリスに別の話題を振ることにした。

 

 

 

 艦長室で二人を出迎えたタリアは思わずため息をついてしまった。

 

 渡された命令書もそうだが、一番の理由は手元に置いてあるケース。

 

 そこには目の前にいる二人と同様にフェイスの徽章が入っている。

 

 「ハァ、あなた達をミネルバ所属にした上に私までフェイスとはね。議長は何を考えているのかしら」

 

 フェイスが三人。

 

 これだけで十分にやりにくい。

 

 下手をすれば命令系統の混乱を招きかねないからだ。

 

 もちろん戦力増強はありがたい話なのだが、素直に喜ぶ事ができない。

 

 渡された命令書に記載されている事を見る限り、今後かなり厳しい戦いになる事は間違いない。

 

 それだけに彼らの存在は非常に助かるのだが―――

 

 「お気持はお察しします、グラディス艦長。議長のお考えは分かりませんが、私は艦長の命令に従いますので。ハイネもそれで構わないか?」

 

 「ああ、わざわざ混乱させる事もないからな」

 

 「助かるわね。ではモビルスーツ隊の方は貴方達に任せます」

 

 「「了解」」

 

 これから益々厳しい戦いになる。

 

 それを潜り抜ける為にも彼らの存在はミネルバにとって得難い味方になる筈だとタリアは好意的に捉える事にした。

 

 

 

 

 艦長であるタリアとの話が終わったアレンとハイネはミネルバ艦内を見て回りながら格納庫に向かっていた。

 

 ミネルバはナスカ級やローラシア級とは全く違う造りになっている為、案内なしでは区画の把握も難しい。

 

 いざという時に迷ってましたでは済まないという事で二人で散策がてら艦内を回っているという訳だ。

 

 「しかしナスカ級とは全然違うな」

 

 「最新鋭の戦艦だからな。従来の艦とは色々と違う面も多い筈だ」

 

 「アレンは初めてじゃないんだろ?」

 

 「俺も初めてみたいなものさ。前はゆっくり見て回る暇もなかったからな」。

 

 「じゃあモビルスーツ隊の連中とも初めてなのか?」

 

 「ああ、碌に話をした事も無い。面識があるのはレイくらいだ」

 

 「ブレイズザクファントムの奴だったか? じゃあ、格納庫での顔合わせは丁度いいな。けどジェイルに関しては予想通りか」

 

 あの様子では他の連中と仲良くという気は無いのは明らかだった。

 

 この先、仲間との連携や戦闘にも影響が出るかもしれない。

 

 「まあ、あいつの場合はな」

 

 「何か知ってるのか?」

 

 「一度データで閲覧した事がある」

 

 ジェイル・オールディスの両親は共にザフトに所属しており、彼はそんな両親を誰よりも尊敬していた。

 

 しかしヤキン・ドゥーエ戦役終盤、両親はボアズの核攻撃に巻き込まれ戦死。

 

 彼は家族の仇を討つ為、そしてプラントを守る為にザフトに志願。

 

 優秀な成績を残してアカデミーを卒業し赤服を与えられた。

 

 その後、彼もセカンドステージシリーズのパイロット候補に選出されるが、結局選ばれる事は無かった。

 

 彼はそれが悔しかったのだろう。

 

 今まで他の隊に配属されていたらしいが上官とぶつかってばかりで揉め事を常に起こしていたらしい。

 

 「つまりあいつはセカンドステージシリーズを使ってる連中に嫉妬してるってことか?」

 

 「嫉妬しているというよりかは、対抗心じゃないか? 負けてたまるかってところだろう。その所為かは知らないが他の部隊でも問題を起こしていたらしいからな」

 

 「やれやれだ」

 

 そんな彼に何故最新機であるグフが与えられたのか甚だ疑問である。

 

 「じゃそろそろ戻ろうぜ。向こうも待ってるだろうしな」

 

 「ああ」

 

 艦を見ながら二人が格納庫に向かっているのは自己紹介ともう一つやるべき事があるからだ。

 

 格納庫に入るとパイロット達が待っていた。

 

 全員が二人に敬礼する。

 

 それに合わせて敬礼を返すとハイネがニヤリと笑いながら全員を見渡した。

 

