Celestial Being   作:灰恵

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アルバイト始めました。






番外編2 喫茶 翠屋

翠屋(みどりや)』というのは創業(そうぎょう)150年を()老舗(しにせ)喫茶店(きっさてん)だ。

チェーン店も存在し、全国的に展開している。

ただ、この一号店だけは昔からの風習を残していた。

 

 

 

「前より広くなったね」

「ええ。一号店ですから、お客様に愛されて、店をリフォームさせていただきました。どうですか?」

「うん。違和感もないし、店内広いし、前より余裕もできて、いいんじゃないかな。それに、親しみやすいよ」

「ありがとうございます」と、ユイの母親は頭を下げた。

彼女はこの喫茶翠屋の一号店の店長で、シュテル・スタークス。っと、今は高町シュテルかな?

「どちらでも構いません。旧姓とはいえ、どちらも私です」

見た目が2代目店長に似ていると良く言われる。でも、性格は似ているところはあるものの、全くの別人だと認識できる。

二代目が翠屋の白い天使なら、シュテルは翠屋の黒い天使かねぇ。

「・・・笑えば、もっとかわいいのに」

「何か、いいましたか?」

「いいえ、別に」

ぴしゃりと冷たい視線が刺さり、澄ました顔で僕はコーヒーを飲む。

 

 

 

『いちごパイ3つとチョコシューとバナナパイ、オールセットでアイスミルクティ・ダージリン・コーヒー各2つとアールグレイ! ランチパスタ6つで3つがデザートセット。コーラ2つにアイスコーヒー2つ、レモンティーにオレンジジュース! あ、アップルパイ焼き立てをお持ち帰りで!』 

 

 

 

「まだ、あのメニューあったんだねぇ・・・」

ウェイターが注文したメニューをキッチンに伝える。カウンターにいるユーノの位置では、その声が良く聞こえた。

常連(マニア)の人は、良く頼みますから」

シュテルもいつもの事なので、アルバイトに任せて、カウンターの内側でユーノの相手をしていた。

「おまたせしました」

シュテルが、ユーノの前に高いグラスに山盛りにアイスクリームとチョコレートを積み上げたチョコパフェを置いた。パフェスプーンとストローを紙ナプキンに載せて添える。

「ありがと。これ食べないと、ここに来た気がしないな」

「ありがとうございます」

ユーノはパフェスプーンで、アイスをすくい、ぱくっと食べる。

そこらへんのアイスとは違う口どけの良いアイスに頬を緩ませる。

その様子をしり目に、視線をグラーベに移す。

 

 

 

店に入った客が席でメニューを選んでいる。グラーベはカウンターから出ると、手を挙げたその客と目があった。

「少々、お待ちください・・・いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」

グラーベが席まで行く。

「ええ。水出しコーヒーと・・・」

女性は向かいに座る男性に視線を送る。男性はまだ決まっていないようだ。

「今日のサービス品は何?」

「はい。南アフリカ産のクラシックティーです」

「他に何かおすすめは?」

「今年はジャスミン茶が豊富です。遠くからいらしたのなら、試してください」

どう?と女性は男性に視線を送る。

男性は頷いた。

「じゃあ、それを貰おうかしら」

「水出しコーヒーと、ジャスミン茶ですね。かしこまりました」

一礼すると、グラーベはキッチンに向かった。

 

 

店に出て、さっそく、今日のおすすめを覚えていた。ウェイトレスとしては優秀である。

 

 

グラーベはそれぞれのティーポットに入ったコーヒーとジャスミンティを持っていく。

テーブルでコーヒーとジャスミンティを注いだ。

ポットはそのまま置いておく。

「残りは冷めないうちにどうぞ。では、ごゆっくり」

再び一礼して、戻って行った。

 

 

 

 

「彼、(さま)になってきましたね」

すこし離れた場所で、お客の注文を受けているグラーベはしっかりと受け答えしていた。

「物覚えはいい方だって言わなかった?」

「聞きました。しかし、全メニューと値段を一度で覚えたのには、驚きました」

あまり、表情を変えないシュテルでさえ、グラーベの優秀さに脱帽した。

「まぁ、わけありだからねぇ」

「そうですか」

シュテルは無駄に首を突っ込まない。そこが彼女の良い部分でもある。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

無事にアルバイトを終えたグラーベは高町家に向かった。

「おかえりなさい」ベルを鳴らし、出てきたのはユイだ。

おかえりなさいと言われたことに少し、驚きつつも「おじゃまします」といって中に入った。

リビングを通り越し、ダイニングテーブルがある部屋に通される。

 

「おかえり。グラーベ」

ユーノの声がキッチンから聞こえた。

「何やってるんだ?」

高町家に世話になっているにも関わらず、ユーノは勝手知ったる他人の家のごとし、リラックスした様子で調理している。その様子に、グラーベは目を丸くした。

「ん~?・・・料理してんの、アルバイトしてきたから、さすがに、気が滅入ってると思ってね」

グラーベは開店前からアルバイトに入っていたため、昼食を翠屋で食べ、夕飯前に高町家に寄るようにシュテルから言付かった。

そこで、ユーノが待っていると聞いていたので、居ることは知っていたが、いきなり他人の家のキッチンで調理しているとは思いもよらなかった。

どういうことだとユイに視線を送ると、彼女も苦笑いを浮かべた様子で経緯を語った。

「お母さんは翠屋のお仕事で、帰って来るのにまだ時間がかかりますし、私もさっき帰ってきたばかりで、でも、電話でキッチン借りるよって来たので、まさかとは思ったんですけど・・・」

「ちゃんと、シュテルにも許可は取ってるからね・・・はい、できた。二人とも、手を洗っておいで、先に食べちゃおう」

「はーい♪」

「・・・了解した」

ユイはユーノが作った手料理にワクワクしながら返事をして、グラーベはいいのか?と目を白黒させながら、手を洗いに行った。

 

 

 

 

「いただきます」

「「いただきます」」

 

ユーノの号令の後に繰り返す二人。

 

「おいしいです!」

「それは、よかった」

「ああ、うまい」

二人の喜ぶ顔を見て、ユーノは微笑んだ。

「いつもは、グラーベに作ってもらってるからねぇ。たまには僕も作らないとね」

パチリとウインクする。

「そうなんですかぁ! 私も食べてみたいです!」

「簡単なものしか作れないがな」

そうなんですかぁ!と興味深々に聞いている。

あれこれと話しながらの食事だった。

 

 

食べ終わった後、翠屋に残っていたシュテルや他のアルバイトがどっと訪れ、既に食べ終わっていた俺たちはその準備に追われた。

10人以上で囲む団らん。

女子会のような食事に、俺はそのたびに驚かされるのであった。

 




とらいあんぐるハート3魔法少女リリカルなのは原作ネタ。
モーレツ宇宙海賊ネタ。

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