インフィニット・ストラトス a Inside Story 作:鴉夜
また、オリジナル解釈が多めです。矛盾や、つじつまが合わない等はあるかと思いますが、本当にご勘弁ください(泣)
虐待。
むごい扱いをすることであり、継続的に、あるいは習慣的に暴力をふるったり、冷酷・冷徹な接し方をすることだ。そしてその言葉を聞いて一番想像するのは躾と称した親による虐待だろう。
だがアレは、黒神の体へと刻まれていた傷跡は、それではない。そんなレベルの生易しいものではなかった。
それは見る人が見なければ分からない。鋭利な刃物で抉られた様な傷跡から、銃口を突きつけられた状態で放たれている銃痕。煙草や焼きゴテを押し付けられたような火傷の跡や、肉や皮を無理やり剥がされたような裂傷。複数の獣に噛まれた噛傷。夥しい鞭の跡。
数え上げたらキリがない。生きていることすら不思議に思ってしまう。そう思わされてしまう程だった。
もちろん、私はそれらのことを一つ一つ話をするつもりはない。
そんな話をした所で……ということもあるが、それよりも何よりも……あの傷を付けたのが『アイツ』かもしれない可能性がある以上、ここで具体的な話は出来ない。
だが『虐待されていた』という事実は、黒神を慕うなら知っておいた方がいい。
あの傷の分だけ、黒神の心には闇があるということなのだから。
私の言葉で、当然気付いただろう。闇がある。それはつまり裏の顔があるということだ。
お調子者で、バカ騒ぎばかりしてるサボり癖のあるいつもの黒神の姿が私には本当のアイツの姿には思えない。あの時、あのラウラの時の暴走したあの姿こそが、黒神の本当の姿ではないだろうか。あの傷跡を見たら尚の事そう思ってしまった。
お前達は言った。黒神は、分かってくれると。見ていてくれると。受け止めてくれると。そんな優しさを持った特別な存在なんだと。
だがお前達は、黒神に対してそれが出来るのか? 本当の黒神の姿を目の当たりにした時、今までと変わらずにいられるのか? だから―――
「もし―――」
「大丈夫です。織斑先生」
俯き気味だった私は、篠ノ之の言葉に顔を上げる。きっとショックを受けているだろうと思った私の予想に反した顔を、5人はしていた。凛としていながらも、とても優しげで、穏やかな覚悟のある笑顔だった。
「何がおっしゃりたいのか、分かります。わたくしも先程は少々戸惑ってしまいました。ですが―――」
「決めたんです。傍に居るって。それでいつか話してくれる日が来るって信じてるんです」
「確かに僕達1人1人じゃ、京夜を支えきれないかもしれません。受け止めきれないかもしれません」
「だから姉さん。皆で話しました」
篠ノ之達は、一度互いに顔を見合う。そして全員が大きく、力強く頷く。そして最後に篠ノ之が代表して、5人の答えを私に告げた。
「私達は『
私は、負けたことがなかった。
別に試合や勝負のことではない。第2回モンドグロッソの際は不戦敗で負けているし、学生時代の成績も学年1位だった訳ではない。
私の「負け」の定義。それは私が負けたと思うかどうか。それだけだ。
だから私は負けたことがない。ISの生みの親であるアイツにすら、負けたと思ったことはない。
そんな私が今日この日。この瞬間。たった今。負けた。
負けたと感じされられたのだ。その相手は年端もいかない、私の教え子である5人の高校生のガキ共だった。
「くっくっくっ……はっはっはっ!!!」
「「「「「!?」」」」」
侮っていた。所詮は学生時代の色恋沙汰。移ろい易く軽いものだと。
だがそんなことはなかった。私が一夏やラウラに対して思う感情に負けず劣らずな程に、彼女達の黒神への思いは本物だった。
それに私は他人に対してそこまでの感情を持ったことはない。それだけでも人として、女として負けたと言わざるを得なかった。
フッフッフッ。気分がいい。負けるというのは悔しくて最悪な気分だと聞いたことがあるが、そんなことはなかった。これ程の清々しいものを見せられては、な。
笑いが止まらない。こんな負け方なら嬉しいモノなんだと、私はこの年で初めて知った。
私は冷蔵庫へ向かい、そこから私の分も含め6本の缶ビールを取り出して全員に配る。
