機動戦士ガンダムSEED effect   作:kia

19 / 74
第15話  英雄達の邂逅

 

 

 

 

 

 戦闘を終えたシンはミネルバの格納庫へ帰還を果たした。

 

 着こんでいるパイロットスーツは汗だくであり、ベタベタして非常に気持ち悪い。

 

 「……すぐシャワーを浴びよ」

 

 シンはそんな事を考えながらコックピットを降りていくと同じく帰還していたセリスが心配そうな顔で駆け寄ってきた。

 

 撃墜寸前にまで追い詰められたのだから、彼女が心配するのも無理はない。

 

 「シン、大丈夫!? 怪我とかしてない!?」

 

 「だ、大丈夫だって」

 

 ペタペタと体を触るセリスに微笑みかけるとようやく彼女も安心したのか笑みを浮かべた。

 

 そんな二人を囲むようにルナマリアやヴィーノ、ヨウランと言った仲の良いメンバーが集まってくる。

 

 「やったな、シン、セリス!」

 

 「凄かったわね! どうしちゃったのよ、二人とも!」

 

 「えっと―――」

 

 シンが答える前に他のメンバーが肩や背中を遠慮なく叩いてくる。

 

 「良くやってくれた!」

 

 「助かったぜ、二人とも!」

 

 手加減なく叩いてくるから正直背中が痛い。

 

 もう少し力加減を考えて欲しいのだが、悪くない気分だった。

 

 ふと見るとレイも外側でしかも笑顔を浮かべてこちらを見ていた。

 

 はっきり言って驚いた。

 

 アカデミーからの付き合いだが、シンは少なくともレイが笑顔を浮かべる所など見たことがなかったのだ。

 

 それはセリス達も同じだったようで、かなり驚いている。

 

 「ほら、お前らいい加減にしろ! さっさと仕事に戻れ!」

 

 整備長の怒声にようやく囲んでいた皆が散り二人も解放されると思わずほっと安堵のため息が出た。

 

 全員が解散して残ったのはルナマリアとレイだけ、つまりパイロット組だけだ。

 

 「二人ともホントどうしちゃったの? いきなりスーパーエース級の活躍じゃない!!」

 

 興奮したようにルナマリアが問い詰めてくる。

 

 とはいえシンにもセリスにもよく分からないとしか言えないのだが。

 

 「よく分からないけど、急に何かが弾けたと思ったら視界が開けて」

 

 「俺も同じような感じだと思う」

 

 だがそれはシンにとっては初めてではなく、大気圏の戦闘においても似た感覚に襲われた覚えがある。

 

 あれはいったい何なのだろうか?

 

 その時セリスがぽつりと呟いた。

 

 「……SEED」

 

 「えっ、それってテタルトスの……」

 

 「あ、ごめんなさい。他に言いようがなかったから」

 

 セリスは気まずそうに視線を逸らした。

 

 テタルトスより広まったSEED思想はもう世界中で認知されている。

 

 前大戦終結直後にオーブにて研究されていたアスト・サガミ、キラ・ヤマトの情報が月から流失した為である。

 

 ただ本当の意味を意味を理解している者がいるのか疑わしいが、受け入れられてはいた。

 

 しかしプラントだけは例外である。

 

 コーディネイターが在住するプラントにおいて、自分達こそが進化した人類であると自負している者達が未だに多い。

 

 これはパトリック・ザラが前大戦中に公言していた事も大きかったのだろう。

 

 そんなプラント内において、SEED思想など完全にタブーであった。

 

 「私は別にそこまで気にならないけど、人によってはかなり過剰に反応するから気をつけた方がいいよ」

 

 「うん」

 

 一瞬、暗くなった雰囲気。

 

 それを振り払う為に声を上げようとしたシンだったが、その前に話しかけてきたのは意外にもレイだった。

 

 「なんであれお前達がミネルバを守った。生きているという事はそれだけで価値がある。明日があるという事だからな」

 

 レイはシンの肩を軽く叩き、そのまま去っていく。

 

 なんというか普段から想像できない意外過ぎるレイの言葉に思わず呆然としてしまう。

 

 「あはは、レイ、似合わない!」

 

 「ホントにね!」

 

 くすくす笑い出す女子二人につられシンも笑みをこぼした。

 

 自分達は生き延びた。

 

 レイの言う通りそれは価値のある事だろう。

 

 それに皆が無事だったのだ。

 

 戦場で戦っていた妹もきっと大丈夫な筈だ。

 

 マユはあれだけ強いのだから。

 

 シンは軽やかな足取りで、セリス達と談笑しながら歩き始めた。

 

 

 

 

 『第二次オーブ戦役』

 

 そう呼ばれた戦いは地球軍の撤退。

 

 つまりは同盟軍の勝利で幕を閉じた。

 

 だがそれはあくまでも表向きの事であり、何も知らない者達からの視点の話である。

 

 地球軍の鮮やかな退き際を見るに本当の目的が新型モビルスーツの奪取であった事は想像に難くない。

 

 つまり同盟は完全にしてやられたという事になる。

 

 会議室に集まった閣僚とアイラを交えてカガリは暗い雰囲気を引きずりながら、淡々と今後の対策を練っていた。

 

 実質的なセイラン家の裏切りと新型モビルスーツの奪取。

 

 モビルスーツが奪われた事も衝撃ではあったが、それ以上にセイラン家の裏切りは閣僚全員に大きなショックを与えていた。

 

 それを考えてかショウはあえて感情を出さず淡々と報告を上げていく。

 

 「今回の戦闘で軍の損害自体は想定内です。これはアークエンジェルとミネルバが参戦した事が大きかったようです。しかしモビルスーツ研究施設の被害は甚大です。施設は爆破され、スタッフと研究者の何人かに犠牲が出てしまいました」

