インフィニット・ストラトス a Inside Story    作:鴉夜

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※誤字、脱字は多いかもしれないです。表現も統一性がないかもしれません。なるべく修正します。ご勘弁ください。

また、オリジナル解釈が多めです。矛盾や、つじつまが合わない等はあるかと思いますが、本当にご勘弁ください(泣)



第7話 俺は誰に言ってるんだろう

 

 

 

 

 約3時間程、ハルシオンが混入されているかのような眠気が襲ってくる横文字だらけのIS専門用語が呪詛のように唱えられている授業が終わり、昼休みとなった。

 眼鏡を上にズラし、眠気で上瞼と下瞼がR18指定になりそうな目をこすりながら欠伸を一つ。別に授業内容についていけない訳ではないぞ? 一夏と違ってな。ただ、新鮮味がないだけさ。

 ともあれそんな苦行も終わり、これから昼食だ。朝食は正直何を食ったか分からないというか、食わされたのか覚えていないので今度は意識を保って食事をしたいものだ。それが普通だって? 俺にとっては普通でないことが多々あるのは今朝お分かり頂けたであろう。

 箒の面倒見の良さについてもう少し語っておくと、今朝のようなことは中学時代からずっと続いていることなのだ。今朝と同様、箒が毎朝、俺の家に来て、俺を起こして、朝食を口にブチ込み、引きずって登校させてくれていたのだ。おかげで俺は無事に高校生になれましたとさ。チャンチャン。

 

 

 

「(京夜は箒ちゃんに頭上がらないよね~神として崇めた方がいいよ?)」

「(そうだな~お祈り中に箒の方角を横切ることもできないな~)」

「(いつから中東系の民族宗教を崇拝するようになったのよ。まぁカーリーの像は箒ちゃんと京夜を表してるけど……)」

「(それ宗教が違うし! それに俺は足蹴にされてるってことですか!? 尻に敷かれてるより酷くない? ってか箒がカーリーって酷くない? 箒が聞いたら……)」

「(京夜酷い! よくそんな酷いこと言えるよね!? 箒ちゃんに報告しておくわ!)」

「(ちょぉぉぉぉっと待て!!! 言ったのは俺じゃないだろう!?)」

「(私と『存在が口先』の京夜、どっちを信じるかな~)」

「(理不尽過ぎる!!! マジでヤメてください!!!)」

 

 

 

 それを聞いたら『パールヴァティーの憤怒相』とも言われる殺戮を好む戦いの女神が覚醒してしまうに違いない。そうなったら例え俺が最高神のだったとしても俺の腹の上で踊って怒りが収まるとは思えない。そんな危機的状況は未然に防ぐ。この最終防衛ラインは何としても死守しなければ、地球が地球が大ピンチ! ティーナに対するカウンター・エスピオナージは常時展開中だ。

 

 

 

「京夜! 箒! 昼飯行こうぜ」

「ああ」

「うぃ~す。行くか~」

 

 

 

 飯の時間となり、先程まで呪詛の呪いで青ざめた顔をしていた一夏は教会で『のろいをとく』に泣けなしの金銭を払った後のようにスッキリした顔だ。箒はいつのまにやら俺の机の横に立っていた。お前はやっぱり『くのいち』だろ。

 しかし、一夏よ。授業はちゃんと身についているのか? 代表決定戦まで1週間しかないんだぞ? 週刊連載をしている漫画家なら毎日徹夜で寿命を削りながら読者と、自身の老後の為に原稿を書いている今日この頃。相手は一応イギリス代表候補生なんだぜ? もっと必死になってもらいたいものだ。

 ふと、視線をオルコットさんに向ける。するとたまたま彼女と目が合った。とはいっても髪と眼鏡で俺の目は殆ど見えていないようだが。俺が見ていることには気付いたようだ。鮮やかな蒼いの瞳には明らかな敵対の炎が見て取れる。目が合って挨拶もなしでは失礼に当たるかと思い、少し微笑みかけた。すると彼女はプイッと顔を背けた。俺の微笑み、プライスレス。スマイル0円。俺の心の慰謝料を請求したい。

 しかし、考えてみれば、というか思い返してみれば彼女、セシリア・オルコットには友人がいるのだろうか。まだ2日目ではあるが、昨日の昼食、夕食、そして今日の朝食も彼女は1人だった。休み時間も1人きり。クラスメイトの殆どは一夏の話題で持ちきりなのでそんな輪の中に入っていけるはずもない。

