インフィニット・ストラトス a Inside Story    作:鴉夜

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※誤字、脱字は多いかもしれないです。表現も統一性がないかもしれません。なるべく修正します。ご勘弁ください。

また、オリジナル解釈が多めです。矛盾や、つじつまが合わない等はあるかと思いますが、本当にご勘弁ください(泣)



第58話 私は無意識に指を動かしていた。

 

 

 

 

 

「では、現状を説明する」

 

 

 

 大座敷・風花の間。千冬姉に連れられて、俺達はその部屋に座していた。宴会用であったであろうこの部屋は完全に指令室と様変わりしていて、所狭しと大小様々な空中投影ディスプレイが浮かび、教師陣が慌ただしくキーボードを叩いている。

 

 

 

「2時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第3世代型の軍用IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が制御下を離れて暴走。監視空域より離脱したとの連絡があった」

 

 

 

 既に話の内容が理解出来ない。いや、何やら緊急事態だということは流石に分かるけど。何でそんな連絡が臨海学校中の俺達に??

 

 

 

「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから2キロ先の空域を通過することがわかった。時間にして50分後。学園上層部からの通達により、我々が対処することとなった」

 

 

 

 対処って何? 千冬姉や山田先生達の教師陣が何かすんの? じゃあ何で俺達はここに座ってんの?

 

 

 

「教員は学園の訓練機を使用して空域及び海域の封鎖を行う。よって、本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう」

 

 

 

 ……は?

 

 

 

 はぁぁぁぁぁぁーーーー!?

 

 

 

 千冬姉、何言ってんの!? 確か軍用ISって言ってなかったか!? 出力も性能も段違いな軍用機を俺達で止めろって!? 

 状態・混乱となった俺は他のメンバーの反応が気になり隣に座る皆へと目を向ける。

 

 

 

「…………」

 

 

 

 全員が、厳しい顔つきだった。その眼差しは真剣そのもの。もしかしたらこういうことに携わった経験があるのかもしれないが……。

 だが、ちょっと待て!! 俺は一般人だぞ!? いきなりそんなこと言われて受け止めきれるか!!

 しかしそんな俺のことなど露知らず、千冬姉やセシリア達は話を続ける。

 

 

 

「それでは作戦会議をはじめる。意見のあるものは挙手するように」

「はい。目標ISの詳細なスペックデータを要求します」

「わかった。ただし、これらは2ヵ国の最重要軍事機密だ。けして口外するな。情報が漏洩した場合、諸君には査問委員会による裁判と最低でも2年の監視がつけられる」

「了解しました」

 

 

 

 セシリアと千冬姉とのやりとりに、唖然。セシリアのその対応は、いつものクラスメイトの雰囲気を微塵にも見せない。まるで別人。

 しかもそれはセシリアだけではなかった。

 

 

 

「広域殲滅を目的とした特殊射撃型……わたくしのISと同じく、オールレンジ攻撃を行えるようですわね」

「攻撃と機動の両方を特化した機体ね。厄介だわ。しかも、スペック上ではあたしの甲龍を上回っている……」

「この特殊武装が曲者って感じはするね。ちょうど本国からリヴァイヴ用の防御パッケージが来てるけど、連続しての防御は難しい気がするよ」

「しかも、このデータでは格闘性能が未知数だ。持っているスキルもわからん。偵察は行えないのですか?」

 

 

 

 セシリアに続き、鈴、シャル、ラウラもまた開示されたデータを元に相談し、意見を交わす。その姿はとても女子高生には見えない。訓練された軍人かのようだ。あ、ラウラはそうか。

 けど箒は違うよな? 代表候補生じゃないし、俺の仲間だよな? 