 「良し、全員いるな。改めて自己紹介した後でシミュレーターで摸擬戦やるぞ」

 

 「摸擬戦ですか?」

 

 「全員の技量を把握させてもらう。相手は俺とハイネだ」

 

 「特務隊の二人を相手に……」

 

 普通なら怯むところなのだろうが、シン達にそれはない。

 

 ここまでの実戦で彼らもずいぶん鍛えられた。

 

 その成果を試すには絶好の機会。

 

 意気込むシンはいつの間にか横にいたジェイルの視線に気がついた。

 

 鋭い視線で睨みつけてるジェイルに、シンも負けじと睨み返した。

 

 『いきなり突っかかってきた気に入らない奴』

 

 それがジェイルに対するシンの偽らざる本音だ。

 

 セリスには揉め事は駄目だと言われたが、向こうから突っかかってくるのだから仕方ない。

 

 こいつには負けない!

 

 お互いにそう考え、自己紹介を済ませると摸擬戦が開始された。

 

 

 

 シン達は意気揚々と特務隊に挑んでいったのだが―――

 

 結果は言わずもがな。

 

 結局全員があっさり撃破されてしまう事になる。

 

 

 

 整備班の面々も注目していた模擬戦が終わり、全員が暗い表情で整列するとシミュレーターから降りてきたハイネとアレンが総評を口にする。

 

 「ま、こんなもんか」

 

 「ああ。各々の特性は把握できた。まずはシンとジェイル。お前達は単機で突出しすぎだ。だから各個撃破されてしまった。もう少し周りを見ろ」

 

 「ぐっ」

 

 「チッ」

 

 シンに返す言葉も無い。

 

 まったくもってその通りだったからだ。

 

 一緒に注意されたジェイルも舌打ちしながら固く拳を握り、俯いたままである。

 

 「レイ、逆にお前は慎重すぎる。状況を見極めて時にもっと大胆に動け。ルナマリア、無駄弾を撃ち過ぎだ。相手をよく見ろ」

 

 「はい」

 

 「すいません」

 

 次々とアレンが問題点を指摘していくが、最後のセリスの所で止まった。

 

 アレンは何も言わずジッとセリスを見つめている。

 

 「あの」

 

 あまりにアレンが黙ったままだったのでそこにハイネが声をかけた。

 

 「おい、アレン。見惚れるのもいいがちゃんと批評を伝えろよ」

 

 ややからかい気味に言ったハイネの言葉にルナマリアやセリスが騒ぎ出した。

 

 「アレン隊長、セリスはすでにシンと付き合ってますから無理ですよ!」

 

 「ちょっと、ルナ!」

 

 セリスとルナマリアが騒ぎ出した為、割って入ろうと思っていたシンは出鼻を挫かれてしまった。

 

 でもアレンは何故セリスを見つめていたのだろう?

 

 そんなシンの疑問もすぐに答えが出た。

 

 アレンがため息を付きながら呆れた様子で答えたのだ。

 

 「何を勘違いしているんだ。俺はただ何と伝えるか迷っていただけだ。シンと恋人なら別に構わないか……」

 

 「どういう事です?」

 

 「セリス、お前はシンの行動にいちいち気を取られ過ぎだ。その所為で集中力を欠いている。個人的な感情からだろうと思っていたのでどう切り出そうかと迷っていたんだ」

 

 「す、すいません」

 

 セリスの技量は高い。

 

 それは間違いないのだが、彼女は周りを気にしすぎる。

 

 特にシンの動きを気にしすぎて、集中力が散漫になりやすい。

 

 戦場ではそれ致命的な隙になる。

 

 アレンのいつも通りの声に騒いでいたセリス達も静かになると批評が終わり、ハイネが締める為に前に出た。

 

 「ともかく全員今回指摘された問題点を意識しておけよ!」

 

 「「「「了解」」」」

 

 「良し、堅苦しいのはここまでだ。そういえばお前らさっきアレンの事を隊長と呼んでたが、呼ぶ時は名前でいいからな」

 

 「え、しかし」

 

 「ザフトのパイロットはみんなそうだろうが。戦場に出たらみんな同じだしな」

 

