インフィニット・ストラトス a Inside Story 作:鴉夜
また、オリジナル解釈が多めです。矛盾や、つじつまが合わない等はあるかと思いますが、本当にご勘弁ください(泣)
修行パートも終わり、明けた翌週の月曜日。本日は晴天ナリ晴天ナリ。
雲一つない青空が広がり、若干肌寒くも感じる4月の風に運ばれてくる桜の香りに春の喜びを感じずにはいられないそんな穏やかな昼下がり。なんちゃって。
俺と箒、そして一夏はそんな陽気を感じることが全くできない、窓一つない暗くただっ広い空間で待ちぼうけ。ここはIS学園の第3アリーナ・Aピット。今日はクラス代表決定戦の当日だ。これから俺と一夏、そしてセシリア・オルコットとの三つ巴の戦いが今始まる!!! ってこの言い回しは前に使った気がするな。
三つ巴とは言っても3人のバトルロイヤルという訳ではない。まず、一夏とオルコットさんが試合をして、その後に俺とオルコットさんで試合をする流れだ。なぜこの流れかというと「一夏と俺ではオルコットさんには勝てないですから、一試合でも少ない方が時間効率が良いと思います」と織斑先生に俺が進言したからだ。共に負ければ自動的にオルコットさんがクラス代表に決定するので、俺と一夏は対戦する必要がないという訳。
ちなみに俺より一夏の方が先に対戦する理由は一夏とオルコットさんが専用機持ちだからだ。オルコットさんは連戦ということになるので、つまり俺に対するハンデということらしい。勝つ気がないのでハンデはあってもなくても一緒ではあるけどね。
「しっかし、まだなのか? 当日の、今になってもまだ来ないって……」
少し焦り顔で、且つ呆れたような表情で一夏がつぶやく。俺たちがこんな所で待ちぼうけをしている理由、それは一夏の専用機が今になっても届かないからだ。正直もう少し早く来ると予想していたが、代表決定戦当日の今になってもその姿を現さない。どうやら一夏の専用機は『焦らしテク』に長けているようだな。きっととびっきりの笑顔で「ゴメ~ン、待った~」と大きな胸を揺らして俺たちの目を釘付けにしたいに違いない。やるな。ウチの相方にはできない高等テクだ。
「(……何か失礼なこと思わなかった!?)」
「(……滅相もございませんよ、ティーナ嬢)」
胸の話をした時のティーナの過剰反応は凄まじいなと感心する。その反応速度は最早条件反射の域すら凌駕しているのではと思う程だ。流石は電子彼女。
さて、まだまだ待ちぼうけタイムがありそうなので話を戻して、時間も戻して、割愛した特訓について「ちょっとだけよ」とカトちゃん風に触れようかと思うが、結果的に一夏の訓練は専用機が来なかった為、座学と剣道しかできなかった。座学の方は一夏の自主性主体で行ってもらったのだが、とりあえず通常授業についていけるレベルにはなったようだ。剣道の方は箒曰く「カンは取り戻しつつある。動きの方はまだまだではあるが……」とは言っていたので、まぁ1週間でよくやった方と言えるだろう。
俺の方はといえば、座学については最初から特に問題がない。剣道については当然のルートを通過した。つまり、サボって逃げて捕まって、無理矢理やらされて、部屋でお説教の流れだ。いつも通りだな。普段通りが一番だ。
「(箒ちゃんが不憫でならないわ……こんなのにいつも付き合わされているなんて……)」
「(こんなのとはなんだ! こんなのとは! 人権侵害だ! 裁判だ! 裁判を要求する!)」
「(被告人、貴方は変人であるが故に……何か面倒くさくなったわ。有罪)」
「(見捨て方が雑過ぎる上にギルティ!? キャッチボールは大切にしよう!?)」
そのミットまで届かない会話のボールを拾い、「今年の夏は終わった」とグラウンドの土を、涙ながらに袋に詰める今の俺の姿を目に焼きつけるがいいわ! とかくだらないことを考えていると向こうから一夏の名前を連呼して駆け寄って来る山田先生が見えた。本気で転びそうなドジっ子巨乳童顔先生がいつも以上に焦っている。どうやら山田先生は『焦らしテク』標準装備のようだな。俺はもうその上下に揺れる至宝に釘づけだ。ティーナが冷ややかな目で俺を見ていることは言うまでもない。
「山田先生、落ち着いてください。はい、深呼吸」
「は、はいっ。す~は~、す~は~」
「はい、そこで止めて」
「うっ」
一夏の言葉に素直に従って深呼吸をした後に息を止める山田先生。冗談が通じない人だなぁ。そんなんだから担当クラスの女子たちからマスコットキャラ的な扱いを受けるんだよ。まぁそんな先生の方が可愛げがあって良いけどね。
