春先になり、お花見をしよう!と言って、日本へ向かう。
まだ、冬の寒さが残る季節。朝食を食べていたユーノはふと、思いついたように顔を上げた。
「そうだ、グラーベ。お花見に行こう」
「随分、急だな」
一瞬思考が停止した。
花見? まだ、時期が早くないか?
グラーベは窓の外を見る。手入れの行き届いた庭の桜は未だにつぼみのままだ。
「こっちじゃなくて、日本のお花見」
庭を眺めて、怪訝な顔をするグラーベに、違う違うとユーノは笑って答える。
「日本?」
「そう」ユーノは頷く。
「グラーベはまだ、アジアには行ったことがなかったでしょ? 日本ってね、けっこう治安も安定してるから、旅行にはぴったりなんだ」
嬉しそうに答える。
「俺はかまわないが、大丈夫なのか?」
「何が?」
ユーノはパンをかじる。
「何がじゃない。俺はイノベイドだぞ? それに、パスポートもない」
人造人間であるイノベイドは世界から見れば、非公式な存在だ。
この屋敷やその周辺ならある程度は誤魔化せるだろう。だが、海外に行くのなら、身元がはっきりしていなくては、警察沙汰になってしまう。それどころか、今後の計画にも支障がでる。
「それなら、問題ないよ」
ユーノは澄ました顔で食べる。
「どうしてだ?」
「今回は、実験も踏まえているからさ」
実験。
「イノベイドは人造人間っていったて、人間であるのに変わりないよ。それに、たかが、入国審査で引っかかって居たら、ヴェーダの目になんかならないよ」
確かに。
「だが、新型ならまだしも、俺は旧型だぞ? 体の一部はサイボーグのままだ」
グラーベは見せつけるように肩を動かす。かすかに機械が動く音が聞こえる。
「それも、心配ご無用」
ノープログレムだよ。
「言ったろう? これは実験も兼ねてるって」
解らないの?と首を傾げ、意地悪にオレに聞く。
「実験」
グラーベは声に出してみた。
花見を見に行くことが実験?
いや、イノベイドでも海外に入国できるかどうかの、実験か?
それなら、旧型であるオレを使う必要があるのか?
入国審査には決まって金属探知機がつきものだが、
そこまで、考えてハタッと気が付いた。
「気が付いたみたいだね」
「まさか・・・」
俺は自分の行きついた答えに目を丸くする。答え合わせは?と目で、訴えられ自分の考えを答える。
「ヴェーダのハッキング能力の実験も兼ねているのか」
「正解」
気をよくしたユーノはパチパチと拍手した。
イオリアが生み出したヴェーダ。量子演算処理システム。通称“ヴェーダ”
知識の名がついたヴェーダは計画に重要な役割を持っている。世界を掌握しなければ、計画そのものが成り立たない。世界のあらゆるシステムに介入し、情報を得る。
この時代、あらゆる情報は電子化もしくは量子化している。
アナログからデジタルへ。そのため、ヴェーダのシステムが正常に機能しているか、定期的に調べている。
その調査と実験が踏まえているのか。
そんな、大それた実験のついでに花見とは・・・
ユーノが実験と称した理由は理解できたが、おまけとして花見を選んだことに、グラーベは呆れた。
「あ、花見はついでと思ってるでしょ」
ユーノはグラーベの考えをズバリ当てた。
「そうだが?」
違うのか?と傾げる。
「花見を侮っちゃダメだよ。グラーベ」
ビシッと目玉焼きをつついていたフォークを向けた。
「花見はね。ある意味、地獄なんだ」
なわなわと体を震わせる。
「有名なところは、花見客が多くにぎわい、露店が出され、桜を眺めながら、えんやこんやと騒ぎたてる。だけど、それまでに至るまでに、朝5時ぐらいから席を確保して、花見を始めるのが昼ごろだよ?その間、綺麗な桜は眺められるだろうけど、春先の早朝は真冬並みに寒いし、露店は出てないし、交代が出来なきゃ、確保した席から離れられないんだよ? ちょっとでも、目を離すと、別の花見客に占領されちゃうし、もう、地獄なんだよ。その上、確保できなかったと知られると、O☆HA☆NA☆SI が・・・」
ねぇ、聞いてる!? くわっと声を荒げ、興奮して話すユーノに対して、俺は聞いてる聞いてると頷く。
ちなみにO☆NA☆HA☆SI の部分は体を震わせていた。
要するにコイツは、花より団子。しかも、実験の方が“おまけ”か。
ここまで具体的に話せるのだから、経験があるんだなと理解した。
俺も、残りの朝食を食べる。
今度は何を思い出したのか、テーブルを濡らしてメソメソ泣き始めた。
いったい、何があったんだ。
***
「―― さあ、花見の時間だぁ!」
ユーノは開けたビールをグビグビと飲み始めた。
天気は快晴。気温も上々。最高の花見日和の今日。俺たちは日本の花見客に交じって、お花見をしていた。
ちなみに、入国審査は無事に通った。その報告を花見が始まるまでの待ち時間の間にまとめ、ヴェーダに報告している。
ユーノの宣言通り、早朝5時ならぬ、4時に席を確保するミッションが与えられ、俺は席を取っていた。
その時、侮るなと言った理由を知った。
すでに、一番良いところの半数が埋まっており、聞けば、夜中からとか、昨日から通しだという話も聞く。
中心から少し離れてしまったが、こちらも負けずきれいに花が咲いている。
「っく~~~! やっぱり、桜を見ながらのビール最高!」
一気飲みをしたのか。大丈夫なのか? こんな調子で?
