機動戦士ガンダムSEED effect   作:kia

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第7話   空を流れる破滅の星

 

 

 

 地球に向けて移動しているユニウスセブンの周囲では各勢力の機体が入り乱れて戦闘を繰り広げている。

 

 ジンⅡがビーム砲を発射しながら接近し対艦刀でジンを斬り捨てる。

 

 その背後から援護に立つフローレスダガーのビームランチャーから凄まじい閃光が放たれた。

 

 後方支援を任されたフローレスダガーが装備しているのがバーストコンバットと言われる装備だ。

 

 強力なビームを放つビームランチャーとミサイルポッド、さらにグレネード・ランチャーを搭載した砲撃戦用の武装である。

 

 これらの火力を一斉に発射されれば、そう簡単には近づけない。

 

 その高い火力をフルに使いフローレスダガーの猛攻がジン部隊に襲いかかる。

 

 一緒に駆けつけた同盟軍の機体も負けてはいない。

 

 アドヴァンスアストレイがビームライフルでジンを牽制。

 

 回避先に飛行形態で先回りしたナガミツがアグニ改で敵機をまとめて薙ぎ払う。

 

 ナガミツの強力なビーム砲を警戒したジン部隊をヘルヴォルが強襲。

 

 ミサイルポッドは放出すると一か所に誘導されていた敵部隊は大きく隊列を乱した。

 

 そこにつけいるようにアドヴァンスアストレイがビームサーベルで斬り込んでいく。

 

 「チィ、邪魔をするか!!」

 

 サトーは憤怒に顔を歪めながら叫ぶと放たれたミサイルを迎撃、アドヴァンスアストレイの放った斬撃を回避した。

 

 ジン部隊は先程までのように敵を翻弄する事が出来ない。

 

 駆けつけてきた同盟軍とテタルトス軍の存在は非常に大きく、数の上で劣るサトー達にとって不利な状況になっていたのだ。

 

 「我らの思いはやらせんぞ!!」

 

 それでもサトー達の戦意は全く落ちる事は無い。

 

 無謀ともいえる動きで敵部隊と果敢に戦闘を行っていく。

 

 彼らは退かない。

 

 どれほど自分達が追い込まれようとも、自分達の思いを遂げるまでは。

 

 失うものはもう何も無いのだから。

 

 

 

 

 思わぬ形で妨害される事になったユニウスセブン破砕作業。

 

 ミネルバや先行部隊の奮戦。

 

 駆け付けてきた同盟軍、テタルトス軍の支援によってようやくまともな作業が開始された。

 

 ゲイツRが設置したメテオブレーカーが作動しドリルが地面へと潜っていく。

 

 すると内部から眩いばかりの閃光が迸り、同時に縦に罅が入るとユニウスセブンが真っ二つに割れていく。

 

 「やった!」

 

 「よし!!」

 

 作業を行っていたパイロット達から歓声が上がる。

 

 特に初期から作業に従事していた者達にとってはようやくという思いがあるのだろう。

 

 そして同じく割れていく大地を見ていたディアッカやニコルも思わず声を上げた。

 

 「グレイト!」

 

 「やりましたね!」

 

 作業を行っていた者の中で隊を率いていた彼らが一番この状況に対して焦りを感じていたのだ。

 

 これで少しは状況も好転するだろうと安堵した二人の耳に通信機から懐かしい声が響いた。

 

 「まだだ。もっと細かく砕かないと」

 

 「最後まで気を抜くな!」

 

 声が聞こえたと同時に同盟軍のアルヴィトとテタルトスのガーネットが近づいてきた。

 

 「その声、イザークにアス―――」

 

 「今はアレックスだよ、ニコル」

 

 ニコルの声を遮るようにアレックスが口を挟むと事情を察したように口を噤んだ。

 

 彼の立場からすれば本名を名乗るのはリスクがあるのはディアッカ達も分かっていたからだ。

 

 「……元気そうだな、ディアッカ、ニコル」

 

 イザークはやや気まずそうに声を掛けてくる。

 

 理由があったとはいえ自軍を裏切るような形になってしまった事を未だに気にしているのだろう。

 

 アカデミーから付き合いがあり、彼の性格をよく理解していたディアッカはあえて明るく返答した。

 

 「そっちもな、イザーク」

 

 「壮健で何よりですよ、二人とも」

 

 「ニコルも」

 

 ここに集ったメンバーはかつてザフトのエリート部隊と言われたクルーゼ隊所属し、共に戦った仲間である。

 

 前大戦中、経験した出来事を切っ掛けにそれぞれが別の道を歩む事になった彼らであったが、お互いわだかまりを持つ事もなく今でも仲間意識は消えていない。

 

 だからだろうか。

 

 集まった四機はいつの間にか自然と編隊を組み、メテオブレーカーの護衛についていた。

 

 敵からはさぞおかしな光景に見えた事だろう。

 

 それぞれの勢力の機体が完璧な編隊を組んでいるのだから。

 

 だがそれで怯むような者は襲撃者にはいなかった。

 

 「こけおどしが通じるかよ!!」

 

 「これ以上は!!」

 

 ジンが連携をとりつつメテオブレーカー破壊に動く。

 

 彼らの実力が高いのは事実である。

 

 しかし今回に限っては迂闊だったと言わざる得ないだろう。

 

 「やらせないぞ!!」

 

 ジンはビームカービンを構えると護衛の機体ごとメテオブレーカーを破壊する為に狙いをつける。

 

 しかしビームが放たれるより早く彼らは動いていた。

 

 「イザーク!」

 

 「いちいち命令するな!」

 

 アレックスとイザークは同時ジンに回り込む。

 

