インフィニット・ストラトス a Inside Story 作:鴉夜
また、オリジナル解釈が多めです。矛盾や、つじつまが合わない等はあるかと思いますが、本当にご勘弁ください(泣)
この話には、サブストーリーを書きました!
外伝的な話ではなく、ヒロイン視点です。別に読まなくても繋がりが分からなくなるわけではありません。
ちょっとでも気になる読者様がいらっしゃいましたら、ブログの方で掲載していますので、良かったら見てください!
(URLは後書きに記載しています。ブログ内の第47話②の本文の「頼りになる」をクリックすると閲覧出来ます)
「お~い、一夏~」
「ん? 京夜じゃないか! それに箒達も!」
箒達を引き連れるような形で、俺は一夏の元へ。
私服姿の一夏はその両手に大量の荷物を抱えていた。男性用の水着の掛けられた専用ハンガーもその手にしているが、多くは既に購入済みの紙袋。その紙袋から察するに中身は女性モノの衣類。今は1人でいるが、間違いなく女の連れがいるな。
十中八九、姉の織斑千冬先生だろう。IS学園の女生徒とのデートの可能性はなくもないがな。
まぁとりあえず、弄っとくか。
「どうしてこんな所に? ココは水着売り場だぞ? お前は女性モノの水着をくんかくんかする趣味でもあるのか?」
「違うわ!!! 俺は千冬姉の――」
「何だお前、姉の水着にしか興味ないのか? それは――」
俺は背後にいる5人に目配せする。喰らうがいい一夏よ! 箒から始まるハートブレイク・5重奏攻撃の調を!(笑)
「変態だな」
「な!?」
「変態ですわね」
「ぐっ!?」
「変態ね」
「がは!?」
「変態だね」
「ごふ!?」
「兄さんよ、流石にそれは変態ではないだろうか」
「ラ、ラウラまで……ご、誤解だ!」
「流石にそれは変態だろ、一夏」
「だから誤解だって言ってるだろ!! っていうかお前には言われたくないわ!! 京夜!!」
「「「「「うんうん」」」」」
「うぇぇぇえぃ!? いつのまにやら矛先がこちらに!?」
まるで打ち合わせしていたかのように綺麗な手の平返し。よせよ、俺のことを変態だなんて……照れるじゃないか。
「(変態っていつから褒め言葉になったんですかぁ!?)」
「(諦めなさい、茜。ツッコんだら負けよ。もう末期なのよ。手の施しようがないわ)」
人をガン患者みたいに言うな! ステージⅢの変態ガンとでもいうのか!?。全く失礼な奴らだ。既に俺はネクスト・ステージの扉を開いているというのに。
「お前らはいつも楽しそうではあるが、喧しいな。外では少し自重しろ」
「あ、あはは……」
「千冬姉!」
「織斑先生。それに山田先生も」
カツカツをヒールの良い音を響かせながら現れたのはビシッとしたサマースーツの予想通りの鬼教官こと織斑先生と、カジュアルな黄色のワンピースに身を包んだヤマヤンこと山田先生。っていうか織斑先生ってスーツ以外の私服は持ってないのか? 若干カジュアルテイストではあるけど、学園に居る時とあんま変わらないんだが。
「一夏……お前は大切な家族だが、流石にその性癖は姉として受け入れがたいものが……」
「ち、千冬姉まで!?」
IS学園に入学して早3ヶ月。日課の人間観察から分かったこと。それは織斑先生は頑固なまでにお堅い人間ではないということだ。稀にではあるが、こうして話の流れに乗ってくれたりもする。
「任せてください、織斑先生!! この俺、黒神京夜が全身全霊、責任を持って一夏を矯正してみせます!!」
「篠ノ之、オルコット、凰、デュノア、ラウラ。お前達が責任を持って黒神を拘束・隔離しろ。一夏を真の変態にされては困る。なんなら地下の独房の使用を許可する」
「「「「「わかりました!」」」」」
「全く以って信用がない!!?? もっと貴方の教え子を信じてやってくださいよ!!」
