基礎知識を知っていても実際に見たことも聞いたこともなかった子供に、生みの親の友人はいろんなものを見せ、聞かせ、子供を育てていった。
“
子供はすくすくと育ち、自我を芽生えさせていった。
これはそんな日常のひとつである。
ぱらりと紙がめくる音が聞こえる。
「…………」
ユーノは屋敷の部屋の一室で日の光を頼りに本を読んでいた。
大量の書類が整然と並べられた部屋。現在では徐々に珍しくなりつつある、非デジタル系の紙で出来た本や写真が目立つ。かなりの量だ。それでいて散らかった印象はない。すべてがキッチリ整理されている。
部屋の主であるユーノの性格を表していた。
ユーノは手を止め、本に落としていた視線をあげた。
開いた扉の前で山のような本を腕で抱えたグラーベがいた。
「相変わらず、この部屋は本が多いな」
他の部屋は適当なのに。と
「昔っからこういう、本の整理は得意でね。散らかってると整理しちゃうんだよ」
なんでも昔は、広大な広さを持った未整理の図書館で司書をしていたとか。「どんな場所だ」とツッコんだら、笑ってはぐらかされてしまった。
グラーベはユーノの傍まで来る。
「今、届いた本だ」
「うん」
抱えていた届いた本を似たような本の山の近くに置く。
ユーノは読んでいた本を窓際に置き、グラーベが持ってきた本をざっとページをめくり、いくつかの山に分ける。
ユーノはどこに何があるのか完全に把握しているらしく、流れるような優雅な動きで本の整理を続けている。
「それで分かるのか?」
その様子を見て、同じような山にしか見えないグラーベはユーノに聞いた。
「うん」
ユーノは最近、非デジタル化の紙媒体の資料からデジタル化のデーターに移す作業をしている。
オレも時折、本の整理を手伝うが、非デジタル化の資料を整理するよりもデジタル化の資料を整理した方が、イノベイドの性質上簡単にできた。
オレはヴェーダにリンクしつつ、デジタル化した資料を整理するだけだからだ。
逆にユーノはデジタル化したデーターを整理するのが苦手だった。少しでもいじると、データーが飛散してしまうからだ。その度にユーノは首を傾げ、オレはまたかと落胆する。
「昔は出来たんだよ。デジタル化したの資料の整理だって」と言っているユーノにオレはその飛散したデーターを一から集め直さなければならず、再びヴェーダにリンクするのだ。
「最近は本を読まない人が多いからね。ネットワークで情報だけを引っ張り出して片付けちゃうひとが多いけど、僕はデジタル化という作業によって、資料の本質的な部分が欠けてしまうかもしれないっていうのは悲しいかな」
そういいつつも、「少しでも読んでもらいたいから」とデジタル化を進めている。
「本質的な部分?」
「本はね……初版のモノが一番いいんだ……一番その時代を感じられるものだから」
ユーノは新しく来た本を一つ取り、表紙を撫でた。
「……本の状態にもよるけど、文字のフォントや紙の状態で、その時代が分かる……それは、古ければ古いほど、どんな時代だったのか分かる」
手に取った本は初版の本だった。中世ヨーロッパ諸国で作られたその本は、現在では、重版された本が多く、初版はまず手に入らない。数に限りがある本を手に入れるにはオークションで落札するか、国際文化財に指定される本を借りに行くしかない。手に取ったその本は前者だった。
「本当に資料の価値を見出すには、資料を直接確認して決断した方が一番分かる」
優しく背表紙を撫で、本の状態をひとつひとつ確認する。その様子にグラーベは並みならぬ愛情を感じた。
「…………」
広さがある屋敷の部屋は本で埋まった部屋がいくつもある。その部屋ひとつひとつに本の状態を
ただし、今いる部屋はユーノ曰く趣味の部屋らしく、その改造を施していない普通の部屋だ。それでも本が
部屋を見渡したグラーベは窓際に置かれた本に目が
ユーノは新しく屋敷にやってきた本を読み始めている。
「ユーノ」
「ん?」
ユーノは本から視線を上げてグラーベを見た。
「あれはもう良いのか?」
俺は窓際の読みかけの本を指した。
「ああ……あれ?……うん……もう、読んじゃったんだ。あれ」
そう言って、視線を手元の本に戻す。
「もう、読んだのか?……あの本、昨日来たやつじゃないのか?」
グラーベは驚いた。どれだけ早いんだ読むスピード。
「うん……というか、今持ってきてくれた本も全部、内容はもう読んだよ?」
「何!?」
信じられないと顔が豆鉄砲食らった。
「ま……まさか。さっき、雑に読んだだけで?」
おずおずと、本を指してユーノに尋ねた。
「雑とは失礼な……ちゃんと読んだよ。試してみようか?」
ニヤッと笑ったユーノに本当かどうか確かめるために、グラーベは適当な本を取った。
随分と分厚い本だ。
「・・・バルスブルグ教典第5巻34章 天曰く『闇より』――」
「生まれし子羊に耳を傾けることなかれ」
別の本を取る。
「第20巻3章 天曰く『海に』――」
「堕ちたバベルの罪と罰について・・・」
更に別の本を取る。
「第77巻最終章 天曰く――」
「最後の光は我らと共に」
勝ち誇ったユーノは
「――♪――」
グラーベは脱力し本を持ったまま、なわなわと震わせていた。
「(なんだろう、この挫折感は・・・)」
デジタル化のデーター処理は誇れるのはヴェーダのバックアップがあるからこそのグラーベにとって、非デジタル化の本はグラーベ単体のデーター処理では限界があった。それを、ユーノはあたかも本もデーターと同じように
「(落ち込んでるよ。なんでかな。どうしようかな。う~ん)」
ユーノはそんな様子のグラーベを見て、
「……教えようか?」
グラーベはピクリと反応すると恨めしそうにユーノを見る。
「今も少し手伝ってくれるけど……グラーベが僕の助手をしてくれるなら、すっごく助かるな」
ユーノは嬉しそうな笑みを浮かべて、グラーベに手を差し出す。
「……!……」
グラーベは心の中から湧き上がる
「やらない?……一緒に」
子供は里親の手を取った。
無限書庫ネタ。
07-GHOSTネタ。