 ジンのパイロットは二機の素早い反応に対応しきれないのか動きを止めてしまった。

 

 その隙を逃す二人ではない。

 

 アルヴィトが上段から振り下ろした斬艦刀の一撃がジンのシールドごと左腕を叩き落とす。

 

 そしてガーネットの三連ビーム砲によりコックピットを貫かれ爆散した。

 

 「相変わらずだな、イザーク」

 

 「貴様もだ」

 

 「本当に変わらないですね」

 

 「やれやれ」

 

 こんな時でも昔と変わらず言い争う二人に苦笑しながらニコルの青いザクが飛び出すとガトリング砲で牽制。

 

 距離を詰めてビームアックスでジンの両足を斬り飛ばした。

 

 「ディアッカ!」

 

 「おう!」

 

 さらに蹴りを入れて下方へと叩き落とすと、ディアッカの黒いザクがオルトロスで狙いをつけて待ち構えていた。

 

 なす術無く落下していくジンはディアッカの放った一撃によって消し飛ばされた。

 

 「良し! じゃ、このままいきますか!!」

 

 「ええ」

 

 ガーネットがビームサーベルを構えて斬り込んだと同時にニコルがガトリング砲で牽制する。

 

 ザフトに所属していた時も組んで行動する事が多かった二人は相手の事を良く理解していた。

 

 その動作には躊躇も乱れも無い。

 

 ニコルの的確な牽制に動きを完全に阻害されてしまったジンは次の瞬間、接近してきたガーネットのビームサーベルにより袈裟懸けに斬り裂かれた。

 

 さらにその近くではディアッカの放った砲撃に合わせ、斬艦刀を振るったイザークが敵機を撃破していた。

 

 連携ならばこちらの二人も負けてはいない。

 

 相手の事を完璧に把握した動きで敵機を撃破していく姿は見事と言うしかないだろう。

 

 四機の高度な連携と技量によりジン達は完全に押され翻弄されていった。

 

 実力者揃いの襲撃者を圧倒していたのはディアッカ達ばかりではない。

 

 ミネルバから出撃したマユもまた敵機を順調に撃退していた。

 

 「そこをどいてください!!」

 

 ビームクロウを展開して襲いかかってくるシグルドの斬撃をたやすく回避。

 

 逆にビームトマホークで胴を真っ二つに両断する。

 

 爆散したシグルドの閃光に紛れ、メテオブレーカーを狙ってきたジン達をビーム突撃銃で次々撃ち落としていく。

 

 「ユニウスセブンを地球に落させる訳にはいきません!」

 

 マユは鋭く目の前の敵機を睨みつけると強く操縦桿を握る。

 

 彼女の内にあったのは自分の大切な人達を守るという強い決意であった。

 

 「貴方達がなんであろうと好きにはさせない!」

 

 獅子奮迅の戦いぶりでマユは敵を蹂躙していく。

 

 そんなマユのそばでシンもまたシグルドを相手に奮戦していた。

 

 「落ちろ!!」

 

 振りかぶられたビームクロウを後退する事で避け、今度は逆に懐に飛びこむとビームサーベルでコックピットを貫き撃破する。

 

 「ハァ、ハァ、くそ! こいつら、しつこい!!」

 

 敵はシグルドの性能とパイロットの技量が合わさりかなり厄介であった。

 

 しかもこの場所、ユニウスセブンは徐々に地球に近づきつつある。

 

 確実に迫るタイムリミット。

 

 それがシンの神経を予想以上にすり減らしていた。

 

 正直マユのフォローに回る余裕も無い。

 

 そんなシンの隙を突くようにシグルドがヒュドラを撃ち込んできた。

 

 「くっ!」

 

 不意を突かれたシンは咄嗟にシールドを掲げてヒュドラを受け止める事に成功する。

 

 だが動きを止めてしまい、背後から攻撃してきたジンに対する反応が遅れてしまった。

 

 「落ちろ!」

 

 「しまっ―――」

 

 「シン!!」

 

 インパルスを落とそうとビームカービンを構える敵機にセイバーのビーム砲がジンを貫き閃光へ変える。

 

 さらに別方向から撃ち込まれたビームの射線にレイがシールドで防御するとルナマリアのオルトロスの砲撃で敵を牽制しながら引き離す。

 

 「シン、無事か?」

 

 「大丈夫?」

 

 「ああ。ありがとう、レイ、ルナ」

 

 正直危なかった。

 

 皆が来てくれなかったら落とされていたかもしれない。

 

 「俺が出る。ルナマリア、援護を頼む」

 

 「了解!」

 

 レイのザクファントムが前に出るとルナマリアもオルトロスを構えた。

 

 「ハァ、良し、俺も!」

 

 シンは息を整えながらマユが戦っている場所に向かおうとするも、レイ達の迎撃を潜り抜けた敵が襲いかかってくる。

 

 「邪魔だぁぁ!!」

 

 「シン、無茶したら駄目だよ!  援護するから!」

 

 「頼む!」

 

 ビームサーベルを構えて敵機に突っ込んでいくシンをセリスが援護する。

 

 白と赤のガンダムが連携を取りながら、戦場の中を駆け抜けていった。

 

 

 

 

 迫るタイムリミットに呼応するように激しさを増していく戦場の中、エターナルは襲撃者達の母艦を探索していた。

 

 アレックスの推測が正しければ、敵の母艦は戦場の近くにいる事になる。

 

 そして艦長であるバルトフェルドも同じように考えていた。

 

 元々予測でしかなかった。

 

 しかし今では間違いないと確信している。

 

 その理由はシグルドが奇襲を仕掛けてきたタイミングであった。

 