 

 「研究データとクレウス博士は?」

 

 ローザ・クレウス博士は同盟軍にとって非常に重要な存在である。

 

 本人は嫌がっているが、彼女のモビルスーツ開発における功績は非常に大きい。

 

 アドヴァンスアーマーの開発に加え、他の機体にも少なからず彼女が関わっている。

 

 仮に彼女が誘拐、もしくは殺害されていたらどうなっていた事か。

 

 「データは無事です。ハッキングを試みたようですがセキュリティを突破出来なかったようです。ローザ・クレウス博士も同様に無事でした。所用でモルゲンレーテに赴かれていた事が幸いしたようです。ただ……」

 

 「どうした?」

 

 「……クレウス博士が開発に関わっていた機体『SOA-X05』が奪取されました」

 

 カガリは強く手を握り締め、アイラも同様に厳しい表情をしている。

 

 SOA-Xシリーズはスカンジナビア、オーブの次期主力機開発計画の試作モビルスーツ群の事である。

 

 これは前大戦から存在する開発計画であり、同盟に存在する最新の技術を使って開発される事から非常に高性能なモビルスーツを誕生させてきた。

 

 それが外部に持ち出されたとなると―――

 

 「……X05はどの程度完成していた?」

 

 「それは私から説明しよう」

 

 会議室に入ってきたのは白衣を纏った女性ローザ・クレウスであった。

 

 「X05の完成度はせいぜい40%くらいだ。ただこの機体には少し細工を施そうと思っていた」

 

 「細工?」

 

 「ああ、SEEDに関するものを少しな。まあ、その細工も中途半端だった。仮に地球軍の連中が目をつけても完成はさせられないだろう」

 

 とても代表首長に対する言葉使いではないが誰も気にした様子はない。

 

 彼女は誰にでもこうだからだ。

 

 「技術の流失は痛いが、今からではどうにもならない。軍の再編を急がせろ。再び地球軍が攻めてくる可能性もある」

 

 「はっ」

 

 「あのシグルドの事は?」

 

 アイラの質問に誰もが顔を顰めた。

 

 フリーダムと交戦していたシグルドはマユの報告からユニウスセブンを落下させた実行犯の一人であると分かっている。

 

 そんな者がオーブ近海に潜んでいたなど愉快な話ではない。

 

 「シグルドが潜伏していたと思われる場所を調査したところ、長期に渡って潜伏していた形跡は発見できませんでした」

 

 「ではあのシグルドはオーブ近辺にいた訳ではなかったという事かしら?」

 

 「おそらくは」

 

 ではシグルドは何故あんな場所にいたのだろうか?

 

 疑問は尽きないが今集まっている情報ではまだはっきりした事は分からない。

 

 だが万が一の事を考えると悠長にはしていられないだろう。

 

 「カガリ、あのシグルドの件は―――」

 

 「分かっています。ミヤマ、引き続き情報を集めろ」

 

 「はっ」

 

 「それから国内でも十分な警戒を。再び襲撃される可能性もある。後、クレウス博士に護衛をつけさせてもらう」

 

 ローザはやや不満そうな顔をしているが、状況は理解しているようで何も言わずに、ため息をついていた。

 

 彼女には窮屈だろうが我慢してもらうしかない。

 

 「カガリ様、アイラ様、もう一つ報告があります」

 

 「どうした?」

 

 「テタルトスの方から会談の申し入れが来ています。どうやら彼らも例の件に気がついたようです」

 

 次から次へと厄介なことばかり起こる。

 

 「分かった。向うへ返事をしておいてくれ」

 

 「了解しました」

 

 カガリは厄介な事ばかりに頭を抱えたくなる衝動を抑えながら次の議題について話し合った。

 

 

 

 

 アレンは自身の乗機であるエクリプスの調整を行う為にコックピットでキーボードを叩いていた。

 

 しかし彼の表情は優れない。

 

 その理由は現在乗り込んでいるナスカ級の目的地にあった。

 

 もうすぐ着く目的地は地球ではなくL3宙域である。

 

 本来ならばミネルバと合流する為に地球に向かっている筈だった。

 

 だが直前に『フォックスノット・ノベンバー』で介入してきた黒い機体をL3で発見したと報告が入ってきた。

 

 さらにその宙域にはテタルトスの戦艦の姿もあると報告を受けていた。

 

 特務隊三機と互角以上に戦った黒い機体に加えテタルトスもいる。

 

 他の部隊では厳しいという判断が下され、急遽特務隊が派遣される事になったのだ。

 

 議長としてはプラント防衛の為に余計な戦力を割きたくなかったのだろう。

 

 「……それにしても準備の良い事だな」

 

 アレンはコックピットの調整を終えると嘆息しながら正面を見るとそこには見慣れぬ機体が二機ほど待機していた。

 

 ZGMF-X2000『グフイグナイテッド』

 

 ニューミレニアムシリーズに属する新型機である。

 

 背中に装備されたフライトユニットで宇宙だけでなく地球でも十分な飛行能力を有し、武装も接近戦主体の武器を多く装備している。

 

 今回配備された二機のグフに搭乗しているのは隊長であるデュルクと新たにフェイスに任命されたハイネ・ヴェステンフルスである。

 

 彼は先の『フォックスノット・ノベンバー』において多大な戦果を上げた事でフェイスに選ばれていた。

 

 ハイネに最新機が与えられた事に先任であるヴィートなど不満そうな顔をしていた訳だが、声に出さなかったのはフェイスとしての矜持だったのだろう。

 

 「アレン、こっちは機体の関係上そう無茶は出来ないんでな。頼むぜ」

 

 ハイネはこの後アレンと共にミネルバに配属される事になっており、そこでグフの地上での戦闘データを収集する事になっているのだ。

 

 「ああ。分かった」

 