「黒神。学園の図書室にある広辞苑を含む辞書10冊から『信用』という言葉を調べてレポートを提出しろ。明日までに50枚。1日遅れで10枚追加だ」
「理不尽過ぎるーーーー!!!」
しかも1日で10枚とか。トイチ(10日で1割)所の話ではない。いくらなんでも暴利過ぎるだろ。酷い闇金に捕まったものだ。
さてさて。茶番はこのくらいにして。
「織斑先生、山田先生も来週の臨海学校へ向けての買い物ですか?」
「ん? ああ、まぁそうだな」
「私達も水着を買いに来たんですよ。あ、それと黒神君? 今は職務中ではないですから、無理に先生って呼ばなくても大丈夫ですよ? 『ヤマヤン』は駄目ですけど」
「そうですか? じゃあ今日はステディっぽく『麻耶』と呼び捨……てとかは失礼ですし、やっぱり山田先生と呼ばせて頂きます。……作戦は『いのちだいじに』ですので」
「あ、あははは……その方がいいみたいですね。クラス全員、欠けることなく卒業してもらいたいですから」
ヤマヤンも分かってくれてますね。そりゃそうですよね。俺の背後に立つ5人の女子達から超強烈なプレッシャーがハンパないですから。下手をすれば卒業アルバムの集合写真は右上の方に遺影が載りかねませんので。
「さて。さっさと買い物を済ませて退散するとしよう」
「そうですね。じゃあ皆さん、あまり遅くなり過ぎないようにしてくださいね」
「俺も行くわ。また後でな」
そう言うと3人は奥の方に見えるレジカウンターへと去って行った。
すると藪から棒にと言うべきか、それとも去る一夏のその手に持つものからの連想なのか、セシリアが俺に問いを投げかけてきた。それに対し、俺は別の事への思考を巡らせていた故にノータイムな失言を返してしまった。
「そういえば京夜さんは水着、お買い求めにならないのですか?」
「ああ。俺は海に入らないからな」
しまった。有耶無耶に誤魔化せばよかった。しかしもう後の祭り。案の定、俺は詰め寄られる。
「なんでよ! せっかくの機会じゃない!」
「鈴さんの言う通りですわ! 是非私達と一緒に――」
「い、いや~実は俺、カナヅチでさ。だから――」
「何だ嫁よ、泳げないのか? なら私が直々に指導してやるぞ」
やばい。どうしよう。面倒くさい。適当に誤魔化せそうにない。今目の前の鈴、セシリア、ラウラを納得させられるだけの理由を考えないと。
そんな詰め寄る3人とは対照的に箒とシャルロットは無言のまま、少し心許なげな表情を浮かべている。どうやら察したようだ。俺が海に入らない理由を。この2人はルームメイト経験があるからな。
するとその片割れの金髪美少女が、俺に助け舟を寄こす。
「た、確か京夜って、織斑先生に『写真係』に任命されたんだよね? カメラを持ってなきゃいけないから、だから海には入れないってことなんでしょ?」
鈴達3人の間に割り込むように俺の前に立つシャルロットは、少し振り返り俺にウインクで目配せをする。
よし、それに乗っかるか。
「ああ。普段の授業のサボりとか居眠りとかの罰……らしい。他にも雑用に扱き使われるみたいだな。はぁ~。面倒くさいことこの上ないが、あの織斑先生からの命令だからな~」
「な、ならしょうがないな! しっかりと仕事をこなすんだぞ、京夜!」
乗っかった俺の様子から気付いたのだろう箒もまた隣に立ち援護射撃を放ってくれた。中々良い腕だ。
シャルロットの作ったこの理由。ぶっちゃけ結構な破壊力だ。何せ逆らう相手があの鬼教官こと織斑先生なのだから。自殺志願者ですらその対戦相手には選ばないであろう。当然3人は若干顔を引き攣らせるしかない。
「ち、千冬さんからか~。なら――」
「はぁ~。でしたら諦めざるを得ませんわね」
「……姉さんからの命令は絶対だからな。仕方あるまい」
「まぁ自由時間が全然ない訳じゃない。水着で海には入らないけど、足くらいなら入るし、砂浜で遊んだりは出来るさ」
