機動戦士ガンダムSEED effect   作:kia

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第14話  激闘の果てに

 

 

 

 ウラノスから出撃したアオイとスウェンは地球降下の準備を終え、大気圏に待機している戦艦の中でその時が来るのを待っていた。

 

 格納庫で搭乗機であるイレイズとストライクノワールのコックピットに座る二人の前には青い地球が映っている。

 

 あの綺麗な場所で戦争が起こっているなど到底信じられない。

 

 だが自分達はこれからその地球での戦争に赴くことになる。

 

 《少尉、戦闘が開始されたと報告が入ってきた。時間になったら降下するぞ》

 

 「り、了解」

 

 いよいよである。

 

 これからアオイ達はオーブに降下し、オーブに攻撃を仕掛けている艦隊の援護に向かうことになる。

 

 個人的としては思うところもあるのだが、軍属である以上は命令に従わなくてはならない。

 

 《少尉、シミュレーター通りにやれ。それで問題ない》

 

 「は、はい。中尉」

 

 初めての降下作戦。

 

 かなりの緊張に晒されたアオイはそれを紛らわす為に、ここに来るまで何度もシミュレーターで訓練も積んでいた。

 

 「……落ち着けよ。大丈夫な筈だ」

 

 そう言い聞かせアオイは開いていくハッチの先に視線を向けた。

 

 

 

 

 防衛の為に出撃したオーブ艦隊からナガミツ、ムラサメ、シュライク装備のアドヴァンスアストレイなどが次々と飛び立っていく。

 

 そんなオーブ艦隊に平行するように航行するミネルバ。

 

 コアスプレンダーで出撃したシンはいつも通りにドッキングしてインパルスとなると、飛び出したシルエットグライダーから装備を受け取って装着した。

 

 今回選んだ装備はフォースシルエット。

 

 地球軍のモビルスーツの数も多い。

 

 ソードやブラストでは対応しきれない可能性が高いと判断し、一番機動性が高く、扱いやすいフォースシルエットを選択したのだ。

 

 その判断は間違っていなかったようだ。

 

 シンの目の前には艦隊から出撃してきたウィンダムやダガーLが所狭しと展開していたからだ。

 

 「数が多いな」

 

 インパルスとセイバーがミネルバを守るように前に出る。

 

 そして飛行能力が無いレイのザクファントムとルナマリアのザクウォーリアは甲板に上がって敵機の迎撃を開始した。

 

 二機が甲板上から動けない為、砲撃に集中せざる得ない以上、自由に動けるシンとセリスの働きが今回の戦闘における要となる。

 

 「シン、一人で突っ走らないでね!」

 

 「分かってるさ!」

 

 ミネルバの艦尾両舷にあるビーム砲『トリスタン』の砲撃が敵部隊を狙って放たれ、インパルスとセイバーがビームライフルを撃ち込んだ。

 

 「落ちろ!」

 

 「そこ!」

 

 ビームライフルの一撃がウィンダムの胴体を撃ち抜くと炎を纏い海面に落ちていく。

 

 「そんな密集した状態じゃ狙ってくれって言ってるのと同じだよ!!」

 

 セリスがアムフォルタスプラズマ収束ビーム砲を構えて、敵機を撃墜するとウィンダムが編隊を崩す。

 

 シンはその隙を見逃さずビームサーベルで斬り込んだ。

 

 「好きにやらせるかぁ!!」

 

 敵部隊に突っ込んでいくシンをレイとルナマリアが援護する。

 

 二人の攻撃がインパルスを迎撃しようとする敵機の動きを阻む。

 

 シンはザクの援護を受けながら思いっきり突っ込むとビームサーベルでウィンダムを袈裟懸けに切り捨てた。

 

 「はあああああ!!!」

 

 敵機を落とした勢いに任せたインパルスは振り返り、そばにいるウィンダムにビームサーベルを横薙ぎに叩きつけ撃墜する。

 

 動きを止めずにビームサーベルを次々振るっていく、シン。

 

 そんなシンに近づけまいとセリスは的確な射撃で敵機を撃ち落とし、レイやルナマリアもミネルバに群がってくるダガーLを撃破していく。

 

 「落ちなさい!!」

 

 「邪魔をするなァァァ!!!」

 

 敵味方が入り乱れ、激しい攻防が続けられていく。

 

 それでもミネルバは圧倒的な数の差をものともしない。

 

 彼らはアーモリーワンから始まった激戦を潜り抜けた事で格段に成長していたのである。

 

 そして奮戦を続けていたのはミネルバだけではない。

 

 すでに海上では同盟軍と地球軍が交戦を開始しており、その中でもアークエンジェルがひと際激しい攻防を繰り広げていた。

 

