インフィニット・ストラトス a Inside Story 作:鴉夜
また、オリジナル解釈が多めです。矛盾や、つじつまが合わない等はあるかと思いますが、本当にご勘弁ください(泣)
「ISのハイパーセンサーは問題なく動いているな。一夏、気分は悪くないか?」
「大丈夫、千冬姉。いける」
「そうか」
千冬姉は俺を心配していた。ISのハイパーセンサーでなければ分からないくらいではあったが、その声が微妙に震える程に。お互いいつも通りの呼び方だったが、それを注意することができない程に。
「京夜、箒。行ってくる」
「ああ。勝ってこい」
箒は俺を応援していた。その顔は一緒に剣の道を志していた頃となんら変わらない。きっと負けたら相当言われるんだろうな。正直負けられない。ここまで特訓に付き合ってくれた箒や京夜の為にも負けられない。
◇
「あら、逃げずに来ましたのね。織斑一夏」
セシリア・オルコットが空高い所から、上から目線でふふんと鼻を鳴らす。腰に手を当てたポーズが様になっているな。
ISは元々、宇宙空間での活動が前提に作られているので原則空中に浮いている。ISのバトルは基本的に空中戦と言ってもいいだろう。俺は彼女のISに関心を寄せる。
鮮やかな青色の機体、特徴的なフィン・アーマーを4枚背に従え、どこか王国騎士のような気高さを感じさせるフォルム。
――ISネーム『ブルー・ティアーズ』。戦闘タイプ・遠距離射撃型。六七口径特殊レーザーライフル【スターライトmkⅢ】装備。その他特殊装備有り。
ハイパーセンサーからの情報を実物を見て確認する。あの2メートルを超える長大な銃器、あれがレーザーライフルか。特殊装備とやらは確認できないな。
俺は辺りを見回す。アリーナステージは直径200メートル。発射から目標到達までの予測時間は0.4秒。ハイパーセンサーがあるとは言え、気を抜けば直撃は間違いないだろう。
「最後のチャンスをあげますわ」
「チャンスって?」
腰に当てた手を俺の方に、びっと人差し指を突き出した状態で向けてくる。いちいちの格好が本当に様になっているヤツだな。練習とかしているんだろうか。
「わたくしが一方的な勝利を得るのは自明の理。ですから、貴方が泣いてわたくしにお願いするのであればハンデくらい差し上げますわ」
そう言って目を笑みに細める。
――警戒、敵IS操縦者の左目が射撃モードに移行。セーフティのロック解除を確認。
ISが告げる情報を、俺は一度飲み込んでから整理する。そうしないとあっという間に飲まれてしまいそうだ。セシリアにも、白式にも。
当然、セシリアは俺がセーフティロック解除の情報をハイパーセンサーから得ていることは分かっている。そう、これは最後通告なのだ。俺の回答が開始の合図となるだろう。
俺はさっきの京夜の言葉を想い出す。京夜は言っていた。『男としての意地』。俺は男としてそんな恥ずかしい真似はできない。そんな提案は……
「お断りだ!!!」
「そう、残念ですわ。それなら――」
――警告! 敵IS射撃体勢に移行。トリガー確認、初弾エネルギー装填。
「お別れですわね!」
「うおっ!?」
次の瞬間、キュインッ と耳をつんざくような独特の音と同時に走った閃光が刹那、俺の体は打ち抜き、成形途中の左肩の装甲が吹き飛ばす。直後に神経情報として痛みが稲妻のように走る。先程の攻撃を受けたことによる衝撃で若干バランスを崩してしまったが、白式が自動姿勢制御により体勢を立て直した。くそ、その反応に俺がついて行けていない!
――バリアー貫通、ダメージ46。シールドエネルギー残量、521。実体ダメージ、レベル低。
ISには操縦者を守る防御機能として『シールドバリアー』と『絶対防御』が搭載されている。
『シールドバリアー』とはISの周囲に張り巡らされている不可視シールドで攻撃を受けるたびに『シールドエネルギー』を消耗してしまう。
『絶対防御』とは操縦者の生命を守る為の機能で『シールドバリアー』が突破されてもこの『絶対防御』が発動し、あらゆる攻撃を受け止めてくれる。発動すると『シールドエネルギー』を極端に消耗する。
『シールドエネルギー』は数値化されており、ISバトルでは相手の『シールドエネルギー』を0にした方が勝者となる。
もちろんIS自身も物理的なダメージを受けることがある。これを『実体ダメージ』と言い、破損すれば大なり小なり戦闘行為に影響を受けてしまう。
よって今の攻撃は『シールドバリアー』が突破された為、『シールドエネルギー』が若干減少。肩の装甲も吹っ飛んだ為、『実体ダメージ』を受けたが、ISの判断により『絶対防御』は発動しなかったということだ。
「さぁ、踊りなさい。わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる
「くっ!」
丸腰では話にならない! こちらも反撃しなければあっという間にシールドエネルギーが削られて、何もできないまま終わってしまう!