もういっそのこと副担任なしで山田先生が担任になってもらいたいくらいだ。そうすれば色々と楽ができそうなんだけどな。
ほら一夏、山田先生の顔が酸欠で真っ赤になってきてるぞ。それに可愛らしい副担任とは裏腹な恐ろしい担任様がターミネーターのテーマ曲を引っさげて近づいて来てるぜ。
「……ぷはあっ! ま、まだですか?」
「いや、実は止めるタイミングを……」
「目上の人間には敬意を払え、馬鹿者」
パァンッ! その音はもうお決まりと言ってもいい効果音と化した一夏への打撃音。箒の竹刀も相当痛い音を奏でるが、まだ加減がある。しかしあの音はとても肉親に対しての音ではない。あの音をアラーム音にしたら寝坊しないかも。ちょっと録音するから一夏に数十発殴られてもらおうかな。
それにしてもそんな暴力美人の織斑先生って彼氏とかいないのだろうか。まだ1週間くらいではあるが、全くと言っていい程に男の影が見えない。確かにスタイルは良いし、清潔感はあるのだが、いつもまるで拒絶を表すような黒のタイトスカートのスーツに白のブラウス。靴は動きやすいパンプス。彩りが基本ない上にアクセサリー類もしていない。化粧も社会人としての礼儀程度であまり高い化粧品を使っているようにも見えないし。
その上、その凶を暴で表すような性格では男の人は誰も寄ってきませんよ? 男に興味ないのだろうか。実は山田先生と禁断のお付き合いをしてるとか。それはそれで見てみたい気もするが、一夏的には落ち着いてもらいたいと思ってるのではなかろうか。
「ふん。馬鹿な弟にかける手間暇がなくなれば、見合いでも結婚でもすぐできるさ」
どうやら一夏も同じようなことを思っていたようで織斑先生に心の内を読まれたようだ。ちょっと顔が引きつってる一夏。しかし、織斑先生? 多くの若い女性はみんないつでも結婚できると思っている内にどんどん年を取っていくそうですよ。大体その性格でどんな男を捕まえる気ですか? 暴力に喜びを感じるドMな変態以外はなかなかOKでないと思いますがって、今度は俺にそんな殺気を飛ばさないでくださいよ……。
「そ、そ、それでですねっ! 来ました! 織斑くんの専用IS!」
「織斑、すぐに準備しろ。アリーナを使用できる時間は限られているからな。ぶっつけ本番でものにしろ」
「この程度の障害、男子たるもの軽く乗り越えて見せろ。一夏」
「え? え? なん……」
「「「早く!」」」
山田先生、織斑先生、箒が声を揃えて一夏に言う。できれば前もって訓練ができなかったからちょっとここで
それに常に手持ちの武器で戦い抜く癖を身につけていてもらいたいからな。常に準備が完璧でないと戦えないヤツになってもらいたくない。もちろん、他人に思考を委ねるヤツにもなってもらいたくない。
一夏は助けを求めるような目で俺を見るが、俺は両肩を少し上げて『お手上げ』を表現する。
ごごんっ、と鈍い音がして、ピット搬入口が開く。斜めに噛み合うタイプの防壁扉は、重い駆動音を響かせながらゆっくりとその向こう側を晒していく。
―――そこに、『白』が、いた。
飾り気のない真っ白な、純白を纏ったISがそこにいた。その白は、かの『英雄』を思い出させる。どうやら問題なく、間違いないだろう。
一夏はそのISに触れる。まるで吸い寄せられるかのように、まるで自分の一部と同化するかのように。まるでそうすることが決められた、当たり前のことのように。そう、まるで母に呼び寄せられる子供のように。
「これが……」
「はい! 織斑くんの専用IS『白式』です!」
「体を動かせ。すぐに装着しろ。時間がないからフォーマットとフィッティングは実践でやれ。できなければ負けるだけだ。わかったな」
織斑先生に促されて装甲が空いているIS――白式に体を任せる一夏。
「背中を預けるように、ああそうだ。座る感じでいい。後はシステムが最適化する」
一夏の搭乗を確認したかのように操縦者の体に合わせて装甲が閉じる。かしゅっ、かしゅっ、という空気が抜ける音が響く。どうやら
ハイパーセンサーに表示されているであろうセシリア・オルコットのIS情報に目を通しながら織斑先生の話を聞く一夏。程よい緊張感は感じるものの体が固くなっている印象は受けない。これならいい勝負ができるだろう。
一夏はハイパーセンサーにより360度全て見えているであろうが、あえて俺と箒に顔を向ける。
「京夜、箒。行ってくる」
「ああ。勝ってこい」
