息抜きで書いたHxH(仮)   作:せとり

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第11話

 

 

 天空闘技場。それは地上二五一階、高さ九九一メートルと、世界第四位の高さを誇る巨大建築物である。

 名称から連想される通り其処は格闘技の聖地でもあり、その広大な空間は全て闘技場や、その利便性を良くするために使われている。

 そこに訪れる人々は、腕に覚えのある参加者だけでも一日平均登録者数約4,000人。彼らの戦いが生で見たいとやってくる観客にいたっては年間動員数が10億人を超えている。

 

 勝者のみが上層へ行ける野蛮人の聖地。

 運が悪ければ何らかの障害を負ったり命を失うことも珍しくもない戦場である。

 それでも登録者が絶えないのは、腕っぷし一つで上層へ行くほど高額となるファイトマネーや各種特権を求めんが為であろうか。

 

 年齢、学歴、経歴不要。登録料金すら必要ない。着の身着のままでの登録すら可能。そこで稼ぐには必須条件である腕っぷしも、神に祝福されていそうな才能を持っている以上問題なし。

 『戦闘ぐらいしか取り柄が無い小娘だけど、できれば合法的に楽して稼ぎたい』

 天空闘技場は、そんな私の理想をぐうの音も出ないほど完璧に叶えてくれる、まさに聖地であった。

 

 

 

 

 

 試合開始後は見に徹し、自信満々である相手選手の能力を見せてもらう。

 ……しょぼっ。

 呆れながらも無表情でそのしょぼい能力を言い当ててみれば、相手選手は自分に酔った風にドヤ顔で能力を語りはじめた。

 これで戦績が5勝0敗……?

 愕然とした。

 

 相手は反応が無い私の様子を都合よく解釈したのか、「引導を渡してやる」とか言いながら突っ込んでくる。

 対する私は、無造作に腕を振るう。

 人体を破壊する鈍い音。

 リング上に、鮮やかな紅い花が咲いた。

 

「ロ、ロズモンド選手の死亡により、しょ、勝者、レア選手!!!」

 

 グロテスクな光景を間近で見せられて、若干青い顔をした審判が判定を宣告した。

 満員の観客席から怒号と歓声。そして若干の悲鳴。

 ボルテージが上がる観客席を軽く眺めてみれば、バイオレンスな光景を見て青い顔をしている者は殆どいない。

 手加減を改善せず、天空闘技場でかなりの数を殺してきた私は、血を見るのが大好きな連中から熱狂的な支持を得ていた。

 あまり嬉しくない。

 

 ハンター試験が終わってから約一ヶ月。

 私は森での充電期間を終えて、再び人間社会へとやって来ていた。

 

 天空闘技場で金を稼ぐのは思った通り簡単だった。

 中途半端に手加減をしようとオーラを解いて、殴る蹴るといった攻撃を選手にしたら大惨事になったが。

 気当てで失神させた方が、ショック死の危険を考えても死亡率が低かったかも知れない程だ。

 

 無表情な少女が大の大人を殺戮していくという異常な光景に、熱心なファンを作りながら負けなしで200階まで到達し、当初の目的だった借金なんてとっくに完済していた。

 通帳の残金が増えることも無くなっていたが。

 200階に上がるとファイトマネーが貰えなくなるとか、私にとっての天空闘技場の利用価値は殆ど消えていた。

 名声とかバトルオリンピアとかフロアマスターとか、私にとっては「だから?」って感じである。

 とはいえ一応、200階は念能力者が犇めき合うそこそこレベルの高い場所。

 念能力者との戦闘経験は貴重だし、折角だから何戦かしてみようと思ったのだが……。

 正直拍子抜けもいいところである。

 見るべきところの無い能力者ばかりで、3戦もした頃には微かに抱いていた期待感も萎えていた。

 強化系殺しの搦め手を極めた操作系とか具現化系とかを期待していたのだが、流石に高望みが過ぎたか。

 まあ、よく考えたらこんな人の目の多い、しかも映像すら残る場所で、そんな能力者なんている訳ない。

 仮にいたとしても、奥の手なんて絶対に使わないだろう。

 早くも、私は家に帰りたくなっていた。

 

「あ、いたいた! おーい、レア!」

 

 与えられた個室へと向かって廊下を歩いていると、背後から投げかけられた聞き覚えのある少年の声。

 振り返れば、ゴンとキルアがいた。

 立ち止まり、駆け寄ってくる二人をそれとなく観察する。

 ゴンの方は少し筋力が上がったような気がするが、二人とも念には目覚めていないようだ。

 裏ハンター試験とやらの試験官とは、まだ出会っていないのだろう。

 

「レアも天空闘技場に来てたんだね! さっきは凄かったよ!」

「……まるで本気を出してなかったけどな。ヒソカとの時はあんなもんじゃなかったぜ」

「いいなー見たかったなー」

「はっ、頑固だったお前の自業自得だ」

 

 善悪の観念が薄いのだろう、二人は私が人を殺したことには言及せずに、純粋に戦闘の批評を交わしている。

 私は勢いに圧倒されながらも、頷いたりして相槌を打つ。

 そして会話の合間を縫って、聞きたいことを聞いてみる。

 

「……キルアの家族の説得は終わったの?」

「ああ、余裕だぜ、よゆー」

「むしろ体を鍛えるのに大分お世話になっちゃったよ!」

 

 それ親父たちは関係ないだろ。そうだっけ? あはは。

 ……。

 私はゴン達と久しぶりの再会を楽しんだ。

 しばらくの近況報告。

 二人は数日前にここに来たばかりで、今は100階にいるらしい。

 やがて、キルアがふと真剣な顔をして聞いてきた。

 

「――ネンって知ってるか?」

 

 どこで知ったのだろう。そんな疑問が頭には浮かびながらも、私は頷いた。

 

「……やっぱり、強さの秘訣はネンって技術だったのか。なあ、俺達にそれ教えてくれよ」

「教えるのは構わない……けど、先に聞かせて……。ネンの事は……どこで知ったの?」

 

 自力でネンの存在に辿り着いて未だに師匠がいないとは思えないので、恐らく偶然念という言葉が耳に入ったのだろう。

 もしかしたら裏試験官とニアミスでもしていたのかもしれない。

 数少ない友人の頼みである。確かに念を教えるのに異存は無かったが、私に上手く教導ができるとは思えなかった。

 

「ああ、50階でズシっていうやけにタフな奴と戦ってさ――」

 

 私はその時の経緯を教わった。

 流派は心源流とか、その師匠に説明を迫っても燃で誤魔化されたとか。うん、これは間違い無い。

 近くに心源流の師範代がいるのなら、そちらに頼み込んだ方がいいだろう。

 

「……じゃあ、そのウイングさんとやらのところに、案内して……」

「え、なんで?」

 

 天然そうにゴンが聞いて来る。

 教えることに同意しておきながら、関係なさそうな所に案内を頼む私に疑問を覚えているのだろう。

 言い方を考えて、少し思案する。

 裏ハンター試験の事は極秘らしい。適当に誤魔化した方がいいか。

 

「……私は人に教えた経験が全くない……。師範代に教えてもらえるなら、そっちの方が絶対にいい」

「なるほど。色々考えてるんだね!」

 

 8割ぐらい本音の言葉に、ゴンは素直に納得した模様。

 同じ疑問を抱いていたらしいキルアも、一理あると思ったのかとりあえずは納得したようだ。

 

「じゃ、早くいこーぜ」

 

 未知の技術に興味津々なのか、二人は意気揚々と私を案内すべく歩き出した。

 

 

 


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