インフィニット・ストラトス a Inside Story 作:鴉夜
また、オリジナル解釈が多めです。矛盾や、つじつまが合わない等はあるかと思いますが、本当にご勘弁ください(泣)
時間はあっという間に過ぎ去って、現在19時半。俺は大広間3つを繋げた大宴会場で夕食を取っていた。
「うん、うまい! 昼も夜も刺身が出るなんて豪華だなぁ」
「そうだね。ほんと、IS学園って羽振りがいいよ」
「確かにな。しかもカワハギとは。この独特の歯ごたえと、クセのない味わい。本当に美味いな」
料理の豪華さに満面笑顔なのは俺の向かいに座る一夏。そんな一夏に同意するシャルロットは俺の右隣に。カワハギ絶賛の箒は俺の左隣を陣取っている。
俺も含めて皆がそうであるように、全員が浴衣姿だ。誰が決めたグッジョブなルールかは知らないが、この旅館では「お食事中は浴衣着用」らしい。ソイツには俺から栄誉を与えよう。
そりゃそうだろ!? 海水浴から戻ってきた女子達がそのまま浴衣に着替える訳はない。それはつまり一度お風呂に入ってきてるということだ。
そんなお風呂上がりの女子高生が、程良く火照った身体を浴衣という衣類1枚だけで包み込み、すぐ傍に座っているというこの状況。さらには料理の匂いとは別の、男のリビドーを超絶刺激する特有の香り。もう興奮が抑えられな―――痛っう!?
「……京夜。場をわきまえろ。食事中だぞ」
「……そうだよ。TPOは考えようね」
「ハ、ハイ。了解です……」
両隣りに座る箒とシャルロットは、正座する俺の足の裏に拳を突き立てる。石抱き拷問ルーティーンな俺は正座をしても足がしびれる事はないけれど、その威力で殴られたら流石に涙がちょちょ切れるわ。
大体、俺の思考や妄想にも時と場合があるのかよ。それはこの2人のこんな行為すら理不尽って思うことも許されないってことになるのだが……。正直扱いが人じゃなくなってきてる気がするわ。
ちなみに鈴、セシリア、ラウラは隣の部屋にいる。
さっき俺は正座をしているって話をしたが、今居る大宴会場は当然畳であり、さらには浴衣着用。そして1人1人の前には膳。当然食事の際は正座となる。
俺としては女子達に足を崩してもらいたい所ではあるがな。浴衣着用で足を崩したら、着崩れてその裾からその白い柔肌が―――ってヤメますヤメます!! だからそんな睨まないでお2人さん。
なので多国籍なIS学園は、正座の出来ない生徒達を考慮して隣室にテーブル席を用意したってことだな。まぁ元気になった鈴はセシリアに引っ張られて付き合わされているみたいだが。
それはさておき。俺は隣に平然と座るシャルロットへ目を向ける。
前回の夢二の件といい、正座といい、日本について勉強し過ぎだろ、コイツは。箸の使い方も最初こそぎこちなさがあったが、今では普通に料理を口へと運んでいる。
くそぅ。なんかむかつくな。虐めたくなってきた。
「あー、うまい。しかもこのわさび、本わさじゃないか。すげえな、おい。高校生のメシじゃねぇぞ。なぁ箒」
「ああ、そうだな。練りわさでは出せない本物の味だ」
「でも最近は練りわさでも美味しいのが多いぞ?」
「確かにな。だがやはりおろした時の――――」
一夏と箒がわさび談義に花を咲かせる中、その話を聞きながらじーっと箸で掴んだわさびの山を見つめるシャルロット。
そういえば、寮の食堂で日本食をよく口にしている所は見るけれど、わさびを使ってる所は見たことないな。よし。
「うまいぞ、シャルロット。せっかくだ。食べなきゃもったいないぞ?」
「そうだね、そうするよ。はむ。っ~~~~~~~!!!」
「どうだ? 風味があって美味しいだろ?」
案の定、鼻を抑えて涙目に。そのリアクションにニヤニヤが止まらない俺の表情に気付いたシャルロットはそのまま恨めしい顔で上目使い。かぁぁぁーーーたまらんね。俺にとってはわさびよりツーンと来るわ。
「シャル、大丈夫か? ホレ、お茶」
「ら、らいひょうぶ……」
優しいねぇ一夏は。俺ならそこでお茶の中にもわさびを入れとくけどね。まだまだわかってないな。
そんな君には罰ゲ~ム。一夏のお味噌汁に本わさを特盛り―――アダッ!?
