浅上葵side―
あの研究所に私達が住み始めてから数ヶ月の月日が流れた。私もようやくあの不名誉な字名に慣れてきて
「いたぞ!“黒蜘蛛”だ!」
・・・・慣れて
「そっちに行ったぞ!くそっ!今度こそ捕まえてやるからな“ブラックスパイダー”め!!」
・・・・・・・・・・慣れて
「今度はそっちに行ったぞ!畜生!どんな魔法を使ってるんだ!“女郎蜘蛛”は!!」
「その字名で呼ぶなぁ――!!!しかも最後のなんだ?女郎蜘蛛って単なる悪口じゃないか!なんでこんな変な字名が私についてるの!?もうお前ら死ねよ―――!!!―――貫け!黒糸!!」
「「「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」」」
うん、慣れることなんてできるわけがなかった。なんでこの名前がどんどん広まってるのかな?しかも最後の“女郎蜘蛛”って何?嫌がらせ?私9歳から女郎蜘蛛呼ばわりされなきゃいけないの?
【俺としてはこの惨状がお前の字名の由来となってると思うがな。】
「えっ!?」
碧の念話を聞いてあたりを見渡すと血塗れの管理局員の呻き声や苦しそうな声が聞こえてくる。一応手加減はして誰も殺してはいない。・・・・半殺しくらいにはしちゃってるかもしれないけど。・・・でもこの惨状が何か問題でもあるのかな?碧がやるよりは派手じゃないけど・・・。
【お前俺のせいで感覚が鈍ってるな。これは他者から見たら明らかにやりすぎだ。しかも全員から魔力吸収してるだろうが。精気ではないが魔力を吸い取るということで“女郎蜘蛛”って呼ばれるようになったんじゃないか?】
「いやいや、色々とおかしい点があったよね?なんでミッドに日本の妖怪の話が分かる人がいてそれが語り継がれてるのかな?流石にそれはないと思うけどね。・・・まぁ、どっちにしろ呼ばれてるのは変わらないんだけどさ。」
そんな話をしつつもそこらじゅうに倒れている管理局員から魔力を吸収していく。最近私が他の世界に行くと必ずと言っていいほど管理局員と出くわして交戦することになってきている。なぜか私の名前が広く知れ渡っているような気がするしなぁ。
【そういえば、ここに来る前の無人世界で見たあの魔力生物やっぱりそうか?】
「えぇ、間違いなく魔力吸収を受けていたわね。わざわざ殺さずにリンカ―コアから魔力を吸収するなんて誰がそんなめんどくさいことしてるのかしら?しかも私と同じ特性を持った人がいるなんてね。」
【なぁ、今思ったんだが。もしかして最近お前の捜索が厳しくなりだしてるのってこれが関係あるんじゃないか?】
「どういうこと?確かに私の捜索が厳しくなってる節があるってこの前リニスが言ってたけど・・・。」
【もしかしたらお前以外の奴も管理局の魔導士相手に同じことをやってて名を知られているお前がマークされているんじゃないかと思ってな。】
「なるほど、一理あるわね。あれ?ということは・・・・。もしかしたら“女郎蜘蛛”の方はその誰かに押し付けることができるかもしれないってこと!?」
【い、いやそれは・・・。】
「よし探そう!今すぐ探そう!!そしてそいつを捕まえて“女郎蜘蛛”として提出してしまおう!!」
やったぁ!これでようやくあの不名誉極まりない字名から解放されるチャンスが巡ってきたんだね!待ってなさいよ?私以外の魔力吸収を行ってる犯人さん。絶対に捕まえて“女郎蜘蛛”っていう字名を擦り付けて管理局に引き渡してあげるから!!