 俺はそんな意味不明は仲間意識を求めて箒を見る。

 

 

 

「……」

 

 

 

 厳しい顔つきだった。

 だが、セシリア達とは少し違う。少し俯き加減で、目の前に表示されているデータを見ているように見えない。何か別の事を考え、心配し、不安に駆られているかのよう。そんな表情で、胸元のペンダントを握りしめていた。

 そんな箒に気を取られている俺を置いてけぼりに、皆はその間も話を進める。

 

 

 

「無理だな。この機体は現在も超音速飛行を続けている。アプローチは1回が限界だろう」

「1回きりのチャンス……ということはやはり、一撃必殺の攻撃力を持った機体で当たるしかありませんね」

 

 

 

 山田先生の言葉に、箒を除く全員が俺の方を見る。

 

 

 

「え……?」

「一夏、アンタの零落白夜で落とすのよ」

「それしかありませんわね。ただ、問題は―――」

「どうやって一夏をそこまで運ぶか、だね。エネルギーは全部攻撃に使わないと難しいだろうから、移動はどうするか」

「しかも、目標に追いつける速度を出せるISでなければいけないな。超高感度ハイパーセンサーも必要だろう」

「ちょっ、ちょっと待ってくれ! お、俺が行くのか!?」

「「「「当然」」」」

 

 

 

 4人の声が見事に重なった。いやいやいやいや、無理だろ無理! 俺はただISが使えるってだけの高校生なんだぜ!? もちろんセシリア達もそうだけど、俺は皆みたいに訓練を受けたことがあるわけじゃないし! 

 だが続く次の言葉に、俺のやる気は鼓舞された。

 

 

 

「……これは訓練ではない。実戦だ。もし覚悟がないなら、無理強いはしない。だが、いち……コホン、織斑。お前なら出来る。そうだな?」

「!!! ……やります。俺が、やってみせます!」

 

 

 

 あの目は、俺を信じてくれている目。姉として、弟の俺ならやり遂げられると。そう確信してくれている瞳だ。

 

 

 

 なら俺は、応える。絶対に。

 

 

 

 やってやる、やってやるからなぁぁぁ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 呼ばれて同行したはいいものの、正直蚊帳の外である私は、皆が作戦会議をしている中、姉さんから渡された専用機『紅椿』のことをずっと考えていた。

 姉さんはこう言った。「箒ちゃんが思った以上に動くでしょ?」と。

 ある意味で、その言葉は正しかった。私の意志を超えた反応と動きを、あの『紅椿』は見せたからだ。

 だが私は、それに違和感を覚えていた。

 いつも使用している訓練機……京夜の専用機である『茜』の時はこんな違和感はない。私の手足のように動く。そして自分自身を躊躇なく預ける事が出来る安心感。それが『茜』にはあるのだ。

 だが『紅椿』にはそれがない。それどころか、そんな私の意志を超えた動きに『感覚のズレ』を感じざるを得ない。

 もちろん今まで私は専用機など持った事がなかったから、これが専用機というものだ、慣れていないからだと言われてしまえば、それに対して何も言えないのではあるが……いざという時、このズレは致命的な状況を生み出してしまうのでは、と危機感を覚えてしまう。

 そしてそれより……あの圧倒的な攻撃力。高火力。あれ程の威力が私の手の中にある。それが……何より恐ろしい。

 心身共に未熟である私に、果たして扱い切れるのだろうか。専用機を受け取る事が決まった時から感じている不安がより酷くなってしまった。

 京夜……本当に私は……

 

 

 

「よし。それでは作戦の具体的な内容に入る。現在、この専用機持ちの中で最高速度が出せる機体はどれだ?」

「それならわたくしの『ブルー・ティアーズ』が。ちょうどイギリスから強襲用高機動パッケージ【ストライク・ガンナー】が送られて来ていますし、超高感度ハイパーセンサーもついています」

「オルコット、超音速下での戦闘訓練時間は?」

「20時間です」

「ふむ……」

 

 

 

 千冬さんは少し考えこんではいるが、どうやら一夏とセシリアの2人に決まったようだ。良かった。まず私が選ばれる可能性は低いであろうが、それでもこんな不安な状態で戦闘などとても出来そうになかったから。