 普通は戸惑うだろう。

 

 確かにザフトには階級は存在しない。

 

 しかしどの部隊だろうと隊を率いる者は隊長や艦長と呼ばれるのが当たり前になっているのだから。

 

 「なあ、アレンもそれでいいだろう?」

 

 アレンは僅かに考え込むとすぐに頷いた。

 

 元々階級や役職で呼ばれる事には慣れていないし、拘ってもいない。

 

 それで彼らの固さが和らぐならばその方がいいだろう。

 

 「そうだな。俺の方もそれで問題はない」

 

 「って事だ。いいな?」

 

 「はぁ、わかりました」

 

 皆いきなりの事で困惑気味である。

 

 確かに自分達よりも上の立場にいる人間に名前で呼べと言われたなら困惑するのも当然だ。

 

 しかしこれがハイネのやり方なのだろう。

 

 少なくともアレンには真似できない事だ。

 

 そんな彼を好ましく思っていると、再びハイネが考え込むように手を顎に添えてこちらを見てきた。

 

 「なんだ?」

 

 「アレン、お前そのサングラス外してこいつらに素顔を見せてやれよ」

 

 「は?」

 

 「いつもそのサングラス掛けてるだろ。素顔知らないからこいつらも警戒してんだよ。だから一回顔見せてやれ」

 

 そういうものだろうか?

 

 アレンにとって顔を晒す事はややリスクがある。

 

 だが顔を知っている者はあまりいないから問題はないだろう。

 

 それに今の雰囲気で外さないというのも、変な疑いを掛けられる可能性もある。

 

 アレンはサングラスを外し素顔を見せると、ルナマリア達や周りで見ていた整備班から声が上がる。

 

 「へぇ~」

 

 「結構カッコいいかも」

 

 「どっちかと言うと可愛いじゃない?」

 

 シン達はアレンの顔を興味深そうに見つめている。

 

 ルナマリアとセリスの声は敢えて無視するとアレンは再びサングラスをかけ直した。

 

 「そのままでいいじゃないか」

 

 「俺は目立つのは嫌いなんだよ」

 

 「そのサングラスを掛けたままの方が目立つと思うけどな」

 

 ハイネの軽口に皆一斉に笑いだした。

 

 言いたい事はあるが、これで隊の雰囲気が良くなるなら安いものだ。

 

 皆が穏やかな雰囲気で笑う中、ジェイルは何も言わず静かに格納庫を後にしていた。

 

 「くそ!!」

 

 拳を壁に叩きつける。

 

 負けた。

 

 全く歯が立たなかった。

 

 ジェイルとて特務隊相手に簡単に勝てるとは思っていた訳ではない。

 

 それでもある程度拮抗出来ると思っていた。

 

 しかし今回の模擬戦で二人の実力は明らかにこちらよりも格上である事が判明した。

 

 特にアレン・セイファートの実力は完全に別次元のものだった。

 

 「ここまでの差があるなんて」

 

 それだけではない。

 

 決して負けないと思っていたシン・アスカも自分よりも上の技量を持っていた。

 

 今のままでは駄目だ。

 

 せっかく議長が認めてくれて最新機を与えてくれたというのに!

 

 自分はもっと強くなる。

 

 そして両親の仇を討たなくてはならないのだ

 

 改めて決意したジェイルは胸の内で黒い炎を燃やしながらもう一度シミュレーターに乗り込むため格納庫に引き返した。

 

 

 

 

 オーブの戦闘から移動を繰り返しアオイはようやく所属すべき部隊へと合流を果たしていた。

 

 第81独立機動軍ファントムペイン

 

 そこがアオイが所属する事になった部隊。

 

 だが些か問題がある。

 

 ファントムペインの言えば地球軍内部でも悪い意味で有名な部隊だった。

 

 目的の為には手段を選ばないと。

 

 その所為で宇宙に上がった時もスウェン以外誰もアオイに近づいてこなかった。

 

 よりによってこんな部隊に配属になるなんて、運がないというか。

 

 しかし何故自分がこの部隊に配属されたのだろう?