 ハイネは気さくな男であり、あまり深入りするような人付き合いを避けていたアレンも話やすかった。

 

 この雰囲気はどこか懐かしく、どこかアークエンジェルにいた頃を思い出す。

 

 そんな感傷に浸っていると隊長であるデュルクからの通信が入ってきた。

 

 「全員もうすぐ作戦宙域に到着する。目的は黒いモビルスーツ、コードネーム『レイヴン』を捕獲する事。そしてテタルトスがいるならば警告、受け入れない場合は排除に当たる」

 

 「テタルトスに警告がいるんですか?」

 

 モニターに映るヴィートが不満そうに声を上げた。

 

 プラントにとってはテタルトスはあくまで脱走者達であり、国家ではない。

 

 そんな彼らにわざわざ警告する意味は無いとヴィートは思っているのだろう。

 

 「テタルトスがここで何をしていたのか調べるのも必要な事だろう。向うが警告に従うならば撃つ必要はない。だからと言って躊躇う必要もないが」

 

 「了解です」

 

 「……隊長、もう一つ良いですか? 何故その『レイヴン』に拘るのですか? 確かに所属不明ではありますが、以前プラントを救ったのはあの機体です。まあ別にだから味方だとは思いませんけど」

 

 珍しくリースが質問の声を上げた。

 

 普段ならここでヴィートと口論が始まるのだが彼も同様の疑問を持っていたらしく何も言わずデュルクの言葉を待っている。

 

 ハイネも同じように黙って話に耳を傾けていた。

 

 彼も不思議には思っていたのだろう。

 

 危険ではあれどわざわざ特務隊が出張ってくる程の事態なのだろうかと。

 

 無論ハイネも以前の戦闘映像を見ている為にあの機体の手強さは良く理解出来てはいる。

 

 しかし今相手にすべきは地球軍の筈なのだ。

 

 「……詳しくは極秘事項であるが、レイヴンは現在プラントの研究施設に対して諜報活動のような事をしていると報告が上がっている」

 

 「なるほど。つまりアーモリーワンみたいな事になる前に捕獲してどこの勢力の者かはっきりさせたいという事か」

 

 「そうだ。最悪撃墜する事も許可する。ただし『レイヴン』は強敵だ。十分に注意しろ。いいな!」

 

 「「「了解!」」」

 

 「この近辺で確認されているが、正確な位置は掴めない。別動隊も動いているから、そちらで掴んでいれば―――ッ!?」

 

 デュルクの言葉は続かず、途中で大きな振動が声を遮る。

 

 「ブリッジ、何があった!!」

 

 《戦闘です! 前方で別動隊とテタルトスが戦闘しています!!》

 

 デュルクは思わず舌打ちする。

 

 彼にとってあくまでも今回の本命は『レイヴン』の方であり、テタルトスはついでだった。

 

 しかし『レイヴン』を発見する前に別動隊がテタルトスと戦闘を始めてしまうとは―――

 

 とはいえ味方を見捨てる訳にはいかない。

 

 デュルクは気持ちを切り替えると即座に命令を下した。

 

 「全機出撃するぞ!」

 

 「「「了解」」」

 

 ナスカ級のハッチが開くと各機が発進していく。

 

 アレンの正面にあるハッチが解放され機体を発進させようとしたその瞬間、嫌な感覚が全身に駆け巡った。

 

 「ッ!? これは、まさか……」

 

 覚えのあるこの感覚は間違いない。

 

 この先の戦場には奴がいる。

 

 「……ユリウス・ヴァリス」

 

 アレンが今まで戦ってきた中でも紛れも無く最強の男。

 

 自分でも知らないうちに操縦桿を握り締めていたアレンは落ち着く為に息を吐き出すと先に出撃した味方を追うようにフットペダルを踏み込んだ。

 

 

 

 

 ザフトにとってテタルトスとの戦闘が予定はしていても本来の目的ではなかった。

 

 だがそれはテタルトスにとっても同様である。

 

 彼らにとって戦闘は二の次。

 

 そもそも別の目的があってここに来たのだから。

 

 それでも攻撃を仕掛けられたならば、黙っている訳にもいかない。

 

 アレックスは仲間を守る為にガーネットで戦場を縦横無尽に動きまわっていた。

 

 オルトロスの砲撃を掻い潜りながらザクに向けビームサーベルを一閃、胴体を真っ二つに斬り裂いて撃破する。

 

 「なっ、速いぞ!」

 

 「くそ! 落とせ!!」

 

 動き回るガーネットを狙いビーム突撃銃を構えるザク。

 

 だが撃ち込まれるビームは尽く何もない空間を薙ぐのみに終わった。

 

 しかしこれは彼らの落ち度ではない。

 

 敵対する相手が規格外というだけの事である。

 

 「迂闊な!」

 

 アレックスは動きを止める事無く、ビームライフルを構えるとこちらを狙う敵機を次々と撃ち抜いていった。

 

 そして別方向にも彼らの止める事の出来ない存在がいた。

 

 青紫の閃光が次々と敵を屠っていく。

 

 「うああああ!!」

 

 「くそおおお!」

 

 その光景はある意味でザフトには見覚えのあるものだった。

 

 「ま、まさか……ユリウス・ヴァリス」

 

 その名はかつてザフトにとっては紛れも無い英雄の名であって自分達を勝利に導く存在だった。

 

 しかし今はまったく逆。

 

 迫りくるその姿は死を宣告する死神そのものであった。

 

 「かつての同胞であろうが、今は敵だ。落とさせてもらうぞ」

 

 シリウスはザクの攻撃をいとも容易く回避するとすれ違いざまにビームサーベルで斬り捨てる。

 

 さらに高速で動き回りながら、ビームライフルの正確な射撃で次々とザフト機を撃ち抜いていく。

 