【(蜘蛛っていう要素はお前の糸っていう武器から来ているから多分呼び方は変わらないんじゃないかな?)】
後で聞いた話だが私はこの時、碧がこんなことを考えていることもわからないくらいはしゃいでいたらしい。
「まぁ、その犯人を捕まえるにしても全然情報が足りないんだけどね。今のところ分かっているのは『犯人はただひたすらに魔力を集めている』っていうことと『絶対に殺しはしない』ってことかな?」
【そうだな。なぜか魔力生物さえも殺していなかったからな。全て半殺しくらいにして魔力を抜き取って放置してあったしな。・・・まぁ、全てお前がとどめをさしたが。】
「あれほど魔眼のいい練習台はなかなかいないからね。とってもいい訓練になったわ。」
【お前もかなり俺に性格が似てきてるな。】
「人格が違っても性格は似ることがあるからね。それにしょうがないじゃない?性格を似せないとあなたの殺しをずっと引きずることになるし。」
【よく言うよ。俺よりも残酷な殺し方するくせに。あの魔力生物にやったのはなんだよ?全身を少しずつ曲げていくってどんだけSなんだよ?】
「むぅ、あれは魔眼の力の調節とどのくらい多用できるか確かめたかっただけよ。」
【顔は思いっきり笑顔だったけどな。】
「なっ!?そんなわけがあるはずが・・・・。」
<いいえ、マスター。とってもイイ笑顔でした。あれをフェイトさんが見たらかなりおびえるでしょうね。>
アラクネの何気なく言ったであろう一言を聞いた瞬間私はその場で固まった。
<?どうしました?マスター?>
「・・・・フェイトに・・・・嫌われる・・・?」
<いいえ、私はおびえられるとは言いましたが嫌われるとは一言も・・・。>
「・・・・・・フェイトに・・・・・避けられる・・・・?」
<マスター?聞いてますか?避けられるなんてさっきから一言も言ってませんでしたよね?私は。>
「フェイトに嫌われるなんて・・・、避けられる何て・・・・。うん、鬱だ。死のう。」
<マスタ――!?ちょっと待って下さい!!なんでそんな簡単に命を諦めてるんですか!?あなたの目標はどうしたんですか!?>
はっ!?私は一体何を!?フェイトに嫌われるって考えただけでかなり死にたくなっちゃった!?これはまずいわね。私どうもフェイトにかなり依存しちゃってるみたい。はぁ・・・。フェイト撫でたいなぁ~。
<うん、元に戻ったみたいでよかったです。>
「あぁ、ごめんね?アラクネ。最近色々あって精神的に不安定になってるのかもね。」
<まぁ、否定できませんね。いくらマスターの精神が大人だとしても体は9歳ですのでそちらに引っ張られますからね。今まで何もなかったのが不思議なくらいです。>
【それにしてもお前はフェイトがお気に入りだな。なんでそんなに気に入ってるんだ?】
「あんなに可愛いフェイトを気に入らない道理はないわ。正直私はフェイトにつく悪い虫をプレシアさんやアルフと一緒に殺して回りたいくらい溺愛してるよ?それも家族愛ではなく恋愛の方面で。」
<それは多分思考が裏マスターに引っ張られてるんでしょうね。裏マスターの方は人格が男ですしあり得るでしょう。それに裏マスターもなかなかにフェイトのことがお気に入りみたいですしね。>
なるほどねぇ~。碧ににも恋愛感情はあったのねぇ~。やばいニヤニヤが止まらないわね。これは後々弄りがいがありそうね。
【言っとくが俺にそんな感情はない。俺にあるのは憎悪と怒りくらいだからな。ただフェイトは魔導士としての将来が楽しみなだけだ。】
「まぁ、今はそんなことはどうでもいいわ。少しここに長くいすぎたわね。そろそろ他の管理局員がきそうだから移動しますか。」
<そうですね。後2,3ヵ所ほど転移したら研究所に戻りますか?マスター。>
「そうね。そのくらい私の姿を見せておけばそれだけあの研究所の存在がばれる可能性が低くなるしね。」
【それにあの犯人を捜す必要性もあるからな。あまりいい理由じゃないが。】
「それは気にしないで。というよりも犯罪者を探すのに理由がいる?」
【探している人物が犯罪者じゃなかったらいらないだろうな。それと分かってるだろうが犯人は複数いる可能性を忘れるなよ?】
わかってる。あの瀕死の魔力生物にはいろいろな傷跡の種類があった。何かで切り裂かれたような跡、何かで叩き割られたかのような跡、何かに突き刺されたかのような跡、そして全く外傷はないのに魔力だけを抜かれたような跡。この件をリニスにも話して私と碧もあわせて3人で導き出した答えが、複数犯の可能性。流石にこれだけの種類を一人で扱うのは難しいものがある。私でもこの中だと3つしか再現できない。まぁ、私は特例中の特例だけどね。
【それに相手は多分ほとんどが近接だろうな。切られたような跡は剣、叩き割られたような跡は・・・ハンマーでも使ったのか?突き刺された跡がいまいち距離感がつかめないな。それに外傷のない魔力だけ抜かれた跡。あれだけは多分遠距離だと思う。お前でも外傷をつけずに魔力だけ吸収するときは遠距離からこっそりとやるだろ?】
「そうね。私だと糸で見えないように罠を仕掛けるか、足元から一気に伸ばしてそのまま吸い取るかどっちかね。まぁ、正面から行った方が確実性はあるけど。・・・この話は後でしっかりとリニスを交えてしましょ?さっさと転移しないと管理局員きそうだし。ということで適当に転移。」
そういって私達は転移を繰り返し、とある世界で再び管理局に追いかけられ、またとある世界ではまた倒された魔力生物を見つけてそれを調べつつも魔眼の練習台にしたりしながら過ごしていた。そしてそろそろいいだろうということで念には念を入れて攪乱するような転移の仕方で住処にしている研究所に戻ってきた私が見たのは封鎖結界の中で黒煙を上げながら燃えている研究所とピンクのポニーテールの剣を持った魔導士がリニスと交戦している姿だった。それを見た瞬間私は碧へと意識を手渡した。今回は自分の意思で。
sideout
葵はやっぱり字名が気に入らない様子です。
まぁ、気持ちはわかりますけど・・・。・・・・うん、なんかごめんね。
次回からA's突入です。
さぁ、このピンク髪ポニーテールな女性は生き残れるかな?