 同盟軍経由で識別情報と一緒に受け取った戦場の情報を分析していた際に気がついた。

 

 もしもあのタイミングで奇襲を仕掛けなければメテオブレーカーはもっと早くに作動して状況はずいぶん変わっていた筈。

 

 つまりそれを阻止するという意味ではアレは絶好のタイミングであったと言える。

 

 しかも戦場の中で戦っていた者にあのタイミングで指示を出す事は難しい。

 

 つまりシグルドに奇襲を指示した人物がいて、さらにその状況を戦場の近くで見ていたのだ。

 

 「さて鬼が出るか、蛇が出るか」

 

 考えを纏めながら戦場の様子を観察していた時、周囲を探索していたセレネのフローレスダガーから通信が入ってきた。

 

 《バルトフェルド艦長、二時方向の瓦礫の陰にナスカ級を確認しました》

 

 「ザフトから受け取った識別情報で確認しろ」

 

 《……識別完了。該当艦ありません》

 

 「当たりだな」

 

 間違いなく奴らの母艦だろう。

 

 「良し、残りのモビルスーツを出撃させろ! ナスカ級を落とせ! 全軍に情報伝達も忘れるなよ!」

 

 「了解!」

 

 エターナルが発見したナスカ級の情報は即座に戦場全体に伝わり、当然それはディアッカ達と編隊を組み動いていたアレックスにも届いていた。

 

 「見つけたか」

 

 ビームサーベルで容易くジンを斬り伏せ、怒りを抑えながら呟く。

 

 「……やはりこの近辺に潜んでいたか」

 

 アレックスは固く操縦桿を握りしめた。

 

 元々自分達が任された任務、だからこそこんな事態を引き起こした首謀者はこの手で―――

 

 「ディアッカ、ニコル、イザーク、後は頼む」

 

 「ふん、任せておけ」

 

 「おう、そっちもしっかりな」

 

 「気をつけてください」

 

 「ありがとう」

 

 ガーネットは反転するとナスカ級を発見したポイントへと急行した。

 

 

 

 

 テタルトスによって母艦が発見されてしまったパトリック達は完全に追い込まれていた。

 

 周囲にはエターナルから出撃したフローレスダガーとジンⅡがナスカ級を囲むように攻撃を仕掛けてくる。

 

 機関砲がミサイルを撃ち落とすと爆発の衝撃がブリッジにまで伝わり、艦を大きく揺らした。

 

 「おのれぇ!」

 

 憤怒の表情でジンⅡを睨みつけるパトリック。

 

 しかし迎撃しようにも護衛のシグルドは他のテタルトスの機体と交戦中であり、艦の護衛に回れるほど余裕はない。

 

 元々数が違うのだ。

 

 それに現在ユニウスセブン破砕作業妨害に数を割いている分こちらが不利なのは自明の理。

 

 このままでは艦が落とされるのも時間の問題だ。

 

 誰もがそう思い始めたその時、彼らに手を差し出す者がいた。

 

 「仕留める!」

 

 ブリッジを破壊しようとフローレスダガーがビームライフルを構える。

 

 しかし突然ジンⅡの右腕がビームライフルごと吹き飛ばされ、さらに追撃するように攻撃が迫る。

 

 「何だと!?」

 

 回避しきれず直撃する瞬間、セレネのフローレスダガーが射線上に割り込みシールドで受け止めるとビームが弾けた。

 

 「大丈夫!? エターナルまで後退して!」

 

 「す、すまない」

 

 後退していくジンⅡを守るように立ちふさがるセレネは攻撃を仕掛けてきた敵を警戒するが、正面に見えた機体に思わず目を見開いた。

 

 「あれは、ザク!?」

 

 ビーム突撃銃を構えこちらを狙っているのは紛れも無くザフトの新型モビルスーツ『ザク』であった。

 

 「どうしてザフトが攻撃を?」

 

 確かにプラントとは険悪な関係ではあるが、今回はユニウスセブン破砕作業支援の為に協力する事になっていた筈だ。

 

 すぐさま識別コードを確認するが、映し出された情報には所属は表示されない。

 

 つまりこのザクもジンやシグルドの仲間ということか?

 

 戸惑うセレネにザクが一気に距離を詰めるとビームトマホークを構えて襲いかかってきた。

 

 「くっ、こんなところでやられる訳にはいかない!」

 

 振りかぶられたビームトマホークを後退する事で回避し、ビームライフルで狙い撃つ。

 

 だが放たれたビームをザクはたやすく回避するとさらに反撃してきた。

 

 「セレネ!」

 

 見かねた僚機であるフローレスダガーがフォローに入るが、奇妙な事にザクは深追いする事無くビーム突撃銃で牽制しながら徐々に後退していく。

 

 「ザフトめ! 逃がさん!」

 

 「待って、迂闊に追っては―――」

 

 罠の可能性があると言い掛けたが最後まで言葉にならなかった。

 

 ザクを追っていたフローレスダガーは瓦礫の陰から現れた灰色のシグルドが展開したビームクロウにより串刺しにされていたからである。

 

 「まだシグルドがいたの?」

 

 セレネはビームライフルを灰色のシグルドに向け、動く気配のない敵機をロックしてトリガーを引く。

 

 だが放たれたビームはシグルドに直撃する事はなく、無造作に振るったシールドで弾かれてしまった。

 

 「なっ」

 

 避ける素振りすら見せずに、弾き飛ばすとは。

 

 こちらの射線を見切っていた事といい、あの機体のパイロットは並みの腕ではない。

 

 驚くセレネを尻目に後退していたはずのザクが背後から回り込んでビームトマホークで斬り込んでくる。

 

 「くっ、まだ!」

 