私の高笑いとその行動に、驚きの連続なのだろう篠ノ之達は「え? え? え?」と言いながら私と手渡れた缶ビールを交互に見る。
「飲め。今日は私が許す」
「で、ですが……」
「さ、流石に今は……」
「ぼ、僕達、み、未成年ですし……」
「いいから飲め。命令だ。それとも何か? 私の酒が飲めないのか?」
「「「「「い、いえ!!」」」」」
そうだ。それでいい。私の初敗北の宴だ。無礼講といこうじゃないか。
私は3本目の缶ビールを開け、傾ける。これ以上ない最高の酒肴を得た私を止めることなど誰も出来ない。
何、大丈夫さ。責任は黒神に取ってもらうつもりだ。敗因はアイツの存在なのだから。
それにしても……目の前のガキ共にこれだけの思いを持たせる男……か。
私は危険人物としてではなく、少しだけ黒神京夜という男に興味を持った。
◇
「お~帰ったかぁ~一夏ぁ~黒神ぃ~」
「……千冬姉……これって……」
ここが桃源郷だとしたら、どれ程良いだろう。
あるいは幻夢郷、あるいは幻想郷だとしても、その方が全然マシだ。はいよる銀髪の混沌や、美人の魔女達に会えるかもしれないし。
だがこれは現実だ。逃避しても、この目の前の状況は変わりそうにない。
俺達の部屋は「宴会場」へと成り果てていた。部屋中にアルコールの匂いが漂い、そこら中にお酒の缶が転がり、そしてヤマヤンこと山田先生が転がっていた。「もう飲めましぇんからぁぁ~」と寝言で呟いている所から見ると、一気に飲まされて酔い潰されたようだ。
正直色々と説明が必要なものがまだまだ部屋の中には居るけれど、とりあえず初手は原因究明、及び追及といこう。
一夏と共に、諸悪の根源であろう織斑先生へと寄る。
「……千冬姉、相当飲んでるだろ。それに皆にまで飲ませて……どうするんだよこの状況」
「黒神が悪いんだぞ、黒神がぁ。お前が全て悪いっ。ヒック。だから後はお前が何とかしろぉ。分かったなぁ!?」
「おい、一夏……」
「言わないでくれ、京夜。これもいつものことだから」
「お前そう言えば済むと思ってないか!?」
スケ番で絡み酒のくせに「いつものこと」で許されるなんて。ある意味最強だな。あ、俺もそうか。
っていうか意外にも織斑先生は悪酔いするタイプのようだ。いや、意外でもないか。普段真面目な人は結構そういうタイプが多いらしいし。
すると一夏は織斑先生を肩に担ぐ。
「とりあえず、俺は隣に千冬姉と山田先生の布団を敷いて寝かせてくる。そっちは……頼んだ。……俺じゃ無理」
……マジか。俺が1人でコレをどうにかしなきゃならないのかよ。
そう言い、襖で分けられた隣の部屋へと一夏は姉を担いでいった。俺は「コレ」とか「そっち」とかそんな指示語で説明責任を放棄していた宴会場を構成する5人の酔っ払い達へと目を向ける。
「きゃははははっ! にやはははははっ!」
笑い上戸、篠ノ之箒。
いつもの眉目秀麗な姿は見る影もなく、何が面白いのかも分からないまま、ただただ高らかに笑い続けている。
「ざけんじゃぇねぇぞバーロー、舐めてんのかぁぁテメエはよぉぉぉ~」
怒り上戸、シャルロット・デュノア。
ノブレス・オブリージュの信条は何処へやら。眉を吊り上げ、隣に座るセシリアに因縁をつけている。
「シャルロットさぁぁん、お許しくださいぃぃぃ~~悪いところがあったら直しますからぁぁぁ~~」
泣き上戸、セシリア・オルコット。
貴族として、淑女としての振る舞いを常に意識していたはずの彼女。そんな彼女はシャルロットに泣きつき、ひたすらに謝り続けている。顔面を涙と鼻水でグシャグシャにしながら。
「リンちゃんはねぇ~。甘いのが好きなのぉ~だからぁ~コレだ~い好きぃ~~」
甘え上戸、凰鈴音。
ツンデレクイーンの彼女はどうやら「ツン」を何処かで失くしてしまったようだ。甘ったるい声を出し、隣に座るラウラの肩にダラリと寄りかかりながらカルーアミルクを飲んでいる。
「…………」
据わり上戸(俺命名)、ラウラ・ボーデヴィッヒ。
いつもの無垢な可愛い笑顔はなく、無表情。目が完全に据わっている。畳の上で正座し、それを崩さずにただただ黙々とラウラは缶ビールをゴクゴクッと飲み干して空けていく。コイツの周りが一番空き缶が多い。
皆揃って―――「キャラ崩壊戦隊・
笑えないわ!! 何なの!? この状況!! っていうか大体この戦隊、打ち切り臭漂い過ぎだろ!?