 シリウスのあまりの速さに敵対する者たちは全く対応できていなかった。

 

 「歯ごたえが無さすぎる」

 

 ザフトのあまりの手応えの無さに失望を通り超え呆れ返るユリウス。

 

 そこに覚えのある感覚が走るとユリウスはここに来て初めての笑みを浮かべる。

 

 「ふっ、やはりザフトにいたのか―――アスト・サガミ」

 

 ユリウスにとって彼がザフトにいるのは不思議な事ではない。

 

 むしろ必ずいると確信さえしていた。

 

 近づいてくる敵の方に機体を向け、通信機のスイッチを入れた。

 

 「全機、別方向から敵が来るぞ……アレックス」

 

 「何でしょうか、大佐」

 

 「奴が、アスト・サガミが来るぞ」

 

 「ッ!?」

 

 アレックスは強く操縦桿を握りしめる。

 

 何故奴がザフトにいるのかは知らない。だが―――

 

 「大佐には悪いが、お前の相手をするのは俺だ」

 

 アレックスはビームトマホークを振りかぶるザクを一蹴すると部隊を率いユリウスの後を追うようにスラスターを全開にした。

 

 

 

 ザフトとテタルトスの戦闘。

 

 それを静観しつつも観察していた一隻の艦がいた。

 

 プラントから離脱し、L3で調査を行っていたドミニオンである。

 

 この所動きまわっていた為にザフトに補足される可能性もあるとは思っていたのだ。

 

 しかしここまで早いとは流石だと褒めるべきだろうか。

 

 さらにテタルトスとの鉢合せとなると状況は切迫している。

 

 艦長であるナタル・バジルールは難しい顔でモニターを睨みながら、どう動くべきか思案していた。

 

 「さて、どうするか」

 

 ドミニオンの課せられている任務を考えればここでザフトに見つかるのは上手くない。

 

 このままやり過ごせれば良いのだが、発見されるのも時間の問題であろう。

 

 テタルトスと戦闘状態になってくれたのはこちらとしては幸運と捉えるべきか。

 

 「僕が行きますよ」

 

 一緒にモニターを見ていたキラが前に出た。

 

 「今ドミニオンが見つかる訳にはいかないでしょう?」

 

 キラの言う通りだ。

 

 今、ドミニオンは外付けの装置によってミラージュ・コロイドを展開している為に見つかっていない。

 

 だが当然限界時間が存在する。

 

 戦闘が長引きこちらにまで飛び火してくれば見つかる可能性も俄然高くなるだろう。

 

 離脱するためには迂回するしかないのだが、それでも戦闘宙域ギリギリの位置を移動する事になる。

 

 何もせずに移動するにはあまりにリスクのある位置だった。

 

 「……そうだな。また無茶をさせてしまうが、出てもらおう。その間にドミニオンはこの宙域より離脱する」

 

 「了解です」

 

 キラはパイロットスーツに着替え、格納庫に向かうとそこには自分の乗る黒い機体が立っていた。

 

 SAT-SX01 『レギンレイヴ』

 

 全身が黒い装甲に覆われたやや大きめの機体でありながらその加速性、機動性共に非常に高い。

 

 武装は各種ビーム兵装に背中にレール砲、腰にビーム砲、肩にはドラグーンを装備している。

 

 ドラグーンは電力を多く消費するものの、それを補う為に改良した予備バッテリーを数基装着していた。

 

 キラはキーボードを叩き調整を終えると、ハッチが開くと同時にフットペダルを踏み込んだ。

 

 「キラ・ヤマト、行きます!」

 

 ドミニオンから黒い機体が飛び出すと同時にスラスターを全開にしてザフトの部隊が展開している場所まで一気に加速した。

 

 

 

 

 敵味方が入り乱れる戦場を駆けるアレンはすぐに近づいてくる敵の存在に気がついた。

 

 一度戦った経験から奴に対して後手に回れば致命的だと理解していたアレンはビームライフルを構える。

 

 「どうした、アレン?」

 

 グフの状態を動かしながら確認していたハイネが訝しげに問う。

 

 まだ敵の姿は見えないにも関わらずエクリプスは戦闘体勢に入っている。

 

 流石にデュルク達も口を出そうとした瞬間、アレンが呟いた。

 

 「敵が来るぞ」

 

 「何―――ッ!?」

 

 ハイネが再びアレンに問いを返そうとした時、正面から来る機体が見えた。

 

 テタルトスの機体が二機、凄まじい加速で突っ込んでくる。

 

 アレンは即座にビームライフルで敵機に向けて射撃した。

 

 放たれたビームを敵機は軽々と回避する。

 

 その隙に全機が弾ける様に四方へ飛び、突っ込んで来た二機をやり過ごした。

 

 「こいつら!?」

 

 「あの青紫の機体は―――」

 

 デュルクには見覚えがあった。

 

 あの機体の色はかつて自分よりも上にいたパイロットが好んだ物だ。

 

 「……ユリウス・ヴァリスだ」

 

 アレンの淡々とした声が全員に伝わる。

 

 「え、ユリウスって」

 

 「……『仮面の懐刀』ね」

 

 「元ザフトのトップエースが相手とはな」

 

 思わぬ敵に警戒を露にする特務隊の面々。

 

 それらの機体と対峙していたユリウスもまた自身の目標である目当ての機体を見つけていた。

 

 報告あったザフトの新型。

 

 その造詣はユリウスにとっても思うところのある機体であった。

 

 「……ガンダムか。お前はよほどそれらの機体に縁があるらしいな、アスト」

 

 ユリウスはエクリプスに向かってビームサーベルで斬り込むとアレンも迎え撃つ。

 

 お互いの斬撃がシールドによって弾かれ火花を散らした。

 

 「ユリウス!」

 