 ミネルバ以上に群がってくる敵モビルスーツ。

 

 地球軍からすればアークエンジェルは脱走艦であり裏切り者である。

 

 彼らが前大戦より続く借りを返したいという想いがあるのだろう。

 

 しかしそれは無謀極まりない行為であったと言わざる得ない。

 

 何故アークエンジェルが不沈艦などと呼ばれているのか。

 

 その理由を彼らが冷静に考えていたならば―――

 

 もう少し慎重に行動すべきだったのだ。

 

 「囲め! 不沈艦といえども、数で押せば落とせる!!」

 

 アークエンジェルに向かってビームライフルを構えるウィンダム。

 

 「沈め!」

 

 ウィンダムのパイロットがビームライフルのトリガーを引こうと指を置いた瞬間、彼の意識は掻き消えた。

 

 何故ならば前方から一瞬で懐に飛び込んできたフリーダムによって機体ごと斬り裂かれていたからである。

 

 「アークエンジェルはやらせません」

 

 マユは蒼い翼を広げ、こちらを狙ってくるダガーLを目にも止まらぬ速度で斬り捨て続ける。

 

 「は、速い!」

 

 「くっ、怯むな! 包囲しろ!」

 

 動き回るフリーダムを抑えようとウィンダムが数に任せて包囲した。

 

 「いかに速くともこれだけの数で囲めば落とせる!」

 

 ウィンダムのパロットはビームサーベルを構えフリーダムの背後から突きを放った。

 

 「終わりだ、フリーダム!!」

 

 確かに普通のパイロットであればこれで仕留めたに違いない。

 

 だが今回は仕掛けた相手が悪かった。

 

 フリーダムは背後からの突きをシールドで流すと次の瞬間、すれ違いざまにウィンダムを真っ二つに切り裂いた。

 

 「なっ!?」

 

 彼らが驚愕するのも無理はない。

 

 それだけ今の攻撃で撃破を確信していたのだ。

 

 他のウィンダムは完璧なタイミングによる攻撃をあっさりいなしたフリーダムに呆気にとられ動きを止めてしまった。

 

 「戦場で動きを止めるなんて」

 

 致命的な隙。

 

 マユはそれを見逃すほど甘くは無い。

 

 すべての武装を展開、一斉にロックしてトリガーを引く。

 

 フルバーストモード。

 

 フリーダムより撃ち出された砲撃がアークエンジェルに群がる敵機を一掃した。

 

 そんな蒼い翼の天使の背後を守るように共に出撃したレティシアのブリュンヒルデも動く。

 

 「遅いですよ」

 

 ビームサーベルを振るってきたウィンダムの斬撃を容易く避けるとその勢いに任せグラムを抜くと逆袈裟に斬って捨てる。

 

 さらに機関砲で牽制しつつ、ビーム砲で敵機を薙ぎ払った。

 

 「くそ!」

 

 「フリーダムだけじゃなく、こいつも強い!?」

 

 二機の猛攻に二の足を踏む地球軍。

 

 フリーダムとブリュンヒルデだけでも厄介だというのに、他にも彼らを翻弄する者達がいた。

 

 飛行形態で飛び回る機体はムウとトールのセンジンである。

 

 「良し、行くぞ!」

 

 「了解!」

 

 前大戦より組んで戦う事の多かった二人は息の合った連携で動き出す。

 

 進路を阻むウィンダムを即座に撃ち落とす。

 

 そして二機は一気に加速し上昇、太陽を背にして今度は一気に降下する。

 

 太陽の光の中から特攻してくるムウに反応する事が出来ないウィンダムとダガーLはセンジンから放たれた一撃で肩部を破壊されてしまう。

 

 「おのれぇ!」

 

 「くそ!」

 

 残った腕でムウを狙い撃とうとビームライフルを構えた。

 

 だが光の中から突っ込んできたのは一機だけではなかった。

 

 トールのセンジンが加速をつけながらモビルスーツ形態となりビームサーベルでウィンダムを斬り捨てる。

 

 そして振り向きざまにアータルを構えダガーLを撃ち落とした。

 

 「よっしゃ!」

 

 「よし、このまま行くぞ」

 

 「了解!」

 

 どれだけ数で圧倒しようとも、彼らがいる限りアークエンジェルには近づけない。

 

 何故ならば彼らはこれ以上の激戦を潜り抜けてきた歴戦の勇士なのだから。

 

 

 

 

 そんなアークエンジェルの戦いを憎悪に満ちた視線で見つめている男がいた。

 

 仮面の男カースである。

 

 誰もいない小島に身を隠していた彼は湧きあがる感情を抑える事もなくモニターを見つめている。

 

