インフィニット・ストラトス a Inside Story    作:鴉夜

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※誤字、脱字は多いかもしれないです。表現も統一性がないかもしれません。なるべく修正します。ご勘弁ください。

また、オリジナル解釈が多めです。矛盾や、つじつまが合わない等はあるかと思いますが、本当にご勘弁ください(泣)


この話には、サブストーリーを書きました! 
外伝的な話ではなく、ヒロイン視点です。別に読まなくても繋がりが分からなくなるわけではありません。


ちょっとでも気になる読者様がいらっしゃいましたら、ブログの方で掲載していますので、良かったら見てください!
(URLは後書きに記載しています。ブログ内の第44話の本文の「姉さんから電話」をクリックすると閲覧出来ます)


第44話 俺が信じるお前を信じろ

 

 

 

 こんな描写を続けていたらいつか「リア充死ね」と後ろからメッタ刺しにされるのではないか心配になっている今日この頃ではあるが、結ばれた約束はようやく半分。折り返し地点だ。糖分は多めではないとは思うが、皆様方が胃もたれしないか心配している。そろそろ市販の胃薬を用意して頂いた方がよいかもしれない。病院行っても治療に保険が利かないだろうから。

 翌週の土曜日。午前中は俺の方に用事というか準備があった為、午後からの約束。

 その相手は箒だ。学年別トーナメントの際にラウラとペアになってもらう為に出した報酬の映画だな。

 箒とは全寮制の中学でも3年間一緒だったが、俺と2人で何処かに出かけることはそう多くなかった。意外かもしれないが。

 理由としては、箒は当時剣道部に所属していて休日にも部活に参加することが多かったことも挙げられるが、主に監視・警護の観点から許可が降りにくかった。例の特別保護プログラムのせいだ。

 とはいえ、それも過去の話。

 今は俺と一緒ならさほど制限なく出かけることが出来るようになった。根回ししておいたからな。『トライラックス』社の社長の息子である世界で2番目の男性操縦者が、費用負担で直接警護するのであれば、了承を得るには十分だった。

 そんな俺達はIS学園からタクシーに乗り込み、1時間程で目的地に到着していた。

 そこは――

 

 

 

「アッキハッ―――ババババッ!!??」

「大声を出すな!! 恥ずかしいだろう!! 場所も間違っているわ!!」

 

 

 

 相変わらずの鋭いツッコミだな箒さんや。最後まで言わせない辺りにセンスを感じるぜ。

 箒もツッコんでいたがココはかの有名な電気街ではない。比較的都心部に近い場所にある観光地だ。臨海部に位置しており、近代的な建物が多い。特にレジャー施設が充実しており、映画館だけでなく水族館や観覧車など、若者に人気のデートスポットも充実している。

 

 

 

「さて。じゃあ行こうか」

「う、うむ。い、行こう……」

 

 

 

 映画館のある方へと足を進める。すると箒は俺の手を掴んできた。顔を見ると頬を染め、視線を右往左往泳がせている。

 

 

 

「め、目を離すとすぐに何処かへ行ってしまう癖があるからな京夜は。ここは人通りも多いし、迷子にならないように、て、手を繋いでおいてやろう!」

「俺は春日部在住のいがぐり頭の5歳児かよ……。まぁデートだし、手を繋ぐのはいいけど」

「デ、デート……」

 

 

 

 自覚してさらに顔を赤くするなんて可愛いねぇ。

 そんな反応に流石の恥じらいクオリティを感じながら俺は箒の格好に目をやる。

 白地のインナーにフード付きのデニムジャケット。短めの真紅のプリーツスカートから覗かせる脚線美を際立たせる紺の二―ソックスは足首にピンクのリボンが装飾されており、可愛らしさを演出している。

 今日は一段と気合が入っている気がするなぁ。別に箒の服装のセンスは悪くないが、この格好には誰かの入れ知恵を感じずにはいられない。

 

 

 

「(せいか~い! 今日のコーディネートはISのファッション業界御意見番である私、ティーナちゃんでした~!!)」

「(道理で。けど箒、こんな服持ってたか? 今まで見たことが一度もないが……)」

「(私がネットショッピングで買ってあげたのよ。支払いは京夜の口座から引き落としで)」

「(俺の貯蓄が勝手に使いこまれている!? っていうか、なんで止めてくれなかったんだ茜!! ……茜サン。そこらへんに積まれている大量の本(電子書籍)は何ですか?)」