 「どれだけ腕を上げたか見せて貰おうか」

 

 二機が睨み合い再びぶつかろうとした瞬間、思わぬところから邪魔が入る。

 

 赤に塗装されたグフがスレイヤーウイップを放ってきたのだ。

 

 絡みつくように変則的な動きでシリウスを捉えようと迫る。

 

 だが―――

 

 「子供騙しだな」

 

 ユリウスは鞭の軌道を見切り、軽々と回避するとグフに向けてビームサーベルを振り抜いた。

 

 振り抜かれた光刃がグフを斬り裂こうと迫る。

 

 しかし今回驚いたのはユリウスの方だった。

 

 グフはビームサーベルをシールドで流し、テンペストビームソードで逆にシリウスに斬りかかった。

 

 「やるな」

 

 シリウスは繰り出されるビームソードを機体を逸らして回避する。

 

 しかしグフは動きを止める事無く連続でビームソードを叩きつけてきた。

 

 「聞こえているか、ユリウス」

 

 「お前は―――デュルクか」

 

 対峙する機体に搭乗する相手を思い出したようにユリウスは目を細める。

 

 デュルクはザフトにいた頃、彼とまともに戦う事のできた数少ないパイロットだ。

 

 その技量はユリウスが認める確かなものだった。

 

 「こんな形でお前に再会とは残念だよ、ユリウス」

 

 「なるほど。お前が相手とはな。だがデュルク、お前の技量は認めているが私に一度でも勝てた事があったか?」

 

 「昔と同じだと思うな」

 

 「生憎私には興味がない。なにより狙いはお前ではない」

 

 グフのビームソードを回避しつつ、ビームライフルで狙い撃つ。

 

 通常のパイロットであればそれだけで終わっていただろう。

 

 だがデュルクは特務隊の隊長を任されたほどの男である。

 

 そう簡単にはやられない。

 

 むしろユリウスとここまで互角に戦える事こそ、彼の技量の高さを物語っていた。

 

 ユリウスの放ったビームを回避しつつ、グフは四連装ビームガンで反撃していく。

 

 デュルクからすればザフト時代からの雪辱を晴らす時、負ける訳にはいかない。

 

 だがユリウスにとっては違う。

 

 確かにデュルクの腕前は認めている。

 

 だがそれでもユリウスにとってはその程度の認識でしかない。

 

 その二人の温度差が絶妙な攻防を生みだしていた。

 

 二機の攻防を見たヴィートのスラッシュザクファントムが援護の為に前に出る。

 

 「隊長、援護を―――」

 

 しかし駆けつけたガーネットが放ったビームがヴィートの進路を阻んだ。

 

 正確かつ連続で放たれるビームにヴィートは防御する事しかできない。

 

 「くそ! こいつ!」

 

 肩に装備されたガトリング砲でガーネットを狙い攻撃するが、全く捉える事ができない。

 

 「ならば!」

 

 焦ったヴィートはビームアックスを構えてガーネットに斬り込んでいく。

 

 だがそれは誰の目から見てもあまりに無謀な行動であった。

 

 「待て、ヴィート! そいつは―――」

 

 ハイネの制止の声も届かない。

 

 そのままヴィートはビームアックスを敵機に向けて振り下ろした。

 

 「はあああ!」

 

 殺った!!

 

 紛れも無く自分の方が速かったと確信するヴィート。

 

 だが―――

 

 「邪魔だ!」

 

 ガーネットもビームサーベルを展開して斬り払う。

 

 すれ違う二機。

 

 次の瞬間ヴィートのザクは片腕ごとガーネットのサーベルで斬り飛ばされていた。

 

 「な、何!?」

 

 間違いなく自分の方が速かったはずなのに、相手がそれを上回った!?

 

 「腕は悪くないが、焦り過ぎだ!」

 

 さらにアレックスはサーベルを叩き込むがヴィートもまた特務隊に選ばれる技量を持ったパイロットである。

 

 損傷したショックからすぐに立ち直るとガーネットの斬撃をシールドで防ぐ。

 

 だがそこから胴に向けて蹴りを入れられ体勢を大きく崩されてしまった。

 

 「うあああ!」

 

 「悪いが落させてもらう」

 

 そのまま動きを止めたザクに三連ビーム砲を向け撃ち込んだ。

 

 「やられる!?」

 

 ヴィートは撃墜される事を予想し目を瞑った。

 

 しかし撃墜されたと思ったヴィート機の射線上にリースのブレイズザクファントムが割り込むとビーム砲を受け止める。

 

 そして上方からハイネが四連装ビームガンでガーネットを引き離し、その隙に踏み込んだエクリプスがエッケザックスをガーネットに叩きつけた。

 

 「……世話の焼ける」

 

 「リ、リース」

 

 「無事か?」

 

 ハイネにアレンにまで助けられた醜態にヴィートは思わず歯噛みした。

 

 だが助けられた事に変わりはない。

 

 ここで礼を言わないほどヴィートも礼儀知らずではなかった。

 

 「……助かった」

 

 「素直じゃないか」

 

 「いつもこのくらい素直ならいいのにね」

 

 「お前はいつも一言余計なんだよ!」

 

 変わらぬ様子で憎まれ口をたたき合う二人にハイネは苦笑しながらも安心した。

 

 「ハイネ、ヴィートと共に一旦帰還してくれ」

 

 「な、待てよ。俺はまだ―――」

 

 「……そんな機体状態で騒がないの。隊長がいつも言ってるでしょ、冷静な判断をしろって」

 

 流石にデュルクを引き合いに出されるとヴィートも黙るしかない。

 

 彼も自分の状態が分からないほど愚かではなく、少なくとも今の状態でガーネットと戦えるとは思っていなかった。

 

 「良し、俺達は戻るぞ」

 