「お前の、お前の言う『男としての意地』、そして『織斑一夏のプライド』を見せつけてやれ」
俺と箒の言葉に、一層引き締まった顔を見せる一夏。振り返りピット・ゲートへと進む。白式はふわりと浮かび上がり前へと動き出した。ゲート開放。一夏は戸惑いを微塵も感じさせない背中で曇りなき青空へと飛び立っていった。
さぁ一夏の専用機お披露目だ。対戦相手はイギリス代表候補生と申し分なさ過ぎる程。一夏は相手の攻撃を躱してフォーマットとフィッティングを行えるかがまず第1段階と言える。そしてフォーマットとフィッティング終了後、つまり『
一夏がもし勝とうと思ったら、この第2段階まである程度クリアすることが最低条件となる。相手は350時間近い稼働時間を誇っている。それは当然、
「では、織斑先生、黒神くんと篠ノ之さんも、観覧室へ行きましょう」
「あの~、俺はここで準備してもいいですか? あれですよね? 俺に用意してくれた訓練機って」
俺はそう言うとピット後方に用意されている訓練機『
『打鉄』――純国産ISとして定評のある第2世代の量産型。安定した性能を誇るガード型で近接戦闘を得意とする。IS学園では遠距離戦闘を得意とする『ラファール・リヴァイヴ』も存在しているが、俺は『打鉄』をお願いした。それは一夏の専用機が十中八九、近接戦闘系と読んでのことだ。同じタイプである方が、一夏を際立たせやすい。また、ISの世代については今後語る時が必ず来るのでその時に語るとしよう。
「流石に戦闘中にフォーマットとフィッティングなんてできないですよ。俺は一夏と違ってそんなに運動神経や反射神経が良くないので……」
「……いいだろう」
「有難う御座います。それから箒、一夏の試合が終わったら知らせに来てくれないか?」
「わかった。任せろ」
俺の専用機を用意できなかったことに若干心苦しさがあるのか、躊躇い的なものはあったもののあっさりと承諾する織斑先生。いや、むしろ一夏のことが気になってしょうがないから早く観戦したいだけかもしれないが。
俺を残して3人はピットを後にする。ここに残ったのは俺と、この『打鉄』だけだ。
「(私もいるでしょう!? 愛しい相方を忘れるなんて!)」
「(おお、愛しのティーナ。貴方はどうしてティーナなの?)」
「(京夜がシェークスピアも真っ青な程の先天性の馬鹿だからじゃない?)」
「(俺が遺伝子レベルで馬鹿ってこと!?)
まるで俺が馬鹿であることが確定している上、生まれながらに馬鹿って病気持ちのようだ。
「(変人で馬鹿で変態って、京夜ってもうどうしようもない感じよね)」
「(……)」
「(あら、どうしたの京夜? そんな目で見つめられたら私、発狂するわ)」
「(俺の目から麻薬物質でも出てるっていうのか!?)」
「(目が「せ~んぱいっ」と呼んでおくれって訴えかけてるわ。この変態ロリコン)」
漢字ではなく、あえて平仮名で「せ~んぱいっ」という所が俺のことを完全に見抜かれている証拠ではなかろうか。
「(後輩の女の子は男のロマンの塊なんだよ!?)」
「(ギャルゲーに1人はいる年下の胸の小さい女の子って訳ね。って誰が『ちっぱい』なのよ!?)」
「(腕白でもいい、逞しく育って欲しいね。その胸)」
「(殺す!!! その命をプチプチってしてやるわ!!!)」
俺の命は暇つぶしで潰す包装材レベルだったようだ。
「(もう少し俺に対して優しさを表してくれてもバチが当たらないと思うんだけど)」
「(それは無理じゃない? 私、こう見えて『京夜粛清委員会』の会長だからね)」
「(……ちなみに会員は?)」
「(当然、名誉会員に箒ちゃん。定例会に毎回参加してくれて皆勤賞よ)」
「(……ですよね~)」
いつも通りの会話。いつも通りの2人だけの空間。脳内だったり小型携帯端末であったりが舞台の夫婦漫才。でもそれも今日でおしまい。この関係は今日限りで終止符が打たれることになる。若干の心寂しさを感じる。
だがしかし、別に死に別れる訳ではないし、コンビ解散する訳でもない。そう、『コンビ』が『トリオ』になるだけのこと。これからは3人で新たな関係を築いていくことになる。
俺は触れる。そこにいるたった1人の、他の誰でもない『打鉄』に。すると『打鉄』はオレンジ色の淡い光を放ちはじめた。
『インフィニット・ストラトス a Inside Story』は自身のブログでも掲載中です。
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