爆弾の設置やそのシミュレーションをやり遂げたユーノはオレに別れを告げた。
「―― 行くのか」
「―― うん」
ユーノはエウロパの乗員として訓練を受け、それに乗り込む。来るべき対話のために真実を知りながらミッションを遂行するために。
「僕はね。今までずっと、誰かの命を奪ってきた。……たぶん、これからも」
「…………」
オレは黙って耳を傾ける。
「償い切れない罪でも、少しでも償えたらと思うんだ……自分のエゴだけどね」
空港の窓から差し込む光に陰がかかる。一機、また一機と飛行機が飛びだっていく。
「あ!……そうだ!」
ユーノはグラーベに渡すものを思い出しポケットから取り出す。
「これは?」
受け取ったものは紫色の宝石をあしらったネックレスようだった。
「ネクタイピン。何か足らない気がしてたんだよね。この前、ようやくそれを思い出してさ」
ユーノはそれをグラーベの首元に着けてやる。それまで
「大事にしてね」
「
微笑むユーノに嫌味を返す。それでも、笑って「ありがとう」と言った。
***
薄緑色の髪をしたスカイ・エクリプスはエウロパに乗る乗員だ。
彼はユーノと同じ裏に従事する人間だ。だが、全てを知るわけではない。いや、乗員のほとんどが知らないと言っていい。
そんな裏の事情を知らないスカイは出発の最終調整に入る前に取れた休暇を利用して、友人―― ラーズ・グリース ――の下へと訪れていた。
―― 客室 ――
「僕はね、人類のために役立ちたいのさ。今度の木星探査はきっと人類に大きな福音(ふくいん)をもたらすよ」
「たいした自身だな。ただの科学調査だろ?」
興奮した調子で話すスカイに、ラーズは微笑ましく彼の話を聞いていた。
「守秘義務があるから詳しくは話せないけど。本当にすごいことなんだよ。これは」
目を輝かせて話す様子は、守秘義務がなければ、これはすごいんだ!と事細かく話していただろう。スカイが抱くこの高揚感をラーズに伝えきれずにいるのが、少し残念だった。
「ふぅ……。キミはすごいな。それにひきかえオレは――」
ラーズは普段の日常を思い出す。
「人様の役に立つことなんて何もない」
これといって役に立つことがないので、肩を落とす。
「何を言っているんだ。ラーズ」
スカイは棚にかけられたラーズの家族写真を見た。
「キミは奥さんと息子さんを愛して幸せな家庭を守ってる。それは人として十分に大切なことだと思うよ」
スカイはそんなことはないとラーズに笑いかけた。
***
―― 宇宙港 ――
星の名を持つ船は大衆の歓喜を受けながら、白い雲の道を一本残し、空へ空へと上がっていく。
乗ることさえ許されなかった俺は眩しすぎる晴天の空を見上げた。
サングラス越しに見える探査船を、ただただ見送ることしかできなかった。