 「……了解」

 

 損傷したザクを護衛しながらハイネのグフが母艦へと戻っていく。

 

 一応二機が狙撃されないように射線上にリースが割り込んでいるのだが、ガーネットはそれを狙う素振りはない。

 

 あくまで狙いはエクリプスであり、下がる者達に興味はなかった。

 

 互いに武器を構えると再び激突する。

 

 ガーネットのビームサーベルがエクリプスを斬り裂こうと袈裟懸けに叩きつける。

 

 「はああああ!」

 

 エクリプスは素早くシールドを構えて光刃を弾くとエッケザックスを横薙ぎに斬り払う。

 

 「この程度で!」

 

 アレックスもまた盾をかざして対艦刀を受け流し、敵機に向けて斬撃を繰り出した。

 

 彼らはお互い何度も刃を交えた間柄であり、相手の動きが手に取るように分かっていた。

 

 「聞こえているか!」

 

 「……何の用だ」

 

 ガーネットが蹴り上げた右足のビームサーベルをシールドで逸らすと逆袈裟にエッケザックスを振り下ろす。

 

 「何故お前がザフトにいるんだ!!」

 

 「お前には関係ないだろう」

 

 「ふざけるな! あれだけ俺達の邪魔をして来たお前が! それに彼女はどうした!!」

 

 答えないアレンにアレックスは怒りにまかせビームサーベルを次々と斬りつけていく。

 

 「貴様!!」

 

 「敵に答える義務はない!」

 

 次々と繰り出される光刃の一撃をアレンは正確に見切り、捌いてゆく。

 

 互いに振るう刃が弾かれる度に光が伴い周囲を照らす。

 

 「アレン!」

 

 援護に割り込んだリースの掛け声と共に飛び退くエクリプス。

 

 それに合わせて背中のミサイルをガーネットに撃ち込んだ。

 

 「邪魔だ!」

 

 アレックスは機関砲でミサイルを撃ち落とすと機体の周りを爆煙が包み込む。

 

 その爆煙に紛れたアレンは背中にマウントされているビームガトリング砲をガーネットに向けて撃ち込んだ。

 

 絶え間なく降り注ぐガトリング砲をアレックスはスラスターを使って回避していく。

 

 その隙に動いたのはリースだった。

 

 「そこ!」

 

 エクリプスが放つガトリング砲の攻撃に合わせ、ビームトマホークで斬り込む。

 

 「はあああ!」

 

 「こいつもエース級か」

 

 リースの放つビームトマホークの斬撃は正確で鋭い。

 

 先程のザクのように簡単に斬り返せない。

 

 いや、先程損傷を受けたヴィートにせよ焦りがなければ、いかにアレックスといえどもああも簡単に斬り返せはしなかっただろう。

 

 しかもガーネットの回避先を狙ってガトリング砲を撃ち込んでくるアレンの援護も厄介だった。

 

 ザクの斬撃を受け止めながらアレックスは叫ぶ。

 

 「そこを退け! 俺の相手は奴―――アスト・サガミだ!」

 

 「えっ!?」

 

 アスト・サガミ?

 

 その言葉はリースの思考を一瞬止めた。

 

 「そこだ!」

 

 ガーネットは隙を見せたザクにビームサーベルを振り下ろし、左胸部を斬り飛ばした

 

 「くっ」

 

 咄嗟に後退していなければやられていた。

 

 止めを刺すべく敵機が距離を詰めてくるが、そこにエクリプスが割り込んできた。

 

 「リース、下がれ」

 

 「う、うん」

 

 再びお互いに武器を構える二機。

 

 リースはエクリプスを見ながら先程敵の言った言葉を考えていた。

 

 あの敵はアスト・サガミと言った。

 

 「……さっきのってまさかアレンの事?」

 

 二機の激突を黙って見つめながらリースは先ほどの敵の言葉を反芻する。

 

 「今日こそ貴様を!」

 

 「お前にやられるつもりはない!!」

 

 エクリプスとガーネット。

 

 繰り出される斬撃が機体を掠め、傷を作っていく。

 

 

 二機の戦闘に感化されたように戦いは激化し、両軍共に一歩も引かない。

 

 

 だがその時、その場にいた誰もが予想していなかったことが起きる。

 

 

 まず気がついたのはデュルクと対峙していたユリウスであった。

 

 再び馴染み深い感覚が走るとそちらの方に視線を向ける。

 

 これは―――

 

 「なるほど。お前もいたのか―――キラ」

 

 ユリウスがそう呟いた瞬間、暗い空間を薙ぐ一条の閃光が駆け抜ける。

 

  宇宙を走る光が向う先にいたのは―――

 

 「まさか別動隊の母艦か!?」

 

 デュルクが気がついた通り、狙いは別動隊の母艦であったナスカ級。

 

 迫る閃光が右舷のスラスターに直撃する。

 

 ナスカ級から大きな爆発が起こると同時に炎が噴き出した。

 

 閃光を放ったのはザフトの狙っていたターゲット。

 

 凄まじい速度で戦場に突っ込んできた黒い機体に気がついたデュルクは思わず声を上げる。

 

 「『レイヴン』だと!?」

 

 突然の事態に誰もが固まって動けず、加速して戦場に突っ込んでくるレギンレイヴに対処できない。

 

 平静を取り戻した者達も迂闊には動けず、どこも手一杯である。

 

 しかも母艦を撃たれた為か別動隊は完全に浮足立っていた。

 

 このままでは不味い。

 

 現状を素早く判断したリースは最も合理的な決断を下した。

 

 「アレン、ここは私が抑える。あの黒い機体を追って」

 

 「……大丈夫なのか?」

 

 「問題ない。さっきみたいにはやられないから」

 

 アレンは僅かに躊躇う様子を見せたがすぐに頷くと反転して『レイヴン』の後を追う。

 