 彼が特に強烈な憎悪を向けているのがフリーダムとブリュンヒルデであった。

 

 「……フリーダム、ドレッドノート、いやアイテルだったか」

 

 忌々しい屑共。

 

 そして他の戦場にも目を向けると、同盟軍の奮戦により地球軍は本土に向け進撃する事も出来ていない。

 

 完全に足止めされ押さえ込まれていた。

 

 彼を苛立たせていたもう一つの理由がこれである。

 

 これでは前大戦で起こったオーブ戦役と何も変わらないではないか。

 

 オーブに視線を向け、予定よりも遅れているのを確認すると口元を歪め、憎むべき者達を睨みつける。

 

 「……いいだろう。大気圏では碌に挨拶も出来なかったからな」

 

 カースは機体を浮上させると戦場に向けて動きだした。

 

 

 

 

 オーブ侵攻を指揮していたグラント・マクリーン中将はモニターを見ながら感心するように、ポツリと呟いた。

 

 「流石中立同盟といったところか」

 

 物量は勝っているにも関わらず、戦況はやや不利。

 

 攻め込んだは良いが、押し返されつつあった。

 

 その中核を成しているのがアークエンジェルとミネルバである。

 

 あの二隻に攻撃を仕掛けている連中は尽くが返り討ち。

 

 その勢いに押されてかナガミツ、ムラサメといった機体を中心にウィンダム部隊を圧倒していた。

 

 「アークエンジェルとフリーダムはともかく、あのザフトの新造戦艦もここまでやるとはな。ロアノーク大佐から聞いて通りか」

 

 ミネルバに関する情報は何度か交戦経験のあるファントムペインから報告が上がっている。

 

 当然グラント自身もそのデータは確認済みであった。

 

 ザフト所属である筈の新造艦が何故こんな場所で、しかも中立同盟と一緒になって戦っているのか知らないしグラントにとってはどうでも良い事である。

 

 どんな理由であれど敵である事に変わりは無いからだ。

 

 「それにしてもアークエンジェルか……」

 

 かつて自軍に所属していた、いまや伝説と化した浮沈艦と呼ばれる戦艦だ。

 

 『ヤキン・ドゥーエ戦役』終結後、同盟に対して返還要求を行ったらしい。

 

 しかし交渉によって多大な資金と一部の技術提供を引き換えに譲渡する形で決着したと聞いている。

 

 一部のモビルスーツに転用されているVPS装甲などはその恩恵である。

 

 加えてフリーダムだ。

 

 核動力で動いているアレの戦闘力は通常の機体を上回る。

 

 「同盟をユニウス条約に参加させていれば……いや、元々無理な話か。何にしろアレを落とすとなると相当の被害を覚悟しなければならないか」

 

 冷静に戦局を分析していたグラントの元に兵士が一人近づいてきた。

 

 「中将、ザムザザーの準備完了しました」

 

 「……そうか。出撃させろ」

 

 「了解」

 

 艦の甲板には緑色の大きな機体が鎮座していた。

 

 

 YMAF-X6BD『ザムザザー』

 

 

 甲殻類を思い起こすような外見であり、巨体ながら大出力のホバースラスターによって高い空戦能力を備えている。

 

 さらに強力な火器を多数装備しており、脚部のかぎ爪状の超振動クラッシャーを使用して格闘戦にも対応出来る機体である。

 

 しかしその分制御が複雑化したため、操縦には機長・操縦手・砲手の計3名を必要としており、この機体には最大の特徴ともいえる装備があった。

 

 それが上面に3基の陽電子リフレクター発生装置を装備している事だった。

 

 この陽電子リフレクターは戦艦の陽電子砲すら完全に無力化する事が出来、無類の防御力を誇っている。

 

 ブリッジにいる誰もが目を輝かせ、期待を寄せた視線を送っている。

 

 逆にそんな彼らをグラントは非常に冷めた視線で見つめていた。

 

 彼ははっきり言ってしまえばあんな物が役に立つとは思っていなかったからだ。

 

 一部の者など「これからの主力ははああいった大型のモビルアーマーになる」などと寝言をほざいているらしい。

 

 実にくだらない。

 

 精々盾代わりにしか使えないのが関の山であろう。

 

 前大戦の開戦当時からモビルスーツの力を見せつけられてきたグラントにはあれがとてもザフトに対抗できる物にはとても思えなかったのだ。

 

 グラントは自分の腕につけている年代物の時計を見た。

 

 もうじき降下部隊も来る筈。

 

 それで少しは戦況も変わるだろうと視線を戻した。

 

 彼が考えていた事は一つ。

 

 こんなくだらない戦いを一刻も早く切り上げたいという事だけだった。

 

 

 ウィンダムを順調に撃破していくシンやセリス。

 