 彼女のこの状況はある意味、一夏の存在が作ってしまったと言ってもいいのかもしれない。もし一夏がいなければ今頃、主席のイギリス代表候補生として、クラスメイトの憧れの的になっていたかもしれない。例えそうでなくても友達の1人や2人はできていただろう。そんな原因とも言える一夏と仲良くしている男の俺もやはり気に入らないのだろうな。

 

 

 

「(っていうかよく見てるね京夜は。いやらしい! この視姦魔!)」

「(ぐぇっへっへっ、お嬢ちゃん、何色のパンツ履いてるの!?)」

「(それでどーするの? ほっとけないんでしょ?)」

「(いきなりシリアスモードヤメて!)」

 

 

 

 最近のティーナは切れ味が抜群だ。俺は俺の身が心配だ。

 

 

 

「(いや、京夜が変態を通り越した変人だということは周知の事実だからね。大丈夫、変人であること自体はこの国の法律に抵触しないから。その変人たる行動に出なければただ周囲から可哀想な目で見られる程度だしね)」

「(俺と共に牢屋まで地獄のランデブーしてみるか!?)」

「(ごめんなさい、別れましょう私たち。この愛人契約に終止符を打つことにするわ)」

「(愛人契約だったの!? 幾ら手切れ金を請求するつもりだよ!)」

 

 

 

 最近はボケが病的に暴力的だ。俺は俺の身とこの子の将来が心配だ。

 

 

 

「(そろそろ得意技、言っておきなさいよ。いつものアレでしょ?)」

「(……そうですね。では皆さん、ご唱和ください。せーのっ)」

「「(面倒くせ~)」」

 

 

 

 まずは2人の了承を得ないと。一夏はともかく箒の機嫌は間違いなく悪くなることは避けられないとして、なるべく被害を最小限に留める空気を作るよう努めなくてはな。これから昼飯を食いに行くのに胃がもたれそうな話だな。相変わらずの貧乏くじというか器用貧乏というか、引く前から大凶であることが分かっているおみくじを引かなければいけない運命を背負ったそんな自分にため息が出るよ。

 俺は3人で教室を出た直後、一夏と箒を呼び止めた。

 

 

 

「あのさ、昼飯にオルコットさんを誘ってもいいか? 彼女、いつも1人みたいだからさ」

「……ああ、まぁいいぜ。こないだのことはあるけどな」

「……」

 

 

 

 一夏とは違い反応を見せない箒。少し俯き加減でイライラを抑えているような表情している。しかし、それも数秒。目を閉じ上を向いて深呼吸をする。心を落ち着かせているのだろう。目を開け、俺を見つめてきた。真っ直ぐな瞳で。複雑な心の内が見え隠れするもその確固たる意志が伝わってくるかのようだ。箒は俺の性格を分かっている。だからこそ俺がそんなことを言っているのだということも。

 

 

 

「……箒、いいか?」

「……行ってこい。一夏と先に行って席を取っておく」

「……ありがとう、箒、一夏」

 

 

 

 2人にお礼を言い、俺はオルコットさんの元に戻った。2人の心の広さに感謝だな。俺が感謝する必要があるのかは正直微妙ではあるが。

 教室に戻ると、丁度オルコットさんが席を立ち、教室の入り口で鉢合わせするような形になった。

 

 

 

「あの、オルコットさん。ちょっといいかな?」

「……なんですの?」

 

 

 

 男である俺に声を掛けられること自体が嫌なのだろうか。そこまで拒絶されると俺は俺が可哀想でしょうがない。女子に、特に彼女のような美女に拒絶されることに喜びを感じるようなマゾではない俺からしてみれば苦痛以外の何物でもない。何で俺はそんな思いまでして彼女を食事に誘わなければならないのだろうか。ちくしょう。こうなったら意地でも彼女を昼食に招待してやろうじゃないか!

 

 

 

「良かったら俺と箒と……一夏……とオルコットさんの4人で昼食どうかな?」

「!? ……嫌ですわ!」

 

 

 

 そういう答えが返ってくるよねやっぱ。彼女はプライドが高い。代表決定戦が終わってもいない今、『敵』と仲良く食事とかは考えられないんだろう。俺としてはそういう敵対心ではなくもっとフラットに、お互いを高め合うような、いい刺激を与えられるような関係で競い合ってもらいたいと考えているのだが……。

 この間の言い合いで、ある程度は彼女の毒抜きに成功したが、今の1人きりの状況が一夏への恨みに少なからず繋がっているのだろう。君の友達作りにも俺は介入しないといけないんですか? 代表候補生ならもう少しそういった対人スキルも大切だと思いますよ?