「(今まで以上に読書にハマってしまいまして、大人買いですぅ!!)」

「(こんな所にも伏兵が!? 2人共、人の財布に遠慮がなさ過ぎるわ!!)」

 

 

 

 別に金に困っている訳ではないけど、湯水のように溢れ出るわけじゃないんだからな……せめて購入前に貧乏性な俺に相談してください。

 俺達はメインストリートを歩く。休日の今日は流石の賑わいを見せていた。外国人観光客も多いが、やはり若い男女ペアが多く見受けられる。

 そんな中、前を歩くラブラブなカップルがパッと目についた。並び歩く箒も同じく気になったようで、特に繋がれた手に目が行っているようだった。

 ああ、なるほど。そういうことか。

 俺は一般的な繋ぎ方だった手を組み直す。互いの指と指の間に指を入れる繋ぎ方へと。俗に言う『恋人繋ぎ』というヤツだ。

 

 

 

「きょ、京夜!?」

「周りから見たら、俺達はどんな風に見えるんだろうな?」

「ッーーー!!」

 

 

 

 何も言えないまま、顔からシューという音が聞こえてきそうな程に熱せられた顔を俯かせる。クククッ。はぁ~満たされるなぁ。

 そんな表情とは裏腹に、握られた手に先程より強さを感じながら歩き続け、映画館へと到着した。

 商業ビルが立ち並ぶ一角に立てられたその建物は、まるで小さなオペラハウスを思わせるアーティスティックな外観。中へ入るとその内装は高級感があるものの意外にシンプルな造り。赤と黒を基調とした壁に掛けられている液晶モニターには上映中の映画が並んで表示されている。

 アクションから始まり、サスペンス、コメディ、それからアニメ等々。邦画洋画問わず何でもなくらい幅広く網羅しているようだ。

 

 

 

「何を見る? 箒の見たいヤツで良いぞ?」

「う~ん、そうだな……」

 

 

 

 悩んでいるような素振りを見せてはいるが、恐らくは目の前にデカデカと表示されているコイツに決めているだろうな。

 今話題の恋愛映画。今日はデートということを箒は強く意識しているし、周囲にいるカップル達も殆どがコレ目当てっぽいしな。

 俺は箒の顔を見る。その表情は本当に悩んで何やら決めかねているようだ。え? コレじゃないの? 他に気になるヤツってあったっけ? 

 そんな箒を観察するように良く見ると、チラチラと俺にバレない様に端の方に表示されているモニターを見ていた。

 アレか。なるほどな。悩む訳だ。

 すると箒は悩みを断ち切るように目の前の恋愛映画のモニターを指差す。

 

 

 

「じゃあ、コレにしよう」

「箒、いいのか? アレが見たいんじゃないのか? 俺はアレでも全然構わないぞ?」

 

 

 

 俺は箒が気にしていた端のモニターを指差しながら告げる。そこに表示されていたのは所謂「時代劇モノ」だった。

 実はこう見えて、箒は「時代劇モノ」をこよなく愛する人種だ。普通にそう見えるかもしれないが。幕末モノや新撰組系は当然で、戦国時代もイケる口らしい。「『刀』が出てれば何でもいいんじゃないの?」と思った方。奇遇だな。俺も常々思っている。

 バレてないと思ったのだろうか。箒は慌てふためいている。

 

 

 

「べべべ別にアレが見たいなんて、い、言ってないだろう!? 今日は……その……デ、デート……なんだし、こういうのの方が……」

 

 

 

 それは予想通りの回答だな。流石は俺。『篠ノ之研究会』名誉会長の肩書は伊達ではないからな。

 ならそんな箒に一挙両得な案を提示してやろう。 

 

 

 

「じゃあ、両方見ようぜ。たまには映画漬けっていうのも悪くないだろ? どっちも俺が奢ってやるさ」

 

 

 

 合わせても約4時間の上映時間。大したことはないだろう。ドリンクやポップコーンも買うつもりだし。

 っていうかポップコーンは絶対外せないよなぁ。別に好物ってわけではないんだけど、映画館と千葉県某所のテーマパークでは必ず買うね。間違いなく。恐らくこれは多数派意見のはず。

 

 

 

「しかし、それでは……」

「そんな所に遠慮するな。そこに遠慮するなら、いつも俺へと振り下ろされる竹刀の方を遠慮してく―――」

「それは京夜が悪いから無理だな」

「喰い気味に即答!? 斬撃に迷いも躊躇いもないだと!?」

「……プククッ」

「……クククッ」

「「ハハハハッ!!」」

 

 

 

 俺のツッコミを皮切りに俺達は笑い合った。それでいい。変に遠慮なんかするな。その方が傍に居て楽だし、面白いだろう?