 

 

 

「それならば適任―――」

「待った待ーった。その作戦はちょっと待ったなんだよ~!」

 

 

 

 場の緊張感など知った事かと言わんばかりの明るい声が天井から聞こえる。よく知っている身内の声だ。全員が見上げると、部屋の天井のど真ん中から首を下に出していた。何をやっているんだろう、我が姉は……。

 

 

 

「……山田先生、室外への強制退去を」

「えっ!? は、はいっ。あの、篠ノ之博士、とりあえず降りてきてください」

「とうっ★」

 

 

 

 天井から飛び降りて空中で1回転して着地する。山田先生、度々申し訳ありません……。

 

 

 

「ちーちゃん、ちーちゃん。もっといい作戦が私の頭の中にナウ・プリンティング!」

「……出て行け」

「聞いて聞いて! ここは断・然! 紅椿の出番なんだよっ!」

「なに?」

 

 

 

 姉さんの口から『紅椿』の名前が出た瞬間、ドキッと私の胸が激しく鼓動する。

 

 

 

「紅椿のスペックデータ見てみて! パッケージなんかなくても超高速起動ができるんだよ!」

 

 

 

 姉さん! 何を―――!?

 姉さんは数枚のディスプレイが千冬さんを囲むように出現させ、続ける。

 

 

 

「紅椿の展開装甲を調節して、ほいほいほいっと。ホラ! これでスピードはばっちり!」

 

 

 

 姉さんの聞きなれない単語に、一夏を筆頭に皆が首をひねっていると姉さんが部屋のメインディスプレイを乗っ取って紅椿のスペックデータ表示させ、説明し始めた。

 

 

 

 それはまるでその場が、徐々に姉さんに支配されつつあるかのようだった。

 

 

 

「説明しましょ~そうしましょ~。展開装甲というのはだね、この天才の束さんが作った第4世代型ISの装備なんだよ」

 

 

 

 場がざわつく。当然だった。

 

 

 

「はーい、ここで心優しい束さんの解説開始~。いっくんのためにね、へへん、嬉しいかい? まず、第1世代というのは『ISの完成』を目標とした機体だね。次が『後付武装による多様化』―――これが第2世代。そして第3世代が『操縦者のイメージ・インターフェースを利用した特殊武装の実装』。『空間圧作用兵器』に『BT兵器』、あとは『AIC』とか色々だね。……で、第4世代というのが『パッケージ換装を必要としない万能機』という現在絶賛机上の空論中のもの。はい、いっくん理解できました? 先生は優秀な子が大好きです」

「は、はぁ……。え、いや、えーと……?」

「それでぇ、そんじょそこらの天才じゃない束さんはそれを実現させたんだよ!」

「は!?」

「具体的には白式の【雪片弐型】に使用されていまーす。『零落白夜』を発動すると剣が開くでしょ? アレだよ~! 試しに私が突っ込んだ~」 

「「「「「えっ!?」」」」」

 

 

 

 周囲の驚きを物ともせず、姉さんの説明は続いていく。

 

 

 

「それでうまくいったのでなんとなんと紅椿は全身のアーマーを展開装甲にしてありまーす。攻撃・防御・機動と用途に応じて切り替えが可能。システム最大稼働時にはスペックデータはさらに倍プッシュ★ これぞまさに即時万能対応機(リアルタイム・マルチロール・アクトレス)ってやつだね。にゃはは、私が早くも作っちゃったよ。ぶいぶぃ―――って、はにゃ? あれ? 何でみんなお通夜みたいな顔してるの? 誰か死んだ? 変なの」

 

 

 

 

 誰も声を発することが出来なかった。当たり前だった。

 世界各国は今、多額の資金や膨大な時間、優秀な人材を全てつぎ込んでやっと第3世代型の1号試験機が出来た段階だというのに、姉さんは既にその先の第4世代を完成させたと言っているのだから。

