Celestial Being   作:灰恵

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Celestial Being 2196

 

―― 西暦2196年 木星衛星軌道上 ――

 

―― 大型木星探査船エウロパ ――

 

 

 

丸みを帯びたワインのボトルのような形をしたGNドライブ建造宇宙船――GNファクトリー――は先端から宇宙に溶け込むようにその姿を隠す。

 

「ファクトリー、光学迷彩完了」

 

木星を正八面体に囲む六隻のGNファクトリー。

画面に映るその様子をエウロパに乗る科学者たちは真剣な眼差しで作業を続ける。

 

「1番から6番。木星との相対周期同調」

 

微調整のシグナルをコマンド入力する。

 

「トポロジカル・ディフェクトの座標確認」

 

ファクトリー後部の巨大な円の内部で加速するトポロジカル・ディフェクト。

それを木星に向け射出する。

 

 

「――― スタート!!―――」

 

 

GNファクトリーの先端部から光の粒が射出され弾けた。

 

「GN粒子……人の未来を変える光……」

 

木星の衛星軌道上に輝く5つの光。

浅緑色の髪をした少年が心躍らせる思いでその光景を見ていた。

 

 

―― エウロパは事故により乗員は死亡したものと偽装され、地球とのコンタクトを避け、秘かに太陽炉の開発を続けた。イオリアの描いた夢は引き継いだ者たちの計画となり、夢を離れて実行されていく……――

 

 

―― GNドライブ。通称「太陽炉」の開発にはおよそ20年の歳月が費やされた ――

 

 

「……スカイ。何を造ってるの?」

 

休憩時間に訪れた同僚の部屋で薄緑色の髪をした男が丸い何かを作っているのを見て、ハニーブロンドの男は尋ねた。

 

「ん?……なんだ。ユーノか……」

 

スカイは顔を上げた。

 

「これはね。独立型AIを搭載したサポート型ロボットを作ってるんだ」

 

笑顔を浮かべて自慢げに話す。

 

「名前は“ハロ”って言うんだ」

「へぇ……これが設計図?」

 

スカイの手元を覗いて、フムフムと感心して眺めていた。

 

「まあね……GNドライブも試行錯誤な状態だし……息抜きに作ってみたんだ」

 

独自の設計で立てたものを隠さずにユーノに見せてくれた。

器のでかい彼だからこそ、見せてくれたのだろう。他の人間なら、他人が来た時点で作業をやめてしまうだろう。

それとも、これも無意識のうちにヴェーダによって組み込まれた命令なのだろうか? と、ユーノはスカイの顔を覗いた。

 

「なに?」

 

僕の顔になにかついてる?と顔を傾げるので、まさかね。と頭を横に振った。

 

「あのさ……それ、僕も作っていい?」

 

恐る恐るといった感じにスカイに聞く。

 

「いいよ」

 

キョトンとした顔をしたものの、スカイは笑顔で答えた。

 

「こっちを参考に作ってもらって構わないよ」

 

スカイは今作っている独立型AIの設計図をコピーしてユーノに渡した。

 

「いいの?」

 

ユーノはもう一度確認した。

 

「いいんだ……その方が、こいつも、アイツも喜ぶよ!……兄弟が出来たぁー!って言ってね」

 

笑顔で答える。

 

「アイツ?」

 

こいつとは今作りかけのオレンジ色のハロの事だろう。なら、アイツというのは……?

 

「ああ、ちょっと、AIに失敗しちゃってね」

 

照れくささを隠すように、頭をかいた。

 

<オレのことかぁー!? オレのことかぁー!?>

「!?」

 

ユーノは驚いて声のする方を振り向いた。そこにはスカイが今作っている同型のハロが耳をぴょんぴょん跳ねながらこちらに来た。

 

「ああ、そうだよ。“HARO”」

 

目つきの悪い、紫色の球体。

 

「…………」

 

ユーノはあんぐりと口を開けたまま固まった。

スカイはHAROを手にとり、頭を撫でた。

 

<なでるな。なでるな>

「なんか、どこをどう間違えたのか……性格がアレになっちゃってね」

 