俺は白式に装備を確認する。すると現在可能な装備一覧が表示された。だが、一覧とは名ばかりの『近接ブレード』の一択だった。くそっ、これだけかよ!
俺は近接ブレード【名称未設定】を呼び出し、展開する。
キィィィン……。
ISの武器は量子変換されて機体の中に格納されている。操縦者の意志により、出し入れが自由だ。高周波の音と共に、俺の右腕から光の粒子が放出される。それは手の中で形となって、収まった。
「遠距離射撃型のわたくしに、近距離格闘装備で挑もうだなんて……笑止ですわ!」
相手はレーザーライフル。俺は刃渡り1.6メートル程の片刃のブレード。27メートルという絶望的な相手との距離。俺は相手の攻撃を躱しながら間合いを詰めなければ相手に攻撃できない。IS稼働時間が20分程の俺に与えられた条件は何もかもが俺の味方をしない。だが――
「やってやるさ」
男として引く訳にはいかない。激戦が、はじまった。
◇
「――27分。持った方ですわね。褒めて差し上げますわ」
「そりゃどうも……」
「このブルー・ティアーズを前にして、初見でこうまで耐えたのは貴方がはじめてですわね」
今の俺の現状はシールドエネルギーの残量67。実体ダメージ中破。武器はかろうじて使える程度。対して相手はほぼ無傷。っていうかノーダメージ。それは何故か。レーザーライフルだけなら躱しつつも接近して攻撃できると踏んでいた。だが――
――その他特殊装備有り――
この特殊装備、先程本人が戦闘中にご講演していたが、名を【ブルー・ティアーズ】と言うらしい。実戦投入1号機ということで機体にも同じ名前が付けられているコイツはフィン状のパーツに直接特殊レーザーが搭載された第3世代兵器『BT兵器』と言われる自立起動兵器だ。
セシリア・オルコットは自分の周りに浮いている4機の【ブルー・ティアーズ】――同じ名前でややこしいから以下ビット――をまるでフリスビーと取ってきた犬を褒めるかのように撫でる。
「では、
笑みと共に右腕を横にかざす。2機のビットが多角的な直線機動で接近してくる。さっきからずっと同じパターンだ。ビットからのレーザーを防御ないし回避するとその隙をレーザーライフルで狙ってくる。
「左足、いただきますわ」
――まずい! 左足はもう装甲を失っている。このまま食らえば『絶対防御』が発動してしまうだろう。そうすればシールドエネルギーが間違いなく0になって俺の負けだ。このまま、一撃も与えられないまま負けるなんて御免だ。だったら一か八か――
「ぜああああっ!!!」
俺には最初から間合いを詰める以外の選択肢はない。どうせこのままやられるなら、と無理矢理の加速で玉砕特攻。セシリアのライフルの銃身に正面からぶつかった。その衝撃で砲口が逸れてなんとかとどめの一撃を免れる。
「なっ……!? 無茶苦茶しますわね。けれど、無駄な足掻きっ!」
距離を取り、空いている方の左手を振る。すると、それまで周囲の空間に待機していたビットが俺に向かって飛んできた。
俺はここで確信する。今までただ攻撃を受けていただけではない。いくつかの推測とパターンを確認していたのだ。
俺がセシリアに捨て身の特攻を仕掛けた時、ビットは攻撃してこなかった。つまりあのビットは俺の動きを自動的に感知し攻撃する訳ではなく、セシリアの命令によって動いている。4機も同時に
ISは全方位視界接続、つまり360度見えている。だが、実際の目で見える範囲以外の部分については直感的に反応できない。そのコンマ数秒の遅れをセシリアは狙ってきているのだ。逆に言えば「隙に誘導できる」こちらから確実な隙を1つ見せれば間違いなくそこにビットはやってくる。分かっていれば叩き落とすことも可能だ。
俺は正面右からのビット1からのレーザーを下向きになりながら上に躱して背後に隙を作る。俺は反転し加速、そこにまんまとやってきたビット2を一閃。真っ二つにされたビットは断面に青い稲妻を走らせ爆散。――1機撃破。
「なんですってっ!?」
流石に驚愕の色を隠せないセシリア。右手を振るうとビット3とビット4もこちらに向かってきた。だが、動揺が顔に表れているぞ。
俺は先程と同様に2機のビットからのレーザーを躱しつつ、作った隙に誘導されたビット2を撃破し、セシリアに詰め寄った。この距離なら俺の間合いだ。その長いライフルの砲口なら間に合わない。獲った! そう思った瞬間……
「――かかりましたわ」
にやり、と。セシリアが笑うのが見えた。まずい! ――本能的に距離を置こうとする俺の前でセシリアの腰部から広がるスカート状のアーマーの突起が外れて、動き出す。まさか――
「おあいにく様、ブルー・ティアーズは6機あってよ!」
刃渡り1.6メートルのブレードが届く俺の間合いの距離では回避が間に合わない。かといってシールドエネルギー残量67では防御もきつい。さらにはこのビットは『弾道型』ビット。絶体絶命だ。
ドカァァァンッ!!