 ビームトマホークの斬撃をシールドで流すとビームサーベルで斬り結んだ。

 

 ザクとフローレスダガーの戦いを灰色をしたシグルドのコックピットで見ていたカースはニヤリと笑った。

 

 何故なら今まで協力していたはずのザフトとテタルトスが戦闘を開始して、戦場はさらに混乱していたからだ。

 

 原因は言うまでもないだろう。

 

 今カースの前で行われている事が他の場所でも起こっているからだ。

 

 識別情報が無くとも最新鋭機であるザクに襲撃されればザフトの関与を疑うのは当然である。

 

 二国間の根底に存在する不信感は簡単に消える事はない。

 

 火種は彼ら自身の中にあるのだから、後はそれを煽ってやればよいのだ。

 

 それを満足そうに見た後、パトリックが乗船しているナスカ級に通信を入れた。

 

 「大丈夫ですか、ザラ議長閣下」

 

 《貴様、どういうつもりだ!》

 

 パトリックは退いたと思っていたカースがここにいる事が気に入らないらしい。

 

 常人ならば竦み上がってしまうほどの声で怒鳴られているにも関わらずカースは少しも動揺した様子も無く、笑みを浮かべていた。

 

 「閣下のお手伝いをしようかと」

 

 《余計な事をするな!》

 

 「そう仰られずに……それにしても閣下。何故この場にいる者達に教えてやらないのですか? ユニウスセブンを地球に落す。これは今必要な事であるのだと」

 

 カースの言葉にパトリックはさらに視線を鋭くした。

 

 「この場にいる者達の多くはコーディネイターです。閣下が声を上げるだけで、今の世界の真実に気が付く者もいるでしょう」

 

 パトリックは気に入らないとばかりに鼻を鳴らす。

 

 「どういうつもりか知らんが、良いだろう。乗ってやる」

 

 彼自身カースの言うようになるとは思っていない。

 

 忌々しい事にカースもまたそうなるとは微塵も思っていない筈である。

 

 しかしこの状況をさらに混乱させる事は出来るだろう。

 

 すでにザフトの作業部隊がいくつかメテオブレーカーを作動させユニウスセブンはずいぶん砕かれてしまった。

 

 これ以上やらせはしない。

 

 もう少し時間を稼げばこちらの勝ちなのだから。

 

 

 

 

 各勢力のモビルスーツが入り乱れ、激闘をくり広げる中、それは何の前触れも無く戦場にいた全員の耳に届いた。

 

 《この宙域にいるすべての者達に告げる。私はパトリック・ザラだ》

 

 突然の流れてきた声に戦場にいた者達が驚愕し、皆一様に動きを止めた。

 

 だが一番衝撃を受けていたのは間違いなくアレックスであっただろう。

 

 「……父上!?」

 

 《この宙域にいるザフトの兵士達に、いやこの場にいるすべてのコーディネイターに問う。何故貴様らはナチュラルなどを守ろうとするのか? 奴らが我々にしてきた事を忘れたのか! 核を撃ち込みこのユニウスセブンを破壊し、大事な者達を奪い去った奴らの蛮行を!!》

 

 響く声に耳を傾けながら動きを止めず戦闘を継続していたアレンのエクリプスは三機のガンダムと激闘を繰り広げていた。

 

 カオスが放ったミサイルを迎撃し、アビスのビーム砲を回避する。

 

 同時にビームサーベルで斬り込んで来たストライクEの斬撃を流しながらアレンは侮蔑するように吐き捨てた。

 

 「……自分がした事を棚に上げて良く言う」

 

 憤りに任せエッケザックスでストライクEの掲げたシールドごと吹き飛ばし、接近してきたカオスを盾で殴りつける。

 

 「ぐっ!」

 

 「チッ、こいつだけはやはり別格か!」

 

 あれだけの斬撃を受けても致命傷にならないのはスウェンの高い技量故だろう。

 

 吹き飛ばされたストライクEは態勢を立て直すとエクリプスにビームライフルショーティーを向ける。

 

 それを囮にアビスが攻撃を仕掛けた。

 

 「このぉ! 落ちろよ!!」

 

 カリドゥス複相ビーム砲を放ちながら、ビームランスを突きを叩きこむ。

 

 しかしエクリプスを捉える事は出来ず、逆袈裟から突き上げられたエッケザックスに胸部を破壊されてしまう。

 

 「ぐああああ!!」

 

 「アウル!? この!!」

 

 「待て、スティング。撤退命令だ」

 

 スウェンの言う通りガーティ・ルーから撤退信号が発射されていた。

 

 「くそ! アウル!」

 

 「無事だよ、わかってる!」

 

 アウルは思わずコンソールを殴りつけ、カオス、ストライクEと一緒に後退していく。

 

 「撤退したか」

 

 あの艦の指揮官はかなり冷静らしい。

 

 アビスとカオスの損傷が激しい事も退いた理由なのだろうが、一番大きな理由はおそらく高度であろう。

 

 すでにかなり地球に近づいている為、このままでは艦ごと重力に引かれ、地球に落ちる事になると判断したのだ。

 

 敵の手ごわさを再確認しながら退いていく敵機をアレンは黙って見届けると、今もなお続くパトリックの声に顔を顰め機体をナスカ級の方に機体を向けた。

 

 アレンはパトリックをここで倒しておくべきだと判断したのだ。

 

 これ以上彼は放置できない。

 

 「……ここまでだ、パトリック・ザラ」

 

 途中でザフトに攻撃を仕掛けようとしているフローレスダガーの右腕をビームライフルで撃ち落とす。

 

 「なっ」

 