周りを見渡すと、早いところでもう宴会が始まっていた。
しかし、こんなに無駄に広く席を確保してよかったのか?
直ぐ側を見渡せば、席はガラガラ。
ココには俺とユーノしかおらず、中心から離れているとはいえ、嫉妬深いイタイ視線があちこちからくる。
「おい、ユーノ」
「う~ん?」
ユーノは上機嫌でこちらを向いた。
「二人しかいないのに、こんなに広く取っていいのか?」
「だいじょーぶ、大じょーぶ」
呂律が回らない口で、へにゃりふにゃりと笑う。
すでに、缶を3本空け、始まって数分で出来上がっていた。
「大丈夫じゃ、ないだろう」
俺は呆れてため息をついた。
「・・・あのぉ・・・」
声を掛けられ、視線を移す。
白いワンピースが良く似合う女性がいた。
「なにか?」
俺は無表情で答えた。ユーノが出来上がっていなかったら、「グラーベ、表情硬すぎ。ごめんねぇ。この人、無愛想なだけだから~」とか言って、フォーローするだろう。しかし、今はそれも望めない。
まだ、ユーノ以外の人間に数えるほどしか会っていない俺にとって、他人との接触――しかも、女性――の扱いに困っていた。
「えっと、スクライアさん・・・ですよね?」
コイツの知り合いだったか。
「俺ではない。コイツだ」
肩に寄りかかるユーノの膝を叩いた。
「ふぁ?」変な声を上げる。なになに?と周りを見渡し、状況を飲み込んでいないようだった。
随分と酒に弱いなコイツ。
俺はカチコチになりながらも、内心はえらく、冷静だった。
「あ・・・やぁ、
「ご無沙汰しております。スクライアおじ様」
霞と呼ばれた女性は丁寧にお辞儀をする。どこかのご令嬢のようだった。
「やだなぁ。僕、おじ様って呼ばれるほど、年食ってないよ?」
冗談に笑う。
「そうでしたね。おじ様」
彼女も強豪だな。
2人とも「ふふふ・・・」「ははは・・・」と笑いあう。
どうやら、知り合いなのは間違いないようだ。
「お席を準備いただいてありがとうございます」
ユーノに手招きされて、座ると、頭を下げた。
「お礼なら、この人に言って。準備したのこの人だから」
ひらひらと手を振りながら、話を俺に振る。
「こんなに込み合う日に、お席を準備していただいてありがとうございます」
霞はユーノから俺に向き直ると改めて、礼を言った。
「問題ない」
俺は一言それだけ言った。
「グラーベ。言葉、足らなさすぎ~。こういう時は、『いいえ、こちらこそ。問題ありません』とか、言うんだよ」
酔っているのに注意された。
人間としてまだまだ、学習が足りていないようだ。
“気遣い”なるもの学習した俺はヴェーダにアップする。
「うふふ・・・お気遣いありがとうございます。わたくし、
「グラーベ・ヴィオレントです」
お互いにあいさつを交わし、花見が再開された。
しばらくして、ガラガラだった席は彼女の親戚が集まり、あっという間に埋まった。
全員が全員とあいさつを交わしたわけではない。
ユーノと面識があるのは、ごく一部の人間だけ。花見席の礼は言われたが、それ以外とは顔を合わせただけだ。
耳を澄ませて聞いていると、月村をはじめとする、高町、神咲、クリステラ、といった名字が聞こえてくる。
年齢や家がバラバラな面子が、親戚だというのだから驚いた。
どうやら、親戚類が集まるお花見の一席に身を寄せてしまったようだ。
赤の他人とも言える俺は肩が狭い。
「あ、そうだ・・・ユイさん」
ユーノは雫と親しそうに話している女性に声を掛けた。ユイと呼ばれた女性はこちらに視線を向ける。
「なんですか? おじ様」
いや、おじ様はヤメテ。
どうやら、彼女も雫の影響があってか、ユーノのことをおじ様と呼ぶ。
「あのさ。翠屋でバイトって雇える?」
「翠屋で、ですか?」
翠屋? 聞きなれない名前に傾げる。 何かの店だろうか?
「はい。大丈夫ですよ?」
「ならさ、コイツを雇って欲しいんだ。勉強のために」
ユーノが俺を指すと、視線が集まった。
「見ての通り、容姿はいいんだけど、無愛想でね。 手取り足取り、教えてくれればこちらとしても助かるんだけど・・・」
どう?とユーノはユイに聞く。
「そうですね。時期を考えると、忙しくなりますし・・・」
ユイは「ん~・・」と考える。
「物覚えはいい方だよ」
「のりました!」
即答だな。
「じゃ、そういう事だから、しばらく、翠屋でアルバイトしてね」
ニコッとユーノは笑う。なにか企んでいるとしか思えない。
「了解した」
しばらく、日本に滞在することが決まった。
リリカルおもちゃ箱の面子勢揃い! な、お話。
こちらの独自設定により、月村霞は恭也と忍の子孫。ユイは高町クロノとなのはの子孫。
そして、ユイは翠屋で働いている。
書いてて、サマーウォーズを思い出す。仲良かったなぁ、あの家族・・・と。
彼女たちは、そんな感じです。
文章にはしていませんが、他に、レンや
モーレツ宇宙海賊ネタ。
お花見トレスネタ。