 周囲を見渡すと他の同盟軍機も順調に地球軍を押し返している様子が見て取れる。

 

 「いける!」

 

 確かな手ごたえと共に操縦桿を強く握りインパルスを操っていくシン。

 

 しかしそんな気分も吹き飛ぶ機影が視界に入ってきた。

 

 「な、なんだよ、あれは!」

 

 「モビルアーマー!?」

 

 明らかに通常のモビルスーツなどとは比べ物にならない巨体。

 

 ミネルバのブリッジでザムザザーの姿を確認したタリアは即座に指示を飛ばした。

 

 「アーサー、タンホイザー発射用意!! あれと共に左前方の敵艦隊を薙ぎ払う! 同盟軍にも打電!」

 

 「ええっ! か、艦長!?」

 

 「あんな物に取り付かれたら終わりだわ! 急いで!」

 

 「り、了解!」

 

 どんな武装を備えているかは知らないが、使われる前に吹き飛ばせば問題は無い。

 

 状況が好転している今、あの機体ごと吹き飛ばし一気に押し込む!

 

 ミネルバの艦首ハッチが開き、タンホイザーの巨大な砲門がせり出される。

 

 「照準、敵モビルアーマー!」

 

 射線上にいた同盟軍機の退避を確認したと同時にタリアが叫んだ。

 

 「撃てぇぇ――!!」

 

 砲身にから迸った閃光が敵モビルアーマーに一直線に向かっていく。

 

 ザムザザーの後方にいた艦も巻き込まれ吹き飛ばされたのが確認できた。

 

 これであの機体も落とせた筈である。

 

 敵の艦隊に空いた穴から一気に押し込むように指示を出そうとした瞬間、予想外の出来事にタリアは我が目を疑った。

 

 「ま、まさか!?」

 

 薙ぎ払った艦共々撃破したはずのモビルアーマーの姿が再び視界に入ったのだ。

 

 「あれで倒せないなんて……」

 

 「取り舵20! 機関最大! トリスタン照準!!」

 

 指示を飛ばしながらタリアは内心焦りを感じていた。

 

 タンホイザーを跳ね返した敵をどう倒すのか、打開策が思いつかない。

 

 周囲の同盟軍に援護を求めようにも、向うも余裕がある訳ではないのだ。

 

 そんな彼らの状況をさらに悪くするように上空から飛来する物体をレーダーが捉えた。

 

 降下してくる幾つかの物体。

 

 それは地球軍の降下部隊。

 

 その中の数機は鳥のように大きな翼を持っていた。

 

 

 GAT-333『レイダー制式仕様』

 

 

 前大戦にて投入されたX370『レイダー』よりも先に開発されていた機体である。

 

 X370に実装されていた武装の大半が排除され、実弾武装がメインとなっている。

 

 さらにモビルアーマー形態においては他のモビルスーツも搭乗させる事が可能。

 

 そのレイダーの後ろにはアオイとスウェンが搭乗するイレイズMk-Ⅱとストライクノワールの姿もあった。

 

 「少尉、機体に問題はあるか?」

 

 「いえ、大丈夫です!」

 

 「では行くぞ。目標はあの艦、ミネルバだ」

 

 「了解」

 

 ミネルバの近くに降下した二人は機体の状態を確認すると作戦行動に移る。

 

 攻撃を仕掛けようとしてすぐに見慣れない巨体が目標である戦艦に向かっているのが見えた。

 

 「あれって……」

 

 「……ザムザザーか。あれの火力は強力だ。迂闊に近づくな。巻き込まれるぞ」

 

 「はい!」

 

 艦に攻撃を仕掛けようとするザムザザー。

 

 それを阻もうとインパルスがビームサーベルを構えて斬りかかった。

 

 しかしザムザザーは巨大な見た目に反し、機敏な動作でビームサーベルを回避すると逆に脚部のかぎ爪をインパルスに叩きつけた。

 

 振るわれた攻撃を回避するインパルス。

 

 アオイはその隙を突くようにビームライフルで攻撃を仕掛けた。

 

 「くっ」

 

 シンは咄嗟に振り返りシールドを掲げてビームを弾くと、攻撃してきたイレイズを睨む。

 

 「こいつ! 邪魔だぁぁ!!」

 

 イレイズが放つビームをシールドで防御しながらスラスター吹かせサーベルで斬り込んだ。

 

 素早く懐に飛び込んでくるインパルスに合わせアオイもまたシールドで防御体勢を取る。

 

 「舐めるな! これまで俺だって訓練を積んできたんだ!!」

 

 横薙ぎに振るわれたビームサーベルをシールドで受け止め、同時にこちらもサーベルを叩きつけた。

 

