Celestial Being   作:灰恵

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アルバイト継続中。






番外編4 食事は大切です。

日本に滞在するようになって半年。俺は喫茶店 翠屋でアルバイトを続けていた。

観察対象のユーノはその間、不在。ヴェーダにそのことを報告しても、「アルバイトの継続を続行」との定時連絡がはいる。

初期の目的からすれば、今の状況からすこし不服は覚えるモノの、「助かっている」「ありがとう」と言われれば、満更(まんざら)でもない。

しかし、妙に置いて行かれたように感じるのも、事実だ。

 

 

 

 

「まるで、迷子の子供のようですね」

バイトの休憩中、シュテルからそう言われた。

「迷子か。そう見えるか?」

「ええ。表に出していませんが、私にはわかります」

自分も同じような経験がありますから。と付け加えた。

「以後、気を付ける」

子供の様だと言われ、見た目との違和感を指摘された俺は固い表情で謝る。

シュテルは自分が言いたいことが伝わっていないと理解すると、自分の言葉の少なさに嫌気がさした。

「いえ、そうではなく」

感情プログラムに自制の修正を加えようとして、彼女に否定された。

「もっと、表に出してもよいということです。無表情な鉄仮面では、相手に好印象は与えません」

しばらく考えて、自分では思いつかない。解らないことは、人に聞くことも良いこと。と教わったことを思い出し、行き詰った俺はシュテルに聞いた。

「・・・どうすればいい?」

「私も人の事を言える立場ではありませんが、そうですね・・・」

これは経験ですが、と付け加えた。

「笑えばいいと思います」

「笑う・・・」

笑顔と言われて、ユーノの顔を思い出した。ユーノは良く笑う。

 

普通、褒められた、爽やか、照れ笑い、期待、ドS、ドM、営業スマイル、目を細める、目だけ笑ってない、爆笑、ひらめいた、悪だくみ、やましい、ヒキ気味、困ったように、泣き笑い、思い出し笑い、母のように、ドヤ顔・・・

喜びの感情のときにも笑うが、悲しい時でも笑う。

 

その笑顔ひとつとっても、同じものはない。

笑顔とは本当に不思議なものだ。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

ウェイターから例の注文を受けて、品を作る。

「いちごパイ3つとチョコシューとバナナパイ、オールセットでアイスミルクティ・ダージリン・コーヒー各2つとアールグレイ! ランチパスタ6つで3つがデザートセット。コーラ2つにアイスコーヒー2つ、レモンティーにオレンジジュース! あ、アップルパイ焼き立てをお持ち帰りで!」

俺も作ることになった。

隣でシュテルと一緒につくる。

「はい、どうぞ」

シュテルから受け取り、ウェイターはテーブルに持っていく。

カウンターにある電話が鳴った。

「はい。海鳴商店街・喫茶、翠屋です」

手伝いをしていたユイが電話に出た。

「あ、ユーノさん! お久しぶりです!」

注文品を作っている途中で「ユーノ」と聞こえて、俺はユイをチラ見する。

「グラーベさんですね。ちょっと、待ってください」

手招きするユイと視線があった。

「はい、どうぞ。ユーノさんからです」

「わかった」

ユイから電話を受け取り、耳に当てる。

「お電話代わりました。海鳴商店街・喫茶、翠屋のグラーベです」

わざと嫌味ったらしく、他人行儀で答えた。

『ちょ、ひどいなぁ。グラーベ』

ムスッとした声に、ユーノは困ったように笑った。

「なんの様だ? こちらはバイト中なんだが」

むくれた表情で答えた。姿は見えなくとも、きっと、ユーノはこちらの顔が見えていることだろう。

『うん、知ってる。 どうしてるかなぁって思ってさ』

「よくしてもらっている」

ウェイターで接客を覚え、奥の調理場でひとつひとつ丁寧に教えてもらっている。

『ちゃんと食べてる?』

「俺はな。お前はしっかり食べてるのか?」

食べてなさそうだなと思ってたが、口には出さなかった。

『え? ・・・食べてるよ?』

案の定、食べていないようだ。

「バランス栄養食で、か?」

『あぁ~・・・それで済ませちゃうかも』

図星の部分を刺激したら、白状した。

「ユーノ。補助食品もいいが、健康の基盤は食事、睡眠、運動のバランスのとれた規則正しい生活にあるんだぞ。サプリメントなどなくても、毎日三食、主食、主菜、副菜を基本にさまざまな物を食べることで、自然に必要な栄養素を摂取できるんだ」

ユーノは『うっ・・・』と声を詰まらせた。更に言えば、俺の話に耳を傾けている客の中からも、ちらほら似たような反応が見える。

「また、(しゅん)の食材は豊富なエネルギーと(うま)み成分を含んでいる。旬の物をとることで、疲れ知らずの元気な身体になる」

うんうん。と頷く客の姿も。

「何より美味しい食事は心を満たしてくれる。心身一体。皆で美味しい季節の料理を食べ、心も身体も(すこ)やかに(はぐく)む。それが健康――『それよりさぁ、グラーベ』―― というものだぞ」

話を変えたな。

「なんだ」

『今、そっちは何時?』

グラーベは時計を見る。

「日本時間で、15時7分だな・・・8分になった」

針が進み、15時8分になった。

話を始めてから、15分以上は経っていた。

『・・・そう』

神妙な返事を返すユーノに、俺は眉をひそめた。

「なにか、あるのか?」

『ううん。なにも、・・・なにもないよ』

どこか、ホッとしたような声が電話越しに聞こえた。

「・・・ユーノ」

『うん?』

「一度、帰ってこい。顔が見たい」

『・・・やけに、素直だね』

ユーノは一瞬驚き、ストレートに言った俺に嬉しそうに答えた。

『OK. こっちが片付いたら帰るよ』

「直ぐに帰ってこいよ」

「今日中」といったら、「さすがに無理だよ」と返されたので、そう答えた。

『じゃあ、またね。グラーベ』

「ああ。お前も気を付けろよ」

『あはは・・・』ユーノは笑って電話を切った。

ツーツーという切れた受話器を見つめ、それを戻した。

 

 

「どうでした?」

シュテルがキッチンから顔を出した。

「いい加減な食事をしているようだったが、元気そうだった」

ユーノの事を聞かれたと解釈した俺は、そう答えた。

「そうですか。なら、帰ってきた時には、新メニューの試食を含めた、栄養バランスの取れた会食を開いた方がよさそうですね」

「ああ」

2人は心配事の絶えない大切な人のためにサプライズを開く計画を立てた。

 




【イメレス】笑顔で表情20!【笑って笑ってー!】ネタ。
ログホライズンネタ。

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