 「気持ちは分かるが撃たせる訳にはいかない。そこのゲイツ、後退だ。向かってくる奴以外は無視しろ」

 

 「り、了解」

 

 テタルトスがザクの襲撃を受けた事で疑心暗鬼に陥るのも分かる。

 

 背後から撃たれてはたまらないからだ。

 

 だがもう少し慎重に動いてもよさそうなものだが。

 

 それはテタルトスに攻撃しているザフトにも言える事ではある。

 

 「所詮水と油か」

 

 ミネルバからはテタルトスとは極力戦闘は避けろと命令が出ている。

 

 議長も今回の件をこれ以上大きな問題にしたくは無いのだろう。

 

 こちらも後で問題にされたくはない。

 

 攻撃してくる相手以外は無視。

 

 出来るだけ撃墜しないようにビームサーベルとライフルを使い分けて武装とメインカメラだけを破壊していく。

 

 「そこをどけ!」

 

 「な!?」

 

 「つ、強い」

 

 幾つかの機体を戦えないように戦闘不能にすると見覚えのある紅い機体がザフトの機体を攻撃しているのを発見した。

 

 向こうもどうやら同じく撃墜はせず、武装とメインカメラのみを狙って攻撃しているようだ。

 

 「……殺す気はないようだが、放っておく事もできないか」

 

 ビームライフルで撃墜しないように武装のみを狙ってガーネットを狙撃する。

 

 しかしガーネットは余裕でビームを回避するとエクリプスにビームサーベルで斬り込んできた。

 

 「こいつは!」

 

 アレックスも立ちふさがったエクリプスの姿に奇しくもアレンと同じ結論に達していた。

 

 味方が退くまでこいつを放っておけないと。

 

 さらに早くパトリックのいる場所に行かなければならないという焦りもあり、容赦なく攻撃を加えていく。

 

 「どけぇぇ!!」

 

 ガーネットの袈裟懸けの一撃をシールドで受け止めたエクリプスは即座に反撃としてビームサーベルを横薙ぎに叩きつけた。

 

 「はあああ!!」

 

 「舐めるな!」

 

 エクリプスが振るったビームサーベルをガーネットもシールドを掲げて受け止め、同時に弾け飛ぶ。

 

 「この手応え、やはり!!」

 

 アレックスは目の前の機体を睨みつけるとフットペダルを踏み込んで一気に距離を詰めた。

 

 当然アレンもそんなガーネットを迎え撃つ。

 

 再び激突する二機。

 

 まるでこちらの動きを知っているかのような絶妙のタイミングでエクリプスはビームサーベルを斬り払ってくる。

 

 ガーネットの装甲を掠めるギリギリの位置でサーベルを回避したアレックスは相手の動きを見て確信をもった。

 

 斬り込んだお互いのビームサーベルがシールドに阻まれ火花を散らす中、アレックスは思わず叫ぶ。

 

 「何故、何故お前がザフトにいる!!」

 

 デブリで初めて戦った時からある種の確信があったのだ。

 

 こいつの動きは―――

 

 「……お前に答える義務はない」

 

 「何!!」

 

 エクリプスはガーネットに蹴りを叩き込むと距離を取った。

 

 「……それに今はやるべき事が他にあるだろう。まずは倒さなくてはならない男がいるはずだ」

 

 「くっ」

 

 確かにその通り。

 

 今はこんな事をしている場合ではない。

 

 「悪いが先に行かせてもらう」

 

 エクリプスはガーネットを無視するようにナスカ級に向かう。

 

 「待て! くそ!」

 

 先行するエクリプスを追うようにガーネットもスラスターを噴射させた。

 

 

 

 

 《よく考えるがいい。あの大戦が終わった後もナチュラル共は何も変わってなどいない!》

 

 別の場所でパトリックの声を聞いていたマユの脳裏に浮かんでいたのはヤキン・ドゥーエで見たジェネシスから放たれた死の閃光。

 

 かつての惨劇を引き起こし、尚もこんな事態を引き起こす男パトリック・ザラに対する怒りが湧いてくる。

 

 《だからこそ今世界に示さなければならんのだ! 我々の受けた痛みを!!》

 

 パトリックの言葉にザフトの兵士達は明らかに動きを鈍らせた。

 

 まさにパトリックの思惑通りである。

 

 ミネルバでもそれは確認していた。

 

 タリアはあまりに続くイレギュラーに思わず頭を抱えたくなる。

 

 それは近くに座るデュランダルやアイラもまた同様で明らかに暗い表情で演説に耳を傾ける。

 

 パトリック・ザラの生存とそれによるテロ行為。

 

 破砕作業を妨害したジンやシグルドとさらには最新型であるザクを使用することで引き起こされた混乱。

 

 どれも厄介極まりない。

 

 現在はどの陣営も奇襲に備えて動きを止めている。

 

 せめてもの救いはボギーワンが退いてくれて事くらいだろう。

 

 しかしずいぶん小さくなったとはいえユニウスセブンは健在だ。

 

 あれが落ちるだけでも地球は甚大な被害が出る。

 

 だがこれ以上の作業は不可能。

 

 このままではモビルスーツ隊もユニウスセブン落下に巻き込まれてしまう。

 

 かなり危険ではあるが、残された手立てはもう一つしかない。

 

 「……議長、このような状況で申し訳ありませんが、王女と共に他の艦に移動していただけますか?」

 

 「タリア?」

 

 「ミネルバはこれより大気圏に突入し、限界まで艦首砲によるユニウスセブンの破砕作業を行いたいと思います」

 

 「か、艦長!?」

 

 驚いたのはアーサーだけではない。

 

 ブリッジにいたクルー全員が驚いた表情でこちらを見るが、タリアは考えを変える気はなかった。

 

