インフィニット・ストラトス a Inside Story    作:鴉夜

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※誤字、脱字は多いかもしれないです。表現も統一性がないかもしれません。なるべく修正します。ご勘弁ください。

また、オリジナル解釈が多めです。矛盾や、つじつまが合わない等はあるかと思いますが、本当にご勘弁ください(泣)



第54話 私は告げた。

 

 

 

 

「……一夏。お前の姉、何なの?」

「聞かないでくれ、京夜。いつものことだから」

「いきなりパシリにさせられて、さらに金も俺が払うって。あれか? 番長なのか? スケ番なのか?」

「高校時代の千冬姉は……まぁ……概ねそんな感じだった。たとえば――」

 

 

 

 

 そう言い、一夏は織斑先生の学生時代のエピソードを語る。長々とした戦々恐々とするような話を。

 っていうか苦笑い浮かべながらも、ちょっと嬉しそうな顔を浮かべるな。色々浮かべ過ぎで、浮かれ過ぎだ。別にそれは姉にとっては誇らしい武勇伝じゃないと思うぞ。

 そんな俺達は今、自販機の前に居た。箒達と共に部屋へと戻った俺は滞在時間わずか数秒で織斑先生から「おい、お前らジュース買ってこい」と言われ、一夏と共に追い出されたのだ。

 ちなみに前回のあの嬌声。外から聞き耳を立てて聞いていた、一夏と織斑先生の何やら怪しげでエロティックな会話の正体。

 それはただのマッサージだ。定番のオチってヤツだな。まぁ俺は一夏からたまに姉へマッサージをするって話を聞いていたから知っていたが。恐らくラウラも知っていたんだろう。よく部屋を訪れて織斑兄妹、姉妹の絆を深めているらしいから。

 

 

 

 ピッ。ガコッ―――

 

 

 

 金を入れ、お目当てのモノを購入した俺は自販機からそれを取り出し、一夏の手の平にその最後の一本を積み上げる。

 

 

 

「あのさ、京夜がいいって言ったからそうしたけど、本当に皆同じヤツで良かったのか?」

「いいんだよ、それで。俺が金出してるんだし、それに……俺が飲むことになるんだから」

「?」

 

 

 

 意味が分からないか。そりゃそうだろうな。

 この旅館の各部屋には冷蔵庫が完備されている。それに気付いた俺は利用しようと昼に一度、それを開けた。するとその中にはバラエティに富んだ飲み物が既に陳列されていたのだ。

 ラムネ、オレンジジュース、スポーツドリンク、コーヒー、紅茶、そしてビールにカクテル系から冷酒等々のアルコールまで幅広く。恐らくは織斑先生が準備したのだろう。買いに行かされたのは多分山田先生だろうが。

 それなのに、俺達はこうしてパシリにさせられている。それはつまり、飲み物が目的ではなく、俺達に席を外させたかったということなのだろう。

 はてさて。俺や一夏を抜きにして一体どんなガールズトークを展開するつもりなのやら。あまり余計なことは吹き込まないでくださいよ? 織斑先生。

 

 

 

「おい、京夜? 俺達の部屋はこっちだぞ?」

「ちょっと寄り道していこうぜ。少し遅れるくらい良いだろ」

 

 

 

 ちゃんと時間は稼ぎますから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、葬式か通夜か? いつものバカ騒ぎはどうした」

 

 

 

 私の言葉に、ラウラを除く4人はビクッと体を震わせる。部屋へ招き入れ適当な所へと座らせた篠ノ之達は、まるでどうしていいかわからないといった態度で止まったままだった。

 

 

 

「い、いえ、その……」

「お、織斑先生とこうして話すのは、ええと……」

「は、はじめてですし……」

 

 

 

 確かにそうだな。いつもは必ずと言っていい程に一夏か黒神がこのグループにはいるからな。こうしてこのメンツで会話するのは確かに初めてだ。

 それに教師と生徒。緊張させてしまうのは仕方がないことなのかもしれない。

 

 

 

「まったく、しょうがないな。ちょっと待ってろ」

 

 

 

 私は旅館の備え付けの冷蔵庫を開け、中から缶ジュースやらペットボトルを取り出し、5人にそれぞれ渡す。

 

 

 

「奢ってやる。それぞれ他のが良いヤツは各人で交換しろ」

「あ、あの……」

「何だ? 篠ノ之」

「先程、一夏と京夜に私達の飲み物を買いに行かせたのでは……」

「買ってこいとは言ったが、部屋に無いとは言ってない。いいから飲め」

 

 

 

 唖然とした顔。フッ。これはこれで良いツマミになりそうだ。

 5人は「いただきます」と同じ言葉を口にして、飲み物に口をつけた。良し。ニヤリと私の口角が少しばかり上がる。 

 

 

 

「飲んだな?」

「は、はい?」

「そ、そりゃ飲みましたけど……」

「な、何か入っていましたの!?」

「失礼なことを言うなバカめ。何、ちょっとした口封じだ」

 

 

 

 私は再び冷蔵庫へ向かい、一本の缶を取り出す。星のマークがキラリと光る大人の飲み物、缶ビールだ。

 プシュッ! っと景気のいい音が私の耳を刺激する。そしてその音と共に溢れ出た飛沫と泡を、既に受け入れ態勢万全の口唇で余すことなく受け止めた。

 ゴクゴクッ、と。

 くぅ~! たまらんな。キンキンに冷えたビールは最高ののどごしと共に至極の幸せを私に与えてくれる。

 私は上機嫌で窓際の椅子へと腰を掛けた。窓から見える夜の海に映る月も、この味を引き立ててくれているかのようだ。

 