 結局、箒は俺の提案を受け入れ、俺達は2本連続で映画を見ることにした。内容は共にとても満足のいくものであったことは伝えておこう。さらに恋愛映画鑑賞中、ここぞというラブシーンで隣に座る箒の手を握り、その箒のリアクションを俺は映画以上に心底楽しんでいたという事実も合わせて伝えておくことにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思う存分映画を堪能した俺達は、IS学園へと帰る前に少し寄り道をすることにした。

 そこは先程の映画館から少し離れた高台にある眺めの良い公園だ。一番奥の展望台からは街が一望出来るだけでなく、近くの港やその向こうにサンフランシスコのゴールデンゲートブリッジを思わせるような斜張橋をこの目に映すことが出来る。

 俺達はその展望台に設置されていたベンチへと腰を掛けている。今日見た映画の話に花を咲かせながらその絶景を楽しんでいた。見える鮮やかなオレンジの夕景はとても綺麗だが、あと2時間も経てば美しい夜景を拝むことが出来るのだろうと思うと、学園に申請しておいた帰宅時間をもう少し遅めにしておけば良かったとちょっと後悔させられる。まぁ色々と待たせているのでそれは無理なんだけど。

 ふと俺は立ち上がり、前へと歩く。そして振り返り、展望台の手すりへと腰掛ける様に寄り掛かる。

 

 

 

「今日は楽しめたか? 箒」

「ああ! もちろんだ! 有意義な1日だった」

 

 

 

 こちらへと歩み寄り、手すりに肘を付きながら俺の隣に立つ。景色を眺める箒の顔はとても良い笑顔だ。そうか。良かった。今日という日を謳歌出来たようで、俺はそれに安堵する。

 さて。ではさらに1つ。ダメ押しその①、行きますか。

 俺は箒の方へ体を向ける。

 

 

 

「箒、ちょっといいか?」

「ん? 何だ?」

「こちらを向いて、目を……閉じてもらえないか?」

「ふぇ!?」

 

 

 

 どっから出てんだよその声。可愛いけど。俺を満足させてどうすんだ。

 だがこれはふざけている訳ではない。今回はな。 

 俺のその真剣さが伝わったのようで、箒は頬を赤くしながら覚悟を決めたかのような顔で目を閉じる。

 いや、別にふざけてはいないけど、そっちじゃないぞ? 期待されてんのかもしれんが。

 俺はポケットから直方体の箱を取り出し、さらにその箱から用意しておいた物を取り出して箒の首元へと掛ける。

 

 

 

「箒、もういいぞ」

「えっ!? もう済んだのか!? 何の感触も―――」

「違うわ。よく見てみろ」

 

 

 

 箒は俺の指差す方へと手を触れながら首元に掛けられた物を注視する。

 それはプラチナ製のネックレス。ペンダントと呼んだ方がイメージに近いかもしれない。形状は茜の待機状態に似た形状で、敢えて似通ったものを選んだ。箒はそういうの好きだからな。

 何の理由もなくサプライズ的にプレゼントを贈るのも嫌いではないが、そうじゃない。今日は――

 

 

 

「誕生日おめでとう、箒」

「お、覚えていてくれたのか……」

「当たり前だろ? 俺が忘れる訳がない。箒のことなんだから」

「あ、ありがとう……っ」

 

 

 

 そんな目を潤わせながら感激せんでも。毎年プレゼントしてるだろ? っていうかそういうことを忘れちゃうような薄情なヤツって思われてることに、キョウちゃん泣いちゃうから。

 そう。今日は箒の誕生日だった。

 だからティーナも服をプレゼントしたのだろう。俺も当然準備していた。それはプレゼントだけではないけどな。プレゼント以外に何を準備していたかって? それは後で分かるさ。

 ん? 