苦笑いを浮かべた。HAROはスカイの手から逃げた。

 

(……そういえば、いたな……ロックオンのオレンジハロに“兄サン”と呼んだ。目つきの悪い紫ハロ……)

 

見てから思い出したあたり、ユーノにとってあまり重要な事ではなかったらしい。紫ハロはトリニティーチームにいたから余計だろう。

 

「だから、AIの設計を直したんだ……ボディの方は同じだよ」

「……よく出来てる」

 

ようやく意識が戻ったユーノはやっと感想を絞り出した。

 

「でしょ?」

 

スカイは褒められたのが嬉しいのか照れながら笑う。

 

「――じゃあ、ありがたく、使わせてもらうよ……ありがとう。スカイ」

 

ユーノはお礼をいってドアに向かう。

 

「お安い御用だよ。また、後でねユーノ!」

 

片手をあげて、部屋から出て行った。

 

 

 

 

―― そして、完成した5基のGNドライブは地球のソレスタルビーイングのもとに送り出された ――

 

 

 

 

 

「……これで、やっと……ひと段落が付いた……」

 

自室に戻った男は無重力で重さを感じないヘルメットを脱いだ。

 

「……ふぅ……」

 

流れる長くなったハニーブロンドを狭いヘルメットから解放してやる。

 

 

 

 

―― だが、その直後。エウロパに悲劇が訪れる ――

 

 

 

 

「……いや、これからか……」

 

部屋に警報が鳴り響き、ドアの向こうが騒がしいのが分かる。

 

「……これから、始まるんだね……イオリア……」

 

投げ捨てたヘルメットは宙に浮かび、ふよふよと漂う。

 

「……また、会えるかな……」

 

地球へ置いてきた黒髪の人影が男の脳裏に浮かぶ。

 

 

 

 

 

―― 情報秘匿のためエウロパは破棄された ――

 

 

 

 

部屋の片隅に置かれたAIの入っていないボディだけのハロ。

 

「……また、会えるよね……」

 

ユーノは愛おしむように優しく抱きしめる。

 

「……だって、僕は……」

 

涙を浮かべた男の口元は笑っている。

 

 

 

 

 

―― 多くの科学者の命と共に ――

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

―― 数年後。地球圏 ソレスタルビーイング開発衛星 ――

 

 

 

「木星からの輸送船を収容しました」

 

報せを受けたメンバーは懐中電灯を片手に暗闇の輸送船の内部に入る。

 

「太陽炉確認」

 

1基、2基……と数えていく。

 

「連絡の通り5基です」

 

事前に知らされた通りの数があることを確認でき、メンバーは胸を撫で下ろす。

更に奥へと進む。

 

「ん? あれは?」

 

太陽炉とは関係のない丸い球体を発見した。

その球体はくるりと座席で回転し、顔が出た。

 

『ハロハロ』

 

パタパタと耳のようにフタを開け閉めして、あいさつした。

メンバーはもう一人いる仲間を呼び、球体にライトを当てて観察する。

 

「なんですか? コレは」

 

『ハロハロ』と耳を動かし、座席からふわふわと宙に浮く球体。

 

「作業用の独立AIか」

 

操作をしていないのにひとりでに動くその球体をみてAIだと分かる。バスケットボールほどの大きさの球体を手に取り、よくよく観察する。

 

「こりゃ、よく出来ている」

 

『ハロハロ』と球体は答えた。

輸送艦にはエウロパに乗っていた乗組員の姿は見当たらない。無人だ。木星からここまで来るために、無人では船は動かない。しかし、記録に残った航路を見ると、まっすぐ地球圏に帰ってきたことが分かる。

そこから推測される答えはおのずと出てきた。

 

「お前が船をここまで操縦してきてくれたんだな」

 

そういって、ハロの頭を撫でる。

 

「こいつをコピーすれば人員不足を補えるんじゃないのか?」

「そりゃいいですね」

 

ひとつの犠牲によって生まれた者達を前に、何も知らされていない者達は笑った。

 

 

 


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