 

 アオイは別にブルーコスモスという訳ではない。

 

 そんな言動も態度も見せたことは無かったはずだ。

 

 だがそんなアオイの思考も目の前に立った指揮官を見た瞬間に吹き飛んだ。

 

 何せ目の前に立った上官は変な仮面をつけているのだから。

 

 「アオイ・ミナト少尉、私が君の上官となるネオ・ロアノーク大佐だ。よろしく頼む」

 

 「ハッ、アオイ・ミナト少尉です! よろしくお願いします!」

 

 アオイは自身の動揺を必死に隠しながら敬礼する。

 

 なんであんな仮面をつけているんだ? 

 

 何故仮面をつけているのかは知らないが周りが何も言わない以上気にしても仕方ない事なのだろう。

 

 まあそれについてはいい。

 

 良くはないけど、気にしても仕方がない。

 

 アオイの視線はネオの後ろにいる三人に向いていた。

 

 自分と同い年くらいの少年と少女だ。

 

 二人はニヤリと笑いながらこちらを見て、もう一人の少女は興味なさそうに外を見ている。

 

 彼らが話に聞いたエクステンデットという奴だろう。

 

 戦うためだけの作りだされた人間。

 

 考えるだけで反吐が出そうになる。

 

 とはいえ彼らが悪い訳ではない。

 

 彼らが自分から望んでそうなった訳ではないのだから。

 

 それに何より、自分はこんなメンバーに囲まれてやっていけるのだろうか?

 

 そんな不安がアオイの胸中に渦巻いていた。

 

 自己紹介を終えたアオイは母艦であるJ.P.ジョーンズの甲板に出て海を眺めていた。

 

 「綺麗だな。ハァ、今まで移動続きだったし、なんというか癒されるよ」

 

 宇宙から見た地球も綺麗だったが、ここから見る海もいい景色だ。

 

 ここまで気を張り詰めていたため余計に気が抜ける。

 

 「……海好きなの?」

 

 「えっ」

 

 余計な事を考えずただ景色だけを眺めていた為、横に誰か来た事に気がつかなかった。

 

 アオイの隣にはいつの間にかネオの後ろにいた金髪の少女が座っていた。

 

 名前は確かステラ・ルーシェだった筈。

 

 「海、好き?」

 

 「あ、ああ、そうだね。好きかな。綺麗だもんね」

 

 「うん。私も好き」

 

 笑顔の彼女を見ているとモビルスーツに乗って戦うようには見えない。

 

 施設にいる子供達を思い出させる無邪気な笑顔である。

 

 だがこんな彼女がエクステンデットと呼ばれ、兵器として扱われているのだ。

 

 アオイは嫌な考えを振り払いステラに話掛けようとした時、今度は後ろから声が掛けられた。

 

 「こんな所にいたのかよ、ステラ。新入りと一緒に海を見てたのか?」

 

 「うん」

 

 話掛けてきたのはスティング・オークレーだった。

 

 その後ろにはアウル・二ーダも一緒にいる。

 

 「新入り、お前も来い。お呼びがかかったぜ」

 

 「えっ、という事は戦闘?」

 

 「そうだよ。ていうかそれが僕達の仕事じゃんか」

 

 アウルは楽しそうに笑みを浮かべている。

 

 スティングやステラも同様だ。

 

 「新入りの実力も見せて貰うぜ」

 

 「ま、負けないけどね。今度は何機落とせるかなぁ」

 

 「うん!」

 

 無邪気に笑いながら歩いて行く三人。

 

 そんな会話を聞きながらアオイは凍りついていた。

 

 なんでそんなゲームでもするみたいに楽しそうなのだろう?

 

 これからするのはゲームではなく戦争であり、敵であれ味方であれ人が死ぬ事になる。

 

 アオイは戦うと決めた以上躊躇う気は無い。

 

 しかしだからと言って戦闘が楽しいと思った事など一度もない。

 

 それを彼らは―――

 

 アオイは彼らがあまりに悲しい存在に思えて仕方なかった。

 

 しかし彼らにそれを伝えてもきっと理解などできないだろう。

 

 それが余計に悲しく、彼らをこんな風にした者達に対する怒りは膨れ上がる一方だった。

 

 

 

 

 L3での戦闘を終えた特務隊は地球に降りる予定のアレン、ハイネと別れプラントまで帰還していた。

 