「食べ物で遊ぶな。失礼だぞ、京夜」
「へいへい、わかりましたよ~」
手加減あったけど、頭頂部へのチョップとかやめてもらえませんかね。背が伸びなくなったらどうするんだよ。それ以上にハゲたらどうするんだよ。
その後は特筆することはなく、そのまま食事を終える。一夏の所に女子達が殺到してちょっとした騒ぎになったり、それを織斑先生が一喝し、ちょっとしない沈黙が場を支配したりと、まぁ寮での食事と大差ない光景が広がったりはしたぐらいだ。
俺達が食後のお茶をすすっていると、壁に掛けられた時計を確認した一夏が急に立ち上がる。
「京夜! そろそろ俺達の風呂の時間だ! 早く行こうぜ!!」
「お前は年中無休でそのテンションなのか? 俺は部屋でシャワー浴びたから別にいいわ」
「何言ってるんだよ! 露天風呂だぜ!? 俺達で貸し切りだぜ!? 背中流し合おうぜ!!」
「うざいっ、うざったいっ!! どんだけ俺と裸の付き合いがしたいんだよお前は!! そんなにお前は姉だけでなく俺までその毒牙にかけたいのか?」
「んなわけあるかぁぁ!! っていうかそーゆー危険なことを言うなぁぁ!!」
「……箒……シャルロット……ゴメン……俺、汚されちゃう……」
「「い~ち~か~」」
「ほ、箒!? シャル!? 目が怖い目が怖いぃぃぃ!!」
膝、震えてるぞ一夏。気持ちはわかるけど。
「とっとと風呂行って来いよ、一夏。気が向いたら後で行くから」
「!! わ、わかった。先に行ってる……ぜっ!!」
後退る足のつま先を素早く後ろへ向け、脱兎のごとく一夏は宴会場を後にした。まぁ気が向く事は99%ないだろうから、のぼせない内に戻ってこい。
それにしても……な。
戦略的撤退と言わんばかりの顔で風呂へと行った一夏へと向けていた視線を箒とシャルロットへと向ける。
もちろん先程の一夏とのやりとりを冗談と理解している箒とシャルロット。
だが2人はその悪ふざけに乗ってきた。分かっていて、乗ってきた。
それは……俺の拒絶に気付いて、俺を気遣った故の行動。全く。俺の心なんてそんな気にせんでも、な。
だがこれは彼女達の優しさ。流石に余計なこと、とは言えないな。
「あー助かった。俺の貞操はかろうじて守られたな」
「安心しろ。もしそんなことになったらその時は……」
「そうだね……後悔するだけじゃ済まないくらいの恐怖を与えてあげるよ……」
ヤバい、ヤバいよ、この物理攻撃と精神攻撃のツートップは!!
どうやら俺の見込み違いだった、イヤ想像を超えていたようだ。冗談と分かっていても、それは冗談でも許せない話だった……ということなのだろう。
2人の傍らでその止まらない冷や汗に、やっぱり風呂に入りに行こうかと真剣に悩みながら、注がれた暖かなお茶に口を付けるのだった。
◇
あの後。隣のテーブル席組のセシリア達と合流して小一時間程ガールズトークで盛り上がった。もちろん俺も参加している。ガールズなのになぜもちろんなのかは気にするな。トーク幅の広い俺はガールズトークもイケる口ってだけだ。
「(ファッションやメイクだけでなく、下着関連まで会話についていけるものね、京夜って)」
「(まぁな。そんじょそこらの女子高生より女子力は高いと自負してるぞ)」
「(ま、負けられません、女子として……)」
日々精進の賜物なのだよ、茜君。俺に負けないよう頑張りたまえ。
そんな俺達は、流石にいつまでも夕食をとった宴会場に居る訳にもいかなくなり、場所を俺の部屋へ移すべく廊下を歩いていた。
「京夜は一夏と山田先生、それから……お、織斑先生とも同室なんだよね? だ、大丈夫かなぁ……」
「何だ、シャルロット。ビビってんのか? なら自分の部屋に戻ったらどうだ? ラウラ、なんかシャルロットは自分の部屋に戻るみたいだぞ?」
「そうなのか? すまんなシャルロット。私は嫁と共に嫁の部屋へと行くので送ってはやれん。それから今日はそちらに帰らないつもりだから先に寝ていてくれ」
「ちょっ―――」
「ちょぉぉぉっと、ラウラさん!? 一体何をおっしゃっているんですの!?」
「そうよ!! 帰らないなら、一体何処で寝るつもりよ!?」
「決まっている。セシリアも鈴も何を言っているのだ? せっかくの旅行だ。やはり夫婦は共に寝るべきであろう。姉さんも兄さんもきっと分かってくれる」
「京夜……分かっているだろうな?」