赤を超えて白い、その爆発と光に包まれて俺は負けを覚悟した。だが――
――フォーマットとフィッティングが終了しました。確認ボタンを押してください。
白式から意識に直接告げられたデータ。目の前に現れたウインドウ。その真ん中に表示されている確認ボタン。俺はただ、そのボタンを押す。その直後、膨大とも言えるデータが流れ込み、そして整理されていく。
キィィィィイン……。
俺の全身を包んでいたISが一度光の粒子に弾けて消え、再構築されていく。先程セシリアの攻撃により破損していた部分も再生し、より洗練された形へと。俺の中と外で劇的な変化が訪れた。
「これは……」
「ま、まさか……ファースト・シフト!? あ、なた、今まで初期設定だけの機体で戦っていたって言うの!?」
体に馴染む。俺を理解してくれたような、俺に合わせてくれているような、そんな感じだった。そうか、フォーマットとフィッティングを終え、晴れて白式は俺の専用機となったんだ。滑らかな曲線とシャープなラインが特徴的などこか中世の鎧を思わせるデザイン。そしてそれはどこかで見たような…。
その既視感とも言うべき印象は、変化した武器を見て確信に変わる。
――近接特化ブレード【
機械的な部分こそあれど、日本刀のようなその刀身は反りや長さから『
――雪片。それは、かつて千冬姉が振るっていた専用ISの装備の名称。刀に
そうか、似てるんだ。この俺専用に変化した白式は千冬姉専用の……ああ、まったく思い知らされる。3年前も、6年前も、そして15年前も。あの人は俺の姉だ。世界で最高の俺の自慢の姉さんだ。いつも守られながら千冬姉の背中を見てきた。だけどこれからは――
「俺もいつまでも守られているだけではいられない。俺も、俺の家族を守る」
「……は? 貴方、何を言って――」
「とりあえず、千冬姉の名前を守るさ。そして――」
俺は誓った。あの姉を、世界最強と呼ばれた千冬姉を――超えてみせると。
京夜は言っていた。「『織斑一夏のプライド』を見せつけてやれ」と。俺のプライド、それは「決めたこと、誓ったことは曲げない、やり遂げる」。だから――勝つ!
俺は右手に展開されている【雪片】を握り締め、セシリアへと突撃する。セシリアは弾頭を再装填した弾道型ビットを2機を俺に飛ばしてきた。射撃型ビットよりも早いが、機体が俺専用になったことで機体の瞬間加速度やセンサーの解像度が今までより遥かに使いやすい。
俺は時間差で向かってくる1機目の弾道型ビットを紙一重で躱し、2機目のビットに横一閃。両断されたビットは俺の横を通り過ぎて、爆ぜる。そのまま躊躇なく俺は間合いを詰める。
「おおおおおっ!」
手の中でエネルギーがその密度を増していくのを感じる。刹那、雪片の刀身が光を帯び、より強い力の存在を俺に伝えてきた。雪片の使い方は知っている。千冬姉に隠れて何度も見た試合の映像が今でも俺の心の中に残っているから。
セシリアの懐に飛び込んだ俺は、左下段から右上段への逆袈裟払いを放つ。だが――
「試合終了。勝者――セシリア・オルコット」
ブザーと同時に勝者の名前が告げられた。何が起こったか分からないまま、試合終了して俺は――負けた。
◇
千冬さん、山田先生と共に観戦室に来ていた私もまた、何が起きて一夏が負けたのか理解できなかった。確かにシールドエネルギーは残りわずかではあったが、一夏はファースト・シフト後にセシリアの攻撃を受けていないように見えたからだ。
「やれやれ……」
モニターで一夏の「なんで?」を全開で表現したような顔を見つつ、ため息をつく千冬さん。山田先生も私と同様で理解できていないようだ。
「どういうことですか? 織斑先生」
「武器の特性を考えずに使うから、ああゆうことになるのだ。全くあのバカは」
山田先生の問いに対し、やや呆れ顔で答える千冬さん。だがその表情や雰囲気に安堵が伺える。なんだかんだ言っても一夏のことを誰よりも心配しているのは千冬さんだ。今も昔も、そしてこれからも。
「それにしても、すごいですねぇ、織斑くん。負けてはしまいましたが、とてもISの機動が2回目とは思えませんよ」