 「速いけど、中尉ほどじゃない!」

 

 アオイもまた『フォックスノット・ノベンバー』から訓練を積み続けてきた。

 

 そう簡単にはやられはしない。

 

 インパルスを突き放すとビームサーベルを構えて突っ込んだ。

 

 「はあああ!」

 

 「この!」

 

 互いに繰り出した斬撃をシールドが弾き飛ばし、激突を繰り返す二機。

 

 そんな二機の近くでスウェンはザムザザーと共にセイバーを攻撃する。

 

 連続で発射されたビームライフルショーティーの閃光がセイバーの行く手を阻み、その隙をついてザムザザーがミネルバに取りつこうと迫る。

 

 「やらせない!」

 

 ストライクノワールの攻撃を回避しながらビームライフルをザムザザーに撃ち込んだ。

 

 しかし攻撃が命中する直前に陽電子リフレクターを展開、ビームが完全に無力化されてしまう。

 

 「……遠距離からの攻撃じゃ、焼け石に水か」

 

 タンホイザーの一撃さえ防ぐ代物、ビームライフルの攻撃などなんの意味も無いだろう。

 

 「ミネルバには近づけさせないわよ!」

 

 迫るザムザザーにルナマリアのオルトロスが撃ち込まれるが、それも意味を為さず陽電子リフレクターに弾かれるだけだ。

 

 「ならば近接戦闘で倒すしかない!」

 

 そう判断したセリスはストライクノワールのフラガラッハ対艦刀をシールドで流し、ビームサーベルを構えてザムザザーに突進した。

 

 もちろんそれをさせるスウェンではない。

 

 背後から攻撃しようとビームライフルを構えるが、甲板上にいるレイのザクファントムが的確な射撃でスウェンの行動を邪魔してくる。

 

 「セリスはやらせない」

 

 「……大佐の言った通り、厄介な奴だ」

 

 ザクファントムの射撃を避けつつ反撃を加えていくスウェン。

 

 ミネルバを取り巻く戦況は完全に膠着状態に陥っていた。

 

 

 

 

 巨大モビルアーマーザムザザーと降下部隊によって追い詰められていくミネルバの様子はアークエンジェルを守るマユからも確認できていた。

 

 このままでは彼らはジリ貧だ。

 

 かと言って他の部隊に援護を頼んでもあのモビルアーマー相手では対抗できないだろう。

 

 シンには敵対すれば躊躇わないと宣言したものの、マユは決して彼らが落とされれば良いと思っていた訳ではない。

 

 むしろ別れ際の言葉こそ彼女の本音だ。

 

 援護に行くべきかもしれない。

 

 幸いアークエンジェルの周囲は変わらず多くの敵が寄ってきているが、レティシアが抑えてくれているので問題はない。

 

 だがここでマユにとって完全に想定外の事態が起こる。

 

 ミネルバの援護をレティシアに申し出ようとした瞬間、フリーダムに向かって強力なビームが撃ち込まれたのだ。

 

 「なっ!?」

 

 驚異的な反応でフリーダムを後退させビームをやり過ごす。

 

 攻撃が放たれた方角に視線を向けるとそこにいたのはユニウスセブンで交戦した灰色のシグルドがライフルを向けていた。

 

 

 ZGMF-F110『シグルドカスタム』

 

 

 前大戦で使用されたシグルドに細かい改修を加え、背中には高機動スラスターを装備、機関砲やミサイルポッドなどを装備している機体である。

 

 マユは鋭い視線でシグルドを睨む。

 

 抑えがたい怒りがわき上がってくる。

 

 目の前にいるのはあの『ブレイク・ザ・ワールド』を引き起こした元凶の一人。」

 

 感情的になるのも無理はない。

 

 「レティシアさん、あのシグルドは核動力を使ってます。あれは私が抑えますからアークエンジェルを頼みます!」

 

 「無茶はしないようにしてください!」

 

 「はい!」

 

 マユはビームライフルを構えると躊躇う事無くシグルドに叩き込む。

 

 あの機体については嫌な思いでしかない。

 

 いや、マユにとってはすべての元凶ともいえる存在だ。

 

 撃墜するつもりで放ったビームがシグルドに迫る。

 

 だがシグルドは放たれたビームをいとも容易く弾き飛ばすと、ビームサーベルで斬り込んで来た。

 

 袈裟斬りに振るわれたビームサーベルをシールドで受け止め、こちらもサーベルに持ち替えて斬り返した。

 

 お互いに斬撃を受け止た膠着状態。

 

 そこでシグルドから通信が入る。

 

 《……パイロットは誰だ》

 

 「貴方は―――」

 

 モニターに映っているのは大気圏で対峙した仮面の男。

 

 前と同様に相変わらずくぐもった声で、男か女かすら分からない。

 

 だがこちらに込められた激しい憎悪は感じ取る事が出来る。

 

 彼は一体?