 

 

「プハァッ。ふむ。ここは1品欲しい所だが……それは我慢するか」

 

 

 

 私は視線を再び篠ノ之達へと向ける。その顔はまたしても唖然、ぽかんとした表情を浮かべていた。まるで目の前の光景が信じられないかのようだった。全く、本当に失礼な奴らだ。

 

 

 

「おかしな顔をするなよ。私だって人間だ。酒くらいは飲むさ。それとも、私は作業オイルを飲む物体に見えるか?」

「い、いえ、そういうわけでは……」

「ないですけど……」

「でもその、今は……」

「仕事中なんじゃ……?」

 

 

 

 何も言わず、いつも通りといった涼しい顔で缶ジュースを飲むラウラの隣に座る篠ノ之達の指摘。まぁ無理もない。

 ここは臨海学校。IS学園に帰るまで、我々教師は24時間勤務かもしれない。

 だが―――

 

 

 

「固いこと言うな。それに、口止め料はもう払ったぞ」

「「「「あっ」」」」

 

 

 

 今頃気付いたか。まだまだだな。

 私は缶ビールに口を付け、喉へと流し込む。すると麦色のアルコールは、缶から私の中へと全て流れ込んでしまった。空っぽだ。

 

 

 

「ラウラ、1本取ってくれ」

「はい。ですが、姉さん。程々にはしてください」

「わかってるさ。コイツらの言う通り、一応勤務時間だからな」

 

 

 

 冷蔵庫から取り出されたビールをラウラから受け取ると、私は再び心地良い音を響かせる。

 さて。少しは場も解れただろうし、そろそろ本題へと向かおうかと思うのだが……もう少しだけ前座を持つか。

 私は缶ビールを少しだけ口へと含み、舌を潤わせる。

 

 

 

「ところで、どうだ? 最近のウチの愚弟は? どう思う?」

 

 

 

 緊張が解けたように、その言葉を聞いた4人の体からは、少しだけだが固さが取れたように見えた。

 

 

 

「剣術の方は、大分マシにはなってきたと思います」

「ISの動きも、良くはなってるわね。……あ、いや、なって……ます。逃げ足ばっかな気はするけど……」

「わたくしは……クラス代表として、もう少し自覚の方を持って頂きたい所ですわね……」

「それに知識の方も、もう少し勉強した方がいいかな……と、お、思います」

「兄さんは努力しています。姉さん、大丈夫です」

 

 

 

 妹であるラウラの意見はともかく、総合すれば篠ノ之達の目から見ても「まだまだ」だということのようだな。やれやれ。やはり剣術を辞めさせるんじゃなかった。家事や新聞配達のアルバイトなどさせなければ……。

 だがそれは……後の祭りか。一夏のせいではない。責任は私にあり、そして……

 ……やめよう。今考える話ではない。考える必要も、考えたくもない話だ。想像することも、振り返ることも、思い出したくもない話だ。

 私は迷いを振り切るかのように本題へと続く航路へと舵を切る。

 

 

 

「ではもう1人、黒神はどうだ? どうやらお前ら5人はクラスのヤツラとは違って随分と黒神にご執心のようだが……アイツのこと、どう思っているんだ?」

 

 

 

 一夏の時とは違い、5人は殆ど同時に顔を赤く染め上げる。だがその熱を受け止めながらも、恥じらいを受け止めながらも、真っ直ぐで強い思いを持った瞳で口を開く。

 

 

 

「京夜は……分かってくれるんです」

「いつも見ていてくださって―――」

「受け入れてくれて、受け止めてくれます」

「とても優しくて、心を温かい気持ちで満たしてくれる。そんな―――」

「特別な存在なんです、姉さん」

 

 

 

 それぞれが語った言葉。語られた言葉。誰一人その互いの言葉を否定せず、全員がそれを受け入れている。それはまるで共有する1つの思いであるかのよう。

 恋する乙女。それこそが適切な表現だろう。純粋な思い。かけがえのない気持ち。それらが篠ノ之達の心には宿っている。

 そんな彼女達を見て、私の心には躊躇の感情が僅かに芽生えた。

 これから私が話そうとしていることは、そんな彼女達の熱を冷ます話。思いに水を差すような話だろう。知りたくないはない話だろう。

 だが……それでも、知っておいた方がいい。余計なお世話かもしれないが、受け止めきれずに身を引くなら、早い方が傷が浅くて済むのだから。

 

 

 

「……お前達は、アイツの体を見たか?」

 

 

 

 私の纏う空気がそうさせたのか、私の質問がそうさせたのか、篠ノ之達の顔つきが変わる。もしかしたら、私もそんな真剣な顔をしているのかもしれない。5人は何も言わずに小さく頷く。

 

 

 

「お前達がどう聞いているかは知らん。私にも喧嘩でついた傷だ、とか言っていた。だが―――」

 

 

 

 ほんのコンマ数秒、私は言い淀む。私らしくもない。だがこれから伝える言葉は目の前の、未来あるガキ共の真っ直ぐで無垢で綺麗な恋心に黒い染みをつけるようなことなのかもしれないのだから、それも仕方ないだろう。

 そう自分を納得させ、私は告げた。

 

 

 

「あれは……『虐待』の跡だ」

 

 

 

 

 

 




『インフィニット・ストラトス a Inside Story』は自身のブログでも掲載中です。
 設定画や挿絵、サブストーリーなんかも載せていくつもりですので、良かったらそちらもご覧戴けると嬉しいです。

※ブログは少しだけ先まで掲載されています。


【ブログ名】妄想メモリー
【URL】http://mousoumemory.blog.fc2.com/

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