俺のフォロー発言に、どうやら納得してくれたようだ。仕方ないと言いながらも楽しみにしているといった表情を3人共見せてくれた。何よりだ。
ちなみにこの話は全てが嘘ってわけじゃない。『写真係』には任命されてはいないが、雑用はさせられるだろう。確定ではないがほぼ間違いない。
だがそれは罰だからではない。
「まぁとにかく、箒達は試着して来たら? 僕とラウラは先にレジに行ってるから。せっかくだし、早く終わらして皆でお茶でもしようよ。僕達昼食もまだだしさ」
「う、うむ。わかった」
「そうですわね。では失礼して」
「じゃあ行ってくるわ! ちょっと待ってて!」
足早に3人は俺の選んだ水着を手に試着室へと歩んでいった。俺はふぅと安堵の息を吐きながら隣に立つシャルロットを見る。
何度となく説明してきている『察する力』。当然箒達の態度から尾行に気付いただろう。正直その無粋さに怒ってもいい場面だ。3人を放置してダブルデートを続けても誰も彼女を責められないだろう。
だがそうしなかった。皆で楽しむことを選択した。自分の思いや気持ちより他人を、友達のことを考えた。俺のこともそうだ。
それこそが、俺が最も知りたかったこと。箒達のおかげで意外に早く確認することが出来た。
『察する力』のさらにその先。『察する力』があるからこそ出来ること。
それは……時に場を治める能力。時に適切な妥協点を模索出来る能力。何より――誰かを助けることが、誰かを支えることが出来る可能性のある力。
検証は終了……だな。
やはりシャルロットは必要だ。このメンバーに。バランスを取る調定者として。
俺の……俺の代わりに。
「よし。じゃあ私達はレジに行くぞ。シャルロット」
「もう、待ってよラウラ!」
追う足で立ち止まる俺の横を通り過ぎようとしたシャルロットの手首を握る。彼女は「えっ?」と顔をこちらに向け足を止めた。
「助かった。やっぱお前のそーゆー所は頼りになるわ。ありがとな、シャルロット」
「! う、うん!」
俺はその手を離し、そのままシャルロットの頭に置いて少し強めに撫でる。彼女は目を閉じ、されるがまま。照れくさそうでありながらも喜色満面を露わにした。
俺の発した感謝の言葉。確かに感謝はしている。だが下衆で外道な俺の発言。当然、それだけではない。そんな相変わらずな自分の最低さに吐き気がする。
だがそれでも俺は俺自身を変えることはしない。俺は最後の瞬間まで最悪な俺のままであるべきなのだから。
「さて。とっとと会計済ませて飯にしよう。腹減った」
「そうだね! 今日はもうしょうがないけど……また誘ってね、京夜!」
「ああ、そうだな。だけどそん時は一緒に箒達を納得させられる理由を考えてくれな?」
「え~。それは内緒にしておいて、後で京夜がお仕置きされればいいんじゃないかな?」
「おい、コラ」
「あはははっ!」
こうして俺とラウラとシャルロットのダブルデートは幕を閉じた。その後の俺達はというと、箒達と合流し、手近なレストランで遅めのランチ、そして午後のティータイムを楽しみ、そして学園へと戻ったのだった。
これらが俺達の、俺の休日。学生らしい日常。なんてことはない日々。普通の日々。当たり前に繰り返されるように感じる日々。
けど、違う。そうじゃない。きっとこれらは、俺にとって宝物になる日々。最後の時、走馬灯に映し出される風景。そんな特別な、大切な、一つとして同じではない日々。
だが、それもここまで。
さぁ再び。かけがえのない『思い出』と呼ぶに相応しい休日と言う名の幕間劇は終りを告げて、物語は次なる幕を開ける。
続くその舞台の中心で踊る道化は、はたして俺か、それとも―――
『インフィニット・ストラトス a Inside Story』は自身のブログでも掲載中です。
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