「まだまだ自身の殻すら破ることもできていないヒヨっ子以下だ。……だが、まぁ初めてにしては……」
いつもの千冬さんらしくない歯切れの悪い感じだ。もしかして……
「素直に褒めてあげたらどうですか? あー、もしかして照れているんですかー? 照れているんですねー?」
「……」
ぎりりりりっ。山田先生の頭蓋骨の軋む音が聞こえる。千冬さんのヘッドロック。千冬さんをからかうなんて、山田先生って結構勇気があるな。いや、考えていないだけか。
「いたたたたたたっっ!!」
「私はからかわれるのが嫌いだ」
「はっ、はいっ! わかりました! わかりましたから、離し――あうううっ!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ山田先生。自業自得ですから頑張ってください。
さて、一夏の試合が終わって次は京夜の番だな。そろそろ知らせに行くとするか。私は観戦室の扉を開いて京夜のいるピットへ戻ることにした。
◇
ピットへの通路を歩きながら私は昔のことを思い出していた。一夏と、そして京夜のことを。
一夏は、6年前の幼馴染は、強かった。
そして、格好良かった。私はそんな一夏が好きだった。
だが、今にして思えばその感情は『恋』と言うより『憧れ』に近い感情だった。強くなろうとする意志やその姿勢に、心動かされ、一緒に切磋琢磨していることに喜びを感じていた。当時の私は『初恋』だと信じて疑っていなかったが……今にして思えばそれは違ったと感じている。何度も言うようだが。だが、良い思い出だ。だからこれを『初恋』としておこうと思っている。
なぜ、これ程までにして「今にして思えば」というかと言うならば、それは京夜の存在だ。
京夜の最初の印象は、『変人』だった。いや、今もそうか。
私が3度目に転校した小学校の同じクラスに同じく転校してきたのが京夜だった。当時の私は家族と離れ離れで1人きり、既に2回の転校、執拗な監視の生活の中で心が相当荒んでいて、クラスメイトの誰とも関わらず、完全に孤立していた。そんな私は隣の席で同じ転校生ということもあり、京夜の世話係に任命されたのだが……
京夜のあまりの奇人変人ぶりに私の生活は乱されて、振り回された。最初の頃はイライラしっぱなしだったのだが、徐々に、だんだんと巻き込まれている内に、自分が笑っていることに気が付いた。
京夜は確かに変人で、面倒くさがりな性格だが、とても優しい。そして誰よりも私を理解してくれている。私を理解しようとしてくれている。私が感情のままに、どれだけ傍若無人に振舞っても受け入れてくれる。
も、もちろん感情のままに行動してはいけないことくらいは分かっているぞっ、だがあいつは誰にでも優し過ぎるんだ! 男だろうと、女だろうと!
初めの出会いから3年、もう4年目になるのか……。中学でもずっと一緒にいて、そして色々あった……。そんな中で私は京夜に対しての自分の感情を自覚したんだ。一夏のときとは違う、胸がドキドキして「キュン」と締め付けられるような感覚。そばにいたい、一緒に笑っていたいという気持ち。だからこそ、「今にして思えば」と言うのだ。
それに一夏はイケメンと周りから言われているが、私的には京夜の方が格好良いしな………はっ! いかん、こんな顔で京夜の前に行ったらまた、からかわれてしまう。
鏡はないから確認はできないが、すぐさまキリッとした顔に戻して、ピットの扉を開ける。その一番奥で私の心をかき乱すアイツは用意された訓練機『打鉄』を身に纏い、目を閉じてそこに立っていた。全身が穏やかでぼんやりとオレンジ色に発光している。恐らく『会話』しているのだろう。
「京夜、一夏の試合は終わったぞ。そろそろ出番だ」
京夜の顔を右手で軽く叩く。そしてその顔に優しく触れる。いつまでも触っていたい。私はそんな距離にいたい。そんな感情をにわかに抱きながら、京夜が目覚めるのを待った。
『インフィニット・ストラトス a Inside Story』は自身のブログでも掲載中です。
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