 

 

 

「是非ともオルコットさんのイギリス代表候補生としての素晴らしい経験談とか聞きたいと思っていたんだ。俺みたいなただの男の操縦者に少しでもご教授頂けるととてもありがたい」

「……」

 

 

 

 おっ、その表情、まんざらでもないようですね。もう一声といった所か。

 ではでは「ここまでやるか?」ってぐらいの、「お前には羞恥心がないのか」「えっ、あの馬鹿3人組のグループのこと?」ってぐらいの恥ずかしいことをこの場で披露してやろうじゃないの。あの1億5000万円でヤクザに売られた不幸少年並みの、あの犬みたいなありきたりな名前をした完璧悪魔バリにやってやんよ!!

 俺は彼女の右手を取り、立て膝をついて彼女を見上げて言う。

 

 

 

「是非とも、貴方様のような美しいご令嬢との夢のひとときを、私に頂けないでしょうか?」

 

 

 

 そう言うと俺は彼女の右手にキスをした。キャ~と周囲のクラスメイトの声。まぁそうだろうな。貴族でもない限り、こんなの二次元の中でしか見たことないだろうから。

 オルコットさんも少し驚き、顔を赤くしてはいたがすぐに自信に満ちた笑顔を見せた。

 

 

 

「やはり貴方はわきまえているようですわね。いいですわ」

「ありがたき幸せ。では……」

 

 

 

 立ち上がり彼女の右手をそのまま優雅にエスコートして食堂へ向かう。どうよ俺のスキル。大したもんだろう? 誰も褒めてくれないが、心の中でキメ顔をしている男の姿がそこにはあった。その姿を冷ややかな目で見つめている相方の姿もそこにはあった。

 

 

 

「(相変わらずよね京夜って。髪縛って眼鏡外していたらもっと様になってるし)」

「(この封印は箒の許可が必要なんだ。これを取ると俺は3倍凄いことになる)」

「(別に赤くないんだけど……)」

「(ザクとは違うのだよ、ザクとは!)」

「(そうね、京夜は()()だもんね。前世はスライムかクリボーかってとこね)」

「(……ミミズだってオケラだってアメンボだってみんなみんな生きているんだぞ!)」

「(それは京夜は虫けらってことなのかしら?)」

「(……)」

 

 

 

 最近のティーナには悪意を感じる。俺は俺の命が心配だ。

 

 

 

「(……箒ちゃんだけじゃなく、私もいい気分ではないってことよ!)」

 

 

 

 ティーナは頬をプクッと膨らませて少し不機嫌な顔をしている。

 箒といい、ティーナといい、こういう所が俺には可愛くてしょうがない。所謂ひとつの『萌え要素』だろう。アキバ系のオタクたちがティーナのそんな姿を見ればきっと萌え死してしまうに違いない。けど実際、死因が『萌え』とかだったら葬式で誰ひとり涙を流してくれそうにないよな。

 ティーナはその後、奥の方へと引っ込んでしまった。奥ってどこだよってツッコミはなしの方向でって俺は誰に言ってんだろうね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♪きったぞ きたぞ 食堂へ キィーン キンキン キンキンキーン テケテケ テッテンテーン ピッピピ……って! ティーナがいないと止めるヤツがいない! 

 そんな1人ボケツッコミを展開中の俺はオルコットさんをエスコートし食堂到着。誇らしげですまし顔のオルコットさん。お姫様待遇のこの状態がそんなに気持ちいいんですかね。

 俺は先に来ているはずの一夏と箒を探すべく、辺りを見渡す。食堂はかなり混んでいるが席を確保できただろうか。

 すると向こうの4人掛けのソファー席から「お~いこっちだ」と呼ぶ一夏が見えた。オルコットさんと共に席に向かう。

 

 

 

「お待たせ、一夏、……箒」

「ああ、大丈夫だ」

「……」

 

 

 

 そこには押し黙ってドス黒い妖気を見に纏わせた箒。あれ? さっき納得してくれたんじゃないのか? その心の広さに先程感謝を表したくらいなのに。

 

 

 

「(……その右手を切り落としてあげようか?)」

「(!!! しまった!!! そういうことか!)」

 