 

 《そうか。お前が今のフリーダムのパイロットか》

 

 どこか歓喜に満ちた声で呟く。

 

 マユは相手の不気味さにひやりとした悪寒が背中に走る。

 

 「貴方は誰ですか?」

 

 《……カース》

 

 カース?

 

 それがこの男の名前なのだろうか?

 

 「……お前を、いや、お前達を未来永劫呪い―――そして殺す者だ」

 

 カースはビームサーベルを引くと同時にビームクロウを展開して下から斬り上げてくる。

 

 下から迫るビームクロウを後退してやり過ごすとクスィフィアスレール砲を撃ち出した。

 

 だがシグルドは受け止める事無くビームクロウを斬り上げた勢いのまま機体を上昇させレール砲をやり過ごすと、フリーダムに回し蹴りを叩き込んだ。

 

 マユは蹴りをシールドで受け、ビームサーベルで上段から振り下ろすとカースもまたそれを受け止めて見せた。

 

 上手い。

 

 カースは技量は間違いなくエース級である。

 

 さらにシグルドのような高性能の機体に搭乗している為に余計に厄介であった。

 

 アークエンジェルには変わらずレティシアのブリュンヒルデが防衛についている。

 

 だがフリーダムがシグルドと戦い始めた為に一機で他の敵機を抑えている為にあれでは迂闊に動けないだろう。

 

 ムウとトールのセンジンは降下してきたレイダー制式仕様と交戦している。

 

 飛行形態になったセンジンとモビルアーマー形態のレイダーがすれ違う。

 

 ムウは撃ちかけられた機関砲を旋回して回避するとビームライフルを撃ち込んだ。

 

 「甘いぞ!」

 

 ムウはレイダーの副翼を破壊しバランスを崩した瞬間にモビルスーツ形態になり、ビームサーベルで胴体ごと真っ二つに斬り裂く。

 

 だが背後からもう一機のレイダーが放った対空ミサイルが迫ってきた。

 

 シールドで防ごうとしたムウをトールがビームライフルでミサイルを撃ち落とした。

 

 「大丈夫ですか、フラガ一佐」

 

 「ああ」

 

 だが数が多い。

 

 レイダーだけでなくウィンダムも攻撃を仕掛けてくる。

 

 ムウとトールは邪魔をしてくるウィンダムを撃退しながら空を飛び回るレイダーを追って機体を上昇させた。

 

 

 

 

 同盟軍オーブ司令部ではカガリが難しい顔でモニターを見つめていた。

 

 先程まではこちらがやや有利な状況だった。

 

 しかし地球軍の降下部隊に巨大モビルアーマー。

 

 そしてユニウスセブンを落下させた実行犯の一人が乗るシグルド。

 

 これらの参入により、戦況は五分の状態にまで押し返されていた。

 

 だが、カガリはこの状況にどこか違和感を覚えていた。

 

 地球軍の勢いがどこか弱い気がするのだ。

 

 より正確に言えば戦場を広げてはいるが、積極的に本土に進撃しようとしていないような印象を受ける。

 

 「妙だな。何故地球軍は積極的に攻めてこない?」

 

 カガリが地球軍の動きに疑問を持ち始めた時、それは起きた。

 

 状況を観測していたオペレーターが振り返って叫んだ。

 

 「大変です! 研究施設の一部が爆発! 火災発生!」

 

 「奇襲か!?」

 

 かつてオーブ戦役において地球軍との戦闘中にまったく別方向から奇襲を受けた事があった。

 

 その時の教訓は今も生かされ警戒していたのだが、それが地球軍の狙いなのだろうか?

 

 「いえ、周囲に敵の機影は一切ありません!」

 

 訝しむカガリにシュウが珍しく焦ったように駆け寄ってくる。

 

 「カガリ様」

 

 「どうした?」

 

 「申し訳ありません。セイランを監視していた者から彼らを見失ったと連絡が入りました」

 

 ショウの報告にカガリは顔を顰めた。

 

 まさかとは思うが先程の爆発は―――

 

 そこでさらに悪い知らせが入ってきた。

 

 「これは……護衛艦の一部離脱していきます!」

 「何!?」

 

 出撃していた護衛艦が離脱し地球軍側に向かっていく。

 

 当然搭載機であったムラサメも一緒にである。

 

 離脱していく護衛艦に乗っていたのは言うまでもなくセイラン親子と彼らに賛同する者たちであった。

 

 オーブから離脱していく彼らはヴァールト・ロズベルクからの条件をすでに満たしている。

 