ったく。何で俺がこんなことを。俺が面倒臭がりだから「臭い」繋がりでお前がやれってか!? 酷い! 酷い過ぎるぞ織斑姉弟!!
「(何て言ってますけど、京夜さんは優しいですからねぇ)」
「(そうね。こんな箒ちゃん達を放置なんて出来る訳ないんだから。ってことで久しぶりにアレ、言っときなさいよ)」
「(分かってるよ、ったく。じゃあ茜も一緒に。行くぞ? せーのっ)」
「「「(面倒くせ~)」」」
その合い言葉を皮切りに、覚悟した俺はその後1人1人を介抱した。
まずは酒の匂いを消す為に、旅館の人に近くのコンビニの場所を聞いて走って買ってきた大量のミネラルウォーターと定番のウコンを飲ませた。
そしてある程度酒が抜けてきたのが確認出来たらヤツから、それぞれの部屋へとおんぶして連れていって寝かしつけたのだ。もちろんそれぞれの同室のクラスメイト達には一夏の生写真で口止めを図ったことは言うまでもない。
笑いが中々止まらず一番大変だった箒を最後に寝かしつけて部屋へと戻った俺のやることは、それでもまだ終わらない。
後片付けだ。そこら中に転がっている物的証拠をそのまま残してはしておけない。それにここは俺達の寝る場所でもある。片付けないと布団が敷けない。
俺は織斑先生と山田先生を寝かしつけた一夏と共には宴会場を片付けて、そして……ようやく今、自分の布団へと腰を下ろした。既に夜中の1時を回っていた。
どんだけだよ……ホント。もう今日は色々あって疲れた。面倒臭がりな俺を疲れる程働かせるなんて相当なことだぞ。
隣では既に一夏が爆睡中。寝つきいいな、コイツ。羨ましい限りだ。
さて流石に俺も寝よう。俺はそのまま眠りにつこうとした。
その時である。
「(……京夜)」
「(ああ。気付いている。一応警戒は怠るな。ティーナは引き続き監視を。こちらは茜がいれば大丈夫だ)」
「(分かったわ。じゃあ茜、宜しくね)」
「(わ、分かりました。任せてください)」
そーっと。部屋の扉が開かれる。既に明かりが消えている部屋だ。当然寝ているということが分かっていて、それでもこの部屋に侵入しようしている人物がそこにいる。
俺は寝返りをうつように、部屋の扉の方に背を向ける。無警戒を印象付ける為に。もちろん俺には既に誰が侵入してきたか分かっていた。
その人物はそのまま侵入し、抜き足差し足で音立てず、俺の枕元までやってきた。そして隣の一夏を起こさないよう小声で俺に声を掛けてくる。
「……黒神……おい、黒神……」
「Zzzzzz~。あ、ダメです、織斑先生、こ、こんな所で、そ、そんな……むにゃむにゃ……」
「……」
ガンッ!!
「あだ!?」
俺の寝言が気に入らなかったのだろう。無言で振り下ろされた侵入者の拳。
「起きてるんだろ。ふざけた事言ってないでさっさと起きろ」
「あ、やっぱバレてました? 織斑先生」
侵入者、それは織斑先生だった。既に酒は抜けているようで、いつも通りの真面目な顔つきで横たわる俺を見下ろしている。
俺は体を起こし、深く長いため息をついた。
理由は分かっている。何しに織斑先生が来たのか。その理由だ。
はぁ~。ため息がマジ止まんない。あの大惨事な宴会がなければ、少しくらい寝る時間があったんだがな。
とはいえ、諦めは肝心か。
この後語られる今一番聞きたくはない織斑先生からの言葉を、俺は聞くことにした。
「どうしたんですか? 織斑先生。夜這いですか? 嬉しいです。じゃあ今すぐ―――アダッ!?」
「アホかお前は」
「イテテテッ。じゃあ何ですか?」
「ああ。お前に頼みたい仕事がある」
やっぱりね。あ~面倒くさい。
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