 

 

 あちゃ~失敗した。オルコットさんをエスコートしている姿を見られた。そこまで考えてなかった。ティーナをさっき怒らせたままにしたツケがこんな所で……。下級レベルの俺ではそのエンヴィ―な妖気に当てられただけで消滅してしまいそうだよ。とにかく、この場は彼女、オルコットさんの方を何とかしないとな。

 

 

 

「オルコットさん、ご注文は何がよろしいか?」

「そうですわね……お任せ致しますわ」

「かしこまりました。では少々お待ちを」

 

 

 

 彼女を席に座らせて、注文を承り、笑顔で答えて席を離れる。なるべく早く持って行かないと、あのテーブルの空気が修繕不可能な状態になりかねない。あの3人の中には場の雰囲気を作るとか、バランスを取るとかのコミュニケーションスキルを持った人間はいない。そんなことでは社会に出たらやっていけないよ?

 そんな将来ニート候補生のテーブルに昼食トレーを2つ持って戻る。今日のメニューはパスタ系のセットにした。オルコットさんは昼からガッツリ食べるタイプではないだろうし、とりあえず無難なものにしてみた。文句が出るかもしれないが、俺はそこまで君に興味がないので好みのものまで知らないし、勘弁願いたい。本当はカレーライス( カーリー)が食いたかったがな(笑)

 すると俺を待っているだろうその4人掛けテーブルは案の定、三竦み状態で険悪な空気が場を支配していた。一夏は少し居心地が悪いなっといった感じではあったが、箒とオルコットさんの空気は半端ない。俺は持ってきたトレーをオルコットさんの前に置き、隣の席に着いた。向かいの席に箒と一夏。

 

 

 

「……オルコットさん、パスタで良かったかな? ゴメン、オルコットさんの好みを知らなくて……良かったら教えてもらえると嬉しいな。今後のエスコートの参考になるし」

「ええ、構いませんわ」

 

 

 

 相変わらずの高飛車で「男なんてこんなもん」みたいな視線や態度は変わらないが、それなりに俺との会話を展開する。ISの稼働時間から好みの食べ物まで、なるべく当たり障りのない話題を広い範囲から選別しつつ、機嫌を取る。まぁ基本は「凄い」ばっかだが。一夏は聞き耳は立てているものの食べることに専念することにしたようだ。箒は……まぁ言うまでもない。

 食事を終えて一息ついた4人。とりあえず、今日はこんなもんでいいだろう。時間はまだまだあるしな。この発言は若さ故にできる発言だな。

 

 

 

「オルコットさん、今日は付き合ってくれてありがとう。片付けはやっておくから……また、誘ってもいいかな?」

「ええ、まぁよろしくてよ」

 

 

 

 そう去り際にどっかのアニメの貴族キャラが言いそうなセリフを残し、優雅に金糸の髪を風になびかせて食堂を後にするオルコットさん。それを見守る3人。その後、まるで合わせたかのようにドッとため息をつく男2人。

 

 

 

「……ふぅ、何かちょっと息が詰まりそうだった」

「すまないな一夏、変に気を使わせて……」

「別に気にすんなよ、大丈夫だぜ!」

 

 

 

 それよりも……と言わんばかりの目で横にいる我らが幼馴染の方を見る一夏。……はい、分かってますよ。何とかしますよ。でないとあちらこちらに飛び火しかねないからな。

 

 

 

「一夏、片付けは俺と箒でやっとくから、先に教室に戻っててくれ」

「!! ……ああ、わかった。先に行ってるぜ」

 

 

 

 アイコンタクトを交わし、一夏も教室へ戻っていった。まだ会って2日目というのにもう目で会話ができる程になったな。箒の不機嫌な時、限定コンタクトだが。

 俺は恐る恐る箒の方を見る。不機嫌メーターはMAX状態。コマンド入れれば超必殺技が瞬時に出せそうだ。それを食らったら俺は瞬殺。いきなり人生のエンドロールが流れて、命がFINとなるだろう。そんな俺の生き様はどんだけクソゲーだって話だ。ドラクエⅢと抱合せに売られる身分ではないことを祈りたい。

 

 

 

「箒、ありがとな。俺のわがままに付き合ってくれて……」

「……」

 

 

 