 セイラン親子が提示された条件。

 

 それはオーブの新型のモビルスーツを奪取してくる事だった。

 

 彼らの乗る護衛艦の格納庫には次期主力機開発計画の試作機が乗せられていた。

 

 「……護衛艦を止めろ。撃沈させる事も許可する」

 

 「り、了解」

 

 カガリは強く拳を握りしめ、激しい憤りを抑えながら厳しい表情でモニターを睨んでいた。

 

 

 

 

 イレイズが振るってきたビームサーベルを受け止めながらシンは焦りを抑えられずにいた。

 

 このパイロットの技量はそこらのウィンダムよりは上だが、十分に対応可能である。

 

 シンが焦っていたのは別の理由だ。

 

 それはコックピットに鳴り響く警戒音だった。

 

 バッテリー残量が残り僅かになっているのだ。

 

 セカンドステージシリーズがいかに最新型で従来の機体よりもバッテリーの消費が抑えられているとはいえ限界はある。

 

 ここまでの激戦でインパルスのバッテリーは限界に近付いていたのだ。

 

 「くっそぉぉ!!!」

 

 その前にケリをつけてやる!

 

 シンの焦りを感じ取ったアオイは機体を僅かに沈めインパルスの斬撃をやり過ごす。

 

 「ここだぁぁ!!」

 

 「しまっ―――」

 

 イレイズのビームサーベルがインパルスの左足を切断した。

 

 チャンスである。

 

 しかしアオイはあえてそこで踏み込まず、バランスを崩したインパルスをシールドで殴りつけ海面に向け叩き落とした。

 

 叩き落とされたシンを待ち受けていたのは海面ではなく、セイバーと交戦していた巨大なモビルアーマーだった。

 

 ザムザザーのかぎ爪がインパルス残った右足を掴み振り、力一杯振り回す。

 

 「ぐあああああああ!!!」

 

 「シン!!!!」

 

 セリスがシンを助けようとするがイレイズの放ったビームが進路を阻んだ。

 

 「く、このォォォ!!」

 

 シンは必死に逃れようとするがかぎ爪は外す事が出来ない。

 

 こうなればレッグフライヤーを切り離す他ない。

 

 そう判断した瞬間、最悪のタイミングでそれは起こった。

 

 インパルスの装甲から色が消え失せたのである。

 

 バッテリーが切れた事により起こった、フェイズシフトダウン。

 

 装甲が落ちた事により、かぎ爪が容赦なく右足をちぎり捨て機体ごと海上へと叩き落とした。

 

 それを見ていたセリスは凍りつく。

 

 このままではシンが死ぬ。

 

 そんなのは―――

 

 そしてシンもまた死を意識した。

 

 「……ここで俺は……終わり……なのか?」

 

 何にも出来ずに。

 

 シンは無意識に視線をオーブに向けた。

 

 マユは今頃どうしているのだろうか。

 

 考えるまでもない。

 

 今も戦っている筈。

 

 ならば俺も―――

 

 

 

 「「こんなところで―――」」

 

 

 

 「やられてたまるかァァァァ!!!!」

 

 

 

 「死なせない!!!!」

 

 

 

 シンと―――セリスのSEEDが弾けた。

 

 

 

 

 シンに再び大気圏での感じた鋭い感覚が全身に駆け巡る。

 

 フットペダルを思いっきり踏み込み、機体を回転させザムザザーが放った止めの一撃を避けると同時にミネルバに思いっきり叫ぶ。

 

 「メイリン、デュートリオンビームを!! その後レッグフライヤー、ソードシルエットを射出!!」

 

 《は、はい!》

 

 インパルスを追うようにザムザザーが迫ってくる。

 

 だがそこにセイバーが突進してきた。

 

 「やらせない!!!」

 

 セリスはイレイズの放つビームを次々と回避。

 

 ザムザザーにビームサーベルで斬り込んだ。

 

 突っ込んできたセイバーに大型ビーム砲を構えて迎撃する。

 

 しかしセリスは一切怯まない。

 

 「はあああああああ!!!!!」

 

 今までに感じた事のない感覚に身を任せ迫る閃光をすり抜ける。

 

 そして飛行形態に変形してザムザザーの下から回り込みビームサーベルを一閃した。

 

 セイバーの放ったビームサーベルの斬撃により背後に装備されたかぎ爪ごと脚部を斬り落とした。

 

 その間にインパルスはミネルバから発射されたデュートリオンビームによるエネルギー補給を受けていた。

 

 デュートリオンビーム送電システム。

 

 これは対象となる機体の受信装置にデュートリオンビームと呼ばれる粒子線を照射することで、母艦に着艦することなくエネルギーの補給を行うことが可能なシステムである。

 