 現状ではこれが最善の方法。

 

 今回の事件はあまりにプラントに対して不利な事象が多すぎる。

 

 命懸けになるが、これくらいはしなければ今後さらに不利な立場になりかねない。

 

 あくまでザフトは彼らとは無関係であり、最後まで破砕作業を行ったのだという事実が必要になる。

 

 「どこまでできるかは分かりませんが、やれるだけの力がありながら何もしないのは後味も悪いですから」

 

 「しかし、あの大きさをミネルバだけでは―――」

 

 《ならば我が艦も参加させてもらおう》

 

 「アルミラ大佐!?」

 

 モニターに映ったテレサが笑みを浮かべて頷いた。

 

 確かにユニウスセブンは予定よりも破砕作業は進んでおらずミネルバの艦首砲でもどこまで破壊できるかは微妙なところだ。

 

 しかしそこにもう一隻、オーディンが加われば破壊できる可能性はずっと高くなる。

 

 「……分かりました。お願いします」

 

 《了解した。オーディンはそちらの側面につく》

 

 タリアとテレサは頷くと各々準備を開始した。

 

 「私は残らさせて貰えませんか? オーディンとミネルバが地球の為に命を懸けるというなら私もそれを見届けたいのです。それにマユはまだあそこで戦っているのですから」

 

 「王女がそう言われるならば止めはしません……すまない、タリア。あとは頼むよ」

 

 「ええ。大丈夫です。私は運の強い女ですから」

 

 「議長、こちらに」

 

 秘書官であるヘレンに連れられデュランダルがブリッジを出ていくのを見届けたタリアは気合いを入れて正面を見据えた。

 

 「各機に打電。本艦はこれより同盟軍戦艦オーディンと共に艦首砲による破砕作業を行う!」

 

 ブリッジから伝えられた指示を受けレイとルナマリアが帰還してくる。

 

 同時に他の機体もユニウスセブンから離れ撤退していった。

 

 その姿とは対照的にミネルバとオーディンはユニウスセブンに向けて加速し、距離を保ちながら並ぶように追随していく。

 

 「回収が間に合わないモビルスーツはジュールの指示に従い、イザナギに向かえと伝えろ」

 

 二隻の艦による破砕作業の移行するため、ミネルバとオーディンは降下準備に入るが、ここで最後の妨害が入る。

 

 「了か―――っ!? 上方からナスカ級接近!!」

 

 「何!?」

 

 ミネルバとオーディンに接近していたのはパトリック・ザラが乗船していたナスカ級であった。

 

 「これ以上はやらせんぞ! あの二隻を叩き落とせ!!」

 

 ナスカ級より主砲が発射され二隻に襲いかかった。

 

 さらにカースの搭乗する灰色のシグルドも足止めしようとサトー達数機のジンを引き連れ、最後の攻撃を仕掛けてきた。

 

 「ここまで見届ける必要も無いが、折角だ。最後まで見せてもらおうか」

 

 撃ち込まれたビームが船体を掠めて、艦を大きく揺らす。

 

 「迎撃!」

 

 「降下準備に入っていて、間に合いません!!」

 

 ビームカービンを構えてブリッジを狙うジンだが、別方向から撃ち込まれたビームがジンの胴体を撃ち抜いた。

 

 「まだモビルスーツがいたか!」

 

 サトーの視線の先にいたのはビームライフルを構えるエクリプスとガーネットであった。

 

 「ここで沈めさせてもらう」

 アレンはエッケザックスを構えジンに向かって斬り込んだ。

 

 速度が乗った斬撃に全く反応出来なかったジンはあっさりと縦に両断されてしまう。

 

 「チッ、どこまでも忌々しい奴だ」

 

 カースが不気味な仮面の下からエクリプスを睨みつけ同時にユニウスセブンを見ると数機のモビルスーツが張りついていたのが見えた。

 

 あちらでまだ足掻いている奴がいるようだ。

 

 再び口元に笑みを浮かべると、血気に逸るサトー達へ教えてやる。

 

 「サトー、聞こえているか? まだユニウスセブンで頑張っている奴らがいるようだぞ」

 

 「何!?」

 

 アレンと相対していたサトーは憤怒の表情でモニターを見た。

 

 「ここはザラ議長に任せてユニウスセブンに向かうべきではないかな」

 

 確かにあれが破壊されては意味がない。

 

 「チッ、やらせるものかよ!」

 

 サトーは反転するとユニウスセブンに向かう。

 

 カースは戦闘しているエクリプスを一瞬だけ見るとサトー達を追っていった。

 

 そして敵機をアレンに任せたアレックスは主砲やエンジンにビームライフルを叩き込む。

 

 船体を破壊されたナスカ級は各所から大きく火を噴いた。

 

 「おのれ!!」

 

 パトリックは邪魔をする紅い機体を睨みつけると、敵機からブリッジに通信が入る。

 

 その顔を見た瞬間パトリックは驚愕した。

 

 「アスラン!?」

 

 《お久ぶりです。一応聞きますが、投降してもらえませんか?」

 

 その瞬間、驚愕に染まっていた表情は再び憤怒に変わりモニターに向かって叫び出した。

 

 「ふざけるなァァァ!! この裏切りものがァァ!! よくも顔を見せられたものだな!!」

 

 パトリックの罵倒にもアレックスは何一つ表情を変える事無く淡々と告げる。

 

 《投降しないのであれば撃沈するのみ。これが最後の警告です、武装解除してもらえませんか?》

 

 彼らはテロリスト、本当のところ彼らに未来などない。

 

 仮に投降しようともこれだけの騒ぎを起こした彼らにはそれ相応の結末が待っている。

 