 返事がない。目線を逸らされた。座ったまま、腕組みして眉間のしわがいつも以上によっている。漫画やアニメなら怒りマークがあちらこちらに出ているだろうな。

 恐らく理解してくれているのだろうが、気持ちが、心が納得できないというか、抑えられないといった所だろう。箒は大人っぽい印象を受ける人が多いと思うが、内面は意外とわがままで子供みたいな所があるからな。心に折り合いをつけるのが得意ではないらしい。まぁそんな所が可愛いと思っているけどね。

 

 

 

「そんな顔してると、ここのシワが取れなくなるぞ。俺の好きな箒の可愛い顔が台無しだぜ」

「なっ! すっ好きっ!? かっ可愛!?」

 

 

 

 俺は立ち上がり、テーブルに前のめりになって箒に近づき、眉間に右手の人差し指を当てる。俺の行動と発言に動揺しまくりの箒さんは相変わらず百面相。怒ったり照れたり忙しいね。原因が俺なのは分かってるけど。俺はそんな箒のリアクションに満面の笑みだ。

 

 

 

「さて、俺たちも教室に戻ろうか。遅れると織斑先生のサンドバックになりかねないし」

「フン! 行くぞ!」

 

 

 

 自分の分と一夏の分のトレーを持って席を立つ箒。どうやら機嫌が回復傾向へ向かっているようだ。箒って結構単純なんだよね~そんな所もアピールポイントの一つだ。どこぞの文房具武装をした蟹少女のように「ヒドイン」とか言われないようにも可愛さはもっと全面に! って俺は誰に言ってるんだろうね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういうことだ」

「いや、どういうことって言われても……」

 

 

 

 

 時間は放課後。俺と箒、そして一夏の3人は代表決定戦へ向けての剣術訓練で剣道場に来ている。箒が「今の一夏の実力を見たい」ということでギャラリー満載の中、箒と一夏は手合わせをしたのだが……開始10分、箒の一本勝ち。

 そういえば語っていなかったが、箒は中学3年生の時に全国大会で優勝している。実家も剣術道場を営んでおり、折り紙付きの実力の持ち主なのだからこれは当然の結果。しかし、箒が怒っているのはそこではない。手合わせの内容が酷過ぎだったのだ。

 俺は一夏の体格を見て、間違いなく剣から相当の期間離れている、部活動も運動部には所属していないだろうと予測していたのでこんなもんだろうという感想ではあったのだが、あまりにも動きの悪い一夏に箒がキレた。

 

 

 

「どうしてここまで弱くなっている!?」

「受験勉強してたから、かな?」

「……中学では何部に所属していた」

「帰宅部。3年間連続皆勤賞だ」

 

 

 

 ですよね~っていうか帰宅部で皆勤賞にならない状況ってどんな状況だよ。欠席とか早退したらダメってことか? なら学校は無欠席無早退ってことか。それはすごいな。俺は箒のおかげで無欠席ではあったが、早退はしまくりだったからな。ほら、俺って見た目通り病弱だからさ。

 

 

 

「(誰が病弱やねん!? どたまカチ割ったろか!?)」

「(キャラが変わってる!? なにゆえ!?)」

「(いやね、今後どんどん濃いキャラクターが登場しそうな予感がして、消えない為にも追加設定を模索中なのよ)」

 

 

 

 一体何の話なのか……。ツッコんでもらえなかったので自分で語るが、早退が多い理由は当然、病弱ではなくサボタージュ。そうサボりだ。ほら、天気が良いとついつい土手とかで昼寝したくなったりさ。後で先生や箒に怒られるのは分かっていてもその衝動を抑えきれず学校を抜け出していた。

 最初の頃は屋上とか校舎裏とかの常連だったのだが、学校内だと必ず箒に見つかって連れ戻されるので学習した俺は、外に出ることにしたのは中2の夏だった。しばらくすると昼休みから午後の授業中にかけて校門前に先生が待ち構える包囲網が敷かれるも、様々な作戦で抜け出すことが日課となりつつあったのは中3の夏だったな。

 

 

 

「――なおす」

「はい?」

「鍛え直す! これから毎日、放課後3時間、私が稽古をつけてやる!」

 

 

 

 3時間ですか。マジですか。毎日放課後は予定していたが、1時間くらいのつもりだった。当然俺も付き合わなければいけないんですよね?