 バッテリーを補給したインパルスは再び装甲を展開し鮮やかな色に染まった。

 

 シンは傷ついたレッグフライヤーとフォースシルエットをパージ。

 

 さらにミネルバより射出された新たなレッグフライヤーとソードシルエットを装着したインパルスはスラスターを全開にして敵に向かっていく。

 

 「うおおおおおお!!!!!」

 

 セイバーの一撃でバランスを崩したザムザザーに上段からエクスカリバーを叩きつけた。

 

 エクスカリバーの斬撃で陽電子リフレクター発生装置を完全に破壊したインパルスが飛び退くと同時にセイバーが上からビームサーベルを突き刺した。

 

 セイバーのビームサーベルが機体を切断していくと、斬り裂かれたザムザザーは火を吹き海面で爆散した。

 

 シンとせりスの二人はそれで止まらない。

 

 ミネルバの進路を阻む艦に降り立つとエクスカリバーを一閃、艦橋を斬り崩す。

 

 さらに隣の艦に飛び移り、同盟軍機を狙う砲台を斬り裂いた。

 

 インパルスにより次々と炎に包まれていく戦艦。

 

 そこにデュートリオンビームによって補給を終えたセイバーも駆けつける。

 

 「これでぇぇ!!」

 

 戦艦から放たれるビームを回避し、ビームライフルで砲台を次々と破壊するとアムフォルタスプラズマ収束ビーム砲で甲板を撃ち抜いた。

 

 まさに圧倒的。

 

 二機の猛攻を誰も止められない。

 

 それを艦橋で見つめていたグラントは即座に撤退指示を出した。

 

 「撤退信号を出せ」

 

 「中将!? しかし―――」

 

 「これ以上の戦闘は無意味だ。それに最低限の目的は達成した。急げ」

 

 「り、了解」

 

 そう最低限の目的は達成している。

 

 これ以上無駄な犠牲を出す必要などない。

 

 旗艦から射出される撤退信号によって戦闘は終了した。

 

 「少尉、退くぞ」

 

 「……了解」

 

 アオイは悔しさを噛みしめていた。

 

 隙をついてインパルスを叩き落としたまでは良かった。

 

 後はザムザザーの攻撃で撃墜されるだけだと、そう思ったのだ。

 

 だがその考えは甘かった。

 

 その後インパルスとセイバーは明らかに動きを変えたのだ。

 

 つまり彼らは今まで本気で戦ってなどいなかったのである。

 

 「ちくしょう」

 

 圧倒的な戦闘力でザムザザーを落とし、戦艦を次々と沈めていった。

 

 アオイは敵の戦闘に圧倒されてしまった。

 

 仮に動きの変わった二機と戦ったらあっさりと返り討ちにされていただろう。

 

 要するにアオイは二機の戦闘を見て一瞬怯んでしまったのだ。

 

 それが悔しかった。

 

 「いつか俺が……」

 

 アオイは目の前で猛威を振るう二機の姿を目に焼き付けるとストライクノワールの後について後退していった。

 

 

 

 

 地球軍が撤退し始めるとカースは舌打ちした。

 

 「チッ、今回はここまでか」

 

 カースはフリーダムを突き放すと後退を開始する。

 

 「逃がしません!」

 

 カースは危険だ。

 

 マユは彼の憎悪を感じ取った瞬間、そう直感した。

 

 彼がこれ以上何か起こす前にここで倒すべきだと判断したのだ。

 

 シグルドを追撃すべくビームサーベルを構えて前に出る。

 

 「安心しろ、お前は必ず殺す」

 

 カースはフリーダム目掛けてミサイルを一斉に撃ちこんだ。

 

 機関砲で迎撃し、爆煙が周囲に満ちる中シグルドは反転するがそこにブリュンヒルデが立ちはだかる。

 

 「行かせない!」

 

 「邪魔を」

 

 カースは立ちはだかる機体に殺意を込めて睨みつけ、ヒュドラを海面に撃ちこんでブリュンヒルデの視界を閉ざした。

 

 そこでレティシアの耳にもまたカースの声が届く。

 

 「お前もだ。殺してやる、レティシア」

 

 視界が晴れた時にはシグルドの姿はなかった。

 

 「レティシアさん、大丈夫ですか?」

 

 「ええ、私は無事です」

 

 何故あのシグルドがここにいただろうか?

 

 疑問はあるがどうにか戦闘は終了した。

 

 それでもマユ達が素直に喜べなかったのは間違いなくカースの憎悪の触れた所為だろう。

 

 なんとも言えない不安が消えない中で、マユはオーブを離脱していくミネルバの姿を見つめていた。




機体紹介、キャラクター紹介更新しました。

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