 機体に損傷を受けたとはいえ怪我もなく無事に帰還を果たしたリースは端末である事を調べていた。

 

 内容はアスト・サガミについて。

 

 『アスト・サガミ』

 

 前大戦中にGAT-X104『イレイズガンダム』に搭乗。

 

 GAT-X105『ストライクガンダム』に搭乗し『白い戦神』と呼ばれたキラ・ヤマトと共に数多のザフトのエース達を撃破したパイロット。

 

 その強さにザフトは『消滅の魔神』と呼んで恐れ、当時エリート部隊と呼ばれたクルーゼ隊すら彼らの前には歯が立たなかったという。

 

 叩きだした戦果はまさに驚異としか言いようがない。

 

 「……凄い」

 

 リースは素直に驚嘆した。

 

 話には聞いていたがここまでとは驚きである。

 

 何故こんな事を調べているかといえば、先の戦闘に敵パイロットの発言にある。

 

 確かに言ったのだ「俺の相手はアスト・サガミだ」と。

 

 あの場面においてあの言葉に該当するのはアレンしかいない。

 

 とはいえそれを確かめてどうにかしようという気はリースには無かった。

 

 調べていたのはあくまでも純粋な興味からである。

 

 「ちょっといいか?」

 

 キーボードを叩く手を止めて振り替えるとヴィートが立っていた。

 

 また何か突っかかってくる気なのだろうか?

 

 面倒だなと思いながらもリースは問い返した。

 

 「何?」

 

 「いや、あの、L3での戦闘の事だけど」

 

 いつもの彼らしくない。

 

 普段はもっと遠慮なく話してくるというのに、どうしたのだろう。

 

 「その、助けてくれてありがとな」

 

 先の戦闘でも思った事だが、素直に感謝されるとは思っていなかった。

 

 「……別に気にしなくていいから。前にも聞いたし」

 

 「そ、そうか」

 

 リースはそのまま調べ物を再開する。

 

 すると気になったのかヴィートがのぞき込んできた。

 

 「なに調べてんだ?」

 

 「勝手に見ないで」

 

 そんな批判も無視して画面を見たヴィートは不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

 「アスト・サガミってなんでこんな奴調べてんだよ」

 

 「……貴方には関係ないでしょ」

 

 どうやらこれ以上調べるのは無理らしい。

 

 突っかかられても面倒だ。

 

 リースは端末を閉じると同時に立ち上がるとさっさと立ち去る事にした。

 

 「あ、おい。相変わらず可愛げの無い女だな」

 

 余計なお世話だと思いながらリースはその場を後にした。

 

 

 暗がりの執務室でデュランダルはヘレンからオーブの戦闘に関するデータを眺めながら満足気に頷いた。

 

 「どうやらシン・アスカ、セリス・シャリエ共に覚醒したようですね」

 

 「ああ。覚醒した彼らならばこの程度はやれるだろう」

 

 むしろこのくらいはやってくれなければ困るというものだ。

 

 「地上の方はミネルバに任せておけばいい。アレンもいる」

 

 アレンの名を出した瞬間、ヘレンの眉がぴくりと動く。

 

 「議長、彼は信用できるのですか?」

 

 ヘレンも当然彼の素性も知っており、故にアレンの事など欠片も信用してなどいない。

 

 「彼なら問題ないさ」

 

 「……議長がそう仰るならば。それよりも『レイヴン』の件ですが、どうやら『アトリエ』の場所を探していたようです」

 

 「ふむ、やはりか」

 

 「今後は警戒をさらに厳重するように指示を出しておきました。……それからあのシステムの試作型が完成いたしました」

 

 デュランダルは端末を操作するとデータを映し出す。

 

 それを見ると珍しく表情を曇らせた。

 

 そんなデュランダルを気にする事無くヘレンは言葉を続ける。

 

 「つきましては……そうですね『X23S』に搭載したいのですが?」

 

 返事をしないデュランダル。

 

 肯定と受け取ったのかヘレンは一礼するとそのまま部屋を退室していく。

 

 デュランダルはそのまま椅子に座り込むと何かを考え込むように眼を閉じた。


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