 箒は先程まで100%喜びの感情が表現されていたその顔に、ほんの僅かだが影を落とした。他のヤツには、常にその傍らにいた俺以外には気付かないくらいの些細な変化だった。

 

 

 

「箒? どうした?」

「え? 何がだ?」

「俺が分からないと思っているのか? 何かがあったんだろ?」

 

 

 

 笑顔のまま、箒は微かに右眉を上げて反応する。俺の目を見つめるその瞳にも何らかの負の感情が見え隠れしていた。

 

 

 

「……ふぅ。そうだな。京夜に隠し事なんて……出来る訳ない……か……」

 

 

 

 箒は観念したかのような言葉を発し、嬉しくもありながら困ったかのような笑みを一瞬見せる。そして俺から視線を外し、手すりの向こうに広がる景色を遠い目で見つめる。不安の色をその顔に覗かせながら。

 間が広がる。俺は言い淀んでいる箒の続く言葉をそのまま待つ。

 すると箒がゆっくりと話し始めた。

 

 

 

「……実は、昨日の夜……姉さんから電話があったんだ……」

 

 

 

 その言葉に、俺は納得する。そういうことかと。

 箒は姉である篠ノ之束博士のことがあまり得意ではないらしい。性格的に相性が良くないからだそうだが、だからといって電話してきたことが問題ではないだろう。箒はお姉さんが嫌いではないのだから。

 

 

 

「それで……誕生日プレゼントとして私の『専用機』を造ったから、近々届けに来るらしいんだ……」

 

 

 

 箒を心配する気持ちとは別の話にはなるのだが、その話の内容に俺は少し胸を撫で下ろす。なぜならその展開は、俺が張った伏線が意味を成して生まれた結果だからだ。

 それはあの所属不明機の一件。あの時箒には所謂「囮役」を演じてもらった訳だが、あれにはもう1つ理由があった。寧ろこっちが本命だった。

 それは次へと繋げる布石。あの時の箒の姿を見た人間に「身を守る術を持たせていないと危険である」と感じさせ、さらには「専用機を持たないが故にIS戦闘へ参加出来ないことを歯がゆく感じている」と感じるよう印象操作をした。

 そしてそれが実を結んだということだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 だがそれについて置いておこう。今は箒が心配だからな。別に姉に会うからってそんな憂鬱顔を見せている訳ではないのだろうから。

 

 

 

「私は……怖いんだ……。一夏やセシリア達の傍で、私は目の当たりにしている。専用機の力を。その専用機を、あの姉さんが造って持ってくるって言うんだ。どれ程強大な力なのか、正直見当もつかない。そんな力を私は扱い切れるだろうか……誰かを……傷つけてしまわないだろうか……」

 

 

 

 続けて「あの時のように……」とか細い声で呟く。

 あの時。それは恐らく2年程前のことを言っているのだろう。

 中学2年の夏。箒は剣道の全国大会へと出場していた。その決勝戦前の出来事。

 その日の箒は荒れていた。準決勝までに振るわれた力は『暴力』以外の何物でもなかった。自身も相手も何も見えていなかった。

 俺はそんな箒をたしなめた。力に溺れ、平気で誰かを傷つけるようなヤツになって欲しくなかったから。

 決勝戦前、半ば強引に剣を交え、煽って、追い詰めて、最後に自制心を完全に失った箒の一撃をこの身で受け止めて、そして諭した。その時の話を言っているのだろう。

 それからの箒は自分の弱さを受け止め、力に翻弄されないよう、溺れないように肉体だけでなく心を鍛え上げるという剣術の本来の在り方を取り戻したのだが、今新たに与えられるその強大な力に不安が芽生え始えてしまったようだ。

 震えながら手すりを握る自分の手へと視線を落とした箒の頭を、俺は優しく撫でる。

 

 

 

「大丈夫だ。俺は箒を信じている。だからお前も信じろ。自分を。俺が信じるお前を信じろ」

「京夜……」

 

 

 

 箒はゆっくりとこちらへ視線を向ける。その潤った瞳は夕日に照らされてより輝きを放っていた。

 俺はその瞳に視線を合わせ、笑顔で続ける。

 

 

 

「それに……たとえもしそうなったとしても、俺が傍にいる。お前が間違ったら、何時だって何度だって正してやるから」

「! ……ありがとう……っ」

 