 箒は練習大好きのマゾだからな。その練習に対するというか、自分の体をここまでやるかっていう程にいじめ抜くそのストイックさは周りが引く程だった。本人からしたら、いつも通りの日々の鍛錬レベルらしいが、それを他人に強要、というか俺に強要しないでもらいたい。

 

 

 

「織斑くんってさあ」

「結構弱い?」

「ISほんとに動かせるのかなー」

 

 

 

 ひそひそ聞こえるギャラリーの落胆した声。その声を聞いてか悔しそうな顔をしている一夏。女に負けるなんて自分自身が情けないって顔が言ってるな。まぁ一切鍛えてきていないならそんなもんだろ。負けず嫌い属性で底辺から頑張って這い上がってくれよ?

 すると箒は先程の手合わせで叩き落とした一夏の竹刀を拾って俺の前にやってきた。

 

 

 

「京夜、次はお前だ。持て」

「……やんの? マジで?」

「当然だ」

 

 

 

 別に俺の実力なんてどうでもいいと思うんだが……。それから何なの一夏、その顔は。俺の実力に興味があるって顔なのか? それとも俺もギャラリーの中、箒にボロ負けして「俺と一緒だな」って言いたいのか? 面倒くさいな~。けど仕方ない。一夏があんな状態なら俺はもっと道化師( ピエロ)を演じなければならない。

 俺は剣道場の中央へ移動し、箒に向き合い構える。

 

 

 

「箒、お前の実力は知っているが、忘れた訳ではないだろう? お前は俺から一本も取ったことがないことを」

「そうだったな。だが――」

 

 

 

 一瞬で間合いを詰める箒。正眼の構えから俺の頭蓋骨に向けて竹刀が振り下ろされる。俺はそれを軽くなぎ払い、箒の面に鋭く振り下ろし鮮やかに一本をってそんなことはしない。箒との手合わせで俺の手段はいつも決まっている。

 俺はバックステップで箒の竹刀を躱すと箒に背を向けて走り出した。

 

 

 

「それはいつもお前が逃げ回ってばかりだからだろうが!!! 逃げるな! 打ち合え!!」

「嫌だ~疲れる~面倒くさい~」

 

 

 

 俺を追い掛け回す箒。俺は逃げる。逃げ回る。一辺が約10M程の正方形の中を縦横無尽に避けては逃げ回る。呆れ顔の一夏、そしてギャラリーたち。そりゃそうでしょ? 相手は全国大会優勝者ですよ? 相手はあの箒ですよ? 相手はあの傍若美人ですよ?

 

 

 

「(ちゃんとやってあげたらいいのに。京夜なら……)」

「(どっちの結果でも箒の場合は面倒くさい結果になるから嫌なんだよ……)」

 

 

 

 ああ見えてというか、見たまんまというか、箒は負けず嫌いだからな。以前にテレビゲームで対戦したことがあって、俺が圧勝したら超不機嫌になるだけでなく、箒が勝つまでやらされた記憶が懐かしい。面倒になって負けたら「手を抜いただろう!?」とかいちゃもんつけられてどうしたらいいんだよ! ってなったのは良い思い出にはならなかった。

 ヤバイ、昔話で懐かしんでいたら追い詰められそうだ。いつもは追い詰められそうになったらそのまま剣道場を出て逃げるのだが、訓練でここに来ているのでそれはできない。こうなったらあの必殺技を使うしかないな。

 俺はすぐ右手の方に立っていたあの有名なイケメンの肩を掴むと箒の前に盾として突き出した。

 

 

 

「秘技・一夏ブロック!」

「フンッ!!」

「痛でぇ!!」

「がはっ!?」

 

 

 

 

 それはまさに神速の剣だった(後日談)。一夏の頭と俺の頭に『二段突き』ならぬ『二段打ち』。箒よ、いつのまにそんな技を……

 悪を滅したかのように清々しい顔で天を見る箒の足元はまさに死屍累々。世界にたった2人しかいない男子操縦者が見るも無残な姿で転がっていた。

 それからは俺と一夏の2人は箒の指導の元、素振りと筋肉トレーニングをメインに訓練を開始した。しかしその描写はオールカットだ。最近、修行パートは流行りではないらしいので飽きられない為にもそういった意見は積極的に取り入れていこうと思うって俺は誰に言ってるんだろうね。

 

 

 

 

 

 




『インフィニット・ストラトス a Inside Story』は自身のブログでも掲載中です。
 設定画や挿絵、サブストーリーなんかも載せていくつもりですので、良かったらそちらもご覧戴けると嬉しいです。


【ブログ名】妄想メモリー
【URL】http://mousoumemory.blog.fc2.com/

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