「箒さん!? 目に怪しげな光を宿らせながら肩を掴まないでっ!? 大体織斑先生がそんなの分かってくれるわけないだろぉ!?」
「ちょ、ちょっと~ぼ、僕を置いていかないで~」
虐めたい気持ちは沸々と湧いて出てはいるけれど、今のは俺のせいじゃないから。メタ的なことをいえば登場人物が多いんだから出張っていかないと完全に空気だからな? モブだからな? シャルロットもそろそろ新たな属性付加を考えた方がいいぞ? 基本的に皆キャラが濃い目だし。
「(胃もたれ必死な濃厚キャラ筆頭の京夜が言うと厭味にしか聞こえないわね。マジむかつくわ)」
「(み、みなさ~ん。わ、私は打鉄の『茜』ですぅ! ちゃ、ちゃんといますからねっ!? 忘れないでくださいねっ!?)」
必至だなオイ。比較的キミらはキャラ立ってるし、出番も多い方だろうに。欲望は果てしないな。
そうこう言いながら、部屋の前に着いた俺達。先達て鈴がその扉を開けようと手を伸ばす。すると何かに気付いたシャルロットがその手を制した。
「? 何? どうしたのよ、シャルロ―――」
「シッ! ……鈴、声を押さえて……皆も……」
俺達は互いに顔を見合わせる。俺も含め、誰もシャルロットの行動の意味が理解出来ていないようだった。
答えを得るべく、俺達はシャルロットへと視線を戻す。するとシャルロットは扉にそっと耳を近付けていた。
俺達もまた促されたかのように聞き耳を立てる。すると何やら怪しげな2人の会話声が聞こえてきた。
『―――んっ! す、少しは加減しろ……』
『はいはい。んじゃあ、ここは……と』
『くあっ! そ、そこは……やめっ、つぅっ!!』
『すぐに良くなるって。だいぶ溜まってたみたいだし、ね』
『あぁぁっ!』
ラウラを除く4人は無言のまま、顔を赤らめる。ラウラは先程と変わらない疑問符だらけの表情のままだ。
中の次なる展開を期待しているのか、聞き耳モードの4人はそのまま動こうとしない。
ここで優等生の俺は、皆の行動を戒める為に小声で話しかける。
「何やってんだ、皆。こんな盗み聞きみたいなことは止めよう。良くないよ」
「嫁よ。その肩に担いだビデオカメラとマイクは何だ?」
何だよ皆。そんなジトーッとした目で見ないでくれよ。感じちゃうじゃないか。
俺の肩にはどこから出したかは教えられないテレビ局で使うような大型のカメラと大型マイクが。撮り逃し厳禁だからな。
「いや、俺は写真係だからさ。その延長線上ということで映像係も兼任しようかと」
「お前は何を映像で撮るつもりなんだ!!」
「小声で怒るって器用だな箒。そりゃ『夏の思い出』だろ」
「『一』が抜けてない? それ」
「上手いな鈴。座布団1枚」
「京夜さん、流石にそれはちょっと……」
「だがな、セシリア。あのシャルロットを見ろよ。未だ扉に耳を当てたままだぞ? 俺達の会話なんて聞く耳持たない程、扉の向こうに興味津々らしい」
「えっ!? ち、ちゃんと聞いてるよ!? って、ち、違うからね? も、もちろん聞いてるのは中の声じゃなくて―――」
「「「「エッチ」」」」
「う、うわぁぁぁん……ラウラぁ、み、皆が僕を虐めるよぉぉ」
「?? 何を涙目で顔を赤くしているのだ、シャルロット?」
良い顔だなシャルロット。ちゃんと録画してるから安心しろ。
っと。流石に騒ぎ過ぎたようだ。バンッと勢いよく、目の前の扉が開かれる。
「何をしているか、馬鹿者どもが」
仁王立つは声の主1号の織斑先生。その奥には声の主2号の一夏。もちろん2人とも浴衣を着崩すしてすらいない。
鬼教官の登場に、顔を引き攣らせるは箒、セシリア、鈴、シャルロット。
「は、ははっ……」
「こ、こんばんは、織斑先生……」
「これは、そ、その……」
「べ、別に僕達は盗み聞きなんて……」
しどろもどろで墓穴掘りまくりの4人。
クックックッ。いや~満足満足。俺は大満足だよ、ホント。ここまで俺の想定通りの画が撮れるなんて。未来予知の能力にでも目覚めたんちゃう、俺?
「まぁこれはアレですよ。『夏の思い出』……もとい『旅の思い出』の撮影中です。いつも通りの茶番劇ってヤツですよ、織斑先生」
「……なるほどな。全く。まぁいい。ほれ、全員中へ入れ」
俺の言葉に何を納得したのかは分からないが、呆れ顔を見せた織斑先生は俺達全員を部屋へと招き入れたのだった。
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