 そしてこんな事をした者達をアレックスも決して許さない。

 

 それでも投降を呼びかけたのは肉親に対する最後の情けとでもいうべきものだった。

 

 「誰が! 何故、お前も分からんのだ!! これこそ我らコーディネイターの取るべき道で―――」

 

 アレックスは一瞬目を伏せるとシールド三連ビーム砲をブリッジに向ける。

 

 「……何を言っても無駄か」

 

 そんな事は前大戦の頃から分かっていた筈だ。

 

 だからこれ以上躊躇いはない。

 

 そのままトリガーを引こうとした瞬間―――側面から放たれたビームがナスカ級のブリッジを貫いた。

 

 「父う―――」

 

 「我らの、世界を、奪った報い―――」

 

 通信機から漏れ聞こえた最後の声はやはり恨みの言葉。

 

 パトリックはその体が消滅する最後の瞬間まで奪った者達に対する憎しみを抱いたままだった。

 

 アレックスは思わず操縦桿を殴りつけた。

 

 覚悟はしていた事は偽りではない。

 

 それでも一瞬思ってしまった。

 

 どうしてこうなってしまったのか?

 

 何か出来たのではないか?

 

 そんな疑問と後悔がアレックスに押し寄せた。

 

 そんな考えを振り払いビームが撃ち込まれた方向に視線を向けるとエクリプスがサーベラスを構えていた。

 

 「……余計な事を」

 

 アレックスは一様に表現できない複雑な感情を抱きながら三連ビーム砲を撃ち込んでナスカ級を完全に撃沈させた。

 

 

 

 

 崩れ行く大地が地球の重力に引きずられ徐々に高度を下げて行く中、インパルスは未だこの場に留まっていた。

 

 シンはミネルバからの撤退命令に従いユニウスセブンから離れようとしながらも、どうしても気になる事があり、離脱できずにいたのだ。

 

 「シン、撤退だよ。レイやルナはとっくに退いてる」

 

 「分かってるけど」

 

 同じく撤退せずにいたセリスに急かされながらも探しているのはもちろん妹であるマユである。

 

 彼女の機体は見失わないようにしていたつもりだったのだが、シグルドとの戦闘で姿を見失っていた。

 

 帰還したという報告も聞いていない以上、マユはまだここに留まっている筈なのだ。

 

 「どこに……」

 

 視線をさまよわせたシンが見つけたのは置き去りにされたメテオブレーカーを一人で操作しようとしているザクの姿だった。

 

 「いた!」

 

 「ちょっと、シン!?」

 

 ザクに近づくインパルスにそれを追うセイバー。

 

 メテオブレーカーを操作しようとしているザクにシンは思わず怒鳴りつけた。

 

 「マユ、何やってるんだ! 聞こえていただろ、撤退だぞ! もうすぐミネルバの砲撃が始まるんだ!」

 

 「そうだよ! ここにいたら巻き込まれる!」

 

 怒鳴りつけてくる二人に対してマユは変わらず冷静な声で答える。

 

 「ええ、分かってます。ですがミネルバの艦首砲といっても外からの攻撃では確実とは言えません。これだけでも起動させて少しでも細かくしないと」

 

 シンは妹の言葉を失った。

 

 自分を顧みず無茶をするマユを再び怒鳴りつけようと瞬間、ミネルバで言われたアイラの言葉が思い出される。

 

 ≪地球にはマユの大切なものがたくさんある≫と。

 

 もしも自分がマユの立場なら多少の無茶もしただろう。

 

 そう考えた時、シンは自然と動いていた。

 

 インパルスで近づくとメテオブレーカーを掴む。

 

 「えっ」

 

 「手伝う。さっさと終わらせて撤退するぞ」

 

 それを見ていたセリスも同様にメテオブレーカーを支える様に取りついた。

 

 「しょうがないね。ホント、無茶するところは兄妹そっくりなんだから」

 

 苦笑しながらセリスもまた人の事は言えないなぁと思っていた。

 

 しかしメテオブレーカーを支える三機の前に数機のジンと灰色のシグルドが攻撃を仕掛けてきた。

 

 「こいつらまだ!」

 

 「しつこい!」

 

 インパルスとセイバーはビームサーベルを抜き、襲いかかってくるジンに応戦する。

 

 振りかぶられた斬機刀を掻い潜りシンの放ったビームサーベルがジンの胴体を斬り裂く。

 

 そして側面に回り込んだセイバーがビームライフルでジンを撃ち抜いた。

 

 「え」

 

 「動きが鈍い?」

 

 あまりにも手ごたえが無さ過ぎた。

 

 それも当然。

 

 彼らの機体は激戦を繰り返してきた影響で各部が損傷し、すでにまともな戦闘すら出来ない状態に追い込まれていた。

 

 だが、それでも彼らは止まらない。

 

 《娘の墓標、落として焼かねば世界は変わらぬ!!》

 

 再び向かってきたジンが叫んだ言葉にシンとセリスは凍りつく。

 

 「娘!?」

 

 動揺した二人に代わりに前に出たマユがビーム突撃銃でジンを撃ち落とす。

 

 まさか彼らは―――

 

 シンとセリス、そしてマユも彼らの正体に思い至った。

 

 《ここで散った命の嘆き忘れ、何故撃った者らと偽りの世界で笑うか貴様らは!!》

 

 彼らは血のバレンタインで大切な者を失ったのだ。

 

 動けないシン達を無視して重力に引かれながらもサトーは残ったメテオブレーカー破壊に動く。

 

 ビームカービンを構えるとトリガーを引く。

 

 これで終わりだと笑みを浮かべたサトー達の前に再びマユのザクが立ちふさがった。

 