 

 

 その言葉に、箒は目を閉じ安堵の表情を浮かべた。どうやら落ち着きを取り戻したようだな。そんなに不安になる必要なんてないさ。

 それに先程映画館の会話の中でも「躊躇」の「ちゅ」の字もありませんでしたが、普段の俺に対する箒のツッコミや拷問も相当なものなんだぜ? 確かに手加減はしてくれているけど、俺があの世へ足を突っ込むことになるギリギリのラインを攻めないでもらいたい。

 

 

 

「さて。そろそろ帰ろうか」

 

 

 

 帰りの方が道路も混んでそうだから流石にもう出ないとな。俺は視線を箒から公園入口方向へと向ける。

 

 

 

「京夜……」

「ん? どうし――!!??」

 

 

 

 次の瞬間。何の前触れもなく。いきなり。唐突に。俺は箒に両手で顔を彼女の方へと向けさせられ、そして――

 

 

 

 そして――口唇を奪われた。

 

 

 

 あまりの突然の出来事。流石に作法を重んじることが出来ず、俺は口唇を重ねたまま箒の顔を見る。頬を桜色に染め上げ、ダイアモンドのような泪が目尻を着飾っていた。

 そんな表情と感じる温もりに、俺もまた目を閉じる。これ以上ない程に箒の思いが触れ合う口唇から伝わってくる。

 それは時間にして恐らく10秒程のやり取り。すると箒は口唇と両手を離して火を噴きだしそうな程に真っ赤に顔を染め上げる。まるでその場の空気や流れ的な勢いでしてしまったことに、過剰な程自覚したことを語っているかのよう。

 

 

 

「かかかかか帰るぞ! は、はや、早くしないと、おおお置いていくからな!!」

 

 

 

 捨て台詞のような言葉を大声で発し、箒は俺を置いてズカズカと振り返ることなく公園の入り口へと歩いていく。

 少しばかり放心状態だった俺は気を取り戻し、落ち着きを取り戻しながら、思う。

 ……本当に箒は……可愛いヤツだな。……そんなにお前の思いで、俺の心を満たさないでくれよ……。決意が……揺らぎそうになるから……。

 ……なんてな。

 俺はグッと自分の気持ちを抑え込み、箒へと駆け寄る。そして行きと同様、共に帰りのタクシーへと乗り込んだ。

 

 

 

 

 そんな後の話というか何処かのモンスターなストーリーの締めの言葉じゃないが、今回のオチ的な後日談。

 まずは箒との帰りの車中の話。

 俺はまるで何事もなかったかのように努めた。サディストの申し子たる俺ならここでからかうことは当然の一手ではあるのだけれど、それは出来なかった。流石にこれに対して突くと、蛇が藪から出かねない。距離を測りながらやっている普段の悪ふざけのようにはいかなかった。話を良からぬ方向へ、いや話を先の方向へと進ませるつもりはないのだから。

 恐らくはその出来事や行為自体を直視することが恥ずかしかっただけだとは思うが、箒もまた動揺しながらも俺の作る空気に乗ってくれた。

 俺達はいつも通りの俺達へと戻り学園へと戻ったのだった。  

 そしてその後。誕生日である今日を謳歌してもらう為のダメ押しその②として俺は箒を部屋へと招き入れる。

 扉が開かれた瞬間に鳴り響くクラッカーの音と紙吹雪。そこには一夏をはじめ、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラといういつもの面々。「お誕生日オメデトウ!!」という祝福の言葉。用意されたテーブルには一夏お手製のケーキや料理。

 それは所謂サプライズパーティー。事前に画策し、午前中から皆と共に用意していた箒を喜ばせる為の催しだ。

 それが成功したのかどうか。箒の口から直接聞いた訳ではないので推測でしかないのだけれど、終始箒の顔を見る限り、『篠ノ之研究会』会員でなくてもそれは明らかだったと言えるだろう。

 その顔は、幸せで溢れていたのだから。

 

 

 

 

 

 




『インフィニット・ストラトス a Inside Story』は自身のブログでも掲載中です。
 設定画や挿絵、サブストーリーなんかも載せていくつもりですので、良かったらそちらもご覧戴けると嬉しいです。


【ブログ名】妄想メモリー
【URL】http://mousoumemory.blog.fc2.com/

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