 「待て!」

 

 アレックスもそれを追おうとするがリースのザクが立ちはだかる。

 

 「行かせない」

 

 機体の状態は確認済み。

 

 装甲は抉られたが戦闘には支障はない。

 

 リースはガーネットに向かって再び斬り込んだ。

 

 

 

 

 レギンレイヴを操るキラは一直線にドミニオンの進路に一番近い敵母艦に向かった。

 

 ザフトをすべて迎撃する必要はない。

 

 あくまでドミニオンが離脱するまで時間を稼げばよいのである。

 

 邪魔をしてくる敵以外はすべて無視して、先端に装備されているビームランチャーでナスカ級を狙う。

 

 「当たれぇぇ!!」

 

 キラがトリガーを引くと同時に凄まじい閃光が放たれ、ナスカ級の右舷に直撃した。

 

 破壊された右舷からは火を噴き大きな爆発が起きていた。

 

 あれだけの損傷ならドミニオンに気がつく余裕も無いだろう。

 

 ザフトも黙って見ている事はせず、レギンレイヴの進路を塞ぐように二機のザクがビーム突撃銃を構えて撃ち込んできた。

 

 「邪魔をするなら落とす!」

 

 放たれたビームを旋回しながら回避するとレール砲を放って迎撃した。

 

 正確に放たれたレール砲に回避する事も出来ず、砲撃の直撃を受けたザクはあっさり撃破されてしまった。

 

 さらにキラは背中に装備されているミサイルポッドを発射して、群がってくる敵機を薙ぎ払うと離脱する為の進路を取る。

 

 「良し、このまま離脱を―――なッ!?」

 

 その瞬間、キラは何かを感じ取った。

 

 感じた感覚に任せてフットペダルを踏み込みレギンレイヴが急加速した次の瞬間、今までいた空間をビームが薙ぎ払う。

 

 「これは!?」

 

 連続で撃ち込まれてくる、ビームはあまりに正確。

 

 しかもキラの動きを読んでいるかのように、進路上に次々と撃ち込まれてきた。

 

 機体をバレルロールさせビームの直撃を避けるため、スラスターを噴射する。

 

 だが次に撃ちこまれた、ガトリング砲がレギンレイヴに降り注ぐ。

 

 キラは操縦桿を操作して撃ち込まれるビームをギリギリ回避していくが、ついに一条のビームがレギンレイヴのウイングを撃ち抜いた。

 

 「ぐっ!」

 

 キラは即座に撃ち抜かれたウイング諸共スラスターユニットをパージする。

 

 今回損傷したのが後付けのパーツであったのが幸いした。

 

 これが機体のスラスターであったらこの宙域から逃げられなかったかもしれない。

 

 そしてキラの前に立ちふさがったのは―――

 

 「ガンダムか。それにこれは……」

 

 キラの感覚が告げていた。

 

 目の前にいる機体のパイロットの事を。

 

 そしてそれはエクリプスのコックピットにいるアレンにも当然分かっていた。

 

 「……覚悟はしていた。こうなった以上、手は抜けない」

 

 アレンはエッケザックスを構えるとスラスターを吹かせ一気に斬り込んだ。

 

 下から斬り上げるように振るわれる対艦刀。

 

 それをキラは左腕のシールドで弾くと同時に右手でビームサーベルを展開して斬り返す。

 

 互いの斬撃を受け止めると同時に弾け合った。

 

 「くっ!」

 

 「ッ! 流石だな!」

 

 二機は互いに斬撃を繰り出しながら激突を繰り返す。

 

 キラの斬撃を前にアレンはあえてスラスター出力を上げて懐に飛び込むと体当たりで吹き飛ばす。

 

 態勢を崩したレギンレイヴにエッケザックスを叩きつける。

 

 「まだァァ!!」

 

 キラは驚異的な反応でスラスターを使い、対艦刀が掠めていくギリギリの位置での回避に成功する。

 

 もちろん装甲に浅く傷をつけれてしまったが、先の一撃は確実に損傷を受けてもおかしくない斬撃だった。

 

 この程度の傷で済んだのはまさに僥倖といえるだろう。

 

 だがこれ以上時間は掛けていられないが、彼が相手では離脱する事も難しい。

 

 油断していたらすぐにでもやられてしまうだろう。

 

 「ならば!!」

 

 キラは肩に装備されたドラグーンを放出し、エクリプスに対して四方から攻撃を加えた。

 

 「ドラグーンか!?」

 

 ビームが放たれるたびにスラスターを使いアレンは回避していく。

 

 この手の武器は前大戦から馴染み深く、十分対処できる。

 

 アレンはビームライフルを構えるとドラグーンを目がけてトリガーを引いた。

 

 「そこ!」

 

 撃ち出されたビームは動きまわるドラグーンを正確に撃ち抜き撃墜していく。

 

 普通のパイロットが見れば驚愕するだろう。

 

 高速で動き回るドラグーンを正確に狙い、撃ち落としているのだから。

 

 だがキラにとってはそれは驚くべき事ではない。

 

 彼の力を一番知っているのは自分なのだから。

 

 ドラグーンを掻い潜り対艦刀を横薙ぎに叩きつけてくる。

 

 「ここだ!」

 

 正面から斬り込んできたエクリプスに合わせキラは機体を宙返りさせ斬撃を回避。

 

 背中に装着されていた予備バッテリーを排除、レール砲で撃ち抜いた。

 

 破壊されたバッテリーが大爆発を起こし二機を大きく引き離すと、その隙に戦域から離脱する。

 

 「はぁ~何とか無事に離脱出来た。まさかここで君と戦う事になるなんてね―――アスト」

 

 キラは苦笑しながらフットペダルを踏み機体をさらに加速させた。

 