 メテオブレーカーを守るようにシールドを掲げてビームを弾くとジンを睨みつける。

 

 「やらせない!」

 

 そんな立ちふさがるザクの姿にサトーは心の底から溢れ出る憤怒に身を焦がす。

 

 《まだわからんのか! パトリック・ザラのあの言葉を聞いてなお、貴様は邪魔立てするかァァァ!!》

 

 斬機刀を引き抜きザクに襲いかかる。

 

 しかし怒りを感じていたのはサトーだけではなく、相手取るマユも同様だった。

 

 「……貴方達こそ、ふざけないでください!!」

 

 

 マユのSEEDが弾けた。

 

 

 全身に広がる研ぎ澄まされた感覚。

 

 その感覚に身を任せジンの斬機刀をたやすく流し、ビームトマホークで右腕を斬り落とした。

 

 「大切な人を失ってきたのは貴方達だけじゃない! 皆、悲しみに耐えているのに!!」

 

 迫るジンを正確な射撃で撃ち落とし、さらにもう一機を上段から振り下ろしたトマホークが両断する。

 

 圧倒的。

 

 彼らのジンが傷ついている事実を差し引いても、その動きは明らかに並みのパイロットを凌駕した動きだった。

 

 「す、凄い」

 

 思わずセリスが呟く。

 

 このまま決着かと思われたその時、黙って様子を伺っていたカースのシグルドがビームクロウを展開してマユに斬りかかってきた。

 

 「この!!」

 

 シグルドの振るった斬撃をシールドで受け止め、そのまま押し返そうとしたその瞬間、異変に気がついた。

 

 力任せに押し返してもビクともしないのである。

 

 これはまさか―――

 

 「核動力機!?」

 

 そして動揺するマユにシグルドから通信が入る。

 

 モニターに映っていたのは不気味な仮面をつけたパイロットであった。

 

 「……聞こえているか」

 

 「貴方は」

 

 「一つだけ言っておく―――必ず殺してやる」

 

 仮面の内からでも伝わる憎悪を滾らせながら吐き捨てたカースはザクを蹴りを入れて引き離し、ヒュドラを叩きこんだ。

 

 マユは驚異的な反応でシールドを掲げて防ぐものの、大きく離されてしまった。

 

 「マユ!!!」

 

 シンは全身に怒りと恐怖が満ちるのを感じた。

 

 マユを傷つけようとする者に対する怒りと失うかもしれないという恐怖。

 

 今なお体勢を崩したマユのザクに攻撃を仕掛けようとする敵。

 

 俺はもう失いたくない!

 

 絶対に―――!!!

 

 

 「守るんだァァァァァ!!!!!」

 

 

 

 シンのSEEDが弾けた。

 

 

 

 視界がクリアになり鋭い感覚が全身を包む。

 

 「今度こそ俺は守る!」

 

 マユのザクに追撃を掛けようとするシグルドにビームサーベルで斬りかかる。

 

 「はああああああ!!!」

 

 「何!?」

 

 振りかぶられたインパルスのビームサーベルをカースはギリギリで受け止めるが、シールドで突き飛ばされる。

 

 「チッ、計算違いか」

 

 普通の場所であれば態勢を立て直し反撃すればよいがここは大気圏。

 

 これ以上危険を冒す必要はない。

 

 そう判断したカースは機体を反転させユニウスセブンから距離を取り、地球へと降下した。

 

 退いたシグルドに構わずシンは残ったジンを撃墜していく。

 

 だが最後まで残ったサトーはインパルスの攻撃を受け左手を吹き飛ばされながらも、怨嗟の声を張り上げてメテオブレーカーに特攻する。

 

 《我らのこの想い、今度こそナチュラル共にィィィィィィ!!!!》

 

 ジンの突撃を受けたメテオブレーカーは傾き、そのまま作動すると残った破片を砕いていく。

 

 しかし傾いた状態だったのがまずかったのだろう。

 

 思った以上に破片を砕くには至らない。

 

 セリスは無念を抱えながらも、時間を確認するとミネルバとオーディンの砲撃が始まる頃合になっていた。

 

 このままここに留まっていては巻き込まれる。

 

 「シン、マユちゃん、撤退を―――」

 

 セリスの声に合わせ撤退しようとした三機を地球の重力が襲いかかる。

 

 二隻の戦艦から放たれた閃光。

 

 始まった砲撃の爆発を背に三機はそのまま灼熱の大気圏に落ちていった。

 

 

 

 

 世界は落ちてくるユニウスセブンに大騒ぎになっていた。

 

 例外はない。

 

 何故なら落ちてくる破片の数があまりに多い事から、落下場所を予測する事が出来ないからだ。

 

 その為、現在すべての国に避難勧告が出ており、それは海に面する中立同盟の一国であるオーブも同じだ。

 

 国民全員が軍に誘導されシェルターへ避難する中、海の近くにある孤児たちの住む場所でも大騒ぎになっていた。

 

 「みんな、遊ぶのは後にしてくださいな。さ、行きましょう」

 

 「は~い!!」

 

 長いピンクの髪をした女性ラクス・クラインが子供達を連れてシェルターにつれていこうと手を引いて歩いて行く。

 

 外に出たラクスは空を見上げている金髪の美しい女性に声をかけた。

 

 「レティシア、私達も行きましょう」

 

 「……ごめんなさい。今、行きますから」

 

 レティシア・ルティエンスは長く綺麗な髪をなびかせて子供達の手を引きながらシェルターに向う。

 

 歩いていく彼女達の頭上には砕かれて落ちてくるユニウスセブンの姿が克明に見えていた。

 


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