 各国の努力が、全て無意味だと言っているに等しい現実だった。

 

 

 

 そして―――姉さんの生み出したその現実は、私の心を激しく揺さぶっていた。手が微かに震えていて、私はそれを止める事が出来ないでいた。

 それでも状況は、私を戦場へと向かわせるべく進んでいく。

 

 

 

「―――束、言ったはずだぞ。やりすぎるな、と」

「そうだった? えへへ、ついつい熱中しちゃったんだよ~。でもほら、紅椿はまだ完全体じゃないし、今の話も紅椿のスペックをフルに引き出したら、って話だからね。でもまぁ今回の作戦をこなすくらいは夕飯前だよ!」

「……それで、紅椿の調整にはどれくらいの時間がかかる?」

「お、織斑先生!? わ、わたくしと『ブルー・ティアーズ』なら必ず成功して見せますわ!」

「オルコット。そのパッケージは量子変換(インストール)してあるのか?」

「そ、それは……まだですが……」

「紅椿の調整時間は7分もあれば余裕だよ! ちーちゃん★」

「よし。では本作戦は織斑・篠ノ之の両名による目標の追跡及び撃墜を目標とする。作戦開始は30分後。各員、直ちに準備にかかれ」

 

 

 ぱん、と千冬さんが手を叩く。それを合図に教師陣はバックアップに必要な機材を設営しはじめた。

 本当は辞退したかった。拒否したかった。この場で異議を唱えたかった。

 だが無理だ。既にこの場は姉さんに支配されている。姉さんに警戒していたはずの千冬さんですらその提案を受け入れてしまっているのだから。

  

 

 

「千冬姉! 俺は何したら―――アダ!?」

「織斑先生だ。作戦要員はISの調整を行え。それからセシリア達から高速戦闘のレクチャーも受けておけ」

「了解!」

「……わかりました」

 

 

 

 千冬さんの言葉に、やる気に満ちた返事をした一夏は白式のコンソールを呼び出して何やら確認し、うんうんと頷いたかと思えば、セシリアの方へと向かっていった。

 

 

 

「んじゃあ早速紅椿をいじろっかな!」

 

 

 

 私の近くに来た姉さんがそう言うと、周囲に光の粒子が集まって姿を現す。

 前腕部だけのパーツが浮いていて、それが左右2対で計4つ。見た目もサイズもISのアーマーアームと酷似したものだった。

 だがもう、今はそれどころじゃない。もう……駄目だ……

 

 

 

「さーて、はじめるじぇい」

「あ、あの、姉さん!!」

「ん? 何かな何かな?」

「『紅椿』の調整って私がいないと駄目ですか? あの、ちょっと、お、お手洗いに……」

「大丈夫だよ! 行っといれー♪ 帰ってくるまでにはお姉ちゃん頑張って終わらしとくから★」

「あ、ありがとうございます……」

 

 

 

 グッと親指を立てる姉さんを残し、私はその部屋を出て廊下を歩く。別にお手洗いに向かっている訳ではない。

 その足取りは、スタスタと軽やかな感じではなかったであろう。他人がその姿を見ればそれは足早で、そして焦っているかのような印象を受けるのではないだろうか。

 正直、もう限界だった。

 私は廊下の突き当たりにある、割り当てられた私の部屋へと入り、閉めた扉に寄り掛かりながら一息つく。

 そして……

 まるで反射のように、パンっと弾かれたように、私はテーブルの上に置いてあった端末を握る。

 

 

 

「京夜……ッ」

 

 

 

 私は無意識に指を動かしていた。

 

 

 

 

 

 




『インフィニット・ストラトス a Inside Story』は自身のブログでも掲載中です。
 設定画や挿絵、サブストーリーなんかも載せていくつもりですので、良かったらそちらもご覧戴けると嬉しいです。

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【URL】http://mousoumemory.blog.fc2.com/

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