 

 

 

 レギンレイヴの離脱を見たユリウスはグフの四連装ビームガンを回避しながら、アレックスに通信を入れた。

 

 「アレックス、退くぞ。これ以上の戦闘は無意味だ。全軍に撤退命令を出せ」

 

 「……了解」

 

 ザクの一撃をシールドで弾き飛ばすと同時にアレックスは反転すると他の部隊に撤退命令を出した。

 

 アレックスの命令でテタルトス軍は撤退を開始する。

 

 それを見ていたユリウスもグフのスレイヤーウィップを回避、ビームライフルで牽制しながら後退を開始した。

 

 「待て!」

 

 「……お前の相手は今度してやる」

 

 斬りかかってきたグフに蹴りを入れ、引き離すとシリウスはガーネットと共に後退していく。

 

 そのコックピットの中でユリウスは冷たく呟いた。

 

 「茶番だな。アスト、キラ、今のお前達をラウが見たらどう思うかな」

 

 いや、彼がどうするかなど考えるまでもない。

 

 きっと愉快そうに笑うのだろう。

 

 そんな無意味な事を考えながらユリウスは母艦に帰還した。

 

 

 

 

 そこは実に質素な部屋だった。

 

 家具などもほとんどなく最低限の物のみで、あまりに生活感のない。

 

 その一室で外を眺めている男がいた。

 

 不気味な仮面を付けた男カースである。

 

 さらにそこにノックと共に部屋へと入ってきたのはヴァ―ルト・ロズべルクであった。

 

 「待たせたか、カース?」

 

 「……いや」

 

 カースの気のない返事を気にすることなくヴァ―ルトは椅子に座った。

 

 「先の戦闘はご苦労だったと言いたいが、勝手な真似をされては困るな。お前には地球軍の戦艦を襲うように言ってあった筈だが」

 

 何も答えないカースにため息をつく。

 

 本来であればシグルドで地球軍の戦艦を攻撃させ、テロリストをオーブが匿っていたという情報を流す筈だったのだ。

 

 しかしカースはよりによってフリーダムに攻撃を仕掛けてしまった。

 

 それでも撤退の際に地球軍の艦隊に攻撃を仕掛けてはいた為、疑いを掛ける事は出来る。

 

 しかし今後は彼のフリーダムに対する憎悪も考慮しなくてはならないだろう。

 

 「まあ、それはもういい。次の時にはこちらの要望通りに動いて貰いたい。機体の事に関してあればまた連絡を」

 

 そう言って退室しようとしたヴァールトの背中に今まで黙っていたカースがようやく口を開いた。

 

 「……一つだけ言っておく。私はお前達の狗になった覚えは無い。目的はあくまでも奴らを殺す事のみ」

 

 「分かっている」

 

 それ以上何も言うことなくヴァールトは退室した。

 

 

 

 オーブでの戦闘から帰還したアオイは空母に設置してあるシミュレーターに連日のように没頭していた。

 

 原因はオーブでの戦いだ。

 

 このまま再びミネルバと戦う事になれば間違いなく自分はインパルスやセイバーに負ける。

 

 それだけの力の差を感じ取っていた。

 

 いや、それだけではない。

 

 自分よりも格上の相手は山ほどいるのだ。

 

 もっと強くならなくては。

 

 「少尉、気持ちは分かるが少し休め」

 

 「しかし!」

 

 食い下がろうとするアオイにスウェンは手で制する。

 

 「……それよりも少尉に会いたいという者が来ているのだが」

 

 「え?」

 

 一体誰だろうか?

 

 シミュレーターから降りたアオイを待っていたのは、義父であるマサキだった。

 

 「義父さん!?」

 

 「アオイ、無事で何よりだ!」

 

 「何で義父さんこの艦に?」

 

 「補給部隊と一緒にきたら、お前がいるって聞いてな。顔を見にきた」

 

 スウェンは気を使ったのかマサキに敬礼するとそのまま離れていく。

 

 久しぶりと言うほど離れていた訳ではないが、それでも懐かしさを覚える。

 

 それでだけこれまでの戦いは激しく厳しいものだった。

 

 「ずいぶん熱心にシミュレーターに乗っていたが、何かあったのか?」

 

 「それは……」

 

 なんとなく自分の情けなさを口にするようで憚られたが、隠す事でもない。

 

 プラントやオーブでの戦闘についてマサキにかいつまんで話す。

 

 「なるほどな」

 

 「ごめん、偉そうに守りたいなんて言って志願した癖にこんな事」

 

 「何を言ってる。お前はよくやってるさ。大丈夫だ、お前はもっと強くなれるよ」

 

 マサキはニヤリと笑うとアオイの肩を叩いた。

 

 「それから今の気持ちを忘れるな。敵を憎み殺すためではなく、誰かを―――自分の守りたいものの為に戦うってことをな」

 

 「義父さん。うん、分かってるよ」

 

 「まあ、お前なら大丈夫だろう。それにお前は俺の誇りだ。胸を張れ」

 

 「ありがとう、義父さん」

 

 お互いに笑い合うとアオイの中にあった不安や情けなさが自然と消えていた。

 

 ここでマサキに出会えて本当に良かった。

 

 「さて俺も次の任務地に行かないとな」

 

 「次はどこに?」

 

 「インド洋に設置されている前線基地の手伝いだよ。あそこは中立同盟である赤道連合との境界線近くでなかなか作業が進んでないらしくてな」

 

 「義父さんも気をつけて」

 

 「俺は大丈夫だ。次帰った時に子供達と一緒に食事でもしよう」

 

 「分かったよ」

 

 マサキは笑みを浮かべてそのまま歩いていく。

 

 そんな義父の背を見ながらアオイは次に会える時を楽しみに再びシミュレーターに乗り込んだ。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。